空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1515件 |
No.655 | 5点 | 天女の密室 荒巻義雄 |
(2013/10/21 22:49登録) 荒巻義雄は初期の幻想的なSF『神聖代』を読んだことがあるだけで、80年台後半からの架空戦記シリーズには興味を持てず、といったところでした。本作は「伝奇推理小説」と銘打たれていますが、浦島伝説をアナロジー的に使っているとはいえ、伝説が現実と混ざり合うわけではなく、純粋なミステリです。美術に詳しい作者らしく、本作の主人公は画家で、画商や美術のパトロン的存在など、なかなか説得力があります。 2つの密室トリックとその関係には面白い発想があるのですが、事件解明部分の書き方がさりげなさ過ぎて、印象が薄くなっているのが惜しいと思いました。 途中でディクスンの『誰が蛇を殺したか』なんていう作品について登場人物たちが論じているのですが、これは『爬虫類館の殺人』で、原題直訳は「彼がペイシェンス(蛇の名前)を殺すはずがない」。読んだのは初版なので、後の版では修正されているのでしょうか。 |
No.654 | 8点 | 事件屋稼業 レイモンド・チャンドラー |
(2013/10/16 22:12登録) チャンドラーの短編集で最初に買ったのが本書なのですが、その理由はやはり最後に収められたエッセイ『簡単な殺人法』です。「小説はどんな形のものにせよ、つねにリアリスティックであることをめざしてきた」という冒頭の断定(偏見)から導き出される評論ですから、ミルンの『赤い館の秘密』のトリックを、警察が見破れないわけがないといった点から批判していて、再読してみるとこのあたりは特に楽しめました。またハメット礼賛に続く最後の探偵について論じた部分は、ハメットよりチャンドラー自身にあてはまるような気がしました。 中編4編のうち、『事件屋稼業』と『指さす男』(原題は”Finger Man”で、finger は俗語の密告の意味ではないでしょうか)はマーロウもの。『ネヴァダ・ガス』とは青酸ガスのことで、なかなか派手な展開の作品。『黄色いキング』はハードボイルドな展開の最後をかなり意外な論理でまとめていました。 |
No.653 | 6点 | メグレ激怒する ジョルジュ・シムノン |
(2013/10/12 16:59登録) メグレ第3期の開始作。原則未訳作品を集めた(絶版久しい作品の新訳本数冊あり)河出書房のメグレ・シリーズ50巻のうちには、なぜか収められないままになり、後に雑誌『EQ』(光文社)に初めての翻訳が掲載された後、河出文庫で出版されたという、妙ないきさつを持つ作品です。 今回のメグレは、退職して2年後、田舎でのんびり暮らしていたところを、個性的な老婦人から依頼を受けて事件の捜査を始めることになります。この老婦人、自己中心主義的でずいぶん勝手な思い込みもあるのですが、自分の間違いをあっさり認める冷静さも持っていることが依頼の段階で表現されています。 全体としてはちょっと珍しい事件で、メグレ自身は事件の最終的決着に関与しません。というか関与できないのです。それでも確かにメグレがいた方が話として収まるし、こういうミステリもあるのか、という感じでした。 |
No.652 | 6点 | 建築屍材 門前典之 |
(2013/10/09 22:14登録) 第11回鮎川哲也賞受賞作。 選考委員の笠井潔・島田荘司両氏は「地味」だと言っていますが、どうでしょう。建設中のビルの一室で3人のバラバラ死体を浮浪者が目撃する、というプロローグに続いて、その数時間後には謎の人物がその建物の密閉された別の1室から消失し、しかもバラバラ死体も消えていたという展開で、さらに殺人は続くのですから、事件自体は派手です。またトリックやその理由を議論するところなど、知的なおもしろさは持続します。ただ、建築の専門用語を並べ立てる最初の方は、わかりにくくて固い感じがしますが。 専門的でわかりにくいのは、足跡トリックもそうです。一方バラバラ死体処理の方はかなり早い段階で見当がついてしまいました。それより事故に見せかけられるのに殺人であることを誇示した理由とか、秘書の殺害動機(これはバカミス系)といった論理がおもしろくできています。 |
No.651 | 6点 | 矢の家 A・E・W・メイスン |
(2013/10/04 23:25登録) フーダニット系であるにもかかわらず、犯人の意外性がほとんどないという不満もあるようですが、個人的にはこの犯人の人物設定と最初のミスディレクションは悪くないと思います。またメイントリックは、犯人にとって都合の良い偶然による証言で、これもからくりはすぐ見当がつくでしょうが、解決部分を読むと、その証言部分での犯人の行動など、うまく考えられています。まあ毒殺事件前からの匿名の手紙にも関わる真相は、もっと単純化できなかったのかとは思いましたが。 それにしても、アノー探偵は今回もファースト・ネームやパリ警視庁での役職を明かしていないんですね。「このアノーが間違うわけがない」といったような自信満々のセリフは、ポアロにも通じるものがありますが、それをクリスティーのようなユーモアでくるんでいないので、いやみな感じがするのが欠点と言えるでしょうか。 |
No.650 | 6点 | 死への旅 アガサ・クリスティー |
(2013/09/30 23:45登録) 『葬儀を終えて』『ポケットにライ麦を』等ほとんどがポアロ、ミス・マープルものだった時期にしては珍しい、ノン・シリーズのエスピオナージュです。 ヒロインは人生に絶望して自殺をしようとしていたところを、スパイになることを勧められるという、どう考えても無茶な設定で始まり、どうなることかと危ぶまれたのですが、その後はなかなかおもしろくできていました。もちろんアンブラーやル・カレみたいなシリアス派ではなく、嘘っぽさが楽しい娯楽スパイです。ほとんど最後までは、いかにもなパターンの「意外性」連続で、黒幕だのある登場人物の正体だの、やっぱりねという感じで、にやにやしながら気楽に読んでいったのですが… 最後の最後に、クリスティーらしいとんでもない意外な結末を付け加えてくれていました。しかも、パズラー系のフェアさとまでは言えなくても一応伏線は張ってあるのです。 |
No.649 | 5点 | 太陽が死んだ夜 月原渉 |
(2013/09/27 22:32登録) この第20回鮎川哲也賞受賞作は、第二次大戦中、ニュージーランドにあった捕虜収容所で起こったフェザーストン事件を利用しています。おそらくほとんど知られていない事件を取り上げたという意味でも興味深い作品ですが、メインの舞台となるニュージーランドの女子校の雰囲気が魅力的で、生徒たちもしっかり描き分けられていて、かなり楽しんで読み進むことができました。 全体的には、起こった時期の異なる3つの同じような状況の密室殺人事件にそれぞれ別の解答を与えるという趣向を持った謎解きミステリになっています。さらに第4の殺人も一応密室です。2つめの密室トリックはかなり無理があると思いますし、それ以外の3つはたいしたことはありません。しかもそれら密室の解明は、真犯人が指摘された後70ページ近くもかけて少しずつ行われていきます。この構成はそれほど成功しているとも思えませんでした。 |
No.648 | 6点 | 沼地の記憶 トマス・H・クック |
(2013/09/22 20:27登録) 評判のいいクックですが、これまで縁がなく本作が初めてです。 この作者にはよく文学的という言葉が使われるようですが、どうなんでしょうかね。確かに緻密な文章で描かれた世界は読みごたえがありますし、悲劇的なテーマもわかります。しかし個人的には少なくとも本作については、あざといというか、思わせぶり過ぎると思えるのです。元教師の若い時代の苦い思い出が一人称で語られますが、途中に裁判のシーンを少しずつ意味ありげに入れたりして、読者の気を引くようにしています。そのような技巧派ぶりが、結局何が起こったのかという部分、哀しみの結末を最も鮮明に表現する文学的手法であったとは思えないのです。むしろ、プロローグで主人公の老年を描いた後は普通に過去の出来事を時系列順に語っていった方が、深い感動を与えてくれるのではないかという気がしました。 ラスト・シーンで遠ざかっていく人物は意外でしたが。 |
No.647 | 6点 | 燃える接吻 ミッキー・スピレイン |
(2013/09/18 23:41登録) タイトルだけは記憶にあったアルドリッチ監督のかなり有名な映画『キッスで殺せ』の原作なんですね。原題”Kiss Me, Deadly” とは、どちらも微妙にずれているような。 マイク・ハマーが今回相手にするのはそこらのギャングではなくマフィアであるだけに、FBIも出てきたりして展開が派手で、結末直前までは、今まで読んだスピレイン3冊の中では一番面白いと感心していたのです。しかしこの犯人の意外性にはあまりいい意味ではなく驚かされました。ノックスやヴァン・ダインの規則中でも現在まで通用する条項に、厳密には違反しています。ひねくれたことを考えるマニアックなパズラー作家じゃあるまいし、と評価も下がったのですが、さらに一ひねりしてあり、こっちはそんなことをする必要性が低いし伏線不足だとは言え、まともな「結末の意外性」でした。それでまた持ち直してこの点数になったという次第。 |
No.646 | 7点 | 香港殺人旅行 斎藤栄 |
(2013/09/15 17:00登録) 多作というより濫作であまり評判のよくない作家ですが、特に初期には謎解き的にかなりおもしろいものもあります。本作は、香港・マカオ団体旅行からの帰国直後に病死した男は、調べてみると、どうやらその男の心臓が弱いことを利用したプロバビリティー殺人らしいことがわかる、というところから始まります。さらにシアン化物による公害、バラバラ殺人のアリバイ、麻薬密輸等様々な要素を組み合わせて、それでも煩雑さを感じさせずうまくまとめて上げているところが魅力です。死体をバラした理由とその殺人動機は見当をつけやすいのですが、悪くないと思いますし、アリバイ・トリックの根本発想も、現代ほど情報化が進んでいない時代だからこそというところはありますが、シンプルで鮮やかです。 公害の元凶を一人の人物に集約してしまったのは、社会悪追求という観点からは物足らないと言えますが、まあいいでしょう。 |
No.645 | 7点 | 金曜日ラビは寝坊した ハリイ・ケメルマン |
(2013/09/10 23:41登録) 再読してみると、このラビ・シリーズ第1作では、「ラビ」とは何かということについて、ラビ・スモールと他の登場人物たちとの会話の中で、カトリックの神父やプロテスタントの牧師と比較しながらていねいに解説されていました。また、ラビの論理的な推理の基礎となっている学問的な経験についても語られています。そのような細かい背景説明は概して鬱陶しいものになりがちですが、それがごく自然な流れの中で描かれているのです。堅苦しくならない緻密さとでも言ったらいいかもしれません。 謎の提出とその論理的解決だけを見れば、『九マイルは遠すぎる』に収録された諸短編とスケールや複雑さはほとんど変わりません。また、犯人指摘の根拠の一つには、ラビからの言い訳はあるものの、不満を感じました。しかし全体的には、ラニガン警察署長の人柄をも思わせるような好感の持てる作品になっています。 |
No.644 | 5点 | 探偵のG スー・グラフトン |
(2013/09/07 22:06登録) アンソニー賞・シェイマス賞を受賞した作品ということなのですが… キンジーが殺し屋に狙われ、彼女の護衛をすることになったディーツとの関係というかやりとりというか、それは楽しいのです。ヘンリーやヴェラ等の脇役登場人物たちもなかなか魅力的ですし、砂漠地帯の情景も、キンジーが手掛けている(殺し屋の一件とは無関係な)依頼人の母親捜索事件の雰囲気をよく伝えてくれます。 しかし、事件展開のおもしろさについては、既読の『B』や『H』に比べると、今ひとつといった感じがします。特に殺し屋に命を狙われているのに、キンジーにもディーツにも、コメディじゃないんだからと言いたくなるような間の抜けたところがあるのです。クライマックスにおける決着の付け方も、まあ意外性があると言えなくはないのですが、幸運でしたねえとしか思えません。 ちょっと期待が大きすぎたということでしょうか。 |
No.643 | 3点 | 墓地裏の家 倉野憲比古 |
(2013/09/03 22:16登録) 読み始めてすぐ、くどい描写を連ねるだけで何を表現したいのかわからない文章にはうんざりしてしまいました。作者は映画(特にB級ホラー)も好きだそうですが、何度も引用される黒澤明の巧みな演出をどれだけ理解しているのか、疑問です。タイトルの元になっているルチオ・フルチ監督は『ビヨンド』しか見たことがないのですが、それだってB級ホラーらしい無駄のない演出だったと記憶しているんですがね。 心理学薀蓄についても、フロイトやデュルケームはこう書いているという知識の羅列に過ぎず、主人公夷戸が専攻する「臨床心理」になっていません。また登場人物の心理に納得できないところや、行動理由の説明不足な点がかなりあるのです。 全体的な構成自体は決して悪くないと思いますし、殺人トリックがどれも古典的作品の明らかな二番煎じなのも、個人的にはそれほど気になりません。しかし小説としての出来栄えはねえ。 |
No.642 | 4点 | メグレと匿名の密告者 ジョルジュ・シムノン |
(2013/08/30 22:28登録) 訳者あとがきにも書かれているように、メグレ・シリーズには時々匿名の密告者が出てきます。前作『メグレとひとりぼっちの男』でもそうでしたが、その前作では密告者の正体は不明のままですし、密告は事件解決には必要なかったと感じたのでした。シムノンもその点に対する反省があったのか、今回はタイトルどおり、密告者が重要な役割を果たします。元(?)やくざであったレストラン・オーナーが殺された事件で、犯人指摘の密告者が誰であるかをつきとめ、その所在を探し出すのが、容疑者に対する調査と共にストーリーの中心になっているのです。そして最後には、密告者が殺人事件にも多少関わりがあったことが明かされることになります。 もう一人の本作の重要登場人物は、モンマルトルを知悉する初登場のルイ刑事で、なかなかいい味を出しています。ただし、小説としての面白味ということでは、前作に比べるとぱっとしません。 |
No.641 | 5点 | 二百万ドルの死者 エラリイ・クイーン |
(2013/08/27 22:55登録) 本作に始まるクイーン名義のペイパーバック・オリジナル作品群はかなりの数にのぼりますが、ホックにダネイが手を貸した『青の殺人』を除くと、二人はほとんどプロットと最終仕上げにOKを出していた程度のようです。小説としての仕上げは他の人にまかせても、プロット作りにはダネイが絡んでいたと思われる(リーがどの程度タッチしていたのかは知りませんが)『盤面の敵』等の作品とは全く異なる状況では、出来ばえや作風云々ではなく、クイーン名義とするには問題ありでしょう。ともかく本作の実作者はマーロウという人らしい… 久しぶりの再読で記憶も薄れていたのですが、それなりに楽しめました。似ている作家を強いて挙げるとしたら、次々に死体が量産されていく思いがけない皮肉な展開はハドリー・チェイス(『蘭の肉体』)でしょうか。よくもこれほどクイーンとは縁のなさそうなプロットを、最初の作品に選んだものです。 |
No.640 | 7点 | 維納の殺人容疑者 佐藤春夫 |
(2013/08/24 21:35登録) 佐藤春夫と言えば純文学系の小説家、また詩人として有名な人ですが、『田園の憂鬱』も長年積読状態だったのを最近やっと読んだだけで、ミステリも書いていることは本サイトに作家登録されているのを見て初めて知ったのでした。 1933年に出版された時は「佐藤春夫 纂述」とされていたそうで、珍しい言葉ですが、編纂の「纂」ですから、要するに編纂的な作品だということになります。1928年にウィーンで起こった殺人事件の裁判記録・記事を組み合わせて構成し、当時の新聞記事写真や証人スケッチなども入れているという、裁判ドキュメンタリーです。したがって、鮮やかな収束感なんてものはありません。しかしこれがおもしろいのです。文章表現も結局作者自身のものでしょう、古めかしいところがまた味があるのです。 「拳銃」(レヴォルヴァー)と「掌銃」(オートマチック)についての勘違いだけは気になりましたが。 |
No.639 | 6点 | 転がるダイス E・S・ガードナー |
(2013/08/19 23:44登録) ペリー・メイスン・シリーズには以前に読んだかどうか、記憶の定かでない作品がいくつかあるのですが、本作は未読だと思っていたら、犯人の弄したトリックと、それを証明するメイスンの推理が記憶に残っていました。これはかなり目立つような書き方がされています。しかしそれ以外の点については、探偵役が誰だったのかさえ完全に忘れていました。 最初に依頼人の伯父が精神病院に監禁されてしまう事件とその一応の解決については、その後に起こる殺人事件との結びつきが弱いと感じました。また、過去の事件の顛末が今ひとつあいまいなままですし、それに関連して最後のページの意味がよくわかりません。この過去の事件についてのメイスンの新聞広告を利用した策略は、おもしろいアイディアですが。 原題は辞書を引いてみると、小説の内容との関連で様々な意味にとれそうです。 |
No.638 | 6点 | 消えた女 マイクル・Z・リューイン |
(2013/08/15 00:24登録) かなり気弱なアルバート・サムスンですが、今回は探偵事務所兼自宅の建物が取り壊し予定で立ち退きを余儀なくされていて、私立探偵を続けていくことに不安を感じているところから物語は始まります。巻末解説で瀬戸川猛資氏は、この悩みの自問を「生活感に根ざしたリアリズム」という点から褒めあげ、マーロウが絶対発しない問いだと書いています。しかし、どんな自問であれ直接表現するのを極力避けるのがハードボイルドの文章でしょう。探偵の悩みを書いていても、リューインの文章にはチャンドラーやロス・マクほどのうまさ、文学性は感じられません。その意味では、「小説としての奥行きが深い」とは思えませんが、エンタテインメントとしては充分です。 最後の方では1日のうちに2回も銃で撃たれる(幸いかすり傷ですみますが)というハードなところもあり、謎解き的にも多少決め手不足ですが、なかなかよくできています。 |
No.637 | 7点 | エヌ氏の遊園地 星新一 |
(2013/08/10 23:43登録) 31編を収めたショートショート集です。ただし『夕ぐれの車』だけは30ページ以上もある作品で、星新一らしいシニカルなユーモアも感じられますが、誘拐を扱った軽いながらも暗めの犯罪小説で、読み終えてみるとちょっといい話、といった印象を受けました。比較的長いとはいえ、他の作家だったら中編にでもしそうな内容です。 その他にも新潮文庫『ボッコちゃん』にも入っている『殺し屋ですのよ』を始め、『波状攻撃』『危険な年代』『紙片』など気の利いたオチのあるミステリが多く、SF・ファンタジー系は9編のみです。そんなわけで本サイトにも登録してみました。 ところで本書に限らず星新一の作品でよく出てくる「エヌ氏」については、不特定の匿名人物を表すようですが、Nobody、Neutral等の頭文字でもあるわけですから、作者の意図に最もふさわしいアルファベット(を表すカタカナ)なんでしょうね。 |
No.636 | 6点 | 贋作展覧会 トーマ・ナルスジャック |
(2013/08/07 22:42登録) これはなかなか楽しいパスティーシュ短編集です。原著者を茶化したパロディではなく、7編どれもプロットや文体をいかにも本物らしくまじめに(?)真似てあります。ただ、後に相棒になるボアローの単独作は読んだことがないので、どの程度そっくりなのかわかりませんが。 最初に収められたルブラン編『ルパンの発狂』は話自体もいかにもといった感じでおもしろいですが、戦前の文体を模倣した翻訳者稲葉明雄のノリにも拍手。ヴァン・ダイン編『雄牛殺人事件』は、今回久しぶりに再読してみると、語り手の台詞や内面描写がかなりありましたが、これは原作者にならって極力控えめにしてもらいたかったですね。スタウト編『赤い蘭』は、文章やウルフの性格などが非常に個性的なだけに真似しやすいとも言えるのかなとも思えました。 本書収録作の他にも、ミステリマガジンに掲載されたっきりの贋作がかなりあるので、また本にまとめてもらいたいですね。 |