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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.1079 6点 隻眼の少女
麻耶雄嵩
(2014/11/30 20:12登録)
第十一回日本推理作家協会賞&本格ミステリー大賞のダブル受賞作。
ということは、作者の代表作といってもいい位置付けの作品になるのかどうか?
2010年発表の長編大作。

~山深き村で大学生の種田静馬は、少女の首切り事件に巻き込まれる。犯人と疑われた静馬を見事な推理で助けたのは、“隻眼の少女”探偵・御陵みかげ。やがて静馬はみかげとともに連続殺人事件を解決するが、十八年後に再び惨劇が・・・。日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した、超絶ミステリーの決定版~

これはまた・・・凄まじい変化球投げたなぁ・・・って感じ。
一見、胸元にズバリとくるストレートなのだが、実はグニャグニャ曲がりながら最後にはストンと落ちる、まるでナックルボールのような作品・・・(意味不明)。
こんなプロット、作者にしか思い付けないだろう。

まずは、「成る程、だからこのタイトルかぁ・・・」って思わされた。
最初から何でこのタイトルなんだろうと疑問に思いながら読み進めてたけど、このラストならこのタイトルは十分に頷ける。
この手のミステリーには付き物の現場地図や屋敷の見取り図の挿入も一切なく、個人的にはメタミステリー的展開を予想していたのだが、真相はある意味想像を超えるものだった。
これはアイデアの勝利としか言いようがない。二度とできない大技だけに、作者にとっても乾坤一擲という感じだったのかも。

とここまで誉めてきたけど、あまりにもメイントリックが大技のため、他はどうしようもないほど不満点が目に付く。
一番はやっぱり動機だろうなぁ・・・。こんな動機ある? しかも首切りで? 見立てもあったもんではない。
十八年前の事件でもねぇ、欺瞞の山場となる最後の事件で使われるのが腹○○ではなぁ・・・
あとは、この真相を読むために付き合わされた序盤から終盤までの込み入ったストーリー・・・決して無駄とはいわないけど、「なんじゃそりゃ」と感じた読者も少なくないことと思う。

でもまぁこんなブッ飛んだ作品を発表できるのも作者ならでは。
「騙された!」という感覚を心ゆくまで味わうのもいいだろう。
(結局水干姿の意味は何だったのか? 作者の趣味か?)


No.1078 5点 わが一高時代の犯罪
高木彬光
(2014/11/30 20:11登録)
1951年発表の中編。
今回はハルキ文庫版にて読了。表題作のほか、続編的位置付けの「輓歌」を併録した中編二編にて構成。

①「わが一高時代の犯罪」=~時あたかも大東亜戦争を目前にしたある日、一高で発生した奇怪な人間消失事件。本館正面に聳える時計塔の中からひとりの学生が忽然と姿を消した! 事件前日に彼を訪ねたひとりの女と一高生に扮した偽学生の影が見え隠れするなか、事件は悲劇的な展開を見せ始める・・・~

これは何とも言えない暗い時代背景。それがメインテーマだろう。もちろん謎の中心は「時計塔の屋上という準密室からの人間消失」ということになるのだが、このトリック自体は別にどうということはない。名探偵・神津恭介なら看破して当然というレベル(実際話中でもすぐに分かったという表記あり)。学友のために身を賭して事件に立ち向かう神津恭介の姿に痺れる、そんな作品。(しかも松下は最初から松下だったのね)

②「輓歌」=青髯、フラテンなど①と重なる人物が登場する続編的作品。堅物・神津恭介をも揺さぶるほどの美女が登場し、男たちの心を弄ぶ。その美女が暮らす名家が今回の舞台。折から戦争前のきな臭い雰囲気が流れる中、突如発生する殺人事件と謎の白木の箱。一体、彼女はどのような秘密を抱えているのか? というのが粗筋なのだが、神津が煽った割にはそれほど大した結末を迎えるわけではない。とにかく“若い”、ひたすら“若い”・・・神津や松下の姿が痛々しさまでも感じさせる。
まぁミステリーとしては二級品としか言いようがないが、①とともに名探偵・神津恭介の「エピソード0(ゼロ)」という扱いでよいのではないか。そういう意味では、ファンにとっては外せない作品かも。

以上2編。
上記のとおりで、それほど高い評価は難しい。
作者もまだまだ試行錯誤だったのではないかと感じさせる作品。
(とにかく暗~い時代だったのね・・・)


No.1077 7点 思考機械の事件簿Ⅰ
ジャック・フットレル
(2014/11/22 17:15登録)
「思考機械」という異名を持つ奇人にして名探偵オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン博士(長い・・・)。
彼の活躍譚を収めた作品集第一弾。
創元推理文庫の『ホームズのライヴァル・シリーズ」にて読了。

①「『思考機械』調査に乗り出す」=唯一、語り手役となる「わたし」が冒頭に登場する一編・・・というのが貴重な作品。作品集の「頭」としては適当かも。
②「謎の凶器」=タイトルどおり、凶器の謎にスポットライトを当てた作品。これって理系ミステリーの走りのようなものか・・・
③「焔をあげる幽霊」=幽霊屋敷にまつわる数々の怪奇現象。“焔”の正体などは正直なところ拍子抜けなのだが、作品全体の雰囲気が良い。
④「情報漏れ」=これもトリックは最初から明々白々なのだが、趣向そのものは好き。
⑤「余分の指」=なぜか人差し指の切断を要求する妙齢の女性・・・という魅力的な謎でスタートする一編。これもトリックは分かりやすいのだが・・・
⑥「ルーベンス盗難事件」=厳重に保管してあった部屋から盗まれたルーベンスの名画。最初から「誰が」は明白だったのだが、「どうやって」にひと工夫が成されている。
⑦「水晶占い師」=インド人の占い師が使う水晶玉に自身の殺害現場が写っていた・・・というカラクリを解き明かす一編。トリックはこの年代の作品によく出てくる道具。
⑧「茶色の上着」=一風変わったプロットの作品で、警察に捕まった稀代の金庫破りが、妻あてに残した暗号メッセージを解き明かすというもの。思考機械でも苦戦した暗号を果たして妻が解けるのかどうか?
⑨「消えた首かざり」=イギリス警察が追いながら決して逮捕することができない貴族かつ犯罪者。盗んだ首かざりをアメリカに持ち込もうとするのだが、どこにも発見されなかった・・・。このトリックは面白いといえば面白いけど、他に方法があるのではと思ってしまう。
⑩「完全なアリバイ」=アリバイ崩しを扱った一編。死亡推定時刻に複数の証言者がある容疑者の完璧なアリバイを思考機械がどのように崩すのか、というのが当然焦点に。でも、この“やり方”は相当リスク高いだろうと訝ってしまう。
⑪「赤い糸」=①~⑩よりもプロットが進化したような印象。巻末解説では密室ものという説明がされているが、そこはあまり響かなかった。それよりも犯人設定にひと工夫あり。

以上11編。
『二プラス二は常に四なのだよ!』という思考機械の決めゼリフが頻繁に登場するなど、とにかくロジックに拘った作品が並んでいる。
とはいっても、やや飛躍気味かなという作品がないわけではなく、この時代の作品らしさは窺える。
名作の誉れ高い「十三号独房の問題」が未収録なのは痛いが、この収録作品も水準以上の出来栄えはあると感じた。
まずは評判どおりの作品という評価に落ち着く。
(個人的ベストは⑪かな。③や⑨なども面白い)


No.1076 4点 殺意は必ず三度ある
東川篤哉
(2014/11/22 17:13登録)
「学ばない探偵たちの学園」に続く、鯉ヶ窪学園探偵部シリーズの第二弾。
今回も探偵部の三馬鹿トリオ(?)が大活躍を見せる、作者ならではの本格ミステリー。
2006年発表ということで、プロ野球に纏わる話もやや古め・・・

~連戦連敗の鯉ヶ窪学園野球部のグラウンドからベースが盗まれた。我らが探偵部にも相談が持ち込まれるが、あえなく未解決に。その一週間後、ライバル校との練習試合の最中に、野球部監督の死体がバックスクリーンで発見された! 傍らにはなぜか盗まれたベースが・・・。探偵部の面々がしよーもない推理で事件を混迷させるなか、最後に明らかになる驚愕のトリックとは?~

何とも緩~い本格ミステリー。
まずまずの分量の長編だけど、煎じ詰めればたった一つの大型トリックに行き着く。
要はそれだけなのだ。

このトリックをいかに有効に使い、ミステリーファンに納得感を持たせるか・・・
見立てやら、寒い(?)ギャグやらを散りばめながら、読者を引きずり込んでいく。
この辺りは作者の得意技。

でもねぇ・・・こんな手の込んだトリックわざわざやります? っていうのは野暮なのだろうか。
こういう作風だし、それが嫌なら読まなきゃいいだけだけど、もう少しプロットに拘ってもいいんじゃないかという気にはなった。

これで作者の既読作品は十二作目になったけど、結局一番良かったのはデビュー作(「密室の鍵貸します」)だなぁ・・・
今のままでは長編を次々発表していくのは危険。
(クオリティはどんどん落ちていくだろう)
トリックのアイデア自体は良いのだから、むしろ短編の方が安心して読めるのかもしれない。


No.1075 6点 扼殺のロンド
小島正樹
(2014/11/22 17:12登録)
「十三回忌」に続き、素人名(?)探偵・海老原浩一が登場する本格長編作品。
師匠・島田荘司を彷彿させる謎と不可能趣味溢れる奇想ミステリー。

~女は裂かれた腹から胃腸を抜き取られ、男は冒されるはずのない高山病で死んでいた。鍵のかかった工場内、かつ窓やドアの開かない事故車で見つかった二つの死体。刑事たちの捜査は混迷を深める。その後も男女の親族はひとりまたひとりと「密室内」で不可解な死を遂げていく・・・。読み手を圧倒する謎の連打と想像を絶するトリックに瞠目必至の長編ミステリー~

これは・・・読み手を選ぶ作品。
小島正樹といえば、島田荘司-二階堂黎人とつながる不可能趣味と大型トリックの後継者という評価が確立された昨今(?)。
特に二階堂氏が妙な方向へ進んでいる感がある現状では、この手の作品を所望する本格ファンの期待を一心に背負う存在。
本作もその期待に応えるべく、本格ミステリーといえばコレ!というべきガジェットがてんこ盛り。
特に三つの事件はいずれも密室という拘りよう。

問題はそのクオリティということになるのだが・・・そこがたいへん微妙。
第一の殺人は紹介文のとおりなのだが、これは果たして医学的、科学的に正しいのだろうか? 目撃者の見た様々な現象を伏線としているのだが、これは相当のご都合主義と言われても致し方ない。
第二、第三の殺人もそれぞれ問題を孕んでいるのだけど、何より密室トリックというより、「なぜ密室に?」というホワイダニットが納得できないのが辛い。
(結局、○○ということなのだろうか? 正直よく分からなかった・・・)

まぁ細かな瑕疵を挙げていくとキリがないのだけど、つまるところ、読者をそういう気にさせてしまうのは師匠・島荘のような「豪腕」の域に達してないということなのだろう。
島荘だって相当強引でご都合主義のオンパレードという作品も多いのだが、舞台設定や登場人物など作品世界の魅力やプロットでそれを十分カバーしてしまう力量がある。
そういう意味では、素材こそ島荘と同じものだけど、料理人の差でここまで評価が違ってくるということだ。

ということでどうしても評価は辛めになってしまうのだが、決して折れずに「王道」を歩んで欲しい。
そう思うミステリーファンも少なくないはず・・・(少ないか?)
(この一族に纏わる背景や動機なんかは二階堂の「悪霊の館」のインスパイアだろうか?)


No.1074 7点 人喰いの時代
山田正紀
(2014/11/13 22:44登録)
SF作家としても名高い作者の処女ミステリー作品。
~昭和初期の小樽(作中ではO-市となってますが)を舞台に、放浪する若者二人-呪師霊太郎と椹秀助が遭遇した六つの不可思議な殺人事件を描く、奇才による本格推理小説の傑作~

①「人喰い船」=樺太へ向かう船が嵐に遭い小樽へ臨時寄港することに。その船中で不可思議な格好で発見された変死体・・・。不可思議な格好には意外な理由があった。本編の序章とも言える一編。
②「人喰いバス」=小樽郊外の山中を走る路線バス。最後部に座っていた特高刑事が毒殺される。ただし、彼には誰も近づいていないはずなのだが・・・という謎。
③「人喰い谷」=よこしまな恋心を持つ者が下ると必ず遭難するという“邪恋谷”。ひとりの女性を奪いあう男二人がその谷でぷっつりと消え失せる・・・。ラストはいわゆる「反転」が待ち受けている。
④「人喰い倉」=小樽は昔から倉の町として有名ですが・・・というわけで、とある密室状態の倉で死体が発見される。自殺かと思われたが、どこにも凶器が存在しない・・・? まぁ普通の密室トリックではありませんが・・・
⑤「人喰い雪まつり」=「雪まつり」とはいっても札幌や横手の雪祭り」ではありません。戦中の北国で起こった悲しい事件。その舞台は小学校のグランドで行われていたつつましい雪まつり。不可能味を醸し出してはいるが、そこがテーマではない。
⑥「人喰い博覧会」=①~⑤までの各編を受け、連作の種明かしの役割を持つ本編。「過去」と「現在」という時空を超え、作者の仕掛けたトリックが明らかにされるのだが・・・。動機、そして舞台背景の意味、作者の狙い・・・成る程ねぇ・・・

以上6編の構成。
本作はとある書店で「店員のオススメ本」として紹介されていたのだが、「なかなかのセンスあるねぇー」と思わせる、とにかく雰囲気のある作品だった。
本格ミステリーと銘打っており、実際作中には密室やら不可能趣味というコード型のガジェットが盛り込まれてはいるが、そこはあまり響かなかった。
①~⑤まで読み進めるうち、徐々に本作に対する“熱”や“思い”が高まっていくような感覚。最終編ですべてが明らかにされるカタルシス。
それこそが連作形式ミステリーの真骨頂だと思うし、そういう観点では本作は合格水準だろう。

山田正紀は本作が初読となる。「ミステリ・オペラ」など、前々から気になっている作品も数多くあるので、引き続き手にとっていくようにしよう。
(巻末解説で触れているけど、1988年発表=綾辻の「十角館」発表の翌年に当たる・・・というのが意外だった)


No.1073 7点 リプレイ
ケン・グリムウッド
(2014/11/13 22:43登録)
1988年発表。
第十四回世界幻想文学大賞(そんな賞があるのね)受賞作。
乾くるみ「リピート」、北村薫「リセット」などの元ネタ作品。

~NYの小さなラジオ局でニュース・ディレクターをしているジェフは、四十三歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、どうやら十八歳に逆戻りしたらしい。記憶と知識は元のまま、身体は二十五年前のもの。株も競馬も思いのまま、彼は大金持ちに。が、再び同日同時刻に死亡。気がつくと、また・・・!! 人生をもう一度やり直せたら、という究極の夢を実現した男の意外な意外な人生~

これは前から読みたかった作品なのだが、ようやく読了。
ある意味、思ったとおりというか予想したとおりの筋書きだったけど、まずまず堪能させていただいた。
他の方も書いているとおり、いわゆる「繰り返し・繰り返し」のプロットであり、現代の目線で言うと物珍しさはない。

金や女性を思いのままにし、“リプレイ”する人生に浮かれる姿が描かれる前半。
必ず同日同時刻に死ぬことが分かり、半ば虚無的な人生を歩むことになる後半・・・
特段謎解き要素があるわけではないが、それでも作者のストーリーテリングにより、主人公そしてそのパートナーの数奇な物語に引き込まれていく。

こういう展開ならば、当然「どんなオチで締めるのか?」という疑問が先に立ってくる。
徐々にリプレイされる期間が狭まっていくなか、死の恐怖に苛まれる二人。そして、ついにリプレイにも終わりが・・・?という後で語られるのは、新たなる物語なのか・・・?
あまり書くとネタバレが過ぎるけども、ラストはシンプル。やっぱり、人生は先が見えないからこそ面白いということなのだろうな。
(でも「一度でいいから人生やり直せたら・・・」というのは誰しも願うことなんだろうけど)

ジャンルでいえばSFかファンタジーかという感じだが、そこはあまり気にならなかった。
エンタメ小説としても十分楽しめる作品だと思う。
(人生をいくつも繰り返していくということは、いくつものパラレルワールドが作られてるってことだよねぇ・・・て考えると実にSF的だ)


No.1072 5点 人それを情死と呼ぶ
鮎川哲也
(2014/11/13 22:42登録)
1961年発表。鬼貫警部シリーズの長編作品。
当時隆盛を誇った社会派ミステリーのプロットを取り込み、特に松本清張の出世作「点と線」を強く意識した作品となっている。

~人は皆、警察までもが河辺遼吉は浮気の果てに心中したと断定した。しかし、ある点に注目した妻と妹だけは偽装心中との疑念を抱いたのだった・・・。貝沼産業の販売部長だった遼吉はA省の汚職事件に関与していたという。彼は口を封じられたのではないか? そして彼が死んでほくそ笑んだ人物ならば二人いる。調べるほどに強固さを増すアリバイ。驚嘆のドンデン返し。美しい余韻を残す長編~

他の方の書評は好意的な意見が多いようだけど、個人的には今ひとつパッとしない作品という印象が残った。
確かに心中事件という煙幕を張り、終盤に事件の構図そのものをひっくり返すというプロットは見事。
さすが鮎川哲也というべき手練手管。
紹介文どおり、余韻を残すラストもなかなかの味わい。

なのだが、如何せん本格ミステリーとしての出来栄えとしては素直に高評価できない。
特に途中で起こる管理人殺人事件のアリバイトリック。
あるひとりの人物の錯誤に頼ったトリックなのだが、これは相当弱い!
(アリバイトリックのよくある手としては「場所の錯誤」なのだろうが、この「○○の錯誤」は著しく綱渡りだと思うのだが・・・)
フーダニットについても最初から明々白々過ぎでは?
巻末解説では芦辺拓氏が擁護してますが、ここまで分かりやすいと「犯人探し」という、読者にとって本格ミステリー最大の興味を自ら放棄しているようにも見える。

あと加えるなら、鬼貫警部の出番少なすぎ!
他の刑事(or素人)の捜査→頓挫→丹那刑事の捜査→行き詰まり→鬼貫警部の再捜査→解決、というのが本シリーズの王道なのだが、今回は素人が頑張りすぎだな。シリーズファンにとっても満足いくものではなかった。

冒頭に触れたとおり、本作は「点と線」のヒットを相当意識して書いたフシがあるが、二つを読み比べると、鮎川好きの私でも「点と線」に軍配を上げざるを得ないと思う。
嫌いな方も多いかもしれないが、本シリーズは「時刻表」と「鬼貫警部の丹念な捜査行」が必須なのではないかと感じた次第。


No.1071 6点 目撃者を捜せ!
パット・マガー
(2014/11/06 21:07登録)
五作発表された作者の初期長編のうちの第四作目。
「被害者を捜せ」「探偵を捜せ」の次は「目撃者を捜せ」というわけか・・・
1949年発表。

~新聞記者のアンディは社命でリオへ赴く途上にあった。貨物船による長旅、戯曲でも書いて過ごすつもりだったが、乗り合わせた人々は皆それぞれ秘密を抱いているらしく、交わす言葉にも奇妙な緊張感が漂っている。やがて不安は現実のものとなった。乗客の一人が殺害後海へ突き落とされる事件が発生。動機の点で犯人の正体は明瞭だった。が、状況からして存在するはずの目撃者が一向に名乗りを上げない。新たな殺人を恐れたアンディは閉ざされた船上で密かに目撃者捜しを開始した~

なかなか捻りの効いた佳作という評価。
ただ、正直コウルズ夫妻による謎解きが始まるまでは、「ちょっと退屈」という感じになっていた。
とにかく、主人公であるアンディの捜査が的外れというか、なかなか核心に到達しないダラダラ振りなのだ。
(一種の船上ミステリーでもあるわけで、乗客ひとりひとりの“人となり”を丁寧に書いてくれてるのはいいんだけど・・・)

その分逆に、ラストの捻りにやられた感を強く感じることになるのかも。
まぁサプライズというほど大げさなものではないのだけど、これこそ王道の「ミス・ディレクション」と呼びたい。
「なぜ目撃者が名乗り出ないのか?」という本作最大の謎が解き明かされる瞬間の刹那。
これこそが本作の白眉。

これで初期五部作のうち三作を読了。
多少のレベル差はあるけど、やっぱりアイデア&プロットの妙という評価がピッタリ当て嵌る。
残り二作も楽しみにするとしよう。
(これほど主役がコケにされる作品も珍しい・・・)


No.1070 4点 化学探偵Mr.キュリー
喜多喜久
(2014/11/06 21:06登録)
第九回「このミステリーがすごい大賞」を「ラブ・ケミストリー」で受賞し、デビューした作者が贈る連作短篇集。
東京大学大学院修士課程(薬学)修了という華々しい学歴を有する作者のバリバリの理系ミステリー。
果たして素人(経済学部卒業)の私がついていけるのか?

①「化学探偵と埋蔵金の暗号」=まずは連作の初っ端ということで、探偵役の沖野准教授とワトスン役の七瀬舞衣が紹介される冒頭。でも埋蔵金の暗号って・・・これではショボすぎるのではないか?
②「化学探偵と奇跡の治療法」=ガン治療に絡む奇跡の治療法、それが今回の謎。明らかに怪しい民間療法なのだが、なぜか完治した患者がいる・・・? 結果は予想の範囲内。
③「化学探偵と人体発火の秘密」=大学内で催されたパーティーの席上、突如燃え上がった主催者の髪の毛・・・というのが今回解き明かされる謎。人体発火などというと、いかにも化学ミステリーらしいけど、どうにもショボイ真相がイタイ。
④「化学探偵と悩める恋人たち」=同棲を始めた二人なのだが、どうにも彼女の様子がおかしい。そしてなぜか彼の方にはストーカーの影がちらついて・・・。という展開の本編なのだが、結末は十分に予想の範囲内。でもストーカーのくだりって必要だったのか?
⑤「化学探偵と冤罪の顛末」=①~④までも緩い作品が並んでいたが、最後の本編もかなり緩~い展開。ミステリー部分よりは、沖野と七瀬の仄かなラブストーリーっていう方向でまとめたかったんだな。

以上5編。
前言撤回。化学素人でも全く大丈夫です。ノープロブレムっていうか、これでは「理系ミステリー」と呼ぶのはおこがましい。
東野圭吾の「ガリレオ」シリーズに触発されたのか、化学や物理学を応用したトリックをテーマにした作品が増えている昨今。
これもその流れのひとつなのは間違いないだろう。
ちょうど森博嗣「すべてがFになる」が地上波ドラマ化されたけど、本作もそのセン狙ってんじゃないのーと邪推したくなる。
(続編も出されたことだしね)

どうもその辺りがハナについて仕方がない。
ミステリー的には殆ど見るべきものがなかったし、これでは学歴が泣いているじゃないかねぇ・・・
(別にやっかみではない)
続編は多分読まないな。


No.1069 8点 サマー・アポカリプス
笠井潔
(2014/11/06 21:03登録)
「バイバイ・エンジェル」に続いて発表された矢吹駈シリーズの第二長編。
南仏地方を主な舞台に、圧倒的なスケールと壮大な宗教史に彩られた連続殺人事件。
本格ミステリー好きには決して避けては通れない作品だろう。

~ラルース家事件の傷心を癒しきれないナディアは、炎暑のパリで見えざる敵の銃弾を受けた駈に同行し南仏地方を訪れる。心惹かれる青年と過ごすバカンスは、ヨハネ黙示録を主題とした連続殺人の真相究明へと一変する。二度殺された死体、見立て、古城の密室殺人、秘宝伝説、曰くある過去・・・絢爛に散りばめられたモチーフの数々が異端カタリ派の聖地というカンヴァスに描き出されるとき、本格ミステリーの饗応は時空を超えて読む者を陶酔の彼岸に誘う・・・~

これは・・・「大作」という冠に相応しい作品。
前作「バイバイ・エンジェル」は首切りの謎にフォーカスした作品だったが、本作は紹介文のとおり密室あり、見立てあり、二度殺された死体ありと、とにかく盛りだくさん。
本格好きには堪えられないガジェットに彩られている。

「密室」は南仏の都市カルカソンヌの城壁内という広い空間を舞台としているのがミソ。解法そのものはやや拍子抜けかもしれないけど、まずはその舞台設定そのものに賛辞を贈りたい。
「二度殺された死体」については、アリバイトリックと有機的に繋がっているのが面白い。特にアリバイについては「分単位」という細かさ!
そして、それらの“背骨”ともいえるガジェットが「見立て」ということになる。
「見立て」を出してくるからには、その必然性というのが問われるわけで、そこに真っ向勝負を挑んだ野心作ともいえる。

他の皆さんが書かれているとおり、キリスト教の異端「カタリ派」を中心とした宗教史の蘊蓄で多くの頁を占めているところが、本作の評価を微妙にしているのだろう。
確かに蘊蓄に酔っている部分はあるのかもしれないけど・・・でもこれがなかったら「笠井潔」じゃないからなぁー
(当然ながら「見立て」にも関わってくるのだし・・・)

ということで、読了まで時間はかかったけど、個人的にはなかなか楽しい読書にはなった。
「やっぱり、ミステリーはこうでなければ」と再認識した次第。
まっ、この辺は好みの問題ですから・・・


No.1068 7点 大いなる眠り
レイモンド・チャンドラー
(2014/10/26 20:46登録)
原題“The Big Sleep”。1939年に発表されたR.チャンドラーの長編第一作。
ということは、つまりフィリップ・マーロウが登場する長編としても初の作品ということになる。
最近早川書房で復刊された、村上春樹新訳版にて読了。

~私立探偵フィリップ・マーロウ。三十三歳。独身。命令への不服従にはいささか実績のある男だ。ある日、彼は資産家の将軍に呼び出された。将軍は娘が賭場でつくった借金をネタに強請られているという。解決を約束したマーロウは、犯人らしき男が経営する古書店を調べ始めた。表看板とは別にいかがわしい商売が営まれているようだ。やがて男の住処を突き止めるが、周辺を探るうちに三発の銃声が・・・~

いやぁー、やはりF.マーロウは最初からマーロウだったわけですなぁ・・・
(当たり前の話ですが)
後の作品よりは若干若さが目立つ設定&書き方だし、訳文のせいかもしれないけど、いつもよりも“やさぐれ感”が強いようにも思える。
しかし、やはりマーロウはマーロウだなと思わずにはいられない。

チャンドラーの作品には毎回印象的な女性が登場するが、本作では依頼人の娘であるヴィヴィアン&カーメンの姉妹がそれに当たる。
二人とも美貌の持ち主であり、かつあまりにも奔放な女性として登場する。
当然ながら、マーロウは二人の奔放さに巻き込まれながら、頻発する犯罪と対峙することになる。
三つの殺人事件(ひとつは○○自身が起こしたものですが・・・)があらかた片付いたあと、マーロウと二人の間には更なる運命が待ち受けている。
そのシーンこそが本作一番の山場。
ラストはちょっと唐突に終わったなぁという感じだが、マーロウのカッコいい台詞&アクションは今回も強く印象に残った。
そして、終章で判明するタイトルの意味もなかなか味わい深い。

他の方も指摘されているが、本作はややプロットが錯綜気味で、ミステリー的にいうとロジックは殆ど無視されている。
そこを“粗さ”もしくは弱点と捉えることもできるが、訳者である村上春樹氏はあとがきで「それがチャンドラーの持ち味」ということで擁護されており、個人的にはその考え方に賛成したい。

これでマーロウものの長編作品は全て読了したことになるが、個人的ベストは世評通り「長いお別れ」かなぁー
ただし二番手は難しくて、「高い窓」や「湖中の女」も捨てがたいが、本作も独特の味わいがあって、これを押される方もいるのではないかと思う。
いずれにしても、記念すべき「一作目」として、決して外すことのできない作品なのは間違いない。


No.1067 7点 天使たちの探偵
原尞
(2014/10/26 20:45登録)
私立探偵・沢崎シリーズの短篇集。
作者あとがきによると、処女長編「そして夜は甦る」と二作目「私が殺した少女」の間の時期に書かれた作品とのこと。
1990年発表。

①「少年の見た男」=沢崎の元に訪れた依頼人は、何と10歳の少年だった。しかも依頼内容は「ある女性を守ってほしい」というもの。調査を引き受けた沢崎は偶然にも銀行強盗の現場に遭遇する・・・。とにかく非常によくまとまっている佳作。
②「子供を失った男」=世界的な音楽家である在日朝鮮人の男からの依頼。昔一緒に暮らしていた女性の子供から脅迫を受けている・・・。その子供を突き止めた沢崎は事件の裏に潜んだ事実を明らかにしていく。結局男って甘いってことかな・・・
③「240号室の男」=娘の素行調査を依頼してきた金持ちの男。だが、大勢の愛人を持つその男はあるラブホテルの一室で死体として発見されてしまう。血のつながりのない娘に疑いの目が向けられるのだが、沢崎は意外な事実を突き止める・・・。こういう男ってやっぱりいるんだろうなぁー
④「イニシャル“M”の男」=沢崎にかかってきた一本の間違い電話。その相手は何とアイドル歌手だった。しかし、彼女は無惨に殺害された姿で発見されてしまう・・・。っていうことで、犯人と目される男がイニシャルMというわけ。相手が芸能人であろうが、沢崎のスタイルは変わらない。
⑤「歩道橋の男」=ある日事務所にやって来た妙齢の女性は同業者(私立探偵)だった。意外な申し出をしてきた彼女なのだが、歩道橋から突き落とされ大怪我をすることに・・・。沢崎の事務所が入居する雑居ビルの住人が次々に登場するのが興味深い。
⑥「選ばれる男」=タイトルどおり、今回は選挙運動中の候補者が依頼人となる。ただし、沢崎に舞台&設定など関係ない。いつでもどこでもクールそしてドライなのだから・・・

以上6編。
上記のとおり、タイトルの末尾はすべて「男」で統一されていて、文字どおり様々な男が登場する。
大抵の場合は犯罪者なのだが、彼らを含め作品中に登場する男と対極で描かれるのが沢崎ということになる。
とにかく余計なことには関心を示さず、自身の矜持に則って生きる男。
特に本作は、どれも未成年者が絡む事件を扱っているのだが、例え相手が子供であろうが、自身のスタンスを変えることのない沢崎の姿が凛々しく映る。

単なるハードボイルドに留まらず、謎解き要素もふんだんに詰め込んだ良質のミステリー。
短編も十分に達者だし、他には短編集は存在しないため、本作は貴重な作品と言えるだろう。
(ベストは迷うが①かな。②~⑤も良質。⑥はやや毛色の違う作品。)


No.1066 7点 魔の牙
西村寿行
(2014/10/26 20:44登録)
1982年発表の長編作品。
作者得意の「動物もの」のハードバイオレンス、またはハードロマン(?)

~新宿駅前のM銀行から一億八千万円を奪った強盗犯人を追って、涸沼刑事は南アルプス赤石連峰へ分け入る。折からの暴風雨を避けて、湯治場・鹿沢荘には十数名の男女が避難していた。遭遇する刑事と犯人。極限状態に追い込まれた人間の本性が交錯する、長編ハードロマン!~

さすが「西村寿行」。
数多くの作品を残した作者が得意としたのがいわゆる「動物パニック」もの。
鼠やらバッタやら、とにかく恐ろしいまでの描写で人間に襲いかかるのだが、本作で登場する動物が『魔の牙』を持つニホンオオカミ。
作中でも詳しく触れられているが、ニホンオオカミは明治時代には絶滅したとされる動物で、その生体は依然として多くの謎を秘めた伝説の生き物なのだ。
そのオオカミの大群がある山荘に閉じ込められた男女をジリジリと追い詰めていく状況。
徐々に狂っていく男女。
事態を打開しようと山荘を飛び出した屈強の男たちも、オオカミの大群の前には為すすべもなく殺られてしまう・・・

そういう訳で中盤以降は人間対オオカミという図式のなか、徐々に追い詰められていく男女の姿が生々しく書かれていく。
(そこはハードロマンの巨匠・西村寿行の真骨頂)
そして、終盤からラスト。いよいよ進退迫られた残りの男女は決死の覚悟で山を降りる覚悟をする。
それまで沈黙を守っていた屈強の刑事・涸沼のリーダーシップのもと、オオカミの群れとの決死の戦い。
でも、そこはそれ、最後には主人公は生き残るんだろうという甘い予測は大きく裏切られることになる・・・
凄惨なラストシーン。全く救いのないまま終わりを迎えることになる。
もはや冒頭の銀行強盗のくだりなど一切関係なし!
(何のためにそんなシーンを入れたんだろうと思うほど・・・)

まぁこういう手の作品をくだらないと取るか、面白いと取るかは読み手次第だろう。
本サイトではほぼ無視されている作者ではあるが、個人的には声を大にして言いたい。
「面白いものは面白い」と!


No.1065 5点 二人の夫をもつ女
夏樹静子
(2014/10/19 20:37登録)
1980年に発表された短編集。
作者らしい女性心理を細やかに辿ったサスペンスフルな作品が並んでいる、という印象なのだが・・・

①「あなたに似た子」=二組の夫婦が織り成す愛憎劇。子供が相手の夫に似てきたことを契機に広がる疑惑、そして悲劇に向かって進んでいく主人公・・・という展開なのだが、ラストには軽いドンデン返しが待ち受ける。まずまずの面白さ。
②「波の告発」=福岡に単身赴任中の兄が溺死。死に疑惑を持った妹がたどり着いた真相は・・・これまた悲劇なのだが、図太い女性の心理はそうではなかった? プロットは単純。
③「二人の夫を持つ女」=これは当然P.クエンティンの「二人の妻を持つ男」のオマージュなんだろうな。まぁ本家の出来には叶うべくもないということなのだが、これまた図太い女性心理という奴が明らかにされる。
④「朝霧が死をつつむ」=これも①~③と同様、男女の機微や気持ちのすれ違いから生じる悲劇というプロット。登場人物がそもそも少ないのだから、大凡の真相は途中で掴めてしまう。
⑤「ガラスのなかの痴態」=レイプ事件を題材にとった作品。自らもレイプ被害に遭った女性が、疑惑の人物にある罠を仕掛けたのだが・・・そうはうまくいかないのだ、ミステリー的には!
⑥「朝は女の亡骸」=電話を使ったトリック自体は児戯のレベルなのだが、本筋はそんなところにはない。これもまた「怖い女」の話。真相を見抜いた主人公に皮肉な結末が訪れる・・・
⑦「幻の罠」=これもまた⑥同様、主人公の女性に実に皮肉な結末が用意されている。プロットは「疑心暗鬼」ということなのだろうけど、女性の“横並び意識”って奴は本能的なものなのかねぇ?
⑧「夜明けまでの恐怖」=最後の一編でようやく救いのあるストーリーが用意されていた。こんな無茶な計画を実行しようとする主人公(もちろん女性)の動機が全く理解できないのだが、持つべきものは友ということ。

以上8編。
夏樹静子というと「Wの悲劇」「そして誰かいなくなった」など、有名ミステリーのオマージュ作品というイメージがあるのだが、本作もその中のひとつに数えられる作品だろう。
パクリではないのだから、当然本歌取りというか、独自のエッセンスが要求されるのだが、そういう意味では本作は元ネタに叶うべくもないというレベルではある。
ただし、女性心理、特に女性の嫌な部分をさらけ出して書かれる心理描写はさすがだ。
保身や見栄、不安(取り越し苦労的なものだが)などが、思わぬ犯罪の動機に繋がっていく・・・そんな人間の弱さがよく表現されている。後はオチのツイスト感で読ませる作品。

そういう意味ではまとまった作品集という評価もできるかな。
(①⑥⑦辺りがいいかな・・・。後は程々という感じ)


No.1064 7点 女郎ぐも
パトリック・クェンティン
(2014/10/19 20:36登録)
「パズルシリーズ」で始まるダルーズ夫妻ものの掉尾を飾る作品がコレ。
1952年発表の長編。最近創元推理文庫で出た新訳版にて読了。

~演劇プロデューサーのダルースは、妻アイリスが母親の静養に付き添ってジャマイカに発った留守中、作家志望の娘ナニと知り合った。ナニのつましい生活に同情したダルースは、自分のアパートメントは日中誰もいないからそこで執筆すればいいと言って鍵を渡す。それから四、五週後空港へアイリスを迎えに行って帰宅すると、あろうことか寝室にナニの遺体が! 身に覚えのない浮気者のレッテルを押され肩身の狭いダルースは汚名をそそぐべくナニの身辺を調べ始めるが・・・~

さすがの安定感。
そういう表現がピッタリくる作品に仕上がっている。
他の方の指摘どおり、確かに「犯人当て」としては分かりやすいし、もうひと捻りあっていいという感想を持つ方もいるかもしれない。
(最後は勧善懲悪っていうか、そうなるべきだよなぁという真相に落ち着いたんだから・・・)

でもまぁそんなことより、プロットが実にスッキリしているのだ。
余計なものが一切入ってないし、まさにシンプル・イズ・ベストという表現が当て嵌る。
男性としては、ピーターの心情というのは十分理解できるよなぁー。
(「マイ・フェア・レデイ」っていうか、「源氏物語」の若紫っていうか・・・女性には理解できないだろうけど)
“女郎蜘蛛”の巣に絡み取られてしまったピーターの心にシンクロしながら読むのがいいかもしれない。

登場人物たちの裏の顔が徐々に剥がされいく展開も旨い。
大作という訳ではないので評点としてはこんなものだけど、一読の価値アリという作品。
(新訳版は実に読みやすくてGood! それにしてもトラント警部といえば「二人の妻を持つ男」「わが子は殺人者」に登場する、あの警部だったのね・・・)


No.1063 6点 白馬山荘殺人事件
東野圭吾
(2014/10/19 20:35登録)
"1986年発表のノンシリーズ長編。
江戸川乱歩賞受賞作「放課後」(1985年)でデビューした作者は、加賀恭一郎シリーズの一作目となる「卒業~雪月花ゲーム」を経て、長編三作目が本作に当たる。

~一年前の冬、「マリア様はいつ帰るのか」という謎の言葉を残して自殺した兄・公一。その死に疑問を抱いた妹の女子大生・ナオコは、親友のマコトと兄が死んだ信州・白馬のペンション「まざあぐうす」を訪ねた。常連の宿泊客たちは、奇しくも一年前と同じ。各室に飾られたマザー・グースの歌に秘められた謎、ペンションの隠された過去とは? 暗号と密室の本格推理小説!~

今ではすっかり大御所となった東野圭吾も、なかなか初々しい頃があったんだなぁーと思わされる一冊。
本作の特徴は、紹介文のとおり「暗号」と「密室」ということになる。
「暗号」についてはかなり難解。
ペンションの各部屋にある絵に書かれたマザー・グースの詩が解読の鍵となるのだが、最終的に導き出された解答はちょっと拍子抜け(?)と感じたのは私だけだろうか・・・
(この解では、結局アレとアレしか関係なかった、ってことか?)

「密室」についても他の方のご指摘どおり、あまり感心できるトリックではなかった。
初期作品にはよく「密室」が出てくるけど、前出の「放課後」でも「卒業」でも密室トリックは鮮やかというレベルからは程遠い。
(本作でも図解入りで種明かしされているけど、その割にはねぇ・・・)
序盤にいきなり明かされる「叙述トリック」めいたやり取りも結局??だし、フーダニットにも“切れ”が感じられない。
などなど・・・

ということで、やや辛口の評価になっているけど、では駄作かというと決してそういう訳ではないのだ。
何というか、本当はこんな作品を書きたいわけではないのだけれど、いわゆる「本格ミステリー」を書いてます・・・的な感覚なのだ。
事実、初期の作品群を経て、大作家・東野圭吾は鮮やかな変身を遂げるのだから。
それは決して突然の開花ではなくて、こういう試行錯誤を経て、徐々に成長していった結果なのだろうと思う。

本作にはそういう意味での「初々しさ」を感じてしまうのだ。
なんだか「上から目線」の書評になってしまったようで・・・


No.1062 7点 犯罪カレンダー (1月~6月)
エラリイ・クイーン
(2014/10/12 12:33登録)
ミステリー歳時記とも言える「犯罪カレンダー」。
本作はそのうちの前半部分(1月~6月)を集録した前編。
優れたミステリー作家であると同時に、優れたアンソロジストでもあった作者が贈る珠玉の作品集。

①「双面神クラブの秘密」=1月。「双面神クラブ」のメンバーがひとりひとりと死んでいく連続殺人事件。なかなか魅力的なお膳立てが揃っているのだが、最終的に決め手となったのは“ことば遊び”的なやつ。向こうの作家ってこういうの好きだよね。
②「大統領の5セント貨」=2月。アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントン。彼が1791年2月、ある場所に記念の品を埋蔵した。その場所とは?というのが本編の謎。一世紀半の時空を超えて、ワシントンとエラリーが対決する。でもこれって、アメリカの歴史に精通してないとピンとこない。
③「マイケル・マグーンの凶月」=3月。所得税の申告書類が盗まれるという変わった事件から始まる本編。事件は意外な広がりを見せるのだが、それよりもアメリカでも確定申告の期限って3月15日だったってことが「へぇー」・・・
④「皇帝のダイス」=4月。銃で撃たれた被害者が握っていたイカサマ用のダイス。そのダイスが示している真犯人とは、ってことでダイニング・メッセージを扱った本編。ただし、最終的には更に意外な真相が待ち受けている。
⑤「ゲテイスバークのラッパ」=5月。南北戦争の激戦地として有名なゲテイスバーク。南北戦争に従軍したレジェンドの老人たちが、毎年ひとりひとりと死んでいく・・・。
⑥「くすり指の秘密」=ジューンブライドの6月。幸福な花嫁が毒殺される。しかも結婚指輪から放たれた毒によって・・・。エラリーが指摘した犯人特定のロジックはちょっとしたことなのだが、この辺りの“使い方”はさすがの熟練ぶり。まとまりのよい作品。(最後がエラリーが一本取られてしまうのだが・・・)

以上6編。
短編の良さが詰まった一冊。そんな感想がピッタリの作品。
短い作品なので、長編に比べれば複雑な事件背景も煩雑な人間関係も描かれず、ある意味実にシンプルなプロット。
シンプル過ぎると「無味乾燥」ということになるのだが、エラリーやクイーン警視、ニッキイなどお馴染みの登場人物たちが賑わすことで、小気味よい読後感にも繋がっている。

まぁ、幾分推理クイズ的な雰囲気なのは仕方ないだろう。
ミステリーの楽しさ、面白さを追求した作品ということで水準以上の評価としたい。
(④⑥を個人的には押したい。次が②③あたりか・・・)


No.1061 6点 転迷
今野敏
(2014/10/12 12:32登録)
大人気警察小説シリーズ「隠蔽捜査」。シリーズも第四弾に突入(スピンオフ企画の「初陣」は別にして)。
大森署署長・竜崎伸也は今度こそ原理原則を貫けるのか・・・(「疑心」では散々だったからね)

~大森署署長・竜崎伸也の身辺はにわかに慌ただしくなった。外務省職員の他殺体が近隣署管内で見つかり、担当区域では悪質なひき逃げ事件が発生したのだ。さらには海外で娘の恋人の安否が気遣われる航空事故が起き、覚醒剤捜査をめぐって厚生労働省の麻薬取締官が怒鳴り込んでくる。つぎつぎと襲いかかる難題と試練・・・闘う警察官僚竜崎は持ち前の頭脳と決断力を武器に、敢然と立ち向かう!~

これはもう「警察小説」というより、ビジネス書で言う「組織論」や「マネジメント書」だな。
作中では、相変わらず警察内での縦割りや組織の歪み、果ては外務省や厚生労働省まで絡んでのパワーバランスや組織のしがらみが竜崎に襲いかかる。
これは何も“警察ならでは”という現象ではなく、一定規模以上の企業や組織内にはそこかしこに存在するものだ。
かくいう私自身も普段、組織内のしがらみや訳の分からない風習(?)という奴に翻弄されている口なのだが・・・

まったく竜崎の思考回路には恐れ入る。
ここまで効率的に、全てのしがらみを破壊したような考え方&行動ができればなぁーと誰もが羨むのではないか?
(普通はできないよねぇ)
まぁ上司というか、トップとしての考え方にも感心しきり。
こういうトップなら部下はついてくるんだろうねぇ・・・何しろ優柔不断さがカケラもないのだから。

何だかミステリーの書評ではなくなってきたけど仕方ない。
もはや中身は二の次で、竜崎がどのように考え、行動&発言するのかが本シリーズの楽しみ方だろう。
個人的には竜崎をうまい具合に操っている(?)伊丹が好きになってきた。
次作も楽しみ。
(「疑心」での優柔不断さは何だったんだ? きっと読者からクレームが出たんだろうなぁ・・・)


No.1060 6点 怪盗グリフィン、絶体絶命
法月綸太郎
(2014/10/12 12:30登録)
講談社ミステリーランドの一冊として出された作品。
法月らしからぬ(?)世界を股にかけた国際謀略小説。2006年発表。

~「あるべきものをあるべき場所に」が信条の怪盗グリフィンに、ニューヨークのメトロポリタン美術館にある贋作のゴッホを本物とすり替えて欲しいという奇妙な依頼が・・・。しかし、それは巧妙な罠だった。グリフィンはつぎに国家の威信をかけた“盗み”を引き受けるハメになる・・・。どんでん返しが連続する痛快冒険活劇!~

子供向けらしからぬスケールの大きい作品だった。
ミステリーランドという看板を掲げているものの、およそ子供向けとは思われない作品も見受けられた本シリーズ(島田荘司の「透明人間の納屋」とか)。
本作は小学校高学年から中学生程度をターゲットにしているなら、まずは狙いピッタリということになるだろう。
(政治的な絡みは理解しがたいかもしれないが・・・)

前座的な第一部を経て、第二部からが本番。
終章である第三部に入ると、ドンデン返しが何回も訪れ、正直訳がわからなくなってくる。
「裏の裏をかく」と見せかけて、「さらに裏をかく」のだから、もはや最初がどうだったのかという話だろう。
まぁ子供向けの主人公(ヒーロー)としては、訪れるピンチを乗り越え、最終的に勝利を得るという展開は必須ということだし、そういう意味ではしっかりしたプロットと言える。

でもまぁなぁ・・・決して面白くないわけではないのだが、満足できたかと言われると「満足」とは答えられない自分がいる。
作者に対しては、やはり硬派な本格ものを求めてしまうんだよなぁ・・・
例えそれが時代錯誤だとしても、ロジックバカを貫いて欲しい。それがファン心理という奴だろう。

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