縛り首の塔の館 シャルル・ベルトラン |
---|
作家 | 加賀美雅之 |
---|---|
出版日 | 2011年03月 |
平均点 | 6.60点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 8点 | ボナンザ | |
(2021/10/22 11:34登録) どの作品もしっかり怪奇趣味と不可能犯罪を見事に調和させた傑作ぞろい。 |
No.4 | 6点 | E-BANKER | |
(2015/10/18 20:57登録) 2011年発表。 パリ警視庁予審判事シャルル・ベルトランを探偵役とするシリーズ初の短篇集。 (まさか初にして最後になるとは・・・合掌) ①「縛り首の塔の館」=タイトル作品に相応しい一編。二人の男がまるで空間を越えて殺し合ったかのように見えるダブル殺人事件という飛びっきりの不可能状況がテーマ。J.Dカーと二階堂黎人の作品をもろに彷彿させるトリックなのだが、本格好きにはそれでも堪えられない作品世界だろう。解法も“それしかない”っていう奴。 ②「人狼の影」=カーの「夜歩く」をもろに彷彿させる「人狼」。おどろおどろしい設定なのだが、真相はまずまず下世話なもの。女性ってやっぱり怖いわー ③「白魔の囁き」=いわゆる「雪密室」がテーマで、周囲に全く足跡がないにも拘らず死体だけが置き去りにされている、しかも死因は墜落死という不可能状況! こうなったら出てくるトリックは当然○り○の原理を使ったやつだ・・・って島荘や二階堂を読みなれた読者なら気付くはず。 ④「吸血鬼の塔」=被害者以外誰も入れたはずのない塔から突き落とされた死体・・・という不可能状況。他の方も書いているとおり、かなり強引なトリック&解法でこじつけに近い。吸血鬼の謎についても、それならそれで不自然だろうって思うのだが・・・ ⑤「妖女の島」=このトリックってここまで大掛かりなやつをやる意味あるの?って思わざるを得ない。まさにトリックのためのトリックの典型だし、ちょっとネタ不足だったのかな・・・ 以上5編。 本シリーズの特徴である大時代的なプロット&トリックが短編でも全開。 ②以降は「人狼」や「白魔(ヴェンディゴ)」、「吸血鬼」など欧米に伝わる伝説の怪物の影が事件にちらつくという共通項。 当然ながら最後はベルトランが現実的な解決を示すのだが、作品を下るごとにこじつけのような感じになってくるのがやや残念。 まっでも本格好きなら一読の価値はある。こんなコテコテの本格にはなかなか出会えないだろうから・・・ 返す返すも早すぎる逝去が惜しい! (ベストは間違いなく①。もう少し膨らませれば立派な長編が出来上がりそうなんだけどなぁー) |
No.3 | 6点 | nukkam | |
(2015/07/25 03:55登録) (ネタバレなしです) シャルル・ベルトランシリーズの中編5作品を収めて2011年に出版された初の短編集で、どの作品も怪異と不可思議な謎に満ち溢れた本格派推理小説です。ほとんどの作品が作者の敬愛するジョン・ディクスン・カーの影響が強く、もうパロディーと言ってもいいぐらいにカー(カーター・ディクスン名義も含む)の諸作品の演出やトリックが再利用されています。コナン・ドイルやモーリス・ルブラン、横溝正史や高木彬光を連想させる場面もあり、これこそ懐古趣味以外の何物でもありません。トリックのためのトリックに終始したような作品もあり、「妖女の島」(2009年)のトリックなんかは呆れるほど好都合に成立させているのですが(失敗する確率の方が高いと思います)、カーが大好きという読者ならそれさえも許してしまいそうです。「風果つる館の殺人」(2006年)以来久しぶりのシリーズ作品で健在ぶりをアピールしたかに思えましたが、まさかわずか2年後に作者(1959-2013)が亡くなって本書が生前出版の最後となってしまったとは! |
No.2 | 6点 | kanamori | |
(2011/04/24 20:37登録) パリの予審判事ベルトランものの連作短編集で、不可能トリックが5連発。 中編なみの表題作が不可能興味抜群の力作で一番出来がいい。心霊術師の霊体による予告殺人の欺瞞を暴くという設定なので、奇術的トリックに不自然さを感じさせない。 2話目の「人狼の影」までは楽しめたが、徐々にトリックの必然性のなさと強引さが気になってきた。たしかに、なんでこんな面倒くさいことを...と思ったら、このタイプの探偵小説を楽しめないのでしょうが。 |
No.1 | 7点 | makomako | |
(2011/04/01 18:11登録) この短編集でもシャルル・ベルトランシリーズらしい時代がかったおどろおどろしい雰囲気と飛び切りの謎が楽しめる。このような大掛かりで絶対不可能と思われるトリックを量産することは困難らしく、表題の作品は自分の霊で30マイルはなれた相手を刺殺するのみならず相手からの反撃で自分も密室内で死んでしまったというとんでもない謎を、まず見事に解決しているのはすばらしい。ところが2作、3作と読んでいくと謎は同様に大掛かりで不可能に思われるが、解決に無理がでてくる。 以下ネタバレ 吸血鬼の塔は残念ながら人間はこんなふうには動けないと思われるし、きわめて低い確率の僥倖によってのみ可能な方法もいけないねえ。最後の妖女の島は殺人の方法自体が自己矛盾してしまっていてこりゃ絶対ありえないでしょう。 やはりこんな不可能な謎を合理的に解く方法はそう何種類も思いつけないのでしょうね。でもこんな大掛かりで不可能な謎に挑戦し続ける作者に期待もしています。 |