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平均点:6.01点 | 書評数:1812件 |
No.1092 | 6点 | 仮面劇 折原一 |
(2015/01/11 21:09登録) 1992年に発表された本作(「仮面劇~MASQUE」)。 今回、文藝春秋社が「~者シリーズ」として「毒殺者」のタイトルへ改題し再刊行。 「仮面劇」では既読なのだが、改題に当たって直しが入っているとのこと・・・ ~妻に五千万円の保険金をかけたMの殺人は大成功のはずだった。だが、謎の脅迫者の電話に悩まされることになる・・・。一方、五千万円の保険金をかけられた妻は夫の行動に不信を抱いた。もしかして・・・? どんでん返しにつぐドンデン返し。実際の事件に想を得た「・・・者」シリーズの原点となった「仮面劇」を改訂改題して復刊~ 比較的初期の折原らしいテイストを感じる作品。 この頃は生真面目に叙述トリックに取り組んでいたよなぁーということを強く感じた。 (この生真面目さが吉と出るか凶と出るかが問題なのだが・・・) ただ、佳作レベルの作品に比べると叙述の切れ味は今ひとつという印象。 三章立てになっており、さらに「入れ子」構造となっているのが最後に判明するのだが、この「入れ子」が全く活かされていないのだ。 ということで、読者が「あっ」と思わされるのはラスト近くのワンセンテンスのみ。 ただし、この仕掛けも伏線があからさまな分、ちょっとサプライズ感に欠けるんだよなぁー 本作が過去に起こった「トリカブト殺人事件」に発想を得ているのは周知の通り(?)。 まぁ「・・・者」シリーズは全て新聞社会面のB級ニュースに着想を得ているのだが、巻末解説でその辺に作者が触れているのが興味深かった。 ただ、「冤罪者」「失踪者」頃のクオリティが徐々に落ちている感が強いので、そろそろ「これぞ折原!」という作品を期待したい。 (やっぱり「仮面劇」というタイトルの方がベターだと思うけどなぁ・・・) |
No.1091 | 7点 | フローテ公園の殺人 F・W・クロフツ |
(2015/01/11 21:08登録) 1923年発表。 フレンチ警部登場前の初期四作品のうち、「樽」「ポンスン事件」「製材所の秘密」に続く四番目に当たる。 創元文庫の復刊フェア2014の一冊。 (ここ最近復刊フェアでは必ずクロフツが入ってるよねぇ・・・) ~南アフリカ連邦の鉄道トンネル内部で発見された男の死体。それは一見何の奇もない事故死のようだった。しかし、ファンダム警部の迅速な捜査により、事件は一転して凶悪犯罪の様相を帯びてくる。しかし警部はこのとき自分がもっと悪質なトリックに富む大犯罪を手掛けているとは気付かなかった。やがて舞台は南アフリカからスコットランドへ移り、ロス警部が引き継ぎ犯人を追うことに!~ 良くも悪くもクロフツらしい作品。 初期作品に共通しているが、今回も二人の探偵役(ファンダム・ロスの両警部)が登場し、とにかく靴の底をすり減らす捜査を地道に行う。 最初に有望と思われた道はやがて行き止まりであることが判明し捜査は混迷するのだが、地道な捜査の甲斐があって、ついに真相につながる光明を発見する・・・ まさにいつもの展開だ! 当然ながら途中の捜査行が丹念に語られるわけで、その辺りを退屈と取ることはできる。 (あろうことか、訳者があとがきで「退屈」と評しているのだ!) 最終章に突入し、今回も「クロフツらしい生真面目な作品だったなぁ・・・」と思ってきた矢先に訪れた最後の一撃! これこそが本作のプロットの肝だろう。 もちろんアリバイ崩しも重要なガジェットなのだが、本作ではそんなことよりもこの僅か一行の衝撃で「読んだ甲斐があった」と思わせるに十分だろう。 まぁ、いくら○○でも、そこまで警察が見逃すのか? という当然の疑問はあるのだが、時代性もあるし、後から考えると伏線もフェアに張られていたなぁと思う。(クロフツのよくある“手”ではあるのだけど・・・) ということで、クロフツびいきの私としては高評価したい作品。 スコットランドという舞台設定も好み。 |
No.1090 | 5点 | 人質カノン 宮部みゆき |
(2015/01/11 21:07登録) (遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。年末年始は何かと忙しく、書評をアップする余裕がありませんでした。ということで、今回は一挙六冊分アップ!) まずは・・・1996年発表の短編集。 さすがのストーリーテラー振りが堪能できる作品集に仕上がっている(のかな?) ①「人質カノン」=コンビニ強盗に遭遇した主人公の女性。フルフェイスのヘルメットを被った犯人というベタな設定なのだが、その辺に仕掛けはなし。それよりも「コンビニ」という存在を軸とした人間関係をメインに描きたかったのか? ②「十年計画」=たまたま乗ったタクシーの女性運転手。人の良さのにじみ出た人物から遠大な殺人計画という思わぬ話が飛び出てくる・・・。何となく“絵”が浮かんでくるのはやはり筆力だろうか。 ③「過去のない手帳」=昼間の中央線各駅停車。のんびりした電車の網棚で見つけた女性雑誌と手帳。その手帳にはひとりの女性の名前が書かれていた・・・。ちょっとした事件が思わぬ事件につながっていくのか、と思いきや最後は良い話になる。 ④「八月の雪」=これこそ非ミステリー。いじめがきっかけで片足を失った主人公。引きこもっている最中に亡くなった祖父。にこにこ笑うだけの人と思っていた祖父には意外な過去が・・・って、ちょっと「永遠のゼロ」を思い浮かべてしまった。 ⑤「過ぎたこと」=“自分を守ってほしい”という依頼をしてきた中学生。しかし、主人公に告げたプロフィールは嘘だった・・・。数年後、街の雑踏の中であの日の中学生を見かけたのだが・・・サスペンスかと思いきやいい話に。 ⑥「生者の特権」=男にフラれ、飛び降り自殺しようとする主人公が出会ったのは、夜の校舎へ忍び込もうとする小学生。本編でもいじめがテーマとなっているのだが、この時期ホットな話題だったのかな? ⑦「溺れる心」=分不相応な高級マンションを購入した家族。夫の地方転勤を機にマンションを売ることになったのだが、ある日天井から大量の水が・・・? 世間には「溺れる」人間が多いってことだろう。 以上7編。 冒頭に触れたとおり、さすがのストーリーテリング! この一言に尽きる。 ということで書評終了! 【注意事項】ミステリーと思って読まないこと。 (個人的ベストは⑦かな。後は②③。他も粒ぞろいではある。) |
No.1089 | 7点 | ゼロの焦点 松本清張 |
(2014/12/27 21:04登録) 1959年(昭和34年)発表。 「点と線」や「砂の器」と並び、作者の代表作とも言える本作。 これまで何度も映画化やTVドラマ化された有名作品。 ~縁談を受け十歳年上の鵜原憲一と結婚した禎子。本店勤めの辞令が下りた夫は、新婚旅行から戻ってすぐに引き継ぎのため前任地の金沢へ旅立った。一週間の予定を過ぎても戻らない夫を探しに、禎子は金沢へ足を向ける。北陸の灰色の空の下、行方を尋ね歩く禎子はついに夫の知られざる過去を突き止める・・・。戦争直後の混乱が招いた悲劇を描き、深い余韻を残す著者の代表作~ 何とも言えない叙情感溢れる筆致と作品世界。 さすがに名作として語り継がれるだけのクオリティを備えた作品だと思う。 失踪した夫の行方を捜すため、夫の過去を調べるうちに思わぬ秘密が明らかになる・・・ 基本プロットだけを取り出すと、どこにでもある二時間サスペンスのような作品とそう違いはないようにも見える。 でも全然違う。 本作が発表された昭和三十年代前半、そして過去の舞台となる戦争直後という時代性・・・ この舞台設定こそが本作を他の凡庸な作品との大きな差を生んでいるのだ。 人々が、男も女もただ生きるために一生懸命だった時代。 その地獄のような環境から這い上がり、一筋の幸せを掴んだ男と女。 それこそが悲しい事件へと繋がっていくのだ・・・ 「社会派」という一言でまとめるのは簡単だが、人間という生き物の弱さを赤裸々に描いた作品ということなのだろう。 それこそが“リアリズム”なのだと感じさせられた。 評点をつけるのもおこがましいのだが、やはり低い評価はできない佳作。 作者の代表作という位置付けに相応しい一作。 |
No.1088 | 5点 | あなたに不利な証拠として ローリー・リン・ドラモンド |
(2014/12/27 21:03登録) 2004年発表。 アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短編賞を受賞した「傷跡」を含む、五人の女性警察官を主人公とした作品集。 ①「完全」=①~③はキャサリンの章。ひとりの男を射殺した女性巡査の心の葛藤を切々と描いた一編。アメリカの警察官ならばこんな場面に出くわすのだろうなぁ・・・ ②「味、感触、視覚、音、匂い」=主に女性巡査がこれまでに出くわした「死体」に関して綴られた一編。確かに「臭い」については嫌だろうねえ・・・。これも元警察官ならではの作品だ。 ③「キャサリンへの挽歌」=警察官として成長したキャサリンの姿を描く一編。 ④「告白」=④~⑤はリズの章。ショートショート程度の分量だが、なかなか味わい深い登場人物・・・ ⑤「場所」=こういう話を読んでいると、作者が昔確かに警察官をしていたんだろうなぁと感じさせる。そのくらい臨場感に溢れた一編なのだ。 ⑥「制圧」=⑥~⑦はモナの章。警官と銃・・・切っても切れぬ関係だが、女性警官にとって銃で「制圧」することの大変さを思い知る。 ⑦「銃の掃除」=たいへん短い作品なのだが、何とも言えない“香り”を感じる作品。巻末解説の池上冬樹氏が本編を絶賛する気持ちも分からなくもない。 ⑧「傷痕」=⑧はキャシーの章で、本作がアメリカ探偵作家クラブ賞の対象作品。ミステリー風味の薄い(要はミステリーではない)作品が並ぶなか、最もミステリーっぽいのが本編。一旦解決したはずの事件が、数年後思わぬ形でキャシーの前に現れる。 ⑨「生きている死者」=⑨~⑩はサラの章。ホラーっぽいタイトルだが、実際は女性警官たち(複数)の葛藤や悩みを描く一編。本編のみ中編といってもよい分量。読み応えあり。 ⑩「わたしがいた場所」=まるで放浪するかのようにとある田舎町にたどり着いたサラ。新たな職業を得て、生まれ変わったような暮らしを送っていたが、ある日事件が起こる・・・。味わいは十分。 以上10編。 これはミステリーと思って読むと、どうしても評価が低くなる。 そうではなく、女性警官たちを主人公にした「叙情詩」或いは「群像劇」なのだ。 謎がどうとか、トリックがどうとかを期待して読んではいけない。 そういう意味では警察小説よりもハードボイルドに近いのかもしれない。 まぁジャンルなんてどうでもよいではないか! とにかく彼女たちの前を向いて懸命に生きている「姿」を堪能しよう・・・何てことを思った次第。 (やはり⑥がベストだろう。⑨⑩も良。) |
No.1087 | 6点 | 明日という過去に 連城三紀彦 |
(2014/12/27 21:02登録) 1993年発表の長編。 一周忌を迎え、「このミス」への二作ランクインなど、死後ますます評価が高まる作者・・・さすがです。 ~矢部綾子、野口弓絵。二十年あまり姉妹のように信頼し合っていたが、弓絵の夫がガンで死んだのを契機に二人は愛憎をあらわにする。互いの夫との深い交わりと心の惨劇をつづる手紙のやり取り。そこに書かれた酷いまでの嘘と感情が恐るべき愛の正体を伝える。ひとりの男の死を突破口に人間の存在そのものの謎を描ききった感動の傑作長編作品~ このネチネチ感! これこそが「連城節」とも言える、氏の真骨頂だろう。 綾子と弓絵、そしてそれぞれの夫。 それぞれがそれぞれの夫と不倫を重ねるという凄まじい関係。 しかもそれだけで終わらず、何と娘までも絡んで愛憎劇を繰り広げていく。 これでは昼ドラ(フジTVの13時30分からの奴ね)も真っ青だ! 本作のもうひとつの特徴が「手紙」。 綾子と弓絵の手紙のやり取りだけでラストまで進んでいく。 そこには当然「仕掛け」があるのだけど・・・ 最初から最後までとにかく「嘘」だらけ! 嘘につぐ嘘で、一体何が真実なのか分からなくなってくるのは必至。 人間、特に女性って何て業が深いんだろう! 愛する対象をまるで鏡のようにして、結局自分自身を愛してるんだろうなぁ・・・ などということを考えさせられた・・・ってこれじゃミステリーの書評じゃないね。 毎回書いてるけど、これも連城にしか書けない作品。 |
No.1086 | 6点 | 跡形なく沈む D・M・ディヴァイン |
(2014/12/20 21:19登録) 原題“Sunk without Trace”。 作者の没年(1980年)の2年前、生前最後に発表された長編ミステリーに当たる。 個人的にもディヴァインの作品は久々に読むような気がする・・・(そうでもないか?) ~ルース・ケラウェイは父を知らずに育った。母の死後、彼女はスコットランドの小都市シルブリッジに渡り、父親を標的とした周到な計画に着手する。一方、人生を立て直すため故郷の役所に勤めたものの、同棲相手との荒んだ生活に憔悴しきっていたケン・ローレンスは同じ職場で働くルースの美貌に似合わぬ狷介な性格に興味を惹かれるが、彼女が父親を探しながら数年前の選挙における不正を追求していることを知る。ルースの行動は街の人々の不安を煽り、ついに殺人事件が発生する・・・~ さすがディヴァイン。 しかもキャリアの最終段階という円熟期ということで、作者の“旨さ”を堪能させられた。 何といっても、登場人物たちの心理描写が見事。 複数の男女が複雑に絡み合い、それぞれがそれぞれに複雑な感情を持ち合わせる。 夫婦、親娘、恋人、片思いの相手etc・・・ ストーリーが進む中でもなかなか本音、真意が見えてこない展開が続いていくのだ。 そして終章に入って判明する真の姿、真の構図。サスペンスフルなガジェットも加えられており、飽きがこないような工夫が成されている。 ただ最初から最後まで一本調子だったなぁーという印象は残った。 視点人物が次々入れ替わることもあり、なかなか本筋が見えないもどかしさというか分かりにくさもあるだろう。 他にもフーダニットにキレがないなど、絶頂期に比べればやや「老い」を感じさせる作品かもしれない。 というわけで、あまり高い評価というのは難しいけど、作者に期待するレベルにはギリギリ達しているかなっていうレベル。 次は是非、絶頂期の作品を出していただきたい。 (って思ってたら創元から新刊が・・・) |
No.1085 | 5点 | 偽りの殺意 中町信 |
(2014/12/20 21:17登録) 「模倣の殺意」のヒットを受け光文社で編まれた作品集第二弾。 寄せ集め的だった前作(「暗闇の殺意」)に比べ、作者最初期の「アリバイ崩し」を集めているのが特徴。 ①「偽りの群像」=鮎川哲也の作品に感銘を受けミステリー作家を志した作者が、繰り返し賞に応募し続けた作品。メインのアリバイトリックについては2014年の現在から見ると正直陳腐化しているのが難。時刻表トリックよりは○○の錯誤をうまく使っているのがミソか。 ②「急行しろやま」=タイトルは発表当時大阪~鹿児島間を走っていた寝台急行。作者得意の時刻表+電話を組み合わせたアリバイトリック。問題は○○の錯誤を利用したメイントリックなのだが、成る程だから福山~笠岡間なのかぁ・・・。広島県には○○町もあるけどねぇー。 ③「愛と死の映像」=中編と呼ぶに十分な分量の作品。それだけ読み応えも十分で、①②よりも更に堅牢なアリバイが刑事たちの前に立ち塞がる。羽田~福井~金沢(小松)間の飛行機を使ったアリバイトリックは、当時の航空事情を知ることができ非常に興味深かった(現在ではまず考えられないが・・・)。最終的に解明されるトリックは時刻表トリックの“王道”とでも言うべきもの。動機にもひと工夫がなされており佳作の評価に相応しい一編。 以上3編。 よく言えば「渋い」、悪く言えば「地味」な作品が並んでいる・・・という印象。 全てが時刻表トリックなので、この手の作品を好まない方には不向きかもしれない。 軽妙さと“気付き”の要素を前面に押し出した鬼貫警部シリーズよりも、とにかく名も無き刑事たちが靴底すり減らし重い雰囲気をまとっているのが特徴。 なお、三編すべてに登場する「津村刑事」は作者の知友・津村秀介氏がモデルとのこと。 津村氏は作者の作風を引き継ぐかのようにトラベルミステリーを量産したが、作者はその後叙述ミステリーへと傾倒していった点が興味深い・・・ 評価はまぁこんなものでしょうか。 (③がダントツ。②も面白いといえば面白い) |
No.1084 | 7点 | クラインの壷 岡嶋二人 |
(2014/12/20 21:16登録) 1989年発表の長編作品。 合作作家として著名な作者がこのペンネームで最後に発表したミステリー(という位置付けでよいのか?) ~ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年・上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た美少女・高石梨沙とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へと入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は・・・。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!~ 素直に楽しめる作品だと思う。 プロットは90年代のハリウッド映画のような感じ。 前半に示される大いなる謎が、後半に入ってふとしたきっかけから徐々に露わになってくる。前半の伏線も順次回収され、終盤のサプライズに突入・・・という具合だ。 SFのような作品と評されるのもよく分かる話で、パラレルワールドをテーマにしているという見方もできる。 本作をミステリー的に読むならば「入れ子」構造、いわゆる「作中作」と似たような構造なのかなぁー どこまでが地の文で、どこまでが作中作なのか・・・最後まで作者の企みに翻弄されてしまうあの感じ。 本作でも終盤、それまで「現実」と思わされていた「世界」が実は「虚構」だったと知らされてしまう。 その刹那! その衝撃! それこそが本作の真骨頂なのだろう。 とにかく読者を“騙す”手口はさすがの一言だ。 現在の目線で見れば、ひと昔前という印象にはなってしまうが、それでも色褪せない面白さを内包した作品。 作者(井上夢人氏ということになるのだが)の代表作のひとつという評価で良い。 サスペンスやSF好きにもお勧めできる。 (ラストはなかなか微妙だが・・・) |
No.1083 | 6点 | トランク・ミュージック マイクル・コナリー |
(2014/12/10 22:14登録) ハリー・ボッシュ刑事シリーズの長編第五作目がコレ。 1997年発表。 「トランク・ミュージック」とは、ヤクザ物たちの殺人方法のひとつで、死体を車のトランクに詰め込む姿を指してこう呼ぶ(らしい)。 ~ハリー・ボッシュが帰ってきた! ハリウッド・ボウルを真下に望む崖下の空き地に停められたロールスロイスのトランクに男の射殺死体があった。『トランク・ミュージック』と呼ばれるマフィアの手口だ。男の名はアントニー・N・アリーソ、映画のプロデューサーだ。どうやら彼は犯罪組織の金を「洗濯する」仕事に関わっていたらしい。ボッシュは被害者が生前最後に訪れたラスヴェガスに飛ぶ。そこで彼が出会ったのは、あの「ナイト・ホークス」で別れた運命の女性エレノア・ウィッシュだった・・・~ さすがの安定感・・・そんな印象だった。 相変わらず組織に与せず、FBIや政府組織を向こうに回し、己の考えを貫こうとするボッシュ。 今回は紹介文のとおり、運命の女性エレノア・ウィッシュが登場し、彼女をめぐってにっちもさっちもいかない状況に陥ることになる。 それでもウィッシュを守り、複雑に絡み合う事件までも解決に導くのだ。 本作ではいつものLAだけではなく、LAよりも退廃した街としてラスヴェガスが登場する。 ボッシュはLAとラスヴェガスを交互に捜査しながら、事件のからくりに気付いていく。 (ラスヴェガスで登場してくる人物・・・女性も男性も、警官も民間人も実に印象的だ・・・) そして終盤は思ってもみなかった裏の構図に気付くことになる。 この辺りのドンデン返し的プロットはもはやお約束。 ただし、これまでのシリーズ作品に比べると、やや起伏に乏しかったかなという感じ。 終盤早々には事件の大筋が判明してしまい、それ以降の頁がやや冗長だった。 ボッシュのピンチも小粒だったし、分かりやすくてももう少し“手に汗握る”展開があっても良かったかなと思う。 シリーズも折り返しを迎え、次作以降の新たな展開に期待というところかな。 よって評価はちょっと辛め。 (今後、ボッシュとエレノアの関係はどうなるのか? 気になるので次作をチェックしていこう・・・) |
No.1082 | 5点 | 殺人偏差値70 西村京太郎 |
(2014/12/10 22:13登録) 500冊以上の著作を誇る作者。 本作は角川書店によって編まれた作品集。ラストの1編以外は“非トラベル・ミステリー”という構成。 表題は最近地上波ドラマ化されたもの。 ①「受験地獄」=この言葉も最近は「死語」になったのだろうか? 二浪し何としてもT大に合格したい主人公は、あろうことか受験日当日に朝寝坊をしてしまう。窮地に陥った主人公の取った行動が悲劇を招く。何とも皮肉なラスト。 ②「海の沈黙」=東北の漁村を訪れた新聞記者を待っていたのは漁船の沈没事故。取材を進めると、明らかに沈没は保険金狙いの偽装事故に思えたのだが・・・。これもラストは逆説的。 ③「神話の殺人」=TV業界が舞台の一編。業界を牛耳るスポンサーとそれに群がる業界人たち。「黄金番組殺人事件」という長編も書いている作者はこの業界にも詳しいのか? 設定自体が一昔、ふた昔前だが・・・ ④「見事な被害者」=本編もマスコミ、新聞社が舞台。喉から手が出るほどスクープを欲しがっている記者が陥る陥穽。これも売名行為が横行するマスコミ業界ならでは。 ⑤「高級官僚を死に追いやった手」=今度は官僚たちの権力闘争を描いた作品。まぁ当然ながら汚い世界ではあるのだが・・・これも大人の世界なのだろう。 ⑥「秘密を売る男」=とある財界の大物をひたすら非難する選挙活動を行う男。その男の選挙資金は謎の人物から贈られていた・・・。やがて明らかになる謎の機関。 ⑦「残酷な季節」=ワンマン社長の肝いりで子会社の社長として出向した生え抜きの専務。熱意を込め新事業に邁進していた元専務に罠が迫る・・・。ラストも切なく残酷。 ⑧「友よ 松江で」=本編のみトラベルミステリー風味の作品で、脇役として十津川警部まで登場する。まぁ小品だな。 以上8編。 冒頭に触れたとおり、⑧以外は作者の代名詞であるトラベルミステリー以外の作品が並ぶ。 どれも人間の醜い「保身」とか「妬み」などを元に起こる事件を集めており、それが本作のテーマなのだろう。 どれも小品というレベルの作品ではあるが、さすがにうまくまとめてるなという印象は持った。 旅のお供や時間つぶし程度にはちょうどいいかもしれない。 そんな評価。 (ベストは①かな。②~⑦はマズマズ。⑧はダメ) |
No.1081 | 7点 | さまよえる脳髄 逢坂剛 |
(2014/12/10 22:12登録) 1988年発表のノンシリーズ長編。 発表当時は斬新なジャンルだった、いわゆる「サイコ・サスペンス」に分類される作品。 ~精神科医・南川藍子の前に現れた三人の男たちは、それぞれが脳に「傷」を持っていた。試合中突然マスコット・ガールに襲い掛かり殺人未遂で起訴されたプロ野球選手。制服姿の女性ばかりを次々に惨殺していく連続殺人犯。そして、事件捜査時の負傷がもとで大脳に障害を負った刑事。やがて、藍子のもとに黒い影が迫り始める・・・。人間の脳に潜む闇を大胆に抉り出す傑作長編ミステリー~ これはなかなか興奮させられた。 サイコサスペンスといえば、ちょうど「羊たちの沈黙」が同時期に発表され、当時は流行の最先端ともいえるジャンル。 美貌の女性精神科医が主人公というのも「羊たち・・・」と同様で、サスペンス感を盛り上げるためには最も適したキャラクターだと思う。 本作でも、脳に傷を負った男たちに執拗に狙われる存在として、なかなか淫靡な活躍を見せる。 そしてもうひとつのテーマが脳科学。 「脳」疾患について、精神学的アプローチと脳科学的アプローチが多種紹介される。 特に右脳と左脳の機能の違いについては非常に勉強になった!(今さらだけど・・・) 今となっては一昔前の話ではあるが、「脳」という存在は“大いなるミステリー”ということなのだろう。 本作の山場は終章。 藍子に訪れる大ピンチの連続。 そして解決と思わせた瞬間に判明するドンデン返し! まさかこういうオチが用意されているとは思っていなかった。 (でもこれって伏線なかったよなぁ・・・) 他の方の評価は辛めだけれど、個人的には予想よりも面白かった。 さすがの力量という評価。 |
No.1080 | 6点 | 獣たちの墓 ローレンス・ブロック |
(2014/11/30 20:15登録) 1993年発表のマット・スカダーシリーズ長編。 原題“A Walk among the Tombstones” 「墓場への切符」「倒錯の舞踏」に続く、いわゆる「倒錯三部作」の掉尾を飾る作品。 ~麻薬密売人のキーナンの魅力的な若妻フランシーンが、ブルックリンの街角で誘拐された。キーナンは姿なき犯人の要求に応じて大金を支払う。だが、フランシーンは無惨なバラバラ死体となって送り返されてきた。復讐を誓うキーナンの依頼を受けたスカダーは、常軌を逸した残虐な犯人を追うが・・・。鬼才ブロックの筆が冴える最高のハードボイルドシリーズ!~ 三部作の中では一番落ちる・・・という感想。 前二作(「墓場への切符」「倒錯の舞踏」)が相当強烈でプロットも起伏に富んでいたせいもあるのだけど、それに比べると本作は良くいえば「静謐」。悪く言うと「単調」に思えてしまう。 何より、犯人のキャラが薄味なのが食い足りなさを感じる理由かもしれない。 (紹介文を読んでると猟奇的でサイコめいた犯人像を予想するのだが、実際はそれほどでもない) 一番の山場はやはり終盤の対決シーン。 タイトルどおり「墓場(NYのグリーン・ウッド墓地)」を舞台にスカダー軍団(?)と犯人グループが対峙、緊張感は最高潮を迎える。 ただ、思った程のサプライズなく、それ以降のドンデン返しも特段ないまま終局を迎えてしまう。 まぁ本作の良さはそんなところにはないのだろう。 エレインやTJなどシリーズでお馴染みのキャラクターに加え、本作では依頼人のキーナン兄弟までスカダーに協力を申し出るなど、スカダーの人間的魅力を前面に押し出している感がある。 どちらかというと孤独で静か、他人との接触を避けている印象が強かったスカダーが、周りの人たちの信頼を勝ち得、探偵として人間として成長していく・・・というようなものを描きたかったのではないか? 本作の後、新たな展開を見せる本シリーズ。 なぜか「倒錯三部作」から読み始めることになってしまったのだが、次は遡るのがいいのか、それともシリーズ順に読むのがいいのか? いずれにしても、本シリーズの面白さは不動だな。 (「電話」がしつこいくらいに登場してきたが、あまり○○○ではなかったな・・・) |
No.1079 | 6点 | 隻眼の少女 麻耶雄嵩 |
(2014/11/30 20:12登録) 第十一回日本推理作家協会賞&本格ミステリー大賞のダブル受賞作。 ということは、作者の代表作といってもいい位置付けの作品になるのかどうか? 2010年発表の長編大作。 ~山深き村で大学生の種田静馬は、少女の首切り事件に巻き込まれる。犯人と疑われた静馬を見事な推理で助けたのは、“隻眼の少女”探偵・御陵みかげ。やがて静馬はみかげとともに連続殺人事件を解決するが、十八年後に再び惨劇が・・・。日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した、超絶ミステリーの決定版~ これはまた・・・凄まじい変化球投げたなぁ・・・って感じ。 一見、胸元にズバリとくるストレートなのだが、実はグニャグニャ曲がりながら最後にはストンと落ちる、まるでナックルボールのような作品・・・(意味不明)。 こんなプロット、作者にしか思い付けないだろう。 まずは、「成る程、だからこのタイトルかぁ・・・」って思わされた。 最初から何でこのタイトルなんだろうと疑問に思いながら読み進めてたけど、このラストならこのタイトルは十分に頷ける。 この手のミステリーには付き物の現場地図や屋敷の見取り図の挿入も一切なく、個人的にはメタミステリー的展開を予想していたのだが、真相はある意味想像を超えるものだった。 これはアイデアの勝利としか言いようがない。二度とできない大技だけに、作者にとっても乾坤一擲という感じだったのかも。 とここまで誉めてきたけど、あまりにもメイントリックが大技のため、他はどうしようもないほど不満点が目に付く。 一番はやっぱり動機だろうなぁ・・・。こんな動機ある? しかも首切りで? 見立てもあったもんではない。 十八年前の事件でもねぇ、欺瞞の山場となる最後の事件で使われるのが腹○○ではなぁ・・・ あとは、この真相を読むために付き合わされた序盤から終盤までの込み入ったストーリー・・・決して無駄とはいわないけど、「なんじゃそりゃ」と感じた読者も少なくないことと思う。 でもまぁこんなブッ飛んだ作品を発表できるのも作者ならでは。 「騙された!」という感覚を心ゆくまで味わうのもいいだろう。 (結局水干姿の意味は何だったのか? 作者の趣味か?) |
No.1078 | 5点 | わが一高時代の犯罪 高木彬光 |
(2014/11/30 20:11登録) 1951年発表の中編。 今回はハルキ文庫版にて読了。表題作のほか、続編的位置付けの「輓歌」を併録した中編二編にて構成。 ①「わが一高時代の犯罪」=~時あたかも大東亜戦争を目前にしたある日、一高で発生した奇怪な人間消失事件。本館正面に聳える時計塔の中からひとりの学生が忽然と姿を消した! 事件前日に彼を訪ねたひとりの女と一高生に扮した偽学生の影が見え隠れするなか、事件は悲劇的な展開を見せ始める・・・~ これは何とも言えない暗い時代背景。それがメインテーマだろう。もちろん謎の中心は「時計塔の屋上という準密室からの人間消失」ということになるのだが、このトリック自体は別にどうということはない。名探偵・神津恭介なら看破して当然というレベル(実際話中でもすぐに分かったという表記あり)。学友のために身を賭して事件に立ち向かう神津恭介の姿に痺れる、そんな作品。(しかも松下は最初から松下だったのね) ②「輓歌」=青髯、フラテンなど①と重なる人物が登場する続編的作品。堅物・神津恭介をも揺さぶるほどの美女が登場し、男たちの心を弄ぶ。その美女が暮らす名家が今回の舞台。折から戦争前のきな臭い雰囲気が流れる中、突如発生する殺人事件と謎の白木の箱。一体、彼女はどのような秘密を抱えているのか? というのが粗筋なのだが、神津が煽った割にはそれほど大した結末を迎えるわけではない。とにかく“若い”、ひたすら“若い”・・・神津や松下の姿が痛々しさまでも感じさせる。 まぁミステリーとしては二級品としか言いようがないが、①とともに名探偵・神津恭介の「エピソード0(ゼロ)」という扱いでよいのではないか。そういう意味では、ファンにとっては外せない作品かも。 以上2編。 上記のとおりで、それほど高い評価は難しい。 作者もまだまだ試行錯誤だったのではないかと感じさせる作品。 (とにかく暗~い時代だったのね・・・) |
No.1077 | 7点 | 思考機械の事件簿Ⅰ ジャック・フットレル |
(2014/11/22 17:15登録) 「思考機械」という異名を持つ奇人にして名探偵オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン博士(長い・・・)。 彼の活躍譚を収めた作品集第一弾。 創元推理文庫の『ホームズのライヴァル・シリーズ」にて読了。 ①「『思考機械』調査に乗り出す」=唯一、語り手役となる「わたし」が冒頭に登場する一編・・・というのが貴重な作品。作品集の「頭」としては適当かも。 ②「謎の凶器」=タイトルどおり、凶器の謎にスポットライトを当てた作品。これって理系ミステリーの走りのようなものか・・・ ③「焔をあげる幽霊」=幽霊屋敷にまつわる数々の怪奇現象。“焔”の正体などは正直なところ拍子抜けなのだが、作品全体の雰囲気が良い。 ④「情報漏れ」=これもトリックは最初から明々白々なのだが、趣向そのものは好き。 ⑤「余分の指」=なぜか人差し指の切断を要求する妙齢の女性・・・という魅力的な謎でスタートする一編。これもトリックは分かりやすいのだが・・・ ⑥「ルーベンス盗難事件」=厳重に保管してあった部屋から盗まれたルーベンスの名画。最初から「誰が」は明白だったのだが、「どうやって」にひと工夫が成されている。 ⑦「水晶占い師」=インド人の占い師が使う水晶玉に自身の殺害現場が写っていた・・・というカラクリを解き明かす一編。トリックはこの年代の作品によく出てくる道具。 ⑧「茶色の上着」=一風変わったプロットの作品で、警察に捕まった稀代の金庫破りが、妻あてに残した暗号メッセージを解き明かすというもの。思考機械でも苦戦した暗号を果たして妻が解けるのかどうか? ⑨「消えた首かざり」=イギリス警察が追いながら決して逮捕することができない貴族かつ犯罪者。盗んだ首かざりをアメリカに持ち込もうとするのだが、どこにも発見されなかった・・・。このトリックは面白いといえば面白いけど、他に方法があるのではと思ってしまう。 ⑩「完全なアリバイ」=アリバイ崩しを扱った一編。死亡推定時刻に複数の証言者がある容疑者の完璧なアリバイを思考機械がどのように崩すのか、というのが当然焦点に。でも、この“やり方”は相当リスク高いだろうと訝ってしまう。 ⑪「赤い糸」=①~⑩よりもプロットが進化したような印象。巻末解説では密室ものという説明がされているが、そこはあまり響かなかった。それよりも犯人設定にひと工夫あり。 以上11編。 『二プラス二は常に四なのだよ!』という思考機械の決めゼリフが頻繁に登場するなど、とにかくロジックに拘った作品が並んでいる。 とはいっても、やや飛躍気味かなという作品がないわけではなく、この時代の作品らしさは窺える。 名作の誉れ高い「十三号独房の問題」が未収録なのは痛いが、この収録作品も水準以上の出来栄えはあると感じた。 まずは評判どおりの作品という評価に落ち着く。 (個人的ベストは⑪かな。③や⑨なども面白い) |
No.1076 | 4点 | 殺意は必ず三度ある 東川篤哉 |
(2014/11/22 17:13登録) 「学ばない探偵たちの学園」に続く、鯉ヶ窪学園探偵部シリーズの第二弾。 今回も探偵部の三馬鹿トリオ(?)が大活躍を見せる、作者ならではの本格ミステリー。 2006年発表ということで、プロ野球に纏わる話もやや古め・・・ ~連戦連敗の鯉ヶ窪学園野球部のグラウンドからベースが盗まれた。我らが探偵部にも相談が持ち込まれるが、あえなく未解決に。その一週間後、ライバル校との練習試合の最中に、野球部監督の死体がバックスクリーンで発見された! 傍らにはなぜか盗まれたベースが・・・。探偵部の面々がしよーもない推理で事件を混迷させるなか、最後に明らかになる驚愕のトリックとは?~ 何とも緩~い本格ミステリー。 まずまずの分量の長編だけど、煎じ詰めればたった一つの大型トリックに行き着く。 要はそれだけなのだ。 このトリックをいかに有効に使い、ミステリーファンに納得感を持たせるか・・・ 見立てやら、寒い(?)ギャグやらを散りばめながら、読者を引きずり込んでいく。 この辺りは作者の得意技。 でもねぇ・・・こんな手の込んだトリックわざわざやります? っていうのは野暮なのだろうか。 こういう作風だし、それが嫌なら読まなきゃいいだけだけど、もう少しプロットに拘ってもいいんじゃないかという気にはなった。 これで作者の既読作品は十二作目になったけど、結局一番良かったのはデビュー作(「密室の鍵貸します」)だなぁ・・・ 今のままでは長編を次々発表していくのは危険。 (クオリティはどんどん落ちていくだろう) トリックのアイデア自体は良いのだから、むしろ短編の方が安心して読めるのかもしれない。 |
No.1075 | 6点 | 扼殺のロンド 小島正樹 |
(2014/11/22 17:12登録) 「十三回忌」に続き、素人名(?)探偵・海老原浩一が登場する本格長編作品。 師匠・島田荘司を彷彿させる謎と不可能趣味溢れる奇想ミステリー。 ~女は裂かれた腹から胃腸を抜き取られ、男は冒されるはずのない高山病で死んでいた。鍵のかかった工場内、かつ窓やドアの開かない事故車で見つかった二つの死体。刑事たちの捜査は混迷を深める。その後も男女の親族はひとりまたひとりと「密室内」で不可解な死を遂げていく・・・。読み手を圧倒する謎の連打と想像を絶するトリックに瞠目必至の長編ミステリー~ これは・・・読み手を選ぶ作品。 小島正樹といえば、島田荘司-二階堂黎人とつながる不可能趣味と大型トリックの後継者という評価が確立された昨今(?)。 特に二階堂氏が妙な方向へ進んでいる感がある現状では、この手の作品を所望する本格ファンの期待を一心に背負う存在。 本作もその期待に応えるべく、本格ミステリーといえばコレ!というべきガジェットがてんこ盛り。 特に三つの事件はいずれも密室という拘りよう。 問題はそのクオリティということになるのだが・・・そこがたいへん微妙。 第一の殺人は紹介文のとおりなのだが、これは果たして医学的、科学的に正しいのだろうか? 目撃者の見た様々な現象を伏線としているのだが、これは相当のご都合主義と言われても致し方ない。 第二、第三の殺人もそれぞれ問題を孕んでいるのだけど、何より密室トリックというより、「なぜ密室に?」というホワイダニットが納得できないのが辛い。 (結局、○○ということなのだろうか? 正直よく分からなかった・・・) まぁ細かな瑕疵を挙げていくとキリがないのだけど、つまるところ、読者をそういう気にさせてしまうのは師匠・島荘のような「豪腕」の域に達してないということなのだろう。 島荘だって相当強引でご都合主義のオンパレードという作品も多いのだが、舞台設定や登場人物など作品世界の魅力やプロットでそれを十分カバーしてしまう力量がある。 そういう意味では、素材こそ島荘と同じものだけど、料理人の差でここまで評価が違ってくるということだ。 ということでどうしても評価は辛めになってしまうのだが、決して折れずに「王道」を歩んで欲しい。 そう思うミステリーファンも少なくないはず・・・(少ないか?) (この一族に纏わる背景や動機なんかは二階堂の「悪霊の館」のインスパイアだろうか?) |
No.1074 | 7点 | 人喰いの時代 山田正紀 |
(2014/11/13 22:44登録) SF作家としても名高い作者の処女ミステリー作品。 ~昭和初期の小樽(作中ではO-市となってますが)を舞台に、放浪する若者二人-呪師霊太郎と椹秀助が遭遇した六つの不可思議な殺人事件を描く、奇才による本格推理小説の傑作~ ①「人喰い船」=樺太へ向かう船が嵐に遭い小樽へ臨時寄港することに。その船中で不可思議な格好で発見された変死体・・・。不可思議な格好には意外な理由があった。本編の序章とも言える一編。 ②「人喰いバス」=小樽郊外の山中を走る路線バス。最後部に座っていた特高刑事が毒殺される。ただし、彼には誰も近づいていないはずなのだが・・・という謎。 ③「人喰い谷」=よこしまな恋心を持つ者が下ると必ず遭難するという“邪恋谷”。ひとりの女性を奪いあう男二人がその谷でぷっつりと消え失せる・・・。ラストはいわゆる「反転」が待ち受けている。 ④「人喰い倉」=小樽は昔から倉の町として有名ですが・・・というわけで、とある密室状態の倉で死体が発見される。自殺かと思われたが、どこにも凶器が存在しない・・・? まぁ普通の密室トリックではありませんが・・・ ⑤「人喰い雪まつり」=「雪まつり」とはいっても札幌や横手の雪祭り」ではありません。戦中の北国で起こった悲しい事件。その舞台は小学校のグランドで行われていたつつましい雪まつり。不可能味を醸し出してはいるが、そこがテーマではない。 ⑥「人喰い博覧会」=①~⑤までの各編を受け、連作の種明かしの役割を持つ本編。「過去」と「現在」という時空を超え、作者の仕掛けたトリックが明らかにされるのだが・・・。動機、そして舞台背景の意味、作者の狙い・・・成る程ねぇ・・・ 以上6編の構成。 本作はとある書店で「店員のオススメ本」として紹介されていたのだが、「なかなかのセンスあるねぇー」と思わせる、とにかく雰囲気のある作品だった。 本格ミステリーと銘打っており、実際作中には密室やら不可能趣味というコード型のガジェットが盛り込まれてはいるが、そこはあまり響かなかった。 ①~⑤まで読み進めるうち、徐々に本作に対する“熱”や“思い”が高まっていくような感覚。最終編ですべてが明らかにされるカタルシス。 それこそが連作形式ミステリーの真骨頂だと思うし、そういう観点では本作は合格水準だろう。 山田正紀は本作が初読となる。「ミステリ・オペラ」など、前々から気になっている作品も数多くあるので、引き続き手にとっていくようにしよう。 (巻末解説で触れているけど、1988年発表=綾辻の「十角館」発表の翌年に当たる・・・というのが意外だった) |
No.1073 | 7点 | リプレイ ケン・グリムウッド |
(2014/11/13 22:43登録) 1988年発表。 第十四回世界幻想文学大賞(そんな賞があるのね)受賞作。 乾くるみ「リピート」、北村薫「リセット」などの元ネタ作品。 ~NYの小さなラジオ局でニュース・ディレクターをしているジェフは、四十三歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、どうやら十八歳に逆戻りしたらしい。記憶と知識は元のまま、身体は二十五年前のもの。株も競馬も思いのまま、彼は大金持ちに。が、再び同日同時刻に死亡。気がつくと、また・・・!! 人生をもう一度やり直せたら、という究極の夢を実現した男の意外な意外な人生~ これは前から読みたかった作品なのだが、ようやく読了。 ある意味、思ったとおりというか予想したとおりの筋書きだったけど、まずまず堪能させていただいた。 他の方も書いているとおり、いわゆる「繰り返し・繰り返し」のプロットであり、現代の目線で言うと物珍しさはない。 金や女性を思いのままにし、“リプレイ”する人生に浮かれる姿が描かれる前半。 必ず同日同時刻に死ぬことが分かり、半ば虚無的な人生を歩むことになる後半・・・ 特段謎解き要素があるわけではないが、それでも作者のストーリーテリングにより、主人公そしてそのパートナーの数奇な物語に引き込まれていく。 こういう展開ならば、当然「どんなオチで締めるのか?」という疑問が先に立ってくる。 徐々にリプレイされる期間が狭まっていくなか、死の恐怖に苛まれる二人。そして、ついにリプレイにも終わりが・・・?という後で語られるのは、新たなる物語なのか・・・? あまり書くとネタバレが過ぎるけども、ラストはシンプル。やっぱり、人生は先が見えないからこそ面白いということなのだろうな。 (でも「一度でいいから人生やり直せたら・・・」というのは誰しも願うことなんだろうけど) ジャンルでいえばSFかファンタジーかという感じだが、そこはあまり気にならなかった。 エンタメ小説としても十分楽しめる作品だと思う。 (人生をいくつも繰り返していくということは、いくつものパラレルワールドが作られてるってことだよねぇ・・・て考えると実にSF的だ) |