二巻の殺人 ヘンリー・ガーメッジシリーズ |
---|
作家 | エリザベス・デイリー |
---|---|
出版日 | 1955年02月 |
平均点 | 4.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | 人並由真 | |
(2020/12/23 05:39登録) (ネタバレなし) 1940年6月5日。ニューヨーク在住の古書研究家で34歳のヘンリー・ガーマジ(本書での和名表記)は、初老の婦人ロビナ(ロビン/ロブ)・ボールガードの訪問を受ける。ロビナの大叔父で当年80歳のインプリーは隠居した不動産業界の大物で資産家であり、1827年に建てられた旧邸宅に住んでいた。だがその屋敷ではちょうど100年前の1840年、庭の東屋(あずまや)に入った若い美女リディア・ワグナーが、バイロンの著作全集の第二巻を手にしたまま消えてしまった? という怪異の伝承があった。そして現在、古老インプリーの同屋敷では、その100年前の美女が当時の姿のまま、そしてくだんのバイロンの全集の第二巻を携えて暮らしているという!? しかも老境に入ってオカルト研究に傾倒し、四次元の存在も信じるインプリーは、今はリディア・スミスと名乗るその美女が一世紀前のリディア・ワグナーと同一人物だと確信しているようだ? この特異な事態を調査、対処してほしいというロビナの依頼に、古書への関心もあって応じるガーマジ。だがやがて屋敷では、思わぬ殺人事件が。 1941年のアメリカ作品。 <四次元世界から戻って、若いままの姿で現世に出現した一世紀前の美女?>というオカルト的な怪異の謎。『ウルトラQ』の怪鳥ラルゲリュース(ラルゲユウス)みたい(笑)で、この趣向だけでもうワクワク。 なおポケミス(世界探偵小説全集)の裏表紙の解説では、訳者の青野育が「(この手の謎の設定は)類型のものがいくつかあるが」と謙遜めいた防波堤を先に張っている。しかし評者などは寡聞にして、こんな<不老の女性の不思議な帰還>という趣向まんまな海外ミステリのクラシック~新古典作品などは、あまり聞いたことない。むしろ国内の近作『鉄鼠の檻』とか『死なない生徒殺人事件』とかの方が近しい感じがする。 (まあ広い視野で見れば『火刑法廷』あたりも近い……のかも。) 評者はデイリイ作品はこれで3冊目だが、人間関係の交錯を軸にした謎解きミステリとしてどれも一定以上に面白い。登場人物の配置と個々のキャラの書き込みのバランスが適度に心地よく、クリスティーが期待の後輩として評価したというのもよくわかる。先輩に通じるものをこの作品でもなんとなく感じるし。 売りの趣向といえる<四次元から帰ってきた不老の美女の謎>の真相解明はややあっさり気味だが、とある登場人物の心理を思いやるなら、それなりに説得力のあるもので、個人的には(ミステリとして、お話として)一応の納得はいった。 一方で殺人事件の推理の方はもう少し整理してほしいが、(中略)を入手して保管する手がかりなど、それなりの工夫は感じた。まあ本当にもうちょっと言葉を足して説明してほしいのは(中略)。 あと、古書という趣向に関しては、う~ん……。 最後に、本サイトやAmazonのレビューなどあちこちで、訳が古くて読みにくいと言われているが、個人的には当初からその心づもりで取り組んだのでそんなにシンドくもなかった。この翻訳家の訳書は数年前に、ミルドレッド・デイヴィスの『葬られた男』とか、まあまあフツーに楽しんでいるし。 これで邦訳されてまだ未読のデイリイの長編はあと一冊。未訳作の発掘、もうちょっとされないものだろうか。 |
No.2 | 4点 | nukkam | |
(2016/05/21 23:53登録) (ネタバレなしです) 1941年発表のヘンリー・ガーメッジシリーズ第3作です。本書をビブリオ・ミステリーの代表作と紹介している資料もありますが、それほど文学知識を羅列している印象は受けませんでした。もっともプロットの妨げになってしまうよりはいいと思います。事件のサスペンスよりも複雑な人間関係描写に力を入れたようなところがあり、テンポは総じてゆったりしています。謎解きははっきり推理を説明せず、唐突に解決されたような感があって本格派推理小説としてはちょっと物足りなく感じました。ハヤカワポケットブック版は半世紀上前の翻訳で読みにくくなってきたのでそろそろ新訳版が望まれます。 |
No.1 | 4点 | kanamori | |
(2010/10/08 17:31登録) 古書研究家の素人探偵ヘンリー・ガーマジが登場するシリーズ第3作。 発端の、100年前の伝説と同じようにバイロン詩集第2巻を持つ女性の出現という”つかみ”の謎の部分が、物語に有機的に活かされていないので拍子抜けの感がありました。 この時期のポケミス共通の、訳文が古いというハンデもありますが、探偵役を始めとして登場人物の描き分けも不十分で、退屈な読書になってしまいました。 第1作の「予期せぬ夜」は小粒ながら面白かった憶えがあるので、やはり翻訳技術のせいでしょう。シリーズは1940年代に16冊も書かれているようなので、新訳が出れば手を出すと思います。 |