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平均点:6.00点 | 書評数:1859件 |
No.1659 | 7点 | 終決者たち マイクル・コナリー |
(2021/09/15 20:34登録) 「天使と罪の街」に続いて発表された、ハリー・ボッシュシリーズ。シリーズも重ねて11作目となる本作。 警察を離れ、一私立探偵として活動していたボッシュが、再び「刑事」として帰ってくる。しかも、相棒は慣れ親しんだキズミン・ライダー! これは期待大だ! 2005年の発表。 ~三年間の私立探偵稼業を経てロス市警へ復職したハリー・ボッシュ。エリート部署である未解決事件班に配属された彼は、十七年前に起きた少女殺人事件の再捜査に当たる。調べを進めるうち、当時の市警上層部からの圧力で迷宮入りとなっていた事実が判明する。意外な背後関係を見せる難事件にボッシュはどう立ち向かうのか?~ 『私立探偵ボッシュ』<『ロス市警・刑事ボッシュ』 やはり、こう強く思わされた作品だった。当のボッシュ自身も久々に復帰を果たした市警で、新たな上司となる本部長の檄に対し胸を熱くする場面がある。 そして、ボッシュの新たな職務となるのが「未解決事件の捜査」。うーん、ボッシュにとって天職ともいえる役目だろう。 事実、彼の天性の鋭い勘、そして豊かな経験に基づく推察力は、過去に埋もれた陰残な事件を現代に呼び起こすこととなる。 巻末解説でも触れられているが、本作は純正な「警察小説」としての面白さも如何なく発揮されている。相棒となるライダー刑事だけでなく、班長となるプラットをはじめとする未解決事件班の刑事たちとともに、ボッシュは真犯人と目される人物を炙り出すことになる。 しかし、そこは本シリーズ。一筋縄でいくはずはない。まるで肩透かし、いや蜃気楼のように目の前から「真相」がするりと逃げてしまう刹那。そして、過去の犯罪の意外な背景、驚きの真犯人が明らかとなる終盤。 本作はプロットが割と素直ですっきりしているだけに、今までにないリーダビリティを感じることができた。 いつもはエレノアや関係者の女性たちとボッシュとの絡みや銃撃戦なんかも結構なボリュームで書かれるんだけど、今回はそれも殆どなし。(エレノアと愛する娘は香港へ出稼ぎ?に行っているとのこと・・・) そういう意味でも原点回帰というか、「ハリー・ボッシュ」という得難いキャラクターをリフレッシュさせ、まさに新章へ旅立たせるための作品だったのかもしれない。 逆に言えばすっきりしすぎていると感じる方もいるかもしれないけど、そこは好みの問題かな。私は・・・良かった。 |
No.1658 | 5点 | こちら殺人課! エドワード・D・ホック |
(2021/08/23 21:55登録) 巻末解説によると、本作の主役であるレオポルド警部について、『50編を超える作品のある、シリーズキャラクターの中で一番登場回数の多い』と解説されている。 ホックというと、これまで「サム・ホーソーン」と「サイモンアーク」各シリーズばかり読んでいたためほぼ初見の状態。 当作品集自体は1981年に編まれたもの。 ①「サーカス」=裏さびれた街と、そんな街に似合う場末のサーカス一座・・・。そんな淋しい光景が思い浮かぶ第一編。真相はトリック云々というレベルではないけれど、雰囲気同様、淋しい結末を迎える。 ②「港の死」=これは「意外な犯人」を狙った作品だとは思うけど、伏線が効きすぎていて手練れの読者ならすぐに察知してしまうのではないか? ③「フリーチ事件」=①同様、淋しい結末を迎えてしまう。あーあ、そんなに死を急がなくても・・・ ④「錆びた薔薇」=昔の日活映画みたいなタイトルだな(古ー)。過去の殺人事件の関係者である娘と恋仲に陥るレオポルド警部なのだが、真相はやはり・・・淋しい。 ⑤「ヴェルマが消えた」=観覧車から一周回っている間にひとりの娘が消えた! これだけ取ると、ホックお得意の不可能犯罪っぽいけど、真相はかなり緩い。「実は事件の裏側で・・・」というプロットは良いのだが。 ⑥「殺人パレード」=華々しいパレードのさなか、馬に乗った男性がライフルで銃殺されるという、一見派手な事件なのだが、真相はなかなかセコイ。でも、なんで自分自身で手を下したのかな? ⑦「幽霊殺人」=妻殺しの容疑者として浮かんだ夫。なのだが、事件の30分前にその夫は交通事故で死亡していた! じゃあ幽霊が殺人を?といういかにもホックらしいプロット。。これは一応トリックらしいものが用意されている。 ⑧「不可能犯罪」=このタイトルは・・・看板倒れ。ひとりで運転していたはずの運転手が絞殺されてしまうという事件なのだが、他の方も書かれているとおり、こんなトリックが成立するとは到底思えない。 以上8編。 前半は「意外な犯人」、後半は「不可能犯罪」が中心になっている印象の作品集。 さすがに短編の名手だけあって、手堅い味わいの作品が並んではいるんだけど、「サムホーソーン」シリーズなどと比べると、トリックも小粒で練られていないようなものが多いように感じた。 本作以外に作品集もないように見えるのも、本シリーズの評価につながっているのかもしれない。 (個人的ベストは・・・⑦かな。あとはうーん。特になし。) |
No.1657 | 6点 | 魔眼の匣の殺人 今村昌弘 |
(2021/08/23 21:54登録) 大ヒットとなった前作(「屍人荘の殺人」)に続くシリーズ第二弾。 今回も世間的には高評価で迎えられている様子で、個人的にも楽しみ。楽しみすぎて、本来なら文庫化を待つはずだったのが待ちきれずに単行本で読了。 2019年の発表。 ~その日、「魔眼の匣」を九人が訪れた。人里離れたその施設の孤独な主は預言者と恐れられる老女。彼女は葉村と剣崎をはじめとする来訪者に「あと二日のうちにこの地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人に死が訪れ、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し・・・~ 今回も独特のロジックは健在。舞台は完全なるCC。 そして、今回の作品世界を支配するのはずばり「予言」。必ず当たる、決して外すことのない「予言」。 CCに集まった男女の心中にはこの「決して外すことのない予言」が重くのしかかることになる。 そして剣崎の推理も、この「予言」に対する考察を中心として展開される。 そういう意味では、この「特殊設定」はやはり作者の作戦勝ちと言っていい。前作の特殊設定が強烈すぎたため、何となく本作が地味に感じてしまうんだけど、本作もかなりのもの。 やはり、現代の本格ミステリーは「特殊設定」なしでは成立しないということなのだろう。 そして、終章。剣崎から語られる真相。他の皆さんの書かれているとおり、確かに一定の満足感は得られた。 ただ、どうもな・・・。手放しで喜べないというか、スッキリしない感覚を覚えたのも事実。 「動機」については、まぁ置いておくとしても(でも、正直不自然さは拭えない。剣崎がいみじくも語ったとおり、CCが解け警察が介入してきたとき、真犯人はどうするつもりだったのだろうか? 暴かれないという確信でもあったか)、アリバイにしても共犯者にしても、どうにも安易な取扱いになりすぎに思える。 作品の雰囲気としても、CC内でひとりひとり殺されるという状況にしては、どうにも緊張感がなさすぎる。サスペンス感を十分に出せる設定だけに、もう少し読み物としての面白さを出してもらいたかった。 ということで、世評ほど高い評価というわけではないかな、というところ。 |
No.1656 | 7点 | QJKJQ 佐藤究 |
(2021/08/23 21:53登録) 第62回江戸川乱歩賞受賞作。 作者はつい最近、「テスカトリポカ」で第165回の直木賞を受賞したことでも話題に。ということで本作を手に取った次第。単行本は2016年の発表。 ~猟奇殺人鬼一家の長女として育った、17歳の亜李亜。一家は秘密を共有しながらひっそりと暮らしていたが、ある日、兄の惨殺死体を発見してしまう。直後に母も姿を消し、亜李亜は父と取り残される。何が起こったのか探るうちに、亜李亜は自身の周りに違和感を覚え始め・・・~ こういう作品って、「合う人は合う。合わない人は合わない。」んだろうな(当たり前だ!) 個人的に読了後まず感じたのは、「乱歩賞っぽくない」。どなたかがメフィスト賞かと思った的なことを書かれてますが、確かにそういうテイストを感じた。 巻末の乱歩賞選評では今野敏氏が「・・・あり得ない設定だが、それを力づくで読ませる筆力がある」と称されている。その言葉にも頷けるところはある。(ここにも直木賞を受賞されるだけの片鱗はあるということだ) 好みでいえば「決して嫌いではない」。目の前の景色が徐々に歪んでいくと言えばいいのか、はたまた世界観が次々と移り変わっていくといえばいいのか。とにかく、こういうプロットの作品をうまく着地或いは収束させるのは難しい。 本作がうまい具合に収束させているのかと言えば、やや疑問符ではある。リアリティとは真反対の物語を紡いできたのだから、現実的な収束をつけるのか、ただそうするとサプライズ感が薄いことになる・・・ そういう意味では処女作としてはまずは合格点ではないかな。(審査員の辻村深月氏はこの辺りを「物足りない」と評されてますが・・・) いずれにしても、本作で「物語を紡げる力」、「読者を引きつける腕」については稀有な水準を見せていたということだと思う。文学作品は小説であれ、童話であれ、現実逃避できる仮想世界を描けることに大きな魅力があるのは確かなのだし、是非これからもミステリー(寄り)の作品を書いて欲しい。 |
No.1655 | 3点 | 四日間の不思議 A・A・ミルン |
(2021/07/31 20:33登録) 「くまのプーさん」で知られるA.Aミルンが書いたミステリーと言えば「赤い館の秘密」が有名だが、ミルンが発表したもうひとつの長編ミステリーが本作。(そういう意味では貴重) 原作は1927年の発表。 ~かつて暮らしていた邸宅に足をのばしたジェニー。そこで叔母の死体を発見した彼女は驚きのあまり、「凶器」の位置を変え、自分のイニシャルの入ったハンカチを落とし、さらに窓下には盛大に足跡を残してしまう。警察はジェニーを被害と加害の両面から捜すのだが、やがてくだされた真相は、ジェニーでさえ考えつかないものだった・・・~ これは・・・ミステリーというよりは「ドタバタ劇」だな。 ミステリーとしてのエキスだけを抜き出したなら、本作はせいぜい50ページほどの分量で収まる気がする。ということは、残りの300ページは「ドタバタ」を見せられる?ことになる。 これがなかなかダルい。 「赤い館の秘密」はかなり昔にジュブナイル版を読んだ気がするんだけど、もう少しミステリーっぽい面白さがあったような気がするんだけどな・・・ 「ガチガチの本格ミステリーが一番の好物」という読者の方なら、本作は是非ともスルーすべき作品だ。何らかのトリックが仕掛けられているという訳ではない。真相も正直、腰砕け的なもの。 巻末解説の森英俊氏は「癒し系ミステリー」と本作を評されているので、なにかに癒されたい方はどうぞ。 私自身の評価としては・・・高くはできんなぁー (ある意味、タイトルどおり「不思議」な小説) |
No.1654 | 6点 | ミステリークロック 貴志祐介 |
(2021/07/31 20:32登録) 防犯コンサルタント榎本と敏腕美人弁護士(?)青砥純子のコンビが活躍するシリーズ第四作。 単行本は「ミステリークロック」として一冊で刊行されていたが、文庫化に当たり分冊(「ミステリークロック」と「コロッサスの鉤爪」)されたものを読了。 2017年の発表。 ①「ゆるやかな自殺」=4編の中では一番「緩い」作品。舞台は暴力団の組事務所。鋼鉄のドアという超堅牢な密室が榎本の前に立ち塞がるのだが、解法は割と簡単っていうか、すぐにバレそうな気が・・・ ②「ミステリークロック」=分量でいえば最も長いのが本編。長いだけでなく、かなり細かく複雑なトリックを弄している。いくつもの「時計」が容疑者の前に「超堅牢なアリバイ」という密室を構成することとなる。でも、これは・・・視覚的にどうも浮かばないというか、こんなトリックを見破る榎本が逆に怖い。(「電波時計」の仕掛けなんて、よくこんなこと思いつくよなーというレベル) ③「鏡の国の殺人」=これもかなり拘ってる。拘ってるのは「監視カメラ」。「監視カメラ」に囲まれた密室の抜け穴を探すのが今回のテーマなんだけど、うーん。こりゃ読者では推理不可能だな。あと、途中登場するルイス・キャロル評論家のオッサンのキャラがかなり面白い。 ④「コロッサスの鉤爪」=これがNO.1だろう。今回の舞台は何と大海原。「音の密室」に囲まれた大海原っていうんだからスケールがでかい。トリックの鍵となるのはある〇〇なんだけど(一般人は知らんよなー)、そんなチンケなことは置いといて、「密室」という使い古されたテーマをここまでスケールアップした作者に拍手。ただ、これ成功するかな? 以上4編。 「密室」に拘り続ける本シリーズ。しかも、今までお目にかかったことのないような、作者独特の角度で作られる密室が新鮮だ 確かに、これは一般読者には推理不可能だし、想像がつきにくすぎるし、犯人がここまで「密室」に拘る理由は分からないし、いろいろな齟齬はあるだろう。 でもいいのだ。これが貴志祐介が書きたい「密室トリック」なんだろう。でもまあ、例えば「硝子のハンマー」や「鍵のかかった部屋」なんかに登場する密室と比べると、だいぶ無理矢理感は出てきたなというのが正直な感想。 いつまで本シリーズが続くか、いや続けられるか。ちょっと心配な感じ。 |
No.1653 | 5点 | 海妖丸事件 岡田秀文 |
(2021/07/31 20:31登録) 月輪龍太郎を探偵役とするシリーズの三作目。 今回は横浜~上海間を行く豪華客船が舞台。(いわゆる「船上ミステリー」だな) 2015年の発表。 ~凄惨な黒龍荘事件から一年、役所勤めの杉山は上海出張を命じられる。一方「月輪萬相談所」で探偵業を営む月輪とその助手・氷川蘭子は結婚し偶然にも杉山と同じ豪華客船「海妖丸」で新婚旅行に向かうことに。出港当日、横浜港の待合所では、伯爵夫人・貿易商・富豪など多士済々な乗客たちが揃う中、「上海ハ汝ラヲ死出ノ旅路トナラン」との不吉な予告状が届く・・・~ これは・・・船上ミステリーだし、やっぱり「ナイルに死す」当りを意識しているのかな? メインの連続殺人に加えて、宝石泥棒事件や脅迫事件などの脇筋が並行しているのも「ナイルにー」を意識してるっぽい。ただ、それらの脇筋は終章に達する前に解決してしまい、正直メインプロットに有機的にリンクしているとは言い難い。(単なる「賑やかし」的な意味合いしかない) 一番問題なのは、やはり、〇れか〇りトリック。さすがにこれはないだろう。 いくら明治時代とはいっても、あれしきの変〇で気付かない訳ないと思うのだが・・・。まぁ、こんな大掛かりな仕掛けとは分からなかったにせよ、ある登場人物があまりにも違和感たっぷりだから、ミステリーファンなら絶対にピンとくるレベルだろう。これはいただけない。 あと、前作の「黒龍荘の惨劇」の書評でも書いたけど、どうも筆致がねぇー 淡々としすぎなのが気になる。 あまりに仰々しいのもうるさいけど、ここまで癖がなさすぎるのも、どうにも盛り上がりに欠ける気がするし、主要キャラにしても、もう少し魅力的な肉付けが必要ではないかと感じる。 と、ここまで批判的な内容を書いてきたけど・・・って、特段褒めるところがないのが残念。 まっ、一言でいうなら、三作目で早くもネタ切れということかな。(そうではないことを祈る) |
No.1652 | 5点 | 東海道新幹線殺人事件 葵瞬一郎 |
(2021/07/01 20:53登録) 令和のご時世でこのタイトルなんて、かの西村御大でも付けないだろうよ。 でも、本サイトでの思わぬ評価を見て、手に取ることになったのだが・・・ 2017年発表。 ~新横浜⇔小田原間ですれ違った新幹線のぞみとひかりから、ほぼ同時に頭部切断死体が発見された。だが事件の異常さはそれだけに留まらず、頭部が互いにすげ替えられていたことが判明する。死体の上にあった「鬼は横道などせぬものを」という地文字のメッセージが意味するものとは。創作意欲を掻き立てる刺激を求めて、放浪を続ける人気ミステリー作家・朝倉聡太が難事件に挑む~ まずは本作の肝となる、トランク・新幹線を使ったアリバイトリックから。 他の方も触れているとおり、コペルニクス的発想の転換が光る。「頭部切断+頭部入れ替え」などという大掛かりな仕掛けなのだから普通は・・・という発想からの逆転。 終盤、探偵役の朝倉があっさりと解き明かす真相は、なんて言うんだろう・・・とっ散らかったパズルのピースがピッタリと嵌まるときの感覚とでも表現すべきか。 しかし、トランクの移動によるトリックなんて久しぶりだなぁー。当然「黒いトランク」を思い出す方が多いんだろうけど、個人的には島田荘司の「死者が飲む水」が一番近いのではないかと思う。(「死者が-」も終盤、殺害〇場に関する逆転の発想が解決の糸口となるからな) いやいや、冒頭でも書いたけど、令和の時代でも列車トリックはまだ創造可能ということなのかもしれない。 で、ここまで褒めてきたけど、正直なところ、一冊の読み物として「面白いか」と問われたなら、「面白くはない」と答えなくてはならない。 この書きっぷりはいくら何でもいただけない。無味乾燥とまでは言わないけど、編集者もこれでよくOK出したなと言いたいくらいだ。探偵役の朝倉・・・魅力度ゼロだ。 そして、フーダニットも工夫なさすぎだろ。勘の鋭い方なら、序盤で凡その察しがついてしまうほどの分かりやすさ。 中盤の捜査行にしても、読み飛ばしてもいいくらいだし・・・ ということで、本作はずばり「トリック一点集中」。それだけの作品。 |
No.1651 | 5点 | モノグラム殺人事件 ソフィー・ハナ |
(2021/07/01 20:52登録) クリスティの孫も「公認」したポワロシリーズの続編としての位置付けである本作。 出版社が白羽の矢を立てたソフィー・ハナは9冊のミステリーを上梓している現代英国の有名作家(とのこと) 2014年の発表。 ~名探偵エルキュール・ポワロはお気に入りの珈琲館で夕べのひと時を過ごしていた。灰色の脳細胞の束の間の休息。そこへひとりの半狂乱の女が駆け込んできた。どうやら誰かに追われているようだ。ポワロが事情を尋ねると意外な言葉が。彼女は「殺される予定」というのだ。しかも、その女はそれは当然の報いであり殺されたとしても決して捜査しないでと懇願し、夜の街へと姿を消した。同じ頃、ロンドンの一流ホテルで三人の男女が殺害された。すべての死体の口にはモノグラム付のカフスボタンが入れられていた!~ 本作。プロットがかなり錯綜している。 いや「錯綜」というよりは「混乱」と言う方がいいのか。巻末解説者はE.クリスピンの言葉を引用してクリスティの良さを「簡潔平明さ」と評されており、同時に本作には致命的にそれが欠けていることを残念がられている。 これは・・・そのとおり。 本作のポワロは原典以上に人が悪い。今回の相棒となるスコットランドヤードの若き刑事キャッチプールの指導のためと称して、事件の真相をなかなか詳らかにしないどころか、彼の推理力を試すかのように意味不明な言動を行っていく。 「高級ホテルで起こる三人の殺人事件」⇒「動機をめぐり英国の小村での困難な捜査」⇒「浮かび上がる過去の事件に纏わる動機」という、冒頭から中盤までの展開はまだ良かった。 ただ、例えば魅力的な物証(モノグラム付のカフスボタンやきれいに整頓された死体)も結局ダイレクトには真相と結びついておらず、どうにも「クリスティらしく飾っただけ」という印象が拭えない。 それと、そう。楽しくないのだ。読んでて。 それが一番の不満点かな。 やっぱり、クリスティは偉大だった! そのことをなお一層意識させられたのが、一番の収穫ということかな。まだ未読作品はあるのだから、素直にクリスティの作品を手に取ればいいのだ。 |
No.1650 | 6点 | ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで 真梨幸子 |
(2021/07/01 20:51登録) 舞台は業界でも老舗の「万両百貨店」。その中でも特に優秀な社員が集められた『外商部』! お客様のためなら、「ゆりかごから墓場まで」用意することも辞さない。まさにプロの営業職。そんな方々が巻き込まれる事件の数々を描く連作短編集。 2018年の発表。 ①「タニマチ」=その名も「熱海乙女歌劇団」の冴えないメンバーを応援するコアな団体。そんな冴えない団体のメンバーは実は・・・。そして、本作の主人公「大塚佐知子」は更なるタニマチを探して・・・ ②「トイチ」=作中でも触れられてるが、「トイチ」とは法外な利息のことではなく、百貨店の隠語で「上客」のことを指す(らしい)。初めてデパチカで働くことになった三十路女性をめぐるあれやこれやが本編の中身。そして、周りの人々も徐々に巻き込まれていくことに・・・ ③「インゴ」=大事に育てたはずの娘が妙な方向にねじ曲がっていく・・・。そんな女性もひょんなことから、万両百貨店のデパチカへ派遣されることに・・・。②の続きで妙なことになっているデパチカでまたまた事件は起こる。 ④「イッピン」=外商部は某有名芸能人の話し相手にもなる! そんなことも現実には起こるんだろうか? そんな我儘芸能人がスキャンダルのすえ徐々に狂っていく。そして、最後に明かされる「イッピン」とは・・・これ? ⑤「ゾンビ」=桁違いの金持ちの気持ちはよく分からん、って思わせる一編。そんな世間の感覚とかけ離れた相手も外商部にとっては一番の上客なわけで。 ⑥「ニンビー」=連作の終盤に来て不穏な空気が!って感じの第6編。「ニンビー」=not in my back yardということで、白金にある事故物件がクローズアップされる。この事故物件に纏わる過去の一家心中事件に大塚佐知子が関わっているらしい・・・ ⑦「マネキン」=デパートに派遣された売り子(死語?)さんのこと。珍しいほどの美女のマネキンが失踪。事件に巻き込まれたようなのだが、⑥の事件も関わっているらしく・・・ラストスパートへ ⑧「コドク」=「孤独」ではなく「蟲毒」の意。外商のことを「蟲毒」と称しているのだが、そんなにスゴイ職業なんだろうか? 一応、連作の結末が付く。 以上8編。 プロット&仕掛けは面白いと思った。連作らしく徐々に深まった謎が終盤にかけ、一気に解きほぐされ、頭の中の霧が晴れていく感覚。それは本作でも味わうことは可能。 ただ、もうひと捻りあればなぁーという気にはなった。特に大塚佐知子については、”黒い疑惑”が徐々に高まっていただけに、更なるサプライズがあっても良かったな。 まぁ全般的には水準級の面白さはあるという評価。 |
No.1649 | 6点 | ロードサイド・クロス ジェフリー・ディーヴァー |
(2021/06/08 20:21登録) キネティクスの達人キャサリン・ダンスシリーズの二作目。 前作の後日談も関わってくる今回の事件は、新しい犯罪の形を示したもののようだが・・・ 2010年の発表。 ~路傍に立てられた死者を弔う十字架・・・刻まれた死の日付は明日。そして問題の日、十字架に名の刻まれた女子高生が命を狙われ、九死に一生を得た。事件は連続殺人未遂に発展。被害者はいずれもネットいじめに加担しており、いじめを受けた少年は失踪していた。尋問の天才キャサリン・ダンスは、少年の行方を追うのだが・・・~ キャサリン・ダンスシリーズ二番目の事件は、最初の事件が解決を見た興奮も冷めやらぬ間に発生した。 今回の戦場は、SNS(主にブログだけど)とネットゲーム。 10年前だと最新の舞台だったのかもしれないけど、今となってはやや古臭さを感じてしまうところはやむなし。 ”尋問の天才”の異名を持つダンスにとっても、ネットの世界は門外漢であり、得意技を封じられたなかでの捜査にいつにもまして苦悩することとなる。 そんなダンスに今回救いの手を差し伸べるのが、カリフォルニア大学教授にしてネット世界に精通するJ.ボーリング。物語のなかでは、ダンス⇔オニールと微妙な三角関係をもたらすことになる。 作者の作品に対しては、個人的に「疾走感」を求めてしまうのだが、本作も前作同様、この「疾走感」が感じられないのがどうもなぁ・・・ 特に、今回は当初から犯人と目される人物の「捨て筋」感が半端ないところが目に付いてしまう。 物語の中盤、予想通りに「彼」が犯人でないことに気付くわけだけど、そうなるとそれまでのダンスたちの捜査行がなぁー。どうにも無駄なものを読まされたように思えてしまう。(もちろん伏線は張られているのだが・・・) で、今回の真犯人。うーん。魅力なさすぎ。 ライムシリーズならば、「コフィンダンサー」然り「ウオッチメイカー」然り、実に恐ろしく魅力的な犯人役が目白押しなんだけど、それに比べると・・・小粒感が半端ない。 もちろん水準級の面白さは持ち合わせていることは事実。でも、読者は期待してしまうものなんだよ。 (他の方も指摘されてるとおり、安楽死事件についてももう少し本筋と絡んでくるかと思ったけど・・・) |
No.1648 | 5点 | 四季 冬 森博嗣 |
(2021/06/08 20:20登録) 「四季」四部作もついに最終作。タイトルは当然に「冬」。 真賀田四季をめぐる物語は一体どんな結末を迎えるのか? それは果たして私の理解の範疇なのか? 2004年の発表。 ~「それでも、人は、類型の中に夢を見ることが可能です」四季はそう言った。生も死も、時間という概念をも自らの中で解体し再構築し、新たな価値を与える彼女。超然とありつづけながら、成熟する天才の内側を、ある殺人事件を通して描く。作者のひとつの到達点であり新たな作品世界の入口ともなる四部作完結編~ うーん。『よく分からん』 以上! てな具合で書評を終えてもいいくらいの作品だった。 これは真賀田四季の頭の中なのか、内面なのか、はたまた作者自身の頭の中の光景なのか? 平々凡々たる私の頭では、なんとも曖昧模糊とした感覚でしかない。 終章の四季と犀川の場面。 これは時間軸としては一体どうなっているのか? 「今」なのか、「100年後(?)」なのか、単に四季の想像の産物なのか・・・ それでも実に教唆に富む言葉を四季は放っていく。 『そもそも、生きていることの方が異常なのです。死んでいることが本来で、生きているというのは、そうですね、機械が故障しているような状態。生命なんて、バグです・・・』 だそうです。でも、何となく頷けるような気もしたりして・・・ これで一応、彼女をめぐる物語には一応のピリオドが打たれる。そして、紹介文にもあるとおり、新しい作品世界が始まることとなる。 我々読者は、作者の大きな手のひらのなかで弄ばれる存在のよう。いや、次々と作者が制作したフィルムを見せられる「ゲスト」というべきか。 いずれにしても次のステージへ進むことにしようか・・・ (よく分からん書評でスミマセン) |
No.1647 | 5点 | 菩提樹荘の殺人 有栖川有栖 |
(2021/06/08 20:19登録) 「火村&アリス」シリーズの数ある短編集のうちの一冊。 作者があとがきで書いているとおり、収録された四作には「若さ」という共通のモチーフがある・・・とのこと。 2013年発表。 ①「アポロンのナイフ」=東京都内で起こった美少年による連続殺人事件。その美少年が大阪でも殺人事件を? という内容で引っ張るのだが、ラストは割と意外な展開に。でも、途中から火村がこの人物にえらく拘ってたから、凡その察しはついてしまう。 ②「雛人形を笑え」=いかにも大阪らしい(?)。お笑いコンビ(しかも男女コンビ)の片割れが殺害される事件が発生。「オチ」が決まるかどうかがプロットの肝というところからして”いかにも”。(時期からして南海キャンディーズ当りがモデル?違うか・・・) ③「探偵、青の時代」=名探偵・火村英生の「エピソード・ゼロ」的な一編。学生時代から火村は変人だったと思わせる一方、「若いっていいよなぁー」っていうノスタルジイを感じさせる。でもそれだけと言えばそれだけ。 ④「菩提樹荘の殺人」=齢53にして30代半ばにしか見えないという「アンチエイジングの寵児」が別荘で殺害される。途中から容疑者は四人に絞られるわけだが、真犯人を特定する「鍵」がまさかアレとは・・・。アレがこっそり伏線だったんだね・・・。でもそれだけと言えばそれだけ。 以上4編。 毎度ながら安定感は半端ないこのシリーズ。このシリーズ作品の書評を書くと、いつもこんな感じになってしまう。 決して突き抜けるような出来はなく、いつも平均点くらいの評価。 でもこれってかなり難しいことなのかもしれない。多くのミステリファンが安心して楽しめる短編作品。あるようであまりない(ような気もする)。 でもねぇ・・・。せっかくだから、火村にももう少し痺れるような謎解きの場を与えてあげてもいいのではないでしょうか。本作も、馴染みの大阪府警や兵庫県警の面々、そして名パートナーである有栖に囲まれ・・・っていう環境だからね。この辺からして、平均点に落ち着く原因なんだろう。 (ベストは④かな。他もそれほど差はない。本シリーズって関西の隠れた名所を紹介してくれるんで、そういう意味ではガイドブック的機能もあるように思う。今は関西行けないけどな・・・) |
No.1646 | 6点 | 四つの兇器 ジョン・ディクスン・カー |
(2021/05/13 22:21登録) 全五作から成るアンリ・バンコランを探偵役とするシリーズの最終作。他の方も触れてますが、四作目となる「蝋人形の館」(1932年)から5年のタイムラグを経て、その間すでにフェル博士とH・Mもすでに登場する中でのバンコランの再登板という状況。そこにはいろいろと事情があったようですが・・・ 1937年の発表。原題は“The Four False Weapon”(→四つの誤った凶器) ~依頼人であるラルフ・ダグラスと高級娼婦ローズの関係を清算すべく青年弁護士リチャードがパリ近郊の別宅に到着したとき、娼婦はすでに寝室でこと切れていた。死体発見現場からはカミソリとピストルと睡眠薬、そして短剣が見つかる。過剰に配置された凶器は何を意味するのか。不可能犯罪の巨匠カーの最初期を彩った名探偵アンリ・バンコランの最後の事件を描いた長編~ カーらしく中身が詰め込まれ過ぎて、ややこしくなっている感がある。いろんな要素を一度に、一か所に詰め込み過ぎたせいだろう。 でもまぁそれがカーの良さには違いない。 今回、創元文庫の新訳版で読了したわけだが、第14章から第15章にかけてのバンコランの謎解き、”多すぎる凶器”や謎のレインコートの男など、バラバラに配置された要素が、彼の叡智によって解きほぐされる刹那。 確かにそこには往年のカーの腕力が込められていた。 でも待てよ、まだ残りのページ多くない?って思ってると炸裂するドンデン返し。 最終的な真相は更にややこしく錯綜している。 複数の人間が偶然にもバラバラな思いで、バラバラな悪事を働く、そこへ更に予想外の人物の要素まで加わる・・・ そりゃ3人が関係してるんだから、ややこしくなるのは間違いなし。 それを見事なまでに解き明かすバンコラン。よく言えば「快刀乱麻」かもしれないけど、悪く言えば「読者には推理不能」という感想になるのはやむなし。 個人的には十分面白かったという感想。けど、あまりにも偶然の要素が強すぎるって思う読者は多いと思う。 それに、バンコランのアクが抜けすぎてるのも不満・・・なのかも! いずれにしても、バンコランを主要キャラクターにしなかったのは作者の英断、かもね。 |
No.1645 | 6点 | 四季 秋 森博嗣 |
(2021/05/13 22:20登録) 時は流れ、「すべてがFになる」(=妃真加島での事件)以後の世界が描かれる本作。 「秋」といえば『実りの秋』となるのか・・・? 2004年の発表。 ~妃真加島で再び起きた殺人事件。その後、姿を消した四季を人はさまざまに噂した。現場に居合わせた西之園萌絵は、不在の四季の存在を意識せずにはいられなかった・・・。犀川准教授が読み解いたメッセージに導かれ、ふたりは今一度彼女との接触を試みる。四季の知られざる一面を鮮やかに描く、感動の第三弾~ なるほど・・・ シリーズファンにとって、本作はまさに“ボーナス・トラック”的な一冊だったんだな。 「犀川と萌絵」、「保呂草と各務」、「紅子と林」、「世津子と祖父江」などなど、これまでのシリーズに登場してきた主要登場人物たちの関係性、更には作者にうまいこと(?)はぐらかされてきた時間軸が鮮やかにお披露目されることになる。 個人的にいうと、vシリーズの異端作「捩れ屋敷の利鈍」の伏線がここで綺麗に回収されたことに感動。 まぁ、ネタバレサイトで凡その「仕掛け」は理解していたわけだけど、これは目の前に示されてみると、やはり「鮮やか」という一言。 あと他の方も書かれてますが、終盤での紅子と萌絵の出会い。「すべてがF」から順に読み継いできた読者としては、ただただ「万感の思い」(!) 本作でもうひとつ感慨深かったのが、萌絵の成長ぶり。 シリーズ当初、二十歳そこそこの世間知らずのお嬢さまだった萌絵。当時はただ自分自身の意見を表明しさえすればよかった「昔」、そして周りの歩調に合わせ、人生の後輩たちの成長にも目配りをしなくてはいけなくなった「今」 当たり前のことだけど、こうやって人は年を重ね、成長していくんだよなぁ・・・という思いを今さらながら強く考えさせられた。「文学的」という形容詞とは最も遠いはずの理系ミステリーで、こういうことを内省させられるなんてなぁ・・・ ということで次作はシリーズ最終章の「冬」。 そして作品世界は更に広がっていく。 |
No.1644 | 5点 | 火のないところに煙は 芦沢央 |
(2021/05/13 22:19登録) ~『神楽坂を舞台に怪談を書きませんか』・・・突然の依頼に作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は事件を小説として発表することで情報を集めようとするが・・・~ 企みに満ちた連作形式の短編集。 2018年の発表。 ①「染み」=神楽坂にある“よく当たると評判の占い師”に占ってもらった恋人同士。そこで不吉な占いを聞いた男性はその後態度を豹変させる。そしてついには最悪の結果が・・・。最初から不吉な展開。 ②「お祓いを頼む女」=「私」の知人である作家。彼女の元へ突如かかってきた電話。その電話はまるで憑かれたような女が、「お祓いをしてくれる人を紹介して欲しい」と懇願してくる。でも、女が語る身の上話はどうも・・・ ③「妄言」=最初はよくある隣人トラブルの話かと思いきや、かなりヘビイな内容だった。こんな奴が隣に住んでたら、それこそ不幸としか言いようがない。そして今回も最悪の結末が待ち受ける。 ④「助けてって言ったのに」=今回もある「家」が舞台。結婚して、夫の実家で義母と同居を始めた途端、悪夢にうなされることになる新妻。その夢は何と、義母もうなされ続けた悪夢だった・・・。そしてまたも不幸な結末が。 ⑤「誰かの怪異」=今回はとある集合住宅が舞台。優良物件に住めたと思った瞬間、不幸のどん底に落とされる学生と、その隣人の女性。知人の助けを借り、盛り塩と御札で結界を張ったのだが、またしても予想外の展開が。 ⑥「禁忌」=本編は単行本化に当たって書き下ろされたもの。①~⑤までの連作をまとめて、つながりを持たせるための最終章。 以上5編+α なかなか器用だね、作者は。 「怪談」(と言っても、ちょっと怖い話という程度だが)という体裁を借り、しかも①⇒②⇒③というふうに話に繋がりをつけながら徐々に読者の心を煽っていくという展開。ここまで技巧的なプロットは最近お目にかかってないと思う。 でも、ちょっと器用貧乏なところはあるかな。 確かに心は多少ざわざわするけど、揺さぶられるというほどでもない。よく言えば「ほどよい怖さ」かもしれないけど、悪く言えば「中途半端」ということになる。 もう少しビジュアル的にインパクトのある「怖さ」、或いはにじみ出るような「悪意」というようなものがあれば、よかったのかもしれない。 |
No.1643 | 5点 | 探偵術教えます パーシヴァル・ワイルド |
(2021/04/29 22:21登録) ~お屋敷付の運転手モーランは通信教育の探偵講座を受講中。気分はすっかり名探偵の彼は、習い覚えた探偵術を試してみたくてたまらない。ところが、シロウト探偵の暴走が毎回とんでもない騒動を引き起こすユーモア・ミステリ連作集~ 米EQMM誌に1943年から1947年まで掲載された後、同年に作品化されたもの。 ①「P.モーランの尾行術」=実に不親切な通信講座とモーランのやり取りから始まり、実際の事件発生⇒何だかんだあってなぜか解決、という本作の道筋が示される初っ端の作品。途中が・・・よく分からん。 ②「P.モーランの推理法」=作中ではなぜかモーランは「推理」ではなく、「論理」「論理」と間違い続ける。でもラストのどんでん返しっていうか、「結果オーライ」の展開がなかなか楽しい。 ③「P.モーランと放火犯」=これまたドタバタ劇(死語?)が展開される第3編。なのだが、やはり最後は上手い具合に解決してしまうモーラン。結局、犯人は何をやりたかったのかイマイチ不明。 ④「P.モーランのホテル探偵」=ホテル付の探偵として臨時に雇われることとなったモーランに再びドタバタ劇が巻き起こる。これもよく分からなかったんだけど、最後にはなぜか解決してた! なぜ? ⑤「P.モーランと脅迫状」=町の教会に届いた1通の脅迫状を巡る探偵譚。当然、誰がなぜ出したのかが問題になるわけで・・・。そんなこんなでモーランのああでもないこうでもない推理が展開される。 ⑥「P.モーランと消えたダイヤモンド」=大勢の人の目の前で忽然と消えたダイヤモンド。今回モーランの助手役となる女性=マリリンは有名ミステリー作家たちの作品を参考に謎を解こうとするのだが、それが間違いの始まり。迷走に告ぐ迷走で、依頼人は何とかモーランたちの暴走を止めようとする。ハチャメチャ。 ⑦「P.モーラン、指紋の専門家」=これはラストのツイストが効いた最終譚。まさか通信講座のやり取りが最後になって効いてくるとは・・・ 以上7編。 これって、やっぱり「ユーモア・ミステリー」なんだろうな。ユーモアという言葉自体死語だけど、アメリカンジョークみたいな雰囲気の「ユーモア」を読ませられても、なかなか大爆笑というわけにはいかなかった。 ただ、さすがに筆達者な作者だけあって、なかなか小気味いいプロットではある。 通信講座を巡るやり取りもなかなか。モーランが単語の間違いを連発していた前半。後半はなんと講師役の主任警部までも綴りを間違うことに・・・。こんなこともアメリカン・ジョーク? |
No.1642 | 5点 | 四季 夏 森博嗣 |
(2021/04/29 22:20登録) 「四季」四部作の二作目は当然「夏」。四季も成長して十三歳・・・。 目くるめく森サーガはどのような展開をしていくのか。 2003年発表。 ~十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得て、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだことは? 孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾~ 本作にはうわべだけの書評なんて必要ない。いや無意味だろう。 以上、終了。 ・・・いやいや、さすがにそれでは気が引ける(何に?)、ということで雑感だけを記す。 本作はいわゆるミステリーでは全くない。 ラストに衝撃的な展開が待ち受けてはいるが、中途は目に見える形では「謎」の提示もなく、事件めいた事象も起こらない。ただ、ひたすら、四季の目で捉えた事象、話した言葉、頭の中のイメージが語られていくだけ。 それでも。読者は揺さぶられる。圧倒的な世界観に。 今回のサブタイトルはRed Summer! 確かに「Red」。 四季にとっての「生」とは、はたまた「死」とは。人は「死ぬ」のではない。「死ななければならない」のだ。それが彼女にとっての唯一無二の帰結、ということなのだろうか? 今回は前作に引き続きとなる紅子、各務のほか、保呂草も登場する。時系列の壁を越えて登場する森サーガの役者(登場人物)たち。まるで彼らの群像劇のようだという思いを強くした。 誘拐された(?)四季と彼女を発見した林(この書き方って叙述トリックですか?)のやり取りがなかなか秀逸。紅子とかつて夫婦だったことを一瞬にして四季に言い当てられた林。結婚指輪を外してない林が「外れないだけ」とうそぶくのに対して、「嘘」「緩そうだもの・・・」って返す13歳。何か心に残る場面だ・・・ |
No.1641 | 5点 | 烙印の森 大沢在昌 |
(2021/04/29 22:19登録) ノンシリーズ・ハードボイルド。(ノワールかもしれないが・・・) こういう小説を書かせれば安定感十分! 作者の比較的初期の作品。 ということで単行本は1992年の発表。 ~芝浦の人気のない運河沿いに佇むバー「ポッド」。集まるのは裏稼業に携わる者ばかり。元傭兵のマスター、盗聴のプロ、ニューハーフのボディガード、そして私は犯罪現場専門のカメラマン。特に殺人現場に拘るのは、ある目的で伝説の殺し屋”フクロウ”を探し当てるためだ。ある晩、ついに命を狙われ始めた私は裏社会に生きる「ポッド」の連中と手を組むことに。驚愕のラストが待ち受ける!~ 作者というと、どうしても新宿、歌舞伎町の薄暗い街角が思い浮かぶ。 しかし、「新宿鮫」の人気シリーズ化以前である本作の舞台は六本木・西麻布界隈。どちらかというと、薄暗いというよりは「きらびやか」な雰囲気。 そのせいなのか、どうもしっくりこないというか、ややうわべ感が強いような気がしてしまう。 伝説の殺し屋「フクロウ」を巡って、決してカタギでない登場人物たちが繰り広げるドラマが本作のテーマ。 主人公の「メジロー」の秘められた過去が明かされる中盤以降、物語はスピードを増し、紹介文でも触れている驚愕のラストへ突入する。 ただ、これが「驚愕」かというと大いに疑問ではある。 全体的に、「新宿鮫」以降に触れてきた人物たちの背負っている「因果」に比べれば、どうにも軽いような気がするな・・・ まっでも、それほど穴のない作品に仕上がっているのは事実。 さすがにまとめ方は若いころから熟知していたのだろう。一定の満足感は得られるはず。 ラストになってタイトル(=烙印)の意味が判明するところも読みどころかな。 |
No.1640 | 5点 | 刑事の慟哭 下村敦史 |
(2021/04/15 22:27登録) 「小説推理」誌に2018年6月号から2019年1月号まで連載された作品。 短い期間に矢継ぎ早に作品を発表する作者だが、警察小説は初めてかな? 単行本は2019年の発表。 ~新宿署の刑事・田丸は、本部の方針に反して連続殺人事件の捜査を行い、真犯人を挙げた。結果、組織を敵に回し署内で厄介者扱いされていた。そんな中、管内でOLの絞殺体が見つかった。捜査の主軸から外された田丸は、帰宅途中に歌舞伎町の人気ホストの刺殺体を発見する。ふたりの思いがけない共通点に気付き、その筋を追うことを会議で提案するも叶わず、相棒の神無木と密かに捜査を行うが・・・~ 何か中途半端な警察小説だな・・・というのが最初の感想。 紹介文を読むと、いかにもはみ出し者で威勢のいい刑事が、警察組織を向こうに回して八面六臂、大活躍の末に真犯人逮捕! スゲエー っていう展開なのかなと思うかもしれない。 実際はかなりジメジメした警察小説。 組織に反したことを後悔したり反省したり、逆に正しいことをしたと開き直ったり、なのだ。 数多の警察小説で描かれるとおり、警察組織ほどタテ社会そして複雑な人間模様を持つ組織はない(実際はどうか知らないけどね)。そんな組織のなかで逆らった行動を取ることのリスクをしみじみと感じさせられる。 まぁ私もとある組織の中で生きるはしくれだが、組織の難しさを感じる日々・・・ うまく組織の中を亘っていける奴は羨ましいことこの上ない。 って、いやいや、自分の組織の中での話なんてどうでもよかった。 本筋は・・・うーん。最初に書いたとおり、どうにも中途半端だ。終盤、唐突に真犯人が判明するのもどうかと思うし、ラストシーンも感動するというよりは、エッ!っていう感覚。これが「慟哭」ということなのかな?よく分からん。 作者も書きすぎじゃないかな。アイデアがいろいろあるのかもしれないけど、この「薄味」はやはりいただけないと思う。 (タイトルだけみると薬丸岳の作品っぽい。中味も意識してるのかな?) |