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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1268 4点 猟奇の果
江戸川乱歩
(2022/08/25 13:26登録)
 “人間改造術” は、今読むと珍しくも恐ろしくもない。作者自ら “夢物語でよいのだ” と語る本作は、“寛政以前に飛行機を製作した岡山の表具師幸吉” そのものであり一種の予言の書?
 しかし、前半は停滞気味、後半は辻褄合わせに終始。物語としての楽しめるポイントはちょっと見当たらないなぁ。
 イチャモン:自分の顔ってそんなに見慣れている? スクリーンに一瞬間だけ映った顔を、自分そっくりだと自覚出来るかなぁ?


No.1267 7点 まほろ市の殺人 夏
我孫子武丸
(2022/08/18 13:21登録)
 檻のような肉体と歪んだ心。今だとポリコレ的にまずいんじゃないの? でも書くべきだと思ったら書くべきだね。
 疎いので良く判らないが、ちゃんと恋愛小説になっていると思う。それともディープな読者から見たら、こんなベタな口説き文句はなってない、のだろうか。


No.1266 6点 残星を抱く
矢樹純
(2022/08/18 13:20登録)
 矢継ぎ早に事件が積み重なり、ページを繰る手が止まらない。どの件が主軸になるのか摑めず振り回される。主人公の行動が半端に思えてイライラしたのも、それだけ作品にのめり込んだからだ。
 しかし。その達者な書き方が却って作品を “普通” に留めてしまった感もある。こういう形で読者を騙すことが、ありふれた手法になってしまった現在。贅沢だけど素直な感想。

 もともと事件の関係者だった人物を、そうと知らずに主人公が引っ張り込んだ――御都合主義だと思う。でもそういう展開って結構エンタテインメントの “伝統” なのかなぁと最近思えて来た。


No.1265 6点 ピカルディの薔薇
津原泰水
(2022/08/18 13:19登録)
 綾辻行人の『深泥丘奇談』みたいなシリーズ。
 淡々としつつも絡み付くような語り口の、怪しい与太話。“食” のエピソードにはそそられる。但し、主食になるような本ではない。エッセイの代わりにコレを、と言ったらどちらに対しても失礼かな?


No.1264 5点 孤島の鬼
江戸川乱歩
(2022/08/18 13:18登録)
 何より面妖かつ胸打たれたのは秀ちゃんの手記! 実は偽造だとか叙述トリックだとか、そんなしゃらくさい仕込み無しで素直に読めるのも良い。

 注目すべきはやはりお父つぁんこと復讐鬼こと諸戸丈五郎。直接の出番は意外と少ないが存在感も求心力も抜群。過去の諸々を伝聞で処理するなんて勿体無い。あれだけの設定が背景にあるなら、“不具者製造工場潜入記” も書いて欲しかった。医学的に出鱈目だろうと、作者も読者も気にしないだろう。

 と言う特記ポイント以外は今一つノリが良くない。最後までエンジンはかかり切らなかった。


No.1263 4点 フェイバリット・シングス
村崎友
(2022/08/18 13:17登録)
 精神が不安定な人の精神を、その人の一人称で活写(筒井康隆あたりがやる手だ)。三文作家を描く小説自体が三文小説であると言う捨て身のユーモア。それがどうにも萎んで見えてしまうのは、“広義のミステリである” との看板(各話のタイトルとか、表紙のホームズ・スタイルとか)の反作用ではないか。小説ではなく生活系ゆるふわギャグ漫画ならコレでも成立するかも。


No.1262 6点 夕暮れ密室
村崎友
(2022/08/09 12:29登録)
 バレー部員のキャラクターを読み分け出来ない感じが多少あった。犯人特定のロジックはいいね。変則的な構成は、読者を変に勘繰らせる以上の意味があるのか。

 因みに、20%の酸素が16%になるくらいで危険らしい。従って偶然他の気体が数%発生するだけで充分。
 もう一つ。トリックと類似の実話、“気密性が高過ぎてああなっちゃった欠陥住宅” の記事を読んだことがある。“設定” と言うことでアリじゃないかと私は思う。

 えっ、メタリ……時空を越えた伏線?


No.1261 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている Side Case Summer
太田紫織
(2022/08/09 12:28登録)
 存在感のある脇役の多いシリーズだし、総じて有意義なサイド・ストーリー集。
 でも蛇は苦手だ。知りたくもない知識が増えてしまった。
 このシリーズは “ちょっといい話” よりも “悪意のある話” の方がいい。File.2 は、まっとうすぎるかな。あっ、櫻子さんが主役の座を追われたから “第壱骨” じゃなくなったんだ。


No.1260 6点 まほろ市の殺人 春
倉知淳
(2022/08/09 12:25登録)
 不謹慎ながら面白い情景のトリック。忘れかけていた冒頭のエピソードが最後につながるのは気が利いている。
 ただ、この曖昧な真相は某長編と同系統だが、一人で何度も使っていい手じゃないと思うんだなぁ。


No.1259 5点 パーカー・パイン登場
アガサ・クリスティー
(2022/08/09 12:24登録)
 前半、お悩み相談編。ヴァリエーションに乏しい。これから色々搦め手を考えるんでしょ、ってところで投げ出しちゃったか。
 後半、トラベル・ミステリ編。使い回しのプロットでも、探偵役を変えれば趣向も変わる。良くも悪くも。
 差別化を考えるなら、前半をもっと発展させるべきだったか。後半の探偵譚で、パーカー・パインをどっちつかずのキャラクターにしてまでこのシリーズに組み込む必然性のある話は、辛うじて最終話くらい。

 固有名詞の片仮名表記の基準には意見が多々あるだろう。「困りはてた婦人の事件」。ダンサーの名前 Juanita は “ジュアニータ” でなく “ファニータ” が良いのでは。スペイン系。翻訳は不便。
 「ナイル河の殺人」。Death on the Nile だから、実はあの長編と同題だ。翻訳は便利。


No.1258 4点 鏡陥穽
飛鳥部勝則
(2022/08/09 12:23登録)
 土呂ミネオのキャラクターは良い。でもあとはあまり面白くない。
 鏡は無制限に魔を生み出す。その増殖を、作者の筆が制御し切れなかったと思う。このプロット、小林泰三なら上手く書けたかもね。
 イチャモン:自分の顔ってそんなに見慣れている? 分身に会ったら、“えっ、自分はこんな顔?” って思うんじゃないかな。


No.1257 8点 デッド・エンド
山田正紀
(2022/08/02 11:56登録)
 山田正紀の宇宙SFしかも長編って実は珍しい。そしてJ・P・ホーガン『星を継ぐもの』あたりと同じ意味でのSFミステリである。スケールの大きなホワイダニット?
 そこに主人公個人の、言ってしまえば卑小な絶望をぶつけて対比、とするには何か足りない気がする。ただ、この謎とその真相はとても好きで、つまり全面的高評価ではないけれど必要なポイントは確保されている。


No.1256 7点 堕天使拷問刑
飛鳥部勝則
(2022/08/02 11:53登録)
 ちりばめられた衒学にストーリー展開にキャラクター、皆かなりの濃度で満足。真相には若干心許無い部分もあるが、どうにか物語を支えられたかとは思う。特に玲殺害事件についてはたまげた。
 それだけに、メタ構造は本当に邪魔。ただでさえヘヴィなのだから、まとめは少しでも切れ味を良くしないと。

 ところで主人公の経済状況って? 曲がりなりにも相続人で(未来の?)お金持ちじゃないの? どこの家が引き取るかで揉めてたのはどういうことか。


No.1255 7点 ねなしぐさ 平賀源内の殺人
乾緑郎
(2022/08/02 11:52登録)
 好きなんです、平賀源内――非常の人。元祖マルチ・タレント。江戸の風の中を飄々と流れた自由人。ミーハーなファンですけどね。
 歴史ミステリとしては誠実な作りで、そんなぶっとんだ話ではない(が、源内晩年の汚名を晴らし快哉?)。一炊の夢の如き半生記は、イメージを覆す器用貧乏者の悲哀にしみじみしつつも、まぁありきたりではある。
 つまり、良く出来てはいるが凡作。でもやっぱり贔屓しちゃうな~。


No.1254 5点 名探偵は誰だ
芦辺拓
(2022/08/02 11:51登録)
 作者曰く “これまで書かれなかった存在をフーダニットの対象とした” 作品群で、各々なかなか意外な真相が用意されている。が、それ故に、あまり面白くない。
 もともと捻った設問であるところを更に捻っても効かないのだ。唯一素直に “手掛かりを基に四人の中から一人を選ぶ” 展開の「犯人でないのは誰だ」が一番面白い。

 作者の掲げた “変則的フーダニット” の看板は却って邪魔なのでは。各タイトルを変えて、短篇集としてのテーマなど考慮せず、一編一編バラバラに読んだ方が楽しめるのではないだろうか? 戦略ミスだと思う。


No.1253 5点 入れ子細工の夜
阿津川辰海
(2022/08/02 11:50登録)
 この人は、あまりギミックを弄さずに、純度の高いロジカルな犯人当てを狙った方がいいんじゃないだろうか。「煙の殺人」をそのまま一作品として出してもいいくらいだ。


No.1252 8点 さんず
降田天
(2022/07/26 17:03登録)
 捻った依頼ばかりで “通常営業” のエピソードが無い強気な構成だ。つまり〈さんず〉の普段の活動など想像がつくだろ、と現代的なスタンスの作者だが、それで正解。このシリーズの中で “普通の自殺” なんて読んでいられませんよ。
 “カウンセリング” が鋭く無慈悲で凄い。あとは野となれって感じで綺麗に落着していない棘々した手触りが痛痒い。絶望した! 跡を濁しまくりの自殺志願者に絶望した!


No.1251 7点 沈みかけの船より、愛をこめて
乙一
(2022/07/26 17:00登録)
 ここに収められた怪しげな作風の三人の近作を比べてみると、乙一は明らかに山白朝子のミソロジー的側面を上手く取り込んでいる。登場時は山白朝子が乙一フォロワーみたいだったのに、まぁそういう逆転はよくある世界だからね。中田永一は乙一をポストパンク的に脱格と言うか漂白した感じ。パクりとまでは言わないが。一編のみ収録の山白朝子は安定の怪談専門家ぶりではあるが、実は中田永一作品のキュビズム的展開の三回半捻りあたりを意図しているんじゃないかとの気もする。
 相互の影響が見え隠れして解けないパズルの如きアンソロジー。ナイアガラ・トライアングルのようなものか(違う)。


No.1250 6点 朱房の鷹
泡坂妻夫
(2022/07/26 16:57登録)
 表題作、将軍様関連のものに粗相してしまった下手人を探偵役が御目こぼしする話。身分制度に起因する不条理の中でも最たるもの。久生十蘭にも都筑道夫にもあるプロットで、それを意識して引き継いだようにも思える。
 「角平市松」には味わうべきポイントがまるで見当たらず困った。こだわりが強く世渡り下手な職人像は寧ろありきたりに感じたし、殺人事件も余計なエピソードって気がする。
 「天狗飛び」の高所に札を貼る話は作者の持ちネタか、読むのは三度目。


No.1249 5点 予告殺人
アガサ・クリスティー
(2022/07/26 16:54登録)
 ACの割とよくあるパターン、しかも私があまり好きじゃないタイプ。

 こんな広告がシレッと掲載されちゃう。00年代日本の某作では、公序良俗に反する広告の為に社員を抱きこみ、彼が馘首される前提でその後の生活費として大金を投じていたものだが。

 三人目が殺される場面で、被害者はこの人が怪しいと気付いていたのに何の警戒もしていない。この場面は不要では。

 パトリック・シモンズといえばザ・ドゥービー・ブラザーズのギタリストと同姓同名。作者には何の責任も無いが、違和感ありまくり。

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