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ミステリの祭典

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ガラス箱の蟻
ジェイムズ・ピブル

作家 ピーター・ディキンスン
出版日1971年05月
平均点5.50点
書評数6人

No.6 5点 レッドキング
(2023/11/28 22:38登録)
ピーター・ディキンスン処女作。ロンドンに集団移住し半ば耶蘇教に改宗したニューギニアの架空種族。酋長が殺され、SF設定でないまでも異世界コードミステリ?と振っといて、現世的なWho・Why落ちだった。同じWhyなのに、「エンジェル家の殺人」の方は何か「面映ゆかった」が、こっちは「腑に落ちた」。邦題の「異生物を観察する支配者」センス以上に、原題(Skin Deep)の醸し出す「どうしようもない宿命感」が痛い。にしても、ニューギニアの原住民もアフリカ系も一緒くたに「黒人」と呼び下す何と「らじかる」な言語センス・・半世紀前といえ・・

No.5 6点 人並由真
(2021/11/19 04:59登録)
(ネタバレなし)
 少年時代にどっかの新刊書店で購入し、しかし一筋縄でいかない作品であろうという予見と不安が高まってウン十年。思いきって、ようやっと今夜、読んだが……うーん、こういう話か。

 まあ評者はまだ『盃の~』と『毒の~』しか読んでないんだけれど、それでもきっと<この作者らしい>内容ではあろう。
 異文化同士の摩擦から、謎解きは泡坂のあの短編みたいな超論理めいたものになるのでは? と期待したが、いや、ラストはまったく別の方向にストトンとオチた。
 ピブルの観測と推理で説明される真犯人と事件の真相はいささか舌っ足らずな感触もあったが、一方で、これ以上丁寧に語ると、現状のなんともいえない味が薄れてしまいそうな気配はある。確かにパズラーとしてのミステリと考えるならば、この結末はなかなか面白かった。

 で、個人的にちょっと残念に思ったのは、某メインキャラ(ちゃんと巻頭の人物表に名前が出ている)の翻訳上のキャラ演出が、あまりよくなかったのでは? ということ。確かに(中略は)ピブルと(中略)なんだろうけれど、(中略)はもっと(中略)というキャラ設定なんだよね? その辺のキャラクター同士の距離感などが、あんまり感じられない翻訳であった。ここがもうちょっと座りが良ければ、終盤はもっと効果があったよな。

 とはいえ、ページ数は短めだけれど、内容の密度はそれなりに濃かった。未読のピブルシリーズはまだ何冊も残っているが、おそらくコレが一番マトモなミステリっぽいらしい? というウワサにも納得。

 まあソレはソレとして、未訳のピブル最後の長編「One Foot in the Grave」(墓場に片足、の題名通り、養老院でピブルはボケて死にかかっていると聞く)の翻訳そろそろ出ないかの? 大昔にミステリマガジンだったか「EQ」だったかの海外ニュース記事でこの作品の内容を知って以来、読みたくてたまらないんだけど(だって、ソコまでレギュラー名探偵を蔑ろにした作品はそうそうないよね!? 興味が湧いて仕方がないじゃん)。

No.4 5点
(2018/12/30 14:42登録)
 「君向きの事件だ」
 ロンドン警視庁のピブル警視は、同僚のグレアム警視に奇妙な事件を押し付けられた。日本軍の虐殺を逃れ、ロンドンの一角フラッグ台地(テラス)に隠れ住むニューギニアの一部族、クー族の生き残りたち。彼らの酋長アーロンが、階段の踊り場で殴り殺されたのだ。凶器は柱から取れたフクロウの彫刻。犯人は左利きで、なぜか被害者は両側ともに肖像のある奇妙な銅貨を握りしめていた。
 殺されたのもクー、容疑者も全部クー、証人もクー。ピブルはもつれた事件の謎を解くため、特殊な風習を持つクー族たちとの接触を試みるが・・・。
 ピーター・ディキンスン処女作にしてゴールド・ダガー賞受賞作。1968年発表。例によって奇天烈なシチュエーションですが、きちんと伏線も張ってあり、まあ一番普通のミステリに近い作りだと思います(加減してコレかよという気もしますが)。
 クー族は同じく日本軍に殺された宣教師の娘イブの経済的な庇護下にあるのですが、その状況はタイトル通り「ガラス箱の蟻」。人類学の博士号を持つ彼女の研究対象になっています。ですがクー族の方もそれを察して行動している状況。観察しているのかそれとも実は逆なのか、一筋縄ではいきません。
 彼女の部族内での扱いも高くはなく、「男」と認識されることで辛うじて発言可能な状況。また「僧侶」という特殊な立ち位置の存在など、設定の見所は多いです。
 残念なのは処女作ゆえか、これらの要素が謎解きと有機的に絡んでいないこと。異なる世界の論理がプロットを形作るのではなく、まだ「舞台設定に異様に力の入ったミステリ」の域に留まっています。終盤のクー族の儀式描写などただごとではないですが。
 ディキンスンの本領が完全に発揮されてないので、プレミア付HPB4冊の中から選ぶとすれば、多分一番先に外すでしょうね。所詮好みの問題ですが。

No.3 6点 クリスティ再読
(2018/02/04 22:13登録)
CWAを2年連続でしかも処女作・第二作と連続受賞、という、たとえて言えば藤井聡太四段級のデビューを飾ったディキンスンの、その処女作である。MWA と比較すると、CWA って日本ウケの悪い作品が多い印象が強いのだが、本作もイギリス人らしい捻った作品で、日本じゃあまりウケなかったように記憶する。けど今は古本にプレミアついてるよ...
で本作、ニューギニアの原住民が第二次大戦を逃れて住むロンドンのアパートで、旧い儀式を守りながら暮らしている...その中で殺人が起きた!という話である。諸星大二郎の大傑作「マッドメン」の中で、近代的なホテルの一室でペイバックのための呪術を行うニューギニアの部族民...というのを評者はついつい連想してして、妙に感動してしまうのだ。まあこの人、こういう感じで非常に凝った奇抜な設定のミステリを連発して、ツウな読者向け作家だったわけで、本当に「設定自体がパズル」といった感じの、奇妙な味とパズラー風味を両立させる作風である。
主人公は「変わった事件を解決する一種の勘をもっている」ピプル警視。落ち着いて内省的なキャラがいい。「隣の事件は、とてもごちゃごちゃして複雑ですが、わたしはそれを整理したくありません。ただ眺めていたいのです」と言う。現象学的社会学とかエスノメソドロジーとかそういう雰囲気の捜査術である。だから事件も自然と解決していくようなものだ。
後半、新しく「僧」となる少年が主催する儀式を、ピプルが見学させてもらうのとか、結構興味深々で読ませてもらったが、人類学みたいな視点なんだろうね。評者とか面白く読んでも、捉えどころがなくて面食らう人も多かろう。

No.2 5点 nukkam
(2016/05/25 13:16登録)
(ネタバレなしです) アフリカ生まれの英国作家ピーター・ディキンスン(1927年生まれ)はミステリー、SF小説、ジュヴナイル(児童書)など広範囲に多くの作品を発表しており、しかもどのジャンルでも高い評価を受けています。1968年発表のピブル警視シリーズ第1作である本書は小説第1号でもありますが、これがいきなりCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞(その年の最高ミステリー評価)を獲得するという大快挙を成し遂げています。作品舞台に奇抜な世界を用意することが多いのがディキンスンの特徴で、本書は舞台こそ英国ですがニューギニアから移住してクー族(被害者もその1人)の集団生活を描いた独特のものです。プロットの複雑さに加えて通常通りに進まない捜査のためか結構読みにくかったです。本格派推理小説として謎解き伏線はそれなりにしっかりと準備されていますが、動機はやや後出し気味の感があります。ともあれ謎解きよりも雰囲気を重視したような作品で、読者の好き嫌いは分かれそうです。

No.1 6点 kanamori
(2010/04/18 14:20登録)
ロンドン警視庁のピブル警視シリーズの第1作。
「毒の神託」や「キングとジョーカー」などディキンスンの小説は、独特で異様なシチュエーションを設定しておいて、その中で本格ミステリを行うというのが定番のようです。
シリーズものの警察小説である本作も例外ではなく、20年前にニューギニアからロンドンに移ってきた部族の中で酋長が殺害された事件を扱っています。この部族はアパートの一室から出ようとせず一日中テレビの画面を見つめているなど、非現実的な生態なのに、いやにリアリテイがあって印象的に描かれています。
そういった世界だから、この殺害動機なわけで、本格ミステリとしても及第点。万人向けの小説ではないですが、ツボに嵌る人には楽しめると思います。

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