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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.695 7点 虚実妖怪百物語 急
京極夏彦
(2017/01/09 22:05登録)
さて、いよいよ最終巻です。
「妖怪小説に7点も付けるのはどうなの、お前は」というご意見も十分頷けますが、面白いのだから仕方ありませんね。
今回は新たに夢枕獏や鈴木光司らが登場します。本シリーズは京極夏彦氏の交友関係を熟知するほど面白みが増します。どの人物がどんな役割を果たすのかといった観点に注目すると、より楽しめると思います。まあ、ほとんどの読者がそれらの恐らく実在の人物を知らないので、この人はこんな風貌でこんな性格なんだろうなと想像を逞しくして読む他ありませんが。
本作、妖怪やら怪獣やら漫画の主人公が暴れまわるクライマックスもいいですが、その後に訪れる実に平和でのんびりとした露天風呂のシーンがとても印象深いんです。こんな静かな落ち着いた雰囲気の場面を読むのはいつ以来だろうかと、遠い過去を懐かしむとともに、噛み締めるように読める幸せを実感します。
で、結局多数の登場人物の中、荒俣宏が主人公なのでしょうかね。最も盛り上がるシーンで活躍します。京極夏彦はミステリ的側面の謎解きを一応担当して、面目を躍如し、一番最後に水木しげる先生が美味しいところをさらいます。
最後まで読んで良かったと思えるような楽しい作品ではありました。


No.694 6点 闇に香る嘘
下村敦史
(2017/01/04 21:45登録)
なかなかの良作だと思います。ただ盲目の主人公の一人称で描かれているためもあり、終盤までやや冗長だしいささか退屈な感じは否めません。題材が中国残留孤児だからある程度やむを得ないかもしれませんが。
巻末の参考文献を見るまでもなく、作者は相当深く理解に及んでから書き始めたようですし、読者もいろんな意味で勉強になります。残留孤児に関して、視覚障碍者に関して。
終盤謎解きに至り、一気に覚醒したがごとく面白くなります。それまで社会派の印象が強かったですが、ここに来てようやく本格ミステリの本領を発揮しますね。まさかの展開が待っています。エピローグも一抹の救いがあっていいですね。
個人的に『占星術のマジック』が受賞を逃す以前から乱歩賞とは相性が悪いですが、これは合格ラインではないかと思います。


No.693 7点 ジェリーフィッシュは凍らない
市川憂人
(2016/12/30 21:50登録)
『そして誰もいなくなった』を意識した作品としては出来はいいほうだと思います。構成はしっかりしているものの、なぜか全体的にすっきりしない感じがします。飛行船の中で起こる殺人劇と、それから遅れること数か月の捜査が交互に描かれているプロット自体は悪くないのですけどね。
一つとても気になる点もあります。検死に関することなんですが、ややあっさりし過ぎているような。まあ、あまり突っ込むと自らネタバレしてしまう可能性が高いですから仕方ないですかね。
トリックはそれほど大胆なものではなく、手品のタネを明かされた時のがっかり感が漂います。ただし、それをうまく隠ぺいしている手腕は確かなものがあると思います。
エピローグがそのまま解決編になっている辺り、センスを感じますね。


No.692 6点 虚実妖怪百物語 破
京極夏彦
(2016/12/26 21:58登録)
前作の地味な展開から一転、ど派手で荒唐無稽なストーリーへと発展していきます。妖怪どころか、巨大ロボが発進し、それに搭乗しているのが荒俣宏なのです。さらに木原浩勝はヘリからパラシュートで落下し、都知事を襲来し槍で突き刺したりします。どうやら黒幕はあの『帝都物語』の加藤らしいと匂わせています。
今作では新たに綾辻行人、貫井徳郎が登場。前作からの京極夏彦や平山夢明もそれなりの活躍をします。活躍というか、彼らは意見するだけで行動は起こしませんけど。で、あの水木しげる先生は・・・次巻で大いに暴れる予定(勝手な予想)です。
まあとにかく、コメディタッチで描かれながら、抑えるべきツボは抑えている感じで、笑える上に高揚感も味わえるという贅沢な一品に仕上がっていることは確かです。最終巻でどうケリをつけるのか楽しみであります。


No.691 6点 Dの殺人事件、まことに恐ろしきは
歌野晶午
(2016/12/22 22:08登録)
江戸川乱歩の作品を現代に蘇らせ、最先端のハイテクを駆使して本家とはまた違った目新しさを披露する短編集。元ネタは『人間椅子』『押絵と旅する男』『D坂の殺人事件』などで、これらを読んでいるとより楽しめることは間違いないが、未読でも支障はない。
目立つのはスマホの機能を最大限に利用している作品が多いこと。やはり現代人にとってスマホはどうあっても手放せないアイテムなのだろう。だが、スマホを使いこなせない人にとっては、理解不能な部分もあると思うので、そこは想像力で補うしかないと思う。
しかし、これはあまり公言できないことかもしれないが、個人的に歌野晶午という人はどうも垢抜けないところがある気がしてならない、文章やプロットなど。私だけだろうか。


No.690 7点 今はもうない
森博嗣
(2016/12/18 21:50登録)
このような変化球は私の好むところである。導入部の爽やかさも非常に印象深く、感銘を受けた。だが美点ばかりというわけではない。みなさんご指摘されているように、シンプルな謎のわりにページ数を割きすぎなのは否めないであろう。こんな解決法がありますよと小出しにするのはいいが、どれも驚くようなものではなく、正直予測の範疇に収まるといえる。さらに最後に萌絵と犀川による謎解きがおこなわれるが、あまりにあっさりしすぎていて何かこう物足りなさを感じる。
密室の謎はさして珍しいものではないが、メイントリックはかなりいい。森博嗣がこんなものを?といった意外性は見逃せないものがある。
それにしても西之園の気性の荒さばかりが目立つ作品ではあった。それも魅力なのかもしれないが、私は御免こうむりたい。


No.689 5点 虚実妖怪百物語 序
京極夏彦
(2016/12/14 21:55登録)
京極版「妖怪大戦争」らしいが、序というだけあって一冊丸ごとプロローグのような作品である。
妖怪関係者?の水木しげる、荒俣宏、京極夏彦ら作家陣に編集部の人々が多分実名で加わり、さらに榎木津礼二郎の子孫らしき榎木津平太郎や木場という人物まで参戦している。
本作の手法は映画『ジョーズ』に似ており、序盤に妖怪をちらつかせておいて、その周辺の出来事を冗談っぽく描いてイライラさせて、最後にぞろぞろと妖怪を登場させるという常套手段を取っている。
ただ残念なのは三人称で書かれているが、京極夏彦を京極自身がどう描くのかと言う興味を持って読んだわけだが、結局本人は本作では登場しなかったことだ。ちょっと焦らしすぎじゃなかろうか。いずれ続巻を読むのだから少しくらいサービスすればいいのにと思うが。


No.688 8点 猫には推理がよく似合う
深木章子
(2016/12/09 21:52登録)
たとえ単行本でも、これはと思った作品は迷わず買うのが私のスタンスでもある。そしてこれは大正解であった。面白い。それはもう非の打ち所がないというか、文句のつけようがないというか。
しかし、何を書いてもネタバレにつながるので、何も書けない。下手なことを書いたらこれから読む人に叱られるのだ。この作品こそ大いに人に薦められるミステリに違いないと私は断定する。あ、個人的に、です。
私はこれを読みながら、昔「新本格」に夢中だったころの自分を思い出していた。雰囲気が何となくあの頃のそれに似ていなくもないような・・・。とにかく、文庫化されてからでもいいから読んでほしいなあ。


No.687 6点 首折り男のための協奏曲
伊坂幸太郎
(2016/12/05 21:50登録)
思えば単行本刊行時から文庫化を待ち続けていた気がする。その魅惑的なタイトルに惹かれ、しかし期待を裏切られた時の保険として文庫本を待つ姑息さ。それこそが私の読書に対する姿勢であり本質なのだ。
で結局本作の感想はと言うと、可もなく不可もなくといったところか。タイトルから想像されるようなもっとダークな感じのサスペンスを想定していたことは自分の身勝手ではあるが、考えてみれば伊坂幸太郎がそんな暗い話を書くはずがないではないか。というわけで、この愛すべき短編集は連作と捉えると「ちょっと違う」と思わざるを得ないので、それぞれが独立した短編と考えたほうが都合がいいように思う。下手に首折り男はいったいなぜ次々と殺人を犯すのかとか、どんな残虐な性格の持ち主なのかとか、あまり深追いしないで、それぞれ色の違う短編を楽しむ余裕を持って臨むのが得策ではないだろうか。
個人的には『人間らしく』のクワガタのエピソードが好きだ。本作品集の中ではそれほど重要なポイントではないが、このマニアックさがたまらないのである。『合コンの話』も最もまとまりがあって好感が持てる。


No.686 6点 オーブランの少女
深緑野分
(2016/12/01 22:07登録)
どの作品も文芸としては一流かもしれないが、ミステリとしてはいささか薄味。しかしながら、どれもなかなかに印象深いのでもっと高得点を付けるのに吝かではないのだが、いかんせんミステリ要素が薄く・・・。
例えば表題作『オーブランの少女』などは、導入部に関しては申し分のない吸引力を持って読者を引き付けるので、その後の展開が物凄く期待できるが、結局謎解きはほとんど皆無であり、起こったことをそのまま書き連ねているに過ぎず、個人的には望んでいない方向へ行ってしまった感が強い。実に勿体ないと思う。
また最終話『氷の皇国』は全般的に引き締まった好編だが、やはり謎解きが中途半端だし、犯人もあまりにミエミエでせっかくの素材が台無しになってしまっている。まあそれを差し引いても高得点は堅いのだけれど。
というわけで、私としては作者の力量は認めるが、このサイトでの採点はこの程度で致し方ないのだ。今後の活躍に期待したい作家ではある。


No.685 6点 人ノ町
詠坂雄二
(2016/11/26 22:10登録)
旅人が世界各地?を放浪し出会う、様々な不思議な出来事。無国籍でありながら旅情を誘う連作短編集。
これは凄いとは思わないがなんかいい。謎もいたってシンプルだがなんかいい。乾いたざらざらした質感がなんかいい。
そう、この作品は読んでいて異国を旅しているような錯覚を覚える、そんな物語なのだ。主人公は旅慣れているので、言葉には困らないらしいし、結構危険な目にあったりもするのだが、落ち着いた言動で余裕をもって回避できる度胸の持ち主だ。そんな旅人とともに放浪気分を味わいたいと思う人にはお薦め。
詠坂氏にしては分かりやすい文体なので思ったより読みやすいし、それぞれの短編がなかなかに印象深いので、長く記憶に残りそうな予感がする。


No.684 6点 おそろし 三島屋変調百物語事始
宮部みゆき
(2016/11/23 21:55登録)
第一話はかなり怖い、オチが素晴らしい。しかし残念ながら次第にトーンダウンしていく気がする。どれも今一つ捻りが足りないというか、ストーリーをすんなり落としすぎという感じがしてならない。
とは言え、文章の流麗さ、情感あふれる描写力、臨場感、どれをとっても一流と言って差し支えないだろうと思う。
ホラーとしては第一話を除いて、それほど怖さを感じないが、このシリーズはそういう問題ではないのだろう。人間の業の深さを鋭く抉り、その存在の儚さを幾度となく繰り返し指摘しているところを見る限り、宮部の怪談はその名の通り変調、変わり百物語だと言えるのではないか。


No.683 7点 あやし~怪~
宮部みゆき
(2016/11/16 21:55登録)
江戸の怪談話(勿論フィクション)を集めた短編集。全体的に暗い。怪談だから当然かもしれないが、その分雰囲気としては最高。ところが人間が生きている。生き生きしているわけではないのだが、ほとんどの登場人物に存在感があり、それはほんの端役に関しても言える。
江戸時代だからと言って、妖怪や幽霊の類はほぼ出てこない。やはり怖いのは人間そのものということだろう。
個人的にベストは『女の首』。この作品が最もミステリ的趣向が盛り込まれているからである。ホラーだけど話が理路整然としており、起承転結もしっかりしているので、読んでいて一番気持ちがよかった。主人公の太郎にもなんとなく感情移入できるところもお気に入り。


No.682 5点 緋い猫
浦賀和宏
(2016/11/10 22:03登録)
昭和二十四年の東京。プロレタリア文学好きの女子高生洋子は、学生や工員たちの集う喫茶店で、共産主義寄りのリーダー的存在である青年佐久間に惹かれていく。ところが、周りに恋人同士と認められた頃、彼は突如失踪する。洋子は青森にある彼の実家を訪ねるが、それが彼女の運命を狂わせることになるのだった。
というわけで、本格として登録されているが、サスペンスなので読もうと思っている方は(多分いない)、注意されたい。
まあ何となく既視感を覚えるストーリーだし、実際よくあるパターンの物語だが、それなりに新味があるのかと問われれば否と答えるしかない。帯には「息を呑む、衝撃的な結末!」と謳っているが、読者が期待している種類のものとは違い・・・おっとこれ以上はネタバレになるから書けない。
浦賀らしいと言えばそれまでだが、中身が希薄なのはお約束のようなものだ。主人公の洋子と共に過酷な運命を追体験すればそれで十分な作品だと思う。


No.681 6点 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん5 欲望の主柱は絆
入間人間
(2016/11/08 21:53登録)
〈僕の脳波と波長を合わせたように、思考が湯女の声と言葉に肉付けされて表に出る。救援と攻撃からかけ離れた、愉悦の落水はどこまでも中立だった。〉本文より抜粋したが、この文章をどれほどの人が理解し、作者の真意をくみ取れるのだろうか。この作品、いやおそらくこのシリーズにはこうした湾曲した、或いは迂遠な言い回しが多分にみられる故、初読の際には十分気を付けられたい。
さて、いよいよ事件も佳境に入り、探偵が真相を明らかにするが、「そんな馬鹿な・・・」というのが正直なところだ。しかし、そう思わせた時点で半分は作者の勝ちだというのは初めから決まっているようなもので、少なくとも私はしてやられたのだと感じた。
この動機の詩的さ、無意味さは『虚無への供物』以来の衝撃なのかもしれない。だからこれは、三大奇書に並ばせるわけにはいかないが、ある意味ではそれらに匹敵する怪作といえるのではないだろうか。


No.680 5点 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん4 絆の支柱は欲望
入間人間
(2016/11/03 22:08登録)
シリーズの途中から読み始めるという罰当たりなことをしたせいもあってか、面白いのか面白くないのかが判然としなかった。ただ、ある人に『1』のあらすじを教えていただき、そのおかげで何とか違和感なく読めたのは幸いであった。
なるほど、ラノベ作家がクローズド・サークルものを書くとこうなるという、良い見本がこの作品なのかもしれないなと思う。しかしながら文体はかなり取っ付きにくいものである。その原因は地の文が比喩的表現に満ちており、一瞬頭の中で?が湧きおこることが多々あったためである。この辺りラノベに慣れない読者の不利さが痛いのだ。ラノベはもっと軽いものではなかったのか、いや軽いのは軽いのだが、そのライトさが他の作家と一線を画する形になっていることは間違いないだろう。
事件は当然起こる、連続殺人事件である。しかし、いわゆる素人探偵による捜査も、生き残った者が全員集まってのディスカッションもほぼカットされている。これで果たしてミステリとして成立するのか、回答は続編に委ねられる。というわけで、次巻完結編でまたお会いしましょう。


No.679 5点 極限トランク
木下半太
(2016/10/30 21:44登録)
私こと耳原(みのはら)敏夫は走行中の車のトランクに全裸で閉じ込められていた。口にガムテープ、手足を拘束されて。さらに傍らにはハイヒールを履いただけの半裸の女が横たわっており、彼女は冷たくなっていた。こうした人生最大のピンチともいえる究極の状況から物語は始まる。
なぜ彼がこのような苦境に立たされなければならないのか、それはネタバレになる恐れがあるので詳しくは書けないが、彼の妻と娘が関係しているらしいのだ。
ストーリーは息苦しくなるようなトランクの中と、その原因を引き起こした彼の行動、妻との冷えた関係や二人の過去が目まぐるしく入れ替わり、濃密なサスペンスを生み出している。
さらに物語が進行するにつれ、意外な事件の全容が明らかになってくるという仕掛けである。
面白いのだが、あっさりし過ぎていて、粘着質な描写などは期待してはいけない。サラリと読んで、さっさと忘れるような軽い作品なので、過度の期待は禁物である。終盤にはどんでん返しとも呼べないほどの、ちょっとしたオチが現出するが、予測の範囲内であろう。


No.678 8点 大誘拐
天藤真
(2016/10/28 21:49登録)
これは数ある誘拐物の中でも傑作の部類じゃないですか。
全体に緊迫感は感じられないものの、程よいユーモアにおおわれており、各キャラクターも個性的に描かれているのは好感度が高い。中でもやはり主人公のとし刀自は別格である。温かみがありながらも鋭い感性と頭脳の持ち主で、県警本部長の井狩とともに物語を引き締めながら引っ張っていく。
誘拐の過程そのものもマスコミを巻き込んで繰り広げられ、まさに「大誘拐」といった趣はタイトルに偽りなしと言えるだろう。その規模の大きさは前代未聞である。
またなんと言っても印象深いのは終章で、ストーリーに見合った爽やかさを残す、後味の良い締めくくりとなっている。誘拐犯たちも刀自もどこか前向きになれるような、それぞれの身の丈に合った生き方を予感させるラストが、何とも言えない救いを見いだせるのである。


No.677 7点 秘密
東野圭吾
(2016/10/21 21:57登録)
バスの転落事故で母娘が共に危険な状態。結局母親が亡くなり娘は生き残るが、娘の肉体には母の魂が宿っていたという、安っぽい設定。だが東野圭吾が描くとそれなりに品格のようなものが備わってしまうから不思議である。
主人公は生き残った娘の父親平介で、妻の直子が乗り移った娘藻奈美との日常生活が微に入り細に入り描かれているが、それでも退屈しないのは彼の心理描写にいちいち説得力があるせいだろうか。
確かにミステリではないが、一流のエンターテインメントに仕上がっており、小説としての魅力は間違いなく持っている。ただ、事故の賠償責任問題や事故を起こした運転手の妻とのやり取りなど、若干もたついて中途半端な印象を受けた。しかしそれも後々ストーリーに影響しては来るのだが。
ラストは衝撃の事実が判明し、タイトルの意味が痛いほど理解できる仕掛けになっている。目立たないが東野圭吾の隠れた名作なのかもしれない。いや、別に隠れてはいないか。


No.676 7点 泣き童子 三島屋変調百物語参之続
宮部みゆき
(2016/10/17 22:00登録)
さすがは宮部女史。流れるような筆運びとどこか温かみのある文体に乗せて語られる変調百物語の数々。謎というほど大げさではないものの、風変わりで不可思議な怪異はどれも結果的に腑に落ちるものばかりで、納得の連作短編集に仕上がっている。
第二話まで読んで、これは百物語というより何気に人情味のある不思議体験なのだろうと思っていたら、それ以降本物の恐ろしい物語に移り変わるので油断ならない。特に『まぐる笛』の圧倒的な迫力とスケールの大きさは、しばし他の物語を忘れさせるほどの衝撃を私に与えるのであった。
畢竟この作品は、時代小説というカテゴリーや百物語というジャンルを超えた、現代でも十分通用するホラーの傑作であると思う。

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