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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2940件

プロフィール| 書評

No.1240 5点 死のとがめ
ニコラス・ブレイク
(2016/05/29 09:44登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第14作の本格派推理小説ですが、死体の傷の詳細な描写が私は苦手でした(首なし死体の登場する「旅人の首」(1949年)は平気だったのですが)。ナイジェルと恋人クレアの関係説明があってシリーズファン読者には外せない作品ですが、肝心のナイジェルがやや精彩を欠いているように思います。犯人との対決場面なんか完全に後手を踏んでいます。対照的にクレアは推理にはほとんど役立っていないものの「闇のささやき」(1954年)以上の立ち回りが目立ちます。おかげで謎解きが霞んでしまった感があります。でも女性にアクション担当させていいのかなあ(笑)。


No.1239 5点 プラム・ティーは偽りの乾杯
ローラ・チャイルズ
(2016/05/29 09:31登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表の「お茶と探偵」シリーズ第15作はワイナリーのワイン試飲会で死体が見つかる事件を扱い、ワインに関する描写があるのが特長ですがやはりこのシリーズならではのお茶に関する描写の方に力が入っているように思います。今回は依頼人と親しい関係にあるためドレイトンもセオドシアと一緒に(少しだけですが)探偵活動に参加してますが、質問が露骨過ぎて容疑者を怒らせたりと空回りしています(笑)。24章で真の動機と真犯人に気がついたセオドシア、あまりに強引な証拠の確認(失敗したら大問題です)から逃げる犯人の追跡まで怒涛の勢いです。ここ数作での派手な追跡シーンは作者のお気に入りパターンになったんでしょうか?


No.1238 3点 聖女の塔
篠田真由美
(2016/05/29 03:08登録)
(ネタバレなしです) 2006年発表の桜井京介シリーズ第12作ですが本書は本格派推理小説ではなく(講談社文庫版の巻末解説で加納朋子もコメントしていますが)サスペンス小説です。蒼が巻き込まれる失踪人探しと京介が巻きこまれる長崎の小島での集団焼死事件、両方とも新興宗教団体が関わっています。そして物語が進むにつれて京介に対して向けられる悪意の存在がどんどん大きくなっていきます。あのシャーロック・ホームズに対する仇敵モリアーティー教授の再現を狙ったのでしょうか。全15作のシリーズ終焉が近づきつつあることを感じさせますが、個人的には悪との対決と決着という方向の物語はこのシリーズで期待してはいないのですが。


No.1237 4点 鼻かけ三重殺人事件
ヒュー・オースチン
(2016/05/28 23:19登録)
(ネタバレなしです) 米国のヒュー・オースチン(生没年不詳)は本格派黄金時代の1930年代から1940年代に活躍した作家です。1935年発表のピーター・キント(Quintと綴るようです)シリーズ第2作で英語原題がずばり「Murder in Triplicate」の本書は、鼻をそぎ落とされて殺される事件が起き(残虐描写はありません)、警察が出動したにもかかわらず大胆に第二、第三の殺人が続くというプロットです(「鼻かけ」の「かけ」は「欠け」のことですか!)。第2章の「原作者の言葉」で「全ての事実証拠を読者に明示する」、「専門的知識を必要としない」、「共犯を使用しない」など五つの誓言が述べられ、さらに第36章の終わりには「読者への挑戦状」が挿入されるなど同時代のエラリー・クイーンを意識したパズル・ストーリーです。容疑者数は多くはありませんが動機、機会、手段の全ての要件で犯行可能な人物が絞り込めずキント係長は苦悩します。人物の個性が描かれず物語性もほとんどない全38章ですが、各章は非常に短くクイーンの国名シリーズよりは読みやすいと思います。しかしフェアプレーを強調してるがゆえにこの真相では釈然としない読者も多いのではないでしょうか。


No.1236 5点 猫は糊をなめる
リリアン・J・ブラウン
(2016/05/28 08:45登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表のシャム猫ココシリーズ第8作です。シリーズ作品としてのトピックスとして、クィラランがついに新しい新聞の創刊にこぎつけます。「ムース郡なんとか」という変わったセンスの名前になってしまった背景も本書で描かれています。謎解きはあるトリックを使ってどんでん返しを試みているのが特徴です。もっとも同じようなトリックを使ったルース・レンデルが簡単に見破られないようにきめ細かく工夫を凝らしたのに比べると、本書はトリックの使い方が粗くて普通なら警察の初動捜査で発覚してしまうと思います。まあそれでもこの作者としては謎解きに力を入れた部類だと思いますが。


No.1235 6点 三冠馬
ジョン・L・ブリーン
(2016/05/28 08:38登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表のジェリー・ブローガンシリーズ第2作の本格派推理小説です。「落馬」(1983年)で大活躍した愛すべきオリビア叔母さんは残念ながら登場しないし、マニア読者を意識したような趣向もありませんが本書は本書で面白い作品です。前作でもレースシーンはありましたが本書ではそれが三回も描かれ、いかにも競馬ミステリーという雰囲気がとても濃厚です。謎解きは前作よりやや淡白になりましたが物語のスピード感とサスペンスでは上回っています。


No.1234 4点 ライラック・タイムの死
フランシス・クレイン
(2016/05/27 20:35登録)
(ネタバレなしです) 米国のフランシス・クレイン(1896-1981)は1940年代から1960年代にかけて夫パットを探偵役、妻ジーンを語り手役にしたアボット夫妻シリーズを中心に30作ほどの本格派推理小説を書いた女性作家です(ノース夫妻シリーズで有名なロックリッジ夫妻のライヴァル的存在だったのですね)。アボット夫妻シリーズの特徴は作品タイトルに色彩或いはそれをイメージさせる単語(花とか宝石とか)を取り入れ、また作品舞台も米国のあちこちだけでなく外国も登場させたりとトラベル・ミステリー要素があるなど特に女性読者を意識したようなところがあります。本書は1955年発表のシリーズ第19作で、ライラックの季節を迎えたケンタッキーを舞台にしています。本書を読む限りではアボット夫妻は仲が悪いというほどではないにしろ、感情的になりやすいジーンと冷静すぎるパットの間には「おしどり探偵」の雰囲気は感じられませんでした。ジーンがトラブルに見舞われた時に少しは心配する素振りを見せるだけでもだいぶ違うんですけどね。真相解明は唐突で決定力不足、謎解きに期待する読者にはあまりお勧めできませんがストーリーはテンポよく進み、サスペンスも程よいです。ハヤカワポケットブック版は半世紀も前の古い翻訳で読みにくいですが、翻訳に恵まれれば個性的な登場人物や洗練された文章をもっと楽しめたと思います。


No.1233 5点 屠所の羊
A・A・フェア
(2016/05/27 20:14登録)
(ネタバレなしです) A・A・フェアは弁護士ペリイ・メイスンシリーズで有名なE・S・ガードナー(1889-1970)の別名義で、メイスンシリーズには遠く及ばないものの1939年発表の本書でスタートしたドナルド・ラムとバーサ・クールのシリーズは29長編が書き上げられました。コンビ探偵ではありますが推理も捜査も基本的にドナルドの役回りで、バーサはマネージャー的な位置づけが中心となり、そのため作品によっては彼女の影が薄いこともあります。空さんのご講評通り、メイスンシリーズもハードボイルド風なところがありますが、私立探偵を主人公にしたためか本書でドナルドがある女性とベッドインしたり、ギャングに痛めつけられてしまうなどその要素はより濃厚です。しかし本書で最も印象的なのはドナルドが11章以降でとったまさかの行動で、これには仰天しました。謎解きとしては少々不満もありますが、弁護士出身のフェア(ガードナー)にしか書けないユニークさが光ります。


No.1232 5点 陶工の畑
エリス・ピーターズ
(2016/05/27 19:59登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の修道士カドフェルシリーズ第17作です。1143年8月によその修道院と互いの所有する土地を交換することになり、10月には新しい土地の開墾を開始しますが作業中に女の死体が発見される事件が起こります。今回は犯人探しの前にまず「被害者は誰か?」という謎を解かねばなりません。「死体が多すぎる」(1979年)では割合あっさりとこの問題を片付けたのに対して、本書はなかなか被害者の正体がわからずちょっとじれったい展開ですが、謎を巡ってカドフェルと執行官のヒュー・ベリンガーが議論する場面を丁寧に描いたり、この人が被害者かと思わせてどんでん返しがあったりするなど中盤まではいつも以上に本格派推理小説らしさを感じることができます。コナン・ドイル作品に前例があるとはいえ珍しい真相を用意しており、これは(当てずっぽうでも)見抜くことは難しいでしょう。フェアに手掛かりを提示しているわけではないので不満を感じる読者もいるかもしれませんが。最後にこの事件をどう幕引きするのかという課題を突きつけているところは「死者の身代金」(1984年)を連想しました。


No.1231 4点 グルメ警部キュッパー
フランク・シェッツィング
(2016/05/27 19:49登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表の本書のドイツ語原題は直訳すると「殺人の渇望」、ランダムハウス講談社文庫版のふざけたような日本語タイトルとはイメージが随分違います。確かにユーモアは豊富でしかも強烈ですが、一方でキュッパーが悩んだり怒ったりする場面も挿入して適度に引き締めています。ジャンル分けが難しい作品で、警察小説としてはキュッパーの所属するケルン警察がほとんど描かれていないし、本格派推理小説としては(キュッパーが目撃した)決め手となる手掛かりをフェアに描写していないのが不満です。まああの手掛かりは伏線としてさりげなく描くのが極めて難しい手掛かりではあるのですが。ストーリーテリングは優秀で、個性豊かな人物のやり取りやサスペンスたっぷりの終盤など読みどころはたっぷりです。


No.1230 3点 ルコック探偵
エミール・ガボリオ
(2016/05/27 19:28登録)
(ネタバレなしです) 1869年発表のルコックシリーズ第5作です。もっともシリーズ作品としての統一性は全く考えていなかったのでしょう。本書がルコックの初事件のように書かれていますし、また「ルルージュ事件」(1866年)ではルコックを犯罪者出身の警官と紹介していたのが本書では前科などないように描かれています。本書の特色は何といってもそのプロット構成で、前半はルコックの捜査小説、後半は歴史ロマン小説と全く異なる物語を2つ繋げたような作品です。コナン・ドイルの「緋色の研究」(1887年)に強い影響を与えたのは明らかで、ドイルが作中で本書のことに言及しています。ただ本書が「ルルージュ事件」と比べても読みにくく感じたのは、東都書房版にしろ旺文社文庫版にしろ抄訳版で翻訳が古いことも大きな理由ですが、この構成に問題があるように思います。特に後半部はルコックが登場せず(エピローグでは登場)、ミステリー要素も全くないので事前知識なしに読むと退屈に感じてしまうと思います。また前半部も「ルルージュ事件」が一応犯人当てとして成立しているのに対して本書はそういう一般的な謎解きでないのも、とっつきにくさに輪をかけています。マニア読者や評論家向けの作品という評価に留まるでしょう。


No.1229 5点 空高く
マイケル・ギルバート
(2016/05/27 17:34登録)
(ネタバレなしです) 1955年発表の本格派推理小説です。大空を舞台にしているかのような雄大なタイトルですが飛行機も鳥も登場せず、足、自動車、バイクで地上を駆けずり回っています(笑)。爆弾が使われることもあって戦後という時代性を強く感じさせているのが特徴です。推理がかなり粗くて探偵役の謎解き説明はぴんと来ないところがありますが(私の理解力不足もありますけど)、その裏でじわじわとサスペンスを盛り上げていく手法がなかなか効果的です。


No.1228 5点 ジャスミン・ティーは幽霊と
ローラ・チャイルズ
(2016/05/26 15:22登録)
(ネタバレなしです) 「ゴースト・ウォーク」が開催されたジャスミン墓地で殺人が起きる、2004年発表の「お茶と探偵」シリーズ第5作です。マンネリと言えばマンネリですがお茶や菓子の魅力的な描写、ユーモア溢れる軽妙な会話、そして物足りない謎解き(笑)がお約束のごとく読者に提供されています。これまでも推理よりは幸運(?)で真相に到達しているセオドシア、名探偵としての評価がどんどん高まっていてシャーロック・ホームズ扱いですね。これだけ死体に遭遇していたらむしろ死神扱いされてもおかしくないのではと突っ込みたくなります(笑)。


No.1227 5点 ブルクリン家の惨事
G・D・H・コール
(2016/05/26 15:19登録)
(ネタバレなしです) 夫婦によるコンビ作家として有名なコール夫妻ですが、ミステリー第1号となる1923年発表の本書は例外的に夫のG・D・H・コール(1989-1959)単独による作品です(新潮文庫版の巻末解説では本書も夫婦共著のように紹介されていますが間違いです)。シリーズ探偵であるウィルソン警視初登場の作品でもありますが彼が全面的に活躍するわけではなく、警察、弁護士、アマチュア探偵コンビがそれぞれ謎を解いていく展開となります。それぞれが独自に捜査しつつも要所では情報の探りあいや共有化もやっていますので、単純な犯人当て競争とも違った趣があります。この人が犯人ではという仮説が先にありきで(理由はあっても非常に根拠薄弱です)、その後で証拠固めに入るというプロットが珍しく、犯人がわかればほとんど終わりという通常の本格派推理小説に慣れている読者には多少まどろこっしく感じるかもしれません。


No.1226 5点 吸殻とパナマ帽
ジョン・ロード
(2016/05/26 14:47登録)
(ネタバレなしです) ロードの後期作品ではプリーストリー博士は現場にも行かずアドバイザーに徹し、探偵役として動くのはジミー・ワグホーン警視という役割分担になる場合が多いそうですが、1956年のシリーズ第63作の本書はまさにその典型です。出番があまりに少ないせいか本書(現代推理小説全集版)の登場人物リストに名前を載せてもらえなかったのはちょっとお気の毒な気もしますけど(笑)。とはいえ本書のプリーストリー博士の推理は可能性を示唆するといった程度で、これでは名探偵として十分責任果たしたとは言えないでしょう。ワグホーンの方はというと足の探偵としてはまあ頑張ってはいますが、結局謎が解けたのは幸運の賜物だったような気がします。名探偵にびしっと「犯人は君だ!」と指摘して欲しい読者にはそこが物足りないかもしれませんがストーリーはシンプルで読みやすく、理系トリックが使われているところにロードの個性を感じます。雷鳴の中の謎解き場面がやや浮いた演出に感じなくもありませんが、それまでがひたすら地味な展開だったので作者としてもそろそろ盛り上げたかったのでしょうね。


No.1225 5点 蒼ざめた馬
アガサ・クリスティー
(2016/05/26 14:37登録)
(ネタバレなしです) 殺された神父が死の直前に書き記したメモには9人の名前が残されており、警察がその身元を調べていくと既に亡くなった人物が次々と浮かび上がって来るがいずれも病死としか思えなかったいうプロットの1961年発表の本格派推理小説です。シリーズ探偵は登場しませんがポアロシリーズ後期作に登場するアリアドニ・オリヴァ夫人が顔を見せているのが読者サービスになっています(但し本書では探偵活動はしません)。また「ひらいたトランプ」(1936年)や「動く指」(1943年)の登場人物も再登場しています。オカルト本格派のように紹介されることもあり、確かにそういう一面もあるのですがそれほど不気味な雰囲気はなく、案外淡々と物語は進みます。謎解きプロットはクリスティーとしては粗い出来で、かなりご都合主義的に解決へと進んでいくような感もあります。もっとも第7章で主人公のマークが「どうしてリストと蒼ざめた馬を結びつけたのだろう」と述懐しているように作者自身もそれは先刻ご承知のようですが。余談ですが冒頭に登場するバナナ・ベーコン・サンドイッチって食べてみたいような、みたくないような...。さすがサンドイッチの発祥地イギリスですね(笑)。


No.1224 6点 死をもちて赦されん
ピーター・トレメイン
(2016/05/25 17:45登録)
(ネタバレなしです) 英国のピーター・トレメイン(1943年生まれ)はアイルランド文化、ケルト文化の研究者としても名高く、7世紀アイルランドを舞台にして修道女フィデルマを探偵役にした歴史本格派推理小説シリーズの時代描写には非常に説得力があります。1994年発表の本書はシリーズ第1作で、歴史上実在した人物が何人か作中に登場していますが誰もなじみがなかったです(笑)。もっともマニアックな歴史知識の披露を目的とした作品ではなく、物語としてしっかりしているので歴史や宗教が苦手な読者でも十分読める内容です。エリス・ピーターズの修道士カドフェルシリーズ作品ほどには人間ドラマとしての面白さに力を入れていませんが、謎解きは本書の方が充実しています。


No.1223 7点 QED 竹取伝説
高田崇史
(2016/05/25 17:37登録)
(ネタバレなしです) 「QED 式の密室」(2002年)の幕切れから物語が始まる、2003年発表の桑原崇シリーズ第6作の本格派推理小説です(前作のネタバレはありませんし、読んでいなくても問題はありません)。このシリーズは歴史や文学の謎解きと現代に起こった犯罪の謎解きの両方を楽しめるのが特長ですが、本書では前者に関しては「竹取物語」という童話などでなじみ深い文学を取り上げています。後者も魔のカーブと呼ばれる場所で連続する交通事故で死んだ2人が2人とも竹が光ったと言い残したという大変魅力的な謎が用意されていて、これまでに読んだ作品の中では1番ページをめくる手がもどかしく感じられた作品でした。それだけに謎が盛り上ったところで、話が切り替わってしまう展開が何とも歯がゆく感じる時もありましたが。専門的知識を求めているので読者が解決前に真相を当てるのは難しいと思いますが、なかなかユニークなトリックが使われています。


No.1222 6点 ミドル・テンプルの殺人
J・S・フレッチャー
(2016/05/25 16:25登録)
(ネタバレなしです) 19世紀から作品を発表していた英国のJ・S・フレッチャー(1863-1935)は長編作品を得意とし、100冊近い作品を発表するほどの人気作家でしたが死後急速に忘れ去られたという点でオーストラリアのファーガス・ヒューム(1859-1932)と共通しています。1919年発表の本書は米国大統領ウイルソンが賞賛した代表作として有名な作品です。世界推理小説大系版の巻末解説であの松本清張が的確に分析していますが、地道な捜査で少しずつ謎が明かされるタイプの作品です。証人が自発的に情報を提供しに来る展開に都合よすぎる部分もありますがおかげで話の進むのは早く、読みやすい娯楽作品に仕上がっています。しかし犯人当て本格派推理小説としては欠点も多く、犯人の正体は終盤ぎりぎりまで明かされません。しかも探偵役さえも土壇場にならないと真相に気づかないプロットなので、「唐突な解決」の究極型とも言えるでしょう。これで最後に提示された手掛かりに説得力があればまだ救いはあるのですが、疑う分には有力ではあるけど決定的証拠とは言い難いです。もちろん読者が推理に参加する要素など皆無に近く、1920年にデビューするアガサ・クリスティーの作品を「古典」と位置づけるなら本書は明らかに「前古典」の評価に留まります。私の評価点は書かれた時代を考慮して少しおまけしています。


No.1221 4点 殺人を一パイント
アリサ・クレイグ
(2016/05/25 15:09登録)
(ネタバレなしです) シャーロット・マクラウド(1922-2005)はアリサ・クレイグという別のペンネームでマドック&ジェネットシリーズやディタニー・ヘンビットシリーズを書いています。マクラウド名義の作品とクレイグ名義の作品に大きな作風の違いはなさそうですが前者はアメリカを、後者はカナダを舞台にしています。本書は1980年発表のマドック&ジェネットシリーズ第1作です。シャンディ教授シリーズのバラクラヴァ農大の愉快な面々やセーラ・ケリングシリーズの風変わりなケリング一族といったお騒がせ役が醸し出すにぎやかさがなく、ジェネットが少々不幸がかっているところもあってそれほどユーモアは感じられません。ロマンスもマクラウド名義の「にぎやかな眠り」(1978年)でシャンディ教授が若返ったかのように積極的だったのに比べるとこちらはずっと控えめです。解決場面はやや唐突で、しかも主役のマドックよりも他の事件関係者の方が一杯喋って犯人を追い詰めているのが何とも不思議でした。もう1人の主役ジェネットに至っては何も発言していなかったように記憶しています。

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