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平均点:6.00点 | 書評数:1859件 |
No.1179 | 7点 | ハリウッド・サーティフィケイト 島田荘司 |
(2015/11/22 21:06登録) 2001年発表の長編。 一応「御手洗潔シリーズ」に分類されるのだろうが、主役&探偵役は完全にレオナ松崎が務め、御手洗は“友情出演(?)”のみ。 ハリウッドの闇を背景に文庫版で800頁を超える超大作。 ~LAPD(ロス市警)に持ち込まれたスナッフフィルム。そこには、ハリウッドの有名女優パトリシア・クローガーが惨殺される場面が映っていた。そして発見された死体からは、子宮と背骨が奪われていた! 彼女の親友で女優のレオナ松崎が犯人探索を始めた。その過程で、女優志望のジョアンと出会う。彼女は記憶を失っており、何者かの手によってその体から子宮が摘出されているというのだ。事件との奇妙な符号を覚えるレオナ。そして第二の殺人が発生し・・・。なぜ女優の子宮は奪われたのか? 「虚構の都」ハリウッドを舞台に奇才が放つ長編本格ミステリー~ さすがに“奇才”、“豪腕”=島田荘司としかいいようのない・・・そんな作品。 やはり他の数多のミステリー作家とは規格、スケールが違う! そう思わざるを得なくさせられた本作。 今世紀に入って島田は脳科学など医学の分野に深い興味と関心を示し、積極的に自作のプロットに組み込んできた。 本作では、(恐らく)発表当時ホットなテーマだった「臓器移植」そして「クローン技術」がそれに当たる。 いずれも怪しげで眉唾な話題なのだが、アメリカそしてハリウッドといういかにも“なんでもあり”の舞台とすることでリアリティを高めている。 作中ではアメリカが国家戦略として臓器移植やクローンビジネスに乗り出していることを言及しているのだが、IT革命を引き合いに出すなど、読者に現実感を持たせることにも気を配っているのがミソ。 (ほぼ十五年ほど前の作品なのだが、ES細胞に纏わる話などはなかなか興味深い・・・) 純粋なミステリーとしての面では、不可思議な殺人事件が一番の本筋。そして作中謎の人物として登場するイアンに仕掛けられたトリックが本作の白眉だろう。 謎のまま終わるかに思われた部分についても終章の最後でようやく作者の狙いが明かされることに・・・ まぁこれも、メインプロットと比べると付け足しといえば付け足しという感じがするのがちょっと痛いところではある。 そして本作もうひとつの側面がレオナ松崎を主役としたヒロイン作品ということ。 レオナについてはその傲慢な性格からお気に召さない読者も多いとは思うが(?)、とにかく本作では八面六臂の大活躍。 自らハリウッドの象徴として、女優そしてポルノグラフィなど、アメリカのエンターテインメントの闇を照らしていくのだ。 まぁすごい作品だと思う。 島田といえば大掛かりで奇想天外なトリックの本格ミステリーを期待する方も多いし、かくいう私もそのひとりなのだが、とにかく年を経るごとにスケールアップしている作家も珍しいのではないか。 もちろんそれが読者の好みにマッチしているかと言われると疑問符なのだが、決して立ち止まらず、年々進化を重ねている作者に敬意を評したい。 でもそろそろ事件の横で右往左往する石岡君の姿なんぞを読んでみたいな・・・なんて思ったりもする。 |
No.1178 | 7点 | 髑髏の檻 ジャック・カーリイ |
(2015/11/22 21:05登録) モビール市警刑事カーソン・ライダーシリーズの第七弾。 巻末解説によると第六弾はシリーズの番外編という位置付けのため、本作の方が先に訳出されたとのことだが・・・ ~刑事カーソン・ライダーが長期休暇で赴いたケンタッキー州の山中で連続殺人事件が発生。犯人はネット上での宝探しサイトで犯行を告知し、死体はどれも奇怪な装飾を施されていた。捜査に巻き込まれたカーソンの前に現れたのは、実の兄にして逃走中の連続殺人鬼ジェレミー。ディーヴァーばりのスリルとサプライズで人気のシリーズ最新作!~ もはや安定感抜群っていうレベルに上り詰めた感もある本シリーズ。 今回もこれまでと同様に高レベルの作品だった。 前々作の「ブラッド・ブラザー」に続き、地元モビールを離れた土地での事件のため、勝手の違う捜査を強いられるカーソン。 毎回のように登場するヒロイン役は、今回は“男言葉”を使いこなす地元刑事のチェリー。 当然のように深い仲になっていく二人と、敵役として登場するFBIの女性捜査官。 とにかく本シリーズの主要登場人物はどれもキャラが立っていて、実に生き生きと動き回る。 本筋の事件は、今回もサイコパスが引き起こした連続猟奇殺人事件。 本格ミステリーでいう「見立て殺人」の如く装飾を施された死体。そして、この「見立て」の意味は終盤で明らかにされる。 中盤はやや混沌としていたのだが、ここを機に一気にスピードアップが図られ、一気に終盤になだれ込む。 本シリーズはとにかく「謎の提出」⇒「謎の深まり」⇒「ふとしたきっかけ」⇒「謎の解明」というリズムが実にいいのだ。 (本作では序盤から伏線の連続なのだが・・・) 本作ではジェレミーの存在も良いスパイスになっている。 本筋の事件と彼がどのように絡んでいるのか? なかなかはっきりしなかったのだが、いかにも彼らしい役回りを与えられている他に、本作では「弟思い」の一面も披露することになる・・・ 動機もなかなかスゴイ! この動機を見せられた後なら、タイトルの意味にも十分納得がいく。(まさに「檻」だな) ディーヴァーの後継者的に紹介される作者だが、作品としてのまとまりなら本シリーズの方が上なのではないか? それくらい高い評価をしても良いと思える作品。次作も実に楽しみ! (結局愛犬ミックスアップは彼女に“誘拐”されたってこと?) |
No.1177 | 4点 | ペルシャ猫の謎 有栖川有栖 |
(2015/11/22 21:04登録) 「ロシア」「ブラジル」「スウェーデン」「英国」に続く国名シリーズ第五弾。 お馴染みの火村准教授&作家・アリスのコンビが関西圏限定で活躍する作品集。 ①「切り裂きジャックを待ちながら」=貧乏劇団そして劇場を舞台とするミステリーは数多いが、本作もそのひとつ。初日を控えたゲネプロの舞台で発見された首吊り死体。テーマはアリバイなのだが、どうも中途半端なモヤモヤが残る一編。 ②「わらう月」=南半球オーストラリアで撮られた写真が問題となる・・・という時点で北半球⇔南半球の誤認を使ったトリックか?と思わせるのだが、それを逆手に取ってはいる。だが、何となくこれもモヤモヤ・・・ ③「暗号を撒く男」=暗号どうのこうのという話はすぐに明かされるのでどうということはない。でも京都の人でも新世界の串揚げは珍しいのだろうか?(どうでもいいのだが・・・) ④「赤い帽子」=本シリーズ中の名バイプレーヤー・森下刑事を主役とするスピンオフ作品。赤いハンチング帽をかぶった男にまつわる殺人事件に対し真摯な捜査を行う森下刑事っていうプロトタイプの一編。特にどうということはないのだが、彼がアルマーニのスーツを着る理由だけは分かった。 ⑤「悲劇的」=学生が書いた意味不明(?)な論文に対して、火村が放つ一行の文章が鮮烈・・・っていうか「だから?」という感想しか出なかった。 ⑥「ペルシャ猫の謎」=双子が出てきてアリバイトリックっていうと、作者のデビュー作「マジックミラー」が思い浮かぶけど、全く方向性は違う。オチはアレということなんだけど、さすがにひっくり返すのかって思ってると、そのまま終了・・・っていいのか? ⑦「猫と雨と助教授と」=これは雑文。 以上6編+ボーナストラック。 まぁ小品だなぁ。 シリーズもここまで来ると変化球的な作品も仕方ないかなという気もするけど、作者のファンにとっては物足りないんじゃないかな。 私? 前から書いているのだが、どうも火村シリーズは好みじゃないので、「こんなもんだろ」って思うくらい。 でもソツなく書いているし、作家としてはレベルアップしているんだろう。 その代わりに瑞々しさは失われてきているのだが・・・ (特にお勧めはないな。どれもイマイチ) |
No.1176 | 6点 | 二つの密室 F・W・クロフツ |
(2015/11/08 19:21登録) 「英仏海峡の謎」に続くフレンチ警部ものの長編作品。 1932年発表。 原題は“sudden death” ~平和な家庭には影があった。病弱な妻、愛人がいる夫、典型的な三角関係から醸し出される不気味な雰囲気。悲劇の進行は、若き家政婦アンの目を通して語られる・・・。アリバイトリックの巨匠・クロフツが趣向を変えて密室トリックを考案した。ひとつは心理的、もうひとつは物理的ともいえるトリックで、このふたつが有機的に関連する殺人事件の謎にフレンチ警部が挑戦する!~ 確かにクロフツらしくないと言えばそう頷かざるを得ない。 何しろ「密室トリック」テーマなのだから・・・ 他の方も書かれていますが、クロフツといえばイギリスはおろか、フランス・オランダなど広域にまたがるアリバイトリックとそれを丹念に捜査するフレンチ警部(初期は違いますが)・・・というのが定番。 ファンにとってはその捜査行こそが一番の楽しみ=読み所なわけです。 (それを退屈と捉える方もいるでしょうが・・・) ということで問題の密室トリックなのですが・・・ まず「物理的」と紹介された最初の密室は図解も挿入され親切なのだけど、今ひとつピンとこなかった。 昔の設備に関するトリックだからという面もあるのだけど、それ以前にそこまでして・・・というWhyの方に無理を感じた次第。 (もちろん自殺に見せかけるという理由はあるにせよ) 次の密室は「心理的」と紹介されているが、これは拍子抜けと思われても仕方ないかな。 それほど堅牢な密室だし、これはトリックそのものに拘ったというよりは、二つの密室という舞台設定に拘ったと解釈すべきだろう。 密室ものになっても、やはりフレンチはフレンチで、トリック解明のために靴底すり減らすという捜査方法は不変。その辺りのダイナミズムは本作でも十分に味わえる。 「視点」の問題は当初あまり気にならなかった(途中から視点がフレンチ警部ら捜査方に変わるというのは他作品でもよくお目にかかるので・・・)のだが、本作では結構頻繁に視点が変わっている点が斬新といえば斬新。 フーダニットについてはちょっと唐突感があったかなぁー。(動機については果たして伏線があったのだろうか?) いずれにしてもシリーズ作品としてはやや毛色の違う作品ではある。 評価はそうだなぁ・・・やや微妙。 |
No.1175 | 5点 | ケルベロスの肖像 海堂尊 |
(2015/11/08 19:20登録) 驚異的なスピードで版を重ねてきた「バチスタシリーズ」もついに完結! 田口&白鳥の名コンビ。そして、その他お馴染みのキャラクターともこれでお別れ(?)なのでしょうか・・・ ~『東城大学病院を破壊する』・・・。病院に届いた一通の脅迫状。高階病院長は“愚痴外来”の田口医師に犯人を突き止めるよう依頼する。厚生労働省のロジカル・モンスター白鳥の部下・姫宮からのアドバイスを得て、調査を始めた田口。警察、法医学会などさまざまな組織の思惑が交錯するなか、エーアイセンター設立の日、何かが起きる!? ~ 「ケルベロス」とは地獄への入口を警護する三つの首を有する犬のこと。 それが東城大学のエーアイセンターを指すことは中途で判明する。 世界最大級のMRI「リヴァイアサン」までがセンターへ運び込まれ、いよいよキナ臭い雰囲気が立ち込める刹那 事件の首謀者として浮かび上がったのは、過去のアノ事件で登場した美貌の姉妹の片割れ・・・ でも確かその姉妹って死んだはずでは・・・? という感じで進展するストーリー。 なのだが、正直そんなことはどうでもよいのだ。 田口&白鳥、姫宮は当然のこと、超ブッ飛んだヤンキー医師・東堂、彦根&シオン、島津、南雲などなど過去の作品を彩った一癖も二癖もある人物たちが大集結! シリーズファンにとってはもはや堪えられない(?)場面の連続というわけ。 これはもうミステリーとしての評価云々ではなくて、シリーズの大団円とファン向けのボーナストラックということなのだろう。 と言いながら続編が発表されているという当たり、まだまだ作者の構想は留まっていない。 ここまで世界観を広げてきたシリーズだからこそ、新たな世界、フィールドへの展開を期待したい。 評価はもはやどうでもよい気が・・・ (白鳥ではないけど、田口も随分成長したんだねぇと感慨に耽る・・・) 巻末の二つのボーナストラックはどんな意味があるんだ??? |
No.1174 | 5点 | 空飛ぶ馬 北村薫 |
(2015/11/08 19:19登録) 1989年発表の連作短篇集。 今さら何をという感じですが、当時覆面作家だった作者が発表し、大きな反響を得た「日常の謎系」作品。 落語家・円紫と「私」が織り成す絶妙なハーモニー。 ①「織部の霊」=円紫さんと「私」の出会いが語られるシリーズ第一の作品。恩師である加茂教授が幼い頃見た夢。見るはずのない「姿」を見たのは何故か・・・ということなのだが、円紫の推理はロジカルに解き明かす。 ②「砂糖合戦」=世評の高い一編らしいのだが、なるほど作者のアイデアが光る内容。三人組の女性がしている不思議な行動の意味を推理する・・・という「日常の謎」ミステリーの典型のような作品。でもまぁここまで手の込んだことやるか?という気がしないでもない。 ③「胡桃の中の鳥」=円紫独演会を追って山形・蔵王まで繰り出した「私」ほか女子大生三人。落語家の追っかけについてのリアリティ云々は置いといても、ミステリーとしての本筋より蔵王の観光案内の方が良かった。 ④「赤頭巾」=もちろん有名なグリム童話に引っ掛けた一編なのだが、何ていうか「謎」そのものに魅力がないような気がした。真相もあまりに紋切り型というか予想の範囲内過ぎるだろう。 ⑤「空飛ぶ馬」=これは・・・何ていうか“いい人”の話。こういう謎に対してあっという間に解答を示す円紫師匠の眼力&推理力はすごいと思うが、いかんせんこれも「謎」そのものに魅力がない。 以上5編。 今さらこの世評の高い名作を手に取ったわけだが、正直な感想を言うと「可もなく不可もなく」ということになる。 恐らく本作がその後のミステリーに大きな影響を与えたのもまた事実。 (「日常の謎」系作品は多かれ少なかれ、似たようなテイストの作品が多いからな・・・) 後はもう好みの問題だろう。 他の多くの方が触れているとおり、主人公の「私」があまりに純真無垢で血が通ってないようなところも気になった。 続編もあるが、まぁ・・・読まないかな。 (中年のおっさんが女子大生目線で書けること自体がスゴイことではあるが・・・) |
No.1173 | 7点 | 発信人は死者 西村京太郎 |
(2015/11/01 16:55登録) 1977年発表の長編。 まだ若き十津川警部が登場する作者初期の作品。 徳間文庫の復刻版にて読了。 ~アマチュア無線を楽しむカメラマン野口浩介の無線機に午前二時になると決まって弱々しい救難信号が送られてきた。調査の結果、南太平洋のトラック諸島で沈没した潜水艦・伊号五○九から発信されたものだったのだ! そして元海軍中佐の不可解な死!? この艦が積んでいた十億円の金塊の行方は? 真相を追って野口は南の島へ向かったのだが・・・。十津川警部シリーズの初期代表作~ 前々から読もう読もうとしていた作者の初期作品のひとつ。 初期作品には「消えたタンカー」や「赤い帆船」など“海”をテーマにしたものが多いが、本作もやはり「海」テーマの作品。 太平洋戦争の秘密という大きな歴史の謎を絡めて、壮大なスケールの長編に仕上げている。 紹介文のとおり十津川警部シリーズは間違いないのだが、本作で彼はあくまでも脇役。 主役は虚無的で世間に対して斜に構えた青年・野口と二人の仲間であり、何に対しても熱中できなかった彼が、徐々に金塊の謎と魅力に取り憑かれていく様子が実によく描かれている。 悲しげでありながら、微かに希望の光が見えるラストシーンも実に映像的で良い。 伊号潜水艦と殺人事件に纏わる謎については中盤を過ぎるあたりでほぼ判明する。 提示された謎が大掛かりだっただけにやや呆気ないのだが、本作はいわゆる謎解き主題の本格ミステリーではない。 サスペンスフルな終盤~ラストへ繋げていくストーリーテリングこそが本作の白眉だろう。 どこかノスタルジックな気分に浸れるはず・・・ 今までも書いてきたけど、トラベルミステリーを書く前の作者初期作品のレベルは高い。 本作もそれなりに高い評価をして良いのではないかと思わせる・・・そんな作品。 (あまり古さを感じさせないのもGood!) |
No.1172 | 7点 | シャーロック・ホームズの叡智 アーサー・コナン・ドイル |
(2015/11/01 16:52登録) 本サイトを御覧の皆さんには言うまでもないことですが、シャーロック・ホームズものの短編は「冒険」「帰還」「思い出」「事件簿」の四作だけ。 ただし、延原謙訳の新潮文庫では、本の尺の関係上、一部の作品を掲載しなかったため、最後に漏れた作品を集録することになったのがこの「叡智」というわけである。(今さら説明するなという内容ですが・・・) ということで邪道ではありますが、いずれも未書評ということで敢えて別立てで登録させていただきました。 ①「技師の親指」=これは有名作のひとつ。ホームズものの典型的なプロットだと思うのだが、不思議な体験をした依頼人の話を聞いたホームズが、物証や証言などから事件の裏の構図に気付くというやつ。これが見事に嵌った佳作。 ②「緑柱石の宝冠」=一見して明らかな容疑者なのだが、ホームズが事件を別の角度から光を当てる・・・というやつ。足跡からホームズが推理するという“いかにも”という場面があるのだが、今読むと相当強引な推理だな・・・ ③「ライゲートの大地主」=結構粗めのプロットなのだが、こういう活劇風の作品もよく目にする。登場人物が少ないから自然に真犯人は判明していまうのが玉に瑕か? ④「ノーウッドの建築士」=“大地主”の次は“建築士”なのだが、プロットは結構相似形(!?)。突然大金持ちから相続人に指定された青年に降りかかる災厄を救うホームズというわけなのだが、動機が結構スゴイ。(そこまで恨むのか?) ⑤「三人の学生」=テストの解答を盗んだのは誰か・・・っていう何だか「日常の謎系」のような一編。三人の学生のうち誰が盗んだのかということなのだが、割とよくできていると思う。 ⑥「スリー・クォーターの失踪」=学生ラグビーの花形選手が失踪する事件を扱った一編。ワールドカップを持ち出すまでもなく、イングランドといえばラグビー発症の地ということで・・・って本筋は? うーんwww ⑦「ショスコム荘」=短い作品なのだが、どうもプロットが錯綜していてよく分からない感じになっている。今までの作品の劣化版焼き直しという気がする。 ⑧「隠居絵具屋」=これも焼き直しプロットなのだが、なぜ「絵具屋」なのかというのが最後に納得できるのが旨い。でもそれだけかな・・・ 以上8編。 久々にホームズ譚を読んでみると、やっぱり「これぞ短篇だな」という気にさせられた。 確かに同系統のプロットや旧作の焼き直しが多いのだが、ミステリーとしての必要十分条件が短い作品の中に詰まっているのがよく分かる。 さすがに時代を超えて読み継がれるミステリーということなのだろう。 (因みに①②が「冒険」から。③が「思い出」から。④~⑥が「帰還」から。⑦~⑨が「事件簿」からです。) |
No.1171 | 7点 | 致死量未満の殺人 三沢陽一 |
(2015/11/01 16:49登録) 2013年発表。作者の処女長編。 第三回アガサ・クリスティ賞受賞という評判作。 ~雪に閉ざされた山荘で女子大生・弥生が毒殺された。容疑者は同泊のゼミ仲間四人。外界から切り離された密室状況で、犯人はどうやって彼女だけに毒を飲ませたのか? 容疑者の四人は推理合戦を始めるが・・・。そして事件未解決のまま時効が迫った十五年後、容疑者のひとりが唐突に告げた。「弥生を殺したのは俺だよ」・・・。推理とドンデン返しの果てに明かされる驚愕の真実とは? アガサ・クリスティ賞に輝く正統派本格ミステリー~ このプロットを思い付いたことをまずは評価したい。 「雪に閉ざされた山荘」や「互いに隠された悪意を抱いた仲間が集う」、「繰り返される推理合戦」などなど、これまで幾度もなく目にしてきた本格ミステリーのガジェットが盛り込まれた本作。 いったい、従来の作品とどこに“違い”を付けるのか? これこそがミステリー作家の頭の悩ませ所になる。 そこで本作のプロットなのだが・・・ まさにタイトルどおり「致死量」がプロットの鍵となっている。 人間の体のことだし、ここまで計算どおりにいくのかや、薬学的な知識は合っているのかなどの疑問はあるものの、真相解明の場面では久々に「へぇー」と唸らされた。 その後も二転三転、或いは二重三重とでも言うべきドンデン返しが待ち受けているのだ。 ここまで畳み掛けれれれば「おっと・・・」と仰け反らざるを得ない。 巻末解説で有栖川氏も触れているけど、クローズドサークルで制約の多い設定のなか、ここまでの技巧を発揮できれば十二分に及第点、それ以上の評価を与えていいだろう。 まぁ敢えて突っ込むなら、他の方も書いているとおり、人物描写の不足ということになる。 分量を敢えて増やさないことにしたためかもしれないけど、確かに人物が書けていないのは事実。 それが気になってしまう読者がいるのは仕方ないかな。 とにかく次作以降も期待したい。 (本格ミステリーもまだまだ可能性があるのだなと感じさせられたことが大きい) |
No.1170 | 5点 | 呪い! アーロン・エルキンズ |
(2015/10/18 20:58登録) スケルトン探偵ことギデオン・オリヴァー教授シリーズの長編第五作。 世界の観光地紹介も兼ねている(?)本シリーズ。今回の舞台は古のマヤ文明の聖地、メキシコはユカタン半島。 1989年発表。 ~マヤ遺跡発掘に協力するため、ギデオンはメキシコへ飛んだ。遺跡から人骨が見つかり、人類学者の彼が鑑定を依頼されたのだった。だが仕事は鑑定だけではすまなかった。骨と同時に発見された古文書に記された呪いが隊員たちを襲いはじめ、ついに殺人へと発展したのだ! ジャングルの呪われた遺跡でスケルトン探偵が推理の冴えを見せる本作の香り高い作品~ さすがに安定感十分のシリーズだ。 足掛け三十年続いている超ロングランのシリーズにも拘らず、経年劣化(?)の兆しもなく、初期作品だからといって古臭さもない。 ギデオンとジュリーは三十年間ずっとイチャイチャしているし、骨を前にするとウキウキする姿も不変。 こんなシリーズはミステリーの世界ではなかなかないだろう。 さて本作の評価なのだが・・・ 「可もなく不可もなく」というのが正直な感想。 最初から不穏な空気は漂っているものの、なかなか事件らしい事件は起こらず、ややまだるっこしい展開。 預言書に従って事件が起こるというプロットは、まるで国産ミステリーによくある「見立て」殺人を思わせる。 そのあたりは本格ファンの心をくすぐる道具立てなのだ。 ただフーダニットが中途半端というか盛り上がりに欠けすぎる。 ある種のクローズドサークルなわけで、もう少し容疑者ひとりひとりにスポットライトを当て、ダミーの容疑者を仕立ててミスリード! というのが王道のプロットだろうけど、そこの辺ひと押しの工夫があるべきだった。 ということで、シリーズ他作品との比較上からも水準級の評価となる。 マヤ文明の蘊蓄ももう少しあっても良かったかな・・・(あくまで個人的な思いですけど)。 |
No.1169 | 6点 | 縛り首の塔の館 加賀美雅之 |
(2015/10/18 20:57登録) 2011年発表。 パリ警視庁予審判事シャルル・ベルトランを探偵役とするシリーズ初の短篇集。 (まさか初にして最後になるとは・・・合掌) ①「縛り首の塔の館」=タイトル作品に相応しい一編。二人の男がまるで空間を越えて殺し合ったかのように見えるダブル殺人事件という飛びっきりの不可能状況がテーマ。J.Dカーと二階堂黎人の作品をもろに彷彿させるトリックなのだが、本格好きにはそれでも堪えられない作品世界だろう。解法も“それしかない”っていう奴。 ②「人狼の影」=カーの「夜歩く」をもろに彷彿させる「人狼」。おどろおどろしい設定なのだが、真相はまずまず下世話なもの。女性ってやっぱり怖いわー ③「白魔の囁き」=いわゆる「雪密室」がテーマで、周囲に全く足跡がないにも拘らず死体だけが置き去りにされている、しかも死因は墜落死という不可能状況! こうなったら出てくるトリックは当然○り○の原理を使ったやつだ・・・って島荘や二階堂を読みなれた読者なら気付くはず。 ④「吸血鬼の塔」=被害者以外誰も入れたはずのない塔から突き落とされた死体・・・という不可能状況。他の方も書いているとおり、かなり強引なトリック&解法でこじつけに近い。吸血鬼の謎についても、それならそれで不自然だろうって思うのだが・・・ ⑤「妖女の島」=このトリックってここまで大掛かりなやつをやる意味あるの?って思わざるを得ない。まさにトリックのためのトリックの典型だし、ちょっとネタ不足だったのかな・・・ 以上5編。 本シリーズの特徴である大時代的なプロット&トリックが短編でも全開。 ②以降は「人狼」や「白魔(ヴェンディゴ)」、「吸血鬼」など欧米に伝わる伝説の怪物の影が事件にちらつくという共通項。 当然ながら最後はベルトランが現実的な解決を示すのだが、作品を下るごとにこじつけのような感じになってくるのがやや残念。 まっでも本格好きなら一読の価値はある。こんなコテコテの本格にはなかなか出会えないだろうから・・・ 返す返すも早すぎる逝去が惜しい! (ベストは間違いなく①。もう少し膨らませれば立派な長編が出来上がりそうなんだけどなぁー) |
No.1168 | 7点 | 黒猫の三角 森博嗣 |
(2015/10/18 20:57登録) 1999年発表。 S&Mシリーズに続くVシリーズの一作目が本作。 保呂草潤平、小鳥遊練無、香具山紫子、瀬在丸紅子の四人が織り成すハーモニー(!?) ~一年に一度、決まったルールの元で起こる殺人事件。今年のターゲットなのか、六月六日、四十四歳になる小田原静香に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸(おうめいろっかくてい)を監視するが、衆人環視の密室で静江は殺されてしまう。森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第一作!~ 「そうきたか・・・」っていうのがまずは読了後の感想。 密室などとにかく本格ミステリーのガジェットに拘ったS&Mシリーズも、作品を重ねるごとにやや変化球気味になっていた矢先。 「さすがにもう本格へのアプローチも限界なのか?」という思いもしていた。 そんななか始まった新シリーズ。 ある意味衝撃の結末(?)が襲う本作。 いきなり(シリーズ一作目で)コレ? って騙される読者も多いことだろう。 でも、一筋縄ではいかない森ミステリー。 当然ながら作者の「企み」がそこには隠されている・・・ 密室については腑に落ちない読者も多いことだろう。 前シリーズとは比べ物にならないほどデフォルメされた密室トリック。正直にいえば、かなり「適当」なのだ。 ただ、そこは作者の「拘り」ではない。 作品全体に仕掛けられた「欺瞞」こそが本作の真骨頂。 そういう意味では、前シリーズで培われた作者の力量がさらに昇華されたのが本シリーズとも言える。 ってことは決して低い評価はできないな・・・と考える次第。 (動機については敢えて触れない) |
No.1167 | 7点 | ジェゼベルの死 クリスチアナ・ブランド |
(2015/10/12 18:08登録) 1949年発表の作品。 「緑は危険」「自宅にて急逝」などの代表作に続く作者の第五長編作品に当たる。 ~『おまえは殺されるのだ!』。素人演劇の公演を前に、三人の出演者に不気味な死の予告が届く。これは単なる嫌がらせか? やがて舞台をライトが照らし出し、塔のバルコニーに出演者のひとり、豊満な肉体を誇る悪女ジェゼベルが進み出る。その体が前にのめり、異常なほどゆっくりと落下した。演者の騎士たちが見守る“密室状態”のなかで・・・。現場にいたコックリル警部は謎を解けるのか? 本格推理の限界を突破する圧巻のミステリー~ さすが作者の代表作と言っても差し支えないプロットの出来栄えではある。 何より「設定」が魅力的だ。 衆人環視の劇場が舞台、多くの目が見守るなかで発生する殺人事件。誰も被害者に近付けなかったという不可能状態。そして続けて起こった殺人、しかも首切り死体・・・ うーん。実にクラシカルで、本格の見本のような事件設定。 他の方も評しているとおり、ラストの畳み掛け方が圧巻。 ようやく解決に光が差し込んだと思われた矢先、容疑者が次々と自白していくという異常事態。 さしものコックリルも右往左往させられるなか、最後に炸裂するドンデン返し! なるほど・・・これはプロットの勝利だ。 密室にしても、首切りにしても、典型というかまるで教科書のようなトリック。 新本格の作家なんかが書いてそうなトリックというと価値が下がりそうだけど、まぁそんな感じはする。 ここまで褒めてきたけど、敢えていうなら「表現ベタ」かな。 登場人物の造形も今ひとつピンとこないし、ラストの解決場面もトリックやプロットの切れ味に比して、どうも頭にスッと入ってこないというもどかしさは感じた。 (まぁそれは「緑は危険」の際も感じたことだが・・・) でも、作者の代表作という位置付けには賛成。 読み継がれるべき佳作だと思う。 |
No.1166 | 6点 | 静おばあちゃんにおまかせ 中山七里 |
(2015/10/12 18:08登録) ~警視庁捜査一課の刑事・葛城公彦は平凡な青年。天才的な閃きにも鋭い洞察にも無縁だが、ガールフレンドの高遠寺円に助けられ今日も難事件に立ち向かう。法律家を志望する円のブレーンは元裁判官の静おばあちゃん~ 2012年発表の連作短篇集。 ①「静おばあちゃんの知恵」=神奈川県警の刑事が銃殺される事件が発生。容疑者は被害者と犬猿の仲の刑事で、線状痕も合致してしまう・・・。トリックは相当強引な気はするのだが、一応ロジックも嵌っていて冒頭の一編としては及第点。そういえば、こういう犯人像って今まであまりお目にかからなかったように思う。 ②「静おばあちゃんの童心」=憎まれ役の祖母が殺され、子供や孫が容疑者とされるのだが、全員に鉄壁のアリバイが立ち塞がる・・・という展開。アリバイトリックは陳腐なのだが、これも真犯人がやや意外。 ③「静おばあちゃんの不信」=新興宗教に纏わる殺人事件が舞台となる一編。密室から消えた死体がメインの謎となるのだが、そのトリックが凄まじい。 ④「静おばあちゃんの醜聞」=建築中の東京スカイツリー(らしき建築物)の屋上が密室殺人の舞台となる一編。とにかく高くて揺れて、とてもではないが被害者を殺しに行けない(?)なかで、真犯人はどうやって殺害したのか? これも変形の密室殺人なのだが、解法そのものはそう褒められたものではない。でもまぁ舞台設定の勝利かな。 ⑤「静おばあちゃんの秘密」=円の両親がひき逃げにあった事件についても同時進行する第五話。メインの事件は厳重に監視されたホテルの部屋で起こる密室殺人事件。堅牢な密室なのだが、トリックについてはうーんっていう感じ。それよりも静おばあちゃんの「秘密」にびっくりしたんだけど、これってあまり意味がないような気がして・・・ 以上5編。 各タイトルからお分かりのとおり、ブラウン神父の作品集をモチーフとした作品なのだが、特別プロットが似ているというわけでもない。 (そういえばシャーロック・ホームズの作品集をモチーフとした作品もあったよな・・・「要介護探偵の事件簿」) 作者らしくどの作品にも不可能状況や密室など本格ミステリーのガジェットが盛り込まれ、最終話となる⑤では、連作作品集らしいサプライズも用意されている。 そういう意味では“痒いところに手の届く”水準に仕上がっている、或いはそのように仕上げようとした作品。 ただし、手放しで褒めるというレベルではなく、悪く言えば「ありきたり」の連作短篇集と評する方も多いかもしれないかな。 でも私個人は決して嫌いではない。(円のキャラクターを含め・・・) (個人的順位は③⇒①で後は同レベルって感じ) |
No.1165 | 7点 | 潜伏者 折原一 |
(2015/10/12 18:07登録) 「~者」シリーズも重ねてもう・・・第何作目だ!? 正直なとこ、何作目か分からないほど続いている本シリーズ。大いなるワンパターンなのか、はたまた作者のライフワークと言えるシリーズに育ったのか?(どちらか分からん??) 2012年発表。今回は1979年から90年にかけ北関東で発生した四件の幼女誘拐殺人事件がモチーフとなっている。 ~若手のルポライター・笹尾時彦は、新人賞の下読みのバイトで奇妙な原稿に遭遇した。「堀田守男氏の手」と題された原稿は、どうやら北関東でつぎつぎに起きた少女失踪事件を題材にしているようなのだ。興味をそそられた笹尾は、パートナーの百合子とともに調査に乗り出した。容疑者、被害者家族、そして謎の小説家の思惑が交錯するとき、新たな悲劇の幕が開く!~ 今回は感心した! いきなりこう書くと、「いったい何だ!?」と思われそうだが、読了後そう思ってしまった。 ノンフィクションライターの主人公が事件を追っていくうちに、登場人物たちの泥沼の人間関係に翻弄され、いつの間にか叙述トリックの術中に嵌っている・・・ 「~者」シリーズを超簡単に説明するとこんな基本プロットなのだが、ここまでシリーズが続いていく中で、読者を飽きさせない新機軸というか、新たな“見せ方”を提供している。 (ではどこが新機軸かと問われると困るのだが・・・) しかしまぁ、このシリーズの登場人物たちは・・・ 特に本作では、途中からもう、『勝手にひとりひとりが動き出して、しっちゃかめっちゃかに暴れだす・・・』という表現がピッタリ。 ここまで複雑に入り組んだプロットもそうないだろう。 (一人二役ではなく、○人○役なのが本作の白眉か?) 「潜伏者」の正体が実は・・・というプロットもさすがに旨い! 今回拘ったであろうフーダニットについては「どうかなぁ??」という気がしないでもないが(確かに分かりやすいしね)、全般的には作者の円熟した“腕前”が十分に味わえる良作だと感じた。 縛りのあるプロットのなかで、何とか工夫していこうとする作者の「拘り」に今後も期待したい。 どうも判官びいきのような評価になってしまったけど、やっぱり「折原好き」なんだなと感じた次第。 きっと次作も北関東で事件は起こるんだろうな・・・ |
No.1164 | 6点 | モース警部、最大の事件 コリン・デクスター |
(2015/09/23 17:43登録) 十五年間に渡り、雑誌等の媒体にランダムに発表された短編をまとめた作品集。 巻末解説者によると、作者の短編集は他に発表されることはないだろう、とのことだが・・・ ①「信頼できる警察」=モース警部もので中編と呼べる分量の一編。タイトルからして皮肉な雰囲気だが、実際のストーリーも皮肉orツイストの効いている。短編でもモース警部=ルイス部長刑事のコンビは不変。 ②「モース警部、最大の事件」=タイトルからすると「フレンチ警部最大の事件」を意識しているのかと思いきや、この分量の短さは何だ!? 『最大』の意味がイマイチ伝わってこなかったのだが・・・ ③「エヴァンス、初級ドイツ語を試みる」=囚人であるエヴァンスがドイツ語の検定を受けることに・・・。で、やっぱり途中で大事件が発生することになる。これは非モース警部もの。 ④「ドードーは死んだ」=巻末解説者もお勧めの一編。確かにこれが一番短篇っぽいプロットかも。 ⑤「世間の奴らは騙されやすい」=これも非モースもの。カジノを舞台にして、ブラックジャック(だよね)での単純なイカサマを巡る虚々実々の駆け引きが描かれる・・・と思いきやアッというラストが用意されている。 ⑥「近所の見張り」=再びモースもの。これは短篇ぽくって個人的に好きなプロット。道化師役を演じさせられるモース警部が哀れだが、その姿が実に映像的に頭に思い浮かんでしまった。これって詐欺なんかの典型的手法だよね・・・ ⑦「花婿は消えた!」=シャーロック・ホームズの名短編「花婿失踪事件」(「シャーロック・ホームズの冒険」収録)を下敷きとしたパスティーシュ作品。ホームズの実兄・マイクロフトも登場するのだが、兄弟間の皮肉の効いた応酬もさること、ツイスト効かせまくりのラストがさすがに旨い! ⑧「内幕の物語」=①と並び中編レベルの一編。いわゆる“作中作”のプロットを採用しているが、日本の新本格みたいに叙述系トリックが用意されているわけではない。 ⑨「モンティの拳銃」=職場の上司に妻を寝取られた夫が、上司の男に向かって銃口を向ける、のだが・・・。結局、女性の方が一枚も二枚も上ということだろう。 ⑩「偽物」=模範囚⇒脱獄、を繰り返す囚人。今回も監視員の目を盗んで脱獄したのだが、やはり途中で捕まってしまう。でも、これは本物or偽物? ⑪「最後の電話」=毒殺された男に最後に電話をかけたのは妻or愛人? というわけなのだが、ラストはちょっとよく分からなかった。 以上11編。 実にバラエティに富んだ作品集。モース警部ものがメインだが、非モースものにむしろ佳作が多い感じ。 ちょっと分かりにくい表現も多くて、100%面白さが理解できているかというと微妙なところがやや残念。 まっでも、デクスターファンなら必読。それ以外の方でも十分楽しめる水準ではあった。 ただ、モース警部ものならやっぱり長編だな。 (個人的ベストは⑦のパスティーシュ。④⑥の非モースものが次点って感じ・・・) |
No.1163 | 8点 | 神様ゲーム 麻耶雄嵩 |
(2015/09/23 17:42登録) 2005年、講談社「ミステリーランド」シリーズの一冊として発表された長編。 昨年、続編の「さよなら神様」が刊行されたことでも話題となった作品。 いかにも作者らしい『企み』に満ちた・・・作品(!) ~神降市(かみふりし)に勃発した連続“猫”殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか、謎の転校生・鈴木太郎が犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことはすべてお見通しだというのだ。鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか。神様シリーズ第一作~ これは・・・決して子供向けじゃないな。 っていうか、逆にこの終章は子供に読ませてはいけない! えげつないほどの「世間の不条理」や「大人の事情」が明らかとなる真相に、読者はサプライズ感を味わうこと必至。 こんな強烈なプロットを本シリーズにぶつけてくる作者って・・・やっぱり尋常じゃない! もちろん本作の肝は「神様」=鈴木太郎の存在ではある。 ただし、神様の推理、ではなく何て言えばいいのか・・・「真理」か? まぁいいや。とにかく神様の言葉は、途中の過程を一切省いて、結論のみ。 猫殺しについてはうやむやに終わったが、それは単なる前菜に過ぎなかった。 途中で発生する同級生殺し。 これこそがまさに「悪意の塊」とも言うべき犯罪なのだ。 実行犯は大凡予想が付いていたんだけど、黒幕までは気付かなかったなぁ・・・ って思ってたら、それにこのラストはなんだ? いやぁー参った!参った! やっぱりマトモじゃないな。作者は! (芳雄君のその後の人生が実に心配だ) |
No.1162 | 6点 | 超高層ホテル殺人事件 森村誠一 |
(2015/09/23 17:41登録) 1971年発表の長編。 作者の“古巣”であるホテルを舞台に、密室とアリバイが複雑に交差する難事件が発生する。 角川文庫の復刊シリーズにて読了。 ~超高層ホテルの開館記念イベント。満楼に競う光が東京の夜を彩る巨大な十字架となって立ち上がったとき、ひとりの男が転落した。死亡したのはホテルの総支配人。墜落した窓のある部屋は、出入り不可能な密室だった。謎が解けぬまま、捜査陣は動機の線から犯人を追うが、容疑者には鉄壁のアリバイがあった・・・。愛憎渦巻く人間模様、難攻不落の密室、緻密なアリバイトリック。謎解きの醍醐味が凝縮された本格ミステリーの金字塔~ いかにも「森村誠一っぽい」本格ミステリー(当たり前だが・・・)。 本格ミステリーの二大トリックというべき、「密室トリック」と「アリバイトリック」が本作の主題。 ①「密室」 三番目の殺人事件での密室がメイン。チェーンロックが掛かった完璧な密室なのだが、その解法はかなり強引なもの。割とあっさりと書いてあるけど、果たしてこれって「跡」は残らないのだろうかという疑問が残る。最初の殺人の密室は結局うやむやに終わったような気もするし・・・ ②「アリバイ」 東京~大阪間という古き良きアリバイトリックが立ち塞がる。ただし、鉄道ではなく航空機と自動車がその対象。刑事が踏切でのある出来事からトリックに気付くくだりがいかにもこの時期のミステリーっぽい。 最初の事件のトリックもかなり大掛かり。「遠目」という条件が付くしリスクは大きいのだが、発想としては面白い。 という感じかな・・・ 作者の作品で舞台がホテルというと、デビュー長編の「高層の死角」が思い浮かぶが、個人的には「高層の・・・」の方が上。 財界やホテル業界の“生き馬の目を抜く”競争やドロドロした姻戚関係もあまり本筋には関連してこない。 でもまぁ、それが作者の「味」なのかな。 評点はこんなもんだろう。 |
No.1161 | 5点 | 刑事の誇り マイクル・Z・リューイン |
(2015/09/20 19:23登録) 1982年発表の長編。 私立探偵アルバート・サムスンと並んで作者のメインキャラクターとなっているパウダー警部補を主役とするシリーズ。 「夜勤刑事」に続くシリーズ二作目。 ~万年夜勤刑事だったパウダー警部補は失踪人課の長になった。だが正規の部下は車椅子の女性刑事ただひとりという小さな部署。ぼやきながらの初仕事は、自殺未遂者の身元調べだった。その女は全裸で発見されたうえ、一切の記憶がないという。さらに家出した妻、行方不明の姪など捜索依頼が次々と舞い込む。折しも彼は息子が犯罪に関わっている気配に気付いた。公私に山積する難題に立ち向かう辣腕刑事、シリーズ第二弾~ ネオ・ハードボイルドの旗手たる作者らしい作品。 アルバート・サムスンと同様、本作の主人公リーロイ・パウダー警部補も格好いいキャラクターでは全くない。 むしろ、閑職に追いやられ、日々雑務に追われるという体たらく・・・ そういう意味では、少なくとも「ハード」ボイルドという言葉には違和感がある。 本作では唯一の部下として登場する美貌の車椅子刑事・フリートウッドとの絡みが大きな鍵となる。 当初は満足に動けない彼女に対し、不満を隠そうとしなかったパウダーだが、相棒として仕事&時間を重ねていくうちに信頼関係が生まれ、ついには・・・ (その辺りはハードボイルドっぽいのだ) 数々と発生する失踪事件については、最終的につながったりするのかな、などとミステリーっぽい仕掛けを予想していたのだけど、そこはさすがに無理だったのだろう。 そういう意味では息子の事件もパウダーの心労を増やす役割でしかなかったのかなと思ってしまう。 まぁ書きたかったのは、タイトルどおり「刑事の誇り」だったのだろう。 こういうキャラクターに親近感、シンパシーを感じる読者も多いのではないか? 生粋のハードボイルドファンにとっては“食い足りない”のかもしれないが・・・ |
No.1160 | 6点 | 帝都探偵 謎解け乙女 伽古屋圭市 |
(2015/09/20 19:22登録) ~シャロック・ホウムズ(シャーロック・ホームズ)に憧れ、名探偵になることを宣言した女学生の菜富令嬢。お抱え車夫の寛太は彼女の願いを叶えるべく、菜富の家庭教師をしている小早川と協力するが・・・~ 「このミステリーがすごい!」大賞受賞の作者が贈る連作短篇集。 ①「死者からの手紙」=最初の探偵譚は、女学生時代のエス(=レズ?)で夭折した女性から届いた手紙の謎。本当に死者からの手紙なのか? 早速菜富お嬢様の勘違い(?)推理とそれをフォローする寛太という図式が明らかになる。 ②「密室から消えた西郷隆盛」=“西郷隆盛”とは当然本人ではなく、彼の「銅像」のこと。足跡のない密室から忽然と消えた銅像の謎なのだが、密室の解法そのものは肩透かしレベル。 ③「未来より来る男」=未来からやって来たという男の正体は、という謎がメイン。いかにもそれらしく振舞う男なのだが、真相そのものはよくある手。 ④「魔炎の悪意」=火事で死んだはずの前夫が生きている姿を見てしまった美しい未亡人。本当に夫は生きているのか調査を依頼された二人。事件は予想以上の広がりを見せるのだが、これも③と同じようなプロット。 ⑤「名探偵の誕生」=連作の最終譚は当然今まで隠された「構図」が明らかに・・・ということになるのだが、本作でも大掛かりな仕掛けが施されていた! 以上5編。 実は⑤の後の終章で更なるドンデン返しが待ち受けている。 連作短篇集はこうでないと・・・やっぱり! ①~④の各編はいかにも作り物めいていて、何となくむず痒いような感じがしていたが・・・ その「感じ」そのものが作者の狙いだったわけだ。 他の方の書評を先に見ていたので、最終的に「仕掛け」があることが分かっていたのがやや残念。 ラストにもうひとつ重要なことが隠されていたのがわかるのだが、それが何とも切ない! 続編があってもいいようn気がするのだが・・・ (もちろんこれ以上大掛かりな仕掛けは難しいんだろうけど・・・) |