home

ミステリの祭典

login
kanamoriさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:2426件

プロフィール| 書評

No.886 8点 白昼の死角
高木彬光
(2010/07/30 20:57登録)
東大法学部の学生グループによる手形詐欺などを扱った悪漢・クライム小説の傑作。
実際にあった東大生の経済犯罪集団をモデルにしているだけに、とくに主犯の天才詐欺師・鶴岡の造形などリアルで迫真性がある。作中で、清張の「眼の壁」の手形パクリ詐欺の手法など児戯に類すると言わせている程です。
巨編ですが、あっというまに読み終えるリーダビリティ抜群のピカレスク・ロマンです。


No.885 8点 飢えて狼
志水辰夫
(2010/07/30 20:35登録)
80年代・”冒険小説の時代”を牽引したシミタツのデビュー作。
択捉島潜入・ソ連兵からの逃避行とサバイバルなど緊迫したシーンの連続も読ませるが、流れるような文体とともに不屈ながら理知的ユーモアのある主人公がなかなか魅力的だ。
女性とのしゃれた会話など、ひねくれ気味の作者本来の持ち味は抑え気味だと思いますが、デビュー作らしい熱気に満ちた冒険小説の傑作だと思います。


No.884 4点 匣の中の失楽
竹本健治
(2010/07/30 20:11登録)
推理マニアが集まって推理合戦を繰り広げるという構成は「虚無への供物」への供物だと思うが、現実世界と虚構世界が錯綜したプロットが人物造形の稚拙さと相まって非常に読む者を混乱させる。
アンチ・ミステリは嫌いではないが、「虚無への供物」と違って、この小説は最終的に何を言おうとしているのか理解不能でした。


No.883 7点 事件
大岡昇平
(2010/07/30 18:43登録)
単なる刺殺事件の裏にある男女の人間ドラマを、リアルな裁判小説で克明に描いています。冗長さもあるが、終盤は結構スリリングでした。泡坂妻夫「乱れからくり」と同時に協会賞を受賞しましたが、「東西ミステリーベスト100」国内編でも、「乱れからくり」に次ぐ23位というのはなにかの因縁か。
野村芳太郎監督の映画のラスト、妊婦役の大竹しのぶがひょこひょこ歩いてフェードアウトするシーンは印象に残る。


No.882 8点 乱れからくり
泡坂妻夫
(2010/07/30 18:43登録)
冒頭の隕石のエピソードに始まり、ねじ屋敷のからくり尽しと五角形の迷路などが結構ツボで惹きこまれました。
プロット全体を蔽う仕掛けも独創的で、意外な犯人像が強烈です。
惜しむらくは、殺人手段が(止むを得ない面かもしれませんが)やや陳腐なことと、探偵コンビが少々魅力に欠けるように思いました。


No.881 8点 占星術殺人事件
島田荘司
(2010/07/30 18:43登録)
新人のデビュー作で、冒頭から占星術の蘊蓄話のようなエピソードを延々と繰り広げている所に、作者のこの作品に対する意気込み・自信のようなものを感じます。予備知識のない初めて読む作家で、これだと投げ出す読者もいるでしょうから。
一発ネタのアゾート殺人の仕掛けは意表を突いて衝撃的でしたが、けっこう伏線もフェアに敷かれていたように思います。


No.880 7点 危険な童話
土屋隆夫
(2010/07/30 18:42登録)
現実的な殺人捜査や容疑者取り調べの描写の合間に挿入された童話が意味深で、読者を物語に引き込む効果を挙げています。
作中のユニークなトリックですが、この小説のミステリとしての核心が何か解らないまま読んでいて、終盤に変形の××ネタとわかったときは、結構感心した覚えがあります。
今読むと、ちょっと無理筋なところも目立ちますが、文芸的テイストと本格ミステリ趣向が融け合った秀作だと思います。


No.879 7点 ゴメスの名はゴメス
結城昌治
(2010/07/30 18:42登録)
ベトナム戦争前夜・60年代初頭のサイゴンを時代背景とした国産スパイ小説の嚆矢といえる作品。
商社員として赴任した主人公が前任者の失踪に絡む謀略に巻き込まれる・・・スパイものといっても全編にわたって荒唐無稽さのないリアリズムに貫かれており、一人称で語られる内容は迫真性充分で、ミステリ的趣向もあります。
タイトルに繋がるダイイングメッセージ風のエピソードは、作者らしいスマートさを感じる。


No.878 8点 飢餓海峡
水上勉
(2010/07/29 21:02登録)
この大作は、「虚無への供物」と同じく青函連絡船・洞爺丸事故が創作の契機のようです。ただし、時代を遡って昭和22年を事件の発端にしていますが。
過去に強盗殺人を犯し隠蔽工作をし名前を変えて暮らす男と、恩人の男をかばう元娼婦、執拗に男を追及する捜査陣、と抒情的な文章で壮大な人間ドラマを堪能できます。若干、物語の進行に冗長さを感じる点もありますが、読み応え十分の名作と言えるでしょう。


No.877 7点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2010/07/29 20:34登録)
著者初の長編ミステリですが、読了時、ああこの作家は長編が書けない人だなと思いました。
長編の中に、11編の奇術ネタの短編ミステリが入っていて、ばらつきはありますが面白いネタが多かった。こちらの構想が先にあって、無理やり長編に組み込んだ印象で、そのため死体の周りに散乱する奇術の小道具の理由付けなどちょっと苦しい。


No.876 7点 ゼロの焦点
松本清張
(2010/07/29 20:34登録)
「東西ミステリーベスト100」国内編の15位は、清張2作目の登場。
夫の謎の失踪と妻の捜索行、さらには最後のクライマックス・シーンなど、プロットは多くの社会派サスペンスの追随作品を産み、もはや陳腐となってしまいましたし、犯行の動機も時代を感じます。
しかし、抒情的筆致による北陸の陰鬱な情景や主人公の心情描写は初期作品の中でも出色の出来だと思います。


No.875 8点 陰獣
江戸川乱歩
(2010/07/29 18:37登録)
ともに乱歩自身をモデルにしたと思われる<変格探偵作家>大江春泥と、主人公で<本格探偵作家>の寒川とを対峙させる構図の中で、作者のこだわりの××トリックが最大限に生かされています。
物語自体、旧前の耽美的作風でありながら、プロットは理知的探偵小説そのもので、作者の二面性が結実した傑作だと思います。


No.874 6点 二銭銅貨
江戸川乱歩
(2010/07/29 18:37登録)
「東西ミステリーベスト100」には乱歩の短編がいくつか選ばれています。
13位の本書は、最初に書いた探偵小説という歴史的意義がありますが、暗号ミステリで最後にオチがある小ぶりの作品。
「心理試験」が25位で、スリリングな展開で完成度の高い好みの逸品。49位の「押絵と旅する男」は幻想ミステリで、55位の中編「パノラマ島綺談」は通俗ミステリ風の綺譚というように、作風がバラエテイに富んでいる点はさすがだと思います。


No.873 8点 大誘拐
天藤真
(2010/07/29 18:37登録)
カイガイ出版という聞きなれない版元だったと思いますが、文庫本しか買わなかった学生時代に、おそらく初めて買った単行本で、読了時に”買って大正解!”と思った。
天藤真の初読本ですが、作者の登場人物に向ける優しさや独特のユーモアのテイストが最大限に発揮されています。
ミステリ的には「意外な被害者」もののクライム・コメデイといえると思いますが、ジャンルの枠内に収まらないエンタテイメント小説の傑作でしょう。


No.872 7点 刺青殺人事件
高木彬光
(2010/07/29 18:37登録)
現在の読者だと、硬質な文体とか大袈裟に読者を煽る表現が鼻につくかもしれませんが、純粋な密室ものの本格ミステリとしてよく出来ていると思います。
心理的密室のトリックが一番のキモだと思いますが、機械的密室のカラクリも当時はそれなりに面白いと思いました。


No.871 9点 戻り川心中
連城三紀彦
(2010/07/29 18:36登録)
「東西ミステリーベスト100」国内部門の第9位になってようやく発表時リアルタイムで読んだ作品が登場。
いわゆる”花葬シリーズ”といわれた主に大正・昭和前期を時代背景にしたミステリ作品集で、美麗な文章に隠された騙し絵の世界を堪能しました。
探偵小説誌・幻影城で第1作「藤の香」を読んで以来、追い続けたシリーズなので思い入れのある作品集です。


No.870 8点 黒いトランク
鮎川哲也
(2010/07/28 21:19登録)
鮎川哲也名義では最初の長編ミステリ。
時刻表ミステリ(アリバイ崩し)ものとしては、屈指の傑作だと思います。派手さはないものの、鬼貫の前に次々と立ちふさがる巧緻な真犯人の犯罪計画の壁を突き崩して行く様は、パズラーの醍醐味を満喫できました。
容疑者や被害者など関係者を鬼貫の旧知の人物に設定しておきながら、人間ドラマにしないのは、いかにも鮎川らしい。


No.869 8点 本陣殺人事件
横溝正史
(2010/07/28 20:51登録)
短めの長編なので、読み応えという点では作者の他の傑作群に劣るかも知れませんが、初めて読んだ横溝作品ということもあって印象に残る本格編です。
春陽文庫版で読んだが、事件現場の離れ周辺の見取図が添えられていて、トリック解明のシーンでは、ぞくぞくする興奮に包まれたことを憶えています。細かい点では、三本指の男のミスディレクションも当時は感心できました。


No.868 4点 ドグラ・マグラ
夢野久作
(2010/07/28 20:34登録)
「黒死館」と並んでミステリ界の奇書と称される本書ですが、文体は平易で、読みにくいとは思わないが、内容の理解不能度は「黒死館」を遥かに凌いでいます。
解説を読むまで、作者の意図したものが全く解らなかった。


No.867 6点 黒死館殺人事件
小栗虫太郎
(2010/07/28 20:23登録)
「東西ミステリーベスト100」国内部門の第5位は奇書といわれる古典本格ミステリ。
この晦渋な文体のミステリを読了するのは難儀ですが、法水探偵の広範囲な分野に渡る衒学的蘊蓄解析の部分を読み飛ばせば、単純なプロットでステロタイプな犯人像を設定したオーソドックスなコード型本格だと解る。
しかし、そういった読み方は作者の創作意図にまったく相反するもので、「黒死館」を読解したとは言えないのでしょうね。

2426中の書評を表示しています 1541 - 1560