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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.579 7点 殺人交叉点
フレッド・カサック
(2011/11/05 21:39登録)
フランスミステリ批評家賞受賞作。
創元文庫版では「連鎖反応」を併録。
①「殺人交叉点」=文庫版あとがきで触れられてるとおり、「最後の一撃」が読者にガツンとくる作品。
~10年前に起きた二重殺人事件は、きわめて単純な事件だったと誰もが信じていた。殺人犯となったボブをあれほど愛していたルユール夫人でさえ疑うことがなかった。しかし、真犯人は別にいた。時効寸前に明らかになる驚愕の真実とは・・・~

この結末は十分予想できたはずなのに、見事ヤラレてしまった・・・という感じ。
他の方の書評どおり、「叙述トリック」としては初歩的ですが、それだけにスッキリとした後味になります。
(シンプル・イズ・ベストっていうことかな)
確かにねぇ、後から読み返すと、母親との会話(お金の無心に行く場面ね)なんて、違和感プンプンで、うまく騙してる。
最近では、本作をベースにしたかのような作品が溢れてますので、その元祖的作品を味わうのも一興でしょう。

②「連鎖反応」=愛する女性との結婚を間近に控えた主人公に告げられた、愛人からの妊娠の事実。そこから主人公の苦悩が始まる。主人公が選択したのは、上司の殺害による自身の昇進&昇給。(これで、子供の養育費を捻出しようということ)
そして、主人公が望んだ以上の結果が得られ、幸せな未来が見えてきた矢先に・・・訪れる悲劇!

これは、皮肉な結末だねぇ。まぁ「勧善懲悪」ということなのでしょうが・・・
普通なら、○○で終わるところ、本作では、視点人物の「解説(?)」を最後に付け加えてるのが特徴的で面白い。そして、そこにまでラストにサプライズが仕掛けられてる。
なかなか小気味いいし、よくまとまってます。
(①②ともお勧めできる良作というレベル)


No.578 7点 妖奇切断譜
貫井徳郎
(2011/11/05 21:38登録)
「鬼流殺生祭」に続く、朱芳=九条シリーズの2作目。
戊辰戦争に続く、明治維新期の江戸(東京)を舞台に発生した美女の連続バラバラ殺人事件が今回の謎。

~戊辰戦争の傷跡癒えぬ東京で、美女ばかりを描いた錦絵が評判を呼んでいた。だが描かれた女がバラバラ死体で、それもなぜか稲荷で発見される事件が続発、町に恐怖が広がる。元公家の九条は、捜査に乗り出すが、非道の犯行は止まらない。困惑した九条は病床の友人・朱芳の頭脳に望みを託す。驚愕の結末が待つ傑作推理!~

これはなかなかの問題作。
『被害者は美女ばかり』、そして『体の一部分が欠けている連続バラバラ死体』というと、どうしても連想してしまいますよねぇ。
あの名作、そう「占星術殺人事件」を!
当然ながら、作者もそれを意識しているでしょうから、もちろん同じ仕掛け・トリックを使うわけはないと思いつつ読み進めましたが・・・
真相にはちょっとビックリ。(ただ、プロットの骨格としてはやや被ってる感はある)
キーワードとなった「○○」については、「何だかなぁ・・・」という感想でしたし、「動機」もちょっと納得しがたい。
「真の」犯人は、「まぁそうだろうなぁ」と思っていた人物であり、想定内。
ただ、鬼気迫る異様な姿は相当に印象的で、何とも言えない読後感のある作品だと思う。

カニバリズム的な描写を含め、割とエゲツない箇所もあるので、そういうのが苦手な方はご注意を。
(でも、喜八郎のパートはこんなに長々とページを割くほどの意味はないんじゃない?)


No.577 5点 風神雷神の殺人
阿井渉介
(2011/11/05 21:36登録)
若きエリート警部補・堀進とギャンブル好きのロートル刑事・菱谷のコンビが活躍するシリーズ第2弾。
本作も作者独特の重い雰囲気の作品。

~「風神雷神の助けでおまえを殺す」。謎めいた脅迫が現実になったかのように、怪異な手口で起こる連続殺人。東京、静岡に次いで4通の殺人予告が列島を震撼させる。動機はなにか。犯人が起こしたと豪語する余部、信楽の列車事故の意味するものは? 捜査一課の名物コンビが凄まじい怨恨に駆られた犯人を琵琶湖畔に追い詰める!~

本格モノというよりは、なんだか「社会派」作品のような雰囲気。
中盤までは、犯人の狙いも犯人像も全く分からないまま、異様な事件が続いていく展開。
「列車シリーズ」をはじめ、氏の作品の特徴は、とにかく「不可能趣味満載の謎の提起」と大掛かりなトリック。
ただ、本作、トリック的な妙味ではなく、「動機」一本に絞ったかのようなプロットがある意味新鮮ではありました。
ただ、こういう作品の場合、犯人像が判明してしまうと、読み手の興味が半減してしまう功罪はありますが・・・
余部、信楽の大列車事故は現実の事件ですから、さすがに「トリック」的な仕掛けは無理だったのでしょう。
そういう部分では、氏の作品としては、やや不満の残る内容かなぁ・・・

でも、この「動機」はちょっとリアリティに乏しい気はしますねぇ。
(こういうヤツらは確かに憎むべき存在ではありますが・・・)


No.576 4点 名探偵も楽じゃない
西村京太郎
(2011/11/03 10:44登録)
名探偵パロディシリーズの第3弾。
今回は、高層ホテルの最上階フロアというクローズド・サークルで起こる連続殺人事件が舞台。

~ミステリーマニアの組織の例会が、会長の経営するホテルで開かれた。特別ゲストはクイーン、メグレ、ポワロ、明智小五郎の4大探偵。その席に自ら現代の名探偵を名乗る青年が闖入、殺人の匂いがあると予言。果たして奇怪な殺人劇が連続して起こってしまう! 世界的名探偵たちはどうする?~

さすがに3作目ともなると、設定自体に無理があるような気がする。
大した分量でもないのに、次々と惜しげもなく起こる殺人事件。
クローズド・サークルでもあるし、本格ファンなら望むべきプロットのはずですが、いかんせん内容が軽すぎる!
今回、自称「名探偵」として登場するのが、その名も「左門字京太郎」。
長身でハンサムなハーフってことは、これって後にシリーズ化される「私立探偵・左門字進」の原型?っぽいです。
で、殺人事件の方は、左門字の推理によって、一旦収束することに・・・
しかし、今回は4大名探偵の影薄すぎ! と思ってると、最後の最後になって、やっと二重構造の事件の背景が4人によって明かされるという趣向。
(これもかなりご都合主義ですが)

決してお勧めできるようなレベルの作品ではありません。
何でシリーズ化しちゃったんですかね。1作だけでやめとけばよかったのに・・・
(因みに、「Yの悲劇」は思いっきりネタばらししてるので、未読の方がいらしたらご注意を!)


No.575 6点 813
モーリス・ルブラン
(2011/11/03 10:43登録)
アルセーヌ・ルパン物の代表作の1つ。
本作はいわば「前篇」的な位置付けで、結末は「続813」へ・・・という趣向。

~「ダイヤモンド王」と呼ばれる大富豪・ケッセルバック氏は、全ヨーロッパの運命を賭けた重大秘密を握ってパリへ出た。その全貌を明らかにすべく、怪盗紳士A・ルパンが会見したその夜、氏は何者かに刺殺されてしまった。現場に残されたレッテル『813』とは?手掛かりの人物を恐るべき冷酷さで消していく謎の人物・L・Mを相手にルパンの息づまる死闘が始まる・・・~

予想よりは面白かった。
これが率直な感想。
もちろん、本作は「前篇」ですから、解答編ともいえる「続813」を読まなければ、物語全体の評価は付かないですが・・・
事件の鍵を握る人物「ルデュック氏」をめぐって、ルパンと警視庁の辣腕・ルノルマン保安課長、そしてアルテンハイム男爵が三つ巴の頭脳戦を展開するストーリーは、さすがに読み継がれている作品という風格を感じさえします。
そして、ラストの衝撃!・・・
まぁ、ルパン物の定番と言ってしまえばそれまでですが、個人的にはなかなかの衝撃でしたねぇ。
(これって、「叙述トリック」なのかな?)

今回、堀口大学訳の新潮文庫版で読了しましたが、独特の読みにくさはあるものの、気品のあるいい訳文だと思います。
ということで、ストーリーを忘れないうちに「続813」を読むことにしよう!


No.574 5点 殺人鬼(角川文庫版)
横溝正史
(2011/11/03 10:40登録)
金田一耕助登場の作品集。
なかなかバラエテイに富んだ作品が並んだなぁという印象。
①「殺人鬼」=ある推理作家の目線で事件が描かれる、という当時の作品でよくある趣向。結局、「殺人鬼は誰なのか」が大きな謎となるわけですが、まぁ「こうなるよな」という結末。
②「黒蘭姫」=デパートに日毎現れ、貴金属を万引きする黒衣の美女。そして、突如発生した2つの殺人事件。金田一が示した解答は、いわば「不幸な偶然」っていうこと。でも、あの女性には罪はないのか?
③「香水心中」=アリバイトリックがメインだが、今読むといかにも古臭いトリック。「動機」もなぁ・・・。女性実業家一家を軸に、なかなか魅力的な設定なのですが・・・
④「百日紅の下で」=名作と評される短編。確かに雰囲気はよい。ただ、毒殺の「くだり」は読者には推理不可能ではないか?
ラストが印象的。この後、金田一は「獄門島」へ向かっていったんだねぇ・・・(へぇー)
以上4編。

やっぱり、名作長編に比べると2枚も3枚も落ちる印象。
短編らしい切れ味に欠ける作品という評価になっちゃいますね。
④も名作と言うほどのものは感じなかった。
(どれも、戦後すぐという時代背景を感じさせる作品)


No.573 4点 靴に棲む老婆
エラリイ・クイーン
(2011/10/29 22:32登録)
国名シリーズ後の第2期、ライツヴィルシリーズの合間に発表された作品。
確か、昔ジュブナイル版で読んだ記憶があるのだが・・・ほとんど覚えてなかった。

~靴の宮殿に住む百万長者の老婆の6人の子供。3人は精神異常者で3人はまとも。そのまともな子供が次々と殺されて、しかも手を下して殺した殺人犯は、真の犯人ではないという、クイーン一流の精緻を極めたプロット。クイーンの転身第2期の作品中の白眉とするに足る名作で、陰惨限りない雰囲気を柔らかな同様のユーモアでくるみ、一種独特の気品が滲み出ている・・・~

プロットは面白いが、何とも中途半端な読後感。
腹違いの兄弟が、時代遅れの決闘を行い、エラリーが空砲とすり替えたはずのピストルから、実弾が発射され、「まともな」方が殺されてしまう。誰が、実弾をすり替え得たか? というのが本作メインの謎。
一旦、納得できる解決が示されたと思いきや、ラストでひっくり返されるという、二重構造の鮮やかさ。
など、さすがに円熟期を迎えたクイーンの技巧の確かさは窺える。
ただねぇ、魅力的な「材料」を生かしきれてないのも事実。
マザーグースは結局どうしたかったんでしょうね? 単なる雰囲気つくりか?
事件の本筋とは全く関係ないため、完全に浮いている印象。
「まともでない」兄弟たちも、「まともでないのか」、「まともでない振りをしているのか」など、読者を惹きこむ役目を果たしていない。

ということで、やっぱり欠点の方がどちらかといえば目立つ作品でしょうね。
(ラストのニッキー・ポーターの逸話には、「へぇー」って思わされた。)


No.572 7点 卍の殺人
今邑彩
(2011/10/29 22:27登録)
作者の長編デビュー作。
最近中公文庫から出た復刻版で読了。

~萩原亮子は恋人の安東匠とともに彼の実家を訪れた。その旧家は2つの棟で卍形を構成する異形の館。住人も老婆を頂点とした2つの家族に分かれ、微妙な関係を保っていた。匠はこの家との訣別を宣言するために戻ってきたのだが、次々に怪死事件が起こり・・・謎に満ちた館が起こす惨劇は、思いがけない展開を見せる・・・~

個人的には「好み」の作品。
新本格全盛期に書かれているためか、「奇怪な館」や「複雑な関係を持つ富豪一族」など、いわゆるコード型本格ミステリーのガジェットを詰め込んだ印象。
よって、好きな人は好きだし、毛嫌いする人もいるでしょう。
「館」は出来のいい方じゃないかな。
個人的には、館の平面図を見て、「もしかして○を使ったトリック?」という第一印象を持ったわけですが(→「8の殺人」からのインスピレーション)、なるほど・・・確かに館の特徴をうまく処理している。
伏線もこまめにちりばめているので、気付く人も多いんじゃないかな?
終盤以降、事件の構図が一変するので、その辺りのプロットも、デビュー作としてはよくできてると思う。
(プロローグが思い切りヒントになってるのが、良し悪しだが・・・)
ただまぁ、こういう作品を読んでると、「人が描けてない」っていう当時の新本格系作家に対する非難のフレーズが浮かんでしまうのは否めないかな。
(確かに、そのためか人物像があまり浮かんでこない)


No.571 5点 新・日本の七不思議
鯨統一郎
(2011/10/29 22:23登録)
「邪馬台国はどこですか」、「新・世界の七不思議」に続く歴史ミステリー第3弾。
いつものバーではなく、今回は日本のあちこちへ出張して歴史バトル(?)を繰り広げる。
①「原日本人の不思議」=日本人の定義に関する謎。縄文人と弥生人は違う人種というのはよく耳にする話ですが、じゃあ日本人ってそもそもどういう人と聞かれると困りそう。
②「邪馬台国の不思議」=このテーマは前々作でも喧々諤々議論したはず。で、今回は宮田が「ここが邪馬台国のあった場所」とした地へ出張。別に新しい説を持ち出しているわけではない。
③「万葉集の不思議」=この時代の謎の人物として度々登場するのが「柿本人麻呂」。梅原猛をはじめ、多くの研究者がいろいろと自説を発表していますが、宮田の説は「人麻呂=○原○○○」。確かに十分ありうる気はする。
④「空海の不思議」=伝説の超人「弘法大師=空海」についての謎。宮田の説は、「空海=○○人」。数々の伝説を見てると、スゴイ人物だったことは分かりますけど・・・今回は高野山へ出張。
⑤「本能寺の変の不思議」=これまた、前々作に続いて信長に関する謎ということで、今回は桶狭間へ出張。大河ドラマなどでは、信長の勇猛果敢な人物像を前面に押し出すための逸話のはずの「桶狭間の戦い」が実は・・・
⑥「写楽の不思議」=この人もよく登場しますねぇ・・・東洲斎写楽。ミステリーでも高橋克彦や島田荘司が独自の説を展開してますが、宮田の説は割とノーマルなやつ。
⑦「真珠湾攻撃の不思議」=これはまぁ、謎っていうか罪だよなぁ。近代史を読んでると、何とも言えない大きな「うねり」というか、誰も抗えないような「流れ」を感じてしまう。
以上7編。

今回は、前2作とは異なり、新説(?)を持ち出して議論を行うというスタイルではなく、現地へ赴いての「検証」って感じ。
てことで、ミステリー的な面白みや刺激には正直乏しい。
もしかしてネタ切れ? じゃないとは思いますが、次作は2人の火花散る歴史バトルが読みたいね。


No.570 6点 わらの女
カトリーヌ・アルレー
(2011/10/26 21:03登録)
フランス人女流作家によるサスペンスミステリー。
1人の女性の心理が読者に迫る有名作です。
~独・ハングルグで翻訳の仕事をする聡明な女性・ヒルデガルデ、34歳独身。彼女はいつの日か幸運をもたらす結婚を、と新聞の求縁広告を虎視眈々とチェックする日々をおくっていた。『当方、莫大な資産アリ、良縁求ム。ナルベクハンブルグ出身の未婚ノ方・・・』 これがすべての始まりだった。知性と打算の生み出した見事な手紙が功を奏し、南仏に呼び出された彼女。億万長者の妻の座は目の前だったが、そこには思いもよらぬ罠が待ち受けていた~

確かに面白いし、よくできている。
初版が1956年(昭和31年)ということを勘案すれば、驚くべきクオリティというべきでしょう。
ようやく狙い通りに妻の座を射止めたヒルデガルドの前に、突如現れた困難と挫折・・・それでもそれを乗り越えようと奮戦する彼女・・・
この辺りは、サンペンスものの良さがよく出てますし、頁をめくる手が止まらなくなります。

ただねぇ、やっぱりこれだけ「ドンデン返し」に読み慣れた身にとっては、何となく消化不良の感があるのも事実。
これはこれで、余韻を残して、きれいなラストかもしれませんが、もう一捻り欲しいというのが本音ですねぇ。
事件のカラクリが判明する場面もちょっと早すぎる気が・・・(おまけに十分予想の範囲内)
これだったら、最後の最後で真相判明! という方が読者ウケはいいでしょう。
トータルの評価としては水準+αってことになっちゃいました。


No.569 6点 傍聞き(かたえぎき)
長岡弘樹
(2011/10/26 21:02登録)
2008年の日本推理作家協会賞短編部門受賞作である表題作を含む作品集。
氏の作品を読むのは初めてですが・・・評価は如何に?

①「迷走」=救急隊員が主人公。怪我人を病院へいち早く運ばなければならない筈の救急車を、隊長が病院の周りをうろつかせていた理由とは、というのが本作のテーマ。最初は登場人物の相関関係がよく分からなかったが、最後は納得。でも、他にいい方法あるんじゃない?
②「傍聞き」=『かたえぎき』とは、『傍らにいて、人の話を聞くともなしに聞く』こと。自分の耳で直接聞くよりも、人が話をしていることを傍で聞くことの方が真実味を感じるという人間心理が本作のテーマ。さすがに、協会賞受賞作らしく上質な作品で、オチも見事。
③「899」=消防士が主人公で、タイトルは火災現場での要救助者を意味する。火災現場に取り残された筈の乳児が突然消えた理由は、というのがテーマ。乳児の体に残った1つの特徴から、事件の背後にあったものが明らかになる・・・ラストは爽やか。
④「迷い箱」=元受刑者の受け入れ施設が舞台。再就職が決まり新しい人生を歩む筈だった男が自殺を図った理由とは、というのがテーマ。捨てるに捨てられないものを一旦入れておくための箱、がタイトルの意味。ラストで判明する、無口な男の本音がやりきれなさを誘います。
以上4編。

どれもなかなかの出来。短編らしい小気味いいプロットと切れ味、そしてラストの余韻を感じる作品が並んでます。
(4編とも、自分を犠牲にしても他人を助ける職業の現場を舞台に、ある登場人物がとった不可解な行動がミステリの核になるという仕掛け。)
ただ、あまりにも作風がカブりすぎでしょう・・・「横山秀夫」と!
作者名を伏せられて読んだら、これ絶対横山秀夫の作品だと思ってましたねぇ。
他作品がどうなのか分かりませんが、そこはどうしても気になる。
(やはり②が一番の秀作。④もなかなか)


No.568 5点 麦酒の家の冒険
西澤保彦
(2011/10/26 21:00登録)
タック&タカチシリーズの実質第2作目。
長編で安楽椅子(アームチェア・ディテクティブ)パズラーに挑んだ野心作(?)
~ドライブの途中、4人が迷い込んだ山荘には、1台のベッドと冷蔵庫しかなかった。冷蔵庫には、エビスのロング缶と凍ったジョッキ。ベッドと96本のビール、13個のジョッキという不可解な遺留品の謎を酩酊しながら推理するうち、大事件の可能性に思い至るが・・・~

作者のチャレンジ精神は買うが、作品としてはあまり魅力を感じなかった。
それが正直な感想。
トライ&エラーで、推論を作っては壊していく中盤が、やはり冗長でクドイ。
推理の材料がベッドとビールだけというのでは、あまりに推論の要素が大きすぎるのが問題点なのだと思う。
作者がお手本としたH.ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」も名作ではあるが、個人的にはあまり面白みを感じなかった作品。
それも、推論部分が大きすぎて、作者の匙加減でどうとでも結論付けられるところが合わなかったのだろう・・・

安楽椅子探偵物は、やはり短編にしか向かないスタイルなのでしょうし、本作も本来は短編向きのプロット。
まぁ、でもこういう荒唐無稽なストーリーは作者ならではっていう気はしますが・・・
(そういやぁ、最近エビスなんて飲んでないなぁ・・・発泡酒やら第3のビールばかり・・・)


No.567 7点 騙す骨
アーロン・エルキンズ
(2011/10/21 14:13登録)
スケルトン探偵シリーズの最新作(この時点で)かつ第16作目。
今回の舞台はメキシコ南部の田舎町。
~妻ジュリーの親族に招かれメキシコの田舎を訪れたギデオン夫妻。だが、平和なはずのその村で、不審な死体が2体も見つかっていた。銃創があるのに弾の出口も弾自体も見当たらないミイラ化した死体と、小さな村なのに身元が全く不明の少女の白骨死体だ。村の警察署長の依頼で鑑定を試みたギデオンは、次々と思わぬ事実を明らかにするが、それを喜ばぬ何者かが彼の命を狙い・・・~

「さすが!」とでも言いたくなる良作。
実は本シリーズを読んだのは初めてだったわけですが、16作目でこのクオリティとは恐れ入ります。
ギデオンやジュリーのキャラクターや、登場人物との掛け合いなども翻訳作品とは思えないほどの読みやすさで、スッと頭に落ちてくる感じ。
「骨」を鑑定するたび、事件の様相が次々に切り替わり、最終的には「見事ミステリー的に」収束させる手際にも感心しました。

ただ、難を言えば、やはり「謎」のほとんどが、「骨」経由で判明しているため、読者としては直接の推理が不可能なところでしょうか。
(もちろん、あくまでミステリーですから、恐らくは主要登場人物が何らかの形で関わっているのだろうとの予想はつきますが・・・)
そういった短所を勘案しても、読む価値は十分。
(外国人の名前は頭に入りにくいが、ラテン系の名前は特に覚えにくい。せめて作中表記はファーストネームで統一するとかしてもらえれば・・・)


No.566 3点 遭難者
折原一
(2011/10/21 14:11登録)
長らく続いている作者の「~者」シリーズの1つ。久々に再読。
2分冊「箱入り」という何とも珍しい本。(出版社泣かせじゃない?)
~北アルプスの白馬岳から唐松岳に縦走中の難所で滑落死した青年・笹村雪彦。彼の山への情熱をたたえるため、彼の誕生から死までを追悼集にまとめることになった。企画を持ちかけられた母親は、息子の死因を探るうち、本当に息子は事故死なのだろうかと疑問を抱き始める。登山記録、山岳資料、死体検案
書などが収められた追悼集に秘められた謎、謎、謎・・・~

実に変わった本です。
本作の他にも、『前からでも後ろからでも読める本』(「倒錯の帰結」や「黒い森」)などもあり、「変なこと考える」作家ですよ、折原は!
ただし、本作はこのアイデアのみといってもいい凡作。
いつもの折原作品らしく、リポート風の手記やら昔の文集やらといったものがつぎつぎ登場し、いかにも「罠」が張ってますよというニオイ・・・
でも、この真相では「騙され感」がまるでない。
伏線が張られてるというわけでもないので、読者が予測できる材料も乏しくて、何となく「怪しい奴」と思っていた人物が、予想通り「意外な犯人」として究明される始末とは・・・
「~者」シリーズは、まあまあの佳作と凡作が入り混じってますが、本作は明らかに「読むだけ時間の無駄」というべきレベル。
(まぁ、ファンなら「珍品」としてどうしても手に取ってしまいますけどね)


No.565 7点 五声のリチェルカーレ
深水黎一郎
(2011/10/21 14:09登録)
文庫オリジナルのノンシリーズ作品。
表題作とその表題作と関係ありそうでなさそうな短編による構成。
①「五声のリチェルカーレ」=あくまで本作のメインはこれ。
~昆虫好きの大人しい少年の起こした殺人事件。犯罪の低年齢化が進む今日では特に珍しくもない事件と思われたが、唯一動機だけは堅く口を閉ざしていた。家裁調査官の森本が接見で得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉。被害者は誰でもよかったという無差別殺人の告白なのか、それとも・・・~

これは、とにかく最終ページの森本の「あるセリフ」に驚けるかどうかでしょう。
これを読んで「エーッ!!」と驚けば、恐らくもう一度ページを遡ってみるに違いない。「どこで○○○ったのか?」という疑問を持って・・・
正直、私自身も分かりませんでした。
しようがなく、ネタバレサイトを閲覧して、やっと納得。これは相当高レベルのテクニックですねぇ・・・
ただ、それ以外は割合淡々と進んでいくので、もう一捻りくらいはあっても良かったかもね。
因みに「リチェルカーレ」とは音楽用語で、独立した器楽曲の一形態のこと。
(『擬態』という言葉がキーワード。確かに、人間も知らず知らずのうちに「擬態」してるんでしょう)

②「シンリガクの実験」=ミステリーとはいえない。「五声・・・」の登場人物とはどうやら別の人物らしいです。
こういつ奴って、周りに1人くらいはいそうな気がする。
これも、ラストの1行が印象深い。(「へぇーっ」)


No.564 7点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ
エドワード・D・ホック
(2011/10/15 21:38登録)
数多いホックの短編シリーズでも最も登場回数の多い探偵役、サム・ホーソーン医師が主役の作品集。
氏の作品らしく、どれも不可能趣味溢れる作品ばかり。
①「有蓋橋の謎」="屋根”の付いた橋を一方から渡ったはずの馬車が向こう岸までの間で忽然と消えた謎。消えるどころか、御者の死体まで発見されて・・・作中でホームズ物の名作「ソア橋」が引き合いに出されてますが、直接の関連はありません。
②「水車小屋の謎」=鉄道便で送ったはずの金庫入りの書類が、到着した駅では消えていた謎。消えるどころか、送り主まで焼死させられて・・・推理クイズとかでよく出てきそうなトリック。分かりやすい伏線が張られてるので、真相に迫るのは簡単かもね。
③「ロブスター小屋の謎」=婚約披露パーティーの余興に呼ばれた奇術師が密室で殺された謎。これもある小道具が伏線として書かれてますので、何となくトリックは分かりましたが・・・
④「呪われた野外音楽堂の謎」=アメリカ独立記念日のコンサート会場で衆人環視の中で町長が殺されたが、犯人が忽然と消えた謎。本編が一番御都合主義っぽいトリック。何も衆人環視のなかでこんなことしなくても・・・と思ってしまう。
⑤「乗務員者の謎」=密室となった列車の乗務員室から大量の宝石が盗まれ、乗務員までも殺された謎。一見すると、相当堅牢な密室に見えましたが・・・真相はちょっと肩透かし的。「○○には気をつけろ!」っていうことかな。
⑥「赤い校舎の謎」=突然姿が消え、神隠しのように誘拐された少年の謎。これも、真相は「なーんだ」というような感想。電話のトリックは古き良き時代を感じさせる・・・
⑦「そびえ立つ尖塔の謎」=クリスマスの日。町の教会にある尖塔内(密室)で牧師が死んでいた謎。これはまぁ現実的な解法かなぁ。
⑧「十六号独房の謎」=牢破りを得意とする伝説の犯罪者。そして、今回も監視の目が光っていた独房から消えてしまった謎。要は「一瞬の隙をついた」っていうことなのだが・・・あまり誉められたトリックではないでしょう。
⑨「投票ブースの謎」=今回は最も狭いスペースの密室で起こった殺人事件。何と、投票ブース(例の、金属板で仕切られただけのやつね)内で町長候補者が殺されてしまう! これはものすごい難問と思っていたら、あっさり解決。実にあっけない。
⑩「農産物祭の謎」=別に農産物祭自体に謎があるわけではない。記念日に大観衆の中で埋めたはずのタイムカプセル。すぐに掘り返してみると、そこには何と死体が・・・という謎。トリックはちょっと読者レベルでは分かりにくいなぁ。
⑪「古い樫の木の謎」=パラシュートで降下中に絞め殺されたスタントマンの謎。本編が一番感心した。短編らしい切れ味のあるトリック&プロットの見本のような作品。だからテニスボールねぇ・・・(でもこれで現役医師が騙されるのだろうかという疑問は感じたが)
⑫「長い墜落」=本編のみ、ホーソーン医師とは無関係の作品。あるオフィスビルから墜落したはずの男が、数時間後に地面に落下した謎。不思議だよねぇ、普通に読めば。これもさすがに面白い。
以上12編。
密室ものを中心に、作者の代表作をセレクトしており、どれも水準級またはそれ以上の作品が並んでいます。トリック自体は眉唾なものや、トリックのためのトリックも混じってますが、まずは十分に楽しめる作品集でしょう。
(個人的には⑪⑫に感心。名作①もなかなか。)


No.563 7点 君の望む死に方
石持浅海
(2011/10/15 21:35登録)
「扉は閉ざされたまま」の続編的位置付け。
通常の「倒叙」とは違う、作者らしいプロットの練られた作品です。
~余命6か月・・・癌告知を受けたソル電機社長の日向は、社員の梶間に自分を殺させる最期を選んだ。日向には創業仲間だった梶間の父親を殺してしまった過去があったのだ。梶間を殺人犯にさせない形で殺人を実行させるために、幹部候補を対象とした研修を準備する日向。彼の思惑どおりに進むかに見えた時ゲストに招いた女性・碓氷優佳の恐るべき推理が計画を狂わせ始めた・・・~

計算され、丹念に作りこまれた作品という印象。
本作の主役は犯人ではなく、犯人役に殺されようとする「被害者」。
ということで、犯人視点の「倒叙」以外に、被害者からの「倒叙」も加わるという凝ったプロット。
探偵役の碓氷を加えた3人の間で虚虚実実の駆け引きが展開されるわけですが、結果的には碓氷の圧勝。
他の方の書評にもありますが、確かに碓氷の推理力が圧倒的すぎて、ちょっと物足りない感はあるかもしれませんね。

思ったよりも辛めの採点のようですが、個人的にはなかなかの良作だと思います。
何より、作品全体に「ピーン」という緊張感が感じられて、「次はどうなる」という期待感を持って読み進めていけるのが何より。
文庫版解説で大倉崇裕氏が「倒叙モノ」の難しさを語られてますが、こういう作品では主人公(本作では日向)の心情と如何にシンクロできるかが生命線だと思いますし、そういう意味でも本作は十分に合格点でしょう。
動機はまぁ、横に置いといて・・・
(それにしても、碓氷優佳のキャラはなかなかいいね。余韻を残した終り方はちょっと消化不良かもね)


No.562 6点 学ばない探偵たちの学園
東川篤哉
(2011/10/15 21:34登録)
私立鯉ケ窪学園探偵部シリーズの第1弾。
「謎解き・・・」のTVドラマ化も決まり、絶好調な作者の「お笑い系」本格ミステリー。
~私立鯉ケ窪学園に転校した赤坂通は、文芸部に入るつもりが、何故か探偵部に入部してしまう。部長の多摩川と部員の八橋とともに部活動に励む(?)なか、学園で密室殺人が発生! 被害者はアイドルを盗撮しようとしていたカメラマン。妙な名前の刑事コンビや個性派ぞろいの教師たちが事件をかき乱すなか芸能クラスのアイドルも失踪。学園が誇る探偵部の推理は炸裂するか!~

「面白い」といえば面白い。
何がと聞かれても困るが・・・
本作のメインは一応2つの「密室」殺人でしょう。
1つめの密室トリックは「うーん」というほかない。「振りこ」の件が出て、もしかして「島荘の例のヤツ?」と思わせますが、さすがにそれは「捨てトリック」とほっとしたのもつかの間、真相はさらに脱力するもの。アレって、そんなに弾力があるんですかねぇ?
2つめのトリックの方が面白い。映像に向いてそうなトリック。ただ、密室にする必然性が如何せん弱いと思うんですけど・・・
プロットそのものは割りと練られているので、程よいボリュームと相俟ってスイスイ読むことが出来ました。
手軽に本格ミステリーを楽しむにはまぁいいかな。
(祖師谷大蔵警部と烏山千歳刑事って・・・東京近郊の住人か元住人にしか分からないんじゃない?)


No.561 4点 魔術の殺人
アガサ・クリスティー
(2011/10/10 16:20登録)
ミス・マープル物の第5長編。
セント・メアリ・ミードから離れ、古い友人のためにひと肌脱ぐマープル。
~旧友の依頼でマープルは変わり者の男と結婚したキャリイという女性の邸宅を訪れた。そこは非行少年ばかりを集めた少年院となっていて、異様な雰囲気が漂っていた。キャリイの夫が妄想癖の少年に命を狙われる事件が起きたのもそんななかであった。しかも、それと同時刻に別室では不可解な殺人事件まで発生していた!~

正直「たいしたことない」作品。
「魔術の殺人」などという、大げさな邦題こそ付けられてますが、魔術などというほどのトリックではありません。
(原題は、『They do it with mirrors』。殺人の現場を奇術やショーの舞台と舞台裏に見立てているわけです・・・)
「誰が殺せたか」といういわゆるアリバイが鍵となるわけですけど、別にマープルでなくて刑事レベルでも十分に看破できるようなトリックだと思うんですけどねぇ。
第2の殺人もよく意味が分からなくて、はっきりいって蛇足気味。
何より、複雑でドロドロした一族の姿をさんざん描写している割には、ミスリードもそれほどなく、結局最も怪しげな人物が真犯人という展開はガッカリ。
ということで、辛い評価となってしまいました。
(別に少年院という設定じゃなくてもよかったんじゃない?)


No.560 6点 人間動物園
連城三紀彦
(2011/10/10 16:16登録)
2002年発表の誘拐ミステリー。
本作もやはり「連城ミステリー」の濃厚な香りが漂います。
~記録的な大雪にあらゆる都市機能が麻痺するなか、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐された。被害者宅の至る所に仕掛けられた盗聴器に一歩も身動きのとれない警察。追い詰められていく母親、そして前日から流される動物たちの血・・・二転、三転の誘拐劇の果てにあるものとは何か?~

なんとも形容し難い作品。
これぞ「連城」というしかないし、他の作家では書けない作品でしょう。
第1部では、奇妙な誘拐事件とそれに翻弄される家族・警察の姿が描かれるが、何ともいえない「違和感」が読者の心に積み重なってくるような感じ。
そして、第2部終盤以降で、事件そのものが鮮やかに反転させられる・・・
冒頭から、普通の誘拐事件ではないという匂いがプンプンさせてましたが、そういう「構図」だったとは・・・
この辺りは、やはり作者の力量を感じずにはいられません。

ただ、他の方の書評にもありますが、「読みにくかった」のは確か。
視点が次々と変わっていく流れや、思わせぶりな表現が多く挿入されていたため、展開を呑み込むのに時間がかかってしまいました。
「動機」はどうですかねぇ・・・
確かにリアリティ的にはキツイ気はしますが、プロットそのものに直結してますから、これはこれでいいとは思いますが・・・
(結局、身代金がすり替わった件はどうなったのだろうか?)

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