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ミステリの祭典

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kanamoriさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:2463件

プロフィール| 書評

No.2063 6点 海と月の迷路
大沢在昌
(2014/03/12 18:47登録)
警察学校の校長職で定年を迎えた荒巻は、昭和34年に新米巡査として赴任した炭鉱の島での事件を回想し、送別会の席で後輩たちにその顛末を語りはじめる。それは、荒巻にとって苦い思い出だった------。

長崎市の沖合に浮かぶ炭鉱の島、通称「軍艦島」の派出所勤務となった新米巡査の荒巻が、島のルールという抵抗にあいながら、ある少女の変死事件を発端に連続殺人鬼の正体を追うというストーリー。
まず特殊な舞台設定が本書の読みどころ。狭い半人工島に暮らす5千人以上の島民ほとんどが炭鉱関係者で、密集した高層の集合住宅に職種毎に別れて暮らし、一種のヒエラルキーが出来ている。財閥系の炭鉱会社が島の治安業務を引き受け、警察が出る幕が限られている状況の中、荒巻巡査の苦難の”捜査”が行われる。
タイプとしては佐々木譲の警察小説に近い味わいがある。この島の構成や人間関係が丁寧に描かれている一方で、グイグイと読者を引っ張っていく作者らしい派手な展開がさほどないのが寂しい。”満月”の連続殺人鬼の正体にしても、伏線の妙味は多少あるものの、とってつけたような唐突さを感じた。でも力作には違いない。


No.2062 5点 街を黒く塗りつぶせ
デイヴィッド・アリグザンダー
(2014/03/10 22:14登録)
競馬の借金返済のため、旧友のマイクから輸入業者を紹介され目出度く返済の目途が立ったハーディンだったが、自宅マンションに帰ってみるとマイクの虐殺死体が待っていた--------。

ブロードウェイの芸能新聞社の編集者で、賭け事とアイリッシュ・ウイスキーを愛する伊達男バート・ハーディンが、ある輸入業者の取扱った南米産の骨董品壺を巡る殺人事件に巻き込まれる、シリーズの第2作。
ギャングのボス、酒場のバーテン、ショー・ビジネスの人々など、ブロードウェイに生きる登場人物たちが、どこかデイモン・ラニアンの短編小説の人々を髣髴とさせ、魅力的に描かれているのは前作同様です。ただ、今回は謎解きの要素は希薄で、どちらかというとハードボイルドが入ったクライム・ノヴェルに近い。亡き親友マイクの妻ドロシーとハーディンとのラストのやり取りなどは、名作ハードボイルドに匹敵するような印象に残るシーンですが、現在の視点でみるとプロットが凡庸で途中で真相が割れてしまっているのが残念なところです。


No.2061 6点 幽鬼伝
都筑道夫
(2014/03/08 18:01登録)
捕物帳スタイルの連作伝奇時代小説。岡っ引き、もと同心の隠居老人、霊感をもつ盲目の少女という主人公格の3人が、天草四郎の末裔と名乗る妖術師が仕掛ける様々な怪異事件と対峙する-------。

各編とも、当時の江戸風俗・情景と季節感にあふれ、江戸情緒に浸れる描写は「なめくじ長屋捕物さわぎ」同様で、このあたりは作者の真骨頂といえます。
首にかけた鉄製の数珠を武器とする岡っ引き”念仏の弥八”が事件を隠居所に持ち込み、もと同心の稲生外記と同居の妾・涙(るい)が、頭脳と霊感予知力で手助けをするのがフォーマットで、地蔵の頭の代わりの生首や、密室状況の風呂場の惨殺死体などの発端の怪異や不可能現象も「なめくじ長屋」シリーズを思わせる部分があるのですが、なにせ本書は”伝奇小説”、合理的な解釈は期待できませんw 最終話では、死体を操る妖術が乱舞するモンスター・ホラーの様相を呈します。
謎解きの面白さはないですが、伝奇時代小説の異色作として楽しめました。


No.2060 6点 機械探偵クリク・ロボット
カミ
(2014/03/06 20:54登録)
古代ギリシャの天才発明家の直系子孫であるアルキメデス博士と、彼が発明した機械仕掛けのアナログ・ロボット”クリク”とのコンビによる推理・冒険譚の中編2編収録。文庫版には特別付録としてショートコントが2題付加されています。
フランス風のとぼけたギャグと、数ページ毎に出てくる素朴な挿絵で、思わず口元が緩むユーモア・ミステリ。クリクが口から出す暗号文の推理回答や数々のダジャレが、日本語でも意味が通じるように意訳・改変された内容になっており、この翻訳者の仕事ぶりがお見事です。

「五つの館の謎」は、フーダニット&ハウダニットを問う謎解きモノの本格ミステリ風で、連続盗難事件、銃声、凶器のナイフという3つの伏線をつなげた真相が鮮やか。
「パンテオンの誘拐事件」は、フランスの偉人が眠る霊廟を舞台にした冒険スリラー風。地下墓地(カタコンベ)の細部描写も堂に入っており、ドタバタ劇で使用するのはもったいないぐらいwの魅力的な設定がいい。
ともに、ハチャメチャな展開のように見えて、最後はキッチリ収束させており、お笑いだけのミステリでないことに感心しました。


No.2059 6点 本棚探偵の冒険
評論・エッセイ
(2014/03/04 21:16登録)
漫画家にして古本蒐集家で知られる喜国雅彦氏による、古本を巡るディープで笑えるエピソードを綴った騒動記。「読むための購入」から「蒐集のための購入」に、いつのまにか手段が目的に変わってしまった、ある古本マニアの悲しくも滑稽な物語w

ミステリ本蒐集にハマるきっかけとなった乱歩邸訪問では同行の京極夏彦、山口雅也両氏、当初の古本蒐集の先生である二階堂黎人氏、喜国さんに書庫の整理を依頼する我孫子武丸氏など、ミステリ作家たちとの交際でのやり取りが、それぞれ人柄が現れていて楽しい。
奇行エピソードでは、古書店を回って一日でポケミスを何冊見つけられるかという「ポケミス・マラソン」の一部始終が笑える。
ミステリ本の内容そのものにはあまり触れておらず、しかも対象が乱歩、横溝など国内古典寄りの話題が多く海外ミステリが少ないのは残念ですが、それでも本編や巻末のマニア座談会で出てきた、輪堂寺耀「十二人の抹殺者」、大阪圭吉「死の快走船」、大河内常平「九十九本の妖刀」などの稀覯本が続々と復刊されようとしている現状は喜ばしい限りです。(マニアは逆に困るのか?)
本書が好事家に好評だったためか、続編で「本棚探偵の回想」「~の帰還」が出ており、来月には「~最後の挨拶」も出る予定とのこと。そのうち読んでみたい。


No.2058 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅴ〉
エドワード・D・ホック
(2014/03/04 18:38登録)
悪魔と超常現象の探求者、オカルト探偵サイモン・アークものの第5短編集。前巻につづいて翻訳者・木村二郎氏によるセレクト集になっています。

怪奇趣向を前面に出したパズラーというのが本シリーズの特徴ながら、そういった要素が弱まっているものが散見され(なかにはアークが探偵事務所を開いているものまであり)、探偵のミステリアスさ・独自性が失われている作品が多かったのは残念なところ。他の探偵キャラクターでも違和感のない事件が多かった気がする。また、当シリーズは、サム医師ものと違って、シリーズとしての連続性が配慮されていないのも不満なところです。
個々の収録作の中で印象に残ったのは、施錠された礼拝堂内の殺人を扱い構成にも仕掛けがある「怖がらせの鈴」、前半冗長なところがあるも読みごたえ十分のフーダニットもの中編「炙り殺された男の復讐」、顔のない死体テーマにヒネリがある「海から戻ってきたミイラ」の3作品です。
まだまだ未訳作品があるも本書でサイモン・アークものは終了らしい。つぎはレオポルド警部シリーズの訳出を期待したい。


No.2057 6点 ビブリア古書堂の事件手帖5
三上延
(2014/03/02 20:43登録)
人気ビブリオ・ミステリの第5弾。古書店主・篠川栞子と大輔の関係進展に、裏で古書の謎を演出する母・篠川智恵子の暗躍を絡ませた、3つの”日常の謎”の物語が収録されています。

第1話「彷書月刊」は、古書に関する専門誌を売却のため持ち込んでは買い戻す不思議な老婦人の謎。意外な人物との関係が明らかになるが、それまでのミスディレクションが巧み。
第2話「手塚治虫『ブラック・ジャック』」は、コミック本の稀覯巻を巡るある男性の理不尽な行動の謎。新刊書店でも古書店でもない”書房”はたしかに現代では盲点かも。真相には涙腺を刺激された。
第3話「寺山修司『われに五月を』」は、謎解きとしてはやや平凡ですが、タイトルを本書の主題にリンクさせている点で秀逸。
個々の話は、ミステリ趣向的にマンネリを感じなくもありませんが、プロローグに(中町信もどきのw)ちょっとした仕掛けがあったりで楽しめました。


No.2056 6点 猫とねずみ
クリスチアナ・ブランド
(2014/02/28 20:26登録)
雑誌社「乙女の友」で人生相談コーナーを受け持つ女性記者カティンカは、常連投稿者アミスタからの結婚を知らせる手紙を見て喜ぶ。ところが、休暇で故郷の村に帰ったカティンカが、アミスタが暮らす山深い館を訪ねると、「そんな女はいない」と誰もが口をそろえて告げるのだった-------。

発売中の「ミステリマガジン」4月号の特集は”乙女ミステリのススメ”で、小泉喜美子の短編やクレイグ・ライスのエッセイに並んで、「猫とねずみ」をテキストにした解説が掲載されている。”乙女ミステリ”とは、サスペンスにしろコージーにしろ、ゴシック小説にしろ、女性を主人公にしロマンスを重要な要素としたミステリということだろうと思う。
本書の基本構成は”ゴシック&ロマンス”ですが、「アミスタという女性はいったい誰で、どこにいるのか?」という謎が終始物語を引っ張ります。ゴシック・ミステリとしての隠された構図は割とありがちですが、アミスタの正体を巡って四転五転する多重推理的な展開はよく出来ていて、読者を引きずり回す技巧はやはりブランドらしいです。
また、ラストで明らかになるある女性の想いと行動は胸を打ちます。なるほど、だから”乙女ミステリ”かと思い至る真相です。


No.2055 5点 暗闇の殺意
中町信
(2014/02/26 18:45登録)
トリッキーな本格ミステリ7編収録の短編集。まさか光文社文庫から出るとは思わなかったが、創元推理文庫の「~の殺意」シリーズのプチ・ブームに便乗した企画なのか。

プロローグでの騙りによるミスリード、ダイイングメッセージ、密室状況の殺人など、短編にもかかわらず、どの作品も長編とまったく同じスタイルを貫いているのは好感が持てる。ただ、青樹社版短編集「Sの悲劇」の収録作との重複が7作中3作も含まれているのは残念なところ(よって、編成に1点減点)。
個別に見ていくと、既読の「裸の密室」「動く密室」を超えるものが見当たらなかったが、ラストに構図を反転させた安楽死テーマの「濁った殺意」と、小品ながら騙りがスマートなアリバイもの「手を振る女」がとくに印象に残った。
作者の短編はそう多くないが、もう1冊分ぐらいは残っているはず。ぜひ第2弾も出してもらいたい。


No.2054 7点 ヘッドハンターズ
ジョー・ネスボ
(2014/02/24 21:16登録)
やり手のヘッドハンターとして人材紹介会社に勤めるロジャーは、美しい妻の画廊経営などで多額の赤字を抱えていたため、裏で絵画の窃盗という副業に手を染めていた。そこに現れたのが、完ぺきな転職条件を備えたエリート男で、しかも彼はルーベンスの幻の名画を所持しているという-------。

オスロ警察のハリー・ホーレ警部シリーズで知られるノルウェーの人気作家、ジョー・ネスボの(現在のところ)唯一の単発作品。
名画を巡るクライム・ノヴェル風の序盤から、エリート男の正体が明らかになってからは、予想外の展開が怒涛のごとく続く「巻き込まれ型のサスペンス」になっている。主人公が最初は自信家のイヤな男として描かれているので、感情移入は難しく、逆にロジャーが”ドツボにはまる”場面は、ブラック・ユーモアさえ漂っている。
窮地を脱するためのロジャーの数々のアイデアが面白いし、最後にはディーヴァーもどきのどんでん返しまで仕掛けられていたのには驚いた。ただ、確かにその部分を読み直してみても虚偽の記述はないように思えるものの、ちょっとあざとい感じを受けます。


No.2053 6点 殺人リハーサル
梶龍雄
(2014/02/22 18:28登録)
雑誌記者で人気芸能レポーターの栗田は、演歌歌手の川村鳥江から、過去に捏造記事でネタにした因縁のある前科者の男から脅迫されていると相談を受ける。そして、鳥江は自宅とナイトクラブの楽屋で二度にわたって不可解な状況で襲撃され、三度目はついに死体で発見される-------。

最初期の青春ミステリとはガラリと趣を変えた、芸能界を背景とした本格ミステリで、やや通俗的な雰囲気はあるものの、そこは梶龍雄のこと、細かに張られた伏線と二段構えの解決で、最後には見事に構図の逆転を見せてくれる。
確かに、いくつかのトリックは実行可能性という点で疑問符がつくものの、それを逆手にとって、想定外の偶発的事由が事件をより複雑化・混迷させているところが巧妙で、皮肉な真相につながっています。
傑作とはいえないですが、作者の現代もののなかでは佳作と言えるのではと思います。


No.2052 5点 友情ある殺人
ロバート・L・フィッシュ
(2014/02/20 20:33登録)
人類愛財団から高額の賞金を受け取った老ミステリ作家三人組が楽しい船旅を終えイギリスに帰ってくる-----そんな新聞記事を読んだ小悪党コンビは、その一人を誘拐する計画を立てる。老作家たちが株の暴落で一文無しになっていることを知らずに。

”殺人同盟”シリーズの3作目。法廷ミステリ、船上ミステリに続いて、今回は誘拐をテーマにしたクライム・コメディになっている。
誘拐された側が逆に主導権を握ったり、立場を逆転させることでスラップスティックな笑いを誘うのが、このタイプの定番の趣向で、誘拐犯の片割れでお人好しのハロルドを利用した他愛無い策略が可笑しい。例によって弁護士のパーシヴァル卿が絡んでくる後半は一種のコンゲーム的な面白さが加わる。ただ、言葉のパロディ部分など非英語圏の読者にはいまいち面白さが伝わりにくい側面もありますが(この難点は、シュロック・ホームズものと共通する)。
なお解説に、同趣向の誘拐コメディ作品として、「リリアンと悪党ども」「ジミー・ザ・キッド」「赤ちゃんはプロフェッショナル」「ドーヴァー⑧人質」「大誘拐」が挙げられているが、本書を含め出版がほとんど70年代後半に集中しているのが興味深かった。


No.2051 6点 贖罪の奏鳴曲
中山七里
(2014/02/18 22:56登録)
多額の報酬を要求することで悪名高い弁護士・御子柴は、ある保険金殺人事件の上告審を引き継いだが、過去を知られたフリーライターに強請られ、深夜にライターの死体を入間川に遺棄する-------。

中学生の時に理由なく幼女を惨殺し、医療少年院に収監されていた過去を持つ、御子柴の特異な人物造形が一つの読ませどころ。名前を変え弁護士となり、保険金殺人を巡る法廷劇では主人公として事件の隠された構図を暴くという構成がユニークで、いわばダーク・ヒーローもののリーガル・サスペンスとなっている。
また、強請屋のライター殺しを担当し、御子柴に容疑をかけるのが、「カエル男」事件以来の再登場である埼玉県警の渡瀬&小手川の刑事コンビで、切れ者の渡瀬警部と御子柴の対決もスリリングです。
ただ、贖罪というテーマは明確に伝わってくるものの、二つの事件を並行して描きつつ、かなり色々な要素を詰め込み過ぎている感があるので、焦点がややボヤケてしまっているようにも思う。


No.2050 9点 裏切りの街
ポール・ケイン
(2014/02/16 22:33登録)
東部からロサンジェルスにやってきた流れ者のジェリー・ケルズは、ある組織のボスから賭博船の用心棒にと頼まれる。しかし一匹狼を貫くケルズは断り、やがて政界とつながる組織間の陰謀と抗争劇に巻き込まれることになる-------。

レイモンド・チャンドラーが”超ハードボイルド”と評した幻の古典クライム・ノヴェル。ダシール・ハメットのブレイクに少し遅れて同じ「ブラックマスク」誌に掲載された作者のデヴュー作品で、唯一の長編でもある。
”ギャング・エイジ”と呼ばれる不況と混乱の’30年代のロスを舞台に、主人公ケルズが複数のシンジケートを相手に、ハードかつしたたかに戦い、翻弄する様を描く。
本書でまず一番に感心したのはプロットの完成度の高さ。物語が進むにつれ次々と新しい人物が登場するが、混乱せずストーリーを楽しめる。賭博船やボクシングの試合会場、離島にある大組織のボスの隠れ家など、印象に残るシーンも多く、ストーリーが起伏に富んで面白く読めた。ラストも冷徹ながら感動的。
書かれた時代を考慮にいれれば、ハードボイルド小説の隠れた名作といえるのではないかと思う。


No.2049 6点 前夜祭
連城三紀彦
(2014/02/14 18:45登録)
浮気(不倫)という共通したモチーフを用いて、夫婦、親子、嫁姑、本妻と愛人、上司と部下など、様々な人間模様を描く短編集。内容紹介文には正面切って”ミステリ”とは謳っていませんが、8編いずれもが表面上の人間模様が、結末でガラリと別の模様に変転する騙し絵ミステリです。

本妻と夫の愛人の心理劇と、入院中の母と娘の会話という2組4人の女性の物語が、ラストで思わぬ結合を見せる「それぞれの女が....」は、騙りの技巧という点では編中のベスト。また、本作ではカットバックでめまぐるしく視点を変える手法に、ちょっとした実験的な試みがなされています。
ほかにも、息子の結婚を反対する父親の秘密「薄紅の糸」、浮気がばれ妻に去られた主人公が知る意外な事実「普通の女」など、いずれも強引ともいえる仕掛けで構図が反転するという連城マジックは健在です。


No.2048 6点 パッチワーク・ガール
ラリー・ニーヴン
(2014/02/12 18:39登録)
地球・月・小惑星帯の政府代表者が会議で集まる月面都市内の部屋で、代表の一人が展望窓の外からレーザー光線で狙撃される。国連警察のハミルトンが捜査に乗り出すが、現場は密室状況で、唯一の容疑者は彼の昔の恋人だった--------。

「リングワールド」などで知られる人類の未来史を描いた”ノウンスペース”シリーズの一編。本来このシリーズはハードSFですが、ギル・ハミルトン捜査官が登場する本書と中編集「不完全な死体」は、不可能犯罪などハウダニットを主軸としたSFミステリになっているようです。シリーズもの特有の名称が説明なしに出てくるので最初は戸惑いましたが、慣れれば問題ないです。
近未来SFのわりには、不可能トリックは古典的なものですが、月面という設定が小道具をより効果的なものにしているのが巧いです。また、ダイイングメッセージはアルファベットながら、日本人読者でもある程度見当がつけられる内容で、なかなかよく出来ていると思います。難点は、犯人を特定する手がかりが決定的なものではなく、フーダニットとしては不十分なところです。


No.2047 6点 黒いヒマラヤ
陳舜臣
(2014/02/10 18:56登録)
ヒマラヤ学術調査団の一員でカメラマンの長谷川は、死期を迎えたチベットの高僧からある物を委託されるが、車で崖から転落死する。カルカッタから帰国途上で現地に寄った毛利は、旧友の死に疑問を抱き調査を始めるが、彼も何者かに襲われる--------。

インド最北東部、チベットとの国境の町を舞台に、ダライ・ラマの側近の高僧が遺した秘宝を巡る連続殺人を扱った異色の本格ミステリになっています。
この架空の町”カムドン”の情景描写が現実感に溢れていて秀逸。インド人、ネパール、中国系、日本人医師など雑多な人種の吹き溜まりのような辺境の地で、複数の欲望が交錯する人間ドラマは作者の真骨頂です。題材から通俗冒険スリラーのような展開になっていますが、いくつものさりげない伏線が終盤に次々と回収される構成は緻密で、アリバイを巡る重層的な推理過程もよく考えられていると思います。
ただ、真犯人の設定に意外性があるものの、最後は犯罪小説のような結末になっているのがやや不満な点です。


No.2046 6点 これ誘拐だよね?
カール・ハイアセン
(2014/02/08 22:20登録)
アイドル歌手のチェリー・パイはドラッグとセックスまみれのお騒がせセレブ。そのスキャンダルをマスコミから隠すため、チェリーの替え玉として雇われていたアンだが、熱狂的なパパラッチに人違いで拉致されてしまう--------。
トニー・ケンリックやウェストレイク亡きあと、スラップスティックなお笑いクライム小説の書き手としてカルト的人気のハイアセンの”怪人スキンク”シリーズ最新作。
ハイアセンの作品の特徴は、登場人物たちの濃すぎるキャラで、奇人変人怪人が入り乱れてドタバタ騒動を演出する。
本書では、もとフロリダ州知事の世捨て人で、マングローブが生え茂る湿地帯に暮らすシリーズキャラクターの”スキンク”と、「顔を返せ」で登場した元殺し屋でチェリー・パイのボディガード”ケモ”という、2人の怪人の初顔合わせが見どころかな。
悪徳不動産屋のパンツの中にウニを入れ睾丸をフットボール大にしてしまうスキンクもたいがいだけど、前作で片腕を失くし義手の代わりに電動草刈り機を装着しているケモのぶっ飛び振りもすごい。とくにチェリーのギャル語を矯正する手段が爆笑もの。
かなりクセがあり読者を選ぶ作風ですが、ハマればシリーズを通読したくなること間違いなしの面白さです。


No.2045 6点 不必要な犯罪
狩久
(2014/02/04 18:48登録)
美術大学講師で画家の中杉が女子学生・杏子をモデルに描いた裸婦画がアトリエから消える。一週間後、戻されたその絵画には精密な恥部が書き加えられていた。やがて、海辺のボート小屋で杏子の変死体が発見され、姉の葉子も何者かに襲われる-------。
狩久の生前出版された唯一の長編ミステリ。
”肉体の貪婪”葉子と”精神の貪婪”杏子。容貌は似ているものの対照的な二人の姉妹をめぐる愛憎劇が、妖しく官能的な描写で綴られています。動機はやや観念的なのですが、この作品世界ならアリかなと思います。
メイントリックも逆説的なロジックが効果的で作者らしいです。ただ、取り巻きの男たちの何人かはいかにも脇役という感じがするので、事件の秘められた構図はなんとなく途中で分かってしまうのではと思います。

泡坂妻夫のからくり本「生者と死者」が復刊でちょっと話題になっていますが、それで連想したのが幻影城ノベルスの本書でした。こちらは単にアンカット・フランス装というだけで、カラクリがあるわけではないですが、アンカット本を裸婦画もしくは女性になぞらえると本書のテーマとダブってくるような気もw


No.2044 6点 すばらしき罠
ウイリアム・ピアスン
(2014/02/02 20:24登録)
フリー雑誌記者の”私”ヴァンスは、30日間姿を消し逃げ延びるという企画を雑誌社に出し自ら実行する。しかし、成功報酬をもらうため街に戻ってきたヴァンスを待っていたのは、銀行の大金横領と殺人の容疑だった-------。

ポケミスの裏表紙の内容紹介には、”ウールリッチ風の趣向とムード”とありますが、アリバイを証明できず殺人の容疑者になるというプロットは確かに「幻の女」などを思わせるものの、抒情的な雰囲気や強烈なサスペンスはなく、軽妙でテンポのいい「私」の語りや、美女と簡単にいい関係になる展開は軽ハードボイルド風です。
多少都合がよすぎるところもありますが、絶体絶命の状態から、次々と機転を利かせて事件の黒幕を追い詰めていくヴァンスの手際が面白いです。主人公の行動描写が先で、その行動理由が遅れて説明されるので、後付けでナルホドとなりますが。

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