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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.185 5点 高層の死角
森村誠一
(2010/11/01 21:22登録)
(ネタバレなしです) 累計発行部数が1億冊を超える森村誠一(1933-2023)の初期作は犯罪を扱っていても非ミステリー作品に分類されており、ミステリーデビュー作とされるのが1969年発表の本書です。後年の社会派推理小説要素はなく、純粋な本格派推理小説といっても差し支えないでしょう。密室トリックの鮮やかな解明も印象的ですが、崩しても崩しても再生するアリバイの強固さはすさまじいものがあります。私にとっては犯人当ての楽しみを放棄することの多いアリバイ崩しは相性がよくないのでどうしても辛目の採点になりますが、緻密に考え抜かれた佳作であることは認めます。


No.184 5点 空白の一章
キャロライン・グレアム
(2010/11/01 21:10登録)
(ネタバレなしです) 同じバーナビー主任警部シリーズ作品であっても「蘭の告発」(1987年)と「うつろな男の死」(1989年)はまるで雰囲気が異なりますが、1994年発表のシリーズ第4作の本書は前者寄りの重苦しい作品でした。見方によっては「蘭の告発」以上に登場人物のどろどろした関係が描かれているのですが、なぜか「蘭の告発」を読んだ時のような衝撃は感じませんでした。異常性の描写が少しくど過ぎて驚く前にげんなりしてしまったのかもしれません。謎解きも「蘭の告発」に比べて若干ながら物足りなさを感じました。


No.183 5点 陽気な幽霊 伊集院大介の観光案内
栗本薫
(2010/11/01 19:55登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表の伊集院大介シリーズ第26作で、講談社文庫版の作者による巻末解説によれば「ご都合主義で殺人事件を引き起こす」ことに疑問を感じてきた時期の作品だけあってかミステリーらしからぬ作品です。特に前半は事件らしい事件も起きず、起きそうな気配もなく、伊庭緑郎のにぎやかさだけでどうにか場をつないでいるという有様です(それさえもだんだんトーンダウンしていきます)。後半になると消える幽霊(ちゃんとトリックあります)や失踪事件やツアー客による推理合戦などでそれなりに盛り上がりますが、前半をもう少し何とかできなかったのでしょうか。


No.182 6点 殺す手紙
ポール・アルテ
(2010/11/01 19:44登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表の本書はハヤカワポケットブック版裏表紙の粗筋紹介を読んだ時には純然たるサスペンス小説かと思いましたが内容的には推理による犯人当て本格派推理小説と冒険スリラーのジャンルミックス型でした(ちなみにシリーズ探偵は登場しない作品です)。不可能犯罪要素が全くないのがアルテらしくないとも言えますが、その分綱渡り的なトリックも少なくて謎解きのまとまりはいい方です。冒険スリラーの部分もじわじわと緊迫感を高めていく作者の手腕がなかなか見事。結末はやや唐突感があって呆気にとられましたが。


No.181 7点 グリュン家の犯罪
ジャックマール&セネカル
(2010/10/26 17:50登録)
(ネタバレなしです) フランスのイヴ・ジャックマール(1944-1980)とジャン=ミシェル・セネカル(1944年生まれ)のコンビは劇作家としては散々辛酸を舐めましたが、1976年発表の本書が(1977年度の)パリ警視庁賞を獲得してミステリー作家としてはこれ以上ないほど幸先いいスタートを切りました。フランス作家とは思えないほどプロットのしっかりした本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版で200ページに満たない薄さながら容疑者数は15人を超え、しかも中盤まで続くアリバイ調査がやや単調に感じられますが最終章でのどんでん返しの連続はそれまでの冗長さを補って余るほどのサスペンスです。フランス本格派推理小説界の巨星となる可能性を十全に見せてくれたのですがコンビの片割れ(ジャックマール)が本書発表のわずか4年後に急死してしまったのは本当に残念です。


No.180 6点 黒い白鳥
鮎川哲也
(2010/10/26 09:55登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表の鬼貫警部シリーズ第3作でアリバイ崩しを堪能する作品です。複数のトリックを組み合わせたものですが前作の「黒いトランク」に比べて格段にわかりやすいです。犯人当てとして楽しめる作品ではありませんが(物語の2/3ぐらいでやや唐突に特定される)謎解き伏線の張り方とそれに基づく推理は堂に入ったもので、これはこれで立派な本格派推理小説です。余談ですが創元推理文庫版の巻末解説で有栖川有栖が批判している、「アリバイ崩しは地味で退屈だという偏見を抱いている読者」には間違いなく私が含まれていますね(笑)。


No.179 6点 封印再度
森博嗣
(2010/10/25 19:51登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表のS&Mシリーズ第5作となる本格派推理小説です。トリックに関しては専門知識に頼ったところがあって感心しませんでしたが、タイトルには思わず唸りました。このシリーズは全作品、英語の副題を用意してあるのですが本書はそれが「Who Inside」だったので、日本語タイトルの駄洒落ではないかと呆れましたが読み終えてびっくり、どちらのタイトルもプロットと密接につながっていました。これはよく考え抜かれていましたね。犀川と萌絵の波乱含みの関係(笑)に謎解きが食われているようなところもありますがなかなか楽しめました。


No.178 3点 第三面の殺人
カルパナ・スワミナタン
(2010/10/25 17:32登録)
(ネタバレなしです) インドの女性作家で外科医でもあるカルパナ・スワミナタン(1956年生まれ)によるラッリシリーズの長編第1作で2006年に発表された本格派推理小説です。確かに会話重視のプロットだし正統派スタイルの犯人当て本格派推理小説ではありますが「インドのクリスティー」という宣伝にはあまり期待しない方がいいです。肝心の会話がギクシャクしてとても読みにくい上に事件が中盤まで起こらない展開なので読むのが辛かったです。第8章の躍動感ある舞踏の場面など読ませる個所もあるのですが。推理説明もあまり整理できておらず最後までよくわかりませんでした。密室の謎がわずか数ページで解けたのだけは覚えています。


No.177 6点 遠きに目ありて
天藤真
(2010/10/22 11:56登録)
(ネタバレなしです) 1976年に雑誌発表された5作の短編をまとめて1981年に発表された短編集です。ユーモアはそれほど豊かではありませんが主人公の信一少年と彼を取り巻く人間関係描写に温かみが感じられ、どこか和やかな雰囲気が全編を覆っています。これがミステリーと相性がいいかは意見が分かれそうで、密室あり、怪現象あり、アリバイありと本格派推理小説としてのネタは充実していて結構大胆なトリックもあったりするのですがこの雰囲気がややもすると読者の謎解き意欲を微妙にそらすかもしれません。緻密な推理の「出口のない街」なんかは犯人の名前指摘は1回しかないので読み落としのないようご用心を!「完全な不在」の大胆な発想も印象的です。


No.176 7点 引き裂かれた役員室
エマ・レイサン
(2010/10/20 12:49登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表のジョン・サッチャーシリーズ第20作となる本書はとても完成度の高い作品です(なお講談社文庫版では作者名はレイスン、サッチャーの肩書きは副頭取でなく副社長になっています)。航空会社を舞台にした企業ミステリーですが主役はあくまでも登場人物で、無味乾燥な物語にはなってません。「数字の扱いはうまいが人間の扱い方を知らない」、「どんな革命家もいつかは保守派になる」、「極論を吐くのは常にやさしいのだ」など含蓄のあるせりふが随所で飛び出しています。サッチャーの描写が控え目ですが、見るところはちゃんと見ていて名探偵の役割をしっかり果たしています。本格派推理小説としての謎解き伏線もしっかり用意してあり、まさに「ウォール街のクリスティー」と称されるにふさわしい作品です。


No.175 3点 十日間の不思議
エラリイ・クイーン
(2010/10/19 19:10登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表のエラリー・クイーンシリーズ第18作です。ハヤカワ文庫版の巻末解説はあの鮎川哲也ですが、本書の謎解きについてかなり辛口な評価です(犯人名をばらしているので事前には読まない方がいいです)。明らかにこれは国名シリーズやドルリー・レーンシリーズなどの論理的で緻密な推理を期待しての評価ですね(そういう期待は残念ながら裏切られます)。本書の擁護派は(探偵クイーンも含めて)丁寧な内面描写や重苦しさを残す締めくくりなど小説としての部分を高く評価するでしょう。個人的にはやはりミステリーである以上、ちゃんとした謎解きであってほしいので鮎川の意見を支持します。


No.174 5点 名探偵なんか怖くない
西村京太郎
(2010/10/18 20:04登録)
(ネタバレなしです) 1971年に発表された名探偵4部作の第1作となる本格派推理小説です。他作家の探偵(エラリー・クイーン、メグレ、エルキュール・ポアロ、明智小五郎)を借用して登場させるパロディー作品で、同じ本格派作品でも「殺しの双曲線」(1971年)とはまるで雰囲気の違う軽妙な作品です。名探偵を4人も登場させたので探偵対決ものかと思ったら案外そういう作品でなかったのが意外でした(といってもチームプレーでもありませんが)。探偵は借り物でもプロットは独自の創作で(もっとも実際に起こった3億円盗難事件を引用してはいますが)、「ある人物を犯罪に走らせる」という異色の展開がユニークです。他作家の探偵を拝借するのも個人的にはあまり感心しないのですが、ましてや古今の名作のネタバレを作中でするのはやり過ぎではと思います。江戸川乱歩の「化人幻戯」(1955年)、クリスティーの「アクロイド殺害事件」(1926年)や「オリエント急行の殺人」(1934年)、クイーンの「日本庭園の秘密」(1937年)、シムノンの「男の首」(1930年)などは本書より前に読んでおくことを勧めます。


No.173 4点 列のなかの男―グラント警部最初の事件
ジョセフィン・テイ
(2010/10/07 20:51登録)
(ネタバレなしです) スコットランド出身の英国の女性作家ジョセフィン・テイ(1896-1952)がゴードン・ダヴィオットという男性名義で1929年に発表した初のミステリー作品が本書です。テイは大器晩成型と評価されることが多いので初期作品には読むべきものがないかのような印象を受けますが、確かに本書の謎解きに関しては残念レベルとしか評価できません。あまりにも唐突な解決、しかも運の良さに助けられており本格派推理小説としては納得できないと感じる読者も少なくないでしょう。しかし登場人物描写の上手さはデビュー作である本書で早くも発揮されており、端役的な人物でもわずかな登場場面で存在感を示しています。F・W・クロフツのフレンチ警部風の「足の探偵」であるグラント警部もその深い苦悩ぶりには単なる探偵役を超越した個性を感じさせます。


No.172 4点 太陽黒点
山田風太郎
(2010/10/04 18:57登録)
(ネタバレなしです) 山田風太郎自身が1963年発表の本書を「推理小説」と位置づけていることは尊重します。ただそれでも私にとっては「推理小説」としての面白みがあまり感じられませんでした。確かに序盤に大胆な伏線が張ってあったことには驚かされます。しかし解くべき謎が全く提示されないまま終盤まで引っ張るプロットでは謎解きのカタルシスを得られません(ほとんど普通小説にしか感じられません)。問題なしで最後に答えだけを示されたような変な読後感が残りました。


No.171 6点 絹靴下殺人事件
アントニイ・バークリー
(2010/10/04 17:50登録)
(ネタバレなしです) 無差別連続殺人とアマチュア探偵団の捜査という組み合わせで有名なのはアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)ですが、1928年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第4作である本書はそれよりもずっと早く書かれています。バークリー作品としてはユーモアが弱いと評価されていますが、確かにシリアスなシーンも多いけど(また新たな犠牲者が出るのではとロジャーが焦りの色をにじませます)、軽妙な会話や皮肉もちゃんと用意されており堅苦しいばかりの作品ではありません。推理はやや強引ですがおとり捜査場面や犯行再現場面ではこの作者としてはサスペンスが強く感じられるなど十分に個性的な本格派推理小説です。


No.170 5点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2010/10/01 22:18登録)
(ネタバレなしです) 1957年から1959年にかけて雑誌連載された金田一耕助シリーズ第16作の本書は横溝正史の代表作の1つとされ、TVドラマ化も映画化もされた本格派推理小説です。この時期の横溝はまず短編版を発表して、その後長編版に改訂出版する傾向がありますが本書は最初から長編作品として発表されました。ただ重厚に作りすぎたというか登場人物が多くて人間関係も複雑に過ぎて誰が誰だかなかなか理解できませんでしたし、物語のテンポも遅めです。それだけに再読するだけの価値は十分ある人間ドラマではありますが。


No.169 5点 錯誤配置
藍霄
(2010/10/01 15:51登録)
(ネタバレなしです) 台湾の藍霄(ランシャウ)(1967年生まれ)は、産婦人科医の肩書きを持つミステリー作家です。台湾には日本のミステリーも多数紹介されているようで2004年出版の長編第1作の本書の中でも横溝正史、島田荘司、綾辻行人などが紹介されています。どれだけこの作家が日本のミステリーの影響を受けているかはよくわかりませんが、本書を読んで私が連想したのは江戸川乱歩のスリラー系ミステリーでした。6つもの図面を駆使して描写される密室殺人事件に探偵役の秦(チン)博士の名推理など本格派推理小説としての条件も十分満たしてはいます。友人たちと談笑していた男がちょっと席を外して戻ってくると全員から見知らぬ男扱いされてしまうという発端の謎が見事で、その後の展開も変化に富むもので飽きさせません。性犯罪絡みのネタを扱っていますが産婦人科医出身の作者だけあってエロ路線には走りません(とはいえ万人受けするネタでもないでしょうけど)。作者は幻想性を重視したようですが中盤まではともかく、本格派推理小説としては最後はすっきり終結させてほしかったです。残念ながら謎解き説明が不十分に感じられました。


No.168 5点 カブト虫殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2010/09/29 21:05登録)
(ネタバレなしです) 1930年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第5作にあたる本格派推理小説で、全作品中でも最も緻密な謎解きがされた作品ではないかと思います。もちろんそれは必ずしもいい意味ばかりではなく、小細工が多過ぎて普通なら早々と犯人の計画は破綻するはずだと指摘することも可能でしょう。とはいえ私の頭脳レベルでは完成度の高い本格派推理小説として認識しています。丁寧に作り過ぎて盛り上がりに乏しくなってしまってはいますが、後半部はサスペンスもたっぷりで博物館という舞台も上手く活かされています。


No.167 6点 哲学者の密室
笠井潔
(2010/09/29 19:51登録)
(ネタバレなしです) 矢吹駆シリーズを1983年までに3作発表したもののあまり売れなかったのか笠井潔の創作はヴァンパイヤー戦争シリーズなどの伝奇SF小説が中心を占めるようになります。しかし新本格派の台頭に刺激されたのか1992年にシリーズ第4作となる本書で復活します。もともと暗くて重苦しい作風の作者ですがそれに加えて本書は(創元推理文庫版で)1100ページを超す分厚さを誇り、容易に手を出しづらい雰囲気があります。長大なだけでなく密度も濃いのでなかなか読み進めません。この作者ならではの哲学談義がびっしりで(私にはほとんど理解不能)、おまけに第1の事件の解決を見ないまま途中から時代も舞台も異なる別物語が挿入されるという複雑な構成です。ナディアの推理がボツになるのはわかっていても説得力が向上したことと、駆の推理が(最後は真相を見抜くのがわかっていても)途中で一度は破綻していることで2人の間の距離は縮まった...のかな?


No.166 7点 アリントン邸の怪事件
マイケル・イネス
(2010/09/29 16:47登録)
(ネタバレなしです) 1968年発表のアプルビイシリーズ第20作の本格派推理小説です。既にアプルビイが警察を引退した身分というのは時代の流れを感じさせます。ドロシー・L・セイヤーズの「死体をどうぞ」(1932年)を髣髴させるような、アプルビイ夫妻のユーモアたっぷりの探偵活動が楽しく、後期の作品ゆえかプロットもすっきりして読みやすいです。それでいて謎解きは意外と手が込んでおり、第20章の驚愕の告発、そこからのどんでん返しにチェスタトン的な大胆な仕掛けと充実しまくりです。できればアリントン・パークの見取り図があれば言うことなしでしたが、それを割り引いても傑作だと思います。

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