home

ミステリの祭典

login
メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.615 5点 十三回忌
小島正樹
(2015/11/20 22:12登録)
第一から第三までの殺人の概要はよく分かるが、警察の捜査をやや端折り過ぎの感がある。警察関係者は幾人か登場するわりには、そちらからのアプローチが足りていないと思われる。
それぞれのトリックはなかなかの奇想が感じられるが、偶然に頼ったものがほとんどで、現実味は薄い。ただ、壁を隔てた死者の声の仕掛けは面白い。
全体として盛り上がりに欠けるきらいはあると思うが、本格の王道を行こうとする作者の姿勢は買える。しかし、なんと言うかワクワクやドキドキとは無縁だし、探偵の海老原もイマイチ魅力的とは思えない。その辺りも含めて、もう一息な感は否めない。


No.614 5点 言霊たちの夜
深水黎一郎
(2015/11/12 19:52登録)
同音異義語、外国人から見た日本語の難しさ、ややこしさ、など「言葉」をテーマにした連作短編集。連作とは言っても、それぞれの短編が独立しており、有機的な繋がりはほとんどない。
それぞれまずまず面白いというか、ところどころ笑えるが、ほのぼのとしたそれではなく、どこかエキセントリックな笑いを誘うものである。
一応事件らしきものが起きたり、警察関係者が出てきたりと、それらしい面もあるがミステリではあるまい。あまり真剣に構えると肩透かしを食らうので、まあ興味本位で読んでみるつもりくらいが一番かもしれない。ひまつぶし程度の感覚で肩の力を抜いて読むべき作品。


No.613 7点 ミステリー・アリーナ
深水黎一郎
(2015/11/06 20:07登録)
氾濫する叙述トリックを揶揄しているかのような皮肉さと、色物的なたくらみに満ちた、一気に読ませるリーダビリティを持った異色作。
徐々に明らかにされる問題編に対して、次々と回答される解決編。そのほとんどが様々な叙述トリックを利用したもので、明らかに怪しげな記述から、さりげないと言うかどうとでも取れるような曖昧な表現を突いたものまで、矛盾なく解決に結びつけようとする作者の苦労がしのばれる。その意味では確かに多重解決物の極北といってもいいだろう。
最後に解答者側の狙いが明らかにされるが、やや取って付けたような印象を受ける。さらに唐突な終わり方があっけなく感じたのが勿体ないなと思わないでもない。


No.612 6点 その可能性はすでに考えた
井上真偽
(2015/10/30 19:34登録)
冒頭、新興宗教団体が居住する広義での密室内での集団自殺、更にはその信者の首を切り落とすという、奇妙な連続首切り事件が発生する。そのシチュエーションの異様さに引き込まれるものの、面白いのはそこまで。後は奇蹟を現実のものにしたい探偵と、その事件の解決策を引っ提げて登場する刺客との対決が繰り返されるが、その構成はまるで劇画そのもの。本当に漫画化を意識したのかと思うほど、タッチは劇画風である。
多重解決のトリックはほとんどが機械トリックで、正直こじつけめいており、説得力に欠ける。アンチミステリと評する人も中にはいるようだが、決してそんなことはなく完全に本格の範疇内だろう。
もう少し期待していたのだが、やや裏切られた感は否定できない。謎が魅力的なだけに残念としか言いようがない。


No.611 6点 一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常
二宮敦人
(2015/10/22 21:57登録)
日常の謎と共に、私鉄の鉄道員の活躍を描いた佳作。
第一章は大切な原稿を失くした若い編集者が、遺失物係を慌てて訪ねてきたところから始まる。壮太はなぜ彼女が○○したのかに疑問を持ち、そこから裏の事情を推察し推理を重ねる。
第二章では、ポルターガイストやラップ音などの超常現象を描くが、ストーリーは意外な方向に展開し、果たして壮太はどう解決に導くのかが読みどころとなっている。
しかし何といっても白眉は第三章で、鉄道員と乗客が協力し困難に立ち向かっていく姿は、感動的といっても過言ではあるまい。もっとサスペンスフルに、或いはスケールの大きな物語に仕上げることもできたのだろうが、敢えてコンパクトにまとめ上げることにより、あくまでライトな読み物に徹した姿勢は二宮氏のスタンスを感じる。
また、ラストにちょっとしたサプライズがおまけとして付いてくる。


No.610 7点 聖母
秋吉理香子
(2015/10/17 20:33登録)
一見幸せそうに見えるが、不妊治療に悩み苦しむ平凡な主婦、連続幼児猟奇殺人の犯人の行動と心理状態、それを追うベテランと若手女性の刑事。それぞれのパートで巧妙に構成された、読み応え十分なサスペンス。
グロさはないが、どこか安孫子武丸の『殺戮にいたる病』を彷彿とさせるプロットで、久々のらしいサスペンス作品と言えよう。
さらには、やられた感が半端ないラスト。この仕掛けを見破れる読者はそうはいないだろうが、しっかりと伏線は張られていてフェアプレーも好感が持てる。


No.609 6点 東京結合人間
白井智之
(2015/10/10 19:41登録)
プロローグは手に汗握るほどグロい。そりゃもう、この先どうなるんだろうと心配になるほどえげつない。で、序盤は独自の特異な世界観を見せつけられて、なにこれ?と思いながらも、グイグイと引き込まれる。そして、なんだかんだで取り敢えず、一件落着的な感じですっきり。
さらにその後の展開が期待されるが、いわゆる孤島もので既視感アリアリ。どこかで読んだことある感が満載で、しかもやや退屈。結合人間やオネストマンといったネタが全然生かされていないではないかと憤慨してしまうのであった。
そしてエピローグ、ここに来てやっとなるほどと首肯できる解決が明示され、再度すっきり。 
全体としては、グロ+まったり+異様な世界+ちょっと意外なラストといった感じ。


No.608 7点 掟上今日子の挑戦状
西尾維新
(2015/10/03 20:22登録)
基本に忠実に描かれた本格ミステリとの印象が強い。それは取りも直さず、西尾維新がまぎれもなくミステリ作家であるという証左に他ならない。本シリーズは年内に二作も上梓されるそうなので、なお一層の期待が持てそうだ。
だが、本作は設定もプロットもストーリーもぶっ飛んだものはないので、全体的にやや小ぢんまりとした感じは否めない。それと、ところどころにちょっとした疑問点が散見されるのが気になる。例えば第一話では、そもそも死者に対して義理も借りもないのに、わざわざアリバイまで作って偽装するのはなぜなんだろう。最終話のダイイングメッセージを残す理由も納得がいかない。まあこの場合、今日子さんの推理は大変面白かったが。
とは言え、相変わらず読者に対して良心的かつ、「忘却探偵」という特殊な設定ゆえの独特の世界観があって楽しませるエンターテインメントに仕上がっているのは間違いないだろう。


No.607 4点 黒猫の遊歩あるいは美学講義
森晶麿
(2015/09/29 20:10登録)
これは好き嫌いがはっきり分かれるタイプの作品であり、激しく読者を選ぶ作品だと思う。そんな私は正直好きになれなかった。嗜好の範疇から外れてしまっていたというべきだろうか。
その原因の一つは、文面が上滑りしてすんなり頭に入ってこないことが挙げられる。勿論それは自身の読解力のなさや脳細胞の死滅も大いに関係しているものと思われるのだが。読みづらいとかではなく、文体が肌に合わなかったという話なのだ。
内容的には、ケチをつけるわけではないが、謎そのものがあまり魅力的とは思えないこと、黒猫の謎解きが詩的過ぎていまいち理解できないというか納得できない感じが否めなかったのが、印象を悪くしている原因かもしれない。
ただ、アガサ・クリスティー賞に選出されたわけだから、選考委員のどこか琴線に触れる部分があったのは間違いないだろうゆえ、読む人が読めばやはり面白いのだろうと考えられる。


No.606 6点 天使のナイフ
薬丸岳
(2015/09/23 21:47登録)
乱歩賞受賞作の中では、優れた作品だと思う。何人かの方が書かれているが、本格的な社会派ミステリでありながら、根底にエンターテインメントがしっかり息づいているのが素晴らしい。さらに言えば、重いテーマを扱っているにもかかわらず、ある種娯楽作として楽しめるように出来上がっているので、毛嫌いせずに読まれるのもよろしいかと思う。
ただ難点もあり、偶然にしても少年犯罪があまりに多発しているのは不自然であろう。それを除けば、単純に見えた主人公の妻の殺害事件が、意外に複雑な展開を見せる辺りのサスペンスや、少年法の是非を問うべき永遠のテーマなど、読みどころ満載である。


No.605 5点 猫色ケミストリー
喜多喜久
(2015/09/20 22:37登録)
いわゆる人格入れ替わり物で、ありがちなパターンではあるが、若い女性の人格が猫に入り込んでしまうところが目新しさなのだろう。
所々引き込まれるシーンがあるが、全体としては緩めでのんびりとした雰囲気で進行していく。主人公の人格である「僕」の肉体が病院のベッドで仮死状態のまま、母親に見守られつつ、その身体が消滅するように死に至ってしまうという無慈悲さに抗うことなく、あきらめの境地で自らの身体を見つめるシーンなどは結構印象深い。
ただ、作者の得意分野である化学合成に関する実験の場面などは、門外漢の私としてはいささか退屈ではあった。それと、せっかく猫が人格を持ったのだから、それ相応のハッとするような異色の物語に持っていってほしかったというのが正直な感想でもある。


No.604 8点 正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久に関するノート
二宮敦人
(2015/09/09 22:07登録)
女子高生の佳奈美はどうしても霊に遭遇したくて、クラスメートで霊能者の雄作とその兄でこれまた霊能者で大学生の佐久に近づく。それから様々な事件に巻き込まれるが、彼女の熱は冷めず、ますますのめり込んでいくことに・・・
主人公はこの三人だが、他の登場人物も含めてとてもよく描き分けられており、それぞれの個性が際立っている。見方によっては連作短編にも取れるが、長編として捉えたほうがしっくりきそうだ。
文体は相変わらず安定していて、非常に読みやすく好感が持てる。第二章まではどこかライトなオカルト・ミステリかと思わせて、第三章でとんでもない展開に持っていく力技は見事だ。とにかく胸がいっぱいになり、読んでいてせつなさで心が震えるような体験をすることになった。この感覚は久しぶりなので、思わず高得点をあげてしまったのだった。
本作は取り敢えず私史上、二宮氏の最高傑作となった。とても素敵な作品だと思う。


No.603 3点 よろずのことに気をつけよ
川瀬七緒
(2015/09/07 21:50登録)
これはいけません。
面白味のない文章に乗せて綴られる、男女の犯人探しの旅。そこに呪術という要素を取り込んで、淡々と語られるストーリー。一見面白そうに思われるかもしれないが、無味乾燥な文体でイマジネーションがかき立てられることもなく、正直ずいぶん退屈であった。
殺人事件そっちのけで被害者の過去を探るのに終始しているが、これといった盛り上がりもなく、最後に明かされる犯人と真相は至ってありきたりなもので、脱力感を覚える。ストーリー自体もごく単純で、これだけのボリュームにする必要性は全くなかったのではないかと思う。
一人称の文章だが、主人公が自分のことを僕と呼んでいるのには違和感を覚えるし、読んでいて三人称と錯覚するほど、心情が語られていない。
これだから乱歩賞は・・・と愚痴も言いたくなるというもの。
すみません、思ったことを正直に書くたちなので、反感を覚えた方もおられるかもしれませんが、どうかご容赦下さい。


No.602 7点 掲載禁止
長江俊和
(2015/08/31 21:36登録)
なかなかの力作ぞろいの短編集、十分楽しめた。
殺人や自殺など、人の死の瞬間を目の当たりにできるバスツアー、別れた恋人に未練を持つ女が、ひそかに作っていた男のマンションの合鍵で留守中に侵入し、それがやがてエスカレートしていく物語など、相変わらずいかがわしさ満載の作品ばかりである。そうしたちょっと風変わりなストーリーが好きな読者には堪らない短編ばかりなので、嗜好が合えば嵌ること請け合いである。
臨場感、緊迫感も申し分なく、多分誰も読まないと思うけど、結構お薦め作品だと個人的には思っている。いずれもちょっとした反転を味わえるし。


No.601 6点 こわれもの
浦賀和宏
(2015/08/26 22:02登録)
これは本格なのかサスペンスなのか。どちらとも取れる不思議な作品である。
これほど登場人物がうまく配置され、バランス感覚が優れているミステリはあまりお目にかかれない。必要最低限に抑えて、最大限の効果を狙う作者の姿勢は見事としか言いようがない。
また先の見えない展開に振り回されて、無心で読める優れものである。それだけにとどまらず、ツボを押さえた逆転劇やひねりの効いたオチも読み応えがある。小ネタだがトリックもよく考えられていると思う。


No.600 5点 ぼくは明日、昨日のきみとデートする
七月隆文
(2015/08/22 21:33登録)
ストーリーとしてはごく普通の恋愛小説で、特筆すべき点はない。だが、大胆なSF的仕掛けにより、読者を日常と非日常の狭間に追い込み、これまで体験したことのない世界に誘う。
情感あふれる文体と上品な文章は私好みではあるし、色んな意味で良質の恋愛小説と言えよう。ジャンルとしてはミステリではないと思う。ファンタジー寄りの恋愛小説ってところじゃないだろうか。まあ『イニシエーション・ラブ』が堂々と本格ミステリとして登録されているのだから、本作がひっそりとここにいても悪くはないのかもしれない。
でも、涙腺の緩い私だが、これは泣けなかったなー。もっと泣かせてくれてもいいような内容だっただけに、やや物足りなかった。と言うか、ちょっと薄味すぎて刺激が足りない気がした。


No.599 5点 涼宮ハルヒの消失
谷川流
(2015/08/19 21:50登録)
なかなかの大風呂敷を広げて、どう着地させるのかと思いきや、ごくありふれたもので全く新味がなかったのはどうなのか。これは最早ミステリですらない。少なくとも「日本最高峰のミステリ」でないことは断言できる。本来なら4点以下だろうが、キャラ立ちを考慮し青春小説として評価してこの点数とした。もし本作に9点或いは10点を付けたら、私の平均採点数は8点以上になってしまうからね。


No.598 5点 涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流
(2015/08/15 21:56登録)
ラノベ事情に疎い私でもタイトルくらいは知っている、巷で評判の超有名作。なのだが、正直いまいちピンと来なかった。
序盤はよくある学園ドラマかと思ったら、途中からとんでもない展開になる。想像するに、なんだか絵的には凄いことになっているのだが、文章がこなれていないためか、どうにも伝わってくるというか迫ってくるものが足りない感じである。
各所に萌え要素がてんこ盛りで、その意味では読者を満足させるのは間違いあるまい。ただ、それを楽しめるかどうかは、各々の嗜好によるだろう。しかしこれだけは言える、私にとっては噂にたがわぬ名作とは思えないと。まあそれも、シリーズ全作を読破しなければ断定はできないのかもしれない。だが私もそこまで暇ではないので、無理というものである。


No.597 5点 ようするに、怪異ではない
皆藤黒助
(2015/08/10 22:06登録)
鳥取県は境港市、主人公の「俺」皆人はこの街に引っ越してきた、新高校一年生。「俺」は特に望まずして妖怪研究同好会に入会することになった。二年生の部長である春道兎鳥はささやかではあるが不可思議な事件を、ことあるごとに妖怪の仕業と断言するが、「俺」は勿論犯人は登場人物の中にいると推理し、これらの事件を怪異などではないことを証明する。
というのが大筋のストーリーで、連作短編なのだが、どれもパターンとしては似通っている。事件そのものはそれほど魅力的なものではないが、どことなく現実離れしていて不思議さが漂う。
文体としてはライトノベルに近く、軽いノリのミステリである。まあ最近流行りの、と言ってもいいだろう。おそらく続編も書かれるのだろうが、そちらを読んでみてもいいかなと思わせるだけの何かを持っているとは思う。


No.596 6点 大幽霊烏賊 名探偵 面鏡真澄
首藤瓜於
(2015/08/04 21:44登録)
昭和初期、舞台は愛宕市(おたぎ)の精神病院。この設定がのちのち効いてくるのだが、詳細はネタバレになるため控えたい。
主人公の使降はまだ建てられて年数の浅い精神病院、葦沢病院に赴任してくる。だが、医師たちばかりか看護婦たちまでも、一癖も二癖もある人物ばかり。更に入院患者の中には「三狂人」と使降が呼んでいる一風変わった人たちがいる上、「黙狂」という彫像のように動かない患者もいた。いったい彼の正体は?というのが、全編を通じての大きな謎になっている。
他にも、巨大鯨を襲う超巨大烏賊、漁船に一人取り残された漁師の異常な行動、クラシック音楽の薀蓄、周りの男たちを籠絡しようとする美人看護婦、後頭部に穴の開いた男などなどの要素が絡み合って、一種異様な世界観を作り出している。しかし、全体的な雰囲気は決して暗いものではなく、何事にも前向きに対処していこうとする主人公に引きずられて、最後まで飽きずに読むことができる。
なんだか小難しそうな内容に感じるかもしれないが、そんなことはなく、言ってみれば総合小説としてのエンターテインメントと呼んでもよいのかもしれない。無論、ミステリとしての体裁も整っている。
やや残念なのは、名探偵と謳われている面鏡真澄の出番が少なすぎることだろう。

1835中の書評を表示しています 1221 - 1240