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ミステリの祭典

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密室は御手の中

作家 犬飼ねこそぎ
出版日2021年07月
平均点6.71点
書評数7人

No.7 7点 nukkam
(2024/10/29 22:50登録)
(ネタバレなしです) 学生時代に40編以上の短編作品を書いていた犬飼ねこそぎ(1992年生まれ)が2021年に発表したデビュー作の本格派推理小説です。「すごいトリックとすごいロジックを軸に味付けすれば、すごい本格ミステリが書けるはずだ」と作者がコメントしているだけあってアイデアは確かにすごいです。特に密室内のバラバラ死体という鮎川哲也の名作短編「赤い密室」(1954年)を連想させる第1の事件のトリックには驚きました。またどんでん返しの謎解きが梶龍雄の某作品を彷彿させる推理合戦にまで発展する展開にも力が入っています。説明が空回りしたような部分があるし、人物描写は全く印象に残らないし、猟奇的殺人のグロテスク描写を抑えたのは個人的には好ましいながらも雰囲気演出はインパクトが弱いとか気になるところもありますが、作者の意欲は十分に感じられました。

No.6 8点 メルカトル
(2023/03/05 22:49登録)
事故によって弱体化した新興宗教『こころの宇宙』。瞑想中の修験者が密室をすりぬけ、山中で発見されたという逸話が数少ない拠り所だった。新たな密室殺人が起きるまでは――。第一期デビューの阿津川辰海のブレイクで注目を集める新人発掘プロジェクトKappa-Two、その第二期デビュー作。大胆なトリックと偽名の探偵の推理力に瞠目せよ!
Amazon内容紹介より。

Amazonでは賛否両論あるようですが、私は全面的に本作を支持します。まず、山奥にある新興宗教の拠点が舞台であるものの、そこまで狂信的とかではないので物語が安定しています。そして教団代表の少年がなかなか魅力的で、自ら探偵役を買って出て、女名探偵との実質的な対決の構図が見えてきます。これだけでも心躍るものがあり個人的にかなり好みの範疇に収まる事に。
そして丁度良いタイミングで起こる密室バラバラ殺人事件。更にテンポよく次の事件へと移行していき、その間に二人の探偵が活躍するという、絵に描いたような新本格ミステリのスタイルと言えそうです。

密室トリックは、これがなかなか難しくて捉え方が色々あると思います、過去にあったトリックのバリエーションと言えなくもないですが、私にとっては斬新だと感じられました。
ロジックも申し分なく伏線を回収していますし、動機の点でも評価に値するものだと思います。そして、二転三転する怒涛の展開や多重推理には心奪われました、何度も心中でアッと言わされたり思わずニヤリとさせられたりと、そりゃあもう心酔でしたよ。

No.5 7点 パメル
(2023/02/15 07:55登録)
山奥深くにある宗教団体「こころの宇宙」の総本山、心在院と強大な岩石の内部にある瞑想室、掌室堂が物語の主要な場となる。密室殺人に重きを置いた不可能犯罪もので、宗教施設という狭い中で発生した、ある意味クローズド・サークルが舞台となっている。建物の構造はそれほど複雑ではないが、見取り図がついていて嬉しい。
掌室堂では、百年前に修行者が消失したという言い伝えがあった。団体の取材に訪れた探偵・安威和音だが、その矢先に掌室堂の中で信者の女性が、バラバラ死体となって発見される。代表の密は、和音に協力して事件を解決することを持ち掛けるが、その条件は和音が密の助手になることだった。二人は協力関係を築くものの、さらに殺人事件が連続する。
利用するトリックは、インパクトに溢れたものであり真相解明の場面で、正統的な不可能犯罪ものを読んだという充実感を得られる。トリックだけでなく、謎の解明に至るまで繰り返される論理の応酬で真相が二転三転していくところが素晴らしく、宗教団体の内部の論理が絡むことで独自性を生み出している。「神」の存在を意識させる論理が、宗教施設という舞台と親和性が高いし、神に赦しを乞う姿勢が犯人だけでなく探偵にも及んだ末に名探偵としての在り方にまで物語が言及されるところに感心させられる。デビュー作としての完成度は申し分ない。

No.4 5点 suzuka
(2022/10/14 21:45登録)
タイトル通りの密室ものですが、本作の密室トリックは他に例を見ないのではないでしょうか(私が知らないだけだったらすいません)
新興宗教の設定は、舞台設定としては機能しているものの、それ以上の意味が薄く、設定として必要以上に大げさすぎると感じました。

No.3 7点 人並由真
(2021/11/21 05:27登録)
(ネタバレなし)
 さる人物から依頼を受けた27歳の女性探偵、安威和音(あい わおん)は、新興宗教「こころの宇宙」の総本山「心在院」がある深山の奥に向かう。そこでは、まだ14歳の少年にして二代目教祖である神室密(かみむろ ひそむ)を中核に十人に満たない「意徒(いと・信者と同意)」が共同生活を送っていた。だがこの地には百年前、密室状況の空間から修行中の修験者が突如として姿を消し、やがて離れた場所に出現したという怪事があった。そして現在、今度は怪異な状況の密室殺人事件が生じて。

 コテコテ、王道の新本格パズラーで、謎の密室殺人がメインストリームという嬉しくなる直球の一冊。
 個人的には終盤の二転三転にも楽しませてもらったし、真犯人のぶっとんだ動機も、まあ大振りをしてみたかった作者の気持ちもわかるような感じはある(結果は大ファールの手ごたえだが)。

 しかし第一の殺人の密室トリックは、数年前に似たような発想の新本格パズラーを読んだような……(あまり評判にならなかった作品だった? から、見過ごされたかな)。
 かたや第二の密室トリックは、やはり某旧作のバリエーションという印象だが、なかなか細かく組み立ててはある。作中のリアルとしてはかなり犯人にとってリスキーではあるが、それは当人が自覚してるので、文句には当たらない。真相を説明する叙述としては、これでいいよね。
 
 あー、口がムズムズするところはいっぱいあるな。
 ネタバレを警戒する向きは、早く読んじゃうことをオススメ。
 力を込めすぎたいびつな箇所は多かれど、力作だとは言っていいんじゃないだろうか。ああ、また口がムズムズ……。

No.2 7点 文生
(2021/10/06 11:25登録)
いまどき珍しく、特殊設定や叙述トリックに頼ることなく密室殺人に真正面から挑んだ作品です。2件の密室殺人と100年前の人間消失がありますが、白眉なのは第1の密室殺人でかなりユニークな密室トリックが用いられています。また、第2の密室殺人はトリックこそ小粒なものの、真相が暴かれるまでに二転三転して手に汗握ります。それ以外にも、全編を通していくつもの仮説が飛び交ってまるで推理合戦の様相を示しており、パズラー好きの人にとってはたまらない作りです。

なお、動機に説得力がないというか、ほとんど意味不明だという問題がありますが、その辺は推理には関係ないのでスルーすることをおすすめします。

No.1 6点 じきる
(2021/09/26 04:00登録)
トリック・ロジック共によく練り込まれており、ミステリ部分の出来栄えには満足出来ました。
ギクシャクしたストーリー運びが玉に瑕か。最近流行り(?)の名探偵の苦悩も、中途半端に取ってつけたような印象を受けました。

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