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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.445 5点 黒い死
アントニー・ギルバート
(2014/08/26 18:56登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のクルック弁護士シリーズシリーズ第27作です。ハヤカワポケットブック版の古い翻訳に苦しめられますがそれでもサスペンスの効いた物語が楽しめます。でもいくら後半からの登場とはいえクルックや助手のビル・パースンズが登場人物リストに載っていないのはちょっと可哀想な仕打ち(笑)。脅迫者が怯えるというプロットがなかなか新鮮ですがやはり悪役なのでいまひとつ同情できませんね(笑)。前半をサスペンス小説、後半を本格派推理小説という作者得意の構成です。終盤の劇的な展開に読者は振り回されますが、その中にもしっかり謎解き伏線を忍ばせているのがこの作者らしく、エンディングも印象的。翻訳が古くなければもう1点加点してもよいのですが。


No.444 6点 ボンベイの毒薬
H・R・F・キーティング
(2014/08/26 18:16登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表のゴーテ警部シリーズ第2作の本格派推理小説です。今回もゴーテ警部の捜査は彼の思うように進まず、その苦労ぶり描写がユニークな特徴となっています。もっともシリーズ前作の「パーフェクト殺人」(1964年)の場合は、特権階級の敷居の高さという非常にわかりやすい障害だったのに対して、本書ではなぜ事件関係者があれほど非協力的なのかちょっとぴんと来ませんでしたが。ゴーテ警部の人助けが思わぬ結果を生み出し、インド社会の描写と謎解きの前進に貢献しているところは巧妙なプロットだと思います。解決はあっさり気味ですが、前作よりはすっきり締め括られています。


No.443 6点 影をみせた女
E・S・ガードナー
(2014/08/26 18:03登録)
(ネタバレなしです) ペリー・メイスンシリーズは法廷論争が見所の一つですが(但し中には法廷場面のない作品もあります)、特に1960年発表のシリーズ第63作である本書ではメイスンの法廷テクニックが冴えわたり、いつのまにか検事側ががんじがらめ状態になってしまうのが印象的でした。そのテクニックは法律知識に裏づけされたものですが、読者に全く難しさを感じさせない語り口が見事です。犯人当ての謎解きが脇に追いやられてしまった感もありますけれど、本書の法廷論争はこの作者にしか書けないと思いました。


No.442 8点 沈んだ船員
パトリシア・モイーズ
(2014/08/26 17:48登録)
(ネタバレなしです) デビュー作の「死人はスキーをしない」(1959年)ではスキーリゾート地の美しい描写が素晴らしかったですが1961年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第2作の本書でもその卓抜な描写力は健在で、今度は帆走するヨットや港町を雰囲気豊かに描いて見事に海洋本格派推理小説の傑作になりました。もちろん人物描写も秀逸です。最初の死亡事件が事故死扱いのため、すぐヘンリによる犯人探しというわけにいかず、手探り状態の前半はややじりじりしますが後半はサスペンスがじわじわと盛り上がります。なぜ犯行に至ったかという動機が印象的で、最終章でヘンリがコメントした「悲劇的な皮肉」という表現がぴったりはまってます。


No.441 5点 息子殺し
ロイ・ウィンザー
(2014/08/26 16:35登録)
(ネタバレなしです) 1976年発表のアイラ・コブシリーズ第2作の本格派推理小説で、舞台が前作のナンタケット島からニューヨークへ移ってます。英語原題が「Three Motives for Murder」(「三つの殺人動機)とあるように、犯人当て小説でありますが動機の謎解きにかなりのページを費やしています。ただ動機というのは理詰めで絞り込むのが難しく、コブの推理は間違いとは思わないまでも絶対にそれしか考えられないというだけの説得力はないように感じます。心理描写ではシリーズ前作の「死体が歩いた」(1974年)から進歩が見られます。


No.440 5点 虎の首
ポール・アルテ
(2014/08/26 16:21登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表のツイスト博士シリーズ第5作はアガサ・クリスティーの作品を髣髴させるようなヴィレッジ・ミステリーの雰囲気にアルテならではの猟奇的犯罪や密室殺人事件をからめた本格派推理小説です。魅力的な謎をたっぷり詰め込んだ展開は安定した面白さがありますが、最終章でツイスト博士が解き明かした「運命の悪戯」は美しく着地した謎解きとは言い難いように思います。


No.439 7点 逃げる幻
ヘレン・マクロイ
(2014/08/26 14:27登録)
(ネタバレなしです) スコッドランドを舞台にしてさりげなく自然描写を織り込んでいます。やっぱりこの地は霧が似合いますね。ここも第二次世界大戦と無縁でなかったのはジョン・ディクスン・カーの「連続殺人事件」(1941年)を読んだ読者なら先刻ご承知でしょうけど、1945年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第7作の本書もまた時代性を強く感じさせる本格派推理小説です。謎解き伏線も豊富ですが専門知識を求めるものが多いのがちょっと弱点でしょうか。でもこれだけ丁寧に真相説明されるとそれさえ大きな弱点には感じませんでしたが。


No.438 4点 失楽の街
篠田真由美
(2014/08/25 13:20登録)
(ネタバレなしです) 2004年発表の桜井京介シリーズ第10作で作者がシリーズ最大の異色作と評価した作品です。確かに風変わりなプロットで、連続爆弾事件を扱い犯人グループの直接描写が何度も挿入されています。ハードボイルド小説向きの犯罪ですが、この作者ならではの繊細な心理描写はハードボイルドのドライな雰囲気とも異質に感じます。相変わらず桜井京介はやる気を見せず(笑)、本格派推理小説的な謎解き要素は希薄です。世間が騒然となる事件なのにパニック描写はなくサスペンスはゆっくりと醸成されます。あと本筋とは関係ないのですが蒼と香澄の名前が入り乱れる場面は過去のシリーズ作品を読んでいない読者はわけがわからないと思います。


No.437 5点 停まった足音
A・フィールディング
(2014/08/22 18:08登録)
(ネタバレなしです) ポインター主任警部シリーズを中心に20作以上の本格派推理小説を書いた英国女性作家A・フィールディング(1884-没年不詳)の代表作とされるシリーズ第3作です。本国の出版は1926年ですが日本でも早くから注目されていたらしく1930年代から翻訳出版が計画されては頓挫を繰り返し、ようやく21世紀になって日本語版が読めるようになりました。なるほど最後の劇的な場面は印象的で、これが代表作と言われる所以でしょう。しかしそこに至るまでのポインターの丹念で地道な捜査が延々と続く展開は盛り上がりに欠けます。同時代のF・W・クロフツが好きな読者なら気に入るかもしれませんが。


No.436 5点 南海の金鈴
ロバート・ファン・ヒューリック
(2014/08/22 17:51登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表のディー判事シリーズ第12作です。本書の後もファン・ヒューリックはこのシリーズを書き続けますが作中時代としてはディー判事最後の事件を扱ったミステリーです。本格派推理小説の要素はほとんどなく、政治スリラー風な要素が濃い異色の作品です。中盤までは2人の副官の活躍が主体でディー判事の出番が少ないのが不満でしたが後半になるとまさに真打ち登場といった劇的場面が待っています。なぜディー判事が探偵活動をやめてしまうかについてよく考えられた理由が用意されており、シリーズ最終作にふさわしい幕切れになっています。


No.435 5点 或る豪邸主の死
J・J・コニントン
(2014/08/22 16:15登録)
(ネタバレなしです) 大学教授で数学者でもあった英国のJ・J・コニントン(1880-1947)の1926年発表のデビュー作です(シリーズ探偵は登場しません)。冒頭で読者に対するフェア・プレーを宣言していることがあのエラリー・クイーンに先駆けた「読者への挑戦状」であると評価されています。サンダーステッド大佐が謎解きに挑戦する本格派推理小説ですがやたらと悩んだりとまどったりしている上に、ある容疑者には犯人であってほしくないと肩入れしたりと、まともな探偵役ではありません。しかし同時代のアントニイ・バークリーのように思い切って羽目を外すところまでは踏み切れず、ユーモア路線ともシリアス路線ともつかない中途半端なところに留まったような気がします。「殺人光線発射装置」なる物が登場して驚きますが、SFミステリーではありません。淡々とした筋運びながら謎解きは意外と複雑です。


No.434 5点 スリープ村の殺人者
ミルワード・ケネディ
(2014/08/22 16:02登録)
(ネタバレなしです) ミルワード・ケネディが20冊近く書いたミステリーの中では1932年発表の本書はかなりストレートな謎解き作品に仕上がったとされる本格派推理小説です。少なくとも「救いの死」(1931年)よりは受け容れ易いでしょう。しかしながら考えていることを描写している場面が結構ある割には人物像が浮かび上がりにくいなどどうも文章が読みにくく、しかもアリバイ調べ中心のゆったりした展開なので退屈する読者はいるかもしれません。作品舞台(川の流れる村)の活かし方は上手だと思います。


No.433 9点 蘭の告発
キャロライン・グレアム
(2014/08/22 15:55登録)
(ネタバレなしです) 若い頃にはプロのステージダンサーだった経験もある英国のキャロライン・グレアム(1931年生まれ)はミステリー作家としてのデビューは50歳過ぎと非常に遅く、しかも最初は鳴かず飛ばずでしたが1987年発表のバーナビー警部シリーズ第1作にあたる本書が好評で、英国本格派推理小説の書き手としての地位を確立しました。小さな村を舞台にした、まさしくヴィレッジ・ミステリーですが内容は決して軽くなく、真相には恐いぐらいの衝撃があります。文章は読みやすく、本格派推理小説としての謎解きもよく出来ていますが、推理ゲーム感覚で読むような作品ではありません。バーナビー警部が見事に真相を見抜くのですが、それはまた秘められた悪意と残虐性、そして悲劇的運命がさらけ出された瞬間でもあります。知ってはいけないものを知ってしまったような気分にさせられる作品です。


No.432 10点 自宅にて急逝
クリスチアナ・ブランド
(2014/08/21 16:10登録)
(ネタバレなしです) 謎を巡ってああでもないこうでもないと議論するのは本格派推理小説の常套手段であり、これが巧妙だと真相に近づいているというわくわく感が高まってきたり、逆に謎が深まったりして面白さが格段に増えます。ブランドの凄いところは警察同士だけでなく容疑者同士にもやらせているところで、そこに異様な緊張感を生み出しています。1946年発表のコックリル警部シリーズ第3作の本書ではそれを家族間でやっていて、遠慮仮借なく「お前が犯人だろ」と告発し合っているのですからもう痺れます(笑)。作者得意のどんでん返しの連続に、思いもかけぬ急転直下の劇的な結末、そして最後の最後に明かされる不可能犯罪トリックと何もかもが素晴らしい演出効果をあげています。


No.431 6点 代診医の死
ジョン・ロード
(2014/08/18 17:58登録)
(ネタバレなしです) 1951年発表のプリーストリー博士シリーズ第53作となる本格派推理小説です。トリックは古典的ですがアガサ・クリスティーの某作品を連想させる大胆な使い方が印象的です。ただ有力な手掛かりが少なく、推測と仮説の域を出ない中盤の謎解き議論がやや単調です。忍耐強い調査描写を読者は覚悟して読む必要があります。


No.430 6点 非実体主義殺人事件
ジュリアン・シモンズ
(2014/08/18 17:08登録)
(ネタバレなしです) イギリスのジュリアン・シモンズ(1912-1994)は20世紀を代表するミステリー評論家として大変有名な存在ですが、ミステリー作家としても30冊近い長編作品があります。サスペンス小説や犯罪小説を得意としていますが初期作品にはマイケル・イネスやエドマンド・クリスピン風のユーモア本格派推理小説を書いていたようです。本書は彼のデビュー作で後に自ら駄作と切り捨て、本国でも絶版状態が続いたそうです。ユーモアはほとんど感じられませんがイネスやクリスピンだってデビュー作は結構手堅くまじめな作品でしたし、弱点というほどではないでしょう。アリバイを細かく検証する地味なプロットで特別な個性は感じられません。そこが作者は気に入らなかったのかもしれませんが謎解き説明は丁寧で本格派推理小説のツボは抑えてあります、


No.429 6点 北雪の釘
ロバート・ファン・ヒューリック
(2014/08/18 16:53登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表のディー判事シリーズシリーズ第5作で、当初は本書をもってシリーズ終了する予定だったとか。そのためか寂寥感漂うエンディングになっています。謎の一部が他人の力を借りて解決しているところにちょっと不満を憶えましたが、それが劇的な幕切れににつながっているプロット構成は見事です。法廷場面を増やして判事らしい活動が多く描かれているのも本書の特徴です。


No.428 7点 スリー・パインズ村と運命の女神
ルイーズ・ペニー
(2014/08/18 16:18登録)
(ネタバレなしです) 2006年発表のガマシュ警部シリーズ第2作です。デビュー作の「スリー・パインズ村の不思議な事件」(2005年)と舞台は同じ、登場人物も一部共通しています。前作のネタバレはありませんが前作を先に読んでおくことを勧めます。丁寧な心理描写としっかりした人間ドラマが楽しめますが、本格派推理小説としての謎解きも十分に楽しめます。何しろ凍った湖上での感電死なのですから。


No.427 8点 飛ばなかった男
マーゴット・ベネット
(2014/08/18 16:04登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家マーゴット・ベネット(1912-1980)のミステリー作品は長編8作に短編1作の存在が知られているのみですが、その数少ない作品の1作がCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞(当時はクロスド・レッド・ヘリング賞と呼ばれてました)を受賞していてかなりの実力者と思われます。1955年発表の本書は記念すべき1回目のゴールド・ダガー賞の最終候補作で、惜しくも受賞を逃しましたがベネットの最高傑作とも評価されている本格派推理小説です。消息を絶った飛行機に搭乗予定だった4人の男。だが搭乗した(らしい)のは3人、名乗り出ない1人は誰かというユニークな謎、さらには物語の大半が回想シーンで占められているユニークな本格派推理小説です。これは明らかにパット・マガーの「被害者を捜せ!」(1946年)や「七人のおば」(1947年)の影響が見られますね。登場人物が個性豊かに描かれており後半になるとサスペンスもかなり盛り上がってきます。推理の論理性ではマガー作品を上回る出来栄えです。新訳で再販して大勢の読者に読んでもらいたい傑作です。


No.426 5点 個室寝台殺人事件
草川隆
(2014/08/18 13:28登録)
(ネタバレなしです) SF作家として活躍していた草川隆(1935年生まれ)が(多分)初めて書いたミステリー作品が1986年発表の本書です。本格派推理小説に分類できますが犯人の正体は早い段階で見当がつき、ハウダニットの謎解きが中心になります。猟奇的犯罪、密室、さらには奇術師登場と派手そうな設定の割には地味な捜査と推理に終始します。しかも密室については実はトリックらしいトリックがなく、密室に期待するとがっかりすると思います(そもそもこれを密室と称してはいけないと思います)。また探偵役が複数(鈴木刑事、下川刑事、そしてある女性)いるのはいいのですが、彼らが全部の謎を解くわけではなく一部は第11章、第12章の犯行再現描写の中で説明されており、これも謎解きプロットとしてはちょっと物足りません。猟奇的事件を扱っていながらグロテスク描写に走らず、登場人物も無用に多くせず読みやすい点はいいのですが作品としての個性が欲しいですね。

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