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ミステリの祭典

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あなたに不利な証拠として

作家 ローリー・リン・ドラモンド
出版日2006年02月
平均点6.33点
書評数6人

No.6 7点 人並由真
(2020/04/13 02:44登録)
(ネタバレなし)
 10~十数年くらい前、評者のミステリ全般への興味が一時期消極的だった頃に、ブックオフの100円均一の中から拾ってきたポケミス版(かなり売れた本だけに古書の流通も旺盛だったのであろう)。
 その当時でもさすがに、これが刊行年次の「このミス1位」だというくらいは知っていた。お得な買い物をしたかなと思う一方、パラパラとなんとなくめくって「今はこんなのが評価されているのか」とだけ所感。そのまま家の中のどっかにいっていた。

 それで現在、雑食系ミステリファンとして目いっぱいの自覚のなか、改めてたまたま出てきた本書を通読したが、うん、確かに独特のオーラを感じる連作短編集であった。

 なんというか、星の数ほどいるミステリ作家のなかにはウォンボーとか実際に警察官の経歴がある作家も散在。そういう連中の筆が踊った時には、実体験に支えられたリアルな筆致がいいようのない迫力を感じさせるが、これはそのなかでも婦警という主題に特化したこともあり、すごく鮮烈な感銘を受けた(つきつめていけば個々のドラマの主題は、それぞれかなり普遍的でよく見知ったものに回帰するような感覚もあるが)。

 個人的にはやはり最後のサラ編の二つがベスト(最初の方が彼女のドラマの正編で、次の話がその正編と裏表になって結晶化する後日譚という趣)なんだけど、そこに行くまでのほかの4人のヒロインの連作、諸作も<生半可な読み方のは許さないよ>的な気概を感じさせ、確固たる物語の集落をきずきあげていく。
 これまでの人生で読んだ広義のミステリの短編群でいえば……、ハル・エルスン(Hal Ellson/ハーラン・エリスンじゃないよ) の非行少年もの、あの婦警版とでもいう味わい……そう言ってよいような、まだ微妙に違うような?

 ちなみに訳者あとがきに書かれている作者の第二作の長編って、翻訳されないんですかね? 日本語になったら読んでみたいとは思う。たぶんかなり疲れるだろうけど。

No.5 5点 E-BANKER
(2014/12/27 21:03登録)
2004年発表。
アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短編賞を受賞した「傷跡」を含む、五人の女性警察官を主人公とした作品集。

①「完全」=①~③はキャサリンの章。ひとりの男を射殺した女性巡査の心の葛藤を切々と描いた一編。アメリカの警察官ならばこんな場面に出くわすのだろうなぁ・・・
②「味、感触、視覚、音、匂い」=主に女性巡査がこれまでに出くわした「死体」に関して綴られた一編。確かに「臭い」については嫌だろうねえ・・・。これも元警察官ならではの作品だ。
③「キャサリンへの挽歌」=警察官として成長したキャサリンの姿を描く一編。
④「告白」=④~⑤はリズの章。ショートショート程度の分量だが、なかなか味わい深い登場人物・・・
⑤「場所」=こういう話を読んでいると、作者が昔確かに警察官をしていたんだろうなぁと感じさせる。そのくらい臨場感に溢れた一編なのだ。
⑥「制圧」=⑥~⑦はモナの章。警官と銃・・・切っても切れぬ関係だが、女性警官にとって銃で「制圧」することの大変さを思い知る。
⑦「銃の掃除」=たいへん短い作品なのだが、何とも言えない“香り”を感じる作品。巻末解説の池上冬樹氏が本編を絶賛する気持ちも分からなくもない。
⑧「傷痕」=⑧はキャシーの章で、本作がアメリカ探偵作家クラブ賞の対象作品。ミステリー風味の薄い(要はミステリーではない)作品が並ぶなか、最もミステリーっぽいのが本編。一旦解決したはずの事件が、数年後思わぬ形でキャシーの前に現れる。
⑨「生きている死者」=⑨~⑩はサラの章。ホラーっぽいタイトルだが、実際は女性警官たち(複数)の葛藤や悩みを描く一編。本編のみ中編といってもよい分量。読み応えあり。
⑩「わたしがいた場所」=まるで放浪するかのようにとある田舎町にたどり着いたサラ。新たな職業を得て、生まれ変わったような暮らしを送っていたが、ある日事件が起こる・・・。味わいは十分。

以上10編。
これはミステリーと思って読むと、どうしても評価が低くなる。
そうではなく、女性警官たちを主人公にした「叙情詩」或いは「群像劇」なのだ。
謎がどうとか、トリックがどうとかを期待して読んではいけない。

そういう意味では警察小説よりもハードボイルドに近いのかもしれない。
まぁジャンルなんてどうでもよいではないか!
とにかく彼女たちの前を向いて懸命に生きている「姿」を堪能しよう・・・何てことを思った次第。
(やはり⑥がベストだろう。⑨⑩も良。)

No.4 7点 あびびび
(2013/12/12 18:36登録)
テレビドラマや警察小説などの情報から、つくづく警官にはなりたくない、と思っていたが、それもアメリカの女性警官は最たるもので、毎日が地獄ではないかと想像する。

作者は元・女性警官であり、本の内容は実にリアルな衝撃で、凄惨極まりない。思った通り過酷な勤務で、ありとあらゆる事件に遭遇する。最後の、「私がいた場所」では、主人公と同様に色々な考えを巡らせた。この作品が最後で良かった。

No.3 6点 蟷螂の斧
(2013/01/18 21:16登録)
警察小説として位置付けられているようですが、謎解きのミステリーでも、サスペンスものでもありませんでした。5人の女性警察官の心の葛藤を描いた連作短編集(10編)です。うち「傷跡」は、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短篇賞を受賞。2007年版「このミス」第1位ですが、ミステリーを期待して読むと肩透かしとなるでしょう。純文学として読んだ方があっているかも。いかにもアメリカらしい作品でした。

No.2 7点 mini
(2010/10/28 10:10登録)
発売中の早川ミステリマガジン12月号の特集は”警察小説ファイル13”
便乗企画として正攻法でないちょっと変わった警察小説の2冊目

アメリカでは犯人逮捕の際、黙秘権がある事と”あなたの発言は法廷で不利な証拠になる場合がある”事を警察側が告知する義務があって、これを”ミランダ告知”と言う
まるで形式論ではあるが、これを怠ると被告側弁護団から重箱の隅をつつかれて最悪の場合は逮捕自体無効になる時もあるのだと言う
アメリカという社会はそうした裁判の手順にはすごくうるさいらしく、リーガルサスペンス小説などでは事件や訴訟内容よりも、裁判の手続きの方が重要視されたりするのものもある
題名はこのミランダ告知から採ったものだ
この作品は女性警官だった経歴の著者が、警察内部に居て感じたことを赤裸々に綴った形式の徒然草である
それも軽妙ではなくて重いテーマの徒然草だが
警察小説というジャンルにすら属さない小説かもしれない
ネット書評などでは、ただひたすらつまらない、という評価もあったが、そりゃ物語性を求め過ぎな書評だな、徒然草だと思って読めば別につまらなくはない
正直言うと、前半のエッセイ風の話の方が面白くて、かえって後半に物語性が高まると悪い意味で創り過ぎな印象を持ったくらい
しかしだね、この作品を本当に書評出来るのは銃社会のアメリカで元警官の経験のある人だけなんじゃないかと思えてきた
私にゃ無理だ、私に言えるのはこの作品が”文春とこのミス2006年度1位”であり、いかにも1位を取りそうなタイプの作品だという事、それだけ

No.1 6点 touko
(2009/02/17 20:29登録)
あちこちで評判がいいので読んでみました。

作者は元女性警官だそうで、80年代~現代に至るまでのアメリカの犯罪現場と警察内部をリアルに描写した臨場感溢れる短編集でした。
ですが、アメリカ探偵作家クラブ最優秀短編集を受賞した「傷跡」以外の作品には、ほとんどミステリー要素はありません。
それでも面白かったんですが、内容とミニマリズム風の作風があってるんだか、あってないんだか、個人的には微妙な印象。。
10年以上かけて書いたせいもあってか、80~90年代のアメリカ文学のトレンドのタッチなのは仕方ないのかもしれませんが、素材の新鮮味を損なっている感がないでもありません。

それにしても、アメリカはやっぱり銃社会なんだなあと怖くなります。

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