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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1668 7点 花面祭
山田正紀
(2024/03/16 12:55登録)
 華道と言う素材と山田正紀ブシを巧みに融合。浮世離れした異界ではなく現代日本の生活者を描きつつ、花の彩り・時の移ろい・輪廻転生を鮮やかに幻視させる言の葉の力を感じた。トリック云々より人の心が織り成すミステリ。特に夏のエピソードは良く出来ているのではないか。
 ただ、“天才華道家” の天才性をエキセントリシティだけで表現しちゃうのはちょっと不公平かな~。この人はココが凄い、と言うのを具体的に示して欲しかった。全編を貫く “しきの花” は、正体が判ってみれば詭弁だろう。華道の素養があれば受け取り方も違うのだろうか。


No.1667 7点 おやすみ人面瘡
白井智之
(2024/03/16 12:54登録)
 丁寧に読めばきちんとロジックが張り巡らされている、のかもしれないが疫病パニック小説、て感じでそれどころじゃないぞ。多重解決が難易度の低い順に提示されていて、ちゃんと驚きがアップしているのが良い。脳瘤の悲鳴が妙に愛らしくて困る。
 最後の最後のサプライズが謎。入院したのだから機会はあったにせよ、誰が何の為にそんな鑑定を行ったのだろう。


No.1666 5点 網にかかった悪夢
愛川晶
(2024/03/16 12:54登録)
 この真相は……一応許容範囲内だけれど、オカルトに足を踏み入れかねないし、恣意的な運用が可能なので、ロジック重視の世界観にはあまりそぐわない。代理探偵シリーズにねじ込む(しかも時系列を遡って)と言う使い方は失敗だったんじゃないか。“パラレルワールドの根津愛” と緩く捉えるのが吉?


No.1665 5点 天啓の殺意
中町信
(2024/03/16 12:53登録)
 全編にまたがるトリックには見事に引っ掛かった。拍手を送りたい。
 一方、事件の様相は入り組んでいて疑問が残る。
 普段は東京で暮らす知り合い同士が偶然、福島県でニアミスしている。こういう偶然は嫌い。現実にはありえても、ミステリで用いると御都合主義に見えると言う意味で。
 そして、エピローグの手紙に書かれている、“あなたが○○殺しの犯人であることを見抜いていました”――犯人と○○殺しは表面上無関係である。どうやって見抜いたのか。


No.1664 5点 八ヶ岳「雪密室」の謎
アンソロジー(国内編集者)
(2024/03/16 12:53登録)
 本書だけでは完結せずネットも利用した企画。
 しかし、解答編読者公募の発表ページは版元(原書房)のサイトから削除されてしまった模様。辛うじて、入選作を筆者御本人がアップしているものを発見(「すべてを解き明かした(のか?)者の手記」)。こういうのはタイミングを逃すと今一つ楽しめないなぁ。

 作家本人が登場する小説は、作家が自身をどのように捉えているか自意識の発露と言う点で興味深い。
 勿論そのように読まれる前提で大なり小なり装飾が施されてはいるのだろう。とはいえ、そこには「このように思われたい」との自意識も反映されているわけでやはり興味深い。
 勿論そこまで深読みされる前提で大なり小なり装飾が施されてはいるのだろう。とはいえ、そこには「『このように思われたがっている』と深読みされたい」との自意識も反映されているわけでやはり興味深い。
 勿論そこまで深く深読みされる前提で大なり小なり装飾が施されてはいるのだろう。とはいえ、そこには「『「このように思われたがっている」と深読みされたがっている』と深読みされたい」との自意識も反映されているわけでやはり興味深い。
 勿論……


No.1663 7点 因業探偵 新藤礼都の事件簿
小林泰三
(2024/03/09 13:57登録)
 抜群の頭脳と最悪の性格。新感覚お仕事ミステリ(笑)。
 しかし本作の最も重要な売りは “何処に謎があるのかが謎” と言う構造だと思う。斜め上に向けて積み上げるロジックに気を取られていると、思いもかけぬところから読者を騙しに来る。
 と考えると、これは単なるキャラクターものではない。それをメインの要素に見せかけて実は煙幕の一つとして機能させているのである。読み易過ぎて実際以上に “小品” の印象が残ってしまうのが勿体無い。


No.1662 6点 月は無慈悲な夜の女王
ロバート・A・ハインライン
(2024/03/09 13:57登録)
 ハインラインは本作を書いたら左に転向したと言われた。さもありなん。
 “ヒューゴー賞受賞に輝くハインライン渾身の傑作SF巨編!” なんだけど、この “巨編” がネック。

 細かなエピソードを並べて大きな物語を進行させる構成。これだけ多くのエピソードの全てが絶品とは行かないのは仕方ないが、結果的に物語全体の進行が何とも歯痒く感じられた。
 革命思想や技術的情報の詳細は、どの程度なら斜め読みしても平気なんだろうか? 登場人物にお気に入りを見出せなかったのも痛い。

 決して “正義の戦い” ではない。規格外の存在であるマイクは置いておいても、色々ズルい手は使うし、必要に応じて語り手も(直接)人を殺している。と言うか、その件が目立って見えるのは、大々的な流血革命だけど首脳部を中心に描かれているので個々人としての死はあまり表面に出て来ないからだ。
 視点によって物事の見え方が随分変わる、と言う意味で非常に示唆的な戦争小説である。マイクが独断で動くのは、現在読むと甚だ危なっかしいな~。


No.1661 6点 鏡の国
岡崎琢磨
(2024/03/09 13:55登録)
 不自然な記述を見付けて下さいと最初に宣言しているわけで、そういうゲームとして楽しめた。メインの趣向には第一章で気付いたけど、それは “この設定にサプライズを仕込むとしたら何処か?” と言うメタ推理による。判り易いのでもう一つ裏(伊織の性別錯誤トリック等)があるのかと思ったが……。
 題材の精神症に関しては、蒙を啓かれた部分がある一方、正論で押し過ぎて却って説得力に欠けると感じたところもある。本書で読む限り、動画配信と言うフィールドは全然楽しそうじゃないなぁ。


No.1660 5点 第三の女
夏樹静子
(2024/03/09 13:55登録)
 実は私、結末の部分について、“リスクを省みず会いたがる男を見限って、口封じの為にランデヴーに応じた” のだと思った。そしたら……驚きが待っていた!
 しかしそこに至るまでに、犯行も捜査も都合良く行き過ぎだとか、独り合点の犯人が馬鹿みたいだとか、描き方が通俗的だとか、色々引っ掛かりがあって気持は殺がれ気味。
 愛は愚行かもしれないが、それならそれで愚行が美しく成り立つ世界観や文体が欲しい(栗本薫あたりの得意分野じゃないかな)。でないと、例えば最終章での彼女の行動があまりに意味不明。この物語に必要だったのは、捜査のリアリティとかではない筈だ。


No.1659 4点 網走発遙かなり
島田荘司
(2024/03/09 13:54登録)
 二回読んだがピンと来ない。登場人物達の素性・つながりが少しずつ明らかになって、しかしだからと言って各話の謎に深く関わるわけではなく、それで? と言う感じ。謎そのものもあまり面白いとは思えなかった。
 悪戯で玩具の銃で、結果として人が死んだのに、当事者が平然としているあの場面は何なのだろう。起訴するなら何罪?


No.1658 8点 家畜人ヤプー
沼正三
(2024/03/01 14:00登録)
 誇張ではなく本当に1ページごとに “なんじゃそりゃ” の乱舞。ただその驚きの方向性が、“幻の異端作家の禁断の書” みたいなイメージのせいで “情念のほとばしり” 的なぐしゃっとした混沌を予想していたら、意外にも非常に理路整然として無駄に博覧強記なのだった。
 勿論、突っ込みどころは多々あるけれど、それさえも “作者の中では完結しているのだなぁ” と言う説得力に通じるのだからあな怖ろしや。
 読み始めは当然アイロニーだろうと思っていたが、作者の言によればこれが真のユートピア。これだけ徹底して描かれると圧倒されざるを得ない。何より “最後の選択” で少なからず感動してしまった私の心は大丈夫だろうか。

 食用畜についてはもっと色々なメニューを紹介して欲しかった(ヤプーは人間ではないのでカニバリズムにあらず)。殺したてじゃなくて牛肉のように熟成させた方が美味なのでは? 

 確かにあまりの改造描写でこちらの肉体感覚も歪み精神的負荷の大きさ故に一日一章読むのが精一杯。全49章の長さがハードルではある。が、そこまで隔絶した存在でもない。白井智之や小林泰三や式貴士や団鬼六や駕籠真太郎や根本敬がOKなら本作もいけるのではないか。 


No.1657 7点 エイダ
山田正紀
(2024/03/01 13:59登録)
 照れ隠しのような演出を施しつつの物語原理主義宣言である。断片的にばらまかれる様々な “現実” に於ける “物語”。個々で見るとそれぞれ読み応えのあるエピソードなのだが、それらが収斂する結末でやや推進力が落ちてしまったのが如何にも惜しい。
 読んでて良かったメアリ・シェリー『フランケンシュタイン』。本作中で言及されるイメージは原典でないと摑みづらいんじゃないかと思う。ホームズも登場(一応言っとく)。


No.1656 7点 結ぶ
皆川博子
(2024/03/01 13:57登録)
 冒頭に置かれた表題作のインパクトがあまりに強くて、他の作品が記憶に残らないなぁ。
 と言いつつ注目作を挙げておく。「花の眉間尺」「蜘蛛時計」「U Bu Me」「心臓売り」。
 そもそも同系統(幻想小説)の短編のセレクションであり、収録作品には壊れ物のようで実は強固な文体や半透明な情景を重ね合わせるような構造と言った共通点が見られる。その為まとめて読むと似ていると感じられるものもまぁあるので、座右に備えて折々に少しずつ読むのが相応しかろう。それじゃ病んじゃうか。創元推理文庫版には4編追加。


No.1655 5点 紅葉街駅前自殺センター
光本正記
(2024/03/01 13:57登録)
 タイトルそのまま。粛々とした書きっぷりが却って出口無しの苦しさを感じさせる。予想通りの赤紙も唐突に明かされる “犯人” もまぁ許容範囲内だとして、最後の最後で不条理に転んでしまうのはどうなんだろうか。あれは踏み留まった方が良かった。始まりが夢の描写だから或る意味で整合性は取れているのだろうか。
 語り手の自死直前数日間の暮らし方が連休時の私そっくりで苦笑。


No.1654 5点 羊たちの沈黙
トマス・ハリス
(2024/03/01 13:52登録)
 面白くないわけではないが、素材のポテンシャルで引っ張れる以上に長く引き伸ばし過ぎ。捜査陣が勢力争いでゴタゴタするあたり皮肉が利いていて良いとは思うが、過積載の一因にもなっている。また、終盤にこれといった大きなサプライズがあるわけでなく、サスペンスが最も高まるべき人質救出の場面が消化試合になってしまった。


No.1653 6点 妖怪変化 京極堂トリビュート
アンソロジー(出版社編)
(2024/02/22 13:45登録)
 参加者は、あさのあつこ/西尾維新/原田眞人/牧野修/柳家喬太郎/フジワラヨウコウ/松苗あけみ/諸星大二郎/石黒亜矢子/小畑健。イラスト・漫画も含む。
 あの文体は割と模倣し易いのかも。そしてどうしてもイメージが京極夏彦に収斂してしまうので、他者が使っても京極まがいを書く以外に使い道が無いのかも。新しい何か、ってものではないが、そういう企画だからいいのだろう。
 西尾維新は独特のアレもやっている。まぁもともと行換えの多い人だし。


No.1652 6点 るん(笑)
酉島伝法
(2024/02/22 13:41登録)
 変な宗教モノの極北。しかも、超自然現象は含まれていない。視点・解釈の違いだけでこの異界が出来上がっている。つまり実は我々の隣に存在すると言うことだ。超常現象的な記述が科学的に解明されるタイプのミステリの、結末を読者に委ねたもの、とも言える。
 信じるものの違いで世界が変わる。AB型とか四〇四号室とか、リアルな切り口に苦笑、じゃ済まないかもしれないよ。
 説明に終始して物語的なダイナミズムに欠けるのは否めない。“お山の上にお口が三つ” は病の名前だよね。


No.1651 6点 ブラウン神父の醜聞
G・K・チェスタトン
(2024/02/22 13:39登録)
 「緑の人」「とけない問題」が良い。ミステリ的な核は小粒なのに大仰な書き方なのでバランスがおかしいが、ここまで来るとそのこと自体が絶対的な個性に思えてしまう。
 ところで、ブラウン神父は、有名な素人探偵なのか、市井に穏やかに潜む無名の人なのか、シリーズ中(本書に限らず)に設定が混在して矛盾を来してない?

 訳者による入魂の解説「ブラウン神父の世界」について。くどくど五月蠅い、と私は感じてしまった。
 確かにどんな物語にも、何がしかの予備知識や共通認識が求められはする。風刺は対象を知らないと通じないから、チェスタトンには特にその傾向が強いかもしれない。
 しかしそれがどうした。作者の意図に合わせる義務は無い。そうやって正解(だけ)を求める行為は読書をつまらなくするよ。読者は作品を自由に曲解する権利を持つのである。


No.1650 5点 恐怖
筒井康隆
(2024/02/22 13:38登録)
 もはや何を書いてもストレートな読み方はされない自己のポジションを前提に、読者がひねくれた読み方を出来るような作品を書く、或る種の共犯関係に基づいた、ミステリのようでミステリにならない物語。
 謎解きと言う程のものは無い。過去の優れた短編と比較して “恐怖” の表現が深化したとも思えない(タイトルで損してない?)。ドタバタを平熱の文章で描くのはこの人の持ちネタであって、筒井作品群の中では小粒な一作だと感じる。
 とは言え、刑事の転倒は何度読んでも笑ってしまうし、あの一場面だけでも価値があるのだ。


No.1649 3点 影の告発
土屋隆夫
(2024/02/22 13:37登録)
 各章冒頭の断片的な情景、子供を使ったトリック、公園にブツを予め仕込む、など『危険な童話』を想起させるネタが幾つか。使い回しが全て不可だとは言わないが、重複させ過ぎ。
 ミステリ的に面白いトピックを導入する為に登場人物に強引な行動をさせている、と言う感が強く、全体的に不恰好な話だと思う。

 犯人は何故エレベーターの中でああいう殺し方をしたのか?(明確に書かれてはいないが、少なくとも理由の一つは)アリバイ・トリックを仕掛けるので犯行時刻を明確にする必要があったから。
 何故アリバイ・トリックを仕掛けたのか? 警察に過去の経緯を掘り出されると、自分が疑われる可能性があるから、それに備えた。
 しかしその殺し方のせいで名刺を落とし、早々に警察から目を付けられた。
 つまり結果論として、余計なトリックは使わない方が良かったと言える。
 作者は、アリバイ・トリックは “万一に備えた” ものだと犯人に思考させたりしているが、そのへんの状況の滑稽さを前面に出す気は無いようで、これは後付けの言い訳のように思える。

 写真の件は、作者も実験の上で採用したそうだし、トリック自体はまぁ可能なんじゃないか。
 寧ろ難点は、一発勝負であること(しかも事前に出来栄えをチェック出来なかった)。そして、自分で撮ったものと “通りがかりの人に頼んで撮ってもらった” もののピントの甘さが共通であること?

 第二の殺人で、被害者は “両者(犯人と少女)の結びつきを知っている、もう一人の人物” だったから殺された、と千草検事は考えたがこれは間違いである。既に結びつきが警察に知られた、と言うことを犯人も知っている、のだから今更殺しても意味が無い。
 実際の動機は取って付けたような後出しの情報だ。これも作者、殺しちゃった後で “意味が無い” ことに気付いて慌てて捻り出したんじゃないだろうか。
 ところでこの当時、電話は何処から何処に掛けたか記録が残らなかった?

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