home

ミステリの祭典

login
無慈悲な鴉
ウェクスフォード警部

作家 ルース・レンデル
出版日1987年05月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2022/11/13 15:13登録)
(ネタバレなし)
 レジ(レジナルド)・ウェクスフォード主任警部の自宅の隣家、ウィリアムズ家の主婦で40代半ばのジョイが、ウェクスフォードの妻ドーラに相談を願い出た。大手塗料会社の上級外交職である夫ロドニーが、行方不明だというのだ。ウェクスフォードが同家に赴いて事情を聞き、捜索を始めると、やがて何ものかに殺されたロドニーの死体が見つかる。だが驚いたことに、少し離れたところに暮らす30代初めの美女ウェンディ・ウイリアムズもまた、被害者は自分の夫でふたりの間には娘もいるのだと訴えてきた。事件の周囲には、ウーマンリブ活動の関係者が続々と登場。そしてロドニーの事件と前後して、当の地域では謎の女性ヒッチハイカーによる男性を狙う傷害事件が起きていた。

 1985年の英国作品。ウェクスフォード主任警部の第13作目。
 
 先日、ブックオフでたまたま購入した一冊で、久々にレンデルでも、と読み始める。
 ポケミスで280ページちょっと、そんなに長くないし、吉野美恵子の翻訳は快調なので読みやすいが、とにかく登場人物が多く、名前のある者だけで80人以上、名前が出ないがちょっと劇中の叙述に関わるものを入れれば90人前後になった。
 なお本作ではレンデル、いつものウェクスフォードもの以上に? 警察小説っぽい書き方をしている感じで、メインの事件の合間の別件の詐欺事件などの話題などもとびこんでくる。リアリティ、アクチュアリティは物語の厚みに寄与はしているが、読むのにそれなりにカロリーを使った。
 
 二重生活していた夫という、クイーンの『中途の家』を思わせる被害者像(前半それなりに早めにわかるし、ポケミスの帯やあらすじにも書いてあるので、ここまでは書かせてほしい)の一作だが、その上で、英国ではまた80年代半ばに盛り上がったらしいウーマンリブ運動(日本でその話題をするなら、70年代の後半という感じだが)も話に大きくからみ、並行する案件である謎の女=ヒッチハイカー通り魔事件との関連性も討議される。
 さらにウェクスフォードの相棒であるマイク・バーデン警部の妻ジェニーの近づく出産(これもまた、くだんのウーマンリブ問題にからむ)もサイドストーリーとして相応に読者の興味を刺激し、とにかく小説としてはこってり。
 本気出したらイカれまくるレンデルの著作のなかではウェクスフォードものは基本的にそれなり口当たりがいいとは思っていたが、今回は結構ヘビーだ。

 とはいえ真相はかなりの意外性で、中盤から仕掛けられた大技も最後に炸裂。気が付くヒトは気がついちゃうかもしれないが、評者はまんまと乗せられた。最後の最後のドンデン返しで露わになる犯人像の異様さも、なかなかのショッキング。
 ……と書くとけっこうホメているのだが、いっぽうで何しろ前述のように劇中キャラが膨大、あとで事件の真相の主軸から逆算していくと、雑駁とも思える叙述も多くなってしまうので(むろんそのなかには、読者をふりまわすミスディレクションの意味合いもあるわけだが)その辺をどうとらえるか……が本作の印象や評価につながる。

 秀作だとは思うが、もうちょっと整理しても良かった? いや、この分量や叙述の累積は、伏線や手掛かりを忍ばせるために意味があるだろ? との思いが相半ば。
 まあ力作だとは思うけれど。

No.1 8点 nukkam
(2011/09/06 17:20登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表のウェクスフォード主任警部シリーズ第13作はなかなかの傑作だと思います。重婚やフェミニズム(男女平等主義と訳されることもありますが本書では女権主義として扱われています)、さらに17章での〇〇と、国内ミステリーだったら社会派推理小説のネタで一杯ですが、本格派推理小説としての謎解きも充実しています。犯人の自白場面も強烈な印象を残しますが、22章の終わりでは更なる衝撃が待っており、思わず「話が違うだろ」(これ、褒めてるつもりです)と声をあげたくなりました。

2レコード表示中です 書評