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ミステリの祭典

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死への祈り
マット・スカダー

作家 ローレンス・ブロック
出版日2002年10月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 E-BANKER
(2015/12/20 17:28登録)
2001年発表。マッド・スカダーシリーズの長編も数えて十五作目。
二十一世紀に入って初めて発表されたという意味では記念碑的作品と言える(ような気が・・・)

~ある夜、マンハッタンの邸宅に住むホランダー夫妻が帰宅直後に惨殺された。資産家を狙った強盗の仕業と思われたその事件は、数日後に犯人たちの死体が発見されたことによって決着をみた。しかし、被害者の姪から気がかりな話を聞かされたスカダーは、背後に更なる“第三の男”が存在しているのではという疑念を抱き、事件に潜む闇へと足を踏み入れていく・・・。姿なき悪意の影にスカダーが挑むシリーズ新境地!~

「静謐」
本作を読んでいると、まさにその言葉が胸に染み入ってくる感覚だった。
無免許探偵スカダーも数えて六十四歳。すでに老境に入ったというべき年齢。エレインという理想の伴侶まで得て、充実したシニアライフを送る・・・そんな人生だったはず。
なのに、図らずも事件に巻き込まれていくスカダー。

今回巻き込まれた事件もシリアルキラーを思わせる連続殺人鬼だ。
「倒錯三部作」ではいずれも強烈なキャラクターを持つ真犯人が登場してきたので、本作でも同様の強烈な犯人が判明するものと思っていた。
しかし、終章に入っても犯人の姿は曖昧模糊として実態を現さない。
てっきり、「えっ!あいつが真犯人だったのか?!」という展開かと思っていたのだが、結局そういうサプライズは起こらない。
(ある意味ネタバレだが・・・)
「静謐」なまま、しかし何とも言えない余韻を引いたまま物語は終りを告げる。
これこそが新世紀に作者が送る新しいスカダーシリーズなのだろう。

本作ではもうひとつの物語が並行する。
それはスカダーの別れた妻とふたりの息子との絡み・・・そこには責任を果たせなかった父親としての顔があった!
父と息子というのは何となく照れくさいというか、もどかしい関係なんだなぁーと、同じくふたりの息子を持つ私も思ってしまったわけである。
とにかく本シリーズのレベルの高さは疑うべくもないし、未読の作品を読み続けていきたい。

No.2 7点 Tetchy
(2015/11/03 21:24登録)
今回マットが対処する事件は強盗による弁護士夫婦殺害事件。強盗が入っている間に家主が帰って来て強盗によって殺される。これはもう1つのブロックのシリーズ、泥棒探偵バーニイ・ローデンバーがしばしば巻き込まれるシチュエーションだが、その場合は軽妙なトーンで物語が進むのに対し、マット・スカダーシリーズでは実に陰惨な様子が淡々と語られ、恐怖が深々と心に下りてくるような寒気を覚える思いがする。この書き分けこそがブロックの作家としての技の冴えだ。

今回はマットとTJの機転で警察組織を巻き込んで大規模捜査網が敷かれる。かつて個人が巨大な悪に立ち向かうためにミック・バルーと云う悪の力を借りて対峙したマットだったが、前作でミックの組織は瓦解し、彼を残すのみとなった。今回総勢12人も殺害したシリアル・キラーと立ち向かうために組んだ相手が警察組織だったことは元警官であったマットにとって自分の立ち位置が原点に戻ったように思える。

原点回帰と云えばシリーズも15作目になって、マットは更なる過去へ対峙する。それはシリーズが既に始まった時から離縁関係にあった元妻アニタと彼の息子マイケルとアンドリューとの再会である。

さて私がこのシリーズを読み始めたのが2013年の6月だからもう足掛け2年4ヶ月の付き合いになる。既に本書までは既刊だったため、シリーズを1作目から本書に至るまで通して読むことが出来たが、この2年4ヶ月という凝縮された期間であっても本書を読むにここまで来たかと感慨深いものを感じるのだから、シリーズを1作目から、もしくは有名な“倒錯三部作”からリアルタイムで読み始めた人々のその思いはひとしおではないだろうか。
本書で語られているように、マットが断酒してから18年の歳月が流れ、作中での年齢は62歳と既に還暦を超えてしまっている。
しかしマットは登場当初の、人生に打ちひしがれた元警官の無免許探偵という社会的には底辺に位置する人々の一員であったが、15作目の本書では元娼婦の妻エレインが蓄財した不動産収入でニューヨークでマンション暮らしをし、安定した生活に加え、エレインが趣味で始めた画廊からの収入もあり、マットは探偵業を気が向いた時に営むといった、人が羨むような生活を送っている。もはやホテルの仮住まいで定職に就かず、毎日アームストロングの店に入り浸ってアルコールを飲み、時折訪れる人のために便宜を図るように幾許かの金で人捜しや警察が扱わない事件の掘り返しを請け負い、依頼金の1割を教会に寄付して過去の疵を癒す慰みにしている、人生の負け犬のような彼の姿はもはやそこにはない。陰の暮らしから日の当たる世界へ出たマットの姿をどう捉えるかは読者次第なのだろう。

ともあれマットが裕福になり、エレインとの夫婦生活が充実していくにつれて、このシリーズ特有の大切なペシミズムやムードが失われていくような気がするのは私だけだろうか。
相変わらず読ませる物語であることは認めよう。しかし上に書いたようにかつて読んでいたようには私の中に下りてくる叙情性といったような物が薄れて行っているのは確かだ。しかしそれでも私はいいと思う。エレイン、TJ、ミックと彼を慕う人々の中でマットが事件と対面していくのもやはりこのシリーズの特徴であるからだ。

さて次の『すべては死にゆく』は未だ文庫化されていない。このシリーズ全作読破のために一刻も早い文庫化を望む。しかしブロックの新作は文庫で出ているのになぜこの作品だけ文庫化されないのだろうか?

No.1 6点 あびびび
(2014/12/24 23:17登録)
ある資産家の夫婦が待ち構えていた二人の強盗に殺された。しかし、その強盗は内輪もめをし、二人とも死んでしまう。警察はそれで一見落着としたが、夫婦に可愛がられていた姪がマット・スカダーに真相を暴いて欲しいと依頼する…。

大都会だからこそ発生する事件、ニューヨークの闇に潜む謎の犯人にスカダーは持ち前の粘りと根性で迫る。

それにしても、スカダーの友人のミック・パルーは凄い悪人だが、魅力的である。彼が好むアイリッシュ・ウィスキーのジェムソンを飲むようになってしまった!

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