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ミステリの祭典

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わが心臓の痛み
テリー・マッケイレブシリーズ

作家 マイクル・コナリー
出版日2000年05月
平均点8.33点
書評数6人

No.6 9点 蟷螂の斧
(2019/07/21 00:12登録)
表紙はクリントイーストウッド氏。読み始めると主人公のイメージとは合わず、ケビンコスナー氏を思い浮かべながらの読書となりました(笑)。登場人物の一人が「砂の器」を読んでおり、日本人読者にとってはうれしいところ。またアガサ・ファンとしては、U・Nオーエン氏の云われと同様な命名の小ネタがあり、ほくそ笑んでしまいました。高評価の要因は、伏線の回収が見事な点、動機良し、単行本上下と長いが飽きさせない点等々。著者の作品はハードボイルド系と長編(上・下)とのことで敬遠気味でしたが、今後読んでいきたいと思います。

No.5 9点 あびびび
(2017/12/11 01:20登録)
久しぶりにワクワクしながら読んだ。ハリー・ボッシュもいいけど、テリー・マッケイレブも最高。表紙がクリント・イーストウッドだったから、その姿を思い浮かべながら読んだのが効果的だったかも知れない。

アメリカ、イギリス、フランスで賞を取ったのも頷ける。

No.4 10点 Tetchy
(2017/11/22 23:43登録)
これは誰かの死によって生を永らえた男が、その誰かを喪った人のために戦う物語。しかしその死が自分にとって重くのしかかる業にもなる苦しみの物語でもある。

何しろ導入部が凄い。コンビニ強盗で殺された女性の心臓が移植された元FBI捜査官の許にその姉が訪れ、犯人捜しの依頼をするのである。
これほどまでに因果関係の強い依頼人がこれまでの小説でいただろうか。もうこの設定を考え付いただけで、この物語は成功していると云えよう。

しかし驚くべきはコナリーのストーリーテリングの巧さである。
例えばボッシュシリーズではこれまでパイプの中で死んでいたヴェトナム帰還兵の事件、麻薬取締班の巡査部長殺害事件、ボッシュを左遷に追いやった連続殺人犯ドールメイカー事件、そして母親が殺害された過去の事件、車のトランクで見つかったマフィアの制裁を受けたような死体の裏側に潜む事件、更にノンシリーズの『ザ・ポエット』ではポオの詩を残す“詩人”と名付けられた連続殺人鬼の事件と、それぞれの事件自体が読者の胸躍らせるようセンセーショナルなテーマを孕んでいたが、本書では心臓を移植された相手を殺害した犯人を追うというこの上ないテーマを内包していながらも、その事件自体はコンビニ強盗・ATM強盗と実にありふれたものである。
日本のどこかでも起きているような変哲もない事件でさえ、コナリーは元FBI捜査官であったマッケイレブの捜査手法を通じて、地道ながらも堅実に事件の縺れた謎を一本一本解きほぐすような面白みを展開させて読者の興味を離さない。これは即ち巷間に溢れた事件でさえ、コナリーならば面白くして見せるという自負の表れであろう。

本書の原題は“Blood Work”と実にシンプルだが、これほど確信を突いている題名もないだろう。本来血液検査を表すこの単語、作中ではFBI捜査官のうち、仕事として割り切れぬ怒りを伴う連続殺人担当部門の任務のことを「血の任務」と呼ぶことに由来を見出せるが、本質的にはマッケイレブの体内を流れる依頼人グラシエラの妹グロリアの血が促す任務と云う風に取るのが最も的確だろう。映画の題名も『ブラッド・ワーク』とこちらを採用している。
まさに本書は血の物語だ。血は水よりも濃いと云われるが、これほど濃度の高い人の繋がりを知らされる物語もない。同じ血液型という縛りでごく普通の生活をしていた人たちが突然その命を奪われる。それもその臓器を必要とする者のために。そしてその中にまさか捜査をする自分も含まれていることをも知らされる。そしてその犯人が被害者を殺害することで自分が新たな命を得たことを知らされる。そしてその因果にはさらに醜悪な意図が含まれていたことも判明する。
こんなミステリは読んだことがない!私はこの瞬間コナリーのキャラクター設定、そしてプロット作りの凄さを思い知らされた。

いやはやなんとも凄い物語だった。コナリーはまたもや我々の想像を超える物語を紡いでくれた。そして何よりも凄いのは犯人へ繋がる手掛かりがきちんと提示されていることだ。
つまり読者はマッケイレブと同じものを見ながら、新たな手掛かりに気付く彼の明敏さに気付くのだ。特に真犯人にマッケイレブが気付く大きな手掛かりは明らさまに提示されているのに、驚かされた。コナリー、やはり只のミステリ作家ではない。

No.3 7点 E-BANKER
(2015/08/02 22:01登録)
M.コナリーといえばハリー・ボッシュシリーズということになるが、本作は「ザ・ポエット」に続くノン・シリーズ作品。
(実は本作がノン・シリーズ初作品だと勘違いしていたのだが・・・)
1997年発表の長編。

~連続殺人犯人を追い、数々の難事件を解決してきたFBI捜査官テリー・マッケイレブ。長年にわたる激務とストレスがもとで、心筋症の悪化に倒れた彼は、早期引退を余儀なくされた。その後、心臓移植の手術を受けて退院した彼のもとに、美しき女性グラシエラが現れる。彼女はマッケイレブの胸にある心臓がコンビニ強盗にあって絶命した妹のものだと語った。悪に対する怒りに駆り立てられたマッケイレブは再び捜査に乗り出す。因縁の糸に縛られ、事件はやがてほつれ目を見せ始めるが・・・~

これは佳作だ。
今回の主役マッケイレブは、心臓移植を受けているというハンディを持つ分、ハリー・ボッシュと比べるとやや内省的。
その「心臓移植」を巡って物語は進行していく。
文庫版の上巻では、心臓提供者の姉からの依頼を受けたマッケイレブが連続殺人に巻き込まれ、捜査にのめり込む様が描かれる。
そして下巻に入ると、心臓移植そのものが事件と大きな関わりを持つことが判明していく・・・展開。
(多少ネタバレ気味だが・・・)

やや冗長気味だった中盤までとは一転、終盤に入ると、それまでの伏線が回収され大幅なギアチェンジが図られる。
真犯人の造形もコナリーっぽくていい。
動機はなぁ・・・やや突拍子もないという気がしないでもないけど、まずまずというところ。
魅力的な女性との絡みは、ボッシュシリーズと同様。なぜか、簡単にメイクラブに陥ってしまう・・・

映画版ではクリント・イーストウッドがマッケイレブを演じたとのことだけど、原作とはちょっと違和感あり。
(どう読んでも四十代くらいだもんな・・・)
でもまぁノンシリーズにはもったいないほどの良作なのは間違いなし。
やはり安定感抜群という評価。

No.2 7点 touko
(2012/07/28 12:51登録)
40代にして心筋梗塞で退職した元FBI捜査官である主人公は、コンビニ強盗で殺された女性の心臓を移植されて、なんとか生きながらえることが出来た。
そこに、コンビニ強盗の被害者の妹が、犯人を捕まえて欲しいと訪ねてくる……。

前半の地道さと後半の派手な展開のバランスがいいです。
伏線の回収も無理がなく、手堅い名作。

実はクリント・イーストウッド監督主演の映画の方を先に見てしまっていたのですが、犯人が違うんですね。原作の方がいいと思いますが。
何より映画版の70代主人公と30代美女とのロマンスには違和感ありまくりでしたが、原作はそのへんも無理がありません(笑)。

No.1 8点 kanamori
(2010/09/07 20:28登録)
コナリーの単発作品では、これが個人的ベスト。
心筋症によりFBI捜査官を隠退したマッケイレブを主人公とする本書は、心臓移植の提供者である被害者女性のコンビニ強盗殺人事件を発端に、連続殺人の隠された構図を暴いていくというストーリーです。
FBI時代の回想や被害者女性の姉や遺児との交流を描くことによって浮き彫りになる主人公の造形は、ボッシュのようなエキセントリックさがない分、日本人読者に受け入れやすいように思います。このあたりストーリーテラーとして格段に巧くなっていると思いました。また、終盤のスリリングな展開とサプライズの設定も申し分なく、連続殺人の動機に工夫をこらしたミステリ色の濃い傑作だと思います。

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