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ミステリの祭典

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文生さんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:500件

プロフィール| 書評

No.240 6点 野球が好きすぎて
東川篤哉
(2021/10/06 12:15登録)
本格ミステリとしては小粒ですが、野球ネタが満載で野球好きな人には堪らない作品です。また、登場人物も探偵・犯人・証人・被害者と、ヒロインの女刑事を除く登場人物のほとんどが野球狂なのでしゃべるたびにいちいち野球を引き合いに出してくるのが楽しい。特に、捜査そっちのけですぐに野球でマウントをとろうとするヒロインの父親&上司のキャラが秀逸です。


No.239 7点 密室は御手の中
犬飼ねこそぎ
(2021/10/06 11:25登録)
いまどき珍しく、特殊設定や叙述トリックに頼ることなく密室殺人に真正面から挑んだ作品です。2件の密室殺人と100年前の人間消失がありますが、白眉なのは第1の密室殺人でかなりユニークな密室トリックが用いられています。また、第2の密室殺人はトリックこそ小粒なものの、真相が暴かれるまでに二転三転して手に汗握ります。それ以外にも、全編を通していくつもの仮説が飛び交ってまるで推理合戦の様相を示しており、パズラー好きの人にとってはたまらない作りです。

なお、動機に説得力がないというか、ほとんど意味不明だという問題がありますが、その辺は推理には関係ないのでスルーすることをおすすめします。


No.238 5点 愛国殺人
アガサ・クリスティー
(2021/10/06 09:50登録)
歯科医院を舞台にした殺人はなかなかユニークですし、複数の小粒なトリックを上手く活用した仕掛けもクリスティらしくて悪くないのだけど、なぜかのれない作品でした。やはり、クリスティのミステリーに政治的なテーマはそぐわないということでしょうか?機会があれば再読に挑戦してみたい作品です。


No.237 6点 運命の証人
D・M・ディヴァイン
(2021/09/29 08:21登録)
若手弁護士が2件の殺人容疑で逮捕された事件についての裁判の行方が描かれる一方で、過去に何があったのかをカットバック方式で挿入していく構成が秀逸です。読者にとっては2件の殺人があったことは理解できるものの、誰が殺されたかは不明なので緊迫感のある展開を楽しむことができます。また、さりげなく伏線を張り巡らせて最後に回収する手管も見事です。

ただ、これといったトリックや仕掛け、あるいはびっくりするようなどんでん返しといったものは皆無なので、本格としてはいささか小粒に感じます。それから、奥手のくせに間の悪いタイミングで女性に手を出しては窮地に追い込まれる主人公には若干イライラ。


No.236 4点 魔の山
ジェフリー・ディーヴァー
(2021/09/28 06:21登録)
懸賞金ハンターであるコルター・ショウの活躍を描いたシリーズ第2弾。
今回の話は、追いつめた犯人に目の前で投身自殺を図られ、しかも、彼にかけられていた容疑が冤罪だったことから責任を感じたショウが事件の背後にあるカルト教団に潜入し、その実態を暴いていくというもの。

大御所の筆力でそれなりに読ませるものの、中身はどこかで聞いたことのあるようなカルト教団暴露エピソードの寄せ集めといった感じで新鮮味はなし。
ミステリーとしても特にヒネリはなく、いささか期待外れ。



No.235 8点 読者よ欺かるるなかれ
カーター・ディクスン
(2021/09/27 21:34登録)
従来の不可能犯罪とは異なり、死因不明の殺人という設定が当時としては斬新。
そのうえ、挑戦的なタイトルも本格好きにとってはぐっとくるものがあります。
メインとなるトリックは単純なものですが、ミスディレクションの技巧によって読者をミスリードしていく手管が見事です。
おまけに、予言や念力といったガジェットが話を盛り上げてくれます。
同時期の有名作に隠れがちですが、個人的にはかなり好きな作品です。


No.234 3点 盲目の理髪師
ジョン・ディクスン・カー
(2021/09/27 21:17登録)
ドタバタ劇にまったく面白味を感じられず、読むのが苦痛に感じました。
そのうえ、真相もパッとしなくてがっかり。
個人的には30年代カーのワースト作品です。


No.233 5点 白と黒
横溝正史
(2021/09/27 20:58登録)
社会派ミステリ全盛の時代に発表された作品で、その影響か舞台は古い因習が残る田舎の農村でも大富豪の屋敷でもなく、集合団地という金田一シリーズとしてはかなり珍しい作品になっています。

そうした現代的な舞台でコールタール漬けの死体が発見されたり、どんぐりころころの歌詞になぞらえた童謡殺人が起きたりするのはそれはそれで目新しい感じがして悪くありません。

ただ、話が長い割に著者の代表作と比べると盛り上がりに欠け、ミステリーとしても特筆すべき点がないので満足度は低め。


No.232 7点 心理試験
江戸川乱歩
(2021/09/24 19:18登録)
いまとなっては少々単純すぎるきらいはあるものの、切れ味鋭い明智小五郎の分析にはやはり引き込まれます。同じ心理分析でもヴァン・ダインが2年後に発表する『カナリア殺人事件』とは説得力が段違いです。この手のジャンルの最高峰の一つだといえます。


No.231 8点 楽園とは探偵の不在なり
斜線堂有紀
(2021/09/23 18:00登録)
何をもって人を殺したと判断するかという定義が曖昧など、本格ミステリとしては粗いところはありますが、2人殺すと天使によって地獄に引きずり込まれるという終末感あふれる世界観には大いに引き込まれていきました。また、そうした特殊設定を利用したトリックもなかなかにユニークです。個人的には元ネタのSF小説『地獄とは神の不在なり』よりも面白かったです。ただ、癖が強い作品なので人によって好みが大きく分かれそうではあります。


No.230 6点 化身
宮ノ川顕
(2021/09/22 12:24登録)
全3話収録の中編集。

都会の喧騒の逃れて南の島を訪れた男が、密林で四方を崖に囲まれた池に落ちる表題作は抜群の面白さです。奇想に次ぐ奇想でぐいぐいと引き込まれていきました。さすがは日本ホラー小説大賞で大賞を受賞作しただけのことはあります。ただ、プロセスの面白さに対して、オチが少々凡庸なのが残念です。

他の2篇は表題作に比べると凡作に思えます。表題作8点、他2篇が5点で平均6点の評価です。


No.229 6点 見知らぬ人
エリー・グリフィス
(2021/09/18 19:21登録)
本作は本格というより、サスペンスに近い作品です。
したがって、「この犯人は絶対に見抜けない!」という帯の煽り文に釣られて読むと失望することなります。
犯人は意外といえば意外ですが、真相を隠蔽するような仕掛けやあっと驚くどんでん返しの要素は皆無です。
その代わり、古いゴシックホラー小説と現代の事件がリンクし、ヒロインの日記に犯人のものらしき書き込みが次々と見つかっていくといったサスペンス展開はよくできています。
MWA賞最優秀長編賞受賞もその辺が評価されてのことでしょう。
ただ、物語のスケール感に対していささか話が長いのが難といえば難。


No.228 7点 Butterfly World 最後の六日間
岡崎琢磨
(2021/09/12 09:09登録)
ハッカーからの攻撃を受けた結果、仮想空間内に存在する館及びその周辺エリアが封鎖(現実世界との行き来は可能)されたうえに連続殺人が起きるというクローズドサークル&特殊設定ミステリー。

まず、アバターが殺されるというとびきりの不可能状況が魅力的でぐいぐい引き込まれまれていきますし、そのトリックも盲点を突くもので秀逸。また、サブの仕掛けや犯人特定のロジックなども良く考えられています。

ただ、一連の事件がなぜ起きたのかというホワイダニットの部分に関しては、偶然に偶然が重なった結果であり、少々ご都合主義に感じました。


No.227 5点 透明な螺旋
東野圭吾
(2021/09/09 14:09登録)
今回は湯川自身が事件の関係者として警察にマークされ、その点も含めて事件の裏の人間関係が結構複雑なのが読みどころ。それが徐々に明らかになっていく展開には一応の面白さはあります。
しかし、警察の捜査が話の大半を占め、トリックや華麗な推理といった要素は皆無なので本格というより、警察小説を読んでいるような感じです。いつもの湯川シリーズを期待していた人は間違いなくガッカリするでしょう。


No.226 8点 花束は毒
織守きょうや
(2021/09/09 13:38登録)
「結婚をやめろ」と書かれた脅迫状に怯える元医学生の真壁。
後輩の木瀬は警察か興信所に相談することをすすめるが、なぜか彼は逡巡する。
見かねた木瀬は中学時代に従兄の窮地を救ってもらったことのある女探偵に独断で調査の依頼をする。
すると、思いがけない事実が明らかになり......。

脅迫者は誰なのかという謎で話をずっと引っ張っていき、犯人の目星がついたところで予想外の落とし穴に付き落とされます。
いやー、これは恐ろしい。
伏線がほとんどないので本格としては評価できませんが、どんでん返しが好きな人にはおすすめです。


No.225 6点 六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成
(2021/09/02 19:40登録)
最終面接に残った学生たち6名の中で誰を採用するのが相応しいかを自分たちで決めろといわれ、しかも、彼らを貶める文書が出現したことで腹の探り合いが始まるという展開は非常にサスペンスフルで引き込まれました。なんといっても、就活の面接をミステリーにするという着想が斬新です。

ただ、面接の方法があまりにも説得力に欠けています。てっきり学生たちに採用を決めさせるのは表向きの話で、なにかウラがあるのかと思っていたら、なにもなかったのには唖然としました。誰を採用するかを学生に選ばせることの是非以前に、みな自分の内定を勝ち取るために面接に来ているのだから、自分以外の誰が相応しいか話し合えといわれても建設的な議論になるはずがありません(作中では意外に真剣に議論し合っていましたが)。そのくらいのことはたとえ人事担当者が無能であってもわかりそうなものですが。

また、登場人物の印象をミスリードさせるためにやたら激昂させたり、うろたえさせたりしたのも真相が明らかになってから振り返ると不自然に感じました。発想としてはなかなか面白いと思いますし、実際かなり楽しめたことも確かです。それだけに要所要所が説得力に欠いているのが惜しまれます。


No.224 5点 連続殺人事件
ジョン・ディクスン・カー
(2021/08/31 21:56登録)
SF作家のアシモフが実現不可能なトリックだと指摘したことで有名な作品です。しかし、カーの勘違いがあったのは確かですが、必ずしも実現しえないトリックだとは個人的には思っていません。ただ、それとは別にトリック+偶然で不可能状況が成立してしまう(完全な偶然ならいいのですが作為的なトリックと偶然が混じった結果の不可能状況はご都合主義に感じてしまう)作品はあまり好きではないので点数は低めです。

なお、もう一つ別の密室トリックもでてきますが、こちらは小粒で全体の評価を押し上げるほどではありません。


No.223 5点 帽子収集狂事件
ジョン・ディクスン・カー
(2021/08/31 21:18登録)
エドガー・アラン・ポーの未発表原稿の話が出たときはワクワクしましたし、帽子収集狂の存在はミステリアスで、霧のロンドン塔での殺人もそこはかとない不気味さがあっていい感じです。しかし、それらが一体となってどんどん面白くなっていくのを期待していたのに、それぞれの要素が大して交わることもなく、えらく地味なところに着地したのにはガッカリしました。

メインの事件のトリックもそれなりによくできてはいるものの、乱歩のいう「密室以上の不可能トリック」と呼べるようなものではありません。魅力的な要素は多々あるものの、全体としては凡作の域を出ない作品です。


No.222 6点 ジャッカルの日
フレデリック・フォーサイス
(2021/08/30 12:49登録)
まるで劇画に登場するような凄腕の殺し屋・ジャッカルが魅力的で読んでいてワクワクしたのですが、史実を舞台にしたためにあえなく暗殺失敗の憂き目にあってしまう点にアンバランスさを感じてしまいました。

傑作であることに間違いはないものの、個人的にはもやもやとした読後感を拭えません。できれば疑似ドキュメントではなく、完全フィクションでの活躍を見たかったところです。


No.221 6点 真珠郎
横溝正史
(2021/08/30 11:45登録)
顔のない死体ものの新機軸に挑戦した意欲作ですが、いまとなってはさほど驚くような仕掛けではありません。それでもよく考えられていることには違いありませんし、著者ならではのおどろおどろしい物語は読み応えありです。やはり、戦前の横溝正史を代表する作品というだけのことはあります。

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