nukkamさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.1405 | 7点 | 月の扉 石持浅海 |
(2016/07/06 09:13登録) (ネタバレなしです) 2003年発表のミステリー第2作の本書はロマンチックなタイトルとは裏腹にハイジャッカーが子供を人質にとるという汚い犯罪で幕を開けます。犯人と人質、或いは犯人と警察との対決やアクションシーンを描いたハードボイルドではなく、飛行機内で起こった殺人をハイジャッカーの依頼でアマチュア探偵の座間味くんが(なかなかいい味出しています)殺人犯を探すという本格派推理小説です。舞台設定こそ奇抜ですが謎解きプロットは正統派スタイルで、ハイジャックものとしてはサスペンス不足だと思いますが本格派推理小説としてはこのぐらいが丁度いいと思います。登場人物の考え方には賛否両論あるでしょうが、幻想的で切ない締めくくりはタイトルにふさわしい幕切れを演出しています。惜しまれるのは(多くの方のご講評で指摘されているように)重要人物のはずの石嶺がほとんど存在感がないことでしょう。 |
No.1404 | 5点 | 七十五羽の烏 都筑道夫 |
(2016/07/06 08:44登録) (ネタバレなしです) 1972年に発表した本書は長編本格派推理小説ジャンルにおける作者の代表作とされています。書くに当たって情感を抑え、解決のプロセスを重視し、フェアプレイを徹底することを条件にしており各章の冒頭で「依頼人は嘘をひとつもついていない」、「重大な手がかりあり要注意」など読者に警告しています。当然のように「読者への挑戦状」的なメッセージもあり、この時代にこれだけ論理的謎解きにこだわった本格派は珍しかったのではと思います。ただ喜怒哀楽をほとんど表さない人物描写は平面的でプロットもメリハリに乏しいです。短編ならまだしも長編小説としてはこの味気なさは(悪い意味で)気になりました。フェアプレイについても(ネタバレになるので詳細を書きませんが)ちょっと気になる点がありました。 |
No.1403 | 6点 | 凍える島 近藤史恵 |
(2016/07/06 08:38登録) (ネタバレなしです) 近藤史恵(1969年生まれ)の1993年発表のデビュー作でシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。孤島を舞台にした連続殺人事件ものというで私は綾辻行人のデビュー作「十角館の殺人」(1987年)を思い出しましたが全く雰囲気の違う作品です。ちゃんと推理で謎解きしているし、さりげないけど巧妙なトリックなども光りますが複雑な人間関係と心理描写が織り成すサスペンスが持ち味です。カタカナ記述が「テエブル」とか「カアテン」とか独特で、私は大昔の外来語表記はこんなだったねとちょっと懐かしいぐらいに思ってあまり気にしませんでしたが若い世代の読者は違和感を覚えるかもしれません。ちなみに作中時期は真夏なんですがこのタイトルは作品内容によく合致していると思います。 |
No.1402 | 5点 | 鬼流殺生祭 貫井徳郎 |
(2016/07/05 18:43登録) (ネタバレなしです) 舞台を明治時代(但し作中では「明詞」という仮想の時代)にして1998年に発表された本書は作者が本格派推理小説の「定型」を意識して書かれたためか謎解きに重点が置かれているところが私好みです。しかし読後の印象として残ったのはトリックや推理の冴えではなく、事件が引き起こした悲劇性でした。そういう点ではこの作者の「慟哭」(1993年)と共通しているように思います。 |
No.1401 | 5点 | 安達ヶ原の鬼密室 歌野晶午 |
(2016/07/05 18:40登録) (ネタバレなしです) 2000年に発表された本書はタイトルから古風で和風な作品を予想するとこれが見事に裏切られます。まずひらがなのみで書かれた児童小説「ナノレンジャー」が冒頭に置かれ、次にアメリカを舞台にして切り裂き魔事件を描いたサスペンス小説タッチの「The Ripper」が続きます。「鬼密室」編は講談社文庫版で150ページを過ぎてからようやく始まります。シーマスターさんやE-BANKERさんがご講評されている通り、時代も舞台も違う3つの物語(鬼密室に関しては過去と現代の事件があるので2つの物語と考えてもよいかも)から構成された連作形式の本格派推理小説です。島田荘司が好みそうな大トリックが使われているのが印象的です。 |
No.1400 | 6点 | 時の密室 芦辺拓 |
(2016/07/05 18:30登録) (ネタバレなしです) 2001年発表の森江春策シリーズ第9作の本格派推理小説で、「時の誘拐」(1996年)の姉妹作とされますが「時の誘拐」を先に読んでいなくても鑑賞に支障はありません(とはいえ「時の誘拐」の事件関係者がちょっとだけ本書で顔見せしています)。講談社文庫版で500ページを越す分量がありますが「時の」というタイトルにふさわしく1876年、1903年、1970年、そして現代とまたがる展開に加えて実に6つの密室が登場するのですから退屈するわけもありません。中にはどう拡大解釈しても密室には思えないものもありますけど、それでも魅力的な謎と謎解きが楽しめることは間違いありません。 |
No.1399 | 5点 | 3000年の密室 柄刀一 |
(2016/07/05 17:13登録) (ネタバレなしです) 柄刀一(つかとうはじめ)(1959年生まれ)の1998年発表の長編デビュー作である本格派推理小説です。前半は長野県の洞窟で発見されたミイラの素性をめぐっての考古学的分析が大半を占め、密室の謎(ミイラに殺された形跡があった上に洞窟が密室状態だった)についてはほんのわずかしか言及されず、考古学に興味のない読者にはやや冗長に感じるかもしれません(私のレベルではハードルが高過ぎました)。考古学論議、3000年前の事件と現代の事件のそれぞれ凝ったトリック、犯人の異様な告白、主人公のトラウマなど実に色々な要素を詰め込んでいますがちょっと手を広げすぎのような感もします。 |
No.1398 | 6点 | 46番目の密室 有栖川有栖 |
(2016/07/05 16:29登録) (ネタバレなしです) 1992年発表の火村英夫シリーズ第1作となる本格派推理小説です。ワトソン役にアリス(男です、念のため)を配しているのは江神二郎シリーズと同じですがこちらのアリスは推理作家という設定です。シリーズ第1作といっても火村の特別な紹介場面もなく、スムーズに物語が進行します。とはいえ第2章での火村の告白には仰天しましたが。もったいぶった言い回しで読者(とアリス)をいらいらさせることのない火村の説明には好感を抱きました。容疑者とのやり取りよりも現場調査(フィールドワーク)の方に力を入れているのが新鮮でした。タイトルは魅力的に過ぎます。45の密室トリックが紹介されるものと勝手に期待してしまいました。 |
No.1397 | 6点 | ミステリ・オペラ 山田正紀 |
(2016/07/04 13:19登録) (ネタバレなしです) 執筆中に生命を落としかねないほどの大病を患いながら書き上げ、2001年に発表した本書はハヤカワ文庫版で上下巻合わせて1100ページを越す大作の本格派推理小説です。導入部がややごちゃごちゃして読みにくいですが、途中からはすらすら読めました。謎も沢山提供され、空中浮遊、暗号、密室殺人、貨車消失、首なし死体など「豪華幕の内弁当」的な楽しさがあります。1つ1つの描写はややあっさりしている感もあり、これがメインの謎と感じるものがないのがちょっと惜しいのですが、細部よりも壮大な絵巻を楽しむべき作品です。平行世界(パラレル・ワールド)に関する記述が私には難解過ぎましたがSFミステリーではありません(ちょっとSF風な場面がありますけど)。なおハヤカワ文庫版の巻末解説はネタバレがあるので事前には目を通さないことを勧めます。 |
No.1396 | 6点 | 長い家の殺人 歌野晶午 |
(2016/07/04 13:07登録) (ネタバレなしです) 歌野晶午(1961年生まれ)のデビュー作が1988年発表の本書です。謎解き一本槍の本格派推理小説で小説としての面白さを追求する余裕はまだありませんが謎の盛り上げ方やフェアな手掛かりの配置には既に確かな技術を示しています。それにしても探偵役の信濃譲二は「人を小馬鹿にしたような態度、気まぐれな性格、詭弁家のような語り口」と(嫌われ者の戸越に言わせるぐらい)癖のあるキャラクターを採用したものですね。シリーズ探偵としては短命に終わったのも仕方ないと思います。 |
No.1395 | 6点 | 求婚の密室 笹沢左保 |
(2016/07/04 12:12登録) (ネタバレなしです) 笹沢左保は多作家ゆえに簡単にアイデアが浮かぶと思われているようですが創作力が落ちて壁にぶち当たった時期もあったそうです。一世を風靡した木枯し紋次郎シリーズに代表される時代小説家として復活するのですがミステリーへの意欲も再び湧いてきたらしく、1978年発表の天知晶二郎シリーズ第2作の本書は堂々たる本格派推理小説で密室に推理合戦と謎解き好き読者にはたまらない趣向が用意されています。密室トリックは解くのも実行するのも難易度が高いと思いますがタイトルにわざわざ使うだけあってよく考えられています。作者が目指した「ロマンとムード・サスペンスの味つけ」も(好き嫌いは分かれるかもしれませんが)効果的です。 |
No.1394 | 8点 | 十角館の殺人 綾辻行人 |
(2016/07/04 08:58登録) (ネタバレなしです) 綾辻行人(1960年生まれ)は時代遅れとされていた本格派推理小説を復活させた「新本格派」の代表的作家として日本ミステリーの歴史を語る時にその名を外すことは考えられないほどの存在です。綾辻以前にも島田荘司や笠井潔などが本格派の力作を書いていたことも事実ですが、ムーヴメントを起こしたと評価されるほど1987年発表のデビュー作である本書の歴史的意義は大きいです。謎解きの面白さを再認識してくれ、という作者の熱い思いがひしひしと伝わってくるのに本格派好きの私としては大いに共感でき、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)を連想させるプロットも大歓迎です。惜しまれるのは存在感ある名探偵を描けなかったことで、おかげでこのシリーズは探偵の名前ではなく「館シリーズ」と呼ばれるようになってしまいました(笑)。 |
No.1393 | 5点 | なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? アガサ・クリスティー |
(2016/07/04 08:38登録) (ネタバレなしです) 1934年発表の本書(シリーズ探偵は登場しません)は推理もあるし犯人を終盤まで伏せているプロットではありますが冒険スリラーに属する作品です。特にエヴァンズの正体に本格派推理小説の謎解きを期待するとがっかりするでしょう。江守森江さんのご講評の通り、そこについては読者が推理する余地がありませんので。とはいえアマチュア探偵コンビの活躍は楽しく、難しく考えずに気軽に楽しめる作品としてはよくできています。 |
No.1392 | 5点 | 検事方向転換す E・S・ガードナー |
(2016/07/03 06:53登録) (ネタバレなしです) 1943年発表のダグラス・セルビイシリーズ第6作です。被害者が2つの素性を持っていたらしいことが判り、どちらの人物として殺されたのかというややこしい謎が読者を悩ませます。身を隠す容疑者たちをいかにして見つけて事情聴取するか、宿敵弁護士のカーとの駆け引きも読ませどころです。本格派推理小説としては犯人の方がぺらぺら説明していてセルビイの推理がほとんど楽しめないのが物足りませんでした。 |
No.1391 | 5点 | 眩暈 島田荘司 |
(2016/07/03 06:37登録) (ネタバレなしです) 1992年に発表された御手洗潔シリーズ第6作で講談社文庫版で650ページを超える本格派推理小説です。大作の割に読みやすいのはさすがですがグロテスクな描写にはちょっとげんなりしました。「暗闇坂の人喰いの木」(1990年)のグロテスクな場面はそれほど気にならなかったのになぜ本書の場合は肌が合わないのか自分でも明快な理由を見つけられないのですが。大掛かりなトリックを用意しているのがこの作者らしいですが「斜め屋敷の犯罪」(1982年)や「水晶のピラミッド」(1991年)のトリックほどの破天荒さは感じません。かえってトリック成立に無理があるのが気になってしまいました。 |
No.1390 | 5点 | 猿島館の殺人~モンキー・パズル~ 折原一 |
(2016/07/03 06:33登録) (ネタバレなしです) 1990年発表の黒星警部シリーズ第2作の本格派推理小説でシリーズ前作の「鬼面村の殺人」(1989年)と同じく古今のミステリーのパロディーを意識した作品です。パロディーにされた作品を読んでいなくても十分に楽しめる内容だった「鬼面村の殺人」と比べると本書は謎もトリックも魅力に欠け、パロディーとユーモアへの依存度が高くなってしまったのがやや苦しいです。パロディーであっても謎と謎解きはしっかりしたものであってほしいところで、「どくしゃへの挑戦」も空回り気味に感じました。 |
No.1389 | 4点 | 玉嶺よふたたび 陳舜臣 |
(2016/07/03 06:21登録) (ネタバレなしです) 1969年に発表された本書は小説としてのプロットは非常にしっかり作られており、日中戦争時代の中国という時代背景描写も巧みです。派手な個性表現はありませんが人物の描き分けも見事です。しかし波乱があるとはいえ内容的には恋愛を絡めた旅行記といってよく、あまりミステリーらしくありません。終盤になってやっと犯罪小説風な展開を見せますがミステリーとしては物足りなく感じる人がいるかもしれません。小説要素と謎解き要素のバランスが絶妙だった「枯草の根」(1961年)や「炎に絵を」(1966年)とは全く異質に感じられた作品でした。 |
No.1388 | 8点 | 人形はなぜ殺される 高木彬光 |
(2016/07/03 06:18登録) (ネタバレなしです) 1955年発表の神津恭介シリーズ第6作で個人的には高木彬光の最高傑作と思っています。派手な演出と素晴らしいトリックの絡ませ方が絶妙で「読者への挑戦状」を2回も挿入していることからも作者の自信がうかがえますが、確かに謎解き好き読者のわくわく感に応えるだけの内容を持った本格派推理小説です。松下研三のあまりにも滑稽で大袈裟なワトソン役ぶりは少々鼻につきますが。 |
No.1387 | 5点 | 検事封を切る E・S・ガードナー |
(2016/07/02 09:39登録) (ネタバレなしです) 1946年発表のダグラス・セルビイシリーズ第7作ですが本書のセルビイは軍務に就いているため地方検事ではないところが珍しいです。もっとも保安官ブランドンのセルビイへの忠誠心は全く変わらず、殺人現場でもどこでもセルビイを案内しています。問題ないのか、それで(笑)?今回セルビイは検事ではなく弁護人として宿敵カーと対決です(随分簡単に弁護人になっていますが多分資格があるのでしょうね)。ちゃんと法廷場面も用意されており互いに持ち味を発揮してなかなかの見ものです。謎解きはものすごい駆け足気味な上にセルビイはあっという間に汽車に乗って行ってしまいましたね(笑)。 |
No.1386 | 4点 | 偽りの名画 アーロン・エルキンズ |
(2016/07/02 09:23登録) (ネタバレなしです) 1987年発表の本書は新しい名探偵役として美術館員クリス・ノーグレンを主人公にしたシリーズ第1作です。ギデオン・オリヴァー教授シリーズと違ってクリスを語り手にした1人称形式が特徴となっています。絵画に関する専門知識が散りばめられていますが贋作候補がいくつもあることもあって絵画の説明や真贋鑑定場面のページが結構多く、美術に全く興味のない読者にはちょっと辛い作品かもしれません。贋作探しに加えて犯人当て要素もありますがごろつきを雇っての犯行があるのは本格派推理小説としてはあまり好ましくないように感じます。 |