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ミステリの祭典

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生還者

作家 下村敦史
出版日2015年07月
平均点6.75点
書評数8人

No.8 6点 蟷螂の斧
(2020/08/20 14:40登録)
どんでん返しは山岳ミステリーらしいもので楽しめました。


【以下、ネタバレ全開です】
生還した2名の言い分が正反対であることは、どちらかが嘘をついていると通常は考えるはず。ところが結果的に、この前提が崩れてしまった。つまり両名とも嘘をついていたのだ。これはどうなんだろう?。地の文での嘘ではないのでアンフェアではないのかもしれないが、どうも気持ち的にすっきりしない(笑)。生還した高瀬の思考回路がどうも理解できません。加賀谷の話だけを信じて、彼を英雄に祭り上げてしまったことですね。実際の悪意(殺人計画)は東一人のみで他の人物については描かれていない。よって悪意があったかどうか不明。そして主人公の兄はまったく殺人計画には関与していなかった。ところが高瀬の嘘で東以外の4人は悪役となってしまっている。ラストで、真相本が発行され、高瀬と加賀谷についてはフォローはされていますが、悪役となった4人のフォローはなされていません。彼らが浮かばれません。その点が残念です。

No.7 8点 パメル
(2020/08/09 09:36登録)
世界第3位の標高を誇るカンチェンジェンガに登っていた日本人4名の遺体が回収された。増田直志の兄、謙一もその中の一人だった。その後、奇跡的に相次いで2人の生還者が見つかる。しかし、2人の言い分は全く違っていた。また、直志は兄の遺品であるザイルに不審を抱く。
人間の持つ主観により、真実が見えにくくなる。何が事実で、何が虚構か、最後まで目が離せない。迫力満点の雪山の描写に加え、謎が謎を呼ぶ展開や二転三転していくミステリの面白さに加え、兄と弟の確執、ある人物のトラウマ、「生還の罪」に取りつかれた者たちが辿る闇を描き切った人物造形が錯綜するプロットを支えている。
伏線が見事に回収され、全ての謎が明らかになった時、山への真摯な思いも浮かび上がり、晴れ渡った景色を山から見下ろすような爽快な気分になった。ミステリとしても人間ドラマとしても満足な出来。
余談ですが、寒い時期に読む場合、防寒対策を万全にしておかないと凍えてしまうかもしれません。

No.6 7点 まさむね
(2019/04/06 22:12登録)
 「二人の生還者のうち、どちらが真実を語っているのか分からない。エベレストよりも遭難死率が高いというカンチェンジュンガで何があったのか?」というプロットの山岳ミステリー。
 筆致の重厚さは好き嫌いが分かれそうだし、幾分しつこく感じる部分があったことも事実なのですが、総合的には読み応えがあって好印象。終盤の伏線回収も綺麗だし、(複数の?)真相にも「なるほど」と思わされました。丁寧な取材を経た力作だと思いますね。

No.5 7点 haruka
(2018/03/12 00:26登録)
謎はシンプルで、生還者のうちどちらかが嘘をついている、というシチュエーションだが、しっかりと伏線が張られており、そして最後にすべて回収されるので、すっきり感あり。登山シーンも読み応えあった。

No.4 6点 E-BANKER
(2017/10/18 22:39登録)
乱歩賞受賞作「闇に香る嘘」、二作目「叛徒」に続いて発表された長編三作目。
ミステリーの一分野とも言える「山岳ミステリー」に挑んだ野心作。
2015年の発表。

~雪崩で死亡した兄の遺品を整理するうち、弟・増田直志はザイルに施された細工に気付く。死因は事故か、それとも・・・。疑念を抱くなか、兄の登山隊に関係するふたりの男が相次いで生還を果たす。真相を確かめたい増田だったが、ふたりの証言は正反対のものだった! ヒマラヤを舞台にいくつもの謎が絡み合う傑作山岳ミステリー~

まずは、作者の取材力に敬意を表したい。
山登り経験者なのかどうか分からないけど、本作を読み進めるほどに作者の丁寧で綿密な取材ぶりに驚かされる。
エベレスト、K2に次ぐ高峰“カンチェンジェンガ”・・・特に最終章での山の描写はなかなかの迫力。
実に映像化に向いた作品だと思う。

ただ、ミステリーとしての骨格は正直弱い。
紹介文のとおり、主たる謎は「山(カンチェンジェンガ)で何があったのか?」なのだが、最終的に反転があることは普通の読者なら途中で察してしまうだろう。
加えて、中盤のやり取りは結構まだるっこしくて、何がプロットの主軸となるのかが曖昧模糊としたまま進んでいくのもマイナス。
ただ、最後のヒマラヤ行の迫力がそれまでのモヤモヤを消し飛ばしていることは大いなる救い。

重厚な筆致も好みが別れるところかもしれない。
デビュー作と同様、良く言えば作者の生真面目さがよく表れているし、悪く言うなら“遊び心のなさ”ということだろう。
そういう意味では好き嫌いがはっきり別れるのかも。
個人的には・・・やや微妙。
「闇に香る嘘」の書評でも触れたが、好きなタイプとは言い難い。
でもまぁ軽めの作品がもてはやされる昨今。こういう生真面目なミステリーがあっても、それはそれで素晴らしい。
(「○○者」っていうと、どうしても折原と被るな。しかも山岳ミステリーとは・・・敢えてか?)

No.3 7点 パンやん
(2016/06/15 08:14登録)
登山など全く縁の無い小生には、その技術用語の連続には多少トッチラかるも、其なりにかわしても断然嬉しくなる山岳ものであった。ミステリーとしてより、人間ドラマとしての内面を幾重にも厚く描き、含蓄に富む言葉にも溢れ、その読み応え、読後感の爽快さといったら無い。

No.2 7点
(2016/03/04 09:45登録)
ヒマラヤの高峰カンチェンジュンガを舞台とした山岳ミステリー。
主人公・増田の兄は雪崩により死んだのか、それとも殺されたのか。

同じ登山で遭難した加賀谷に関する、二人の生還者の証言が正反対という点が、まず面白い。山は開かれた密室だし、生存者が二人だけなので、ウソを見破ることは至難の業です。
この難問と兄の死の謎を解くのは、主人公たち素人探偵です。
プロットはよくできていますが、主人公と、彼を取り巻く女性たちがわかりやすく描写してあり、人物造詣についてもいい印象を受けます。
息もつかせぬストーリー、抜群のリーダビリティでもって一気読みできること必定です。
読者への手がかり伏線の開示も十分にあり、読者が謎解きに参加することもできます。
そして真相は?
なるほどそうだったのか!
背景がいろいろあって読ませるのだが、真相はきれいにまとめすぎ、という感じがしないでもない。

この著者、デビュー作もさることながら、3作目(2作目は未読)もこの出来の良さ、ただ者ではないようです。乱歩賞受賞者ですから、日本推理作家協会賞、直木賞と、推理賞三冠を狙えるのではないでしょうか。

直近書評の『黒いヒマラヤ』の読書中に、図書館から本書の通知がありました。まったくの偶然ですが、カンチェンジュンガ物が2作続きました。
知人によれば、身の回りで起こる事象に偶然はないということですw
こういうことが起こればメモっておくべき、という人もいましたw

No.1 6点 文生
(2015/10/17 04:00登録)
雪崩の事故から奇跡的に生還したふたりの登山家の証言が大きく食い違う中、事故で兄を失った主人公がその死に疑念を抱き、真相を探る山岳ミステリー版藪の中。

息詰まる登山シーンから始まり、生き残ったふたりの登山家の証言が180度異なることから生じるサスペンス、そして徐々に明らかになる登山家たちの複雑な過去といったふうに物語が展開する骨太で非常に読み応えのある作品です。

ただ、本格ミステリのフォーマットを採用せず、人間ドラマに力点が置かれているため、早い段階で事件の背景が透けて見えるのは本格ファンとしては少し物足りなかった。

とは言え、事件解明後にも小さなサプライズを用意するなど、細部まで工夫を凝らした力作であることは確かです。

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