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ミステリの祭典

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ZAtoさんの登録情報
平均点:6.55点 書評数:109件

プロフィール| 書評

No.69 8点 世界の終わり、あるいは始まり
歌野晶午
(2009/11/02 23:06登録)
ここまで「当事者」であることのどうしようもない重みで圧倒させる小説も珍しい。


No.68 5点 誰彼
法月綸太郎
(2009/11/02 23:03登録)
根幹は明快なのだが、もう枝がしつこいくらいに八方に張り巡らされて、それを掻き分けながらページをめくっていくのが楽しくもあり、しんどくもある。


No.67 6点 上野谷中殺人事件
内田康夫
(2009/11/02 23:01登録)
事件そのものは例によって浅見光彦の登場で割とあっさりとカタがつき、
ミステリー小説に相応しい謎もトリックも殆ど見出すことなくエピローグを迎えるという、
いつものペースではあるのだが、新幹線の乗入れ問題や駅再開発のニュースを目ざとく題材にしながら、終戦間際の上野駅周辺での抗争という上野裏面史を掘り下げて物語の骨子にしてしまう技術は巧みであり、何よりも、こうして上野駅について一時でも郷愁に浸らせて長々と思い出話を綴らせる力は健在。
作者得意の「旅情」の術中にはめられた読後感となった。


No.66 6点 探偵ガリレオ
東野圭吾
(2009/11/02 22:57登録)
「ヘリウム・ネオン・レーザー」「電気エネルギーによる衝撃波」「超音波加工機」「水とナトリウムによる爆発」「液体窒素がもたらす光の屈折による蜃気楼現象」など、専門的な知識がなければ絶対に解き明かすことは出来ないものばかり。
天才物理学者・湯川学は謎の解答を懇切丁寧に実験つきで講義してくるのだが、説明されてもまるでチンプンカンプン。
ひとつの話が終わるたびに「へえ~」と他人事のように関心するばかりだった。


No.65 7点 四日間の奇蹟
朝倉卓弥
(2009/11/02 22:53登録)
もちろん人によって感じ方は様々であっていい。
真理子に降りかかった悲劇に同情し、慟哭に耳を傾けて彼女の短い一生に思い入れながら読むのも正解。
それほどスリッパをパタパタさせて物語に登場した岩村真理子は女性は魅力的な光を放っているのだが、
私としては敬輔というフィルターを通して真理子を見ることで、
初めて綴られる運命と再生を素直に享受できる気がしてならないのだ。


No.64 6点 陽気なギャングの日常と襲撃
伊坂幸太郎
(2009/11/02 22:49登録)
四人の個々に遭遇する事件を扱う短編風のエピソードが、主たる事件の伏線になりきれているのかというと疑問で、単に登場人物の重複であったり、私が好きな饗野氏が顔を突っ込む「幻の女・ノゾミ」は本当に幻のままであったりと、所々に得心の行かない部分があったのが残念だ。


No.63 7点 陽気なギャングが地球を回す
伊坂幸太郎
(2009/11/02 22:48登録)
本来なら雄弁家の饗野のキャラクターに、それなりの時代性(社会性)を盛り込むことも可能だったのでないかと思うのだが、雄弁に薀蓄を傾ければ傾けるほど饒舌ぶりがボケとなって笑いを誘い、読み手を和ませてしまうあたりに本書が受け入れられる「時代」というものがあるのだろう。


No.62 8点 ダーティホワイトボーイズ
スティーヴン・ハンター
(2009/11/02 22:43登録)
作品中にバイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパーに触れる件があるとおり、ニューシネマから七十年代のバイオレンスムービーの匂いがする作風が、映画批評家の顔を持つというハンターの一時期のグラインドシネマへのオマージュであるとも受け取れなくもない。
『わらの犬』や『ダーティメリー、クレージーラリー』といった傑作映画より『ダーティホワイトボーイズ』はなによりもバイオレントだった。


No.61 8点 極大射程
スティーヴン・ハンター
(2009/11/02 22:41登録)
とにかくスワガーが体現する英雄的な行動は、緊張に彩られながらも呆れ返るくらいに爽快であり、
サスペンスフルな権謀術数、ここまでやるかというド派手な戦闘、さらにラブロマンスを折り混ぜながら、
ラストに「あっ」といわせる大ドンデン返しと“物語主義者”たる私は完璧に作劇に乗せられてしまうのだが、
これだけエンタティメントの要素を全部たたみかけてられても「精緻」と「静謐」であるという最初の印象は壊されることもなく、今もスナイパーたちの孤独とプライドが残影として目に浮かぶような気分でいる。


No.60 2点 行きずりの街
志水辰夫
(2009/11/02 22:36登録)
一人称ハードボイルドという体裁である以上は主人公が饒舌であることは仕方がないことだとしても、
主人公が独善的に行動していく展開に絡みつく饒舌に一体どうすれば共感できるのだろう。
もう『行きずりの街』というタイトルそのものにも理解できないのだから、救いようがないということか。


No.59 3点 背いて故郷
志水辰夫
(2009/11/02 22:34登録)
おしなべてハードボイルドの主人公たちは確固たる信念に基づいて行動する。
それが馬鹿げたこだわりやナルシズムに思えても、そこに孤高のダンディズムを見出して読み手はカタルシスを得る。
本書での柏木斉も例外ではないのだろうが、それにしては行動の稚拙さに少々呆れてしまった。
文体に合わせて主人公の行動もスタイリッシュである必要はないが、東京、横浜、千葉、横須賀、北海道、東北と、柏木の単独行が目まぐるしく舞台を変えながらも常に独りよがりであるために周囲に不幸を撒き散らしていくのでは、さすがに苛立ちを覚えてしまう。


No.58 3点 生首に聞いてみろ
法月綸太郎
(2009/11/02 22:31登録)
話の骨としては、偶然に偶然が重なり、登場人物たちの先入観と固定概念が事件を必要以上に複雑にしているというのが物語の機軸となっており、その意味では張りめぐらされた伏線を消化することで読み手は本格ものの醍醐味を堪能できるという仕掛けなのかもしれない。
しかし、そこにインパクトはあったか、サプライズはあったのかといえば、よくわからなかった。
作者の資質なのか、この小説には匂いがない。
タイトルにもあるように頚部切断という猟奇殺人を扱っていながら、血の生臭みは皆無で、戦慄も衝撃も異様なほど薄味加減だ。


No.57 9点 占星術殺人事件
島田荘司
(2009/11/02 22:27登録)
さすがに「新しい古典」といわれるだけの圧倒感に満ちており、
ページを進めて行くほどに、独特の世界観に引き込まれていく。


No.56 7点 人体模型の夜
中島らも
(2009/11/02 22:24登録)
この作家がアルコール、ドラッグの依存症患者であるため、こういう人の書くホラーオムニバスは幻惑的な精神世界の吐露と、シュールなアヴァンギャルドに走った文体に違いないと思っていたので、ここまでオーソドックスに手堅いプロットで構成してくる文体の持ち主であったことが何よりの驚きだった。
確かに内容は破天荒であるが、常識の尺度を踏まえたうえで破天荒をきっちりと演出しているので破綻はなく、正真正銘のプロの仕事になっている。
『はなびえ』『耳飢え』に至る辺りではすっかりこの連作短編の世界観にはまってしまったようだ。


No.55 6点 亜愛一郎の狼狽
泡坂妻夫
(2009/10/21 01:40登録)
こういう無駄を省いたトリック主体の趣向に思わず「ニヤリ」となる本格好きも多いのだろう。
たまにはこういう読後感があってもいいのではないかと納得した。


No.54 7点 凍える牙
乃南アサ
(2009/10/21 01:31登録)
閉鎖された首都高速道路を疾走するオオカミをバイクで追跡する貴子との静かなチェイスは
本書のクライマックスであり、一種のファンタジーだ。
乃南アサの描写力の見せ所としてもページをめくりながら幻惑されるような陶酔感に誘ってくる。
しかし、それでも貴子がオオカミに魅入られていく動機が男社会に生きる孤独感がもたらせた結果だとしても
いささか唐突だった感は拭えない。
リアルな物語が突如としてファンタジーになっていくのは悪くはないと思うのだが、
その貴子の心理の変遷だけには妙な男女の壁を感じてしまった。


No.53 6点 ブルータスの心臓−完全犯罪殺人リレー
東野圭吾
(2009/10/21 01:27登録)
人間のドラマで読ませることよりもプロットだけで読ませるという東野の自信がこの小説にはあったのだろう。


No.52 3点 スティームタイガーの死走
霞流一
(2009/10/21 01:25登録)
「設定は荒唐無稽でも背景はリアルに」というが私の嗜好だ。
こうなると好みの問題という他はないが、文体の軽さには最後までついていけないもどかしさが残った。


No.51 7点 生ける屍の死
山口雅也
(2009/10/21 01:23登録)
容疑者がトリックを仕掛けた段階では生きていたのか死者だったのかというのが事件解決へのキーとなる馬鹿馬鹿しさ。
死者が密室やアリバイを作って完全犯罪を工作し、死を隠蔽して生者であることに腐心する切なさ。
一体どうすればこんな世界観が創造しえるのか不思議に思う。


No.50 7点 地獄のババぬき
上甲宣之
(2009/10/21 01:21登録)
まあ妙なキャラクターが一堂に会してババ抜きの勝ち抜き戦を展開するという内容は映画というよりもマンガそのもので、良識派には前作以上にキツイ作品かもしれない。
しかし、たかがババ抜きも命が賭かるとそれこそ息を呑む神経戦ギリギリの極限の場となり、ゲームの面白さと勝負心理の襞を徹底的に描くことで上甲宣之はさらに階段をひとつ上ったのではないか。
丁々発矢の駆け引きやいかさまの技術が次々と繰り出せる面白さは息つく間さえも与えないほどだった。

・・・ちとホメすぎたか。

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