虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.22点 | 書評数:1848件 |
No.1528 | 7点 | 月灯館殺人事件 北山猛邦 |
(2023/08/31 12:25登録) こんな風に自作のトリックをネタバレ&リユースしちゃうのはアリなの? あっちも既に読んでたから被害は無かったが、是非はともかく、そういうことをやっている、と言う事実のせいで以降ちょっと斜に構えた読み方になってしまった。それさえなければ。 |
No.1527 | 7点 | 高山殺人行1/2の女 島田荘司 |
(2023/08/31 12:24登録) 自動車やファッションのネタはピンと来なかったが、次第に泥沼化して行くサスペンスには引き込まれた。愛らしくない間抜けな人物を一人称でこれだけ書けるのはなかなかなもの。 細かいことだが、ミステリ界には強引な聞き間違いが多いけれど、靴屋の発言を取り違える部分は自然で上手いと思う。 しかし真相は……そんなことで(別れるでなく)殺そうとするか? バイカーも何故ああまでしつこくした? 隠されたホワイがあれば良かったのだが。 |
No.1526 | 6点 | 覆面作家の愛の歌 北村薫 |
(2023/08/31 12:23登録) 全体的に強引。謎の為の特殊な状況を作り出す為に犯人に特殊なメンタリティを付与した感じ。でもそもそも探偵役のそれが特殊だからねぇ。 「お茶の会」のホワイは上手いところを突いていると思った。“どこかで聞いたような三人組” は横溝正史のアレだよね。 ミステリ要素以外の部分はとても好ましい。 因みに、ストーンズが a poison kiss と歌うのは「 I Go Wild 」と言う曲。 |
No.1525 | 6点 | 大金塊 江戸川乱歩 |
(2023/08/31 12:22登録) 暗号文を奪い取ったものの解けない。そこで一旦返却し、明智小五郎に解かせて彼の探索の跡をつける。賊の作戦勝ちだ。最後に油断したのは惜しかったね。 |
No.1524 | 5点 | ヒッコリー・ロードの殺人 アガサ・クリスティー |
(2023/08/31 12:19登録) ネタバレするけれども、結局、盗難騒動って何? はっきり書かれていないが、リュックサック破壊事件と言う “木の葉” を隠す為の “森” を、無関係な者を唆して作り上げた、と言うことなのか。 しかしあれは実行犯が露見して気を引くところまで計画に含まれていて、すると “リュック事件は別” と言うことも明らかになるわけで、最終的にあまり意味が無いと思う。 それとも、裏で進行中の違法行為とは無関係に、あんな行動を唆したと言うこと? (それは何かズルい……) あと、最後に従犯者が色々話しているが、あれが全て正しい保証は無いよね。要約すると “主犯と或る程度の情報共有はしてたけど、私はそんなに悪くはありません” と言っている。 自分の罪状を軽くする為に犯行の主導権を相手に押し付けようとしているのかも。そのへんの曖昧さ、私は面白く感じたので、作者にはもっと意図的に突っ込んで(主犯にも供述させて)欲しかった。 最後の事件のトリックは、単純だけど鮮やかで見事に引っ掛かった。 |
No.1523 | 7点 | AIとSF アンソロジー(国内編集者) |
(2023/08/26 13:14登録) タイトル通りのSFアンソロジーだが、謎とその解明を軸にした作品やミステリ的な捻りを備えた作品も多い。人ならざるものの意思、と言うことで神仏ネタが重複しているのは、示し合わせたわけじゃなくて必然なのだろう。中には1編くらい、AIに書かせた作品が密かに混じっているかも。 注目作を挙げます。『AIとミステリ』があったらそのまま収録されそうな高山羽根子「没友」と品田遊「ゴッド・ブレス・ユー」。喚起させられるイメージの倒錯具合が可笑しい十三不塔「チェインギャング」。野﨑まど「智慧練糸」は反則、だがテーマをもっとも体現している(かも)。 |
No.1522 | 6点 | その謎を解いてはいけない 大滝瓶太 |
(2023/08/26 13:14登録) これは恐ろしい。キャラミス殺しの、しかも大量殺人鬼だ。今後アレもアレもメタ的ギャグとしてしか読めなくなったらどうしてくれる。迂闊に読んではいけないあがら。 表紙イラストが遠田志帆、ってのもわざとだよね。同氏のイラストが飾った某作の中二病的探偵の真実をこっちでは始めからネタとしてバラしちゃってる。そこまでやるか……。 |
No.1521 | 6点 | アリアドネの声 井上真偽 |
(2023/08/26 13:13登録) 感動してしまったのは認めざるを得ないが、こんな捻りの無い話で手も無く感動しちゃっていいの? と突っ込む天邪鬼も私の中にいるわけでどうしたものか。 ふと思ったのだが、もっとフィクション度の強い、宇宙時代だったり異世界だったりの話ならすんなり読めたような気もする。現実と地続きだとエンタテインメントとして受け止めづらい。 しかしハンディキャップを持つ名探偵の話なら普通に読めるしなぁ。やはりハンディキャップ自体をテーマにしたストレートさ、クッションの無さ、に何かひるんでしまうところが私にあり、こういうのをもう一冊、とは思わない。 |
No.1520 | 8点 | 北の夕鶴2/3の殺人 島田荘司 |
(2023/08/26 13:12登録) まずツッコミ。妻二人の死体発見の状況がきちんと書かれていない。 藤倉兄弟が、妻が一晩戻らないと言って警察に捜索願を出した。妻達は同じマンションの加納通子の部屋へ行くと言っていた。 それだけの根拠で第三者の部屋に無断で踏み込むのは、正当性が弱いと思う。作者の書き忘れか。いや、これはわざとじゃないかな~? 具体的にどういう成り行きで錠を開けさせるか思い付かず、伝聞なのをいいことに曖昧に誤魔化した、とつい邪推してしまう。 吉敷襲撃事件もやや不自然。 彼の言動、そんなに脅威だろうか? 寧ろあのタイミングで襲撃したら自白みたいなものだ。証拠能力は無くても、当事者同士では通じ合っちゃったんじゃないだろうか。 確かに、謎解きはともかく、通子を確保されるリスクはあった。但し、吉敷が牛越に期限付きで頼み込んだことを犯人は知らない筈。なのにまるで犯人が読者視点で吉敷の思考を読んで襲撃したようじゃないか。 共犯者へのフォローが無さ過ぎ。被害者との関係性を鑑みれば当然疑われるポジションなのに。アリバイを偽証するくらい出来ると思う。 現場で共犯者が悲鳴を上げた意味が判らない。“隣室の者が不審がってやってきたらどうするのか” と疑問を呈しておきながら(私もそう思う)、解答を示していない。 “保険金の額の差” はあまりにわざとらしい。 と色々思うところはある変な話だけれど、このトリックは馬鹿馬鹿しくて好き。また、再読で流れは知っていたのに、武者の写真のくだりはゾーッとした。 島田荘司の文章を上手いと思ったことはあまり無いが、本作は全体的に迫力があり驚いた。 加納通子のキャラクターは好きになれないな~。主体性の無さ。別れた相手に対する中途半端な期待感。自分にも相手にも無駄なコストを強いる感じが苦手。吉敷は重い鎖を背負ってしまった。公私混同も甚だしい。 しかし、それ故に彼の無駄にエモーショナルな刑事としての生き方が推進されたような側面もあるし、そのストレスへの反発が熱い描写を生んだのかも知れない。だから一概に否定も出来ないのである。作者はどこまで意図してこの人をこの段階で投入したんだろうか。 |
No.1519 | 5点 | 鳩のなかの猫 アガサ・クリスティー |
(2023/08/26 13:12登録) まず中東の革命騒ぎで、この話の軸は宝石の取り合いだと示される。そりゃまぁこの件を後出しにしたら御都合主義だって言われるよね。 だから読者にそういうイメージを植え付けるのは良いけれど、作者もうっかりそれに囚われちゃってる気がするのだ。 学校内で連続する事件の描き方が妙にカラッとしてない? まるで教師も生徒も4章までを読んでいて、こういう背景があるんだと、だから自分がいきなり襲われることはないんだと、安心して “事件関係者” を演じているような感じ。作者も “本題は宝石だから、閉鎖社会のドロドロはあまり書かなくていいよね” との意識(無意識?)を反映した書き方になっている感じ。 いや、でもそれが一部の動機についてはミスディレクションになっているから、全て作者の掌の上なのだろうか。 |
No.1518 | 7点 | おやじに捧げる葬送曲 多岐川恭 |
(2023/08/17 12:17登録) 語り口が “距離感を内包した親愛の情” みたいなものを非常に上手く表現していると思う。信頼出来ない語り手のスタンスが、おやじさんとの或る種の信頼関係に依拠している構図。それを成立させる人物造形。ミステリ的要素を人情話でカムフラージュする作者の企みは成功していると言えるだろう。いや、読んだ後にグッと残るものがあるから人情話の方がメインか。 |
No.1517 | 6点 | 花の旅 夜の旅 皆川博子 |
(2023/08/17 12:17登録) まるで新本格と言う感じの凝った構造。各短編は深みがありつつ結末を書き過ぎない美意識が好ましい。メタ部分は、前半で期待した程に盛り上がる真相ではなかったので、やや失速との印象が残ってしまい惜しかった。 |
No.1516 | 6点 | 地獄の道化師 江戸川乱歩 |
(2023/08/17 12:16登録) この犯人の設定はあんまりと言えばあんまりだが、それだけに捨て身のトリック(他作品では、リスクが大きい、そこまでしなくても、と感じることが多いパターン)に説得力がある。 後半では捜査陣を利用して犯人が被害者に接近。“巨人の影”~“屋根裏の怪異” は警察が相応の対処をする前提のショウ・タイムであって、そのへんを解決編でもっと強調してもいいのに。 |
No.1515 | 5点 | 霊名イザヤ 愛川晶 |
(2023/08/17 12:15登録) またこーゆーネタか……カタリ派の薀蓄は興味深く、母の悪意には息を呑む思い。 しかし、論理が破綻して幻想性だけ肥大したものを本格の枠に押し込むのだから無理が生じて当然。反転の重ね過ぎで人物の行動がどんどん不自然化。“彼女が前世で殺された記憶の真相” あたりでやめて綺麗にまとめるべきだったのでは。 |
No.1514 | 3点 | 憎悪の化石 鮎川哲也 |
(2023/08/17 12:14登録) 何か変だ。 ネタバレするけれど、アリバイ工作とは、基本的に自分が疑われる前提で、ならばコレを崩してみろと言う防壁である。 しかし本作の犯人は疑われた時点でアウト。だって動機は脅迫で、そのネタは過去の殺人なのだから。疑われるってことは、それが警察にも知られるってことだ。 「ほら刑事さん、私にはアリバイがあります。犯人じゃありませんよ」 「成程ねぇ。ところで、血の付いたバッジを証拠に、あなたはどういう理由で脅迫されていたの?」 「そ、それは……」 犯人にとって望ましい展開は――相手を殺し、証拠品を回収する。自分と被害者とのつながりを警察が知ることは無く、従って疑われることもない。アリバイ工作は無駄になるけどそれがなにより(あくまで “念の為” と言う位置付けだった筈)。 でもバッジさえ取り戻せば安泰? 犯人の心理として、そんなに甘い期待が出来るだろうか? そうは行かない。 どうにかして被害者(脅迫者)の自宅を調べ、何らかのバックアップがあったら破棄しておきたい。 しかし殺人事件なら警察も被害者宅を捜索するだろうし(作中では描写されてないけど……)、彼の行状を洗うだろう。そこから自分につながっては元も子もない。 だから出来れば死体は隠して、“失踪” に留めておきたい。大人が行方不明になっても、事件性が見られなければそうそう本気の捜査は行われない。しかも、“死体が見付からなければ安全” だと犯人は既に前の殺人で学習している。 実際、警察は “こいつの周辺で脅迫のネタになるような事件が起きたとしたら、それは何だ?” と辿って過去の件を掘り起こしたわけで、容疑者として名前が挙がったこと自体が最大の失点だと言える。 と考えると、犯人の計画は根本的に適切ではない。 近視眼的に “アリバイ・トリックで警察に勝てば万事OK” みたいに思っちゃってそうだが、それは勘違い。なるべく警察を介入させないよう注力すべきで、アリバイを問われる状況など作っては寧ろ駄目なのである。 逆から言うと、作者はアリバイものに相応しい状況を設定出来ていない、と言うことだ。 |
No.1513 | 8点 | 小説家と夜の境界 山白朝子 |
(2023/08/10 12:30登録) 人は何故、小説家小説を書くのか。 本書を題材にその考察を試みるなら、重要なのは『小説家と夜の境界』と言う表題(収録短編に同題のものは無い)。 これは “教会に寄る” の言い換えであろう。教会に寄ってすることと言えば当然 “懺悔” だ。つまり、ここに集められた物語はどれも作者の実体験であり、罪の告白を意図していると思われる。そうか、O氏死んじゃったか。雑誌掲載時期を鑑みれば、亡くなった多作家X氏はあの人かあの人……? 特記すべきは最終話で、駄洒落みたいな題のくせに絶望と希望を背中合わせに透かし見たような美しさ。こういうのは山白女史にしか書けないと言っても過言ではなかろう。 神父たる読者は懺悔を拒否出来ない。神様はお許しになっている。 |
No.1512 | 8点 | 第四の敵 山田正紀 |
(2023/08/10 12:28登録) 目次を見るといきなり! カフカじゃないか。これは私の専門なので任せたまえ(嘘)。 例えば巨大にして曖昧な “敵” の組織は「流刑地で」の奇妙な処刑装置を抽象化したものと読める。主人公がやらせのドキュメンタリーの主役を務めさせられそうになるのは「変身」の逆転であるし、何処まで行っても中枢に近付けない無力感は『城』そのものだ(嘘)。 しかしこちらはエンタテインメントだから、カフカのように停滞はせず西へ東へテンポ良く駆け回る。敵も味方もキャラ立ち充分。ミス・チャンは出番さほど多くもないのにラストで随分良い役だね(確かに真意を測りかねる……)。 |
No.1511 | 7点 | レモンと殺人鬼 くわがきあゆ |
(2023/08/10 12:26登録) なかなか凄い。特に、ネタを小出しにする呼吸が絶妙。これだけ反転を重ねても自然に読めるなんて。 但し、厳しく言えば、これはハードウェアの凄さだと思う。ヘヴィ・メタルを聴いて “ギターの速弾きが凄い” と言うようなものである。どんな曲だったかは覚えていない、もしくはたいしたことのない曲でも技術があれば速弾きの素材にはなるのである。あれよあれよと言いつつ読み終え、さて……と一息入れたところで、心に残っているサムシングはあまり無いかな~。 人間が描けてないとかそういうことではなく、もとより定義出来ない事柄だけれど、特別な一冊になる為の何かを置くべき場所が空白だと感じた。勿論、小説には色々なタイプの良さがあるし、凄い速弾きなのでそれだけで表現になってはいるのだけれど。 |
No.1510 | 7点 | 首無館の殺人 月原渉 |
(2023/08/10 12:25登録) 強引な真相だとは思ったが、それを踏まえて再読すると俄然面白くなる。そういう手続きを要する作品もアリだけど、そこまで一読目で網羅するように書けていたら凄かっただろうなぁ。 シンプルながら意表を突かれたのは “堀の渡り方”。 館の見取図が無い → 中庭の建築物について、物語の半ばまで読者に対して隠されているわけで、そのネタバレになるからでは。 |
No.1509 | 7点 | パディントン発4時50分 アガサ・クリスティー |
(2023/08/10 12:24登録) これはそんなに巧妙な案なのだろうか。最初の事件をクラッケンソープ家と結び付ける犯人のメリットって何? 死体をあそこに永遠に隠せるとは流石に期待してないよね? 記述が曖昧な為、二件目以降がどの段階で計画されたのか不明だが、わざわざ警察をこの家に注目させた上で決行するのはリスキー。 それにしても、婚約はおろかカップルになってさえいない相手の将来の収入目当てに殺人。随分と自信家な犯人ですこと。 サプライジングな目撃劇、ぶちぶち言いつつ適度な距離感(だと私は思う)の一家、モテモテのルーシー、探偵活動にはしゃぐキッズ、と読みどころ多数。あの子達が余計なものを見付けて襲われたら嫌だな~と本気で心配だった。 つまり真相以外は面白い困惑作。 |