終決者たち ハリーボッシュ刑事 |
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作家 | マイクル・コナリー |
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出版日 | 2007年09月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | E-BANKER | |
(2021/09/15 20:34登録) 「天使と罪の街」に続いて発表された、ハリー・ボッシュシリーズ。シリーズも重ねて11作目となる本作。 警察を離れ、一私立探偵として活動していたボッシュが、再び「刑事」として帰ってくる。しかも、相棒は慣れ親しんだキズミン・ライダー! これは期待大だ! 2005年の発表。 ~三年間の私立探偵稼業を経てロス市警へ復職したハリー・ボッシュ。エリート部署である未解決事件班に配属された彼は、十七年前に起きた少女殺人事件の再捜査に当たる。調べを進めるうち、当時の市警上層部からの圧力で迷宮入りとなっていた事実が判明する。意外な背後関係を見せる難事件にボッシュはどう立ち向かうのか?~ 『私立探偵ボッシュ』<『ロス市警・刑事ボッシュ』 やはり、こう強く思わされた作品だった。当のボッシュ自身も久々に復帰を果たした市警で、新たな上司となる本部長の檄に対し胸を熱くする場面がある。 そして、ボッシュの新たな職務となるのが「未解決事件の捜査」。うーん、ボッシュにとって天職ともいえる役目だろう。 事実、彼の天性の鋭い勘、そして豊かな経験に基づく推察力は、過去に埋もれた陰残な事件を現代に呼び起こすこととなる。 巻末解説でも触れられているが、本作は純正な「警察小説」としての面白さも如何なく発揮されている。相棒となるライダー刑事だけでなく、班長となるプラットをはじめとする未解決事件班の刑事たちとともに、ボッシュは真犯人と目される人物を炙り出すことになる。 しかし、そこは本シリーズ。一筋縄でいくはずはない。まるで肩透かし、いや蜃気楼のように目の前から「真相」がするりと逃げてしまう刹那。そして、過去の犯罪の意外な背景、驚きの真犯人が明らかとなる終盤。 本作はプロットが割と素直ですっきりしているだけに、今までにないリーダビリティを感じることができた。 いつもはエレノアや関係者の女性たちとボッシュとの絡みや銃撃戦なんかも結構なボリュームで書かれるんだけど、今回はそれも殆どなし。(エレノアと愛する娘は香港へ出稼ぎ?に行っているとのこと・・・) そういう意味でも原点回帰というか、「ハリー・ボッシュ」という得難いキャラクターをリフレッシュさせ、まさに新章へ旅立たせるための作品だったのかもしれない。 逆に言えばすっきりしすぎていると感じる方もいるかもしれないけど、そこは好みの問題かな。私は・・・良かった。 |
No.2 | 10点 | Tetchy | |
(2018/09/16 23:02登録) ボッシュシリーズ新章の開幕である。何度この言葉を書いたことだろうか。刑事を辞し、私立探偵を営んでいたボッシュはロス市警が新設した復職制度を利用し、刑事に復帰する。配属先はロス市警未解決事件班。ドラマにもなっているいわゆる「コールド・ケース」と呼ばれる未解決事件を取り扱う部署で過去の事件に取り組むことになる。 相棒は元部下のキズミン・ライダーで、班長は年下ながらボッシュに深い理解を示しながら、チームを掌握し、団結心を鼓舞するリーダーシップを持つエーベル・プラット。更に班内は署の精鋭ばかりが集まっている。つまりボッシュはこれまでに比べて恵まれたチームで働くことが出来、そして捜査も自然チームワークが主体となる。一匹狼として独断捜査をしていたそれまでのボッシュとは異なっている。 しかし未解決事件を扱う班に配せられたというのは皮肉なことだ。なぜならこのボッシュシリーズは過去の闘いの物語だからだ。彼は常に過去に向かい、そして新たな光を当てることに腐心している。失われた光をそこに見出そうと過去という闇の深淵を覗く。そしていつも闇からも自身が除かれていることに気付き、取り込まれそうになるところを一歩手前でこらえるのだ。 自身が抱える闇と対峙し、そして事件そのものが放つ闇に向き合う。何年も前に埋められた骨が出てきても諦めずその過去に挑む。それがこのハリー・ボッシュという男の物語だ。 もう1つ忘れてならないのはアメリカに根深い人種差別問題がテーマになっていることだ。 コナリーは黒人に暴行を加えた白人警官が無実となったことで勃発したロス暴動を扱った『エンジェル・フライト』以降、同じくロスを舞台に刑事として働くボッシュの活躍を通じて人種差別根強いロスを描いてきた。そしてそのネガティヴなイメージを払拭させようと躍起になっているロス市警を舞台に1988年というまだ差別の風潮が根強いロスを描くことで、コナリーは人種差別によって引き起こした事件を深堀している。それは浄化という名の下で、不名誉をリセットしようとしているロス市警、いやロサンジェルスと巨大都市自体を風刺しているかのようだ。根本的に変わらないと悲劇はまた起きると痛烈に警告するかのように。 未解決の殺人事件が当事者に及ぼす影響とはいかなものだろう。ボッシュとライダーが当時の関係者に事情聴取のために訪ねると、一様に彼ら彼女らはまだレベッカの事件のことを覚えており、開口一番に犯人が見つかったのかと尋ねる。つまりそれは皆の中で事件が終っていないことを示しているわけだが、それがまたそれぞれの人生の転機となっていることが見えてくる。 しかし上に書いたようにいくら犯人が捕まろうがその事件の当事者たちには終わりはないのだ。区切りはつくだろう。しかし彼ら彼女らはその人の理不尽な死を抱えて生きていかなくてはならない。 罪を憎んで人を憎まずというが、本当に愛する者を奪われた人たちがそんな理屈では割り切れない感情を抱えて生きていけるわけがないと本書の結末は大声で訴えかけてくるが如く、苦い。 今までのシリーズ作は常に過去に対峙するボッシュシリーズの特徴を踏襲しており、ボッシュ自身の過去から今に至る因果が描かれていた。 ボッシュに関わった人物たちが過去に犯した罪や過ちが現代に影響を及ぼし、それがボッシュ自身にも関わってくる、もしくはボッシュの生い立ちに起因する様々な事柄が事件に思わぬ作用をもたらす、そこにこのシリーズの妙味と醍醐味があると思っていた。 しかし本書の読みどころは過去の事件に縛られた人たちの生き様だ。そしてそれ自体がそれまでのシリーズ同様の読み応えをもたらしている。 ボッシュ自身の過去に固執することなくボッシュが事件を通じて出遭う人たちを軸に濃厚な人間ドラマが繰り広げられることをコナリーは本書で証明したのだ。 しかしこれだけの巻を重ねながら毎度私にため息をつかせ、物思いに浸らせてくれるコナリーの筆とストーリーの素晴らしさ。 物語の最後、容疑者の殺害に意気消沈するボッシュにライダーが次のように云う。 「あなたがなにをするつもりであろうと」(中略)「わたしはあなたについていくわ」 私もコナリーが何を書こうともずっと付いていこう。そう、決めた。 |
No.1 | 7点 | あびびび | |
(2015/11/25 14:01登録) ハリー・ボッシュが3年の探偵家業のち、ロス市警に復職。エリート部署とされている未解決事件班に配属された。17年前に起きた少女殺人事件を、以前の相棒であるキズ・ライダーと再捜査する。 捜査するうちに、当時の市警が圧力をかけていたことが判明し、当時の本部長だった宿敵・アーヴィン・アーヴィングの影もちらついてきて、俄然捜査は白熱するが、その中には、ハリー・ボッシュを復職させた新・本部長の思惑が潜んでいた…。 なかなかバランスの取れた一冊。犯人も好み?だった。 |