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平均点:6.00点 | 書評数:1859件 |
No.1259 | 6点 | 12番目のカード ジェフリー・ディーヴァー |
(2016/08/14 10:41登録) 「魔術師」に続くリンカーン・ライムシリーズの第六作。 時空を超えた事件にライム、アメリア・サックスらがどのように挑むのか? 2005年発表の作品。 ~NYはハーレムの高校に通う十六歳のジェニーヴァが、博物館で何者かに襲われそうになるが、機転を利かせて難を逃れる。現場にはレイプのための道具に、一枚のタロットカードが残されていた・・・。単純な強姦未遂事件と思い捜査をはじめたライムとサックスだったが、その後にも執拗に少女を付け狙う犯人に何か別の動機があることに気付くのだが・・・~ 今回もやはり「ドンデン返し」の連続が楽しめる佳作・・・という評価。 ただし、いつものようにフーダニット或いは“意外な真犯人”という方向性は薄い。 (もちろん、意外感はあるのだが) その代わりとして読者に仕掛けられたのは、「動機」に関するミス・ディレクション。 紹介文にも書かれているとおり、殺し屋が執拗に付け狙うのはひとりの黒人の少女。 ライムの科学捜査はこれまでどおり、ビシバシと真犯人に迫っていくのだが、最後まで解き明かされなかったのが「なぜこの少女が狙われるのか」・・・というわけなのだ。 確かに、今回はいつも以上に「動機」の謎にフォーカスさせられながら読み進めてきた。 レイプ、大規模窃盗、テロリズム・・・とつぎつぎに“いかにも”という動機が明かされるのだが、どうもそれが「餌」にしか思えない展開。 「本当の動機はなんだ?」と疑問を抱き続けているうち、終章でようやく判明する真の構図、そして真のからくり。 なるほど・・・だからこその「時空を超えた」プロットというわけか・・・ (でもさすがにこれは日本人には理解できないよなぁ) 毎回印象的な真犯人、殺し屋が登場する本シリーズ。けど、今回はちょっと地味め。 (ボイドの正体に関するミス・ディレクションはなかなか秀逸) いつもはアメリアのピンチシーンにドキドキするけど、今回はそれもあまりなくて、ピンチ・フェチ(?)の方には不満かもしれない。 でもまあシリーズも六作目ともなると、多少の変化球は仕方ない。 本作はすげぇー変化球というよりは、多少横に曲がる“スライダー”とでも表現すべき作品か。 その分、やや物足りないと感じる方は多いかもね。 私個人的にはそれなりの満足感という読後感。 |
No.1258 | 5点 | その死者の名は エリザベス・フェラーズ |
(2016/07/31 22:13登録) トビー&ジョージのコンビが活躍するシリーズの第一弾。 (作者というと「猿来たりなば」という印象しかなかったのだが・・・) 1940年の発表。 ~深夜、人を轢いてしまったと警察署に女性が飛び込んできた。死んだ男は泥酔して道の真ん中で寝込んでしまったらしい。土地のものではないと見当はつくものの、顔は潰れていてどこの誰だか分からない。ただ奇妙なことに、この男どの酒場にも寄った様子がなく、酒壜も持っていなかった。そこで、酒壜探しを命じられた若い巡査が涙ぐましい捜索を続けていると、勝手にそれを手伝い始めた男がふたり。その名をトビーとジョージといった・・・~ プロットとしては悪くないと思う。 轢いた犯人は明白である代わりに、死者が誰だか分からない。 中途で恐らくこの人物ということは判明するのだが、事件そのものが徐々に混迷していく・・・ という展開。 トビー&ジョージのコンビも名探偵というよりは、事件をかき回していく役割も担っている感じ。 言われてみれば簡単な真相を、もって回ったように複雑化しているきらいはある。 そこが本作の不満点に繋がっているのだろう。 (最終的には死者の名前というよりは、純粋なフーダニットで終わっているもんね) シリーズ一作目ということで、作者も手探りで書いていた面もあったのかな。 登場人物の造形も今ひとつ頭に入ってこなかった。 でもまぁそれほど悪くはないと思う。 (どこがどうという理由は思い付かないのだが・・・) どうも煮え切らない書評でスミマセン・・・ |
No.1257 | 6点 | 恐怖の金曜日 西村京太郎 |
(2016/07/31 22:11登録) 1982年発表の長編。 もはや超お馴染みの“十津川警部・亀井刑事”コンビが大活躍するシリーズ作品。 最近角川文庫にて復刊されたため早速読了。 ~金曜日の深夜、二週続けて若い女性の殺人事件が発生した。残された手掛かりから犯人の血液型はB型と判明。十津川警部の指揮のもと、刑事たちは地道な捜査を続けていた。そんななか、捜査本部に<9月19日 金曜日の男>とだけ便箋に書かれた封書が届き・・・当日は何もなく夜が更けたかに思えたが、翌早朝、電話が鳴り響いた。若い女性を恐怖のどん底へ落とし込んだ姿なき犯人とは?~ 一種のミッシング・リンクをテーマにしたサスペンス・ミステリー。 こういう手の作品は作者の得意技でもある。 巻末解説の山前氏も書かれているが、「夜行列車殺人事件」や「殺人列車への招待」など、なぜ犯人がこういう犯罪を犯すのか分からないという命題のほか、警察宛の挑戦状がプロットの軸の一つになっている例も結構多い。 やっぱり、十津川警部を始めとする警察機構VS犯人という図式を取る以上、クローズドな環境はありえないわけで、こういう広域捜査に適したプロットが選択される。 本作では「日焼け跡の残った若い女性」がミッシング・リンクをつなぐ材料として浮かび上がってくる。 当然ながら、なぜそれがミッシング・リンクをつなぐのかが最も重要な謎・・・というわけだ。 最終的に浮かび上がる犯人像については、十津川があれだけ悩んでてそれかよ、もう少し早く気付けよ! って突っ込みを入れたくなるものではあるのだが、最後までうまくまとめているなという感想にはなった。 まぁ辛口な見方をすれば、いつもと同じじゃないかと言えなくもない。 相変わらず亀井刑事は地道な捜査を続けるし、三上刑事部長はマスコミに弱いし、若手刑事はミスをするし、十津川は煮え切らないし・・・ それでも読まされてしまうこの安定感。 やっぱりトラベルミステリーよりも、こういったタイムリミットサスペンス的なプロットが一番作者の良さが出ると思う。 (今回は少し違うけど・・・) 書籍や地上波でもう嫌というほど作品が発表されていても、尚且つ毎月のように新作や復刊がされる事実。これだけでも、作者の偉大さが分かるってことだろう。 |
No.1256 | 7点 | ストロボ 真保裕一 |
(2016/07/31 22:10登録) ~走った。ひたすらに走り続けた。いつしか写真家としてのキャリアと名声を手にしていた。情熱あふれた時代が過ぎ去った今、喜多川はゆっくりと記憶のフィルムを巻き戻す。愛し合った女性カメラマンを失った四十代。先輩たちと腕を競い合った三十代。病床の少女の撮影で成長を遂げた二十代・・・夢を追いかけた季節が蘇る~ 2000年発表。 ①「遺影-50歳」=ベテランカメラマンの喜多川に母親の撮影を依頼に来た娘。訪ねてみると、母親は病床にあり撮影は明らかに遺影だった・・・。喜多川の過去を知るという女性そのものが本編の謎。なぜ彼女は喜多川に頼んできたのか? ②「暗室-42歳」=かつて愛し合った美貌の女性カメラマン。袂を分かち合った彼女が挑んだのは、世界の高峰での危険な撮影だった。彼女の名誉を守るため、喜多川と盟友・仁科は暗室へこもる。そして、喜多川の妻の行動が・・・。女性って・・・そうなんだな・・・ ③「ストロボ-37歳」=かつての師匠・黒部と久しぶりに再会した喜多川。しかし、黒部はもはや過去の男だった。かつての自身と黒部との関係が、今現在の喜多川と弟子の関係にシンクロするとき・・・。親の心、子知らずではないが、師匠の心、弟子知らずってことかな。 ④「一瞬-31歳」=カメラマンとしてようやく独り立ち始めた喜多川。そんなとき、ある雑誌社の取材で美貌のライターと出会う。彼女の心を振り向かせるため、喜多川はひとりの病床の少女と向き合うことに・・・。これも先輩・守口がいい味出してる! でも女って・・・ ⑤「卒業写真-22歳」=世は学生運動華やかなりし頃、という時代設定。大学の写真学科に在籍していた喜多川は、ひとりの友人と仲良くなる。しかし彼は学生運動の渦中へ自ら進んでいくことに・・・。何ともノスタルジックな話だな・・・ 以上5編。 お分かりのとおり、本作は現在から過去へ遡る形式。 全編、喜多川光司というカメラマンを主人公としているが、ひとつひとつの話は独立する連作短編の形をとっている。 あとがきで作者も触れているが、全編にある種の謎が設定されてあり、ミステリーとしてもよくできている。 しかし何より、なんとも“いい話”なのだ。 っていうか、正直こんな人生うらやましい! 刺激に満ち溢れ、栄光と挫折を繰り返す人生。それでも天賦の才能を抱えているからこそ、前向きにチャレンジできる・・・ 登場する女性もなんとも魅力的。 男って所詮、どれだけいい女に巡り会えるかで人生が決まるのかもしれない・・・そんな思いにさせられた。 (やっぱり、二十代の頃っていいよなぁ・・・。若いけど、可能性に溢れてて・・・ってジジイか!) |
No.1255 | 5点 | 毒薬の輪舞 泡坂妻夫 |
(2016/07/30 22:02登録) 「死者の輪舞」に続く、「~輪舞シリーズ」の二作目がコレ。 警視庁特殊犯罪捜査課刑事・海方が探偵役を務めるのは前作と同様。1990年発表。 ~青銅色の鐘楼を屋根にいただく精神病院に続発する奇怪な毒殺事件。自称“億万長者”、拒食症の少女、休日神経症のサラリーマンなどなど・・・果たして殺人鬼は誰なのか? 患者なのか? それとも医師なのか? 病人を装って姿なき犯人の行方を追う警視庁の名物刑事・海方の活躍。全編、毒薬の謎に彩られた蠱惑的ミステリー~ 何とも独特の雰囲気or作品世界を纏った作品。 これが「泡坂らしい」と言われればそうなのかもしれないが、これが“初泡坂”という読者がいたら、何とも可哀想な気がする。 そんな感想。 精神病院という舞台設定で、登場する患者は全員一癖も二癖もある奇妙な人物ばかり。 探偵役の海方やその相棒までもが捻れた人物を装っているという作品世界だから、当然中途は何がなんだか分からないような展開が続いていく。 各章のタイトルも毒薬の名前で統一されているけど、それがプロットと絡んでいるかというと、そうでもないのだ。 毒殺事件も起こってるんだか、起こってないんだがよく分からん! って思っているうちにようやく発生するひとつの毒殺事件が事件解決の契機となる。 さすがに終章の「反転」(という表現でいいのか?)はうまくやられた感は残った。 まぁ予定調和と言えなくもないんだけど、だからこその舞台設定だなーという気にはさせられた。 この辺りはさすがの手練手管。 評価としてはどうかなぁ・・・ スイスイ読めるといえばそうなのだが、五里霧中のまま読まされている感がありすぎてどうも消化不良だった。 これを高評価するのは無理だな。 (前作は未読なので、一応気になる・・・) |
No.1254 | 7点 | アデスタを吹く冷たい風 トマス・フラナガン |
(2016/07/30 22:01登録) シリーズもの四篇にノンシリーズ三篇を加えた早川オリジナルの作品集。 読者の「復刊希望アンケート」で堂々二度もNO.1に輝いた名短篇集(とのこと)で期待大。 ①「アデスタを吹く冷たい風」=表題作らしい格調と短編らしい“切れ味”を感じる佳作。①~④までは「共和国」のテナント少佐を探偵役とするシリーズ。銃の密輸を取り締まる国境の緊張感と意外な隠し場所が判明するラストがなかなか鮮やか。 ②「獅子のたてがみ」=将軍(ジェネラル)も一目おく男・モレル大佐の殺人事件をめぐる一編。いわゆる「操り殺人」がテーマなのだが、これまたラストに判明する“ある事実(真実?)”が相当鮮やか! 遠くからなら分からないよね・・・(今だったら近くからでも分からないかもしれないけど・・・) ③「良心の問題」=シリーズ四篇のなかでは一番目立たない作品かな。あまり頭に残らず。 ④「国のしきたり」=①に続いてまたまた国境での密輸取り締まりが舞台。任務に忠実でどのような密輸品でも見つけると豪語する取締り官に対し、テナント少佐の鋭い観察眼が光る。プロットは①と同系統。 ⑤「もし君が陪審員なら」=⑤~⑦はノンシリーズ。これは・・・いわゆる「最後の一撃が炸裂!」的な作品。もちろん暗喩なのだけど、当然読者はそう想像してしまう。 ⑥「うまくいったようだわね」=これも⑤同様に「最後の一撃」が鮮やかなプロット。女性にさんざん振り回される知人の弁護士がなかなか憐れ・・・。 ⑦「王を懐いて罪あり」=中世の北イタリアを舞台とした作品。いわゆる密室殺人&密室盗難が取り扱われているのだが(作者は意識してなかったとのことですが・・・)、これもラストに意外な真相が判明するのがニクい。 以上7編。 確かにこれは「冠」に相応しい作品集。 前半のシリーズは、地中海沿岸にあると思われる「共和国」が舞台だけど、無国籍感が漂っていて独特の世界観。 独特の世界へ読者を引きずりこみつつ、ミステリー的には人間の心理の死角をついた意外な真相という短編ミステリーらしいプロットなのが実に心憎い。 ノンシリーズも作者の達者な腕前が遺憾なく発揮されている。 高品質な作品集という評価でよいだろう。 (個人的にはやはり①がベストということになるかな) |
No.1253 | 6点 | ビッグボーナス ハセベバクシンオー |
(2016/07/30 21:59登録) 2004年発表。 第二回の「このミス」大賞優秀賞受賞の長編作品。 ~犯罪小説に新たな金字塔! パチスロメーカーで企画開発をしていた主人公・東は、今は攻略情報を売る超やり手の営業マン。軽妙な爆裂トークでガセネタの攻略法をパチスロ中毒者へ売りつけ、大金をふんだくっている。やがて、そんな彼の周囲で不穏な空気が流れ始める・・・。パチスロ・ノワールという新ジャンルを切り開いた「このミス」大賞優秀賞受賞作!~ ありがちといえばありがちなクライムノベル・・・という感じか。 一般社会からドロップアウトし、裏社会に手を染めつつ生きている主人公。順調に商売をしていた矢先に、徐々に周囲からキナ臭い雰囲気が立ち込めてくる。そしてやがて訪れるメルトダウン・・・ といったようなプロット&ストーリー。 誰もがどこかで触れたことのあるヤツではないか? (個人的には真保裕一の「奪取」とどうしても印象がカブってしまった) 別につまらないわけではない。 スピード感溢れる展開と意外性のある終盤、ラストのカタストロフィなどなど この手の小説を読みたいファン心理は十分捉えてはいる。 残念ながら個人的にパチスロに嵌った経験がないので、途中の薀蓄があまり理解できなかったのだが、パチスロ好きなら更に面白く読めたのだろう。 まっでも、巻末解説でも書かれてるけど、ちょっと“型にはめすぎ”っていうのが本作最大の弱点かな。 この感じだと、今いちヒットしなかった日本映画の原作っていうのが、本作に最もフィットする表現に思えた。 デビュー作品だし、あまり高いレベルを期待するほうがそもそも間違っているといえばそのとおりなのだが・・・ ちょっと辛口かな? (全然関係ないですが、私は昔サクラバクシンオーが大好きでした・・・) |
No.1252 | 6点 | ヒポクラテスの誓い 中山七里 |
(2016/07/16 22:55登録) 2015年発表の連作短篇集。 ~浦和医大法医学教室に「試用期間」として入った研修医の栂野真琴。彼女を出迎えたのは偏屈物の法医学の権威、光崎教授と死体好きの外国人准教授キャシーだった。迫真の法医学ミステリー~ ①「生者と死者」=何だかE.クイーンの某長編を思い出させるタイトル。連作の初っ端ということで、キャラクターの紹介やら本作の流れが示される。一見すると泥酔の末凍死したとしか思えない死体なのだが・・・光崎は真実を看破する。 ②「加害者と被害者」=いつでも安全運転を行っていた男が起こした衝突事故。一見すると単なる交通事故にしか思えない事件なのだが、あるひとつの事実が光崎を解剖へと駆り立てる・・・ ③「監察医と法医学者」=競艇のレース中に突如起こった激突事故。被害者は頭部を損傷しており、明らかな事故だと思われたが・・・。でも、もしそうなら日常生活のなかで家族は気づくはずではないかと思うんだけど・・・ ④「母と娘」=病に犯されている真琴の親友と看病疲れが酷い母親・・・。快方に向かっていると思われた矢先、突如訪れた親友の死。法医学者としての姿勢を試されることになった真琴。こういう病気(?)があることは知らなかったな! ⑤「背約と誓約」=連作のシメとなる本編。真琴が以前担当だったひとりの少女が突然死に至る(また?)。一見すると腹膜炎としか思えなかったのだが、ある事実より真琴が疑問を持つ。そして判明する黒く重い事実と光崎の想い。 以上5編。 これは・・・すぐにでもドラマ化されそうだなと思ってたら、すでにWOWWOWで進行中とのこと。(やっぱり!!) 最近はやりだもんなぁー、この手のドラマ!(土曜ワイド劇場とかテレビ朝日が多そう) まぁ旨いもんですよ。作者も。 短篇、更には連作短編の要諦をよく理解して書かれていると思う。 でもそれこそが弱点かな。 既視感ありありだし、計算し尽くした感もちょっと鼻につく感じだ。 この「旨さ」はやっぱり素材の旨さというよりは、調味料や添加物の旨さのような気がする。 (よく分からん表現ですが・・・) ただ、旨いのは間違いないですから・・・お間違えなく。 (死因究明というと、どうしても海堂氏のバチスタシリーズを思い出してしまう。本作では只管解剖に拘っているが、同シリーズではAiの導入が声高に叫ばれていた。ふたりの主張は矛盾はしていないようだけど・・・) |
No.1251 | 5点 | どもりの主教 E・S・ガードナー |
(2016/07/16 22:54登録) 1936年発表。 お馴染みペリィ・メイスンシリーズの長編九作目に当たるのがコレ。 ~ペリィ・メイスンの事務所にやってきてシドニーの主教マロリイと名乗った男は“どもり”だった。男はどもりながら、彼の二十二年前の重過失致死事件の弁護を引き受けてくれるかと頼むのだった。相手は名にしおう百万長者のレンヴォルド家だった。興味を覚えたメイスンは、主教を帰すと私立探偵ドレイクに命じてすぐにホテルまで尾行させたたのだが・・・。結果はメイスンが案じたとおりだった。ホテルに戻った主教は、部屋で待ち伏せていた赤毛の娘に頭を殴られて気を失っていたのだ!~ 巻末解説者によると、本作はガードナーが最も脂の乗った頃の作品とのこと。 うーん。確かにそういう感触はある。 筆が乗っているというか、酔っているというか・・・(?) メイスンもデラ・ストリートも大はしゃぎに大はしゃぎだし・・・ でも正直なとこ、プロットが錯綜していてよく分からなかった、というのが本音。 “つかみ”はいいと思うんだよね メイスンが事件に引き込まれて、渦中に飛び込んでいくところまでは実にスムーズ。 ただ中盤からがイケない。 他の方も触れられてましたが、複雑にしすぎたために不自然というか無理矢理感がどうしても強くなってしまった。 動機も結局よく分からなかったし・・・ まぁシリーズファンにとっては、いつものようにメイスンが八面六臂の活躍をして、大団円に終わるのが堪えられないのだろう。 ファンでない私にとってはあまり楽しい時間とは言えなかったが・・・ しばらくは読まないかな・・・多分。 |
No.1250 | 4点 | 将棋殺人事件 竹本健治 |
(2016/07/16 22:52登録) 1981年発表。 「囲碁」「トランプ」と並び、牧場智久を探偵役とするゲームシリーズのひとつに数えられる作品。 ~駿河湾沖を震源とする大規模な地震が発生し、各地に被害をもたらすなか、土砂崩れの中から二つの屍体が発見された。六本木界隈に蔓延する奇妙な噂=「恐怖の問題」をなぞったかのような状況に興味を覚え、天才少年・牧場智久は噂の原型と発生源を調べ始めるのだが・・・。すべてが五里霧中の展開に眩暈を覚える異様な長編~ まさに蜃気楼のような作品だった。 つかめそうで、つかもうとするとするりと逃げていくような感覚・・・ いろいろな謎や奇妙な現象がそこかしこにばら蒔かれていて、普通のミステリーならば、ストーリーの進展に伴ってそれらが徐々に回収・整理されて、最終的には収束していく・・・ のだが、本作はそれがないまま進められていくのだ。 終章は「収束」というサブタイトルがつけられていて、探偵役(牧場ではなく須堂が看破するのだが・・・)が一応筋道立てた解決を示しはする。 示しはするのだけど・・・これって全然納得できないんですけど! この解法なら正直なんでもありだと思ってしまう。 まぁ本作にまっとうなミステリーの考え方を当て嵌めるのもどうかとは思うけど、私のような小市民的ミステリーファンにはモヤモヤ感しか残らないんだから仕方がない。 将棋、特に詰将棋に関する薀蓄はかなりのページを割かれている。 将棋に興味のない方にはツライ読書になる可能性が大なのでご注意を! 評価はなぁ・・・高くはできないな、当然。 (これだけの詰将棋なら芸術の域に達しているのは確か) |
No.1249 | 7点 | 女王国の城 有栖川有栖 |
(2016/07/08 23:09登録) 「双頭の悪魔」(1992)以来、久し振りの江神&学生・アリスシリーズ第四弾。 およそ十五年の歳月を経て発表された本作は文庫版で上下分冊の大容量! 第八回の本格ミステリー大賞にも輝いた、2007年発表の大長編。 ~舞台は目覚しい成長を遂げる宗教団体「人類協会」の聖地・神倉。大学に姿を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿を訪れる。室内には神倉に向かったと思しき痕跡。アリスとマリア、そして望月・織田までもが同調し、四人は木曽路を浸走ることに。「城」と呼ばれる総本部で江神の安否は確認できたものの、思いがけず殺人事件に遭遇。外界との接触を拒まれ囚われの身となった一行は決死の脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発する・・・~ いやぁー結構長かった!! 他の多くの方も触れているけど、これは確かに「無駄に」長いという表現が当たってるようにも思えた。 特に中盤! 直接本筋には関係のない脇道がかなり多い! 四人の脱出劇も、いくらエンタメ的趣向とはいえ、ここまでのボリュームが必要かと言いたくなってしまう。 (結局、尻つぼみに終わってしまうんだもんねぇ・・・) 「双頭の悪魔」や「孤島パズル」との比較を書評上で書かれている方も多いけど、「うーーん」確かに、まとまりとかストーリーテリングという観点からなら前二作の方に軍配を上げたくなる。 という訳でまずは否定的な意見から・・・ で、本筋なのだが、 さすがに真相解明でのロジックはよく練られている。特に「銃」に関するロジックは秀逸。 ①「銃声」がアリバイトリックと密接に絡む点、②厳重なクローズド・サークル内への銃の持ち込まれ方、③過去の事件と現在の事件との関連性、などなど伏線が見事なまでに回収されていく手腕は、作者の集大成といっても過言ではないだろう。 十数名を超える容疑者から真犯人が消去法で炙り出されていくカタルシス! これこそが本格ミステリーの醍醐味に違いない。 「宗教団体」や「城」という舞台も単なるこけおどしではなく、必要性はあったんだなと終章で納得(一応)。 ということで、シリーズファンにはやはり堪えられない読書だったんだろう。 ただ、冷静な目線で見ると、やっぱり前二作よりは劣るという評価は変えられない。 次作がシリーズラストということで、期待せずにはいられないよね・・・やっぱり! |
No.1248 | 7点 | 十日間の不思議 エラリイ・クイーン |
(2016/07/08 23:08登録) 「災厄の町」「フォックス家の殺人」に続く、架空の街・ライツヴィルを舞台としたシリーズ三作目。 1948年発表の大作。 ~血まみれの姿でクイーンのもとを訪れた旧友のハワードは、家を出てから十九日間完全に記憶を失っていたという。無意識のうちに殺人を犯したかもしれないので、ライツヴィルへ同行してほしいと彼はエラリイに懇願した。しかし、エラリイが着くのも待たず、不吉な事件は幕を開けた。正体不明の男から二万五千ドルでハワードの秘密を買えという脅迫電話がかかってきたのだ! 三たびライツヴィルで起こった怪事件の真相とは?~ 確かに、これは賛否両論に分かれるだろうし、読み手を選ぶ作品だろうと感じる。 クイーンといえば何といっても初期の「国名シリーズ」と思われる方にとって、本作は何とも形容のし難い作品なのだと思う。 脅迫事件こそ割と早い段階で起こるものの、殺人事件は終盤に差し掛かったことにようやく発生。 おまけにその犯人は明明白白な状況・・・といった具合。 これではロジックもトリックもあったものではない。 他の諸作に比べても著しく少ない登場人物。 エラリイ以外にはほぼ四人の登場人物だけにスポットライトが当てられるのだから、人間ドラマ的な色合いが濃くなるのは必然だろう。 そして本作のプロットの中心or根幹ともなるのが、終章の「十日目」。 エラリイの推理で一旦終結したはずの事件が、更なる奥深い暗黒を見せる刹那。 これは重い! あまりに重い真相だ。 ラストも何とも悲劇的だし、救いがない。 ハヤカワ文庫版の鮎川御大の解説に関しては、他の方も触れているとおりなのだが・・・ (ネタバレはご愛嬌か?) クイーンらしからぬアンフェアな表現に対して辛辣な評価をしているをはじめ、本作が氏の好みでないであろうことが、筆致の端々に表れているのが興味深い。本作と宗教の関連についても慧眼。 そういうわけで評価は難しいな・・・ 正直、最初は「なんじゃこりゃ?」っていう感想だったのだが、結構後からジワジワきた作品だった。 並みの作家がこんなプロットで書いたら、まず読めたものではないだろうし、それだけ作者の力量が卓越しているということなのだろう。 好みか?と聞かれれば、決してそうではないんだけどね。 |
No.1247 | 4点 | タルト・タタンの夢 近藤史恵 |
(2016/07/08 23:06登録) 2003年より不定期に「ミステリーズ」誌で連載されたものをまとめた作品集。 下町にあるフレンチレストラン“ビストロ・パ・マル”を舞台に繰り広げられる日常の謎とは・・・? いかにも東京創元社らしい連作短篇集。 ①「タルト・タタンの夢」=“タルト・タタン”とはその名のとおり「リンゴのタルト」、いわゆる焼菓子。女性歌劇団(宝塚っぽい感じ)で人気の男役の女性をめぐる鞘当に店が巻き込まれることに・・・ ②「ロニョン・ド・ボーの決意」=“ロニョン・ド・ボー”とは子牛の腎臓をいろいろと加工した(!?)料理(かなり手間のかかるやつらしい)。愛人の地位から抜け出そうとした女性がシェフ三舟とぶつかることに・・・ ③「ガレッド・デ・ロアの秘密」=“ガレッド・デ・ロア”はフランスではキリスト教のお祭りで食べられるお菓子。中にフェーブという陶器の人形を入れ、切り分けたときそのフェーブに当たった人が王様になれるという風習がある(とのこと)。いつも三舟を助ける志村と妻・麻美、そしてガレッド・デ・ロアをめぐる物語が・・・ ④「オッソ・イラティをめぐる不和」=“オッソ・イラティ”とは仏・バスク地方で食されるハード・チーズのこと。突然妻に出て行かれた夫に降りかかる、ハード・チーズとブルーベリージャムの謎とは? ⑤「理不尽な酔っ払い」=ここにきて何とも勇ましいタイトルが登場。ビストロの近所で和菓子屋を営む主人が高校生時代に遭遇した不思議な事件がテーマ。でもアレをアアしたら、色が変わらないのだろうか? ⑥「ぬけがらのカスレ」=“カスレ”はフランスではメジャーな料理らしい(詳しく書くと長いので割愛!)。今回は、フランスにいた頃の恋人とカスレにまつわる思い出をシェフ三舟が解き明かす一編。 ⑦「割り切れないチョコレート」=“チョコレート”とは・・・って、おいおいそりゃ誰でも分かるよ! 今回は客として訪れた新進気鋭のショコラ・ティエをめぐる物語。でもこの推理って本当か?? かなり適当な気がするのは私だけだろうか? 以上7編。 フレンチにはまったく疎い私なので、いい勉強になりました。 たまには仕事の帰りにうまいビストロに寄って、ワインでも開けてこようかな・・・何て思ってしまいました。 それにしてもデセールもうまそう!! って、本筋はどうなの!!って聞かれそうですが・・・ まぁいいじゃないですか。そんなことは。 結局、シェフ三舟のちょっとばかり鋭い予想でしかないのですから・・・ |
No.1246 | 5点 | ディーン牧師の事件簿 ハル・ホワイト |
(2016/06/25 21:54登録) 2008年発表。 作者の処女作品にして、引退した牧師・サディアス=ディーンを探偵役とした連作短篇集。 “不可能犯罪てんこ盛り”ってどっかで聞いたセリフだな・・・ ①「足跡のない連続殺人」=一家を襲う連続殺人鬼。しかも、殺人現場はすべて足跡のない密室状況! っていう設定なんだけど、密室の解法が今ひとつ目に浮かばないのが難点。真犯人の特性を使っているのが旨いと取るかは非常に微妙。いずれにしろ短編で使うプロットではない。 ②「四階から消えた狙撃者」=ディーン牧師の目の前で、向かい側の建物から狙撃された男。犯人は一見すると仲違いしていた恋人のようだが、その恋人も死体で見つかって・・・という展開。不可能趣味も化けの皮を一つ一つ剥がすとこうなる、という解法はいいのだが、そもそもこういう設定時代にかなり無理がある。フーダニットはもはや自明。 ③「不吉なカリブ海クルーズ」=これも②と同種のプロットの応用。不可能状況を一つ一つ積み重ねました、っていう奴。つまりは「なんでこんなことやるの?」という感想になる。フーダニットはもはや自明。 ④「聖餐式の予告殺人」=これはなかなか旨いと素直に思った一編。毒殺トリックはよくある手といえばそうなのだが、シンプルなだけにうまく嵌っているし、他編のような無理矢理感がないのが良い。真犯人の悪意に憤る牧師の姿も好ましい。フーダニットは自明だが・・・ ⑤「血の気の多い密室」=またしても密室なのだが、これは果たしてトリックと呼べるのか? 堂々と真犯人が鍵を締めたのだから・・・(ネタバレ?) 窓の鍵の締め方もかなり大雑把。 ⑥「ガレージ密室の謎」=これはバカミス? まさかアレをアソコに入れて死亡推定時刻をごまかすなんて・・・。いやはや、その発想はある意味スゴイ。これまたフーダニットは自明。密室は添え物。 以上6編。 他の方が指摘しているように、本作を読んでるとE.Dホックの「サム・ホーソーン」シリーズを想起せざるを得ない。 (これだけ密室、密室って不可能趣味を煽るんだから) でも完成度からするとホックには遠く及ばない気がする。 何しろ設定の無理矢理感が強すぎ。、まぁ仕方の無いことだけども、ここまでトリックのためのトリックという風合いが出ると、どうしても鼻についてしまうのだ。 でも心意気自体は買いたいかな。そうやってフォローしておこう。 (ベストはシンプル・イズ・ベストの④) |
No.1245 | 6点 | 月は幽咽のデバイス 森博嗣 |
(2016/06/25 21:53登録) 「黒猫の三角」「人形式モナリザ」に続くVシリーズの第三弾。 2000年発表の長編。 ~薔薇屋敷或いは月夜邸と呼ばれているその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。瀬在丸紅子たちが出席したパーティーの最中、衣服も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。紅子が看破した事件の意外な真相とは?~ これまた強烈な“変化球”本格ミステリーである。 当然ながら、作品ごとの出来不出来や若干のレベル差はあるけど、ここまで引き出しの多い作家は非常に稀だと思う。 今回もやはり登場する「密室」。 ただし、これがクセもの! そして、密室の謎に添えられた“こぼれた水”の謎がまたクセものである。 読み返してみると、案外分かりやすいヒントが散りばめられているなぁーと気付く。 例えば、床の凹み然り、現場に落ちていた“毛”然り・・・ ただし、真相がここまでアクロバティックなものだとはなかなか踏み込めなかった。 (終章までで何となく方向性は勘付いていたが・・・) 紅子の解説はまるで中学校の化学(理科か?)の授業のようだった。 前から思ってたけど、このVシリーズって、このレギュラーメンバー全員登場させる意味はあるのか? 少なくとも小鳥遊や香具山のサイドストーリーなどはいらないなぁと思ってしまうのだが・・・ 相変わらず保呂草は胡散臭いし、紅子VS夕夏の争いもしつこく書かれてるし・・・ 何か、本筋部分は今回かなり薄味というか、少量だったように思うのは私だけだろうか? それでもまぁ十分水準級での評価できる。 なかなか真似できないアイデアだしね。 |
No.1244 | 4点 | 盗作・高校殺人事件 辻真先 |
(2016/06/25 21:52登録) 「仮題・中学殺人事件」に続く、“スーパー&ポテト”シリーズの二作目。 今回も前作に引き続き“凝った”プロットが仕掛けられている模様。 1976年発表。 ~新宿駅の九番線ホームで電車を待っていた牧薩次の後ろで鈍い爆音とともに売店から黒煙があがった。パニック状態になった群衆は階段に殺到し、折り重なって転落した。病院に担ぎ込まれた薩次は同室の若い被害者ふたりと意気投合し、その中のひとり、三原恭助の実家の温泉旅館にそれぞれのカップルで出掛けることになった。だが、そこで密室殺人事件に巻き込まれることになる・・・~ 刊行当時、本作の帯に謳われていたのは、 『作者は、被害者です。作者は、犯人です。作者は、探偵です。この作品はそんな推理小説です』という言葉。 前作(「仮題・中学殺人事件」)では、読者=犯人という趣向に取り組んだ作者だったが、今回は更に難度が増したこととなる。 ただ、正直言って前作のトリック&プロットもかなり微妙だったし、無理矢理感たっぷりだった。 (読者=犯人というと、深水黎一郎の「ウルチモ・トルッコ・・・」の方が数段マシだった気が・・・) で、本作なのだが・・・予想どおりの微妙さ。 タイトルからして堂々と「盗作」と謳っているし、途中の「幕間」パートで「作中作」っぽい仕掛けが見え隠れしている。 残りページが少なくなるなか、いったいこれをどんな具合に収束させるかという不安がよぎるのだが・・・ 「なんじゃこりゃ?」というラストに突入することになる。 ちょっと表現しづらいけど、「分かりにくいし、小手先」という感じか? 密室トリックも二種類登場するけど、同様に「分かりにくいし、小手先」。 ちょっと辛い評価をしてしまっているけど、時代性も含めれば致し方ないのかも。 こういう“凝った”仕掛けにチャレンジすること自体を評価すべきなのだろう。 でも、面白いか面白くないかという二者択一なら、「面白くない」方に軍配を上げざるを得ない。 (実家がスーパーを経営しているからあだ名が「スーパー」って・・・安易すぎだろ!) |
No.1243 | 8点 | 縞模様の霊柩車 ロス・マクドナルド |
(2016/06/19 18:04登録) 1962年発表。 作者十六番目の長編にして、もちろんリュウ・アーチャー登場作品。 ~幼くして実母に捨てられたハリエットは、いつか孤独で放縦な性格を身につけた女性になっていた。そして、二十五歳になり五十万ドルにのぼる叔母の遺産を自由にできる今となっては、誰も彼女の行動を抑えられなかった。そんな彼女が突然、メキシコから得体の知れない男を連れ帰った。財産目当てのプレイボーイか? 彼女の父と義母の不安は募った。男の身元調査を依頼されたアーチャーは、早速調査を開始した。しかし、車をとばす道中で行き交わした縞模様の霊柩車は、アーチャーの眼にただならぬ悲劇の前兆として映った!~ これは想像以上の傑作だった。 他の方も触れているように、本作は作者の代表作として名高い二作品(「ウィチャリー家の女」と「さむけ」)のちょうど間に挟まって発表された作品。 どうしてもロス・マクというと、かの二作品が有名すぎて、本作はコアなファン以外は“知る人ぞ知る”といった程度になってしまう。 でもまぁよく考えれば、まさに作者の絶頂期とも言える時期なんだよね。 アーチャーの造形やキャラクターも定着し、プロットも十分に練り込まれている。 これなら作者の「ベスト3」と呼んでも差し支えないだろう。 で、肝心の中身なのだが・・・ 正直なところ、中盤まではちょっとかったるいというか、方向性の定まらないような展開でやきもきさせられる。 ところが、“ボタンの取れたコート”という重要な証拠物件が発見される終盤以降は一転。 事件の構図は突然読者の前にくっきりと浮かび上がってくるのだ。 更には、「コイツって悪人だよなぁ・・・」と読者に思わせといて、最後にひっくり返しと悲劇が待ち受けるラスト。 うーん。やっぱりさすがとしか言いようがない。 何より、本作は登場人物ひとりひとりの書き込みが素晴らしい。 ハリエットやマークといった主要な登場人物以外の脇役でさえ、何とも言えない“渋み”を備えて描かれている。 それもこれもリュウ・アーチャーという探偵の存在に負うところなのだろうけど、何とも物悲しい、切々としたストーリーに実に嵌っている。 高評価せざるを得ないよなぁ・・・ (「縞模様の霊柩車」を乗り回す若者って・・・どんな奴?) |
No.1242 | 5点 | 残り全部バケーション 伊坂幸太郎 |
(2016/06/19 18:03登録) 2008年以降、段階的に発表されてきた物語に書き下ろしを加えて発表された作品。 溝口と岡田という魅力的な“裏稼業コンビ”が大活躍(?)する連作短篇集。 ①「残り全部バケーション」=離婚が決定した夫婦と娘の元にもたらされた一通のメール。それが風変わりなドライブの始まりだった・・・ということで、すでに読者は伊坂ワールドへ誘われることになる。 ②「タキオン作戦」=二番目にして連作中最も重要(かもしれない)エピソードが描かれる本編。父親に虐待されている少年を助けるために岡田の取った行動と、それに纏わる溝口やら他の面々のエトセトラ、etc・・・。タイムマシーンの話題も登場して何となくSFっぽい作りにはなっている。 ③「検問」=冒頭からまずは「おやぁ?」という疑問が浮かぶ展開。溝口のパートナーが岡田から謎の男“太田”にチェンジされている! でもそこのところの説明は一切なく、物語は進んでいく。警官が検問で見逃した理由は結局なんだったの? ④「小さな兵隊」=一転して岡田の少年時代が描かれる本編。岡田の友人である「ボク」視点で物語は進行していくのだが、岡田よりもボクの周辺の人物の方が面白いのはどうか? ⑤「飛べても8分」=単行本化に当たって書き下ろされた一編。ということは、連作のオチがつけられるのだろうと思いながら読み進めていくわけなのだが・・・。溝口の“謀ごと”はかなり大雑把だし、ラストも唐突に終了。 以上5編。 相変わらずの“伊坂ワールド”で、安定感抜群という感じだ。 溝口&岡田のキャラもなかなか良い。 本作はちょっと不満かな・・・ もちろん旨いのだが、ちょっと小手先が目立つというか、締め切りに追われて脱稿しました感が強い。 悪く言えば、これまで出てきたキャラクターを焼き直して、プロットを若干いじって登場させました・・・とも思えるし、「ラッシュライフ」やら「グラスホッパー」やら「陽気なギャング・・・」なんかのエッセンスを混ぜましたという印象が拭えないのだ。 (あくまでも印象ですが・・・) 確かに軽~い読書には適しているかもしれないが、あまり期待すると裏切られるよ。 でもまぁ繰り返し書くけど、この人天才だと思う。 |
No.1241 | 5点 | 微笑む人 貫井徳郎 |
(2016/06/19 18:01登録) 2012年発表。ノンシリーズの長編。 個人的に久々に作者の作品を手に取った・・・ということで、どうでしょうか?(何が?) ~エリート銀行員の仁藤俊実が、「本が増えて家が手狭になった」という理由で妻子を殺害。小説家の「私」は、事件をノンフィクションにまとめるべく取材を始めた。「いい人」と評される仁藤だが、過去に遡るとその周辺で不審死を遂げた人物が他にもいることが判明し・・・。戦慄のラストに驚愕必至! ミステリーの常識を超えた衝撃作!~ 作者の“狙い”は結局何だったんだろうか? ラストまで読了し、そう思わずにはいられなかった。 ネタバレみたいになるけど、本作にはいわゆる「解決編」はない。 紹介文のとおり、序盤から読者には魅力的な謎が提示されるのだが、最後まで明確な回答は示されず、あろうことか終盤になってさらに謎が積み重ねられて、そのまま終了してしまうのだ! 確かに「ミステリーの常識を超えた」作品なのかもしれないが、やっぱり何とも言えない残尿感は残ってしまった(汚い表現で申し訳ない!)。 プロットとしては特に目新しいものではない。 ノンフィクションライターがサイコっぽい犯罪者の跡を追いかけていくうちに更なる犯罪の影が・・・なんていうと、個人的には折原の「~者シリーズ」を思い出してしまう。 叙述的な仕掛けを企図するともろに被りそうだし、ホワイダニットをメインにするほど面白いネタではないし・・・ というわけで出てきたのが本作なのだろうか? こういう系統のプロットは嫌いでないだけに、もう少しやり方があったんじゃないかと思ってしまう。 ミステリーファンの哀しい性(さが)で、ドンデン返しを期待しすぎるのもいけないのかもしれない。 これはこれで余韻というか、何とも言えない残尿感を楽しむべきなのだろう。 でもあまり高い評価にはならないな。 |
No.1240 | 5点 | 魔術師を探せ! ランドル・ギャレット |
(2016/06/10 22:15登録) ~英仏帝国による統治が長く続き、科学的魔術が発達した世界。たぐいまれな推理力を持つ捜査官ダーシー卿と上級魔術師ショーンは彼らでないと解決できない特殊な事件の捜査に当たっていた。架空の欧州を舞台にした名作本格ミステリー~ というわけで、1964~65年にかけ、長編「魔術師が多すぎる」に先んじて書かれた連作短篇。 ①「その眼は見た」=このなかで一番本格ミステリーっぽい作品がコレだろう。ラストは意外な真犯人が指摘されるというプロットなのだが、捜査過程にショーンの「魔術」が使われるというのが本シリーズの特徴。 ②「シェルブールの呪い」=他の方も書かれているとおり、謎解きミステリーというよりは“スパイ謀略もの”に近い作品になっている。帝国VSポーランド王国という図式が本シリーズを貫く背景ということで、特に終盤はサスペンス感のある展開。 ③「青い死体」=亡くなった侯爵を収めるはずだった棺を開けてみると、すでに死体が入っていた。しかも、その体は全身青く染まっていた・・・という幕開けが印象的な三作目。途中まではダーシーとショーンコンビの捜査がテンポよく進んでいくのだが、途中からちょっとややこしくなってきて、分かりにくい展開になったような・・・ 以上3編。 冒頭の紹介文のとおり、本作は『魔術が使われる世界』という特殊な舞台設定が特徴。 時代設定としては、てっきり中世なのだろうと思っていたけど、文中には1960年代という表記があるため何か違和感を覚えてしまう。 で、問題の「魔術」なのだが、確かに捜査過程や犯罪の一要素として出てくることは出てくるのだが・・・ あまり関係ないかな? それがトリックやロジックに有機的に関わっているということではないし、極論すれば“単なる舞台設定or世界観”ということになる。 個人的に好みかと問われると、「かなり微妙・・・」という感じ。 (続編としての長編を読めば、また評価も違ってくるかもしれないが・・・) たまには毛色の変わった作品を読みたいという向きにはいいのかもしれない。 (「折れた竜骨」とは確かに世界観が似ている・・・かな?) |