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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2929件

プロフィール| 書評

No.849 6点 放浪探偵と七つの殺人
歌野晶午
(2015/11/02 05:25登録)
(ネタバレなしです) 社会に背を向け過ぎる信濃譲二の言動を作者が持て余しつつあったのではと思いますがこのシリーズは長編第3作の「動く家の殺人」(1989年)で終了となりました。その後さらに短編が8作書かれたそうで(それで本当に打ち止めらしい)、その中の7編をまとめて1996年に短編集として発表されたのが本書です。本格派推理小説としてしっかり作られた作品が多く(講談社ノベルス版では問題編と解決編に分けて袋綴じしていたらしいです)、特に「有罪としての不在」は講談社文庫版で70ページ超に及ぶ長めの作品で10人以上の登場人物を揃え、「読者への挑戦状」と「読者への確認」まで挿入された長編並みの密度に圧倒されました。犯人の名前を最初に明かしておきながらなお意外性を追求した「水難の夜」も出色の出来映えです。なお「マルムシ」はアイデアに先例があることが判ったため当初は単行本未収録で(だからタイトルは「七つ」になりました)、講談社文庫の増補版でようやく陽の目を見ましたが他作品と比べて見劣りのする凡作にしか感じられませんでした。


No.848 5点 奥多摩殺人3Wの逆転
水野泰治
(2015/10/31 15:19登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の本格派推理小説です。鍾乳洞の殺人が起きるということで横溝正史の「八つ墓村」(1949年)を連想する読者もいるかもしれませんが、本書の鍾乳洞は観光客で賑わっている鍾乳洞なので雰囲気はまるで違います。2年がかりで案出したトリックを使っているそうですが小細工が多過ぎで、普通ならどこかで破綻するかもしれないと犯人は考えないのでしょうか。策士策におぼれるどころではありませんよ、これは。


No.847 6点 ホテル1222
アンネ・ホルト
(2015/10/29 11:29登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表のハンネ・ヴィルヘルムセンシリーズ第8作ですが、それまでのシリーズ作品と比べて色々と新たな試みの見られる意欲作だそうです。ハンネが警察を辞職していること、両足を失った身体障害者となっていること、そしてハンネを語り手にした1人称形式にしていることなどがシリーズ異色作の所以のようです。アガサ・クリスティーの「オリエント急行の殺人」(1934年)と「そして誰もいなくなった」(1939年)を意識した作品ではありますが、吹雪の山荘ならぬ吹雪のホテルに100人を超す遭難者を集め、殺人事件の謎解きのみならず極限状態での緊張感もたっぷりと織り込んだ独特の世界を築き上げることに成功しています。ハンネは正式の捜査官でない上に積極的に動ける状態でないので謎解きがなかなか進展しないもどかしさがありますがそれも作者の計算通りかもしれません。最後は容疑者が一堂に集まってハンネの推理説明で犯人が指摘されるという本格派推理小説ならではの決着が見られます。ただその後の最終章「風力階級12」はどうにもすっきりせず、蛇足のように感じられましたが。


No.846 5点 検事踏みきる
E・S・ガードナー
(2015/10/27 22:42登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表のダグラス・セルビイシリーズ第8作です。セルビイの失脚をもくろむ敵方がセルビイの捜査に色々と難癖をつけるのはシリーズのお決まりパターンです。しかし本書の場合、殺人ではと疑うセルビイに対して明らかに自殺なのに殺人と決めつけて捜査するとはとんだ見当違いだという主張も(自殺という証拠だって十分でないので)説得力に乏しく、セルビイが危機に陥っているという切迫感がいまひとつです。それでも宿敵の悪徳弁護士カーの策謀や怪しい証言の数々をどう切り抜けて真相を見破るか最後まで予断を許さない展開はさすがです。犯人自身が指摘したように、推理よりもハッタリ要素の方が強い解決になっていますが。


No.845 5点 水の葬送
アン・クリーヴス
(2015/10/23 15:56登録)
(ネタバレましです) ジミー・ペレス警部の活躍するシリーズは「大鴉の啼く冬」(2006年)から「青雷の光る秋」(2010年」に至るシェトランド四重奏で終わりませんでした。2013年にシリーズ第5作となる本書が発表されています。舞台も引き続きシェトランドです。「青雷の光る秋」の後日談的要素があり、できればそちらを先に読んでおくことを勧めます。やる気をなくしたペレスがやる気を取り戻していく、謎解きよりも物語性を重視したプロットですがその変化は劇的なものではありません(もともと感情の起伏の激しい性格ではありませんし)。第46章でどうして犯人の正体がわかったかについてペレスが説明していることろは本格派推理小説ならではですがその推理は物的証拠に乏しく、犯人の心理分析が中心となっていますので謎解きとしては説得力が弱いように感じます。


No.844 5点 四捨五入殺人事件
井上ひさし
(2015/10/23 12:17登録)
(ネタバレなしです) 小説、戯曲、放送用脚本など多方面に活躍した井上ひさし(1934-2010)が1984年に発表した本格派推理小説で、新潮文庫版で250ページほどの短い長編です。かなり風変わりな真相が用意されており(似たようなアイデアはエラリー・クイーンの短編にもありますが)、ミステリー初心者が読むとこの型破りぶりに拒絶反応が出るかもしれません。文章は読みやすいですが通俗色が強く、下品な言動も少々見られます。それでいてある社会問題が提起されているなど、軽く書かれたようでいて意外と手の込んだことをしています。


No.843 4点 メールオーダーはできません
レスリー・メイヤー
(2015/10/22 19:56登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家レスリー・メイヤー(1948年生まれ)の1991年発表のルーシー・ストーンシリーズ第1作であるコージー派ミステリ-です。犯人当て謎解きとしてはかなり粗く、ルーシーが犯人の正体に気づく手掛かりはこれで犯人を特定とは強引過ぎに感じます。それ以上に不満だったのがネコ殺しを未解決にしてしまっているプロットです。コージー派ミステリーのお決まり的の、主人公の日常生活描写はさすがに丁寧で、特にクリスマスの家族団らんシーンはほのぼの感にあふれてます。ジル・チャーチルのユーモラスの作風とダイアン・デヴィッドソンのシリアスな作風の中間を目指しているような印象を受けました。


No.842 5点 氷の眠り
アーロン・エルキンズ
(2015/10/22 19:46登録)
(ネタバレなしです) 1990年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第6作の本格派推理小説で、「暗い森」(1983年)以来久しぶりの米国が舞台ですが今回はアラスカなのでトラベルミステリー要素は十分にあります。相変わらず骨がらみでギデオンが活躍していますが今回はちょっとひねってあるところが新趣向です。ただ23章の最後で説明されていますがギデオンは今回部分的にしか役に立っておらず、そこが微妙に物足りません。また骨以外の手掛かりが十分とはいえない謎解きであることもちょっと不満を感じました。


No.841 10点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2015/10/17 10:01登録)
(ネタバレなしです) 「ドラゴンの歯」(1939年)から久しぶりの1942年に発表されたエラリー・クイーンシリーズ第15作です。国名シリーズともハリウッドシリーズとも違う作風となっています。様々な伏線や手掛かりを論理的に考証して犯人を指摘するクイーン得意の本格派推理小説ではありますが、登場人物の人間性を丁寧に描写して物語としての深みを増しています。その効果は見事なもので、全体としては地味なのですが全く退屈しません。地味と言っても中盤の法廷シーンは十分に劇的で、これまた出色の出来栄えです。エラリー自身も単なる謎解き探偵でなく、ごく限られた人物にだけ真相を説明するなど人情を感じさせます。文句なく中期の傑作でしょう。


No.840 6点 終りなき夜に生れつく
アガサ・クリスティー
(2015/10/17 08:48登録)
(ネタバレなしです) 1967年に発表された、シリーズ探偵の登場しない本格派推理小説でマイケル・ロジャースの1人称形式で物語が語られます。クリスティー作品の1人称形式といえばエルキュール・ポアロシリーズのワトソン役のヘイスティグス大尉が登場する初期作品が有名だと思いますが、それと比べると何と人物描写の奥行きが深くなったことか。謎解きとしては過去作品に類似していて(二番煎じと言われても仕方ないと思います)、それを読んだ読者には真相が予想しやすいのが弱点ではありますけど、全体を覆う暗い雰囲気(ゴシック・ロマン風?)がこの作品を独特なものに仕上げています。余談ですが私の読んだハヤカワ文庫版の裏表紙解説では誰が死ぬのかを紹介していましたが、事件が発生するのは物語が半分以上進んでからなのでこれはフライングではないかとちょっと不満に思いました。


No.839 6点 ボニーと風の絞殺魔
アーサー・アップフィールド
(2015/10/16 17:52登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のボニー警部シリーズ第5作です。このシリーズはクロフツのフレンチシリーズやジョセフィン・テイのグラント警部シリーズと同じく、ボニーによる丹念な捜査と推理を描いていますが都市犯罪の捜査方法が通用しない事件を扱っているのが特徴であり、本書でも雄大な自然を背景にボニーならではの捜査が十分に活かされています。犯人の心理分析も読みどころの一つです。ちなみにハヤカワ文庫版の巻末解説は物語より先に読まない方がいいと思います。


No.838 6点 殺しの演出教えます
サイモン・ブレット
(2015/10/16 17:33登録)
(ネタバレなしです) 1978年発表のチャールズ・パリスシリーズ第4作です。本書の英語原題の「An Amateur Corpse」がなかなか意味深で、アマチュア劇団を意味する「An Amateur Corps」に死体を意味する「Corpse」を引っ掛けています。そして更なる仕掛けがあってこれが幕切れで効果を上げています。もっともちゃんと作中に伏線を張ってあるとはいえ一般の読者に馴染めるかは微妙かもしれません。犯人当て本格派推理小説としてはやや容易な部類で、決め手となる手掛かりがあまりにも偶然頼みで入手されているところはちょっと不満です。しかし読みやすいプロットに加えて、プロの探偵でないチャールズが探偵活動をする理由がしっかり設定されていて納得しやすくなっているのは本書の長所です。


No.837 5点 闇のささやき
ニコラス・ブレイク
(2015/10/16 17:04登録)
(ネタバレなしです) 1954年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第11作で、本格派推理小説でなくスパイ・スリラーです。ハヤカワポケットブック版で「三十九階段」(1915年)で有名なジョン・バカンの伝統を踏襲する作品と紹介されていますが、私はそちらのジャンルに疎くてそれについてはコメントできません。とはいえいかにもな「巻き込まれ型」のストーリー展開はサスペンスたっぷりで、古い翻訳もそれほどハンデにはなりませんでした。得意とする子供たちの描写は本書でも安定しており、ナイジェルの新しい恋人クレアの活躍も光ります。ある意味、ナイジェルより頼もしいような気もします(笑)。後年発表の「悪の断面」(1964年)のような深みのあるドラマではありませんが、その分気楽に楽しめます。


No.836 6点 赤き死の訪れ
ポール・ドハティ
(2015/10/16 14:03登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表の修道士アセルスタンシリーズ第2作の本格派推理小説です。不可能犯罪の謎解きかと思わせて実は、という展開になってあれれとちょっと拍子抜けでしたがそれでも内容は充実しており、第13章でアセルスタンが整理した謎は最終章で全てきっちり解かれます。ある事件で犯人のとった行動が別の事件の解決につながるというプロットが巧妙です。きれいごとばかりでない時代描写は好き嫌いが分かれるかもしれませんが。あと序章の使い方が内田康夫の浅見光彦シリーズ風でしたね。


No.835 6点 庭に孔雀、裏には死体
ドナ・アンドリューズ
(2015/10/16 13:50登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ドナ・アンドリューズ(1952年生まれ)による1999年発表のメグ・ランスローシリーズ第1作のコージー派の本格派推理小説です。個性的な登場人物たちの巻き起こすどたばたぶりが滅法楽しく、本の厚さが気になりません。謎解きの弱さをサイドストーリーでカバーするのは通常は好きではありませんが、本書のようにしっちゃかめっちゃかやられてしまうとついニヤニヤしながら読んでしまいます。


No.834 5点 クッキング・ママの召喚状
ダイアン・デヴィッドソン
(2015/10/16 13:01登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表のゴルディシリーズ第5作でダイエット料理のレシピが満載、ミステリー内容は度外視してそちらに注目する読者がいるかも(笑)。今回はゴルディの助手ジュリアンが恋人を殺されて落ち込み、それを救おうとするゴルディの焦りがくどいぐらいに描かれ、もうヒステリー寸前。個人的にはこのシリーズはコージー派に分類するには雰囲気が暗すぎる気がします。プロットは複雑で、ぎりぎりまで犯人を絞らせない展開はいいのですけど動機に絡む手掛かりが土壇場まで隠されているため解決が場当たり的に感じます。


No.833 5点 密偵ファルコ/一人きりの法廷
リンゼイ・デイヴィス
(2015/10/13 00:44登録)
(ネタバレなしです) 2003年発表のファルコシリーズ第15作の本書はハードボイルドでも冒険スリラーでもありませんがさりとて本格派推理小説とも言い難い作品です。法廷ミステリーではありますが古代ローマ時代の法廷だけあって近代現代の法廷とは雰囲気からして異なっており、そこが作品個性となっています。光文社文庫版の登場人物リストに載っていない重要人物が多く、プロットも複雑で結構読みにくかったです。行動派のファルコが弁論で法廷をかき回すのがユニークではありますが説明説得力という点でいまひとつで、あまり名探偵らしさを感じません。


No.832 5点 おせっかいな殺人
ジョイス・ポーター
(2015/10/13 00:07登録)
(ネタバレなしです) 1972年発表のホン・コンおばさんシリーズ第2作です。特別な理由など何もなく、ただやることがなくて探偵を買って出る、アマチュア探偵の登場する本格派推理小説は数あれどこれほど単純かつ迷惑な探偵も珍しいです。その探偵ぶりも証拠に基づく推理などではなく思いつきの仮説で容疑者を追い回してます。女性ゆえかドーヴァー主任警部シリーズに比べるとどたばたぶりはおとなしいですけど、結構運任せで解決されているところは後年の米国コージー派に通じるところがあります。


No.831 5点 ウーロンと仮面舞踏会の夜
ローラ・チャイルズ
(2015/10/12 23:48登録)
(ネタバレなしです) 2009年発表のお茶と探偵シリーズ第10作のコージー派ミステリーで、(巻末解説で紹介されているように)真相の意外性という点ではこれまでのシリーズ作品で上位に位置づけられると思います。しかしながら謎解き手掛かりが十分に提供されていないプロットでは意外というよりも唐突感の方が強く、本格派推理小説ファン読者の支持は集めにくいかも。セオドシアのロマンスが思わぬ雲行きになっているのが新鮮で、ストーリーにサスペンスを与えています。もっともこれまでのシリーズ作品を読んでいないと効果は半減かも。


No.830 5点 違いのわかる渡り鳥
クリスティン・ゴフ
(2015/10/12 23:31登録)
(ネタバレなしです) 2001年発表の本書は前作の「ワタリガラスはやかまし屋」(2000年)で主役だったレイチェル・スタンホープを脇役に、脇役だったラーク・ドラモンドを主役にしたバードウォッチャー・ミステリー第2作です。謎解きに関しては前作同様、推理に物足りなさを感じますがプロットは進歩して充実しています。コーヒー業界の商売競争をかなり突っ込んだ内容にリアリティがあり、もし国内作家が書いていたら社会派推理小説と評価されたかもしれません。もっともその分コージー派らしさが後退したとも言えそうですが(数字が飛び交って意外と難解でした)。バードウォッチングが思わぬ展開を見せる後半も読み応えあります。

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