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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.59 5点 暗黒館の殺人
綾辻行人
(2009/09/07 21:52登録)
「館」シリーズ第7作目にして、一応のラスト作品。(まだ続くようですが・・・)
ノベルズ版で上下分冊という、シリーズ最長のボリューム。
~九州の山深く、外界から隔絶された湖の小島に建つ異形の館・「暗黒館」。光沢のない黒一色に塗られたこの浦登家の屋敷を、当主の息子・玄児に招かれて訪れた学生・中也は、「ダリヤの日」の奇妙な宴に参加する。その席上、怪しげな料理を饗された中也の身には何が起こる? 続発する殺人事件の無意味の意味とはなにか? シリーズ最大・最深・最驚の「館」、ここに落成~

これは「長すぎ」でしょう。
「出るぞ、出るぞ」という前振りだけで、長いこと待たされた作品ですが、結果がこれでは・・・ツライところ。
何か、ミステリーというよりは、ファンタジー作品を読んでる気がしました。
ロジックやらトリックとは基本的に無縁な作品ですねぇ。
「館」シリーズの完結編がこれでいいんでしょうか?
もちろん、最後に明かされる「アレ」には一応驚かされましたし、そこにやっと「完結編」の意味を見出したわけですが・・・

まぁ、細かい部分がどうこうっていう作品じゃないですけど、作者のファン以外にはキツイ作品じゃないでしょうか。
高評価はちょっと無理かな。


No.58 3点 重力ピエロ
伊坂幸太郎
(2009/09/07 21:43登録)
すみません。どこが面白いのかよく分かりませんでした。
作者の作品は初めて読みましたが、続けて読んでいこうという気には今のところならない感じです。
何というか、読みながらのドキドキ感やワクワク感が全く味わえませんでした。


No.57 6点 そして名探偵は生まれた
歌野晶午
(2009/09/05 23:23登録)
一番面白かったのは「生存者一名」ですかねえ。最後のどんでん返しというか、オチは効いていると思います。
「館という名の楽園で」も水準級の作品です。「館」好きなら読んでみてもよいのではないでしょうか。
あとは、正直覚えていない・・・


No.56 7点 仇敵
池井戸潤
(2009/09/05 23:18登録)
大銀行を退職に追い込まれ、地方銀行の庶務係に左遷させられた一人の男を主人公にした連作短編集。
本作を含めて、作者はこういった連作短編集が得意ですね。本作では、銀行の1支店を舞台として、さまざま事件が起こりながら、それがラストにつながっていきます。
銀行の内幕なんかも書かれていますが、詳しくない方も十分楽しめます。


No.55 8点 毒猿 新宿鮫II
大沢在昌
(2009/09/05 23:10登録)
「新宿鮫シリーズ」の第2作目。
台湾から来た殺し屋、その名も「毒猿」。シリーズ屈指の感動作。
~歌舞伎町の女・奈美。孤独な彼女が心惹かれる外国人・楊は、謎の影を持つ男だった。一方、「新宿鮫」と恐れられる新宿署刑事・鮫島は、完璧な職業兇手(殺し屋)が台湾から潜入していることを知る。「毒猿」と呼ばれる男が動き始めた刹那、新宿を戦慄が襲う! 鮫島は恐るべき人間兇器の暴走を止めることができるのか?~

「名作」の名に恥じない作品。
とにかく、新宿御苑を舞台に描かれるラストが秀逸。
傷を負いながらも、まさに神がかりの強さでヤクザたちを次々に血祭りにあげていく「毒猿」。そんな相手に、1人で挑んでいく孤高の男・鮫島!
何とも言えない緊張感が読者の心を捕らえて離しません。
そして、ついに迎える悲しい終局には美しささえ感じてしまう・・・

本シリーズでは、1作品ごとに魅力的なサブキャラクターが登場しますが、本作では、台湾から「毒猿」を追ってやって来た刑事・郭がいい味出してます。
銃撃戦で鮫島の身代わりになり命を落としてしまう郭、そして「毒猿」の逮捕を鮫島に託すシーン・・・まさに名場面です。
胸が震えるようなシーンの連続!
感動を覚えること必死の作品。


No.54 8点 新宿鮫
大沢在昌
(2009/09/05 23:00登録)
まさに記念すべき「新宿鮫」シリーズの第1作目。
この作品が、この後20年以上も続いていく超人気シリーズになるとは、このとき誰が想像したでしょう。
~ただ独りで音もなく犯罪者に食いつく・・・「新宿鮫」と恐れられる新宿署刑事・鮫島。歌舞伎町を中心に警官が連続して射殺された。犯人逮捕に躍起になる署員たちをよそに、鮫島は銃密造の天才・木津を執拗に追う。待ち受ける巧妙な罠。絶体絶命の鮫島。登場人物の圧倒的な個性と最後まで息をつかせぬ緊迫感~

もはや書評の必要もない作品でしょう。
大沢氏は本作発表まで、これといったヒット作にめぐまれず、不遇を囲っていた作家でしたが、それまでの鬱憤を全て晴らすが如く、才能を見事に開花。
いやぁ、とにかく登場人物がこれほど魅力的&個性的に書かれた作品(シリーズ)には、いまだにお目にかかれません。
そして、何とも言えない緊張感溢れる展開。
手に汗握りながら、終盤を迎え、感動のラストでは涙さえ流したくなる・・・
これぞ、エンターテイメントの到達点とさえ感じてしまいます。

本作では、改造銃の名手・木津に絶体絶命のピンチに追い込まれた鮫島を、普段は「昼行灯」と思われていた上司の桃井警部が救出するという、シリーズ通しての重要な場面が出てきます。(これだけでも必読)
孤独な闘いを強いられきた鮫島にわずかながらでも差してきた光明。
桃井や、藪、そして晶・・・今後のシリーズでも重要な人物たちもすべて登場。
本シリーズは、是非順番に読んでいただきたい!
中途半端な読書はして欲しくないとさえ言いたい!(それくらいの「思い」なのです)


No.53 7点 8の殺人
我孫子武丸
(2009/09/03 23:00登録)
速水3兄弟シリーズの第1弾にして、作者の処女長編作品。
速水警部補と木下刑事の迷(?)コンビぶりもかなり面白い! 新装版で再読。
~建物の内部にある中庭が渡り廊下で結ばれた通称「8の字屋敷」で起きたボウガンによる殺人事件。最初の被害者は鍵をかけ、人が寝ていた部屋から撃たれ、2人目は密室のドアの内側に磔になる。速水警部補が推理マニアの弟、妹ともにこの難解な謎に挑戦する!~

個人的に好きな作品。
もちろん、多くの方が指摘するようにアラの目立つ作品ではあります。
「8」という形状自体、すでにトリックのネタバレではないかというのはたいへん尤もなご指摘。
でも、いいではないですか。
時は、新本格の作家たちが次々と登場していた頃。
そもそも、デビュー作品から高い水準を求めようとするのが土台無茶な要求というものです。
大胆かつサプライズ感のあるトリック。意外な真犯人。そして、魅力的な登場人物・・・
十分に、期待には応えているように思うのですが・・・
(評価が甘すぎるのでしょうか?)


No.52 6点 十角館の殺人
綾辻行人
(2009/09/03 22:47登録)
「館」シリーズ第1作というよりも、「新本格」というミステリーの一大ムーブメントの端緒となった記念すべき作品。
現代日本のミステリー界にとっても、重要な作品という位置付けでしょう。
今回、新装版で久々に再読。
~十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリー研究会の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて、学生たちを襲う連続殺人の魔の手。ミステリー史上最大級の、驚愕の結末を読者が待ち受ける。1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作~

本作の評価なんて「今さら」なのでしょうが・・・
個人的には、世間的な評判ほどの評価はしていないといういのが本音。(もちろん、歴史的な価値については別にして)
確かに、ラストの衝撃(例の人物のセリフですよね)については、「驚愕」という形容詞がピッタリかとは思うし、処女作とは思えないほど練られたプロットなのは間違いないところでしょう。
ただねぇ、「いかにも」という感じで呈示された「十角館」が、トリックに何の関係もなかったり、「動機」の件はいくらなんでも不自然。
(それだけの事件が過去に起こっていたなら、普通気付くだろ!)
「館」シリーズでいうなら、個人的には「時計館」の方が何倍も面白かったし、評価すべき作品だという気がします。

というわけで、あくまでも平均点というのが、本作に対する評価になってしまいますね。
(「エラリイ」や「ポオ」なんていうニックネーム、恥ずかしいだろ!)


No.51 7点 殺人方程式
綾辻行人
(2009/09/03 22:37登録)
わずか2作品でしか書かれなかった明日香井兄弟シリーズの第1弾。
久々に再読。
~新興宗教団体の教祖が殺害された。儀式のために籠っていた神殿から姿を消し、頭部と左腕を切断された死体となって発見される。厳重な監視の目をかいくぐり、如何にして不可能犯罪は行われたのか。2か月前、前教祖が遂げた奇怪な死との関連は? 本格ミステリーの会心作!~

個人的に綾辻作品のなかで、気に入っている作品。
一言でいえば、「ミステリーの教科書」のような作品という気がします。
大掛かりなトリック、意外な真犯人など、本格ミステリーのギミックが満載で、特に作者には珍しい物理トリックが味わえる。
伏線は割りとあからさまに示されており、殺害方法が分かれば自ずから真犯人が判明するので、読者が真相に迫ることも十分可能でしょう。
難を言えば、やや型に嵌めすぎているところですかねぇー
まだまさ若き日の作品ですし、仕方ないかもしれませんが、双子の探偵などもう少しうまい具合に使えたんじゃないかなという感じ。
全体的には、「館」シリーズの凡作よりはこちらの方がよっぽどマシという評価です。
(新興宗教の教祖が頭部を切断されて殺害されるというのは、同じ頃に発表された法月氏の「誰彼」と同じプロット・・・偶然ですかね?)


No.50 8点 容疑者Xの献身
東野圭吾
(2009/08/30 18:29登録)
ガリレオシリーズ、初の長編。
映画も大ヒットした直木賞受賞作品。
~天才数学者でありながら不遇な日々をおくっていった高校教師の石神は、1人娘と暮らす隣人の靖子に密かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うために完全犯罪を企てる。だが、皮肉にも石神のかつての親友である物理学者の湯川学がその謎に挑むことになる~

評判どおりの佳作。さすがです。
いまさら書評どうのこうのという作品ではないような気がします。
(直木賞&日本推理協会賞受賞、しかもこのミス1位ですから)
トリック云々はあまり気にせず、石神バーサス湯川の知恵比べというか、湯川の悲壮な謎解きを味わうべきでしょう。
しかし、男ってかわいいもんです。
今の世の中、女性からの「献身」や「純愛」なんて望むべくもないでしょうから・・・
有名になりすぎたので、逆に嫌う方もいるかもしれませんが、読まないと損する作品という評価でいいでしょう。
(東野圭吾と二階堂黎人の本格論争なんてありましたが、そんなこと読者が気にする必要はありません。何が「本格」かなんてどうでもいいことです)


No.49 6点 葉桜の季節に君を想うということ
歌野晶午
(2009/08/30 17:58登録)
「このミス」第1位にも輝いた作者の代表作。
素直に読めば、騙されること請け合い(!?)でしょう。
~「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命的な出会いを果たして・・・~

確かに「えーっ!!」と思わされる。
それは間違いないでしょう。
後から読み返すと、そこかしこに伏線は張られてますし、何となく「チクリ」とした違和感は感じてましたから・・・
ただ、それだけなんですよねぇ。
作者のこれまでのキャリアや積み上げたスキルが凝縮された作品なのだとは思いますが、あまり感じなかったなぁー
あらゆる賞を総なめし、ハードルを上げつつ読んだので、どうしても評価が辛くなってしまう。
(これからの時代、将虎のような人々が主役になっていく可能性は十分ありますよねぇ)


No.48 4点 グッドバイ 叔父殺人事件
折原一
(2009/08/30 17:35登録)
「叔母殺人事件」に続いて発表された作品。
前作(叔母)とはあまり関連性なく、いつもの折原ワールド。
~叔父が死んだ。ネットで呼び集められた男女4人がワゴン車内で集団自殺を図った。その中に「僕」の叔父・四郎がいた。リーダー格の女性だけが命をとり止めたが、意識不明。叔父の普段の言動から偽装殺人を疑う叔母の厳命で関係者を調べ始めた「僕」に黒い影が忍び寄る・・・~

まぁ、いつもの折原作品ですよ。
紹介文を見れば分かります。
インターネットの自殺サイトというのが、この頃話題になっていたため、本作のプロットとして借用されてますが、それ以外の大筋はいつもの叙述トリックです。
であれば、問題は終盤またはラストの反転&サプライズにどれくらいのパワーが備わっているか、になりますが・・・
ひとこと「中途半端」!
特に、今回は今までの焼き直しという感じがしてなりません。
叙述トリックとはいえ、そうそう量産できるものではないでしょうから、まぁどの作品も高レベルということは至難の業なのでしょう。
そういう目で見れば、まずまず、普通レベルというの好意的な評価もできなくはないですが・・・
(そろそろ黒星警部シリーズでも読みたいなぁー)


No.47 7点 乱れからくり
泡坂妻夫
(2009/08/30 00:35登録)
作者の長編代表作とも言える作品。
日本推理作家協会賞受賞作。
~玩具会社の部長馬割朋浩は降ってきた隕石に当たり命を落としてしまう。その葬儀も終わらないうちに彼の幼児が誤って睡眠薬を飲んで死亡する。さらに、死神に魅入られたように馬割家の人々に連続する不可解な死。一族に秘められた謎とねじ屋敷と呼ばれる同家の庭に作られた巨大迷路に隠された秘密を
巡って男勝りの女性探偵と新米助手の捜査が始まった~

実に泡坂氏らしい作品で、遊び心満載で楽しませてくれます。
まず、冒頭、隕石に直撃されて死ぬというミステリーではあり得ない設定!
そして、終盤は「ねじ屋敷」ですよ。いかにも何か仕掛けがありそうで、やっぱりあった。
作品全体としては、まさにタイトルどおりで、からくりが乱れるわけですが、真相に迫るのは割合簡単だったかもしれません。
これって言ってみれば、「究極の遠隔殺人」ではないでしょうか?
(ちょっとネタバレっぽいかもしれませんが・・・)
惜しむらくは、「隕石殺人」があまり本筋と関係ない点ですかねぇー


No.46 7点 法月綸太郎の新冒険
法月綸太郎
(2009/08/30 00:24登録)
名探偵、法月綸太郎シリーズの短編集第2弾。
こちらも高レベルの短編集。楽しめること請け合い。
①「イントロダクション」=?
②「背信の交点」=作者としては珍しい「時刻表ミステリー」。西村京太郎作品を彷彿させる設定ですが、プロット自体は作者らしさ十分。
③「世界の神秘を解く男」=短編にしては何か冗長さを感じてしまう作品。あまり好きでない。
④「身投げ女のブルース」=別の短編集(「パズル崩壊」)で探偵役を務める葛城警部が登場、と思いきや・・・なかなかサプライズのあるオチ&プロット。
⑤「現場から生中継」=短編らしいワン・トリックもの。面白い。
⑥「リターン・ザ・ギフト」=図書館シリーズの穂波が登場。テーマはずばり「交換殺人」。
以上、6編。
法月らしいロジックと稚気に溢れた作品が多くて、さすがに「短編はうまい!」(でも長篇は・・・)
(④⑤辺りが個人的には好き。②も嫌いではないプロット)


No.45 7点 法月綸太郎の冒険
法月綸太郎
(2009/08/30 00:13登録)
名探偵、法月綸太郎シリーズの短編集第1弾。
長篇では冗長さが目立つ作者ですが、短編では鋭い切れ味と感性を見せてくれます。
①「死刑囚パズル」=死刑の場面は他作品でも時々見ますが、なかなかあり得ないような事件&設定ではあります。
②「黒衣の家」=ラストの捻りが短編らしくていい。
③「カニバリズム小論」=これは、オチのみの一本勝負。それだけにサプライズ感は大きくなります。
④「切り裂き魔」=図書館シリーズ。図書館の本が切り裂かれる謎を扱ってます。真相は小粒でもピリリと辛い。
⑤「緑の扉は危険」=図書館シリーズパート2。短編での密室ものはどうしても形式的になっちゃいますね。
⑥「土曜日の本」=若竹七海氏出題の「5円玉20枚の謎」に対する解決編。おふざけのようなもの?
⑦「過ぎにし薔薇は・・・」=図書館での謎の行動をとる女性・・・
以上、7編。
秀作が多くて、なかなか楽しい読書でした。短編ですから、単純なプロットが多いですが、それが読みやすさにつながってるんでしょう。
(①③もいいですが、④以降の図書館シリーズも結構好き)


No.44 7点 札幌着23時25分
西村京太郎
(2009/08/27 23:04登録)
お馴染み十津川警部シリーズ。
トラベルミステリーにサスペンス要素をふんだんに加えた意欲作。
~十津川警部は、暴力団組長の殺人罪を立証する重要な証人を札幌地裁まで護送することになった。タイムリミットは深夜0時。組員たちは、悪徳弁護士・佐伯の指示に従い、証人の暗殺を狙う。折からの航空会社ストライキのため、東京から札幌まで乗り継ぎが必要になる。東北新幹線、在来線、車、チャーター機・・・追われる側となった十津川警部と佐伯の虚虚実実の攻防が始まる~

個人的には氏のいわゆる「トラベルミステリー」では一番面白い作品だという評価。
時代的には、まだ東北新幹線が大宮~盛岡間だったころ。航空機なしで東京~札幌までちょうど1日かかっていた時代です。
いつもは犯人を追い詰める側の十津川・亀井コンビが、一転、今回は暴力団グループに追われる側として追い詰められていきます。
十津川と佐伯との知恵の攻防もなかなか面白い。
札幌までの中途で何度も攻防が繰り広げられ、紙一重で困難をかわしていく・・・何ともスリリング!
まっ、いろいろと突っ込みたいところはあるのですが、まずは楽しめる作品だと思いますね。
(警視庁の組織力ってそんなもんなのか?というツッコミが聞こえてきそう・・・)


No.43 10点 涙流れるままに
島田荘司
(2009/08/27 22:48登録)
吉敷刑事シリーズ。
吉敷&通子の壮大なラブストーリーが決着するファン必読の作品。
~警視庁捜査1課刑事・吉敷竹史は、夫の冤罪を主張する老婦人に出会う。その「恩田事件」とは、昭和33年に盛岡で起きた一家惨殺事件だった。吉敷は単身、再捜査を開始。ところが、盛岡・釧路で対面した関係者はなぜか別れた妻・通子と関係の深い人ばかりだった・・・日本の冤罪事件に職を賭した1人の刑事と、元妻の壮絶な過去、そして感動のラスト・・・~

素直に脱帽! ラスト、子供を抱き上げるシーンでは、読んでて涙が止まりませんでした。(まさにタイトルどおり!)
「北の夕鶴」から始まり、「羽衣伝説」、そして「飛鳥のガラスの靴」と続いてきた、吉敷=通子の壮大な物語がこんな形で完結してくれて、作者には本当にありがとうと言いたい気分です。
さて、本作のキーワードは、作者のライフワークともなっている「冤罪事件」。
この高くて厚い壁を破るためには、「吉敷」はまさにうってつけのキャラクターです。
御手洗ほどの明晰な頭脳はありませんが、何事にも怯むことなく、どんな苦難にあっても立ち向かっていくその姿は、まさに現代に甦った「等身大のヒーロー」とさえ呼びたくなる・・・(実際、カッコいいですよ)
真相に関しては、いつもの「大技」が炸裂するわけですが、それはそれで十分読み応えありです。
まぁ、通子の過去がここまで壮絶でありえないほどの不幸に満ちていたなんて、これ最初から構想してたんでしょうか?
とにかく、本作は決してこれ単独では読まないでください。
(これ単独で読んじゃうと、「荒唐無稽」のように思えてしまうかもしれませんので・・・)


No.42 6点 羽衣伝説の記憶
島田荘司
(2009/08/27 22:38登録)
『吉敷-通子の壮大なラブ・ストーリー』第2弾。
本作は文庫書き下ろし作で、本筋の内容は軽めにさらっとしたものになってます。
~警視庁捜査1課・吉敷刑事はふと入った画廊で作者のない「羽衣伝説」という彫金作品を目にした。これは別れた妻・通子の作品なのではとの思いを掻き立てられた吉敷は、ホステス殺しの真犯人を追いつつ訪れた伝説の地で、意外にも妻の出生の秘密に行き当たることに・・・~

タイトルにある「羽衣伝説」とは、天橋立に伝わる民話のことです。(聞いたことある方も多いでしょう)
吉敷の慧眼により、通子の母親の事件も解決することになり、これで晴れて二人の仲も元通りになるのか? と思いきや、そうならない。
「大人の愛」ですねぇ・・・ケツの青い若造どもには決して理解できない本当の「愛情」というものが吉敷の言動からビンビン伝わってきます。
それにしても「謎の多い女」です。
真相は、「涙流れるままに」そして「龍臥亭事件」など、その後の作品で明らかにされていきますが、この時点では「まさかそこまでの広がりがあるなんて」想像もつきませんでした。
(女性の心理描写も作者の得意とするところ。本作もその辺りがよく伝わってきます。)


No.41 8点 北の夕鶴2/3の殺人
島田荘司
(2009/08/27 22:31登録)
吉敷刑事の分数シリーズ第3作。
それよりも、『吉敷竹史と加納通子の壮大なラブ・ストーリー第1章』と呼ぶべきかもしれません。
吉敷が、別れた妻通子に久し振りに再会する場面から始まる本作は、その後、通子が住む北海道・釧路へ舞台が移動。吉敷は通子を救うため、長く苦しい戦いに身を投じていくことに・・・と書いていると、何だかハードボイルド作品のような気がしてきますが、実際「ハードボイルド」なんです!
特に、真犯人との最後の対決シーンは、「吉敷!頑張れ!」と心の底から応援したくなるような熱い思いを抱かせてくれる名シーン。
前作までは、クールで二枚目。どこか人間味の薄いキャラクターとして描かれたきた吉敷が、ここまで大変身するとは!
そして、本作のもう1つの特徴が、島田的大物理トリック・・・
すごすきて声も出ません。「非現実的」と考える方は当然いらっしゃるでしょうが、そんなの関係ありません。どんなに荒唐無稽と言われようが、ここまでのスゴいトリックを見せつけられれば、十二分に満足できます。(このトリックはその後も形を変えて、「疾走する死者」など氏の作品で何回か登場します。)
とにかく、その後の「吉敷-通子物語」の続編を楽しむためにも(特に「涙流れるままに」の感動を味わうためには)、本作は必読と言えます。
(寝台特急「ゆうづる」がタイトルになっていますが、最初の事件の舞台として軽く登場するだけなので、他にもっと適当なタイトルがあるような気がする・・・)


No.40 3点 人形館の殺人
綾辻行人
(2009/08/25 22:46登録)
「館」シリーズ第4作目。
シリーズ中ではやや異色の館での事件。
~飛龍想一が京都・北白川に建つ「人形館」に引っ越してきたとき、驚天動地の終結(カタストロフィ)へ向けて秒読みが始まった。屋敷には父が遺した異形のマネキン人形たちが佇み、付近では通り魔殺人が相次いで起こる。そして彼に忍び寄る姿なき殺人者。名探偵・島田潔の登場と奇矯な建築家・中村青司の影が・・・~

うーん。まず基本的には個人的な好みから外れてる作品。
不可思議な事件の連続や、本格もののギミックを織り交ぜながら、読者の期待感をこれでもかと高めておいて・・・肩透かし。
なんとなく、こんなオチじゃないのかなぁとは考えてましたが、まさかその通りとは。
もちろん、作者の「うまさ」は感じられる作品ですし、一人称視点の長所を引き出せているのは間違いないでしょう。
シリーズものを書き続けていくうえでは、こんな作品もありかもしれません。
(新装改訂版も読んでみたい)

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