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ミステリの祭典

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怨み籠の密室
海老原浩一シリーズ

作家 小島正樹
出版日2021年02月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 7点 人並由真
(2021/12/11 15:14登録)
(ネタバレなし)
 昭和61年3月。埼玉県在住の大学生・飛渡優哉は、少し前にガンで死んだ父・草悟の末期の言葉「謂名村……殺され」が気にかかり、故郷である岐阜県の謂名村に赴く。そこは優哉が16年前に死別した母・貴子と、幼児期を過ごした記憶のある村だった。だが村では、伯父である医師・飛渡文雄ほか大半の村民が、なぜか優哉に冷淡だった。そんななか、村の美濃焼の工房の密室の中で、ある人物の首吊り死体が発見される。事態が混迷するなか、優哉は兄貴分といえる名探偵・海老原浩一に支援を求めるが。

 いや、エライ面白かった。
 小島作品は5~10作程度、しかし海老原シリーズは先の『呪い殺しの村』しか読んでないという浅い評者だが、これは十分に単品でも楽しめた。
 優哉と海老原はなにか別の作品の事件(もちろん評者はたぶん未読)で、すでに面識があるらしいが、特にそっちのネタバレにもなってない。
 
 文庫書き下ろしで350ページ強と、本の厚みはさほどでもないが、作中のイベントは目白押しでストーリーはグイグイ進む。例えるならカーのB級……というより一流半の作品(『囁く影』とか)、ああいうのに近い感じであった。
 
 謎解きパズラーとしては、なるほど確かにネタの盛り込み過剰だが、それ自体は個人的にはサービス満点の趣向として堪能する。ただしさすがに最後の(中略)殺人ネタは要らなかった、というか、こればっかは明らかに蛇足だよね?

 ページ数が残り少なくなる中、事件の全貌がなかなか見えない、あのワクワク感も満喫。
 とはいえ豪快な密室トリック(あれやこれや)はともかく、真犯人の文芸設定はさすがに無理筋でしょ、という思いが……。絶対に当人は(中略)。
 
 存分に楽しめたのは間違いないのだが、なんか戦後すぐに「宝石」系でデビューしたトリック派ミステリ作家の昭和30年台作品みたいな、ある種のラフファイト的な感興を感じた。もしかしたら、読み手の許容度を試されるような作品かもしれん。まあ、こういうのは楽しんだ方が勝ち、かも? 

 最後に、小島作品って、有罪となった殺人犯の処遇に厳しいね。近作の某作の終盤で、殺人の咎で重罪になるであろう登場人物に向かい刑事があくまで冷徹に「あなたはもう一生、酒に酔う機会はないでしょう」と告げるセリフの生々しさにちょっとコワくなった。本作の終盤でも、これに類似するクールな描写がある(ネタバレにはなってないハズだが)。
 いやまあ現実世界で犯罪を犯す者には、本当にごく一部のやむを得ない事情の例外を除いて、相応の処罰はあっていいのだけれど。

No.2 5点 E-BANKER
(2021/11/20 10:42登録)
海老原浩一シリーズ八作目の長編。
作者といえば「やりすぎ」「詰め込み過ぎ」ミステリーということだろうけど、本作も同様なのか?
2021年の発表。

~大学生の飛渡優哉に故郷・謂名村は禁断の土地だった。しかし、父の死に際の「謂名村・・・殺され・・・」の言葉を聞いて、病死した母は殺されたのではないかと思い、故郷を訪ねるのだが全く歓迎されず戸惑っていた。そんなとき村の美濃焼工房で首吊り死体が発見される。優哉はかつて自分の窮地を救ってくれた探偵に相談することに。完全密室の謎を解いた先に見えてくるのは悲哀に満ちた家族の物語だった~

紹介文からして、いかにも!っていう感じ。まさに「小島正樹らしさプンプン」だ。
今回登場するのは、①「強固な閂で閉じられた完全密室」と②「事件現場から煙のように消失する首切り死体」、そして③「見立て殺人」。主にこの3つ。
まず①だが・・・。途中から気付いていたよ。首吊り死体+堅固な密室が出てきた時点で、「まさか島荘の例のトリック?」って予想してたんだけど・・・でもこれって跡が思いっきり付くんじゃないかな?
②はなぁ・・・相当リスクを孕んだトリック。
まぁ真犯人もやむにやまれずということで理屈をつけてるんだけど、〇○の顔と本当の顔を間違うかねぇー
そして③。「見立て」の意味は何? 探偵・海老原の卓越した或いは常識外れの想像力で「見立て」は気付かれたのだが、普通気付かんよ! 真犯人側にも殆どメリットないしな。

とここまで辛口評価を書いてきましたが・・・
プロット自体はかなり丁寧だと思った。二重三重構造というのか、真相を見抜いたと思った先に、更なる深淵が明らかになる、というのは、ありきたりかもしれないが、一定の満足感は得られるだろう。
つまり・・・以前の「詰め込みすぎ」の剛腕ミステリーからは脱却したということなのかな?
確かに以前の作品は「オイオイ!」って突っ込みたくなるところが多かったんだけど、今にして思えばそれはそれで良かったような・・・
まとまりすぎたら、それはそれで淋しい、って読者は勝手なもんです。

No.1 6点 nukkam
(2021/02/17 19:34登録)
(ネタバレなしです) 2021年発表の海老原浩一シリーズ(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)もカウントして)第8作の本格派推理小説です。「呪い殺しの村」(2015年)で海老原自身の悲劇が中途半端に紹介されていましたがあれは本書への伏線だったのでしょうか。父親を病気で亡くした主人公が久しぶりに帰郷して父が村八分にされて村を出奔したことを知り、過去に何があったのかと苦悩します。そんな彼を支える海老原が実に頼もしいです。過去作品では警官をからかったりとどこか軽薄な面もありましたが本書では真摯に主人公に寄り添っており、読者の共感度も高いのでは。謎とトリックを詰め込んだ「やりすぎ」を期待する読者はがっかりするかもしれませんが(それでも密室や人間消失の謎が用意されています)、本書のような人間ドラマと悲劇性を描くのに重きを置いたプロットも悪くないと思います。

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