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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.625 6点 加里岬の踊子
岡村雄輔
(2015/03/15 00:58登録)
(ネタバレなしです) 活躍時期が1949年から1962年と短かった岡村雄輔(1913-1994)の最初の長編作品で1950年に発表された本格派推理小説です。この作者は1951年あたりから作風に叙情性が加わったと伝えられていますが、それより以前の作品である本書も決して謎解き一辺倒ではなく人物描写にも(多少性格が誇張気味のところもありますけど)配慮してあって謎解きと人間ドラマの融合を試みています。ヴァン・ダインの「ケンネル殺人事件」(1932年)をちょっと連想させる複雑な真相が印象的です(トリックは全くの別物ですが)。なお本書は1962年の改訂版もありますが、論創社版の「岡村雄輔探偵小説選Ⅰ」に収められた原典版の方が現代風仮名づかいに改めてあって読みやすくなっておりこちらがお勧めです。


No.624 4点 いい加減な遺骸
C・デイリー・キング
(2015/03/14 14:12登録)
(ネタバレなしです) オベリスト三部作を書き上げたキングが続いて発表したのはABC三部作(タイトルがABCで始まる)の本格派推理小説で、探偵役は引き続きマイケル・ロード(本書で警視に昇進)です。1937年発表の本書はその第1作で英語原題は「Careless Corpse」、この三部作はC、A、Bの順で出版されました。なお作中で「空のオベリスト」(1935年)のネタバレがあるのでそちらを未読の読者はご注意下さい。欠点と言うほどではありませんがオベリスト三部作で採用していた巻末の手掛かり脚注はなくなってしまいました。とはいえ嘘発見器(?)による尋問やロードが容疑者の有利不利を整理する推理ノートなど本格派としての謎解き要素は非常に濃厚で、さらには嵐の孤島状態や法廷場面まで用意するなど文章力の弱さを打ち消すかのようにめりはりを付けています。しかしそれらの努力もトリックで大幅減点となってしまいました。論創社版の(森英俊による)巻末解説で「どう考えても推理しえるものではなく、実効性という点でも疑問が残る」と的確に指摘しているように、SFトリックや超自然トリックや超人的トリックでもOKという読者でもない限り受け容れにくいのではないでしょうか。


No.623 5点 偽証裁判
アン・ペリー
(2015/03/12 11:22登録)
(ネタバレなしです) 1994年発表のウィリアム・モンクシリーズ第5作です。犯人当て本格派推理小説としてはこの真相は面白くありません。ネタバレになるので詳しく書けませんがこれなら誰でも犯人に仕上がることが可能です。しかしそれ以外は実に充実しており、創元推理文庫版の上下巻合わせて650ページを超える分量が気にならないほどの面白さです。皮肉の応酬が印象的な法廷場面(何とフローレンス・ナイチンゲールが登場します)も印象的ですが、その後の劇的な展開(意外な人物が活躍します)もページをめくる手が止まりません。法廷で決着がつくわけではないので英語原題の「The Sins of the Wolf」(狼の罪)をそのまま使った邦題にした方がよかったような気もします(意味はモンクが終盤に説明しています)。


No.622 5点 ヴードゥーの悪魔
ジョン・ディクスン・カー
(2015/03/05 19:43登録)
(ネタバレなしです)  晩年のカーは米国のニューオーリンズを舞台にした歴史本格派推理小説を立て続けに3冊発表しており、1968年発表の本書はその第1作です(ちなみに3作の相互関連性はないので、どれから読んでも構いません)。導入部で描写されているのが娘の行状を心配する親だとか、誰かに見られているのではと気にしている主人公のマクレイだとか、不安なのはわかりますが事件性があまりないためミステリーとしては前半部が盛り上がりません。また得意の不可能犯罪もトリックがあまりよろしくないです。しかしフーダニットとしては謎解き伏線を豊富に用意にしていてまとまっており、ニューオーリンズ3部作の中では一番出来がいいという評価には私も賛成します。原書房版はなぜか登場人物リストが付いていないのが残念です。


No.621 7点 マギンティ夫人は死んだ
アガサ・クリスティー
(2015/03/05 16:54登録)
(ネタバレなしです) 1952年出版のポアロシリーズ第24作の本格派推理小説で、「ひらいたトランプ」(1936年)以来となる推理小説家アリアドニ・オリヴァが登場する作品でもあります。クリスティー自身をモデルにしたともされるオリヴァ夫人を気に入ったのか、彼女は本書以降の作品で何度もワトソン役として登場するようになります(その推理力はまるで当てになりませんが)。さて本書は既に有罪判決の出た事件の再調査という点で名作「五匹の子豚」(1943年)と共通しています。さすがに作品完成度では「五匹の子豚」に一歩譲るし、死刑執行前に解決しなければいけないというタイムリミットものにしては切迫感に乏しいですが、1950年代の作品の中では上位に属すると思います。どんでん返しの謎解きが鮮やかです。でも一番の謎はロマンスの行く末だったかも(笑)。


No.620 7点 蹄鉄ころんだ
シャーロット・マクラウド
(2015/03/04 18:42登録)
(ネタバレなしです) 1979年発表のシャンディ教授シリーズ第2作で、スケール感の大きなスラプスティック(どたばた)本格派が楽しめます。こんなにごちゃごちゃにして大丈夫だろうかというぐらい入り乱れたプロットをうまく着地させています。シャンディ教授の活躍ぶりもご立派ですが、スヴェンソン学長が実に頼もしいのが印象に残ります。


No.619 4点 青薔薇荘殺人事件
早見江堂
(2015/03/04 18:32登録)
(ネタバレなしです)  三部作の第2作となる2008年発表の本格派推理小説ですが、前作の「本格ミステリ館消失」(2007年)とはかなり様相が異なっているのに驚きました。前作で謎めいた雰囲気を漂わせていた兄弟がまるで別人です(名前がニィと燦の多田野兄弟から二奈と参の只野兄弟に変わったのも気になります)。前半の被害者の身内やアパートの住人との会話は時にユーモアも交えて十分に読ませますが、中盤の唐突な婚約披露パーティーあたりから物語が場当たり的になり、わけがわからないうちに犯人が絞り込まれます(論理的な推理には感じられません)。終盤の探偵と犯人の対決はなかなか緊迫感をはらんでいますが、これまた唐突に犯人が自白してしまう腰砕け気味の結末。滅茶苦茶な真相の「本格ミステリ館消失」とは別の意味ですっきり感のない作品でした。また名前だけ立派な安物というのは現実社会でも珍しくありませんけど、本書の青薔薇荘の正体が安アパートであるのなら、タイトルには使って欲しくなかったですね(まあ都筑道夫の「髑髏島殺人事件」(1987年)で髑髏島が登場しないのに比べれば存在するだけましかも)。


No.618 6点 虹男
角田喜久雄
(2015/03/04 18:00登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表の明石良輔シリーズの長編本格派推理小説です。雨の中とか部屋の中とかありえない状況下で虹を目撃した人が次々に死に、エキセントリックな容疑者たちは不安におののきながらも何かをひた隠します。怪異に満ちたサスペンス小説的な雰囲気が濃厚で、洗練された加賀美捜査一課長シリーズとは違う一面を見せます。虹トリック自体は噴飯物ですが、それが弱点には感じられないほど作品個性が強烈です。おどろおどろしさは好き嫌いが分かれるでしょうけど。


No.617 5点 ピタゴラス豆畑に死す
小峰元
(2015/03/03 20:43登録)
(ネタバレなしです) 大ベストセラーとなった「アルキメデスは手を汚さない」(1973年)に次いで1974年に発表された本書は(予想通り)成功作路線を踏襲した青春推理小説でした。但し「ヤング悪漢(なじみにくい表現ですが)を描くこと」を目指したとされる「アルキメデスは手を汚さない」とは異なり、本書の学生描写は大人に対する敬意を感じない口の利き方が多少気になる程度に留まっており、しかも主役級の2人(沓野と辻本)以外はそれほど個性豊かとは言えません。その代わりユーモア交じりのやり取りが増え、謎解きプロットも(時々脇道にそれますが)前作よりは本格派推理小説らしくなっています。ただ推理はかなり強引で説得力に欠けていますが。


No.616 4点 越後恋歌殺人譜
草野唯雄
(2015/03/03 20:38登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の尾高一幸シリーズ第5作の本格派推理小説です。尾高が有力容疑者の無実を証明しようとするプロットはシリーズ第1作の「支笏湖殺人事件」(1980年)を彷彿させますが、本書は真犯人の正体が意外と早く見当がつき、アリバイ崩しの謎解きに移ります。ところがこのアリバイトリックがとんでもない腰砕けのトリックでがっかりさせられたのですが、このままではさすがに終わらず最後に驚きの仕掛けが用意されていました。まあ今回は尾高よりも梅田弁護士の方がお手柄だったような気がしますけど。


No.615 6点 女は待たぬ
A・A・フェア
(2015/03/03 20:34登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第14作の本格派推理小説です。同じアメリカでもハワイはやはり舞台として特殊なのでしょう。マイペースを崩さないドナルドとは対照的に、ハワイに似合うファッションに身を包むのに大騒ぎのバーサが面白おかしく描かれています。登場人物がそれほど多くなくプロットもあっさり気味ですが、ちょっとしたトリックがなかなか印象的な謎解きでした。ドナルドもそれなりに活躍していますが、意外とホノルル警察のフラキモ部長刑事も優秀でしたね。


No.614 6点 屍の記録
鷲尾三郎
(2015/03/03 11:48登録)
(ネタバレなしです) 1957年に出版された本書は私立探偵・南郷宏シリーズの第一長編の本格派推理小説です。南郷の登場場面は極めて少ないのでシリーズ入門編としては傑作と評価の高い短編「文殊の罠」(1955年)あたりがお勧めかもしれませんが本書は本書でなかなか面白い作品です。不可能犯罪要素あり伝奇要素あり、起伏に富んだストーリー展開で飽きさせません。サービス過剰になっていて現代ミステリーに慣れた読者には犯人当てとしては少し容易な部類になってしまったかもしれませんけど。どこか間抜けな印象のある人間消失トリックもユニークです。しかし大きな問題があり、それはハンセン病(作中表記は癩病)の人物を登場させていることです。その描写は現代社会では容認しにくいだろうし、さりとてプロットに影響を与えずに削除することも難しく、復刊は難しいかもしれません。(後記:何と2016年に復刊されました)


No.613 6点 グレイストーンズ屋敷殺人事件
ジョージェット・ヘイヤー
(2015/02/28 23:57登録)
(ネタバレなしです) 1938年発表のハナサイド警視シリーズ第4作の本格派推理小説です。シリーズ最終作であるのですが特別に最終作的な演出はありません。また第二次世界大戦直前の発表ですが時代の不安を感じさせるところもありません。殺害時刻前後に何人もの容疑者が現場近くにいたという設定が謎解きのサスペンスを上手く盛り上げており、これまで読んだシリーズ作品では1番楽しめました。タイトルは英語原題の「Blunt Instrumental」を直訳した方がよかったと思います(エラリー・クイーンの某作品を思い出しますが関連は...)。


No.612 6点 風花島殺人事件
下村明
(2015/02/28 23:35登録)
(ネタバレなしです) この作者のミステリー作品では比較的知られている1961年発表の本格派推理小説です。社会派推理小説全盛期の作品だからでしょうか、意外と手堅く書かれた作品で羽目を外すようなことがありません。私立探偵が活躍しますが失踪人探しから始まる展開、地道なアリバイ崩しと地味な内容です。後半の嵐の場面はそれなりに盛り上がり、ミステリープロットとの絡ませ方もまずまず(単なる背景描写に留まっていません)。


No.611 6点 十三回忌
小島正樹
(2015/02/27 23:01登録)
(ネタバレなしです) デビュー作で海老原浩一シリーズ第2作が2008年発表の本書です。デビュー作なのにシリーズ第2作?、と疑問に感じる人がいるかもしれませんが、シリーズ第1作の「天に還る舟」(2005年)はあの島田荘司との共著です。ちなみに本書の双葉文庫版の巻末解説で島田がその経緯を説明していますが、わかるようなわからないような...。さて本書の感想ですが、豊富なトリックを駆使した謎解きは本格派好きにはたまらない魅力で一杯です。謎を盛り上げる演出は意外とあっさりしていますが、代わりに話のテンポが早くて読みやすい展開となっています。この「あっさり」は時に弱点でもあり、特に人物描写は10年以上にまたがる物語なのに年齢の積み重ねを全く感じさせません。感情描写場面もほとんどないので、これだけの犯罪を起こした動機も読者には伝わりにくいです(説明はしています)。しかし本格派好き読者のみにしか受けないであろう執筆姿勢はある意味いさぎよささえ感じさせます。


No.610 5点 ギルフォードの犯罪
F・W・クロフツ
(2015/02/27 22:46登録)
(ネタバレなしです) 1935年に発表されたフレンチシリーズ第13作の本書は久しぶりに伝統的な本格派推理小説となっています。一応は企業ミステリーと言ってもいいのですが、ノーンズ商会の描写は表層的なものに留まっています。フレンチが担当するロンドンの盗難事件の方が重点的に描かれていますが、ここでのトリックを読者が推測するのは難しいでしょう(フレンチが唐突に見破っています)。殺人事件のトリックの方がまだしも読者が推理する余地がありますが、こちらは旧作の焼き直し的トリックであまり感銘できませんでした。アリバイ崩しと犯人探しの両立ができているのは長所だと思います。


No.609 5点 人生の阿呆
木々高太郎
(2015/02/27 22:36登録)
(ネタバレなしです) 木々高太郎(きぎたかたろう)(1897-1969)はミステリー芸術論を提唱し、松本清張の文壇登場を後押ししたことでも知られ、ミステリー文学派の代表として本格派に対しては批判的な態度をとったとされています。こういった経歴からその作品は本格派とは距離を置いていると私はずっと思っていましたが、1936年発表の長編ミステリー第1作である本書は何と「読者への挑戦状」が挿入されているではありませんか。あのエラリー・クイーンの「中途の家」と同年の発表です。もしかしたら国内初の「読者への挑戦状」付きミステリーかもしれません。とはいえ本格派推理小説として過度に期待してはいけないと思います。多くの謎の中のほんの一部しか挑戦状は「読者が解ける」と告知しておらず、全ての謎が論理的に説明されているわけではありません。また良吉の海外旅行のエピソードが謎解きプロットと上手く融合できておらず物語構成的にばらばらの印象を受けます。とはいえクイーンのコピー商品ではない、独自の作風を追求した姿勢は評価すべきでしょう。


No.608 5点 パンチとジュディ
カーター・ディクスン
(2015/02/27 14:22登録)
(ネタバレなしです) 1936年発表のH・M卿シリーズ第5作で、前作の「一角獣殺人事件」(1935年)同様、ケンウッド(ケン)・ブレイクの冒険談的な要素が非常に強い作品です。次々に展開が目まぐるしく変わり、ピンチに次ぐピンチをケンがどうやってくぐり抜けるのか全く目が放せません。但し本格派推理小説としては出来があまり良くないのが難点。最大の問題点は10章と11章で、死体が遠く離れた場所に瞬間移動したかのような魅力的な謎が10章で提示されたと思ったら11章であまりにもお粗末なオチだったのには本当にがっかりさせられました。H・M卿が一人一人に誰が犯人かを推理させる終盤の場面なんかは謎解きのスリリングに満ち溢れているのですが、私にとってはあまりにも中盤の落胆度が大きかったです(それでも好きな作家なのでおまけして5点評価しちゃいますが)。


No.607 6点 放送中の死
ヴァル・ギールグッド&ホルト・マーヴェル
(2015/02/27 08:51登録)
(ネタバレなしです) 英国のヴァル・ギールグッド(1900-1981)とホルト・マーヴェル(1901-1969、エリック・マシュウィッツの名前の方が有名らしいです)は共にラジオ番組やテレビ番組製作などに辣腕を振るった放送業界人ですが、4作のスピアーズシリーズ(本書では警部補、最終作では首席警部)を合作で発表しました。1934年発表の本書はその第1作の本格派推理小説で、同年には映画化もされています(しかもギールグッドは容疑者役で出演したらしい)。放送局という舞台、放送録音に殺人の手掛かりを求めるというプロットは大変ユニークです。舞台描写については物足りない部分もありますが、あまり克明に描写すると物語のリズムが悪くなることもあるのでこのあたりは一長一短ですね。人物の個性はもう少し描いてほしく、最初は誰が誰やらなかなか理解できませんでした。第14章で現場見取り図を提示してくれていますが、読者サービスとしては冒頭に置いた方がよかったようにも思います。動機の探求が後回し気味の捜査のためか前半は謎解きに停滞感がありますが後半はうまく巻き返します。


No.606 6点 怒った会葬者
E・S・ガードナー
(2015/02/25 11:42登録)
(ネタバレなしです) 1951年発表のペリー・メイスンシリーズ第38作です。作者によるまえがきの中で「状況証拠の問題を扱ってみた」と書いている通り、手掛かりを豊富に揃えて本格派推理小説としての謎解き要素が濃く、母娘間の対立と気づかい、検事だけでなく弁護士とも争うことになる状況設定などプロットも充実しています。登場人物も多過ぎず少な過ぎずで(ハヤカワポケットブック版の)古い翻訳がそれほど気にならない読みやすさでした。タイトルに使われている会葬場面が非常に短かったのがちょっと意外でしたが、確かに会葬者の1人が色々な場面でやたら怒ってましたね(笑)。

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