虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.22点 | 書評数:1848件 |
No.1608 | 7点 | 五つの標的 山田正紀 |
(2023/12/21 13:04登録) 私は「真夜中のビリヤード」が、山田正紀の短編の中で五指に入るくらいには好き。氷川さんの出番が少ない気もするが、ポイントを絞るならこんなものか。敗者の悪足掻き、ラストのアイデアが良い。 一つだけややテイストが違う「ひびわれた海」は、長編パニック小説からの抜粋みたい。同じような方向性でもっとちゃんとした作品が幾つもある、と言う意味で物足りない。 いや、でもそれを言ったら、この作品集に山田作品としての新しさは、まぁ無いかな。小市民が(よせばいいのに)からっぽの拳を振りかざす様に、私は少し笑ってまた途方に暮れるのだった。 |
No.1607 | 7点 | 猫舌男爵 皆川博子 |
(2023/12/21 13:03登録) このタイトルは都筑、しかしまるで清水、いや多くは言うまい。思わず作者名を見直したこの表題作、「睡蓮」のパロディにも思える。この2編をわざわざ1冊にまとめるとは……。本文を読まずに描いただろと思える表紙が、しかしそれ故に最も的確と言うこの捻れ。好きだなぁ。 因みに “針ヶ尾奈美子” は旧作に登場した名前で、伏線と言う程ではないがファン・サーヴィス? 他3編。読み易くはないが読む気にさせる言葉が、美醜の垣根を飛び越える。 |
No.1606 | 6点 | 午後のチャイムが鳴るまでは 阿津川辰海 |
(2023/12/21 13:01登録) 別解:【星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ】 「~でも仕方がない」は「メロンソーダがないならコーラでも仕方がない」のように「次善の策」を意味するとも考えられる。本命の占いが別にあるけれど、それは駄目なので星占いで我慢しよう、と言うことだ。しかし、今時の男子高校生が、種類は何であれ占いに勤しむものだろうか。 一つ大胆な飛躍を試みたい。「星占い」は、必ずしも占いそのものを指すとは限らないのではないか。 注目すべきは占い研究会の宣伝ビラである。Xさんはそれを見て問題の言葉を口にした。ビラの文面を確認すると、「ビブリオマンシー」なる見慣れない語が目に付く。意味を知らない普通の人なら、ここから何を連想するか。「ビブリオバトル」である。 文化祭ならビブリオバトルが開催されてもおかしくない。Xさんは書評の対象にどの本を選ぶか迷っている。ビラの幾つかの文言に触発されて、それが口を突いて出たのである。 星占いの本などがビブリオバトルの対象になるか? これは「占星術」と言い換えれば明白であろう。島田荘司『占星術殺人事件』を意味するに違いない。 この場合、「木曜日ならなおさらだ」を前のフレーズに追加する条件だと考えると意味不明であり、これは「木曜日」を「星占い」と並列しているのである。従ってそれもまた本のタイトルである。G・K・チェスタトン『木曜日だった男』それともハリイ・ケメルマン『木曜日ラビは外出した』だろうか。 つまり、Xさんにとって『占星術殺人事件』は次善の策であり、『木曜日だった男』または『木曜日ラビは外出した』は「なおさら」だから三番目の選択肢なのであろう。冒頭の文例で言うところのメロンソーダ=イチ推し本の書評が上手くまとめられず、二番目三番目の本で挑む方が勝ちを狙えるのではないか、との迷いがこの独り言なのである。 ここで再度飛躍する。そのイチ推し本も宣伝ビラに隠されているのかもしれない。ふと見たビラに、Xさんの迷いに関連した言葉が「ビブリオ」「星占い」「木曜日」そして「イチ推し本のキー・ワード」、四つも並んでいた偶然こそが、彼にその独り言を言わせたのではないか。 なにしろ、「占いの『館』」と言う意味深長な文字がそこにあるのだ。黒死館? 十角館? いや、ここはやはりメタに忖度をかまして阿津川辰海『紅蓮館の殺人』を挙げるのが美しい解決と言うものであろう。 |
No.1605 | 8点 | ノッキンオン・ロックドドア2 青崎有吾 |
(2023/12/21 12:59登録) 2が付いて濃度もワンランク上昇。上手く設定を広げた上で畳んでいる。面白くて却って書くことが無いな。 唯一気になったこと:60度に設定出来るシャワーなんてあるのか。危険なだけでは? |
No.1604 | 7点 | ノッキンオン・ロックドドア 青崎有吾 |
(2023/12/21 12:59登録) Locked の発音は濁らず【ロックト】が正しい。【ドド】になっているせいもあり非常に気になる。 長編に於けるロジックの編み合わせ方が今一つ肌に合わないかなあと思ったものの、冷たくしないでこの連作集を手に取って良かった。緩い部分や説明不足は見受けられるが大目に見られる範囲内と認めて甘い罠にサレンダー。 中でも「ダイヤルWを廻せ!」がツボ。アイデアとして面白ければ私は買う。そういうトリックが可能なデザインのものだった、ってことで良いのではないか。 |
No.1603 | 8点 | 花闇 皆川博子 |
(2023/12/14 13:32登録) 三代目澤村田之助――幕末に、絶大な人気を博しつつも、四肢を失い、しかしなお舞台に立ち続けた女形が実在した。と言う軽い知識はあったけれども、同時に思っていた。そんなことが可能だったの? 差別的ではあっても綺麗事抜きで妥当な疑問だろう。本書はそれに、そこそこ答えてくれた、かな。 高慢ながら芸には真摯。そんなキャラクターをこれでもかとばかりに示し、読者の心に浸透した頃合を見計らっておもむろに手足を奪う。史実だから仕方ないけど作者は鬼か。 田之助が中心であることは間違いないが、時代に押し流される歌舞伎界の群像劇でもある。中でも大道具師の忠吉の才気は忘れ難い。長谷川! と声が掛かって嬉しいね(私は武将より参謀に惹かれる傾向があるのだが、これも?)。 しかし役者は改名・襲名が多くてややこしい。叙述トリックに使える。 知識が乏しいのでどこまでが史実か判らないのだが、期待したより飛躍が少なく、リアリティに対し忠実に書かれている印象。截断後の舞台の様子も意外なほど冷静に描写されている。 それがこの人の作風だし時代小説のマナーだ、とは知りつつ、そこにもう一歩の何かがあれば、と惜しむ気持も少しある。 |
No.1602 | 6点 | 蜃気楼・13の殺人 山田正紀 |
(2023/12/14 13:30登録) 全体を包む大きなトリック。それを成立させる背景の設定等には、関係者が色々と無茶をする理由がきちんと感じられた。 しかし物理的トリックは……ランナー消失はともかく、串刺し死体や空飛ぶトラクターをあんな説明で片付けるなら、寧ろ無くても良かったのでは。 |
No.1601 | 5点 | 図書館の殺人 青崎有吾 |
(2023/12/14 13:30登録) ①意外な犯人を一応論理的に指摘してはいる。 しかしあの人を犯人にするなら、相応の動機が必要だったと私は強く思う。被害者との関係がアレだからではなく、“守る為” に殴打した直後に掌返し、ってのが不可解。 読者には推理不可能な事情が犯人の告白で明らかになるパターンでもいいから。事情を一つでっちあげるくらい、やれば出来ることでしょう。 ②イニシャルK氏が図書館に忍び込んだ時、“テンキーのカバーは開いていた” “事務室やカウンターのドアは開いていた”。一方、死体発見場面の記述を見ると、“いつもは閉まっている” とのこと。K氏は自分が不正行為をする立場で、誰かが中にいる可能性を考えなかったのか。 ③殺人のタイミングで、被害者の従妹が図書館の前に来ていた。K氏と遭遇するが、彼女はK氏が探していたまさにその人である。 と言う状況が全くの偶然で成立している(私は、あまりに作為的だから従妹が犯人だと思った)。 ④問題の本と被害者を結び付ける直接の証拠は無いのだから、脅迫のネタにはならない。本を挟んで被害者とK氏が睨み合う構図は、両者とも考えが偏っていて、夜中に忍び込む理由を作る為のこじつけに思える。 ③が最も気になる。個人の気持で説明出来る事柄じゃないからね。 総じて、全体を俯瞰した視点でチェックしないまま発表してしまった感じ。 |
No.1600 | 5点 | 皆殺しの家 山田彩人 |
(2023/12/14 13:29登録) なんじゃそりゃ、な真相の連続。 いや、第一話が “被疑者死亡により真実は不明” と言うオチで、それならアリだとも思ったのだ。あくまでゲームとしての推理でリアルな決着を付けないスタイルなら、ちょっとした独自性とも言えそうだし。 ところが以降は決着を付けちゃっている。それであれらの真相は微妙だな~。 |
No.1599 | 5点 | 死人の鏡 アガサ・クリスティー |
(2023/12/14 13:28登録) 「厩舎街の殺人」はシンプルにまとめたことが良い効果を発揮していると思う。このタイトルはアンフェアに見せかけてポアロの台詞に注目するとフェア? 表題作の真相は意味が判らない。計画的犯行なのに、開けたまま撃って、その後で慌てて偽装工作。そもそも、犯意が有ろうと無かろうと、開けたドアは閉めるのが普通だと思う。つまり、偽装自体は面白いが、それが必然性を持つ状況設定が出来ていない。 |
No.1598 | 7点 | 天動説 山田正紀 |
(2023/12/07 13:56登録) 角川ノベルズ版は全2巻。戎光祥出版から合本で復刊。 初出が雑誌連載なおかげか一話ごとにしっかり山場が盛り込まれ、安心して読めるエンタテインメント作。最終話のちょっとした飛躍も効いている。 “鉄太郎” が次男であることが最後まで気になったが、結局何の伏線でもなかった。“心の臓だ!” って言い方がツボ。 |
No.1597 | 5点 | 七つの時計 アガサ・クリスティー |
(2023/12/07 13:54登録) 冒険ごっこ、って感じ。死者が出ているにもかかわらずふわふわした若人達の言動。退屈のあまりロシアン・ルーレットが生まれた逸話を想起した。求婚が一番のサプライズ。この秘密結社の元ネタはGKC? とか勘繰り過ぎちゃいけないね。 |
No.1596 | 5点 | 奇岩城 モーリス・ルブラン |
(2023/12/07 13:53登録) ラスト3分の1(暗号解読&奇岩城攻略)は面白かった。全て我が物だとばかり宝物を並べる様に、ルパンの圧倒的な孤独を見た。 哀しい結末は、今時の気遣い重視のコラボレーションと比べて、作者の思い切りの良さに結構感心。どのみち読者だってこれをホームズの公式エピソードに数える気は無いんだから。 |
No.1595 | 5点 | 風ヶ丘五十円玉祭りの謎 青崎有吾 |
(2023/12/07 13:53登録) 柚乃と早苗と香織と鏡華と……キャラクター小説的要素にばかり目が行っちゃって謎解きは邪魔。シッシッ、あっち行け天馬。 “髪がボサボサで眼鏡をかけた中年のお父さんが、少女漫画チックなキャラクターを巻き込んで暴れ回っていた” →岡田あーみん? 食べながらアレを読むってどういうチャレンジャーだ。 |
No.1594 | 5点 | タカイ×タカイ 森博嗣 |
(2023/12/07 13:52登録) 死体を高く掲げたホワイとか曖昧な真相とか、面白そうな要素は含まれているが、わざと面白くない書き方をしてそれこそがクールだと思っていそうな感じが面白くない。 あと、事件関係者と小川が同級生だった、そういう人間関係の偶然をフィクションで使うのは好きじゃないな~。 |
No.1593 | 8点 | 世界でいちばん透きとおった物語 杉井光 |
(2023/11/30 12:54登録) この手の作品を読むたび思うのだが、一作だけ別名義でイコール語り手にすれば? こんなしょーもないことを思い付き、あまつさえ実行してしまった時点でスタンディング・オヴェーション。その上で、仕掛けに正当性を持たせる為の設定が上手く出来ている。割と典型的なキャラクターばかりだが、噛み合わせ方が良いので物語としても面白い。 ただ、宣伝文句が……。 |
No.1592 | 7点 | ジャグラー 山田正紀 |
(2023/11/30 12:53登録) 『ジュークボックス』の、続編、とはちょっと違うな、緩やかな姉妹編? どちらもJで始まる七文字。 初期作品の “神” の代わりに、ここでは “言語” そして “コンピュータ” が触媒だ。 “現実” も脳と言うセンサーのフレームに限定されたヴァーチュアル、との認識に則るなら、1~2章では日本中を巻き込んでいるかのような闘争が、3章では噂話レヴェルの遠景に後退する格差こそ本作のキモのように思う。重層構造のミステリに通じるところもある。 ただ、個人的にはアメ・コミ(映画も含む)に馴染みが無いので、“余所のネタ” で終わってしまった。アトムやドラえもんで書いてあればなぁ……。 |
No.1591 | 6点 | 巫女の館の密室 愛川晶 |
(2023/11/30 12:52登録) 本作に限らず、謎の文書が送られて来て云々の設定は、物語の複数の軸が最後に一つにつながる妙味がある反面、何故そのようにまどろっこしい伝え方をするのか納得しづらい。 思えば根津愛は文書の内容を鵜呑みにして、初対面の相手に対する反感を事前に募らせている。ならば謎めいたアプローチは “名探偵の操縦法” と言えなくもない。 そしてこれを言うと野暮なんだけど――密室トリックに関する愛の推理は、“犯人は抜け穴から出入りしてはいない” ことを前提にしている。それを踏まえた上で諸条件から “真相はこれしかない” と断じているわけで、真相や犯人を示す直接的な証拠は無い(よね?)。 “警察が抜け穴の有無をきちんと調べた” と言っても、相応の規模の特殊な建物で、しかも十年前の話である。調査の無謬性と真相の突飛さを並べて、前者を優先する(=調査結果はあくまで正しいから、そこから導かれる真相はどんなに突飛でも真実である)のは、ミステリの約束事としてはアリだけれど、今回のそれは却ってロジカルさを殺いでいる気がするのだ。 ところで、確認しようが無いことを “史上初” とかは書かない方が良いと思う。そんなに自信があったのだろうか。 “刑事になりたがる理由” もピンと来ない。犯人はアレで説得されたのか……? |
No.1590 | 6点 | 炎舞館の殺人 月原渉 |
(2023/11/30 12:52登録) おいおい、悪魔憑きの犯行か。 それはともかく、ちょっと効率的に書き過ぎではないか。ところどころで “必要な手続きをこなしているだけ” に感じられて残念。せっかく雰囲気のある舞台を作ったのだから、もっと味わいを重視しても良いのでは。いや、そうすると本格度が下がっちゃうのかな~? |
No.1589 | 6点 | 探偵ガリレオ 東野圭吾 |
(2023/11/30 12:51登録) シリーズ連作であること自体が弱点。確かに不思議な現象だけどどれも科学的に説明が付くんでしょ、と言う視点でつい読んでしまう。 しかし、第一章の妹の件とか、第二章で犯人の意図ではなくああいうものが生じた巡り合わせとか、科学ネタ以外の外堀が面白い。そのへん書き方が上手いね。 |