聖女が死んだ スローン警部 |
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作家 | キャサリン・エアード |
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出版日 | 1983年05月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/05/09 21:11登録) (ネタバレなし) 英国のケルシャー州。現地の「セント・アンセルム修道院」で、31年もの間この修道院で暮らしてきた49歳の修道尼シスター・アンの死体が見つかる。当初は事故死と思われたが、検視の結果、何者かに頭部を殴打されて殺され、死体は事故に偽装されたものと判断された。ベリバリー署のC・D・スローン警部は相棒の青年刑事クロスビーとともに、50人前後の修道尼が生活する現場に向かい、やがて先のガイ・フォークス祭の際に修道尼の服装を着た人形が燃やされる悪戯が近所の農学校の周辺で起きていた事実を知る。一方で被害者シスター・アンの死によって莫大な金額が動くことも明らかになってくるが、そんななかでさらにまた新たな事件が。 1966年の英国作品。1990年にはCWA会長も務め、自分のシリーズ探偵であるスローン警部ものも原書では10冊以上も刊行されながら、日本では邦訳がわずか3冊と不遇に終わった作者キャサリン・エアードの処女作。 (まあ日本での80年代の英国の女流作家人気はたぶん、ジェイムズとレンデルのツートップにみんなもっていかれたのだろうから、他の同世代作家が割を食ったのは仕方がないかも。) 評者も最初の本邦紹介作で、翻訳以前からトリックがとんでもなくスゴイと聞かされていた『そして死の鐘が鳴る』だけはとびついて読んだものの、続く2作はほったらかしにしてあったままだった。 本作は一年ほど前に出向いた古本屋で帯付の百円本を購入。そのうち読もう読もうと思いながら、昨日からページをめくりはじめたが、予想以上に面白かった。 いやたしかに修道院内のシスターの登場数はべらぼうに多く、冒頭からいかにもシスター側の狂言回しっぽい雰囲気で出てくるシスター・ガートルードがほとんどその場だけの出番でおわっちゃうとか、なんかもったいない感じがあったり。一方で評者みたいに劇中キャラの一覧表を作りながら読むタイプの読者にとっては、そういう潤沢に導入されるキャラクターの頭数の多さもそんなに苦ではない。最終的には名前の出てくるキャラだけで50人以上になったが、それでもキャラの多さが煩わしさに繋がらない。全体的にキャラクターの書き分けがうまいのであろう。 ミステリ的には二つ目の事件を半ばの山場とする段取りで、良いテンポでストーリーが展開。ミスディレクションをまき散らす一方で、真犯人に至る伏線と手がかりもちゃんと忍ばせてあった。ページがギリギリまで減じながらなかなか真相が見えてこない焦れったさも、快くテンションを高めている。 (まあ最後の最後で、あまりに(中略)をしてしまう犯人の行動は、失笑ものではあったけれど。) 『死の鐘~』はかなり大昔に読んだので、素直に比較はできないけれど、個人的にはそっちよりずっと面白かった気もする。 翻訳がある残りの未読分が一冊しかないのが残念。「世界ミステリ作家事典」のエアードの項目にもあまり未訳作が紹介されてないのが悲しかったけれど、唯一そこで記述されている未訳の作品(やはりスローンもの)なんかブランドの『緑は危険』とマーシュ(&ジェレット)の『病院殺人事件』のミキシング風の内容みたいで実に面白そうである。 きょうびロラックやコリン・ワトソンあたりを出すのなら、(もうちょっとあとの世代の作家ながら)エアード辺りにもいささか目を向けてもらいたい(切実!)。 |
No.1 | 6点 | nukkam | |
(2011/09/06 15:36登録) (ネタバレなしです) 1966年に本書でデビューしたキャサリン・エアード(1930年生まれ)は昔ながらの本格派推理小説の伝統を引き継ぐ作家の1人と評価されています。修道院という独特の舞台にしたためでしょうか、修道女たちを意図的に個性を表さない人物として描こうとしておりそれは成功しているのですが、結果として誰が誰だかよくわからない...(笑)。16章の事情聴取なんか笑ってしまいそうになるほど空回りしています。女性刑事を登場させてちょっとアクセントを付けたのはいいアイデアです。盛り上がりに乏しいプロットですが、絶対に恨みなど買いそうにないシスター殺害事件の真相は動機といい、さりげなく隠された凶器といい、なかなかよく出来た謎解きだと思います。 |