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ミステリの祭典

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ディーン牧師の事件簿

作家 ハル・ホワイト
出版日2011年01月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 7点 人並由真
(2020/11/11 14:24登録)
(ネタバレなし)
 2008年のアメリカ作品。
 本はかなり前に入手。全6編のうち3話まで読んだところで、家の中で本がどこかに行ってしまっていた。それが数年ぶりに少し前に見つかったので、最初から改めて読み直す。内容に関しては、とにかく楽しいトリッキィな連作パズラー。
 全体の完成度については、万が一ほかの先行レビュアーの方々が絶賛していたら、こちらはあえてアラを探して苦言を言いたくなるかもしれない。しかしみなさまの評は全般的に厳しめなので、評者としては気楽にホメたい。そんな感じの仕上がりです(笑)。

 以下、各編の寸評&感想コメント。 
①「足跡のない連続殺人」
……あー、いきなりホックだな、サム・ホーソーンだなと思わせる王道ぶり。しかも事件や犯人、トリックへのフォーカスの仕方など、ある意味で本家よりもソレっぽい感じさえする。哀しくなるような切ない動機が身にしみる。

②「四階から消えた狙撃者」
……本シリーズは全体的に各編の登場人物が少なめで、それがそのままフーダニットの興味の減退に直結するのだが、これなんか正にそういう話。後半の真相の決め手を求めるストーリーの見せ方は、主人公ディーン牧師とゲストキャラのからみも含めて印象に残る。

③「不吉なカリブ海クルーズ」
……(中略)での事件かと思ったら(中略)でのソレだった。(中略)を利用しまくるトリックとか結構好みなのだが、犯人の犯行までの仕込みがスゴいよね。実行に至るまでの経緯でのIF状況を、あれこれと考えてしまった。

④「聖餐式の予告殺人」
……こじんまりと無難にまとめた印象の一編。冒頭のかなり強烈な掴みからの面白さは、最後までもっと活かせたような思いもある。

⑤「血の気の多い密室」
……本書中でもかなりぶっとんだ犯行の実情で、犯人がそこまで計算するか? というリアリティにはちと疑問。ただまあその手のクエスチョンは、突き詰めていけばほかのエピソードにも湧いてくるかもしれない。最後のオチは、ちょっとチョンボでは? 単に(中略)が甘かっただけだよね?

⑥「ガレージ密室の謎」
……実質(中略)ダニットの話。先行レビュアーの方々が大騒ぎされるネタは……なるほど、国産のお笑い系の新本格とかにありそうだ。個人的にはもうひとつのトリックの方がお好み。ただまあ、もしもこの話は映像化したら、直観的にネタを見破られそうな感じではある。

 何はともあれ、前述の通り、個人的には十分に楽しかった。
 亡き愛妻を常に偲び、心やさしく、お金の無さにピーピーしている、さらに幅広いジャンルの読書が好き(カーやドイルはそれぞれ本棚のワンコーナーを占有、R・B・パーカーなども読む)というサディアス・ディーン牧師のキャラもとてもいい。ブルテンのストラング先生みたいな、温かい人柄の名探偵キャラだ。

 ホックの衣鉢を継ぐ連作パズラーとして続刊を楽しみにしたかった内容だが、どうもシリーズはこれ一冊で終わってしまったよう。
 読後すぐ、作者の名前を英語表記で入力して本国の情報を得ようとWEB検索したら、どうやら著者本人の公式サイトらしいところにいきついた(ご親切に日本語表記の対応までしてある~いわゆる機械訳らしく、日本語としてはヘンなところもあるが)。
 それを読むとやはりシリーズはこれ一冊で終わったらしい。何か事情はあったのかもしれないが、とにもかくにも残念。

No.3 5点 E-BANKER
(2016/06/25 21:54登録)
2008年発表。
作者の処女作品にして、引退した牧師・サディアス=ディーンを探偵役とした連作短篇集。
“不可能犯罪てんこ盛り”ってどっかで聞いたセリフだな・・・

①「足跡のない連続殺人」=一家を襲う連続殺人鬼。しかも、殺人現場はすべて足跡のない密室状況! っていう設定なんだけど、密室の解法が今ひとつ目に浮かばないのが難点。真犯人の特性を使っているのが旨いと取るかは非常に微妙。いずれにしろ短編で使うプロットではない。
②「四階から消えた狙撃者」=ディーン牧師の目の前で、向かい側の建物から狙撃された男。犯人は一見すると仲違いしていた恋人のようだが、その恋人も死体で見つかって・・・という展開。不可能趣味も化けの皮を一つ一つ剥がすとこうなる、という解法はいいのだが、そもそもこういう設定時代にかなり無理がある。フーダニットはもはや自明。
③「不吉なカリブ海クルーズ」=これも②と同種のプロットの応用。不可能状況を一つ一つ積み重ねました、っていう奴。つまりは「なんでこんなことやるの?」という感想になる。フーダニットはもはや自明。
④「聖餐式の予告殺人」=これはなかなか旨いと素直に思った一編。毒殺トリックはよくある手といえばそうなのだが、シンプルなだけにうまく嵌っているし、他編のような無理矢理感がないのが良い。真犯人の悪意に憤る牧師の姿も好ましい。フーダニットは自明だが・・・
⑤「血の気の多い密室」=またしても密室なのだが、これは果たしてトリックと呼べるのか? 堂々と真犯人が鍵を締めたのだから・・・(ネタバレ?) 窓の鍵の締め方もかなり大雑把。
⑥「ガレージ密室の謎」=これはバカミス? まさかアレをアソコに入れて死亡推定時刻をごまかすなんて・・・。いやはや、その発想はある意味スゴイ。これまたフーダニットは自明。密室は添え物。

以上6編。
他の方が指摘しているように、本作を読んでるとE.Dホックの「サム・ホーソーン」シリーズを想起せざるを得ない。
(これだけ密室、密室って不可能趣味を煽るんだから)
でも完成度からするとホックには遠く及ばない気がする。

何しろ設定の無理矢理感が強すぎ。、まぁ仕方の無いことだけども、ここまでトリックのためのトリックという風合いが出ると、どうしても鼻についてしまうのだ。
でも心意気自体は買いたいかな。そうやってフォローしておこう。
(ベストはシンプル・イズ・ベストの④)

No.2 7点 nukkam
(2015/01/26 13:24登録)
(ネタバレなしです) 短編本格派の名手エドワード・D・ホックが2008年に亡くなって遺憾に思う読者は決して私だけではないと思いますが、そういう読者は同じ2008年に本書でデビューしたハル・ホワイトに新たな期待を見出せるのではないでしょうか。6つの短編が全て不可能犯罪を扱っているだけでもわくわくしましたが、トリックが類型的にならぬよう気配りしているのには感心しました。特に「足跡のない連続殺人」では全ての事件に異なるトリックを用意しているのに驚かされます。一方で「ガレージ密室の謎」のトリックは違う意味で驚かされます。これは(ネタバレ防止のため理由は書きませんが)拒否反応を示す読者も少なくないかと思いますが強烈な印象を残す作品であることは間違いありません。

No.1 5点 kanamori
(2011/01/25 18:41登録)
海外作品では今時珍しい正統派のパズラー短編集。
デビュー作の本書が出版された2008年は、エドワード・ホックが亡くなった年ですが、正にホックの短編を髣髴させ作風を継承したような不可能犯罪オンパレードの連作短編集でした。
三種類の”足跡のない殺人”を織り込んだものや、客船を始め色々な設定の密室など、6編とも謎の提示は魅力的で文句なしですが、機械的トリックが多く解法も鮮やかさに欠ける感じを受けるのが残念。
妻を亡くし涙もろい隠退した老牧師という探偵役は、ホックのキャラクターたちと比べて存在感があるように思います。

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