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平均点:6.01点 | 書評数:1812件 |
No.1332 | 5点 | ビブリア古書堂の事件手帖7 三上延 |
(2017/04/01 09:23登録) 大人気ビブリオ・ミステリーシリーズの第七弾。 本作が一応の(?)完結編ということらしいのですが・・・ いつもの連作仕立てではなく、腰の据わった長編作品で「完」。 ~ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取引に訪れた老獪な道具屋の男。彼はある一冊の古書を残していく・・・。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった・・・。人から人へと受け継がれる古書と脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きの時が訪れる~ 作者も読者も「よくここまで続いたなぁー」というのが実感ではないか? (いや、いい意味でですよ・・・) 古書というものが、こんなにも深く広がりを見せるものだとは、読み始める前には知らなかった。 どこの世界にも「マニア」や「稀覯家」という存在はいるけど、絵画など芸術品に負けず劣らず、ファン心をくすぐるものなのだろう。 ということで、今回のテーマは紹介文のとおり“シェイクスピア”。 太宰治や江戸川乱歩など、今まで取り上げられてきたのは馴染みのある作家ばかりだったけど、完結編となる本作は世界に名立たるレジェンドを題材にしたわけだ。 正直、“ファーストフォリオ”をめぐる栞子親娘や老獪な男“吉原”との争い云々は、他の方も書かれているとおり、薄っぺらい印象は残った。こんな稀覯本が出たら、もっともっとドロドロした、虚々実々の争いがあって然るべきだろうし、きれいにまとめすぎだろ!っていう感想は免れない。 まぁでもよい。シリーズものは、いかに作品世界を楽しめるかにかかっているのだし、その意味では合格点と言える。 とにかく、栞子さんの“萌える”キャラ設定が、何より本作の白眉に違いない。 スピンオフ作品も予定されているとのことなので、引き続き楽しめそうなのは幸い。 |
No.1331 | 6点 | 少年時代 深水黎一郎 |
(2017/04/01 09:22登録) ハルキ文庫書き下ろし。 本の帯では『昭和の香り漂う懐かしい風景から予想外のラストが待ち受ける連作小説』とあるが・・・ ①「天の川の預かりもの」=~町を歩くチンドン屋のシゲさんが吹くサキソフォンの音色に惹かれた僕は、あきらめないことの大切さを教えてくれた。ある日、町で殺人事件が起きて~という粗筋なのだが、この“あきらめないことの大切さ”が後々効いてくることになる・・・(ってネタバレ?) ②「ひょうろぎ野郎とめろず犬」=“ひょうろぎ”も“めろず”も山形県内陸地方の方言とのことだが、中身も方言満載で読みにくいこと夥しい・・・(深水氏も解説の池上冬樹氏も山形県出身とのこと)。薄汚れたビーグル犬“ツンコ”に纏る少年と両親の物語。最後は何だか泣けてくる。 ③「鎧袖一触の春」=本連作のメインはコレ。ある県立高校の弱小柔道部が舞台となった青春小説風(?)。OB連中の理不尽なシゴキに耐えた一年生たちが、三年生の県総体という大舞台で挑んだ相手は全国に名を轟く強豪校だった! そして最後に訪れるのはサプライズ!! 結構爆笑&ニヤリとさせられるシーンも多いけど、でも何だか泣けてくる不思議な話。まさに「汗臭い」青春小説だな。 以上3編。 上の①~③まで読んでると、「どこがミステリーなんだ?」って思うよね、普通。 そう。本作は全然ミステリーではありません。少なくとも「エピローグ」までは。 エピローグで始めて、作者の狙いが分かる仕組みになっているわけだ。 でも、そこはあまり響かなかった。 っていうか、どうでもいい感じだ。 本作の“ミステリー的な仕掛け=予想外のラスト”も、特段目新しいものではないし、それよりも、子供時代~青春時代のエピソードの数々がどこか懐かしく、それ以上にほろ苦い気持ちを思い出させてくれた、それこそが本作の良さだろう。 やっぱり達者な作家だなと再認識させられる一冊。 こういう軽い読み物でもまずまず満足させてくれるのだから・・・ (これってやっぱり深水氏の体験談なのだろうか?) |
No.1330 | 6点 | 闇に香る嘘 下村敦史 |
(2017/03/21 21:33登録) 記念すべき第六十回江戸川乱歩賞受賞作。 その年の各種ランキングでも上位を賑わした作品。2014年発表。 ~孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼ることに。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱くようになる。目の前の男は実の兄なのか? 二十七年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作!~ なるほど。評判に違わぬ力作・・・という評価。 「参考文献」として挙げられている膨大な資料を見ても、作者が本作に賭けた熱意、エネルギーが分かろうというものだ。 すでに他の方々が的確な書評を残されているので、今さらという気がしないでもないが・・・ まぁ雑感として書きたい。 まず否定的な意見から。 良くも悪くも乱歩賞らしいというか、要は処女作品らしい「粗さ」、「こなれてなさ」が目に付いた。 もちろんデビュー作なのだから当たり前といえば当たり前だけど、「行ったり来たり」している箇所も多かったように思えた。 「盲目」というのがプロットの軸になっているのだから致し方ないのだけど、そこに記憶喪失モドキも加わってくるので、どうにも「曖昧」というか「掴みどころのなさ」というのも感じたなぁ。 でも、終盤、たったひとつの「ある事実」がすべてを反転させ、収束させていく手際はやはり見事だ。 言われてみれば、割と容易に気付く可能性のある「反転」なのだが、作者の周到な「煙幕」の前に、うまい具合に隠蔽されていた・・・という感じ。 この「大技」を最大限に活かせる舞台、テーマ。それこそが「中国残留孤児」であり「盲目」だったわけだ。 こういうプロットを捻り出せる力こそ、ミステリー作家としての資質に違いない。 正直、あまり好きなタイプのミステリーではないので評点はこんなものだが、次作以降も大いに期待できる。 (点字の暗号の使い方はもう少しやりようがあったような気が・・・) |
No.1329 | 10点 | ナイルに死す アガサ・クリスティー |
(2017/03/21 21:32登録) クリスティのいわゆる「中近東もの」としては、「メソポタミアの殺人」に続く長編作品となる本作。 映画化でも著名となった作品。 1937年発表。 ~美貌の資産家リネットと若き夫サイモン・ドイルのハネムーンは、ナイル川をさかのぼる豪華客船の船上で暗転した。突然とどろく一発の銃声。サイモンのかつての婚約者が銃を片手にふたりを付けまわしていたのだ。嫉妬に狂っての凶行なのか? だが、事件は意外な展開を見せる! 船に乗り合わせたポワロが暴き出す意外極まる事件の真相とは?~ 意識的に読むのを後回しにしていた本作。 それだけ楽しみにしていたわけなのだが・・・これはもう期待をはるかに上回る出来だ。 これほど完成したミステリーにはなかなかお目にかかれないのではないか? 名作と言われる作者の作品にも数多く接してきたけど、個人的には本作がNO.1。 本格ミステリーと濃密な人間ドラマがこれほど見事に融合した作品も珍しい。 ということで書評終了! でもよいのだが、簡単に雑感を書くなら・・・ まぁ2017年の現在から見れば、フーダニットとしては「割と分かりやすい」。 手練のファンからみれば、いかにも「クリスティらしい」真犯人とはいえる。 ただし、動機といい、犯行方法といい、尋常ではないくらいの伏線とミスディレクションが仕掛けられている前半部分が見事。 まるでナイルの流れのように、ゆっくりとした展開で読者をやきもきさせるのだが、これこそが作者の深謀遠慮なのだからニクイ! 本筋の殺人事件のほかにも、窃盗事件や政治犯、正体を隠した人物など、複数の脇道が用意されている。 並みの作家なら、プロットを混乱させるだけに終わりそうなものだが、クリスティは違う。 最終盤。脇道を含め、絡んだすべての糸がポワロの灰色の脳細胞によって、見事なまでに解きほぐされる刹那! これはもう・・・“極上の料理を味わった”という表現がまさにピッタリ。 これ以上のミステリーを書くというのは至難の業なのではないか? それほどインパクトのある作品だった。最高点以外の評価はありえないだろうな。 (1937年いえば、日本では「盧溝橋事件」が発生し、日中戦争へ突き進んだ時代。そんな時代に英仏はこんな優雅な旅行を楽しんでいたんだねぇ・・・) |
No.1328 | 7点 | 未練 乃南アサ |
(2017/03/21 21:31登録) 音道貴子シリーズの短篇集第二弾。 2000年発表。 ①「未練」=仕事終わりに貴子が足繁く通う吉祥寺の路地裏のカレー店。寡黙な店主に対して「こいつは俺の女房を殺した!」と詰め寄る剣呑な男・・・。“未練”とは男が女に対して抱く感情の割合の方が多いと思う。やっぱり男の方がみみっちいんだよねぇ。でもこんなおしいカレー屋が近所にあれば通うだろうな・・・(関係ないけど) ②「立川古物商殺人事件」=いかにもミステリー作品っぽいタイトルだが、中身は刑事たちが靴底をすり減らして歩き倒す捜査行が描かれている。捜査線上に浮かんだ重要容疑者は結局・・・。今回貴子とコンビを組んだ島村刑事にはある特徴があった! しかも嫌な特徴が!! ③「山背吹く」=宮城・松島で旅館を営む友人を訪ねた貴子。どうやら仕事で大きな傷を負ったらしいのだが・・・。背景がよく分からんと思ってたら、時系列ではこの短編集の前の長編「鎖」のストーリーを引き摺っている様子。休暇先でも幼児を人質にした立て篭り事件に遭遇することで、貴子の刑事魂は復活することになる。 ④「聖夜まで」=これは本作の白眉というか、実にいたたまれなくなるような事件が描かれる。これは・・・もう修羅場以外の何者でもない。最近こんな事件も増えているけど、自分の身に起こったらと思うと、怖くてしようがない。女性にとってみれば、ここに出てくる夫なんてどうしようもないように映るんだろうな・・・。 ⑤「よいお年を」=一転して、年の瀬の母と娘(貴子と母親)の姿が描かれる一編。やっぱり、親娘って似るんだよねと思わされる。そりゃそうだ! ⑥「殺人者」=タイトルは物騒だけど中身はどちらかというとホンワカする。第一短編集では「凍える牙」で貴子とコンビを組んだ滝沢刑事の大晦日が描かれたが、今回は②の島村刑事の大晦日が描かれる。いろいろあるけど、刑事ってやっぱ大変だわ! 以上6編。 音道貴子である。最近どうにも気になる存在の音道貴子。 三十路を越え、女としての幸せと刑事としての職務の狭間で何かと悩ましい音道貴子である。 そんな彼女の捜査行が描かれる作品集。 彼女の目を通して描かれる同僚や犯人、市井の人々の姿にいろいろと考えさせられる場面も多い。 でも、好きだな、こういう女性。何事にも真面目で自分に嘘がつけない・・・でもこういう女性が幸せになるとは限らない。 それが人の世なんだろうね・・・ってどんな書評だ? (ベストはダントツで④。同じ親としては考えさせられることが多すぎる・・・) |
No.1327 | 5点 | 私家版 ジャン・ジャック・フィシュテル |
(2017/03/12 13:49登録) フランスミステリー。 原題は“Tire A Part”で、直訳すると「別刷り」という意。書籍を印刷する場合に所定の刷り部数とは別に、例えば特装本などのために別刷りをすることをいう・・・とのこと。 1993年の発表。 ~友人ニコラ・ファブリの新作。それが彼をフランスの第一線作家に押し上げることを、私は読み始めてすぐに確信した。以前の作品に比べ、テーマは新鮮で感動的、文体は力強く活力がみなぎっている。激しい憎悪の奔流に溺れながら、この小説の成功を復讐の成就のために利用しようと私は決意した。本が凶器となる犯罪。もちろん、物理的にではない。その存在こそが凶器となるのだ・・・~ 『本が凶器となる犯罪』なんて書かれると、非常に独創的で新しいトリック&プロット、などとついつい考えてしまう。 ただ、正直なところ、別にトリッキーな解法が用意されているわけではない。 フランスミステリーらしい、緻密な心理描写と重苦しいくらいの展開。 本筋は、主人公エドワードの復讐譚であり、敢えて本作を分類するなら「倒叙/クライム」ということになるのだろう。 物語は冒頭より、エドワードとニコラ、友人どうしの出会いから、深まっていく関係、そしてエドワードの心に復讐心が芽生えていく過程が、まるで地中海のように静かに語られていく。 そして、後半以降、エドワードの仕掛けた「罠」が徐々にふたりの運命を変えていくさまが描かれ、終盤の山場へ・・・ 実に美しい作品だ! 作者のジャン・ジャック・フィシュテルは、スイス・ローザンヌ大学の歴史学教授という肩書きを持つ。 何と、本作が始めて書いた小説というのだから驚きだ。 ミステリーらしい狙いを最初から意識していたのかは分からないが、人間心理の「アヤ」をここまで美しく、痛く表現することができるなんて、やっぱり才能のなせる技。 ミステリーの側面だけなら高評価は難しいが、小説としての出来はかなり高いと言えるだろう。 ラストは因果応報的なオチが用意されているのかと思いきや、意外とハッピーエンドで終わるのが意外といえば意外。 |
No.1326 | 5点 | 囲碁殺人事件 竹本健治 |
(2017/03/12 13:49登録) 「将棋-」「トランプ-」と続くゲームシリーズの第一作目がコレ。 大作「涙香迷宮」が2017年度版このミス第一位に輝き、その余波で(?)講談社文庫にて復刊となった本作。 しかも文庫版には「チェス殺人事件」まで併録というオマケ付き! もともとは1980年の発表。 ~山梨で行われた囲碁タイトル戦。第七期棋幽戦第二局二日目、<囲碁の鬼>と恐れられる槙野九段が、近くの滝で首なし死体で発見された。IQ208の天才少年棋士・牧場智久と大脳生理学者・須堂信一郎は事件に挑むが、犯人の魔の手は牧場少年にも襲いかかる。ゲーム三部作の第一弾開幕!~ 「囲碁」は全くの門外漢。 他の方の書評では、ルールを知らなくても関係ない旨書かれているけど、専門用語が結構多用されているし、やっぱり知識がないと楽しめないと思った。 (特に暗号は碁面?棋面?を使ったものなのでなおさら) それはさておき、ミステリーの本筋の方なのだが・・・ 結構「粗い」というのが正直な感想。 最終的な探偵役となる須堂教授の推理も、かなりの部分直感的なもので、本格ミステリーらしいロジック等はあまり感じられなかった。 動機についても、衆人環視のタイトル戦でわざわざ事件を起こす必然性が全くないように見えるのはどうか? まぁもともとガチガチの本格を書くっていう作家ではないだけに、そこら辺を求めるのは間違っているのかもしれない。 いずれにしても、摩訶不思議な感覚だった「将棋-」よりはマシかな・・・ 首切りやら暗号やら、ミステリー好きを惹きつけるガジェットは盛りだくさんあるしなぁー でも囲碁のルールは難しい・・・ 因みに併録の「チェス殺人事件」は「モルグ街の怪事件」が思い切りネタバレされていますので未読の方(そんな奴このサイト参加者にいるか?)はご注意を! (本作の巻末解説も法月綸太郎氏。氏の解説だけでも読む価値ありかもしれない) |
No.1325 | 6点 | 花散る頃の殺人 乃南アサ |
(2017/03/12 13:47登録) 直木賞受賞作「凍える牙」(1996)で初登場した女性刑事・音道貴子を主役とする連作短篇集。 1999年発表の作品集一作目。 ①「あなたの匂い」=初っ端から貴子自身がゴミ漁りストーカーに狙われる事件が描かれる。男性目線からすると「ゴミくらい・・・」と思うんだけど、ゴミを狙われるなんて心底嫌だという女性心理が不思議な感覚。近所のオバさんに職業がバレてウザいという感覚は結構分かるような・・・ ②「冬の軋み」=“オヤジ狩り”(何だか懐かしい単語だ!)に遭い、瀕死の重傷を負ったサラリーマン。その家族を調べていくうちに、最近管内を荒らしている連続ひったくり犯の影が・・・。こんなの読んでると、子供を持つのが嫌になってくるよね。 ③「花散る頃の殺人」=場末のビジネスホテルで心中した老夫婦。ふたりの跡を追っていくうちに、老夫婦の知られざる過去が浮かび上がる・・・。これも「親子」がキーワードになる。 ④「長夜」=貴子の親友が登場する一編。この親友、元同僚(当然元警官)にしてニューハーフということで・・・。ふたりのやり取り&掛け合いが読みどころ。自殺する染色家の生き方も何だか切ない・・・ ⑤「茶碗酒」=本編のみ「凍える牙」で貴子とコンビを組んだ滝沢刑事が主人公となる(貴子もちょこっと登場するけど・・・)。大晦日の夜の警察署の一場面を切り取った作品なのだが、しみじみして味わい深い。 ⑥「雛の夜」=女子高生の援交(これも懐かしい言葉だな)がテーマとなる最終譚。女子高生に触れて、自身の年齢を感じる貴子に何だか萌える。 以上6編。 「葉村晶」のつぎは「音道貴子」である。 ジャンル分けすれば、「葉村」はハードボイルド、「音道」は警察小説、となるのだろうが、ふたりともいい年して独身、しかも男のニオイの欠片もないっていう共通点を持つ。 物語の端々に自身の加齢について自虐的な表現が出てくるのも一緒。 それだけ一定の年齢に達した女性は厳しくも難しい・・・んだろうな。 でも決して彼女たちは後ろを向かない。並みの男なんかよりも、よっぽど男らしいかも。 かくいう私なんて、男のくせにどうもみみっちい考えに支配されがちだもんな・・・ これじゃ、女が強くなるわけだね、世の中。 本作、ミステリーとしては小品だけど、音道貴子のキャラクターだけでも読む価値ありだと思う。 (でも個人的ベストは唯一主役が彼女ではない⑤だったりする。男ってアホだよね) |
No.1324 | 7点 | 静かな炎天 若竹七海 |
(2017/03/04 15:41登録) 文春文庫オリジナルとして2016年に発表。 作品としては「さよならの手口」以来だが、短編集としては「依頼人は死んだ」以来十六年ぶりとなる本作。 今や“プチ・ブレーク”中の葉村晶シリーズの最新作。 ①「青い影」=暴走ダンプが引き起こした大事故に偶然遭遇するところから始まる第一編。ひょんなことから、事故現場で起こっていた窃盗事件を調べることになった晶が巻き込まれる騒動その他・・・。まずまず静かな幕開け(??) ②「静かな炎天」=創元文庫版「怪奇小説傑作集Ⅰ」に収録されたW.Fハーヴァー「炎天」がインスピレーションとなった本作。四十肩に苦しむ晶のもとに次から次へと依頼が持ち込まれる・・・。アラアラ大変って思ってると、実は・・・っていう展開。都会の暑さって半端ないもんねぇ。 ③「熱海ブライトン・ロック」=時代の寵児となった若き小説家の失踪事件が絡む本作。出版社からの依頼でまたしても奔走することになった晶が巻き込まれる騒動その他・・・。何といっても奥多摩にいる男の住まいが問題!! ○キ○リがぁ!!!! ④「副島さんは言っている」=昔の職場の同僚だった男から急に掛かってきた電話。探ってくれと頼まれたのは昨日殺された女性だった・・・。っていうことで、ネット検索だけで事件に迫ろうとする晶なのだが・・・。ラストは唐突に終わったような。 ⑤「血の凶作」=D.ハメットの名作「血の収穫」をもじった本編。戸籍が他人に使われた事件を追って、またしても他の騒動に巻き込まれる晶・・・っていう展開。バブルの狂騒が事件の背景になるんだけど、いろいろあったんだろうなぁ、あの頃は・・・。 ⑥「聖夜プラスワン」=当然ながらG.ライアルの「深夜プラスワン」のもじりだろうと推察される本編。そう、まさにそのとおりです。本編中で最も酷い騒動に巻き込まれる晶。クリスマスイブという特別な日に、新宿~多摩間を行ったり来たりさせられるはめに・・・。いやいやお疲れ様でしたと言いたくなった。 以上6編。 ホント、このシリーズはいい。 作者も“葉村晶”というキャラクターが好きなんだろうね。実にイキイキと描かれていると思う。 プロットはやや甘いかなというところがなきにしもあらずだけど、それを補って余りある雰囲気と面白さだ。 次作も当然期待してるし、長らく続けて欲しいシリーズなのだが、第一作目で二十代だったはずの晶が四十代。作中での加齢に関する愚痴はもはやお約束。(では五十代になったらどうなんだろう?) この辺もシンパシイを感じてしまうところ・・・ |
No.1323 | 6点 | 毒杯の囀り ポール・ドハティ |
(2017/03/04 15:40登録) 1991年発表の「アセルスタン修道士」シリーズの第一作。 作者はエリス・ピーターズ、リンゼイ・デービスと並び称される英国の歴史ミステリー作家で、本作は投書P.ハーディング名義で発表されたもの。 原題“The Nightingale Gallery”(意味は後述) ~1377年のロンドン。老王エドワード三世の崩御と幼いリチャード二世の即位により、政情に不穏な気配が漂うさなか、王侯相手の金貸しを営む貿易商が自室で毒殺される。男の部屋の外は人が通れば必ず“歌う”、通称<小夜鳴鳥の廊下>。家族の証言によれば執事以外に廊下を歩いた者はいない。屋根裏で縊死していた執事が犯人でなければ事件は不可能犯罪になる。この難題に挑むのは、酒好きで陽気なクラストン検死官と書記のアセルタン修道士。中世英国を舞台にした謎解きシリーズの開幕!~ 舞台こそ中世英国とやや特殊ですが、作品自体は割とオーソドックスな英国本格ミステリー・・・でしょう。 世界観こそ醸し出していますが、「中世英国」自体がトリック等に深く関わっているわけではありません。 ミステリーとしての「肝」はフーダニットのほかに、紹介文にある不可能状況=いわゆる「準密室」ということになります。 第三者の「目」ではなく、「耳」により構成された密室(誰かが通れば大きい音がして必ず気付くという状況)というのがやや目新しいといえば目新しいです。 (※原題のナイチンゲール・ギャラリーというのがこの廊下の名前です) この解法自体は全然突飛なものではなく、これまた実にオーソドックスなもの。 まるで教科書のような密室トリックなのです。 探偵役のアセルスタンが最終章でこのトリックを看破するのですが、伏線は序盤から丁寧に張られていて、さすがに本格ミステリーの本場という感じがします。 探偵役のコンビ(クラストン&アセルスタン)もいいバランスで、シリーズ第一作としては充分な水準といっていいでしょう。 難を言えば、特徴が薄いかなあというところ。 山場があまりないので、サスペンス感とかハラハラ感を味わいたい方にとっては物足りないかもしれません。 それと、本筋に関係ない当時の英国の市井場面なども多く書かれているので、この辺の水増し感は結構感じてしまいました。 でもまぁ、楽しめるレベルにはある作品という評価で良いでしょう。これなら続編を手に取るかもしれません。 (中世英国舞台ということで、文体もいつもより丁寧且つ高貴?にしてみました・・・爆) |
No.1322 | 6点 | 魔剣天翔 森博嗣 |
(2017/03/04 15:39登録) 「夢・出逢い・魔性」に続くvシリーズの第五作。 2000年発表。 ~アクロバット飛行中の二人乗り航空機。高空に浮かぶその完全密室で起こった殺人事件。エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣をめぐって、会場を訪れた保呂草と無料招待券につられた阿漕荘の面々は不可思議な事件に巻き込まれてしまう。悲劇の宝剣と最高難度の密室トリックの謎を瀬在丸紅子が鮮やかに解き明かす!~ 相変わらずというかvシリーズも五作目となり、元々異形のミステリーだったものが、更に「異形化」してきたな・・・って感じ。 今回の謎は何と「空中密室」!! 曲芸飛行を行っているコクピット内で発生する密室殺人。 しかもあろうことか銃殺、しかも背中から、っていうとびっきりの謎だ。 いったいどういうトリック?って思いながら読み進めていたが、事件の顛末が語られるばかりで、なかなか瀬在丸の推理に行き着かない流れ。 「おいおい、もうページがないぞ!」って思ってると、やっと真相解明へ。 そして明かされるのが、アノ(どの?)真実。 正直、「えー!」って思わされた。 これって、斉藤さんは気付かなかった、っていうことなんだよね・・・ すげぇリスクがあるように感じるけどなぁー っていうか、もうアッサリしすぎだろう。「肩透かし」って捉える読者も多いだろうな。 一番のサプライズは例のダイイングメッセージか? 何だか実にもったいつけといて、意味はコレかよ!! 「国文科」出身は別に関係ないと思いますけどね・・・ いやいや・・・これはもしかして「シャレ」で書いたのか? それとも大真面目なのか? ますます捉えどころのない世界へ向かい始めた感のある作品だった。 |
No.1321 | 6点 | 最後の女 エラリイ・クイーン |
(2017/02/19 21:34登録) 1970年に発表された作者第三十八冊目の長編。 翌年の「心地よく秘密めいた場所」発表後、共作者のダネイが急逝することより、本作はダネイ・リー共作の最後から二番目に当たることとなる。(訳者あとがきより) ~クイーンが手にとった受話器から聞こえてきたのは「殺される」というジョニー・Bの断末魔の叫びだった・・・。華々しい社交界の旋風のなかでしか充足できなかったジョニー・B。そんな彼が三人の元妻たちをライツヴィルの別荘に呼び集め、遺言状の書き換えを発表するというまさにその前夜の出来事だった。無残に撲殺されたジョニー・Bの謎に満ちた死と書き換えられないままの遺言状が引き起こす醜い争いは、たまたま別荘の別棟に逗留していたクイーンの飽くなき好奇心を刺激するには充分な事件だった・・・~ 何といってもライツヴィルである。 このニュージャージの架空の街がよっぽどお気に入りだったのだろうか、シリーズ(?)前作に当たる「帝王死す」から何と二十年後に発表された本作。 この街を再び事件の舞台として起用する作者の心中はどうだったのか? そして、本作に被害者として登場するジョニー・Bもまた、この街をひどく気に入り、自身の別荘を建て住まうこととなるのだ。 ノスタルジーなのかな? 巷のクイーン信奉者が数多の解説をしているけど、彼らの描きたい人間ドラマにライツヴィルはうってつけの舞台なのだろう。 それはさておき、本筋なのだが・・・ 筋立ては実に魅力的だ。 三人の元妻が一堂に会する舞台設定や、現場に残された三つの謎の衣服、被害者からクイーンにかかってきたダイニングメッセージ、などなど、本格ファンの心をくすぐるガジェットがふんだんに用意されている。 ただし、エラリーはいつにも増して切れ味がない。 「なんあだかなぁー」っていう感じで捜査に参加しているのだが、終章も大詰めを迎えて、ようやく事件の裏側の真実に気付く始末。 この真相もなぁ・・・。言われてみれば「それもあり」とは思うんだけど、これだけでひとつの長編を引っ張るだけのネタではない。 例のダイニングメッセージについては結構笑った。 そんな回りくどい言い方しなくても・・・って!! でもまあ、確かに1970年の作品なんだなと改めて気付かされる真相ではあった。 |
No.1320 | 5点 | 首折り男のための協奏曲 伊坂幸太郎 |
(2017/02/19 21:32登録) 2014年発表。 もともと独立していた七編を「首折り男」や「黒沢」など、緩やかに繋がった世界観が垣間見える連作短篇集、とでも言えばいいだろうか。 ①「首折り男の周辺」=本作のタイトルとは裏腹に、「首折り男」のことが唯一細かに書かれているのが本編。『疑う夫婦』と『間違われた男』、『いじめられている少年』の三つの視点から語られ、徐々にクロスしていく作者お得意の手法。 ②「濡れ衣の話』=ここでも「首折り男」は登場する。ただし、時間軸が微妙にずらされているところがミソか? ③「僕の舟」=個人的にはこれがNO.1かもしれない。まぁベタといえばベタかもしれないが・・・。こういう「天然系」の女性って実は本質を鋭く付いているケースがあるから要注意だ! でもやるな! 若林夫! ④「人間らしく」=いじめとクワガタが主な話題(?!)となる一編なのだが・・・。クワガタの薀蓄はなかなか面白かった。 ⑤「月曜日から逃げろ」=どんなに書いてもネタバレになりそうな話。ちょっと分かりにくいけどね。 ⑥「相談役の話」=伊達政宗の部下でお目付け役として宇和島へ行かされた男と、現代の本当の「相談役」がシンクロしていく話だったのだが、途中から心霊写真の話がクローズアップ。 ⑦「合コンの話」=これは旨いね。さすが! でも久し振りに合コンしたくなってきた(無理だろうけど・・・)。おしぼりの話ってあるあるなんだろうか? 以上7編。 伊坂らしいといえば伊坂らしいのだが、他の佳作に比べるとワンランク落ちるかなという読後感。 緩やかに、っていうか無理矢理つなげただけなので、連作らしい仕掛けもないし、これなら純粋に独立した短編集と銘打つ方が潔い。 「ラッシュライフ」以来たびたび登場する「黒沢」が今回再登板しているのは、ファンにとってはうれしい限りだろう。 ただまあ、あまり褒めるところが見当たらないのは事実。 「箸休め」的な作品という位置付けかな。 (ベストは上記のとおり③。⑦も世評どおり面白い) |
No.1319 | 5点 | 覇王の死 二階堂黎人 |
(2017/02/19 21:30登録) 「悪魔のラビリンス」⇒「魔術王事件」⇒「双面獣事件」と続いてきた“ラビリンス”サーガもついに最終章に突入。 稀代の名探偵・二階堂蘭子シリーズも佳境を迎えてきた! 2012年発表の大作。 ~能登半島の最北部にある真塊谷(まかいだに)村を支配する邑知家(おうちけ)。「日本書紀」にも登場するほど古い豪族の末裔とも言われる名家の当主・邑知大輔は、戦時中は軍部に影響力を持っていた大富豪。この家を乗っ取ろうという謎の弁護士の悪巧みによって、ひ孫の花婿候補に仕立てられた青年・青木俊治は途轍もない惨劇に巻き込まれることに・・・。ラビリンスとの最後の戦いに二階堂蘭子が挑む!~ これは・・・「人狼城の恐怖」の劣化版だな、というのが読んでいる最中の感想。 あるクローズド・サークルを舞台に、人智を超え、この世のものと思えない大量殺戮が起こる。そして、命からがら逃げてきた青年から語られるとても信じられない経験の数々・・・。そして、ありえないような謎のすべてを快刀乱麻のごとく解き明かす二階堂蘭子・・・ というわけで、もう完全に「人狼城」(特にドイツ編)の焼き直し、という印象。 ただ、「人狼城」の場合には荒唐無稽で大技にしろ、納得出来るだけのロジック&トリックだった。 翻って本作はというと・・・これはもうファンタジーというか、もう「こじつけ」のオンパレード。 特に酷いのが、ニューホーリー村の怪異のくだり。 これを全て○○で片付けられたのには、さすがに「いい加減にしろよ!」って思うよなぁ。 密室トリックも相当苦しい。もう完全にネタ切れなのかと考えずにはいられない。 そして作者十八番の事件の二重構造(裏はこういうことでした、っていうヤツ)も、スケールダウンが甚だしい。 いやはや、「人狼城」のあのスケール感、驚天動地&怒涛のように押し寄せるトリック、作者のミステリーへの熱量はどうしたんだろうか? 文庫版解説の安萬氏も困っているぞ!(誉め方に) ここまで辛口で書くのも、期待の大きさの表れなんだけどなぁー 「吸血の家」も「悪霊の館」も大好きな作品だし、島田荘司の後継者は二階堂しかいないとさえ思っていたのだが・・・ お願いだから覚醒してくれ、と言いたいけど、早熟だったのかな。 作家ってツライ職業だね。 |
No.1318 | 6点 | 大いなる殺人 ミッキー・スピレイン |
(2017/02/08 21:15登録) 私立探偵マイク・ハマーが大活躍するシリーズ長編四作目。 1951年の発表。個人的にはスピレインの初読となった本作。 ~激しい雨が窓を叩く深夜。ある酒場にずぶ濡れの男が、赤ん坊を抱えて入ってきた。男は震える手で酒をあおると、赤ん坊を置いたまま、また雨のなかへ出て行った。酒場に居合わせたマイク・ハマーも男に続いて出た。街灯が男のシルエットを映したその瞬間、銃声が轟き男は倒れた。マイクの胸をよぎる熱い怒り! 残された赤ん坊を預かるかたわら、マイクは事件の糸を手繰り始めた・・・。果たしてマイクがたどり着いた真相とは?~ 酒場に轟く銃声と残された赤ん坊の泣き声が印象的な冒頭の場面。 ハードボイルドと赤ん坊とは随分異色な組み合わせなのだが、これが本作に大きなインパクトや深い余韻を与えることとなる。 その辺りはプロットの妙。 ただ中盤はややダレる。 なにぶん初読なのでよく分からんが、マイク・ハマーがNYの街を縦横無尽、更になかなかのモテっぷりを見せてくれるのはいいんだけど、事件そのものは横に広がったり、過去(=縦)に広がったりして、どうにもとっ散らかった印象。 真相そのものは意外とといえば意外なのだが、よくあるパターンといえばよくあるパターン・・・というもの。 まぁその辺に落ち着くよなと思っているうちに、突然訪れるのがラストの一場面なのだ。 とにかくこれが白眉っていうか、一番の衝撃。 これは・・・強烈に頭に残った。 そうか! これがやりたかったのか、と思わず納得。 だから、冒頭から何度もアレについて書いてたのね・・・ 謎解きとしても一定のレベルにあるのかもしれないけど、私にとってはラストシーンが全てともいえる作品。 タイトルもやっぱりこのシーンを指しているんだよね? (西海岸舞台のハードボイルドは乾いた印象だが、東海岸舞台のハードボイルドはやっぱりウェットな印象・・・あくまで個人的な感覚ですが) |
No.1317 | 6点 | 招かれざる客 笹沢左保 |
(2017/02/08 21:14登録) 作者の実質デビュー長編。 1959年の第五回江戸川乱歩賞へ応募され、惜しくも受賞を逃した作品。 (受賞作は新章文子の「危険な関係」) 光文社の笹沢左保コレクションの新装版で読了。(他にエッセイ『青春飛行』を併録) ~事件は商産省組合の秘密闘争計画を筒抜けにしたスパイを発見したことが発端だった。スパイと目された組合員、そして彼の内縁の妻に誤認された女性が殺され、ふたつの事件の容疑者は事故で死亡する。ある週刊誌の記事から、事件に疑問を感じた警部補が挑むのは、鉄壁のアリバイと暗号、そして密室の謎! 笹沢左保のデビュー作にして代表作となる傑作本格推理小説~ 実に重厚な本格ミステリーだ! さすがに二十一世紀の現在からすると、いかにも古めかしく時代背景が忍ばれるのだが、行間からは作者のミステリーに対する情熱すら感じられて、次第に引き込まれている自分がいた。 紹介文のとおり、本作に詰め込まれた主要な謎は、アリバイ/暗号/密室の三点。 まず暗号については、他の方もご指摘のとおりで、当時の業界関係者でなければ解読不可能なのが玉に瑕。まぁ“○○”なんて、いかにもなルビがふってあるので、察する読者は多いと思われるが・・・ つぎに密室。 犯人というより凶器が密室から消えた謎がメイン。 よくよく考えれば推理クイズ程度のものなんだけど、小道具がうまい具合に使われていて、なかなか鮮やかなトリックとなっている。 化学者の証言が挿入されていて、リアリティを担保しているのも良いと思う。 で、アリバイなのだが・・・これが微妙。 他人の感覚に頼っている段階で、このトリックは相当危ういと思うのだが、どうか? どこかで気付かれるリスクが大きくて、さすがにリアリティが欠如していると感じる。 (目の付け所は面白いんだけどね) 最後に動機。タイトルにもつながってくる何とも重く、哀しい事実・・・(そうか、そういう意味だったのか・・・) いかにも50~60年代の日本っていう感じだし、作品に深みを与えている。 ということで、デビュー作とは思えない完成度。さすがに三百作以上の作品を世に送り出しただけのことはある。 初期の笹沢左保恐るべし!っていうことだな。 |
No.1316 | 5点 | 獏鸚(ばくおう) 名探偵帆村荘六の事件簿 海野十三 |
(2017/02/08 21:13登録) 1928年『新青年』誌に「電気風呂の怪死事件」を発表しデビュー。以降、科学トリックを用いた作品を発表し、日本SFの先駆者と呼ばれる作家・・・海野十三。 本作は名探偵・帆村荘六が活躍するシリーズのうち、比較的初期のものを集めた作品集。 ①「麻雀殺人事件」=帆村荘六初登場の作品は、雀荘のなか、名探偵の目の前で起こった殺人事件という、いきなり難しいテーマ。正直、真相は腰砕け気味なのだが・・・ ②「省線電車の狙撃手」=省線(=山手線)内で連続して起こる銃殺事件。果たして真犯人は車内から狙撃したのか、車外から狙ったのか?という刺激的な設定。まぁ電車の窓が自由に開け閉めできた時代ならでは。図解入りで説明されているが、今ひとつピンとこない。時代の壁かな? ③「ネオン横丁殺人事件」=まさに科学トリック!って感じなのだが、あまりにもデフォルメされててよく理解できない・・・ ④「振動魔」=スゲエ・・・。こんなトリックが存在したなんて! これって科学なのだろうか? ⑤「爬虫館事件」=何だか「館」シリーズのようなタイトルだが、まるで関係なし。これは・・・科学というよりオカルトに近いのではないか? 仮面ライダーV3のライダーマンをちょっと思い出した(古いな!!) ⑥「赤外線男」=これはさらにスゴイ! が、しかし凄すぎてもはや状況がよく呑み込めない! ⑦「点眼機殺人事件」=この死因はスゲエな! これで本当に人は死ぬのだろうか? だったら、サラリーマンは気を付けよう(特にメタボの人)! ⑧「俘囚」=これもスゴイ・・・というか正直理解不能だった。でもコワイ! ⑨「人間灰」=う~ん。何なんでしょうね? ⑩「獏鸚」=表題作だけあって、もしかしたら一番まともなミステリーかもしれない。結構練られた暗号ミステリー。 以上10編。 本作や作者の歴史的価値は認めるが、読み進めるのが結構苦痛だった。 なんて言うのかなぁ・・・ 特段エログロっていうわけでもないし、骨格はちゃんとしたミステリーっぽい作品が多いんだけど、何か居心地が悪いというか、ムズムズするような感覚にさせられた。 時代背景もあるだろうし(昭和一桁だもんな)、やむを得ないんだろうけど、好みでないのは間違いない。 東京創元社から続編が出てるけど、読まないかな・・・ |
No.1315 | 8点 | たけまる文庫 謎の巻 我孫子武丸 |
(2017/01/28 22:24登録) 本書は、1997年、集英社より『小説たけまる増刊号』として刊行されたものから、文庫化に当たり作品を抜き出し、再編集したもの・・・だそうです。 バラエティに富んだ「選り取りみどり」の作品集という雰囲気。 ①「裏庭の死体」=我孫子ファンには堪らない、「速水三兄弟」登場作品。いつものように長兄が持ち込んだ殺人事件の謎に、妹がひたすらまぜっ返し、次男が一刀両断に解決する・・・という流れ。トリック自体は突飛だけど、それほどどうと言うこともないものだが・・・。とにかくこのシリーズが久々に読めて良かった! ②「バベルの塔の犯罪」=近未来を舞台にしたSF風の作品なのだが・・・そんなことを吹き飛ばすラスト一行! そういうオチかぁー いやいや立派になったもんです。さすがフェニックス! ③「花嫁は涙を流さない」=いわゆる「裏の裏は表」っていうことか?(違うかもしれないが・・・) ひと捻りしてあるのがさすがという感じだ。 ④「Everybody kills Somebody」=これは実にウマイね。こういうプロットをサラッと書ける辺りに作者の腕前が忍ばれるというものだ。ラストもなかなか気が利いてる! ⑤「夜のヒッチハイカー」=これは③と同ベクトルの作品。だけど、これも最後にもうひと捻りしてあるところがミソ。「やっぱりなぁ」と思ったところに、追加の一撃が来るという趣向。 ⑥「青い鳥を探せ」=主人公の私立探偵が、ある男の不思議な依頼を引き受け、捜査を進めるうちに・・・などと書くとありきたりのプロットに思えるが、これもラストに追加の一撃! ⑦「小さな悪魔」=ホラー風味の一編。ちょっと分かりにくいけど、ゾワーといういやーな感覚になる。 ⑧「車中の出来事」=夜中のローカル線の車中という静かな舞台が一変!! これは「裏の裏の裏・・・の裏」くらいまでひっくり返してくる! なかなかの佳作。 以上8編。 まさに「短編のお手本」のような作品が並ぶ。珠玉の作品集といっても差し支えないだろう。 最初に述べたとおり、バラエティに富んだ作品だし、ラストの切れ味もかなりなもの。 おまけにあの「速水三兄弟シリーズ」も読めるなんて・・・ 短編ミステリーの面白さを味わうのにちょうどいい作品、という評価。まさにGood Job! (ベストは迷うけど④か⑧だな。②はある意味別格!) |
No.1314 | 7点 | カナリヤ殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2017/01/28 22:23登録) 「ベンスン殺人事件」に続いて刊行されたファイロ・ヴァンスシリーズの二作目。 終盤に出てくるあのシーンが有名な長編作品。 1927年発表。 ~ブリードウェイの名花《カナリア》が密室で殺された。容疑者は四人しかいない。その四人のアリバイはいずれも欠陥はあるが、犯人と確認し得る決め手はひとつもない。ファイロ・ヴァンスは容疑者を集めてポーカーを遊び、ポーカーの勝負を通じて犯人を指摘しついにヴェートーベンの『アンダンテ』によって決定的証拠を掴む。ヴァン・ダインの二作目にして、ワールド紙が推理小説の貴族階級に属するものと評した傑作~ 実は未読だった作品・・・なのだが(今さら)、読んで良かったというのが率直な感想。 世評については昔から耳に入っていて、好意的というよりはやや辛辣な意見が多いことも既知であった。 確かに・・・ 例のポーカーによる心理的推理にしても、二つの密室トリックにしても、前者はこれだけでは決め手にはなり得ないだろうし、後者については時代背景を勘案しても「子供騙し」という感覚になってしまう。 (特に裏口のトリックは果たしてうまくいくのか甚だ疑問) しかしながら、個人的に感じたのは、本作の良さはそんなところではなく、謎の呈示と構成、舞台設定の妙にあるということ。 四人しかいない容疑者たちが、ヴァンスの卓越した推理力で徐々に化けの皮が剥がされていく過程や、それぞれが微妙に絡み合って構成されるアリバイ、人の目に触れることなしでは入れなかった被害者の部屋などなど、本格ファンの心をくすぐるギミックに事欠かない。 (その辺りは、訳者あとがきで故中島河太郎氏も指摘しておられる) もちろん時代経過による経年劣化には晒されているが、当時の読者には相当ハイカラな読み物と映ったに違いないだろう。 ヴァンスのペダンティックな語り口が気に障る、なんでいつも皮肉めいた台詞を吐くのだという方もいるかもしれない。 でも好きなのだ。そんなファイロ・ヴァンスが! そのことに改めて気付かされた今回。残りの未読作は僅かになり、駄作ぞろいで有名な九作目以降となったが、それでも手に取るだろうな。 |
No.1313 | 2点 | スティームタイガーの死走 霞流一 |
(2017/01/28 22:22登録) 2001年発表のノンシリーズ長編。 その年の「このミス」で(なんと)第四位に輝いた作品(とのことだが・・・) ~C63・・・それは戦時に設計されるも、幻に終わった蒸気機関車。玩具メーカーの創業者、小羽田伝介は会社の宣伝のためにC63を完全再現させた。しかも本物の中央本線で東京まで走らせる計画を発表する。その記念すべきお披露目の日、出発駅で変死体が発見される。不穏な空気のなか走り出したC63だが、間もなく虎の覆面を被った二人組によって乗っ取られ、そしてC63は忽然と消失してしまった!! 怒涛の展開と驚愕のラストが度肝を抜くノンストップ本格推理~ こりゃーやっちまったな・・・(byクールポコ) 新年そうそうヘタこいたぁ・・・(by小島よしお) 古いな・・・ よくまぁ、「このミス」でランクインしたもんだよな・・・ (正直、選んだ奴の気が知れない) どこが良かったんだろ? ラストかな? 驚愕の? 確かに「驚愕」かもしれない。 すべてをぶち壊すかのような、あのオチ・・・ ホントに作者はそれがやりたかったのか? 「バカミスですから」ということで大目に見る気にはなれない。 (この列車消失のトリックは一体なんなんだ?) これを世に出した出版社もねぇ・・・眼鏡が曇ってるとしか思えない。 褒めるところあるかって? 「短くてすぐに読めるところ」かな。 とにかく、久しぶりに最低ランクのミステリーと出会ってしまった。新年そうそう・・・(クドイ!) |