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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1732 10点 毒入りチョコレート事件
アントニイ・バークリー
(2016/09/17 00:10登録)
(ネタバレなしです) 1929年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第5作の本書は大胆な趣向が多いバークリーの作品中でも極めつけの作品だと思います。複数の探偵役による多重解決ものの本格派推理小説は本書の後にも何作も登場していますが今なお本書の価値は色褪せていません。物語の3分の2が解決編という構成からして破格ですし、あちこちに「常識破り」の爆弾が仕掛けてあります。探偵役が推理を披露している途中なのに犯人として指摘されようとしている名前を傍聴者役が先回りしてばらしてしまう場面なんか思わずのけぞりました。しかしそんなのはほんの肩ならし程度の型破りです。


No.1731 6点 アプルビイズ・エンド
マイケル・イネス
(2016/09/17 00:01登録)
(ネタバレなしです) 1945年発表の本書はアプルビイ警部シリーズ第10作です。「エンド」というタイトルが付いていますが別にシリーズ最終作ではありません(イネスはこのシリーズを1986年まで書き続けました)。エキセントリックな登場人物たち、先の全く読めないストーリー展開、幻想的かつ何ともユーモラスな描写、そして文学や芸術に関する知識があちこちで披露されていてわかりやすい作品ではありませんが、それでいながら不思議とすらすら読めるというイネス流ファルス本格派の典型的な作品です(肌が合わない読者もいるでしょうけど)。ところで本書はアプルビイとジュディス(未来の奥さん)の初めての出会いが描かれていますが、いつの間に結婚を決意したんだろ?


No.1730 5点 矢の家
A・E・W・メイスン
(2016/09/16 23:54登録)
(ネタバレなしです) 「薔薇荘にて」(1910年)から実に14年を経て1924年に発表されたアノーシリーズ第2作の本格派推理小説です。謎解きの水準は大きく進化していて読者に対して手掛かりをフェアに提示することをかなり意識しています。ただし登場人物の描き方のバラツキがひどくて犯人はこの人しかありえないだろうと容易に見当がつきやすいのは大きな欠点でしょう。まあ冒険小説や歴史小説の分野で名高いメイスンをアガサ・クリスティーのようなミステリー専門作家と比較してはちょっと不公平かもしれませんけど。


No.1729 6点 野獣死すべし
ニコラス・ブレイク
(2016/09/15 19:06登録)
(ネタバレなしです) 1938年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第4作は前半を犯罪小説、後半を犯人当て謎解き小説という構成が斬新で、法月綸太郎の「頼子のために」(1990年)に大いなる影響を与えました。前半が緊張感豊かな分、後半の謎解きプロットは緩いとは言わないまでも普通にしか感じられませんでしたが登場人物のキャラクター分けは大変見事で、特にフィル少年の描写は実に秀逸です。


No.1728 5点 密偵ファルコ/錆色の女神
リンゼイ・デイヴィス
(2016/09/15 18:19登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家リンゼイ・デイヴィス(1949年生まれ)は歴史ミステリーのジャンルで最も人気ある作家の一人です。シリーズ主人公であるファルコはある時はローマ皇帝の命を受けた密偵として、またある時は私立探偵として難題を解決します。こう紹介すると古典的ハードボイルド小説に登場する「孤高のヒーロー型探偵」のように思えるかもしれませんが、家賃を滞納して大家の取りたてにびくびくしたり女性中心の家族に頭が上がらないなど情けない面も見せていて、読者に親しみやすいキャラクターになっています。デビュー作の「白銀の誓い」(1989年)では皇帝への反乱分子退治を、2作目の「青銅の翳り」(1990年)ではその残党処理を描いて冒険ロマン小説とハードボイルド小説をミックスしたような作品になっていますが1991年に発表されたシリーズ3作目の本書では私立探偵としてのファルコが描かれていて本格派推理小説の要素が強いのが特色です。かなり綱渡り的ですが変わった毒殺トリックが使われています。謎解き好きなら楽しめそうな作品ですが、その代わり過去の2作品に比べてスケール感では小ぢんまりしてますので読者の評価は分かれるかもしれません。


No.1727 6点 フェニモア先生、人形を診る
ロビン・ハサウェイ
(2016/09/15 18:08登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表のフェニモアシリーズ第2作は何とびっくりの「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説でした。しかもこの挑戦状は2回も挿入されています。その割に推理がやや物足りない面もありますが途中で犯人の手記を挿入してサスペンスを盛り上げるなど、コージー派でありながら謎解きプロットもしっかり組み立てようとしています。フェニモアの探偵ぶりは(大いに)疑問符が付きますが、ドイル夫人を筆頭にサブキャラの活躍ぶりが光ります。


No.1726 5点 死体のない事件
レオ・ブルース
(2016/09/15 18:02登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のビーフ巡査部長シリーズ第2作でパット・マガーの「被害者を捜せ!」(1946年)を先取りしたかのような被害者捜し趣向の本格派推理小説です。このアイデアは秀逸ですが新樹社版の巻末解説にあるように犯人の計画が杜撰過ぎると思います。また被害者候補として行方不明者を色々と登場させるのはいいのですがあまりにも次々と発見されてしまうので誰が被害者なのか容易に見当がつき易くなっているのは惜しまれます。謎解き場面まで何人かは行方知れずのままにしておくような工夫があれば少しは意外性を演出できたのではと思います。とはいえminiさんのご講評で指摘されているようにアイデアの先見性をまずは誉めるべき作品でしょう。


No.1725 6点 偽証するおうむ
E・S・ガードナー
(2016/09/15 17:48登録)
(ネタバレなしです) 法廷で自説を絶対に曲げないような頑固証人をいかにして正しい方向へ誘導するのか、この難題を1939年発表のペリイ・メイスンシリーズ第14作である本書でメイスンが実に見事な手腕で処理します。最後のメロドラマが唐突でご都合主義的な感じもしますが謎解きとしてはよくできていると思います。


No.1724 8点 ささやく真実
ヘレン・マクロイ
(2016/09/14 15:26登録)
(ネタバレなしです) ヘレン・マクロイは1950年代後半から1960年代前半にかけて何作か翻訳紹介されているので日本で不遇だったとは言い切れないかもしれませんが21世紀になって初紹介された作品の中にもなぜこれが今まで紹介されなかったのか不思議で仕方のない傑作がいくつもあり、やはり実力に見合った待遇を受けていなかったのかなと思ったりもしています。1941年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第3作の本書もそんな本格派推理小説の傑作です。被害者と容疑者たちとの間のただならぬ緊張感に満ちた序盤から心理的手掛かりと物的手掛かりをバランスよく配合した推理による謎解きまで充実の内容です。互いにかばい合っていた容疑者たちがついに互いを告発し合うというクリスチアナ・ブランド顔負けの展開も凄いです。


No.1723 6点 ロイストン事件
D・M・ディヴァイン
(2016/09/14 13:57登録)
(ネタバレなしです) 1964年発表の第3作で、本書の教養文庫版の巻末解説には謎解き小説としての欠点が紹介されており、なるほどと納得できる指摘ではありますがそれでも十分に読む価値のある本格派推理小説だと思います。複雑な人間関係でありながら読みにくくなく、しかもその中に謎解きの伏線を巧妙に配しています。難癖つけるなら主人公の最後の一行のせりふがカッコつけ過ぎで共感できなかったことか(笑)。


No.1722 6点 ペンギンは知っていた
スチュアート・パーマー
(2016/09/14 13:26登録)
(ネタバレなしです) スチュアート・パーマー(1905-1968)は米国の本格派推理小説家で、ヒルデガード・ウィザーズのシリーズが大変な人気を獲得し、あのクレイグ・ライスと合作でマローン弁護士とヒルデガードが共演する作品を書いたりもしています。1931年発表のデビュー作である本書を読む限りではライスの作品ほどのどたばた劇はないもののユーモアが豊かな作品です。第1作だからでしょうかヒルデガードは意外と名探偵らしくなく、法廷場面ではかなりしどろもどろになったりもしてますが最後には見事な逆転劇を見せてくれます。なお本書は新樹社版で「エラリー・クイーンのライヴァルたち」として紹介されましたが、クイーン風のガチガチのパズル・ストーリーというよりはむしろコージー派を彷彿させるような軽いタッチのミステリーです。


No.1721 6点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2016/09/14 13:21登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第11作の本書は無差別連続殺人という本格派推理小説では珍しいテーマを扱った意欲作です。ポアロ宛てに殺人予告状が送られたり物語の合間合間で怪人物を登場させるなどサスペンスの盛り上げ方に力を入れた作品です。といっても単なるスリラーに終わることなく謎解きの伏線を細かく配してフーダニットとホワイダニットを実現している手腕はさすがにクリスティーです。犯人の計画がかなり粗くてあそこまで捜査陣が振り回されることに不自然感を感じもしますが、とにかく派手な状況設定を楽しめる作品ではあります。


No.1720 5点 グッドホープ邸の殺人
ブルース・アレグザンダー
(2016/09/14 10:18登録)
(ネタバレなしです) サー・ジョン・フィールディングは実在した18世紀英国の治安判事で、警察の前身である「ボウ街の捕り手たち」を組織・整備してロンドンの治安改善に努めた人物です。米国のブルース・アレグザンダー(1932-2003)は彼を探偵役とした歴史ミステリーのシリーズを書いており、1994年発表の本書はその第1作となる本格派推理小説です。プロットは非常にしっかりしていて、語り手であるジェレミー少年の成長物語としても楽しめますし時代風俗小説としてもよくできています。残念なのは本格派としての謎解きの出来映えが良くないことです。まず密室トリックが脱力モノで、これならわざわざ密室殺人事件に仕立てないでほしいと抗議したいです。それから終盤にサー・ジョンが関係者を集めて謎解きする場面。劇的効果に優れているのはよいのですが、それまで提示されていなかった手掛かりや証言が次から次へと紹介されていて自分で謎解きに挑戦したい読者に対してあまりにアンフェアな印象を与えています。読み物としてはとても面白いだけにその点が惜しまれます。


No.1719 8点 魔王の足跡
ノーマン・ベロウ
(2016/09/13 13:20登録)
(ネタバレなしです) 英国のノーマン・ベロウ(1902-没年不詳)は1930年代から1950年代にかけて20作ほどのミステリーを発表しており、不可能犯罪や怪奇趣味に彩られた作品を得意としたそうです。本書は1950年発表の代表作でスミス警部シリーズ第5作にあたる本格派推理小説です。雪の上の謎の足跡という魅力で最後まで退屈させずに引っ張ります。ベロウの文章は難しい方言が散りばめられて読みにくいとのことですが(幸いにも)国書刊行会版は標準語で翻訳されているので大丈夫でした。トリックは結構複雑ですがスミス警部のきめ細かい説明でわかりやすく謎が解かれます。動機が後づけ説明になっているとかの問題点はありますがこれだけ面白いプロットだとそういう欠点もほとんど気にならなかったです。


No.1718 7点 緑色の眼の女
E・S・ガードナー
(2016/09/13 13:07登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のペリイ・メイスンシリーズ第42作で、ハードボイルド小説に登場しそうな悪党をメイスンがどうやって退治するかが一つの焦点になっています。もちろん腕力や拳銃ではなく知恵と機略でスマートに対処していますので暴力シーンが苦手な読者も安心して読める点では他のシリーズ作品と同じです。本格派推理小説としての謎解きもしっかりしており、印象的なトリックが使われています。他の作家による使用前例のあるトリックですが解決の伏線の張り方がなかなか巧妙です。


No.1717 5点 死者の身代金
エリス・ピーターズ
(2016/09/13 12:12登録)
(ネタバレなしです) 1984年に発表された修道士カドフェルシリーズの第9作で、過去の作品にも登場していたシリーズキャラクターの身の上に重大な出来事が起こる、シリーズファン必読の1冊です(教養文庫版も光文社文庫版も裏表紙の粗筋紹介でネタバレしちゃってますけど)。作中時代は1141年2月、北方へ進軍したスティーブン王の元へシュルーズベリからも援軍を派遣していたが戦局は混乱し、思わぬ殺人事件が発生します。戦局の微妙な変化が豊かに描かれている分、謎解きの興味がやや寸断され気味な点はミステリーとしての評価の分かれるところでしょう。一応犯人当ての本格派ではありますがむしろ誰がどのようにこの事件を決着させるのかという点の方にクライマックスを置いている作品です。あと本筋とは関係ありませんがカドフェルの年齢も本書で明かされています。


No.1716 5点 ベンスン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2016/09/13 12:04登録)
(ネタバレなしです) 米国の本格派推理小説黄金時代に大きな足跡を残したS・S・ヴァン・ダイン(1888-1939)は心理分析による推理という、当時としては斬新な手法の採用と広範囲に渡る知識教養を作品に散りばめたことが特徴です。現在ではその作品は古臭いと否定的に評価されることが多いようですが、ミステリーを単なる娯楽作品から知識人の読み物へと地位向上させた貢献はもっと高く評価してもよいのではと思います。本書は1926年に発表されて大評判となったデビュー作です。展開が地味な上に難解な用語がうんざりするほど多用されていてとても読みづらかったですが、22章でのファイロ・ヴァンスによる各容疑者の分析場面やその後に続く証拠固めの場面は無駄がなくてとてもわかりやすかったです。犯人の心理分析は(心理学を全く知らない私には)なるほどと思わせる部分もありますが、唯一絶対の解釈とまで皆が納得できるかどうかは微妙なところでしょうけど。


No.1715 7点 招かれざる客たちのビュッフェ
クリスチアナ・ブランド
(2016/09/13 11:20登録)
(ネタバレなしです) 1950年代後半から1970年代までに発表された短編を16作品収めた1983年発表の第3短編集で、本書を読めばブランドが短編ミステリーも抜群に巧い作家だというのが十分納得できます。作風も本格派あり、サスペンス小説あり、犯罪小説あり、ジャンルミックス型ありと多彩かつ逸品揃いです。16作品中6作品は第1短編集と重複収録、4作品は第2短編集と重複収録、6作品は初収録とベストセレクション的に編集されており、これまでのファンにも新規ファンにもアピールできる内容になっています。犯人当て本格派としては何といってもコックリル警部の登場する「婚前飛翔」がため息が出るほど素晴らしいです。短編なのに次から次へとどんでん返しがあって圧倒されました。現時点での短編本格派マイベスト3です。ジャンルミックス型では密室殺人事件の謎解きの醍醐味と狂気じみた結末の組み合わせが凄い「ジェミニー・クリケット事件」はやっぱり外せません。他の作品もみなそれぞれに持ち味があって駄作凡作が一つもないのは驚異的です。なお創元推理文庫版の巻末解説は「婚前飛翔」の犯人名などがネタバレされているので先には読まない方がよいです。


No.1714 6点 第三の銃弾<完全版>
カーター・ディクスン
(2016/09/12 01:40登録)
(ネタバレなしです) 探偵役に本書のみ登場のマーキス大佐を配した1937年発表の本格派推理小説です。もともとはEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン)に投稿されましたがその際には約20%がカットされたそうです(原作者の了解済みです)。ハヤカワ文庫版はカットされる前の完全版でこれから読む人にはこちらがお勧めです。完全版でもかなり短めの長編ですが謎解きの密度は大変濃く、新事実が発見されるたびにかえって謎が深まっていく展開はさすがこの作者ならではです。ただ読者の謎解き参加意欲をかきたてる作品だけに登場人物リストから事件の鍵を握る重要人物(犯人ではありません)の名前が欠落していたのはちょっと残念な気がしました。


No.1713 9点 ブラウン神父の童心
G・K・チェスタトン
(2016/09/12 01:26登録)
(ネタバレなしです) 英国のG・K・チェスタトン(1874-1936)は推理小説家としてだけでなくジャーナリストや文芸評論家としても大活躍した人物で、ミステリー作家の親睦団体「ディテクション・クラブ」の初代会長も務めました。彼のミステリーは読者が推理に参加できるように謎解きの伏線が張られているわけではありませんが(それはもっと後年の作家の登場を待たねばなりません)、この時代の作家としては屈指のトリックメーカーとして今なお尊敬を集めています。1911年発表の本書は最も有名なブラウン神父シリーズの12作品を収めた第1短編集です。おぞましささえ感じさせるトリックの「秘密の庭」、大胆極まる犯行の「折れた剣」、何とも変わったブラウン神父の探偵ぶりの「奇妙な足音」など個性豊かな作品が並びます。「神の鉄槌」のようにどう考えても成功率の低いトリックもありますがそれもご愛嬌です。ただ抽象的表現の文章、唐突な場面変換、回りくどい会話があって結構読みにくい一面があります。

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