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平均点:6.00点 | 書評数:1859件 |
No.119 | 6点 | 川の深さは 福井晴敏 |
(2009/10/24 19:59登録) 作者の長編処女作。 主人公の保と元警官の桃山のコンビは、「亡国のイージス」の如月行と仙石伍長のコンビをもろに彷彿させます。 「亡国・・・」や「終戦のローレライ」を先に読んでから本作を読んだので、どうしてもこの2作と雰囲気がかぶってしまうし、前2作よりは落ちるなぁ・・・という印象になってしまいました。 それでこの点数ですが、決して面白くないということではありません。 |
No.118 | 8点 | 奪取 真保裕一 |
(2009/10/24 19:50登録) 作者のエンタメ小説家としての力量を感じさせる作品です。 とにかく、「偽札」の作り方に関する薀蓄や方法がこれでもかというほど出てきますし、主人公の偽札に対する「熱さ」が読み手にもビンビン伝わってきました。 対帝都銀行についての部分はちょっとリアリティに欠けてるし、ヤクザや銀行員に対する描き方があまりにも悪人悪人しすぎて捻りを感じないのがややマイナスでしょうか。 でも高評価なのがよく分かる作品ですし、「真保ワールド」を満喫するには最適かもしれません。”名前”にはそういう意味があったんですね。(ラストシーン) |
No.117 | 5点 | 株価暴落 池井戸潤 |
(2009/10/24 19:35登録) 池井戸氏らしい経済(銀行)ミステリーですが、ちょっと”やっつけ感”の残る一作。 銀行という組織の中で爪弾きにされた主人公が、自分の汚名を削ぐために事件の渦中に飛び込んでいく・・・という氏の王道パターンが本作でも出てきますが、他の良作とは違ってご都合主義的な展開が多すぎる気がしますね。 ちなみに本作には野猿(やえん)刑事という登場人物が出てきますが、とんねるずの影響? |
No.116 | 8点 | 灰夜 新宿鮫VII 大沢在昌 |
(2009/10/20 23:10登録) 「新宿鮫シリーズ」。 シリーズ中では異色の作品で、いつもの新宿ではなく、旅先である鹿児島が舞台になります。(だから「灰」夜です) いつもなら、桃井警部や藪、晶といったおなじみの登場人物が絡んできますが、今回はまさに一人です。地元の警察官までも敵に回して、それでも戦う鮫島はやはり”かっこいい”としか言いようがありません。 ラスト前の戦闘シーンも迫力満点。本シリーズ独特の緊張感漂う鮫島の心情が読み手にも十分伝わります。 たまには、新宿を飛び出してもいいのでは?と思える作品。 |
No.115 | 7点 | グリーン家殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2009/10/20 22:53登録) ミステリー史上の名作の1つとして、この評価です。 「一家(一族)連続殺人事件」というスタイルを確立し、日本の作家に影響を与えた功績は大でしょう。 いわゆる「意外な真犯人」という範疇に入るのだと思いますが(当時)、まぁ今読むと”普通の作品”の域は出ないかもしれません。 ただ、「古き良き探偵小説」を十二分に感じさせてくれる一作 であるのは間違いないでしょう。 |
No.114 | 5点 | 法隆寺の殺人 篠田秀幸 |
(2009/10/20 22:43登録) 弥生原探偵シリーズ。 本作は、本格ミステリーと歴史ミステリーの融合を狙った作品ですが、成功しているとは言い難い出来ですねぇ。 本格ミステリーとしては、「悪霊館」や「幻影城」と比べて明らかにレベルダウンしてます。 また、日本史におけるミステリアスな人物=「聖徳太子」の謎解きを行っていますが、これは某井沢元彦氏の「逆説の日本史」の受け売りではないでしょうか。説がほぼ同じ内容です。 氏は1作ごとに新たな試みを行っており、そのチャレンジブルな精神は買いますが、いかんせん本作では内容が・・・という感想。 |
No.113 | 5点 | 飛鳥のガラスの靴 島田荘司 |
(2009/10/18 22:25登録) 吉敷シリーズの1作。 管轄外の未解決事件に吉敷が興味を持ち、またしても主任とのイザコザの末真相解明に乗り出す・・・という展開。 本作では、ある民話に関してある人物が残した手記が問題となるのですが、「飛鳥」についての謎はちょっと読者には解明不可能でしょうね。(そんなのありかよ的です) 本作では氏の作品中によく出てくる、「日本という国の風習、”日本的な考え方、日本人の思考”について、やや批判的な立ち位置からの持論」という部分が目立ち、純粋なミステリーとしてはどうかなぁという印象が残ります。(島田氏らしいと言えばらしいですけど) 「羽衣伝説・・・」後の吉敷と通子についても触れていますので、そっちの方では後の展開が気になりました。(「涙流れるままに」を読んでスッキリしましたが・・・) |
No.112 | 6点 | 白銀を踏み荒らせ 雫井脩介 |
(2009/10/18 21:52登録) 分野でいえば「スポーツミステリー」とでも分類する珍しいミステリー。 今までにあまり読んだことのない種類のミステリーで、スキー関係の薀蓄と一緒になかなか楽しめた作品ではあります。 前作(「栄光一途」)を読んでないので、主人公コンビのキャラはあまり馴染めませんでしたが、展開とともに謎を深めていく展開は、やはり雫井氏らしいところでしょう。 ただ、他作品との比較ではまぁこの点数程度ですかねぇ。 |
No.111 | 3点 | 片眼の猿 道尾秀介 |
(2009/10/18 21:40登録) 「ミスリードがうまい」というふうに評価されていますが、本作でいうところの”ミスリード”とは、どこの部分を言っているのでしょうか? ”秋絵”のこと? ローズフラットの住人のこと? まさか真犯人のこと? ストーリー的には安手の探偵物連続ドラマの1作という印象でしょうか。あらゆる意味で軽すぎるミステリー。 テレビや音楽と一緒に”ながら読書”するなら適した作品でしょう。 |
No.110 | 9点 | 天国への階段 白川道 |
(2009/10/17 16:42登録) 素晴らしい作品の一言。文庫版3分冊で1,400ページ超という長さですが、次の展開が気になって相当なスピードで読了してしまいました。 物語の背景や展開としては、割とベタな作品ではないかと思うのですが、登場人物1人1人に対してここまで丁寧に書かれると、ものの見事に感情移入させられます。 主人公である柏木は復讐を果たすために政財界で成り上がっていくのですが、その柏木もまた復讐の対象になっていく・・・ 誰もが壊された愛(親子愛も含めてですが)のために復讐を果たそうとする展開がなんとも哀しみをそそります。 ミステリーとしての要素は薄いですが、無味乾燥なミステリーに飽きたら是非再読したい作品。 |
No.109 | 6点 | 英仏海峡の謎 F・W・クロフツ |
(2009/10/17 16:18登録) 個人的に、翻訳物の名探偵ではポワロよりもF・ヴァンスよりもフレンチ警部が好きなのですが(「名」探偵ではありませんけど・・・)、そのきっかけとなった作品のひとつ。 ストーリー的には特に目立つ部分はなく、作者得意のアリバイ崩しをフレンチがコツコツと積み上げ、ふとしたきっかけで真相に行き着く、という展開。 ただ、それまでは翻訳物といえば名探偵が最終章で容疑者の中なら鮮やかに真犯人を指摘する・・・という物ばかりを読んでいたので、ある意味新鮮でした。 |
No.108 | 3点 | アルキメデスは手を汚さない 小峰元 |
(2009/10/17 15:57登録) 第19回の乱歩賞受賞作。 今一つ掴みどころのない作品ですね。確かに殺人事件は起こるし、密室は出てくるし(簡単に謎は解けますが)、アリバイ崩しも出てくる(偶然に謎は解けますが)のですけど・・・ 本作はそんなことよりも、当時の高校生のニヒリズムやセックス観というものの方が印象に残ります。 最終章での田中君(登場人物です)の実利主義に徹した言葉もなんか虚無的で、発刊当時はそんな時代背景だったのかなぁと考えさせられます。 |
No.107 | 7点 | オリエント急行の殺人 アガサ・クリスティー |
(2009/10/14 22:20登録) 意外すぎる犯人物の最右翼でしょう。(「アクロイド・・・」も当然その一つですけど) まずは作品の設定そのものがいいですね。雪の中で立ち往生するオリエント急行の中で起こる殺人事件・・・ 被害者の体に残った多すぎる傷跡が問題になるわけですが、まさかそんな結末とは。 薄々そういうことかなぁと考えてはいましたが、実際そうですと言われると、「大技!」と唸らざるを得ません。 ただ、このネタは2度と使えないというのが本作の一番の特徴かもしれません。 |
No.106 | 5点 | 寝台特急(ブルートレイン)殺人事件 西村京太郎 |
(2009/10/14 22:13登録) 光文社文庫の「西村京太郎アニバーサリーフェアー」として最近復刻版が発売されたため再読しました。 トラベルミステリーの隆盛(主にテレビの2時間ドラマでですが・・・)のきっかけとなった記念碑的作品。 再読してみて時代の流れを感じました。十津川警部は最近の作品に比べて若々しく(37歳という設定ですから)、JRがまだ国鉄と呼ばれていた時代です。 トラベルミステリーに付き物のアリバイトリックも単純なものですし、バックに政治家が・・・という氏お決まりのネタも入っていて、正直レベルは低いと言わざるを得ません。 ただ、やっぱり一つの歴史的作品ですし、鉄道好きとしては「はやぶさ」と「富士」が西鹿児島まで走っていた時代がなんともなつかしくてうらやましいです。 |
No.105 | 5点 | 絶叫城殺人事件 有栖川有栖 |
(2009/10/14 21:59登録) 火村シリーズの短編集。 全体としては、短編集らしくこじんまりまとまった作品が多いように思います。 表題作はラストがあまり面白くありません。 「紅雨荘・・・」はラストの捻りが効いており、一番面白い出来。 「月宮殿・・・」はだから何?という感じ。 「壷中庵・・・」は単純な密室物ですが、なかなかの出来。 その他は「うーん」という感想でした。 |
No.104 | 6点 | 匣の中の失楽 竹本健治 |
(2009/10/12 15:39登録) これを読む前は「アンチ・ミステリー」ってなに?という素朴な疑問から読み始めたわけですが・・・ まぁ、現実の世界と虚構の世界が入り混じっており、そこに「作中作」が加わって、訳が分からなくなってどうしたらいいの! という多くの読者と同じ感想にならざるをえませんでした。 勇気を持って再読してみれば、ある程度作者の狙いというか、面白さが少しずつ分かったような気はしたのですけど。 何はともあれ、後の作家や作品に多大な影響を及ぼしたのは間違いないでしょうし、「虚無への供物」よりは読みやすいでしょう。 |
No.103 | 7点 | ABC殺人事件 アガサ・クリスティー |
(2009/10/12 15:27登録) 私を最初に(レベル1の)ミステリー中毒にした記念碑的作品です。(今はレベル5くらいの中毒ですが・・・) とにかく謎の提示が魅力的ですし、それに尽きるといっていいでしょう。「なぜ、犯人は被害者と殺害場所をABC順にしなければならないのか?」 それだけなんですが、最後、解決の場面でポワロが事件関係者を集めて真犯人を指摘したときに、感動で体が震えたのを今でもはっきり覚えています。 |
No.102 | 8点 | 沈黙の教室 折原一 |
(2009/10/12 15:09登録) 良くも悪くも折原氏らしい作品ですし、ある意味「折原ミステリー」の到達点といっていい作品でしょう。(日本推理作家協会賞受賞作ですし) 氏の作品には、手記とか日記とかいった小道具が作品のスパイスになっていますが、本作の「恐怖新聞」は一連の小道具類では最も効果的になっていると思います。そして、黒板に書かれた「粛清!」の文字・・・ 読者を数々の?に巻き込みながら、クライマックスへの盛り上げ方も良い出来ですし、オチも氏にしてはきれいに収まっているんじゃないでしょうか。 ただ、例によって非常に長いので途中萎えそうになりますが・・・ |
No.101 | 7点 | 13階段 高野和明 |
(2009/10/08 23:19登録) 乱歩賞受賞作らしい作風ですが、処女作としてはかなりレベルの高い作品だと思います。 主要登場人物が少ないだけに、終盤のどんでん返しはある程度見えていましたが、決してつまらなくはないです。 死刑制度の是非ついても作中で語られていますけれど、特に中盤での南郷の「死刑制度なんて、あってもなくても同じなんだよ」という言葉が印象に残っています。確かに理性と本能の問題は難しいですね。 |
No.100 | 10点 | 人狼城の恐怖 二階堂黎人 |
(2009/10/08 23:09登録) 100冊目の書評は是非この作品でと思ってました。 とにかくいろいろな意味で「すごい」作品であるのは間違いないと思ってます。 第一部の「ドイツ編」が刊行されて読破して以降、「フランス編」「探偵編」「解決編」ととにかく刊行されるのをいつかいつかと待ちわびてました。 2つの城で「これでもか」と起こる怪奇&ミステリアスな事件の数々、招待客に迫り来る魔の手・・・読みながら何とも言えない気分にさせられましたね。 確かに、矛盾もかなりあるでしょうし、特に人狼城に関するあの秘密は、さすがに違和感に気付くだろう!とは思いましたが、とにかく作品の迫力とボリュームだけでも10点の価値はあります。 まぁ、ある意味こんな馬鹿げた作品を出す作家なんてもう出てこないでしょうね。 |