ミドル・テンプルの殺人 |
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作家 | J・S・フレッチャー |
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出版日 | 1962年01月 |
平均点 | 6.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 8点 | mediocrity | |
(2019/11/20 06:39登録) ちょうど100年前の作品。タイトルは本格推理ぽいが、実際は意外にも2時間ドラマ的とでも言おうか。『新聞記者探偵スパーゴの事件簿-ミドル・テンプルの殺人』と言った感じだ。要するに警察がすべき捜査を、たまたま殺人現場に遭遇した新聞記者がほとんどやってしまうタイプの話である。 などと書くと、つまらなさそうに思えるかもしれないが、本書は非常に面白かった。全36章だが、毎章ほとんど停滞することなく新事実が浮かび上がっては、次の章への興味を掻き立てる。殺人事件は冒頭の1件だけなのだが、あれほど話を展開できるのには驚いた。都合の良い証言があまりにも簡単に集まりすぎるが、その分流れが良くなっているので読み進む手が止まらない。 終盤、墓を掘り起こす辺りまでは文句なしに近い出来だったが、その後突然、野を越え山越えの冒険になってしまったのは面喰った。あの描写は必要だとは思えなかった。 最大の欠点は終結部。最後犯人が明かされるが、かなり説明不足である。証拠不足であるし、犯人の自白もなしに終わってしまう。もっと言えば他の人が犯人でないという決定的な証拠もない。 とはいえプロットは横溝氏の名作群と同じくらい気に入ったので、時代も考えてちょっと甘目に8点で。 |
No.2 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2019/09/28 23:59登録) 丁度100年前の1919年の作品。新聞社の副編集長(年齢は若い)が死体の発見現場に遭遇し、残された手がかりから捜査を開始するというもの。現代風に言えばフーダニットそして意外な犯人像ということになりますね。読み終えた後、一瞬、ラストが唐突で説明不足とも感じます。しかし、それは現在のミステリーに慣れ親しみ、それと比べてしまっているからだと思いました。この時代に、このプロットの作品を書き上げたことに敬意を表します。 |
No.1 | 6点 | nukkam | |
(2016/05/25 16:25登録) (ネタバレなしです) 19世紀から作品を発表していた英国のJ・S・フレッチャー(1863-1935)は長編作品を得意とし、100冊近い作品を発表するほどの人気作家でしたが死後急速に忘れ去られたという点でオーストラリアのファーガス・ヒューム(1859-1932)と共通しています。1919年発表の本書は米国大統領ウイルソンが賞賛した代表作として有名な作品です。世界推理小説大系版の巻末解説であの松本清張が的確に分析していますが、地道な捜査で少しずつ謎が明かされるタイプの作品です。証人が自発的に情報を提供しに来る展開に都合よすぎる部分もありますがおかげで話の進むのは早く、読みやすい娯楽作品に仕上がっています。しかし犯人当て本格派推理小説としては欠点も多く、犯人の正体は終盤ぎりぎりまで明かされません。しかも探偵役さえも土壇場にならないと真相に気づかないプロットなので、「唐突な解決」の究極型とも言えるでしょう。これで最後に提示された手掛かりに説得力があればまだ救いはあるのですが、疑う分には有力ではあるけど決定的証拠とは言い難いです。もちろん読者が推理に参加する要素など皆無に近く、1920年にデビューするアガサ・クリスティーの作品を「古典」と位置づけるなら本書は明らかに「前古典」の評価に留まります。私の評価点は書かれた時代を考慮して少しおまけしています。 |