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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.1159 6点 折れた竜骨
米澤穂信
(2015/09/20 19:21登録)
2010年発表。
ミステリーとファンタジーとの大いなる融合を目指した作者の野心作。
第64回日本推理作家協会賞受賞の大作。

~ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルクと従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父ローレントに御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた。いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たちが顔を揃えるなか、殺人劇の幕が上がる。魔術と剣と謎解きの巨編!~

最初は『思ったほど面白くなかったな・・・』という感想だった。
まるでひと昔前のRPGのような世界観にあまり没頭できず、中盤の冗長さにやや飽きていたせいかもしれない・・・
ただ、他の方の書評を参考にしているうちに評価はやや変わった。

確かに(相当強烈な)特殊設定だし、ついついそっちに目が行ってしまうのだけど、プロットの根幹は正当なミステリー。
ひとつの殺人事件(しかもほぼ密室状態)の容疑者をロジックをもとにひとりひとり消しながら絞り込んでいく・・・
最後のひとりまで絞り込んだところで、恒例のドンデン返し!
伏線もかなり周到に且つ細かく設定されている。
(もうひとつの密室は相当異例! 何しろ○を○○できるのだから・・・)

「特殊設定」というと、その設定の面白さそのものが鍵になると思うが、本作の場合は世界観のほか、「魔術」の扱いが問題。
「魔術」とするとどうしても『何でもあり』になってしまうのだが、それを謎解きプロットの中心点に持ってきたのが勝利要因なのだろう。
ただし、個人的にはデーン人との戦いなど、本筋とはやや関係のない脇筋の割合が多すぎるのが気になった。
(好きな人は好きなのだろうけど・・・)

ミステリーの可能性を感じさせる作品という意味では評価すべき作品なのかもしれない。
作者の場合、「インシテミル」も特殊設定ものだが、個人的にはこちら(「イン・・・」)の方が好み。
でもすごい才能だとは思う。


No.1158 7点 逃げる幻
ヘレン・マクロイ
(2015/08/23 21:08登録)
1945年発表の第九長編。
作者のメイン・キャラクターであるベイジル・ウィリング博士を探偵役とするシリーズ作品のひとつ。

~幾度も家出を繰り返していた少年が開けた荒野の真ん中から忽然と消えた・・・。ハイランド地方を訪れたアメリカの軍人ダンバー大尉が地元の貴族ネス卿の娘に聞かされたのは、そんな不可解な出来事だった。宿泊先のコテージで話に出た家出少年を偶然発見したダンバーはその目に恐怖が浮かんでいることに気付く。スコットランドを舞台に名探偵ウィリング博士が人間消失と密室殺人に挑む謎解きミステリー~

マクロイらしい“旨さ”が光る作品。
まずは舞台設定が見事。
他の方も触れてますが、スコットランドの陰鬱かつ荒涼とした大地、第二次世界大戦直後という暗い時代背景・・・それらが事件全体に影を落としている。
スコットランドの成り立ちや歴史までもが本作の謎に関わってくるのだ。
(本作を読んでると、イングランドとスコットランドは違う国なんだと改めて認識させられる)

本作のメインテーマは、紹介文のとおり「人間消失」なのだが、その真相はやや拍子抜け気味。
(消えるまでに多少のタイムラグはあるのだろうから、後ろから見ていれば気づきそうなものだが・・・)
密室についてもトリックと呼べるような水準ではない。
終章までは粛々と謎が語られ、家出少年ジョニーを探す展開が続き(密室殺人が出てくるのも何と終章なのだ!)、一体どんな結末を付けてくるのかと心配になってきた矢先にウィリング博士の口から発せられる事件の構図。

これには「成る程」と唸るほかない。
完全に作者に裏をかかれた、っていうこの感覚。
確かに伏線はあからさまだった。(特に二回も登場したあの「数式」・・・)
“旨い”よねぇ・・・
作者の技巧を堪能させていただきました。小説としてもなかなか秀逸。
ただし、インパクトという点ではイマイチかな・・・


No.1157 7点 ジャイロスコープ
伊坂幸太郎
(2015/08/23 21:06登録)
何と、これが初の文庫オリジナルの短篇集。
デビュー以来休むことなく秀作を発表し続ける作者はとにかくスゴイのひとこと!
今回も“伊坂らしい”洒脱でどこかホッとさせられる台詞まわしを期待。

①「浜田青年ホントスカ」=創元推理文庫のアンソロジー挿入ということで、本作で一番ミステリーっぽい一編。いかにも伊坂ワールドに登場しそうな主役級二人が織り成す不思議なドラマと意外性のある展開。「稲垣さん」の放つ台詞もいかにも・・・って感じだ。「ホントスカ」が口癖という浜田青年が実は・・・(ネタバレだから言わない)
②「ギア」=作者本人が「あとがき」で「たまには起承転結のない短篇を・・・」ということで書いた作品。確かにラストは唐突に終わるのだが、要は謎の生物(「セミンゴ」)を書きたかっただけなんだろ! なんだ「セミンゴ」って??
③「二月下旬から三月上旬」=何だか歳時記のようなタイトルなのだが、SF的要素を盛り込んだ一編。時系列をいじっているので、読んでいるうちに何がなんだか分からなくなる感じが好きかどうか・・・ということだろう。
④「if」=まさにタイトルどおり。「もし(過去)・・・だったら」という作品。短い分量なのだが、読みながら「分かる分かる」って思ってしまった。
⑤「一人では無理がある」=何を書いてもネタバレになりそうな一編。最初は「いったい何の話?」って思うのだが、その謎はすぐに判明する。(「作者あとがき」を読むと、最初はラストにネタばらしをするつもりだったとのことだが・・・)
⑥「彗星さんたち」=一時マスコミでよく取り上げられた、新幹線の清掃チームを下敷きとした話。とにかく「いい話」で、読んでいるうちに何だが泣きたくなるのだが、実は“洒落た”趣向が凝らされていることが途中明らかにされる。(さすがだね)
⑦「後ろの声がうるさい」=本作発表に当たって、新たに書き下ろされた一編。要は連作短篇風な「まとめ」を意識した作品なのだが、こういうことを無難にこなしてしまうのが作者の腕という奴かな。

以上7編。
とにかく「さすが」のひと言。以上書評終わり・・・でもいいのだけど、もう少しだけ。
今回はあとがきでの「作者インタビュー」を興味深く読ませていただいた。
最後に長編と短編の違いに触れているのだが、短編の方が読者の期待に堪えるべく「面白い仕掛け」を考えているとのこと・・・
なるほどねぇ・・・

比較的短い期間でこれだけ佳作を量産できる作者って、もはやバケモノですなぁー
もう尊敬するしかないって感じ。
(一番の好みは⑥かな。①も結構面白いよ!)


No.1156 6点 呪縛の家
高木彬光
(2015/08/23 20:59登録)
名作「刺青殺人事件」、「能面殺人事件」に続く第三長編として、1949年より雑誌連載された作品。
名探偵・神津恭介シリーズ。
今回は光文社より新装版として新たに発表されたものを読了。

~「今宵、汝の娘はひとり、水に浮かびて殺されるべし・・・」。紅霊教教祖の孫娘は、湯船のなかで血まみれとなって殺され、予言は的中する。だがそれは、呪われた一族に襲い来る悲劇の序章に過ぎなかった・・・。教祖を大叔父に持つ旧友の鬼気迫る依頼で、教団本部に出向いた松下研三だったが、ついに神津恭介に救援を求めた。名探偵は恐るべき凶事の連鎖を止めることができるのか?~

これは・・・なんとまあ時代がかった作品ではないか。
戦後まだ間もないという時代背景、土地の者にも憎まれた新興宗教の教祖一族に襲いかかる魔手、密室殺人をはじめとする不可能犯罪、得体の知れない登場人物、更には二回にも及ぶ「読者への挑戦」etc
ここまでド本格ミステリーに拘り抜いた作品も珍しい。
(作者の熱意がビンビン伝わってくるようだ・・・うるさいくらいに!)

作者が拘ったであろう第一の殺人。
密室トリックが○○の産物というのはいただけないが、全体的にはうまく考えられているとは思う。
ただし、密室トリックとアリバイが有機的に絡み合っていた「刺青」と比較するとかなり劣後する。(特に「短刀」の扱いが雑すぎる気が・・・)
本作の真骨頂はもちろん意外性十分のフーダニットに行き着く。
いかにも怪しい書き方をしている人物は当然ダミーだろうという読者の予想の更に上を行くプロット。
『考えられる限りの極悪人』という作者の表現を体現する「黒幕」の存在など、ミステリー作家としての作者の武器が惜しげも無く投入されている。

ただなぁー、作者の特徴だから仕方ないけど、表現があまりにも仰々し過ぎないか?
「殺人交響曲」っていうのもあまりピンとこないし、「見立て」にも必然性が薄い。
などなど、前二作と比べると、どうしても突っ込みどころが多く感じる。(動機は・・・まぁ置いといて)

でも好きだよねぇ。本格ファンにとってはこういう「ドロドロ一族もの」は大好物。
さすがに新作でこういう手のジャンルはなかなか出ないと思うので、そういう意味でも貴重な作品。
評点はこれくらいかな・・・
(今回の神津はかなり人間的。鮮やかな推理を披露しながらも、ラストには苦悩することに・・・)


No.1155 6点 死が招く
ポール・アルテ
(2015/08/16 20:39登録)
1988年発表。「第四の扉」に続くツイスト博士シリーズの二作目。
作者自身も語っているとおり、敬愛するJ.Dカーを彷彿させる超本格ミステリーが今回も全開(!)

~内側から錠のかかった密室状態の書斎で、ミステリー作家が煮えたぎる鍋に顔と両手を突っ込み銃を握り締めて死んでいた。傍らの料理は湯気がたっているのに、何故か遺体は死後二十四時間以上経過していた! しかも、この現場の状況は作家が構想中の小説『死が招く』の設定とそっくり同じだった。エキセントリックな作家、追い詰められた夫人、奇術師、薄気味悪い娘、双子の兄弟・・・曰く有りげな人物たちが織り成す奇怪な殺人ドラマ!~

とにかく“J.Dカー好み”のガジェットがてんこ盛り・・・という作品。
密室はもちろんのこと、舞台設定全体に漂う怪奇趣味、謎だらけの登場人物、そして双子までも出てくる・・・
もう本格ファンには堪えられない道具立て!
(時代背景まで1920年代に設定されているのだ)

細かいところを見ていくと・・・
まず「密室」については、一応納得感のある(らしき)説明はあるのだが、かなり強引。
「湯気の立った料理」との関係は、もちろんアリバイトリックとの絡みなのだが、捨て筋の方が納得感があるのがやや難。
双子や奇術師などという道具立てはもはや「雰囲気つくり」だけのためで、本筋への関連はほぼない。
そんなことより、本作の白眉はフーダニットの意外性に尽きる。
終章前にツイスト博士の放つ“ひと言”には多くの読者が唸らされるに違いない。
(「意外な犯人」の典型ではあるのだが・・・)

フーダニットの意外性の副作用で他の部分の整合性に齟齬が生じているというところはあるのだが、まぁそれは痛し痒しという奴で、作者はサプライズ感を重視したということなのだろう。
これぞ「ド本格」という感じがして、やや変化球気味だった前作(「第四の扉」)と比べるとオーソドックスなプロット。
それを好ましいととるか、物足りないととるかは読み手次第だが、個人的には分量の割にはやや詰め込みすぎという気がして、前作よりは評価を下げた。
でもまぁ今後も本シリーズは読み継いでいきたい。


No.1154 7点 宵待草夜情
連城三紀彦
(2015/08/16 20:38登録)
1987年に新潮文庫で出版された作品集。
今回ハルキ文庫で復刊されたものを読了。
やはりこれも“連城らしい”作品が並んでいる。

①「能師の妻」=能楽の老師に嫁いだ後妻。その後妻と義理の息子との師弟関係、そしてただならぬ関係・・・。義理の息子の死に隠された真実とは何か? 連城らしい“ねっとりした”筆致が夏に合わない!
②「野辺の露」=「不義の愛」、そして「不義の子供」・・・。自身の子供ではないかと信じた少年に纏わる犯罪。そして最後に判明する鮮やかな反転・・・。いかにも連城らしい短篇。
③「宵待草夜情」=時代は大正末期。その頃流行った「カフェ」とは、今で言うキャバクラって感じか? それはともかく、男女の織り成す愛情そして愛憎の物語。ラストに判明する真実って要は色○ってことか? それが大きな秘密だった時代ってことかな。
④「花虐の賦」=芝居の師弟関係にある男と女。女は前夫を捨てて師匠のもとへ走ったのだが、その末路は二人の死という結果に・・・。一見、美しい師弟愛なのだが、これまた鮮やかに反転を受ける。
⑤「未完の盛装」=これはスゴイ。連城らしい、連城にしか書けない技巧が詰まっている。過去の犯罪をネタに脅迫を受けているひと組の男女。しかし、ねじ曲がった真実が徐々に明らかになってくる・・・。ねっとりした筆致が何とも言えない。とにかく佳作。

以上5編。
何度も書くけど、こんな作品連城にしか書けない。
「戻り川心中」や「変調二人羽織」に通じる短篇集。
個人的にはどちらかというとトリッキーな本格や大胆な構図を持つ誘拐ミステリーの方が好みなのだが、こういう短篇集も十分楽しめる。

しかしすごい作家だ。
死を惜しむかのように新作が手を変え品を変え出版されているが、それだけ作品を待っている読者がいるということなのだろう。
本作も存分に味わって読むべし!
(個人的には⑤がダントツ。後は③かな。残りもまずまず。)


No.1153 5点 長い長い眠り
結城昌治
(2015/08/16 20:37登録)
1960年発表の長編。
「ひげのある男たち」に続く“郷原部長”シリーズの第二弾。

~明治神宮外苑近くの林で発見された男の死体。黒縁の眼鏡をかけ、鼻下に細いヒゲを蓄えた男の人相は一見重役風。白いワイシャツにきちんとネクタイを締めていたが、なぜか下半身はパンツ一枚であった。郷原部長刑事をはじめとする四谷署刑事課の面々は捜査を進めるが、被害者を中心とした男女の人間関係が判明するばかり。容疑者には事欠かないのに肝心の決め手に欠けるのだ。郷原部長の迷推理の行方は?~

前作(「ひげのある男たち」)と同様、何ともトボけた味わいのある作品。
今回も郷原たちは、関係者たちの複雑で乱れた男女関係に翻弄されながら捜査を進めるハメになる。
そして、本作でも最終的に真相を暴くのは郷原たちではなく、別の事件関係者・・・
という展開。

中盤ではもう容疑者は五人程度に絞られる。
ほぼ全員にアリバイがなく動機がある、ただし誰も決め手がない・・・というもどかしい状況。
終盤に差し掛かった段階で、郷原部長の推理メモという形で、真犯人探しもいよいよ佳境か? と思いきや、意外な線から事件の構図が明らかになるのだ。

ただし、これがサプライズかと問われると、“う~ん??”という感じになってしまう。
事件の鍵と思われた「パンいち姿」の理由についても、何かうやむやのまま終わったようなもどかしさ。
そう!
全体的に「もどかしさ」で溢れた作品なのだ。
タイトルの意味もラストセンテンスでやっと分かるという「もどかしさ」・・・
やっぱり前作の方が上だな。
(それほど悪いわけではないのだが・・・)


No.1152 7点 わが心臓の痛み
マイクル・コナリー
(2015/08/02 22:01登録)
M.コナリーといえばハリー・ボッシュシリーズということになるが、本作は「ザ・ポエット」に続くノン・シリーズ作品。
(実は本作がノン・シリーズ初作品だと勘違いしていたのだが・・・)
1997年発表の長編。

~連続殺人犯人を追い、数々の難事件を解決してきたFBI捜査官テリー・マッケイレブ。長年にわたる激務とストレスがもとで、心筋症の悪化に倒れた彼は、早期引退を余儀なくされた。その後、心臓移植の手術を受けて退院した彼のもとに、美しき女性グラシエラが現れる。彼女はマッケイレブの胸にある心臓がコンビニ強盗にあって絶命した妹のものだと語った。悪に対する怒りに駆り立てられたマッケイレブは再び捜査に乗り出す。因縁の糸に縛られ、事件はやがてほつれ目を見せ始めるが・・・~

これは佳作だ。
今回の主役マッケイレブは、心臓移植を受けているというハンディを持つ分、ハリー・ボッシュと比べるとやや内省的。
その「心臓移植」を巡って物語は進行していく。
文庫版の上巻では、心臓提供者の姉からの依頼を受けたマッケイレブが連続殺人に巻き込まれ、捜査にのめり込む様が描かれる。
そして下巻に入ると、心臓移植そのものが事件と大きな関わりを持つことが判明していく・・・展開。
(多少ネタバレ気味だが・・・)

やや冗長気味だった中盤までとは一転、終盤に入ると、それまでの伏線が回収され大幅なギアチェンジが図られる。
真犯人の造形もコナリーっぽくていい。
動機はなぁ・・・やや突拍子もないという気がしないでもないけど、まずまずというところ。
魅力的な女性との絡みは、ボッシュシリーズと同様。なぜか、簡単にメイクラブに陥ってしまう・・・

映画版ではクリント・イーストウッドがマッケイレブを演じたとのことだけど、原作とはちょっと違和感あり。
(どう読んでも四十代くらいだもんな・・・)
でもまぁノンシリーズにはもったいないほどの良作なのは間違いなし。
やはり安定感抜群という評価。


No.1151 7点 体育館の殺人
青崎有吾
(2015/08/02 22:00登録)
2012年発表。第二十二回鮎川哲也賞を受賞した作者のデビュー作。
“平成の和製クイーン”との異名も耳にする本格パズラー(とのことだが・・・)
いつものとおり文庫化を待ち読了。

~風ヶ丘高校の旧体育館で、放送部部長の少年が何者かに刺殺された。放課直後で激しい雨が降り、現場は密室状態だった。早めに授業が終わり現場体育館にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと警察は決めてかかるが・・・。死体発見現場に居合わせた卓球部員・柚乃は学内随一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。内緒で校内に暮らしているというアニメオタクのダメ人間に・・・~

いろいろ評価はあるだろうが、これほど端正なパズラーは久々に読んだ気がする。
まさにジグゾーパズルのように、ピースのひとつひとつに拘り、伏線を丁寧に撒きながら組み上げていくミステリー。
他の方もご指摘のとおり、「クイーン」になぞらえるのも、あながち間違えではないと思える。

プロットの中心は実にオーソドックス。
密室殺人とアリバイトリック。そしてその二つが瓦解した時に判明するフーダニットの刹那。
確かにロジックの穴は目に付いたのだが、やはり本格好きとしては、徐々に真犯人が絞り込まれていく緊張感・ドキドキ感は何者にも代え難い瞬間なのだ。
(小道具の使い方もなかなか面白い)
一本の「傘」に纏わるロジックも、“若気の至り”と評することもできるのだが、その心意気を買いたい。
動機については・・・まぁ敢えて触れないでおこう。
(学園ミステリーでもあるわけだから、こんなもんだろう)

真犯人解明後に更なるドンデン返しが判明するラスト。これはやや蛇足感というか中途半端感は残った。
若さ溢れる(?)筆致とともに、その辺りは今後に期待というところ。
とにかく、今時こんなコテコテでロジック全開のミステリーを書いてくれたことには素直に敬意を表したい。
次作も楽しみ。
(さすがに「鮎川哲也賞」はレベルが高いね・・・)


No.1150 6点 セブン
乾くるみ
(2015/08/02 21:59登録)
2014年発表の短篇集。
ロジカルな企みに満ち、トリッキーな作品世界に浸れる七つの物語。
「林真紅郎の五つの謎」「六つの手掛かり」に続作品集がく「セブン」・・・さすがに策士!

①「ラッキーセブン」=作者得意の特殊設定プロット。ゲームのルールがなかなか飲み込めずに苦労する読者も多いのではないか。まぁでも、ここまでロジカルな心理戦というのも面白いプロットだとは思う。女性の演技って分からないからね・・・
②「小諸-新鶴343キロの殺意」=西村京太郎か津村秀介のトラベルミステリーを思わせるタイトルだが、全然別種のミステリー。「七人の被害者」が何に見立てられているのかが謎のキーとなるのだが、アナグラムもここまで考えられているとは・・・恐れ入ります!
③「TLP49」=一種のタイムトラベルをプロットとする一編。作者でタイムトラベルというと「リピート」や「スリープ」がすぐに思い浮かぶけど、それよりも何だか複雑。こういう能力があるなら、確かに自分でも○○に利用するよなぁー
④「一男去って・・・」=ショート・ショートのような作品。最初はいいけど、すぐに無理が出てくるだろ! 外見的に!
⑤「殺人テレパス七対子(チートイツ)」=“七対子”とはもちろん麻雀の役のことだが(って麻雀は全然分からないのだが・・・)、テーマは逃げられない部屋から殺人犯が脱出するという密室トリック。映像に関する小道具がトリックに絡んでくるんだけど、関係者の証言があればすぐにバレそうな気がするんだけど・・・
⑥「木曜の女」=一週間の曜日ごとにセックスフレンドを持つ主人公。それぞれが違う性格を持つ女性なのだが、日曜だけは妻との生活を楽しむ・・・って男の理想像かもね。個人的にも「木曜日の女」が一番の好み。
⑦「ユニーク・ゲーム」=これも①の同種。特殊設定の特殊なゲームがテーマ。今度は二つのチームに分かれての心理戦が描かれる。精緻な検討の結果、何とか最善策が導かれたその刹那、一人の浅はかな考えで企みは砕かれてしまうのだが・・・。よくまあこんなこと考えるよなぁー

以上7編。
非常にゲーム性の強い七つの物語。
娯楽性もここまで追求すると潔いような気もするし、あまりにもパズル性が強すぎてリアリティが薄すぎるような気もする。
でもこれも作者らしいのかも。
こんなプロット考えるのは楽しいのか、それとも苦しいのか?
作者に是非聞いてみたい。
(個人的ベストは①or⑦になるかな。)


No.1149 7点 復活の日
小松左京
(2015/07/18 19:37登録)
1964年(昭和39年)に発表されたSF超大作。
作者らしい壮大なスケールを持つ長編作品に仕上がっている。
今回はハルキ文庫版にて読了。

~MM・八八菌・・・実験では摂氏五度で異常な増殖を見せ、感染後五時間で九十八パーセントのハツカネズミが死滅! 生物化学兵器として開発されたこの菌を搭載した小型機が冬のアルプス山中に墜落する。やがて春を迎え、爆発的な勢いで世界各地を襲い始めた菌の前に人類はなすすべなく滅亡する・・・。南極に一万人足らずの人々を残して。人類滅亡の恐怖と再生への模索という壮大なテーマを描き切る感動のドラマ~

小松左京の初読みがコレ。
「首都消失」や「日本沈没」は映像作品では見ているけど、文字で接するのは初めてだった。
まぁさすがだよなぁ・・・
途中からは壮大なスケール感と畳み掛けるような展開に圧倒されてしまった。

「災厄の年」と題された第一部では、事故の結果ばらまかれた菌によって、世界各地で人々が倒れ、国という国が壊れていく様が描かれる。
新種のインフルエンザと思われた疾病が実は大いなる欺瞞と判明する刹那。
(MARSの驚異に晒されている現在と何か被っているような気が・・・)
ほんの数ヶ月で世界中の人類が死滅し、南極大陸にいる人々だけが生き残ることになるが、冬の氷に閉ざされた南極では如何ともしがたく、徒に時間が経過してしまう。

数年後の世界が描かれる第二部。
「復活の日」と題された本章では、菌以外のもうひとつの驚異とされる核ミサイルの報復攻撃を防ぐため、命を懸けてワシントンに向かう日本人隊員の姿が描かれる。
そして訪れる感動のラスト・・・
粗筋だけ書いてても何だかワクワクしてくるのではないか?

もちろん本作は出版当時の科学情勢や世界の力学が色濃く反映されているのだが、約五十年後の現在においても十分に通用するストーリー&プロットだと思う。
角川書店で映画化されているのだが、是非それも見てみたい。


No.1148 6点 くたばれ健康法!
アラン・グリーン
(2015/07/18 19:34登録)
1949年発表。
ユーモアミステリーとしてJ.Dカーの「盲目の理髪師」と並び称される長編作品。

~全米に5,000万人の信者を持つ健康法教祖が死んだ。鍵のかかった部屋で背中を撃たれて、撃たれてからパジャマを着せられたらしい。この風変わりな密室殺人をキリキリ舞いしながら捜査するのは、頭はあまり良くないが純正直者で、人はいいが強情な警部殿。当然初めから終わりまでユーモラスなお笑いが続々・・・~

大筋は世評どおりの面白さ・・・だった。
紹介文のとおり、本作のテーマはズバリ王道の「密室殺人」。
鍵のかかった部屋で銃殺された健康法のカリスマ。彼は銃殺されたばかりか、なぜか撃たれてからパジャマを着せられていることが判明する・・・
かなり難度の高い密室だし、謎の提示だけ見れば実に魅力的だ。
どんなトリックが用意されているのかと期待してしまう。

密室トリックの解法は実に明快で合点がいく。
被害者の“人となり”、キャラクターがトリックと有機的に結びついているし、ビジュアル的にも納得感が高い。
(バカミス的ではあるが・・・)
ただ、「なぜパジャマを着せられたか」については、確かにこういう落とし所にはなるのだろうが、もうちょっとアクロバティックな解法が用意してあってもよかったかなぁと感じた。

ということで、本格ミステリーとしてはまずまず十分な面白さを備えた作品だろう。
ただし難をいえば中盤の冗長さ。
議員同士のやり取りや被害者の後継者の話など、本筋とほぼ無関係の話が続いて、焦点がボケてしまっている。
まっ、でも水準級+αの評価はできる作品。
ユーモア(死語?)についてはそれほどでもない気が・・・


No.1147 4点 明治開化 安吾捕物帖
坂口安吾
(2015/07/18 19:33登録)
昭和25年から27年まで「小説新潮」誌に連載された作品をまとめたもの。
明治20年頃の東京を舞台に、勝海舟(?)そして結城新十郎を探偵役に据えた作品集。
(坂口安吾っていろいろなもの書いてたのね・・・)

①「舞踏会殺人事件」=「舞踏会」という明治時代っぽい舞台設定で起こる毒殺事件。衆人環視のなかでそこまでの小細工ができるのかという疑問はあるけど、まずまずの佳作。
②「密室大犯罪」=タイトルどおり密室殺人がテーマなのだが、この「密室」が実にユルイ・・・。この密室トリックも??
③「ああ無情」=何人もの男たちに言い寄られる美しい娘。その娘が巻き込まれる殺人事件なのだが、肝心のアリバイトリックが今ひとつ理解不能。真犯人の指摘もかなり唐突。
④「万引一家」=なかなか不穏なタイトルだが、実際万引がやめられない家族に引き起こされる事件。目の前に見えている光景を逆から見れば全く異なる・・・ということなのだが。
⑤「血を見る真珠」=これはなかなか良作。船長殺害事件と真珠盗難事件の二つをどのように関連付けて見るかで大きく推理は異なってくる。
⑥「石の下」=囲碁の定石として登場するのがタイトルにもなっている「石の下」。囲碁の対局中に突然死亡した棋士をめぐる事件。
⑦「時計館の秘密」=何だか綾辻行人の作品みたいなタイトルだが、別に「館」ものというわけではない。混乱の時代を背景にした悲しい男女の物語がベース。
⑧「覆面屋敷」=うーん。あまり頭に残らず・・・

以上8編。
私だけなのかもしれないが、実に読みにくい作品だった。
作者との相性が悪いのかというと、「不連続殺人事件」はまずまず面白く拝読したわけで、そういうことでもないと思うのだが・・・
作品のスタイル、進行としてはどれも一緒なのだが、勝海舟のダミー推理、新十郎の推理部分がどれも短すぎて、最初のドラマ部分が多すぎ。

正直、まだ頭の中が混沌としている状況なので、余裕があれば読み直したい。
(でも無理か・・・・)


No.1146 7点 死者たちの礼拝
コリン・デクスター
(2015/06/21 20:03登録)
1979年発表の長編作品。
モース警部シリーズとしては四作目に当たる。

~教会の礼拝の最中に信者が刺殺され、つづいて礼拝を執り行った牧師も謎の死を遂げた。神聖な教会にはいったい何が潜んでいるのか? 休暇を持て余していたモース主任警部は捜査に乗り出すが、関係者はみな行方をくらましており事件は迷宮入りの様相を呈していた。さらに第三の犠牲者と思しき死体が発見され、謎はいよいよ深まっていく。英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を受賞した人気シリーズの第四弾~

シリーズらしさという点からいうと疑問だが、なかなかの面白さ・・・だった。
オックスフォードのとある教会を軸として起こる殺人事件。
モース警部はひょんなことから事件の解明に乗り出すことになるのだが、紹介文のとおり、事件の関係者の殆どは殺されたか行方不明の者ばかりという状況。
モースはいつもの妄想(?)を駆使し、無理矢理巻き込まれた部下のルイスとともに仮説を繰り返していくことになる。

この設定は本シリーズが最も得意とするパターンではないか?
関係者の新たな証言が期待できない状況(しかも少ない関係者からは嘘の証言を聞くことになる・・・)でというのは、モースの仮説捜査が最も得意とするところだ。
正直、ロジックが弱いかなという部分も目立つのだが、それ以上にラストの落としどころが見事に嵌っている。
(ある事件関係者の証言がアンフェアかなという気がしないでもないが・・・)
動機については微妙だけど、補強がなされていて一応の納得感は保たれているのではないか。

今まで読んできたモース警部シリーズに比べると、相対的に本作の評価は上。
世評どおりじゃないなという気がしていただけに、まだまだ面白い作品が残っているのかもしれない。
(ラストシーンは読者向けのサービス?)


No.1145 5点 インディアン・サマー騒動記
沢村浩輔
(2015/06/21 20:02登録)
~奇妙な事件に予想外な結末が待ち受ける、新鋭による不可思議でチャーミングな連作ミステリー~
単行本版の「インディアンサマー騒動記」を改題した文庫版にて読了。
2011年発表。

①「夜の床屋」=無人駅の前には人っ子ひとりいない寂れ切った街・・・と思いきや、なぜか明かりを煌々と灯している一軒の床屋。なぜその床屋はこんな場所で夜にだけ営業しているのか? 真相は相当強引な解釈。
②「空飛ぶ絨毯」=ファンタジックなタイトルだが、なかなかサイコな一編。夜寝ているうちに敷いていたはずのカーペットだけが盗まれるという珍事件がテーマ。
③「ドッペルゲンガーを探しに行こう」=小学生の一団とともに、廃工場へドッペルゲンガーを探しに行くはめになった探偵役の佐倉。少年たちは明らかに嘘を付いているのだが、ではなぜ・・・? 伏線は最初からあからさま。
④「蒲萄荘のミラージュⅠ」=Ⅰという名のとおり、⑤の前編という位置付け。でもここから作品自体の雰囲気が一編し、シリアスな展開になる。なぜ蒲萄荘に猫が大量に集まってくるのか・・・解答は次編以降。
⑤「蒲萄荘のミラージュⅡ」=Ⅱとはいえ⑥へつながるための導入部的な役割。
⑥「『眠り姫』を売る男」=タイトルだけでは何の意味か分からないだろうが、ファンタジックというか実に風変わりな物語。作中作の中に登場する男たちの正体は?

以上6編。ほか、ラストに解決編的なエピローグあり。
実に一風変わった連作ミステリー。
①を読んだだけでは、創元お得意の「日常の謎」系ミステリーかと思わせるが、途中から雰囲気が一編。
一体どういう話なんだ?!
という感覚になる。

解説等を読んでいると、もともとは⑥がミステリー賞受賞作であり、そこから後は⑥から芽(枝?)を出すように派生させていった様子。
正直、無理やり繋げたなぁーとの感覚は拭えないし、ラストも尻切れなのが消化不良気味。
連作だし、正統派ミステリーというよりは変格を狙ったものなのだろうから、次回作以降に期待というところ。
(②のような作品はリアリティ云々は別にして好み。)


No.1144 6点 薔薇の女
笠井潔
(2015/06/21 20:01登録)
「バイバイ・エンジェル」「サマー・アポカリプス」に続く矢吹駈シリーズ。
初期シリーズ三部作の最終作品。
1983年発表。

~フィリップモリスをひとつ・・・紙幣と共に差し出された名刺が映画女優を夢見るシルヴィーに運命の訪れを告げていた。ささやかな贅沢で祝したその夜更け、自室の扉を叩く音に応じた彼女に付された未来はあろうことか首無し屍体となって薔薇の散り敷く血の海に横たわることだった・・・。そして翌週には両腕を失った第二の、翌々週には両脚を奪われた第三の犠牲者が、明らかに同一犯人と見做される状況にも拘らず生前の被害者たちに殺害されるにたる共通項を探しあぐね混乱するパリ警視庁。事件を統べる糸「ドミニク・フランス」を紡ぎ出してみせる矢吹駈の鮮やかな現象学的推理の織り成す真相という名の意匠とは?~

大方の書評どおり、前二作に比べると落ちる。
そんな読後感。
謎の提示そのものは前二作に勝るとも劣らないレベルで期待は高まった。
パリ市内で起こる若い女性をターゲットとする連続殺人事件。
被害者の女性は猟奇的に殺害され、更には体の一部分が犯人より持ち去られる。
犯人が死体に残した“両性具有者(アンドロギュノス)”の署名。やがて判明する犯人の狙い。それは、持ち去った被害者の体の一部をつなぎ合わせて、一体の完璧な肉人形を作り出すこと・・・

・・・ん? これってもしかして「占星術殺人事件」のアゾートを下敷きにしてるのか?
って思うよなぁー、普通。
しかし、両作品が相似なのはここまでで、後のプロットは全く異なる。(当たり前だが・・・)
ただし、“アゾート”はあの驚天動地のトリックと有機的に結び付いていたが、本作の肉人形にはそういう役割を付されていないところがやや不満。
あくまでも、作者らしい宗教或いはオカルティズムとの兼ね合いの産物となっている。

もうひとつの山場がアリバイトリックの“Why”だろう。
本来アリバイトリックを弄さなくてもよい人物が、なぜ複雑なアリバイを用意しなければならなかったのか?
こういうアプローチは初めてだっただけに、これが本作一番の収穫。
(ただし、その解法はそこまで複雑にする必要があったのかという点で、納得感が薄いのだが・・・)

ということで、さすがに笠井潔とでも言うべき水準の作品には仕上がっていると思う。
ただし、どうしても相対的に評価すると、前二作よりも高い評価はできない。
(駈とルノワールの小難しいやり取りはあそこまで必要だったのか?)


No.1143 5点 沈黙の函
鮎川哲也
(2015/06/13 20:37登録)
1977年発表。
お馴染み、鬼貫警部と丹那刑事のコンビが活躍するシリーズ作品。

~落水周吉と茨木辰二は、掘り出し物の中古品も商うレコード店を共同経営している。仕入れ担当の落水は、函館の製菓会社副社長宅で珍しい初期の蝋管レコードを見つけた。蝋管レコードには古い手紙が付いていたが解読不能、何が吹き込まれているのか分からなかった。引き取りのため再度出向いた落水は、函館駅からレコードを発送したまま行方不明に。無事上野駅に到着した梱包をほどいてみると中には落水の生首が・・・鬼貫警部の名推理!~

ちょっと拍子抜け・・・
そんな読後感だった。
本作のメイントリックは「函」ということで、駅のコインロッカーが事件の鍵を握る。
函館からは確かにレコードを送ったはずなのに、上野駅のコインロッカーから持ち出されたカバンの中には生首が入っていた・・・
という魅力的な謎が読者には提示される。

こうやって書くと、何だか作者の代表作である「黒いトランク」を思い起こさせるのだが、ミステリーの“出来”としては格段に差がある。
とにかく無理矢理感が強すぎて、トリックのためのトリックという感覚が拭えないのだ。
(新聞投書に関するトリックは最初意味が分からなかった・・・)

あと本作は鬼貫警部の出番が少なすぎ!
終盤も押し迫った段階でやっと登場して、あっという間に思い付いて解決に導いてしまう。
鬼貫の捜査行を楽しみしているている読者にとっては、実に食い足りない!

ということで、粗ばかりが目立った本作。
レコードに関する薀蓄を書きたかったんじゃないかという邪推すらしてしまう。
やっぱり本シリーズは時刻表を絡めたアリバイトリックでないと! と思うんですが・・・
(私立探偵の存在も結局中途半端ではないか?)


No.1142 5点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅵ
エドワード・D・ホック
(2015/06/13 20:36登録)
不可能犯罪てんこ盛りの本シリーズ。
サム・ホーソーン医師を探偵役とするシリーズ最終作品。

①「幽霊が出る病院の謎」=幽霊が出る病院、てのはよくある趣向だと思うのだが、本作はそれほどのサプライズ感はなし。
②「旅人の話の謎」=本シリーズではお馴染みの密室殺人なのだが、いかんせんネタがショボい。そもそも○○窓っていったい何だ?
③「巨大ノスリの謎」=「ノスリ」とは北米地区に生息する大型猛禽類のこと(らしい)。巨大ノスリが飛び回るという異常な環境のなか、人間の欲望が犯罪を引き起こす。
④「中断された降霊会の謎」=いかにも怪しげな霊媒師が降霊会の途中に喉を掻き切られる。動機探しでサム医師がボストンまで出張するというのが珍しい一編。でもこの凶器って、バレるんじゃない?
⑤「対立候補が持つ丸太小屋の謎」=本シリーズではお馴染みのキャラクター=レンズ保安官。保安官選挙での対立候補が密室で殺害される。そして部屋のなかにはなぜかチンパンジーが一匹・・・これってあの超有名作へのオマージュなのか?
⑥「黒修道院の謎」=ノースモント出身の有名俳優がこの街にやってくることに! そして故郷に錦を飾るべく開催されたイベントの途中、衆人環視のなかで俳優が銃殺される。プロットはあまり褒められたものではない。
⑦「秘密の通路の謎」=これも密室殺人なのだが、正直あまり頭に残らず・・・ネタ切れっぽい
⑧「悪魔の果樹園の謎」=多くの作業員が働く果樹園。ひとりの男が忽然と消失してしまう・・・という不可能趣味の謎。ただし、これもやや拍子抜けの結末。
⑨「羊飼いの指環の謎」=○○殺人のプロットを取り入れた一編なのだが、やや練り込み不足。
⑩「自殺者が好む別荘の謎」=一見して首吊り自殺なのだが、当然真実は殺人。ということで、またまた密室殺人を扱った一編。
⑪「夏の雪だるまの謎」=実にどうってことないトリックなのだが、こういうしょうもないというか、ガクッとくるような作品も面白いなと感じる作品。子供の目ってある意味怖いよねぇ。
⑫「秘密の患者の謎」=ついにシリーズ最終作品。なのだがかなりの小品。

以上12編。
シリーズ当初は高いクオリティを誇っていた本シリーズだが、これ以上絞っても何も出ない乾いた雑巾のようになってしまった。
そんな感じだ。
相変わらず密室を扱った作品が多いのだが、感心するようなトリックはひとつもなかった。
今後はホック作品も別シリーズを楽しみたい。
(個人的ベストはなぜか⑪。バカバカしいけど、こういう作品も箸休め的でいい)


No.1141 5点 Nのために
湊かなえ
(2015/06/13 20:34登録)
2010年発表の長編作品。
地上波でドラマ化されたが、それは一切見ていない・・・

~超高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で、そこに住む野口夫婦の変死体が発見された。現場に居合わせたのは、二十代の四人の男女。それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。なぜ夫婦は死んだのか? それぞれが思いを寄せるNとは誰なのか? 切なさに満ちた著者初の純愛ミステリー~

ちょっと技巧に溺れすぎたかな・・・って感じた。
途中(第三章くらい)までは良かった。
カットバック的に現在から過去に遡り、主要登場人物たる四人の男女の人となり、悲しみに満ちた過去を明らかにしていく。
不思議な感覚で絡み合う男女の仲が、殺人事件の真相にどのように関係していくのか?
そんな期待を込めて読み進めたのだが・・・

熱気球のように空へ上がったと思った期待は、しかし上がらないまま落ちてしまった。
ひとつの出来事を複数の目線や心情で描き出すというのは作者の得意技。
しかも、人間の悪意を十分に織り込みながら・・・
でも本作では上滑りしてしまったようだ。

“N”についての謎も、二人の“ノゾミ”も、結局中途半端なまま料理が仕上がってしまった。
せっかくの材料だったのになぁー
作者の腕前だったら、もう少し旨い具合に料理できたのではないか。
そんな気にさせられた。
せめてオチさえ良ければ、もっと評価は上がったに違いない。
(ここまで将棋に拘った純愛ミステリーというのも珍しいな・・・)


No.1140 4点 玩具店の英雄 座間味くんの推理
石持浅海
(2015/05/31 09:54登録)
長編「月の扉」、短篇集「心臓と左手」に続き、“座間味くん”を探偵役とする作品集。
今回は大迫警視に加えて、警視庁科学警察研究所の津久井がレギュラーとして登場。三人が毎回美味しそうな酒と料理を前に発生した事件について語り合う・・・というスタイル。

①「傘の花」=厳重に警備されていた国会議員があろうことかヤス(武器のことね)で刺殺される事件。警察の面目はまる潰れだが、実は異なる真実が隠されていた・・・。以下、各編すべて、過去に解決したはずの事件が、“座間味くん”により別の真相が導かれる、という形式を踏襲する。
②「最強の盾」=企業テロ事件がテーマ。「最強の盾」とは赤ん坊のことだが、赤ん坊を救ったと賞賛された警察に対し、座間味くんは全く別の視点を投げ掛ける。
③「襲撃の準備」=多くのスポーツ特待生を受け入れる新興高等学校。“野球エリート”だった生徒が肩を壊し劣等生に。それを恨んだ生徒が復讐の刃を元同僚に向ける。これも意外な人物の本心が明らかにされる。
④「玩具店の英雄」=休日に子供連れで玩具店を訪れた警察官。まさにその時に発生した通り魔事件。あろうことか、犯人の前で腰が抜けてしまった警官と、それを救った素人男性。普通に考えれば、警官には非難轟々だろうが・・・これも別の見方。
⑤「住宅街の迷惑」=住宅地に突如現れた巨大仏像。新興宗教の教団施設には住民たちの怒りの声が寄せられる。そんな中発生したテロ事件。警官を巻いた犯人は、しかし教祖の前に取り押さえられるのだが・・・。これも裏の真相が、という展開。
⑥「警察官の選択」=乗っていた自転車をトラックに巻き込まれた少年と、運転中に心臓麻痺を起こしたトラックの運転手。ふたりを巡って、これまたふたりの警官が究極の選択を迫られる。この真相は無理矢理感たっぷり。
⑦「警察の幸運」=舞台は新幹線の車中。外国からの要人を警備していた警察は、僅かなスキを掻い潜られ、車内に発炎筒を投げ込まれ・・・る前に幸運が訪れる。しかし、これも座間味くんが新説を出す。

以上7編。
うーーん。明らかに前作「心臓と左手」よりも落ちる。
とにかくワンパターンすぎるのだ。
今回は形式に拘りました・・・ということなのだろうが、ここまで似たような話を読まされるとさすがに飽きる。
プロットも今ひとつ感がたっぷりだし、ひと言でいうなら、「策士、策に溺れる」ということではないか?
続編の構想があるなら、今一度プロットの練り直しを期待したい。
(どれもイマイチかなぁー。敢えて言えば、タイトルにも採用された④)

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