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ミステリの祭典

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ロードサイド・クロス
キャサリン・ダンスシリーズ

作家 ジェフリー・ディーヴァー
出版日2010年10月
平均点6.33点
書評数6人

No.6 6点 E-BANKER
(2021/06/08 20:21登録)
キネティクスの達人キャサリン・ダンスシリーズの二作目。
前作の後日談も関わってくる今回の事件は、新しい犯罪の形を示したもののようだが・・・
2010年の発表。

~路傍に立てられた死者を弔う十字架・・・刻まれた死の日付は明日。そして問題の日、十字架に名の刻まれた女子高生が命を狙われ、九死に一生を得た。事件は連続殺人未遂に発展。被害者はいずれもネットいじめに加担しており、いじめを受けた少年は失踪していた。尋問の天才キャサリン・ダンスは、少年の行方を追うのだが・・・~

キャサリン・ダンスシリーズ二番目の事件は、最初の事件が解決を見た興奮も冷めやらぬ間に発生した。
今回の戦場は、SNS(主にブログだけど)とネットゲーム。
10年前だと最新の舞台だったのかもしれないけど、今となってはやや古臭さを感じてしまうところはやむなし。
”尋問の天才”の異名を持つダンスにとっても、ネットの世界は門外漢であり、得意技を封じられたなかでの捜査にいつにもまして苦悩することとなる。
そんなダンスに今回救いの手を差し伸べるのが、カリフォルニア大学教授にしてネット世界に精通するJ.ボーリング。物語のなかでは、ダンス⇔オニールと微妙な三角関係をもたらすことになる。

作者の作品に対しては、個人的に「疾走感」を求めてしまうのだが、本作も前作同様、この「疾走感」が感じられないのがどうもなぁ・・・
特に、今回は当初から犯人と目される人物の「捨て筋」感が半端ないところが目に付いてしまう。
物語の中盤、予想通りに「彼」が犯人でないことに気付くわけだけど、そうなるとそれまでのダンスたちの捜査行がなぁー。どうにも無駄なものを読まされたように思えてしまう。(もちろん伏線は張られているのだが・・・)

で、今回の真犯人。うーん。魅力なさすぎ。
ライムシリーズならば、「コフィンダンサー」然り「ウオッチメイカー」然り、実に恐ろしく魅力的な犯人役が目白押しなんだけど、それに比べると・・・小粒感が半端ない。
もちろん水準級の面白さは持ち合わせていることは事実。でも、読者は期待してしまうものなんだよ。
(他の方も指摘されてるとおり、安楽死事件についてももう少し本筋と絡んでくるかと思ったけど・・・)

No.5 5点 レッドキング
(2021/05/17 22:59登録)
ダンスシリーズ第二弾。人気ブログのレス書込みでサイコ殺人鬼に仕立られ、逃亡しながら復讐を繰返すオタク少年。「ロードサイド・クロス」て題、何かカーチェイスみたいの連想したが、道路沿いの手作り十字架・・我が国なら路肩の地蔵か野仏・・の事で、犯人のサイコキラー性宣伝の象徴だった。貧困家庭に育ち、スクールカーストでも最下層のニキビ面少年のヒール風味は、「エンプティ・チェア」の「昆虫少年」焼直しで、当然ツイスト展開はミエミエだが、十八番の二重どんでん返しに、ヒロイン母殺人犯疑惑ネタのオマケも付き、期待通りの面白さ。ただ、ダンス「透視力」の必殺具合がいまいち・・・ケムラーともかくベムラーに効かないスペシウム光線て如何なものか・・

No.4 7点 Tetchy
(2013/12/01 19:18登録)
今回のテーマは年々過熱するSNSの書き込みに対する誹謗中傷だ。ネット炎上という言葉が一般的になって久しいが、匿名性ゆえの舌に衣を着せない、読むに堪えない悪意の塊のような批判がその人の人生を狂わせることも珍しくなくなってきた。
本書でもチルトン・レポートなるブログが数々のスレッドを立ち上げ、そこから不特定多数の人間が、ある人のご近所で起きた事件について自由気ままに語り、対象者を槍玉に挙げる。さらにそこから更なる中傷が生まれ、拡散していく。そんな騒動の渦中にいつの間にか担ぎ出された人は現実世界でも周囲から嫌がらせを受け、日々の生活に昏い翳を落とすようになる。
まさにネットが生んだ現代的なイジメだ。しかもその範囲が自分の居住圏という限られたコミュニティではなく、世界中に広がっていくのがこの上なく恐ろしい。

また今回はさらに踏み込んでオンラインゲームの世界にもダンスは介入する。昨今ではネトゲ廃人なる言語も生まれたように、日がな一日中ゲームの世界に浸って世俗との交流を絶つ者や、ウェブマネーを巡ってのトラブルなど、決してポジティヴに捉えられることのないオンラインゲームだが、ディーヴァーの筆致は決して否定的でなく、寧ろそういう世界の存在を認めている節がある。
しかしまさかゲームの登場人物の戦い方をキネシクスで判断して、性格を把握するとは思わなかったが。

前作でも思ったが“人間噓発見器”の異名を引っ提げて『ウォッチメイカー』で登場したダンスの前では誰もが嘘を付けないと思わされていたが、彼女のシリーズになるとなぜかその万能性が損なわれる。
この辺のギャップに実に戸惑ってしまう.
マシーンのような敏腕ぶりを発揮するのではなく、素人にも見透かされ、切り返されるようなミスを犯す。
さらに未亡人である一人の女性として2人の男性に心を揺さぶられる。ダンスが女性であることが、2人の子供を抱えて働く女性であることが父親不在の不安に心惑わされて、それが捜査にも影響を与えていくようにもなる。

ディーヴァー作品の大黒柱的存在であるライムシリーズの犯罪が個人ではなく、もはや不特定多数を標的にしたテロ事件へと次第にスケールが大きくなっているのに対し、ダンスのこのシリーズはまだ2作目と云う事もあるせいか、1人の人間がある個人に対して行った犯罪と、限られた範囲での物語であることが同じ殺人事件を扱いながらも種類の異なる特色になるだろう。恐らくダンスのシリーズも回を重ねるうちに殺人事件から無差別テロへ発展していくかもしれないが、そうであったとしても物証解析のライム、精神解析のダンスという区分けがある限り、その深みは増すに違いない。

さて今回はウェブ社会がもたらした誰もが情報発信者となり、評論家となり、またはご意見番となるこのご時世に起こる情報による冤罪や苛めについて手痛い警告が成されている。それは悪意をもって誹謗中傷し、騒動を煽るようなことをしてはならないという数億人のブロガーに対する警鐘であると同時に、個人の主観で語られるがゆえに記事を読む人々は決してそれを鵜呑みにせず、自分の頭で判断し、考えることが必要だということをも強く促している。
こうやって読んだ本の感想をウェブで挙げている我々も同じような過ちを犯さぬよう、感想を挙げる時は感情的にならずに、また他者の感想はあくまで参考程度に読むなど、気を付けていきたいものだ。

No.3 8点 HORNET
(2012/12/23 17:35登録)
(ネタバレ気味だがこの作者の作品読者なら折込済み)
キャサリン・ダンス主役の2作目(?)。ネットいじめにあった少年が犯人とされる殺人事件で、その少年の行方を追う中で明らかになってくる真相。「ネットいじめ」という世相を反映したテーマがまずよかった。国や人種が違っても、いきつく問題は同じなのだと思うと、結局人間の本質は同じなのだとつくづく感じた。氏お決まりの終盤のどんでん返しも、「お決まり」だけに予想もできたし、しかも指し示す犯人もそうだったが、作品の魅力がそこに終始しているわけではないのでOK。主人公ダンスの捜査・思考の過程と、母親との微妙な距離感の複線が作品の真骨頂。リンカーン・ライムシリーズ(と言うのかこれは?)の中でも自分は屈指の名作だと感じた。

No.2 6点 あびびび
(2012/03/18 15:27登録)
終盤はどんでん返しの連発!そんな作家なので構えて読んでいたが、案外そうでもなかった。
今回は「青い虚空」、「ソウル・コレクター」に次ぐパソコン関係の事件を、人間の表情や動作で心理状態を読み取る「キネシクス」専門の捜査官・キャサリン・ダンスが追う。

もうひとつ、自分の母親(看護婦)が患者を安楽死させたのかどうかという事件も絡んで内容を膨らませているが、全体的に小粒の感じがした。

No.1 6点 kanamori
(2010/12/18 16:41登録)
”人間嘘発見器”キャサリン・ダンス特別捜査官シリーズの2作目。
「掲示板」サイトによるネットいじめが関係する殺人予告事件がメイン・ストーリー。交通事故被害者を慰霊するための薔薇で飾られた「路肩の十字架」が殺人予告に利用され、それがタイトルの意味。
どうしても、どんでん返しが約束されている前提で読むことになるので、今回は、作者が終盤近くまで引っ張るある構図の意図が判りやすくなっているように思います。ダンスの母親に関する安楽死疑惑というサブ・ストーリーはもっと膨らませてもよかった。

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