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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1652 7点 おとなしい共同経営者
E・S・ガードナー
(2016/08/31 11:28登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のペリイ・メイスンシリーズ第17作である本書はメイスンの好敵手となるトラッグ警部が初登場する貴重な本格派推理小説です。これまでの作品でメイスンと対決した警察の人間は怒鳴り散らしてばかりで頭の回転が速いとはいえないタイプが多かったのですが、トラッグは考え方のバランスが取れていて一筋縄ではいかない雰囲気を持っています。まあそれでもメイスンの方が一枚上手で、作品によってはトラッグもトホホな目に遭ってしまうのですけど。本書はよくできた謎解きになっており、13章でメイスンがトラッグに説明する犯罪計画も大胆だし犯人をカモフラージュするミスリーディングも巧妙でした。


No.1651 7点 バスカヴィル家の犬
アーサー・コナン・ドイル
(2016/08/31 11:16登録)
(ネタバレなしです) 自分自身よりも有名になってしまったホームズに嫌気がさしたドイルは1893年の短編「最後の事件」でホームズシリーズを一度は打ち切ったのですが周りは大騒ぎしてシリーズ続行を熱望し、ついにドイルも初志を曲げて書いたのが1902年に発表したシリーズ第3長編となる本書です。ドイルがどれほどの熱意を込めて執筆したかはわかりませんが内容的には文句なしに面白く、4つの長編では一番の人気作です。中盤でワトソン博士が単独行動を取ってホームズが一時退場してしまいますが、サスペンスを盛り上げるのにこれが一番効果的だったと思います。怪奇幻想的な雰囲気描写もお見事です。ホームズの推理場面が少ないのが(本格派ファンとしては)残念ですが他の3長編と比べてストーリー展開に澱みがなく、ただただ圧倒されました。


No.1650 6点 ビロードの悪魔
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/31 09:50登録)
(ネタバレなしです) 1951年発表の本書は歴史ミステリーの大家リリアン・デ・ラ・トーレ(1902-1994)に献呈されただけあってカーが実に丹念に歴史を研究した様子が伺えます。前作「ニューゲイトの花嫁」(1950年)と同じく本格派推理小説と冒険小説のジャンルミックス型ミステリーですが本書は冒険小説要素がより強くなってアクションシーンのスケール感、緊迫感は際立っています。その分謎解きに費やされるページは減っていますが結末にはかなり驚かされる仕掛けが用意されています。極めて特殊な条件下で成立させた仕掛けなので、伏線を周到に張ってあるとはいえ人によってはこの結末は拒絶反応するかもしれませんが。


No.1649 5点 災いを秘めた酒
ケイト・チャールズ
(2016/08/30 08:30登録)
(ネタバレなしです) 生粋のアメリカ人でありながら気に入った英国に移り住んだ女性作家ケイト・チャールズ(1950年生まれ)が1991年に発表したディヴィッド・ミドルトンブラウンシリーズの第1作で作品舞台も英国です。繊細に丁寧に描かれた登場人物が大変魅力的で、事件はなかなか起きないのですが彼らが織り成す人間模様で十二分に読ませます。ミステリーとしては本格派推理小説に属する作品ですが後半の謎解きは肩透かし気味の結末で、事件発生に至るまでの充実した前半部を楽しむべき作品でしょう。


No.1648 5点 白鳥の歌
エドマンド・クリスピン
(2016/08/30 08:20登録)
(ネタバレなしです) 「白鳥の歌」はもとはクラシック音楽界の業界用語で「最後の作品」の意味で使われていますが、1947年発表のフェン教授シリーズ第4作の本書は別にクリスピンの最終作ではありません。オペラの稽古を重ねていた被害者にとって最後の出演(予定)だったことを象徴的に表しているのではと思います。繊細なイメージのタイトルとは裏腹に思い切ったトリックが使われているのが印象的です。皮肉な真相も大変珍しく、個人的にはこういうのはあまり好きでないのですが成立させる難易度の高い仕掛けを作者が緻密に組み立てた努力は評価すべきでしょう。


No.1647 5点 証拠の問題
ニコラス・ブレイク
(2016/08/30 06:29登録)
(ネタバレなしです) 英国のニコラス・ブレイク(1904-1972)は高名な詩人のセシル・デイ・ルイスのミステリー作家としてのペンネームです。本当かどうかわかりませんがミステリーを書いたのは家の修理代を稼ぐためという本格派推理小説黄金時代らしいエピソードが伝えられています。1935年発表のデビュー作である本書は一応学園ミステリーに分類できますが、教師に比べて生徒の登場場面が少ないからか「青春」らしさはほとんど感じられません。心理分析を重視した推理になっていますがヴァン・ダインの探偵ファイロ・ヴァンスのように心理学を鼻にかけて物的証拠を馬鹿にしているわけでもありません。意外な凶器や劇的な犯人指摘場面など優れた面も多いのですが物語の展開にはもう少しメリハリが欲しいところです。


No.1646 5点 夜明けのメイジー
ジャクリーン・ウィンスピア
(2016/08/30 06:18登録)
(ネタバレなしです) 英国人ながら米国に在住している女性作家ジャクリーン・ウィンスピア(1955年生まれ)による2003年発表のデビュー作です。第一次世界大戦後のロンドンで探偵業を始めたメイジー・ダブスの物語ですが、当初はシリーズ化の予定がなかったのか本書の英語原題が「Maisie Dobbs」と主人公の名前そのままなのが珍しいですね。女性探偵の成長物語という点でP・D・ジェイムズの「女には向かない職業」(1972年)と比べるのも一興かもしれません。本書は三部構成になっていて第一部でメイジーの最初の探偵活動を描き、第二部では時間を遡って探偵になる前のメイジーが描かれます。この第二部はメイジーの成長物語として大変よく出来ているのですが全体の半分近い長さでしかも全くミステリーになっていないので、人によって冗長に感じるかもしれません。第三部では再び探偵メイジーの活躍が描かれますが手掛かりからの推理場面はほとんどなく直感であたりをつけての行動が中心になっているので謎解きの面白さはあまりないです(ある意味はったりに近い解決です)。文章、展開とも読みやすく、特に戦争の悲惨さ虚しさはよく描けていて歴史ものらしく仕上がっています。


No.1645 7点 五色の雲
ロバート・ファン・ヒューリック
(2016/08/30 01:51登録)
(ネタバレなしです) 本物の剣にすりかえられたことによる死亡事件を描いた「すりかえ」、戦争危機という緊急事態の中で謎解きをする「西沙の柩」などディー判事が活躍する8編の短編を収録した1967年出版の短編集です。いつも丁寧に自作解説している作者ですが短編でも読者サービスを怠らず、ちゃんと登場人物リストまで付いているのが親切ですね。特に印象に残ったのは奇抜なトリックの「赤い紐」(ハヤカワポケットブック版の巻末解説で堂々とネタバレされていますので要注意です)、判事の副官マー・ロンやチャオ・タイの活躍が面白い「すりかえ」ですが、他の作品もそれぞれにいい味出していて粒揃いの短編集です。


No.1644 4点 消えたドードー鳥
ジェーン・ラングトン
(2016/08/29 01:56登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ジェーン・ラングトン(1922年生まれ)は1960年代から書いている元刑事のホーマー・ケリー教授のシリーズで有名です。1996年発表のシリーズ第12作は一応は本格派推理小説に分類できますが普通の本格派とは全然違う異様な展開を見せます。夜の大学博物館で何者かを追いかけていた警備員がその翌朝屋根からの墜落死体となって発見され、急勾配の屋根の上を誰かもしくは何かがピョンピョンととびあがっていくのを見たという目撃証人が現れ、さらに館内からは17世紀に書かれたドードー鳥の絵が消えていたという風変わりな謎解きです。犯人の正体は結構早い段階で明らかになり、フーダニットとしてはやや肩透かし気味です。しかしこの段階ではまだ多くの謎が残されていて予期せぬ過去の殺人事件のエピソードまで挿入されながら物語は続き、ついにはあまりにもとんでもない法廷シーンに突入して読者は混乱させられます。これにはついていけないという読者もいるでしょう。私もついていけなかったです(笑)。


No.1643 5点 最後の女
エラリイ・クイーン
(2016/08/29 01:42登録)
(ネタバレなしです) 1970年発表のエラリー・クイーンシリーズ第31作は「顔」(1967年)の続編にあたる本格派推理小説です(「顔」を読んでなくても本書の鑑賞に問題はありません)。動機については多分当時のミステリーでは珍しいテーマだと思いますが社会的な問題を含んでいます。だけどそれほど深刻さを感じなかったのは最後のエラリーの推理のおかげです。後期作で定番となっているダイイング・メッセージの解読で、言葉遊びの領域を出ないというのも相変わらずなんですが今回は文字通りその言葉遊びがなかなか楽しかったです(本人たちは真剣です)。


No.1642 5点 危険な未亡人
E・S・ガードナー
(2016/08/29 01:06登録)
(ネタバレなしです) 初期のペリイ・メイスンシリーズではメイスンを弁護士というよりも私立探偵らしく描いている作品がありますが1937年発表のシリーズ第10作の本書もそんな1冊です。現場を引っ掻き回して警察から雲隠れする一方でしっかり容疑者を追い詰める行動派メイスンが描かれます。ハードボイルド小説の探偵よろしく卵をハードボイルドにしたりトーストを焦がす場面は狙いすぎだろと突っ込みたくもなりますが(笑)。複雑なプロットとたたみ掛けるようなストーリー展開のブレンドが絶妙で、思わぬ自白に意表を突かれる謎解き場面まで一気に読ませます。


No.1641 5点 恐怖の谷
アーサー・コナン・ドイル
(2016/08/29 00:24登録)
(ネタバレなしです) 1915年に発表されたホームズシリーズ第4長編です。ジョン・ディクスン・カーは高く評価していますがおそらく本書が4つの長編の中で最も本格派推理小説らしく書かれているからだと思います。一方で評価が分かれるのは「緋色の研究」(1887年)と同じく二部構成の形式を採っていて後半部がホームズ不在の物語になっていることでしょう。しかし(好き嫌いはともかくとして)注目すべきなのは(Tetchyさんがご講評で評価されているように)この後半部の舞台がハードボイルド小説風の世界になっていることです。悪の組織の隆盛とその組織の一員となった(後半部の)主人公の半生が実にサスペンスたっぷりに描かれています。ハードボイルドの始祖ダシール・ハメットのデビューよりもはるかに早い時期にこういうのが(しかもドイルによって)書かれたことには驚かされます。


No.1640 6点 囁く影
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/29 00:17登録)
(ネタバレなしです) 1946年発表のフェル博士シリーズ第16作は作品全体を覆う暗いトーンと不気味さ、そして悲哀を帯びた結末が印象に残ります。但し「仮面劇場の殺人」(1966年)では本書の意外な後日談が語られていますが。会話中心の展開なのにサスペンスが強烈な地下鉄の場面など演出が巧いです。トリック的には(実際に使われたトリックの流用だそうですが)ロンドンの事件のトリックが珍しいです(読者が解決前に予測するのは難しいと思いますけど)。あと本筋とは関係ありませんが冒頭で紹介されている「殺人クラブ」が結局名前のみの出番だったのはちょっと残念でした。


No.1639 6点 究極の推論
レックス・スタウト
(2016/08/28 02:20登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表のネロ・ウルフシリーズ第24作の本格派推理小説で、ミステリー雑誌「EQ」118号(1997年)で国内紹介されました。家族を誘拐されたという依頼人の登場というのが珍しいですが、身代金を犯人に渡すまではウルフにほとんど情報を提供しないという依頼人の態度が事態をややこしくします。そんな制約下でもウルフはそれなりに手を打って何と誘拐犯の共犯者の目星までつけるところがさすが名探偵です。しかしそこからプロットは二転三転して殺人事件まで発生し、癖のある容疑者たちとのやりとりもあってあっという間に終盤です。推理が容疑者の性格分析に拠るところが多くて説得力はやや弱いですがウルフが容疑者を1人ずつ犯人でないと消去していき、最後に残った容疑者を犯人だと指摘する場面はサスペンスに富んでます。


No.1638 6点 武家屋敷の殺人
小島正樹
(2016/08/28 01:47登録)
(ネタバレなしです) 海老原浩一シリーズの「十三回忌」(2008年)に次いで2009年に発表された那珂邦彦シリーズ第1作の本格派推理小説で、この作者が(謎とトリックの詰め込み方が)「やり過ぎ」という評価が定着した作品と言われてます。講談社文庫版で550ページを越す大作です。第1章で早くも武家屋敷探しと数多くの不可解な謎が解決されるという密度の濃い展開です。ところが第2章では狂気を帯びた犯罪小説風になるのには唖然としました(これはこれで読み応えがあります)。第3章から再び本格派の世界に戻りますが話があちこちに飛んで江戸時代の謎解きまで挿入されたのにはついていくのが大変でした。真相を知ると実に「やり過ぎ」らしく色々な仕掛けがあったことがわかるのですが、そこに至るまでの謎の提示はもう少し整理してほしかったです。


No.1637 6点 チャーリー・チャンの活躍
E・D・ビガーズ
(2016/08/28 01:09登録)
(ネタバレなしです) ニューヨークを出発し各国経由でロス・アンジェルスへ向かう世界一周旅行団の人々が次々に殺されるという派手な展開の1930年発表のチャーリー・チャンシリーズ第5作となる本格派推理小説で、エラリー・クイーンがフェアな謎解きを誉めたことでも知られます。もっともジョン・ディクスン・カーが指摘したように犯人につながる手掛かりがあまりに少ないのは弱点でしょう。とはいえ明快なプロットと連続殺人のサスペンスが相まって読みやすく、チャン警部と部下のカシマとの微笑ましいやりとりもいいアクセントになっています(当人たちは真剣なのかもしれませんが)。


No.1636 5点 翡翠の家
ジャニータ・シェリダン
(2016/08/28 00:54登録)
(ネタバレなしです) 米国のジャニータ・シェリダン(1906-1974)がミステリー作家として活躍したのは1940年代から1950年代で、米国では本格派推理小説の人気が低落していく時期にあたります。ヘレン・マクロイやパトリック・クェンティンなどは作風をサスペンス小説路線に変えて執筆活動を続けましたがシェリダンは早々とミステリー作家としてのキャリアに終止符を打ってしまいました。1949年発表の本書はジャニス・キャメロンシリーズの第1作です。創元推理文庫版では本書をコージー派の本格派として紹介していますが少なくとも前半部はコージー派によく見られる優雅さやユーモアの類は感じられず、むしろジャニスの孤立感が漂うサスペンス小説的な息苦しささえ感じさせます。後半になると雰囲気は多少明るくなり、推理議論などもあって本格派推理小説らしさもでてきますが論理的な解決になってないのは残念。舞台となるアパートの見取り図も欲しかったです。最後はそれまでの展開が嘘のように幸福感溢れる締めくくりになっており、次回作はもっとコージー派らしくなるのかもしれません。それにしても殴られて気絶するシーンが多いのは当時流行していたハードボイルド小説の影響でしょうか?


No.1635 4点 野鳥の会、死体の怪
ドナ・アンドリューズ
(2016/08/28 00:46登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表のメグ・ラングスローシリーズ第2作はどたばたぶりはデビュー作に比べると多少落ち着いた感はあるものの、ユーモア溢れる会話や快調なストーリーテンポは相変わらずのコージー派の本格派に仕上がっています。ただリアリズムにそれほどこだわらない私でもさすがに本書の状況設定には不自然さを感じてしまいました。だってバードウォッチャーがそこらじゅうにいるということは、どこで双眼鏡で見られているかわからないということですよね。そんな中で犯人は敢えて殺人を実行するかなあ。そういう不信感を抱きながら読んでしまったので、前作ほどには無条件で楽しめませんでした。


No.1634 6点 葬儀を終えて
アガサ・クリスティー
(2016/08/27 09:12登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のポアロシリーズ第25作はポアロの出番を控え目にしてアバネシー家の人々が織り成すドラマを中心にしたプロットになっています。謎解きとしても凝っていて、メイントリックにはちょっと無理もあるかなとは思いますがこのトリックが成立することによってある前提条件が大きく変わってしまうのが見事なアイデアです。多くの方がご講評で賞賛されていますがまさにミスリーディングの見本と言えるでしょう。1950年代のクリスティー作品の中で高く評価されているのも納得できます。


No.1633 10点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/27 08:49登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のフェル博士シリーズ第6作で、最高傑作とも評価されることもある本格派推理小説です。これでもかといわんばかりの謎の提示と圧倒的なまでにスケールの大きな謎解きの前にはため息が出るばかりです。確かに問題点も多いです。アンフェアっぽいところもある、ご都合主義もある、証拠として弱い手掛かりもあるなど気になる点がぞろぞろです。これが合わないという読者がいるのも納得です。しかしながらよくぞここまで考えたものだと私は感心しました。完成度の高いミステリーはもちろん大好きですが、本書のように完成度を超越した魅力をたたえた作品も私は大好きです。

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