虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.22点 | 書評数:1848件 |
No.1488 | 6点 | 大蛇伝説殺人事件 今邑彩 |
(2023/07/07 12:23登録) この作者はネタの使い回しをするので、読む順番によってはアレレッ? と言うことになる。 神話に関しては端から添え物っぽい印象で、犯人ではなく捜査側が率先して “大蛇伝説の絡んだ殺人事件” を作り出してないか? そして、真相を踏まえて顧みると、現地にそんな伝説が有ったから犯人は八ヶ所も巡る羽目になった。真の目的からすれば二~三ヶ所でいいんじゃない? 御苦労なことだ。 |
No.1487 | 7点 | 「死霊」殺人事件 今邑彩 |
(2023/07/07 12:23登録) “驚かせたかったから”――そんな理由、アリか? いやまぁアリだが、本格ミステリの核に据えるとは大胆な。読了後時が経つ程に笑えて来る(良い意味)。密室なのに見取図の無いことが読者に対するヒント。 “まだ終わっていない” 展開は、上手くまとまった話に小さなコブをくっつけた感じで、邪魔とは言わないが無くても良かった。 |
No.1486 | 7点 | ラメルノエリキサ 渡辺優 |
(2023/07/07 12:22登録) あの娘は出来の良い人形を見ているよう(肯定的な意味で)だが、腰を抜かしたりして生身とのハイブリッドだったので安心した。 うーむ、復讐ってこういうパキッとしたものかなぁ? 考え方は色々あって、私は “リアリティの無さが却ってリアル” みたいな捉え方しか出来ない。すっきりしたのは確かだけれども。 |
No.1485 | 6点 | ローズマリーのあまき香り 島田荘司 |
(2023/07/07 12:21登録) ネタバレしつつ文句を色々: プリマドンナの唯一性について、“誰も代わりにはなりえない” と神格化せんばかりに前半で述べておいて、結局あの真相。二重基準ではないか。私の心情的には限りなくアンフェアに近い。 トリックの目的はアリバイ工作だけれど、死亡時刻(=犯行時刻)を誤魔化せていないのだから意図通りに機能はしていないよね。あのまま放置して逃げても、密室状況は成立し、セキュリティの彼が疑われる成り行きは変わらない。単に、“死後も踊った” 伝説を図らずも作っただけだ。 摩天楼のこういう感じの仕掛け、タイトルは忘れたけど以前にも読んだ気がする。 休憩時間と言っても出演者にしてみれば本番の一部であって、そのタイミングであんな話を携えて訪れるなんて、犯人側はそもそも舞台表現を全然尊重していないんだな~。それはそれでリアルか。 ところでキヨシ、事実が告白の通りなら、罪状はマンスローターに該当するのでは。 でも面白かった。と言うか面白さとつまらなさが幾重にも重なり合ったミルフィーユ。そしてそれこそまさに島田荘司の作風である。 |
No.1484 | 7点 | 猫ノ眼時計 津原泰水 |
(2023/06/30 15:00登録) この巻ではミステリ度が急上昇。しかもチェスタトン的な逆説である。猿渡の不安定さが物語の成立を支えている “砂上の楼閣” 感にも拍車がかかり、結局何なの? と言う読後感は奇妙な甘みを帯びている。ところで山羊料理が下手物っぽく書かれれば書かれる程、美味そうに思えるのは何故だろう。 |
No.1483 | 8点 | 謀殺の翼747 山田正紀 |
(2023/06/30 14:58登録) 一体何が起きているのか、読者に目隠ししたまま引っ張る手腕。回想場面を挿入するバランスの良さ。エピソードでキャラクターを描く上手さ。 出来が良いだけでなく吸引力が強い物語で、気持はゲリラ達に同調して人生の捨て方に共感してしまう。真相には仰天しつつ感嘆。 アラを探すなら、或る意味で事態を混乱させた原因なのに玲子の存在感が薄いこと。あと第三章の終わり、将校が計画に噛むにしても、脅迫のネタがしょぼい。 |
No.1482 | 7点 | いつもの朝に 今邑彩 |
(2023/06/30 14:56登録) 紋切り型の素材を組み合わせて、やはり紋切り型の物語を上手に描く、そんな作風なので、特に導入部はありきたりな表現が鼻に付く。中盤で、成程こう来たかと感心&これにどうオチを付けるのかと上から目線の注目。結果、驚きは無くても程好い着地点で、冷笑的にならずに本を閉じられたのだから上出来だろう。最終章が伝聞なのは上手い演出だと思う。 |
No.1481 | 6点 | 忘られぬ死 アガサ・クリスティー |
(2023/06/30 14:56登録) 昔むかし短編集を読んだ時、“「×××」を長編化したものが『忘られぬ死』である” とネタバレを食らっていたので、消化試合みたいな読み方しか出来なかった。肌理細かい日本版解説の弊害。それでも楽しめたのだから流石クリスティ。覚えていたのはメインのトリックだけなのでまだフーダニットがあるし、人間関係の綾は読み甲斐があった。 ところで、最後のページの会話が良い――実は本作はホラーで、ローズマリーの幽霊は本当に居たのかもしれない。あのミスを彼女が誘発した(方法は訊くな)のだとしたら? それはつまり、“妹を救う為に夫を犠牲にした” と言う怖い話である。 |
No.1480 | 5点 | 失踪症候群 貫井徳郎 |
(2023/06/30 14:55登録) 地に足の着いた文章(悪いことではない)で漫画的なキャラクター(悪いことではない)を描いているので、バランスが悪い。そのせいで登場人物の多くが必要以上に戯画的に見える。 ああいう方法で “失踪” 出来る、と言うアイデアは良いが、特に後半、変な方へ風呂敷を広げ過ぎ。途中まで書いて今更ボツに出来ないので無理して仕上げた、って感じだ。 |
No.1479 | 7点 | アブソルート・コールド 結城充考 |
(2023/06/22 12:20登録) サイバーパンク作品としての目新しいアイデアは特に無い。ハード・ボイルドの物語としては読ませる力作。但し、細切れにしてくるくる視点を移す書き方が、本作ではあまり生きていない。気分が乗った途端に場面転換してばかり。 “来未” が幾度と無く “未来” に見えた。このネーミングは良くない。百のキャラクターはいいね。“小猿型” の設定でこんなに萌えるとは。 で、持ち越されたままの三角関係はどうなるのかしら。 |
No.1478 | 7点 | 時計泥棒と悪人たち 夕木春央 |
(2023/06/22 12:18登録) 同一シリーズとはいえ書き下ろしのしかも趣味性の強い内容の短編集でこの大部の一冊とは強気である。 トリックは鋭くても真相全体は誂えたように御都合主義的だったり、ホワイは斬新でもハウが失笑ものだったり、必ずしもパーフェクトではないけれど、適度に野暮ったい筆致で何となくまぁいいかと言う気分になれる。と言うかその辺の緩さは或る程度意図的なものじゃないかと思う。 最終話で伏線回収するタイプではないからどんでん返しを期待して急ぐ必要は無い。もっとのんびり読めば良かったと反省。 「誘拐と大雪」の監禁場所 =“大きな家が二つ、その中間に小さな小屋” は「悪人一家の密室」の舞台(概略図まで付いてる)と要素が共通、つまり実は同じ場所である。二つの事件の間には邸が廃屋になるだけの時間が経過しており、叙述トリックで隠しているが「誘拐と大雪」での蓮野と井口は老紳士になっている。 ……のかと思った。 |
No.1477 | 6点 | 灰色の家 深木章子 |
(2023/06/22 12:18登録) ミステリを編み込んだ御仕事小説と言う感じで、作者にとっては新機軸? しかしミステリ界を見れば既にあるタイプ。 私はこの作者の、凝ったアイデアと同時に、ミステリミステリした表層を評価する者なので、期待をはぐらかされた感がある。また、舞台を考えると止むを得ないが登場人物が多くて読み分けられなかった。 遺書は、第2章の5で言及されている “文書での正式な謝罪” を流用したものかと思った。それが可能なのは当然、謝罪相手で、そこから犯人に辿り着くのかと。しかし作中ではそんな推測さえされず。ダミー伏線? |
No.1476 | 6点 | 金魚の眼が光る 山田正紀 |
(2023/06/22 12:17登録) どうも整合性に欠ける気がするなぁ。 犯人に対して、必死で時代に抗うが故の犯罪、みたいな或る種の情状酌量が感じられる書き方だけれど、東京で脅迫の共犯者を殺したのも同じ人だよね。こっちの件はあくまで保身だし冷酷でひどいと思う。 出版社に対して脅迫状を送ったらそこに親戚筋が勤めていた、と言う偶然もどうなの。 一方、柳河での一連の事件。戦争の足音を背景としつつも、靄のかかったような幻想味に彩られ、それこそ北原白秋と言うフィルター越しに見た世界のよう。リアリティにこだわらずまぁいいかと受け入れたい気分なのである。東京編は無かったことにしよう。 |
No.1475 | 6点 | パンダ探偵 鳥飼否宇 |
(2023/06/22 12:17登録) 毛色の変わったタイプではあるが、フー・ハウ・ホワイなど良く考えられていると思う。世界設定に準拠したリアリティも感じられた。多様性を上手く利用しており、多少特殊な知識を求められる部分もアンフェアと言う程ではないだろう。 |
No.1474 | 7点 | 鬼 今邑彩 |
(2023/06/16 12:32登録) 短編集の統一感と多様性のバランスについて考えさせられた。高品質な作品揃いなのだが、どれも似たようなものに思えるのだ。 勿論それが作者の持ち味だから当然だけれど、「セイレーン」だけはやや毛色が違う感じで、このくらいの差異が全作品の間にもあったほうが私は楽しめる。 |
No.1473 | 5点 | 飛奴 泡坂妻夫 |
(2023/06/16 12:32登録) 表題作。それは “いかさま” なのだろうか。情報収集の為に工夫を凝らしただけに思えるが。当時の基準ではインサイダー取引みたいなもの? 許容範囲のことしか認めないさまは、反語的な文明批評である。 「仙台花押」の花火見物が涼しげで楽しそう。「向い天狗」は亜愛一郎ものの再利用だけど、そこそこ上手く処理している。「夢裡庵の逃走」は唐突だ。先生のあんなキャラクターについての伏線は殆ど感じられなかったけどなぁ。 |
No.1472 | 8点 | 傷物語 西尾維新 |
(2023/06/16 12:31登録) このシリーズは一作ごとにヒロインが増えるインフレのハーレムだけれど、実はストレートにえっちな場面はさほど多くない。しかし、その点で本作は、厳密な定義とカウントは難しいが少なくとも三箇所、中でも体育倉庫での行為は屈指の煽情力。いや別にだから高評価と言うわけではなく、バッドエンドに縺れ込む流れで爆発する気持のカタルシスに巻き込まれて死にかけたのだから私の涙腺は如何ともしがたい。 改めて読むと阿良々木暦は切れ方が戯言遣いそっくり。 |
No.1471 | 5点 | 黄金仮面 江戸川乱歩 |
(2023/06/16 12:30登録) (令嬢殺害事件はともかく)追い詰められて口封じ、宝物を盗まれ自死、人違いで手下が爆死と、つまらない成り行きで人死にが幾つも発生。ミステリ的には、立派な被害者なら堂々と死ねるのに(?)、こんな死は気の毒だ。 黄金仮面のデザインは魅力的。だからこそ、キャラクターを無駄に浪費してしまった感じ。正体があの人ってのも余計な設定だと思う。 |
No.1470 | 8点 | 四日間家族 川瀬七緒 |
(2023/06/16 12:30登録) まず、基本設定の紹介が上手く組み立てられていて最初の山場。粗筋を予め読んでしまうと最初の100ページの面白さが半減すると思う。 とは言えエンタテインメントである以上、例えば集まった目的がアレならそれは成就せず、トゲトゲバラバラな関係性は転回し、伏線の回収としてアレとアレをぶつけて着地――“状況は変化する” と言う意味で実は予想通りな流れ。 そこを如何に読ませるかに適切に注力しており、ネット社会が敵にも味方にもなる様は皮肉が効いている。話を転がす為に出し惜しみナシの総力戦って感じが痛快だ。 終盤、敵の稼業がさほどショッキングではなかったのが残念(鈍くなってるか、私?)。 本書に限らないが、死体にせよ生体にせよ隠す(隠れる)のがどの程度難しいのか実感しづらいので、隠す側が甘かったのか探す側が優秀だったのか今一つ良く判らないな~。 |
No.1469 | 5点 | 三つの棺 ジョン・ディクスン・カー |
(2023/06/09 12:45登録) この作品、〈密室講義〉で徒に知名度が高くなって、そのせいで(まず読まれないと評価が下されないと言う意味で)過大評価されてない? 持ち上げた江戸川乱歩に抗議したい。 作者の目的は、分類の一番目に “さまざまな偶然が重なる例” を挙げることで本作中のトリックの御都合主義をフォローすることだと思う。 とは言え、トリックの構造は面白い。まず拳銃で一発 → 加害者被害者双方が現場から離れようとしてドアを開けたらまた鉢合わせ。これは笑うところだ。血塗れの笑劇である。 時計の件。この錯誤は(作者が)大胆だな~と感嘆した。私は肯定的。 あと、フーダニットが良かった。“意外な犯人” など既に出尽くし読み尽くした心算でいたが、近年はこの程度の軽い捻りで大いに驚いている自分に気付く。一周回って素直になれたか。 一方で、判りづらい記述があちこちに見られ、内容を読み取るのに余計なストレスがかかった。“何を書くか” ではなく “どのように書くか” の重要さが逆説的に表現されている。作者にもっと文才があればな~。 |