nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.785 | 5点 | 雲上都市の大冒険 山口芳宏 |
(2015/08/28 09:11登録) (ネタバレなしです) 山口芳宏(1973年生まれ)の2007年発表のデビュー作で、タイトルから冒険スリラー系かと思ってましたが最後に劇的なクライマックスが用意されているものの本格派推理小説の謎解きの要素の方が濃い作品でした。時代を1952年(昭和27年)、舞台は実在の松尾鉱山をモデルにした鉱山都市というかなり凝った設定にしています。ただ描写が案外とあっさりで、その分プロットが読みやすくなっている面はあるものの、例えば横溝正史の名作「八つ墓村」(1949年)のようなスケール感に欠けているのが惜しいと思います。謎解きでは頭脳派と行動派の2人の探偵とワトソン役という配役が新鮮でもあり(頭脳派だってそれなりに行動的だし、行動派だって推理します)、どこか懐古的でもあります。人間消失(脱獄)トリックは良くも悪くも衝撃的なトリックで、個人的にはこれが成立するのはちょっと信じ難いです。エピローグで登場人物に「信じないのが自然だろう」と語らせているのは作者の自虐でしょうか(笑)。 |
No.784 | 7点 | 犬神家の一族 横溝正史 |
(2015/08/27 18:42登録) (ネタバレなしです) 1951年発表の金田一耕助シリーズ第6作の本書は、何度もTVドラマや映画になっていることから知名度抜群で、そういえば小学生の男の子の間でプールで「スケキヨごっこ」するのが流行ったこともあったそうですからまさに国民的ミステリーと言っても言い過ぎではないでしょう。本格派推理小説の謎解きとしては必ずしも全てが論理的に説明されてはいないですし(でも「八つ墓村」(1949年)よりは改善されています)、余りにも偶然の要素が重なった真相は自力で謎解きしようとした読者の顰蹙を買いかねませんが、和風ゴシックとでも形容したくなるような雰囲気はたまらない魅力です。 |
No.783 | 5点 | 猫は汽笛を鳴らす リリアン・J・ブラウン |
(2015/08/22 08:46登録) (ネタバレなしです) 1995年発表のシャム猫ココ&ジム・クィラランシリーズ第17作です。クィラランが直接事件に巻き込まれず、しかも失踪事件のためか前半はほとんど盛り上がりを欠いた展開です。後半になると結構派手な事件を起こしていますが、推理についてはココの与えるヒントがいかようにも解釈できるようなものばかりです。クィラランの最後の説明も「ただの勘だが」ではすっきりした謎解きを期待する読者には不満を残すでしょう。 |
No.782 | 4点 | 密偵ファルコ/砂漠の守護神 リンゼイ・デイヴィス |
(2015/08/22 08:41登録) (ネタバレなしです) 1994年発表の密偵ファルコシリーズ第6作の本書は、冒険スリラーと本格派推理小説のジャンルミックスを目指してどっちつかずに終わってしまったような印象を受けました。ファルコが旅の一座と一緒に10以上の都市や町を転々とするのですがトラベルミステリー要素はそれほど感じられません。また人間関係が案外と複雑で読みにくいです。第三幕の冒頭でファルコが容疑者をかなり絞り込んでいるような様子があったので本格派好きの私はいよいよ名探偵ぶりを発揮かとどきどきしましたが、その後は迷走ぶりの方が目立ってしまいました。 |
No.781 | 5点 | 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁 島田荘司 |
(2015/08/22 08:34登録) (ネタバレなしです) 御手洗潔シリーズの「占星術殺人事件」(1981年)と「斜め屋敷の犯罪」(1982年)で作家デビューしたものの、本格派推理小説がまだ人気低迷期だったこともあって島田は社会派推理小説の要素を取り入れた作品を書くようになります(御手洗潔シリーズの次作は「異邦の騎士」(1988年)まで待たねばなりません)。その代表作とされるのが吉敷竹史シリーズで、1984年発表の本書はその第1作です。地味なキャラクターの刑事の地道な捜査描写、試行錯誤を繰り返す推理などはいかにも社会派風ですが、一方で「旅行する死者」という魅力的な謎を提供しているあたりは本格派作家の意地でしょう。解決はやや好都合な展開に感じられますが、最終章で突然1人称の物語にしているのがちょっとした工夫です。 |
No.780 | 5点 | 殺しへの招待 天藤真 |
(2015/08/22 08:27登録) (ネタバレなしです) 1973年発表の長編第5作ですが、私にとっては連作短編集「遠きに目ありて」(1981年)に次ぐ天藤作品です。しかしこれが作風が全く違っていたのには驚きました。とにかくどろどろした人間関係がしつこく描かれており、ベッドシーンも何度かあります。創元推理文庫版では「ユーモラスなタッチ」と「ひねりの利いたプロット」と紹介されていますが前者については一体どこにユーモアが?、と出版社に尋ねたいぐらいです。後者に関しては紹介の通りで、被害者探しの前半はもちろんですが事件発生後の展開もかなりユニークな本格派推理小説です。後味の悪さを残す第三部を蛇足と評価する意見にもなるほどとは思いますが、個人的には消化不良気味の第二部で終わるよりはいいかなと思います。とはいえ全体の雰囲気は最後までなじめませんでした。 |
No.779 | 6点 | 「裏窓」殺人事件 tの密室 今邑彩 |
(2015/08/22 08:20登録) (ネタバレなしです) 1991年発表の貴島柊志シリーズ第2作の本格派推理小説です。作者が「怪奇と本格推理の融合」を試みた作品ですが本書の場合は怪奇色が出てくるのは物語の3分の2が進行してからです。エピローグについて「合理的な謎解きのお好きな人は読む必要がありません」と断り書きしていますが、まだおとなしいレベルかなと思います。 |
No.778 | 5点 | 透明な季節 梶龍雄 |
(2015/08/22 08:09登録) (ネタバレなしです) 梶龍雄(1928-1990)は大器晩成型の作家で、長編第1作である本書が発表されたのは1977年です。特に旧制中学や旧制高校を作品背景にした本格派推理小説は非常に高く評価されています。もっとも後年には「女はベッドで推理する」(1986年)とか「浮気妻は名探偵」(1989年)など通俗ミステリーっぽい作品まで書いたりして試行錯誤を繰り返していたようです。本書は時代小説要素、青春小説要素、そして謎解き本格派推理小説要素を詰め込んだ贅沢なミステリーで、戦争末期の社会描写は特に印象的です。ところがそれがミステリーとしての弱点にもなっており、(主人公が述懐しているように)戦争の悲惨さの前にはポケゴリこと諸田少尉の死の謎解きがどうでもいいようにさえ感じられてしまいます。片仮名文の手紙による真相説明が読みにくいのも問題です。とはいえ、他の作家には書けないであろう個性を確かに感じさせる作品でした。 |
No.777 | 5点 | 天使はモップを持って 近藤史恵 |
(2015/08/22 07:58登録) (ネタバレなしです) 1997年から2001年にかけて発表された短編をまとめて2003年に出版された連作短編集です。場違いなファッションに身を包んだ若き清掃作業員キリコがオフィスを騒がす事件の謎を次々に解いていきます。殺人事件を扱った作品もありますがほとんどは小犯罪レベルで、中には犯罪一歩手前で終わったような作品もあります。ハッピーエンドの作品ばかりではなく、またキリコ以外の人物が謎解きに成功する作品もあったりと意外と多面的です。一応は本格派推理小説にジャンル分けできますが、それほど論理的な推理が披露されるわけではないので解決に唐突感があります。最後に収められた「史上最悪のヒーロー」(これはミステリーでさえありませんが)で物語として一つの締めくくりを迎えますが、人気があったのかこのシリーズは続編が書かれるようになりました。 |
No.776 | 5点 | 仮面の島 篠田真由美 |
(2015/08/22 07:35登録) (ネタバレなしです) 2000年発表の桜井京介シリーズ第7作の本格派推理小説です。前半は失踪事件ぐらいしか事件性のあるネタがなく、あまり盛り上がりません。中盤になるとかなり劇的な動きがあるのですが、これは一般的な本格派で扱う事件とはやや異なる展開です。京介の最後の説明を読むとこの作者のねらいはよくわかるのですが(だからイタリアのヴェネツィアを舞台にしたのですね)、謎の提示が散漫なため複雑な真相のインパクトが弱くなってしまったのが何とも勿体ないです。 |
No.775 | 6点 | スモールボーン氏は不在 マイケル・ギルバート |
(2015/08/22 07:27登録) (ネタバレなしです) 1950年発表のヘイズルリッグシリーズ第4作の本書はギルバートの本格派推理小説の代表作とされています。デビュー作の「大聖堂の殺人」(1947年)と比べると筆がなめらかになったのか控え目なユーモアが混じった文章は読みやすく、地味な展開の物語ながら退屈しないで読めました。「クリスティーに匹敵する」と絶賛したキーティングはやや過大評価かなとも思いますが、水準点レベルは余裕でクリアしていると思います。弁護士や秘書が大勢登場するので最初は人間関係の整理でちょっと大変でしたけど。 |
No.774 | 5点 | シャーロック・ホームズの事件簿 アーサー・コナン・ドイル |
(2015/08/22 07:23登録) (ネタバレなしです) 1921年から1927年にかけてと、書かれた時期にばらつきのある短編10作を集めて1927年に発表されたシャーロック・ホームズシリーズ第5短編集で最後の短編集です。ホームズが語り手を務めたり三人称で書かれたりと珍しいパターンに取り組んだ作品もありますが、さすがに作品の質が低下しているのは否めません(旧作のアイデアの焼き直しもあります)。おまけに1927年と言えば本格派推理小説黄金時代に突入していて、ミステリーの女王アガサ・クリスティーを筆頭に次々と傑作・意欲作が生み出されていたのですからドイルはもはや過去の作家扱いだったでしょう。とはいえ大変有名なトリックの「ソア橋」が読めますし、「サセックスの吸血鬼」は怪奇性と解決の合理性のバランスが見事だと思います(蟷螂の斧さんのご講評によると「ソア橋」のトリックは実際の事件のトリックからの借用だそうですがほとんどの読者は本書で初めて知ったでしょう)。紆余曲折はあったけど結局ドイル(1859-1930)はホームズ物語を40年近くに渡って書いたわけで、彼あってこそミステリーがこれほどの市民権を得られたことをミステリー好き読者としてはいつまでも心の片隅に留めておきたいです。 |
No.773 | 5点 | 殺人者と恐喝者 カーター・ディクスン |
(2015/08/22 06:17登録) (ネタバレなしです。但し作者によるネタバレの紹介をしています) 1941年発表のH・M卿シリーズ第12作の本格派推理小説で、H・M卿の半生に関する記述があったりしてシリーズファンには見落とせない作品です。但し要注意なのは作中で過去作品の犯人名をばらすという反則をやってしまっていること。これはアガサ・クリスティーやF・W・クロフツもやっているし、ナイオ・マーシュなんか何度もやっているのですがやはり好ましくありません。ネタバレされた作品は「黒死荘の殺人」(1934年)、「孔雀の羽根」(1937年)、「読者よ欺かるるなかれ」(1939年)で、これらを未読の方は本書を後回しにすることを勧めます。さて肝心の謎解きの方ですが名評論家であるアントニー・バウチャーがアンフェアだと噛み付いたらしく、ぎりぎり微妙ですが私もバウチャー支持票を投じたいところです(それよりも前述の過去作品ネタバレの方がショックでしたが)。無理矢理不可能犯罪に仕立てたのがこの作者らしく、使われたトリックには意表を突かれました(これもかなり賛否が分かれそうですが)。 |
No.772 | 6点 | 予告殺人 アガサ・クリスティー |
(2015/08/22 05:56登録) (ネタバレなしです) 1950年発表のミス・マープルシリーズ第4作はマージェリー・アリンガムが誉め、クリスティー自身もお気に入りだった本格派推理小説です。犯人の小細工が多少やり過ぎ気味ではありますが伏線の張り方は丁寧で、しかもそれを読者に気づかせないカモフラージュの仕方が実に巧妙、まさに巨匠のテクニックを堪能できます。予告殺人という派手な演出に目が行きがちですがしっかり考え抜かれた動機も印象的です。クリスティ再読さんのご講評でお気に入りとされている、「みんな出かける、殺人に!」には私も思わずにんまりです。書かれた時代はもはや本格派黄金時代ではなく、当時であっても古めかしい作品だったと思いますがクリスティーはそれでいいのだと言いたいです。 |
No.771 | 6点 | 一本の鉛 佐野洋 |
(2015/08/20 23:48登録) (ネタバレなしです) 佐野洋(さのよう)(1928-2013)は1000を楽に超す短編ミステリーを発表して短編の名手として有名ですが長編もかなりの数があります。また1973年から2012年までの39年間474回に渡って書かれたミステリー評論「推理日記」も高く評価されており、巨匠と言われるにふさわしい存在なのですが作品数が多いことに加えて地味な作風のためか何が代表作なのか私はよくわかりません(そもそもあまり読んでもいないのですけど)。本書は1959年に発表された長編第1作です。作者は本書を「本格派でない」と語ったそうですが、個人的には立派に本格派だと思います。犯人の名前を出してなお読者に誰が犯人かを考えさせる工夫がなかなかユニークです(趣向は違いますが島田荘司の「占星術殺人事件」(1981年)で「読者への挑戦状」の直前にこれ見よがしに犯人を登場させていたのを思い出しました)。アマチュア探偵役を大勢揃えて分業的に捜査させているのも特徴で、その中には事件現場のアパートの住人も混じっています(つまり容疑者でもある)。トリックはそれほど大したものではありませんが、犯人を絞り込む手掛かりが珍しかったのが印象的でした(記憶に自信がありませんがクレイグ・ライスの某作品に似たようなのがあったかも)。 |
No.770 | 5点 | 王を探せ 鮎川哲也 |
(2015/08/20 23:37登録) (ネタバレなしです) 中編「王」(1979年)(私は未読です)を長編化して1981年に発表された鬼貫警部シリーズ第16作の本格派推理小説です。プロローグ(本書ではプロロオグと表記)で亀取二郎による殺人描写がありますが犯人側からの描写はここと「間奏曲」の章だけなので犯罪小説でも倒叙小説でもありません。犯人の名前(亀取二郎)はわかっているのに同姓同名の容疑者を何人も登場させ、しかもみんなアリバイがあり、犯人当てとアリバイ崩しを両立させた所に本書の工夫があります。亀取同士を鉢合わせさせたりせずに無用な混乱を避けているところはスマートでさえあるのですが、肝心の謎解きの出来栄えは微妙です。タイトルに使われている「王」の意味するところの解釈がかなり強引だし、アリバイトリックもあれだけ捜査陣が手こずっている割にはどこかお手軽な印象を与えます。鬼貫警部が終盤までほとんど出番がないのが物足りませんが、ようやく登場するとそこから先は一気に解決へ向かいます。 |
No.769 | 4点 | ドーヴァー8/人質 ジョイス・ポーター |
(2015/08/20 23:29登録) (ネタバレなしです) 1976年発表のドーヴァーシリーズ第8作は目先を変えようとしたのかドーヴァーを(誘拐事件の)被害者にしています。とはいえドーヴァーの人質期間があまりにも短いです(ハヤカワポケットブック版裏表紙の粗筋紹介では誘拐サスペンスを期待させてますがそれほどでもない)。プロットの大半は誘拐犯の追跡調査に費やされます。今度はドーヴァーを探偵というよりも誘拐事件の目撃者として扱っているのがまた新工夫ではありますが、本格派推理小説としての犯人当ての楽しみがありません。読みやすいことは読みやすいのですが際立った魅力に欠けているように感じました。 |
No.768 | 6点 | こうのとり狂騒曲 リチャード・シャタック |
(2015/08/20 23:13登録) (ネタバレなしです) 1941年に発表された第2作ミステリーです。殺人鬼が彷徨するという土地での吹雪の山荘状態という舞台設定はとても恐いミステリーになってもおかしくないのですが、シャタックの手にかかると見事なまでにユーモア本格派に仕上がります。しかもこの殺人鬼の正体には驚かされました。これは意表を突かれました、ホント。シリアル・キラー (連続殺人犯)ものを語るには読み落とせない作品とまでは言いませんが読んで損はない作品です。 |
No.767 | 5点 | ピーナッツバター殺人事件 コリン・ホルト・ソーヤー |
(2015/08/20 23:06登録) (ネタバレなしです) 1993年発表の「海の上のカムデン」シリーズ第4作で、相変わらず物語のテンポはいいし、脇道に逸れずに謎解きに真っ向取り組んでいるのも好感は持てます。しかし犯人当てとしては前作の「フクロウは夜ふかしをする」(1992年)と同様簡単なので物足りなく感じる読者もいるかも。 |
No.766 | 4点 | ワトスンの選択 グラディス・ミッチェル |
(2015/08/20 23:01登録) (ネタバレなしです) 1955年発表のミセス・ブラッドリーシリーズ第28作の本格派推理小説です。秘書のローラが多少は羽目を外してもミセス・ブラッドリーが寛容な態度を見せているのは初期作の「ソルトマーシュの殺人」(1932年)あたりと比較するとだいぶイメージチェンジしていますね。ミステリーファンならわくわくしそうなホームズにまつわるネタをふんだんに用意しながら、どこか読者に対して距離を置いたような使い方をしていまひとつ盛り上がらないところがミッチェルらしく、解決もかなりの唐突感があります。 |