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ミステリの祭典

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白骨の処女

作家 森下雨村
出版日2016年06月
平均点5.25点
書評数4人

No.4 5点 八二一
(2023/02/01 20:04登録)
凶悪な犯行、怪しい人影、連続する恐怖。時間との勝負であるはずが、読者の微笑を誘う大人の余裕が全編に漂う。何より二人の探偵役が、所々で推理談議に花を咲かす姿が、まるでデートのようで楽しそう。

No.3 6点 E-BANKER
(2017/08/27 19:35登録)
1932(昭和7)年、新潮社版「新作探偵小説全集」の一冊として刊行された本作。
作者は雑誌「新青年」の初代編集長にして、大作家・江戸川乱歩の誕生にも大きく関わった、戦前の日本ミステリー界の重鎮的存在(すべて巻末解説の受け売りですが・・・)
先般、河出文庫より復刊されたものを読了。

~神宮外苑に放置された盗難車両から、青年の変死体が発見される。その婚約者が大量の血痕を残し謎の失踪。連続殺人?の容疑者には大阪駅にいたという鉄壁のアリバイが・・・。新聞記者が謎の真相を追うのだが・・・。乱歩をも見出した<日本探偵小説の父>、幻の最高傑作待望の初文庫化。テンポのいい文体はまったく古びてない!~

なるほど。発表以来八十年余りを経て、初文庫化されるというだけの価値はある・・・という気はした。
“テンポのよさ”は確かに紹介文にもあるとおりで、幾分大時代的な表現はあるものの、それほどストレスなく読み進めることができた。それだけでも、作者の力量が分かろうというものだ。

トリックやプロットについては、2019年現在の目線からすると疑問符が付いたり、“?”って思うことは多々ある。
特にわざわざ惹句が付けられている「アリバイトリック」については、かなり肩透かしなレベル。
松本清張のあの作品の数十年前だし・・・ということはあるけど、時計にまつわるトリックにしても、「そんなこと?」っていうレベルの仕掛け。
でもそれは致し方ないだろう。
殺人や怪事件が連続して発生する緊張感や、かといって通俗&スリラーに走らず、ロジック重視の解決を図ろうとするスタンス。
動機についても十分配慮されていて、そのための捜査行が作品に深みを与えていること、などなど好意的に捉えられる要素は数多い。

個人的には、鮎川哲也の「鬼貫警部シリーズ」とどことなく似ていると感じた。
(もちろん「アリバイくずし」だからということもあるけど)
まぁ、でもあくまで歴史的価値という視点での作品かな・・・。そこに興味がない方なら敢えて手に取る必要まではないかも。
というのが正直な評価。
(最後にようやくタイトルの意味が分かった! でも何か腑に落ちないんだけど・・・)

No.2 4点 おっさん
(2016/10/07 16:46登録)
「あらまあ、ちっともシンクロナイズしないのね、話が……」(第二章「銀座から堂島へ」)


今年2016年に、復刊の報に接して、筆者がいちばん驚かされた一冊がコレ。
本書『白骨の処女』は、『新青年』初代編集長にして、江戸川乱歩のデビュー作「二銭銅貨」を世に送り出したことでも知られる、〈日本探偵小説の父〉森下雨村の、実作者としての活動を代表する長編で、全十巻すべて書き下ろしという、新潮社〈新作探偵小説全集〉の第二回配本として、昭和七年(1932)に刊行されました。
ちなみに、同全集のラインナップを刊行順に記しておくと――

 甲賀三郎『姿なき怪盗』 森下雨村『白骨の処女』 大下宇陀児『奇跡の扉』 横溝正史『呪いの塔』 水谷準『獣人の獄』 江戸川乱歩(岡戸武平の代作)『蠢く触手』 橋本五郎『疑問の三』 夢野久作『暗黒公使』 浜尾四郎『鉄鎖殺人事件』 佐左木俊郎『狼群』

となります。

復刊されるにしても、論創ミステリとかミステリ珍本全集あたりの、それなりに高価なハードカバー叢書でのリリースであれば、そこまで仰天はしなかったでしょうが――まさかの河出文庫ですからね。出版の経緯が最大のミステリw 
財布に優しく、戦前の探偵小説愛好家には、まことに有難い文庫化ながら、果たして定価800円(税別)で採算はとれるのかしらん? と危ぶんでいました。しかしこれは杞憂だったようで、セールスが好調だったとみえ、なんと年内に、同じ作者の続刊『消えたダイヤ』の発売も決定しました。いや~、めでたい。
これで、営業妨害とかあまり意識せず、勝手な感想を垂れ流しても大丈夫でしょうww

読後の印象を、一言でいうと――
クロフツだと思った? 残念! フレッチャーちゃんでした!
と、正直まあ、そんな小説だったな、と。
堅実なF・W・クロフツ(『樽』)と、放縦なJ・S・フレッチャー(『ミドル・テンプルの殺人』)、この英国の二作家は、いまとなると意外の感を禁じえませんが、かつての我国では並び称される存在でした。
江戸川乱歩は、その「探偵小説の定義と類別」(『幻影城』所収)のなかで、探偵小説を「ゲーム探偵小説」と「非ゲーム探偵小説」に分け、凡人型探偵が起用されることの多い後者の「代表的な作家はフレッチャーとクロフツであろう」とし、「クロフツはトリックにも独創があるが、フレッチャーなどは主としてプロットの曲折の妙味によって読ませる作風である」と述べています。
乱歩と親交のあった、戦前最高の探偵小説評論家・井上良夫も、クロフツの『樽』を取りあげた「傑作探偵小説吟味」(国書刊行会『探偵小説のプロフイル』所収)のなかで、本格探偵小説を二つの型にわけ、作中探偵と読者が知恵の戦いをするタイプの代表的作家にヴァン・ダイン、もういっぽうの探偵イコール読者ともいうべき行きかたをするタイプの代表作家にフレッチャーとクロフツをあげ、「フレッチャー氏は筋の巧みさに於て優れ、クロフツ氏は論理的複雑さに於て彼を凌駕する」と述べていました。
そして、翻訳者として、このフレッチャーとクロフツをはじめて日本に紹介した立役者が、森下雨村なわけで、本書においては、おそらく、自身が感心した両作家を混ぜたような味を狙ったものと推察できます。

導入部の、東京における、盗難車両内の青年の変死事件――これがアリバイ崩しに収斂していく過程をクロフツ・パート(A)とするなら、舞台を新潟に移しての、富豪令嬢(変死した青年の婚約者)の奇怪な失踪事件――が、復讐悲話に収斂していく過程はフレッチャー・パート(B)といっていいでしょう。
が、このA、B、ふたつのパートが、うまく混ざっていない。多段式ロケットの、機体切りはなしのようなものと割り切れば、一周回って、新しいタイプのミステリという評価も可能かも知れませんが、切りはなされるAパートがなまじトリッキーなぶん、親の因果が子に報う、大時代なBパートとのチグハグさが気になります。

と、まあ、ここまでの文章を読んでこられたかたには、もうお分かりでしょうが、筆者はフレッチャーが嫌いですw
まだ血気盛んな青年だった頃、海外の評者によってフレッチャーの代表作とされている、『ミドル・テンプルの殺人』と『チャリング・クロス事件』を読んで、その、あまりにご都合主義な筋立てに、本気で腹を立てた覚えがあります(なので、論創海外ミステリが掘りおこしてくれた、mini さん推奨の『亡者の金』も、つい敬遠気味)。
フレッチャーに範を取った(?)本書も、謎また謎、意外また意外の展開を支えているのは、許容範囲を超えた“偶然”に依存した「あまりにご都合主義な筋立て」なわけで、いちいちツッコミを入れる気にもなりませんが……ひとつだけ書いておくと、Bパートの事件で、犯人はなぜわざわざ苦労して、死体を隠したのか? 犯行の動機を考えれば、そんなことをする理由はまったくありません。むしろ、令嬢の死体は発見されてナンボのはず。でも、それでは――作者が困るんですね. (>_<)

さて。
では、そんな『白骨の処女』は、復刊の意義の無い、まるきり過去の遺物――見どころは、戦前の、先駆的なアリバイ崩しものとしての価値だけだったのか? というと、じつは、一概にそうとはいえません。
これは、雨村の、省略をきかせた文章の力が大きいのですが、作品のリーダビリティはきわめて高く、東京~新潟~大阪にまたがる、新聞関係者の、警察当局を向こうにまわした広域捜査の合間に、点景としてちりばめられた当時の風俗描写、自然描写が、小説的興趣を盛り上げます。乱歩は勿論、甲賀三郎にも、大下宇陀児にも無い、その、雨村ならではの魅力は捨てがたい。
そして、忘れてならないのが、「サスペンスフルなアリバイ小説の金字塔」と題された、山前譲氏の巻末解説。作品の読みどころ、そのポイント紹介を最初と最後に分け、作者のプロフィールをあいだにはさみ、原稿用紙5枚程度で森下雨村を解説するという、これはまことに簡にして要を得た、プロの技です。レヴューと称して、サイトにいつもダラダラした文章を投稿している、どこぞのおっさんは見習うべきでしょう。
本書の、トラベル・ミステリ的要素に着目した山前解説に敬意を表し、筆者のジャンル投票は「トラベル・ミステリ」としておきます。

No.1 6点 kanamori
(2016/08/17 18:50登録)
神宮外苑に放置されていた車の中から帝大生・春木の変死体が見つかる。続いて、新潟の石油王・山津家の令嬢で春木の婚約者でもある瑛子が、血痕と切断された指を残し新潟の海辺にある別荘から失踪した。彼らの友人・永田は、東京の新聞記者・神尾と連携し、事件の真相を追うが---------。

戦前の探偵小説界を牽引した雑誌「新青年」の創刊編集長で、江戸川乱歩らを世に出し”日本探偵小説の父”と称される森下雨村が、出版社をやめ本格的に創作に入った昭和7年(1932年)に発表した”幻の最高傑作”(© 山前譲の内容紹介)です。
本書は、タイトルや漠然と抱くイメージから怪奇幻想もののスリラーのようにも思えますが、アリバイ崩しとフーダニットを主軸にした本格ミステリに分類される作品です。
東京で起きた殺人の時刻に容疑者は新潟から大阪に向かう汽車の中にいたという時刻表トリックは、現在の観点から見ると真相が分かりやすいのですが、「点と線」の四半世紀前の作品であることを考慮すべきで、その先進性は評価できるのではと思います。
動機があまりに大時代的なことや、発端の事件が後の連続殺人と有機的に繋がっていないプロットなど、ツッコミどころはいくつもあるものの、スリリングな展開がつづく後半部は読みごたえ十分です。

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