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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.645 7点 金曜日ラビは寝坊した
ハリイ・ケメルマン
(2013/09/10 23:41登録)
再読してみると、このラビ・シリーズ第1作では、「ラビ」とは何かということについて、ラビ・スモールと他の登場人物たちとの会話の中で、カトリックの神父やプロテスタントの牧師と比較しながらていねいに解説されていました。また、ラビの論理的な推理の基礎となっている学問的な経験についても語られています。そのような細かい背景説明は概して鬱陶しいものになりがちですが、それがごく自然な流れの中で描かれているのです。堅苦しくならない緻密さとでも言ったらいいかもしれません。
謎の提出とその論理的解決だけを見れば、『九マイルは遠すぎる』に収録された諸短編とスケールや複雑さはほとんど変わりません。また、犯人指摘の根拠の一つには、ラビからの言い訳はあるものの、不満を感じました。しかし全体的には、ラニガン警察署長の人柄をも思わせるような好感の持てる作品になっています。


No.644 5点 探偵のG
スー・グラフトン
(2013/09/07 22:06登録)
アンソニー賞・シェイマス賞を受賞した作品ということなのですが…
キンジーが殺し屋に狙われ、彼女の護衛をすることになったディーツとの関係というかやりとりというか、それは楽しいのです。ヘンリーやヴェラ等の脇役登場人物たちもなかなか魅力的ですし、砂漠地帯の情景も、キンジーが手掛けている(殺し屋の一件とは無関係な)依頼人の母親捜索事件の雰囲気をよく伝えてくれます。
しかし、事件展開のおもしろさについては、既読の『B』や『H』に比べると、今ひとつといった感じがします。特に殺し屋に命を狙われているのに、キンジーにもディーツにも、コメディじゃないんだからと言いたくなるような間の抜けたところがあるのです。クライマックスにおける決着の付け方も、まあ意外性があると言えなくはないのですが、幸運でしたねえとしか思えません。
ちょっと期待が大きすぎたということでしょうか。


No.643 3点 墓地裏の家
倉野憲比古
(2013/09/03 22:16登録)
読み始めてすぐ、くどい描写を連ねるだけで何を表現したいのかわからない文章にはうんざりしてしまいました。作者は映画(特にB級ホラー)も好きだそうですが、何度も引用される黒澤明の巧みな演出をどれだけ理解しているのか、疑問です。タイトルの元になっているルチオ・フルチ監督は『ビヨンド』しか見たことがないのですが、それだってB級ホラーらしい無駄のない演出だったと記憶しているんですがね。
心理学薀蓄についても、フロイトやデュルケームはこう書いているという知識の羅列に過ぎず、主人公夷戸が専攻する「臨床心理」になっていません。また登場人物の心理に納得できないところや、行動理由の説明不足な点がかなりあるのです。
全体的な構成自体は決して悪くないと思いますし、殺人トリックがどれも古典的作品の明らかな二番煎じなのも、個人的にはそれほど気になりません。しかし小説としての出来栄えはねえ。


No.642 4点 メグレと匿名の密告者
ジョルジュ・シムノン
(2013/08/30 22:28登録)
訳者あとがきにも書かれているように、メグレ・シリーズには時々匿名の密告者が出てきます。前作『メグレとひとりぼっちの男』でもそうでしたが、その前作では密告者の正体は不明のままですし、密告は事件解決には必要なかったと感じたのでした。シムノンもその点に対する反省があったのか、今回はタイトルどおり、密告者が重要な役割を果たします。元(?)やくざであったレストラン・オーナーが殺された事件で、犯人指摘の密告者が誰であるかをつきとめ、その所在を探し出すのが、容疑者に対する調査と共にストーリーの中心になっているのです。そして最後には、密告者が殺人事件にも多少関わりがあったことが明かされることになります。
もう一人の本作の重要登場人物は、モンマルトルを知悉する初登場のルイ刑事で、なかなかいい味を出しています。ただし、小説としての面白味ということでは、前作に比べるとぱっとしません。


No.641 5点 二百万ドルの死者
エラリイ・クイーン
(2013/08/27 22:55登録)
本作に始まるクイーン名義のペイパーバック・オリジナル作品群はかなりの数にのぼりますが、ホックにダネイが手を貸した『青の殺人』を除くと、二人はほとんどプロットと最終仕上げにOKを出していた程度のようです。小説としての仕上げは他の人にまかせても、プロット作りにはダネイが絡んでいたと思われる(リーがどの程度タッチしていたのかは知りませんが)『盤面の敵』等の作品とは全く異なる状況では、出来ばえや作風云々ではなく、クイーン名義とするには問題ありでしょう。ともかく本作の実作者はマーロウという人らしい…
久しぶりの再読で記憶も薄れていたのですが、それなりに楽しめました。似ている作家を強いて挙げるとしたら、次々に死体が量産されていく思いがけない皮肉な展開はハドリー・チェイス(『蘭の肉体』)でしょうか。よくもこれほどクイーンとは縁のなさそうなプロットを、最初の作品に選んだものです。


No.640 7点 維納の殺人容疑者
佐藤春夫
(2013/08/24 21:35登録)
佐藤春夫と言えば純文学系の小説家、また詩人として有名な人ですが、『田園の憂鬱』も長年積読状態だったのを最近やっと読んだだけで、ミステリも書いていることは本サイトに作家登録されているのを見て初めて知ったのでした。
1933年に出版された時は「佐藤春夫 纂述」とされていたそうで、珍しい言葉ですが、編纂の「纂」ですから、要するに編纂的な作品だということになります。1928年にウィーンで起こった殺人事件の裁判記録・記事を組み合わせて構成し、当時の新聞記事写真や証人スケッチなども入れているという、裁判ドキュメンタリーです。したがって、鮮やかな収束感なんてものはありません。しかしこれがおもしろいのです。文章表現も結局作者自身のものでしょう、古めかしいところがまた味があるのです。
「拳銃」(レヴォルヴァー)と「掌銃」(オートマチック)についての勘違いだけは気になりましたが。


No.639 6点 転がるダイス
E・S・ガードナー
(2013/08/19 23:44登録)
ペリー・メイスン・シリーズには以前に読んだかどうか、記憶の定かでない作品がいくつかあるのですが、本作は未読だと思っていたら、犯人の弄したトリックと、それを証明するメイスンの推理が記憶に残っていました。これはかなり目立つような書き方がされています。しかしそれ以外の点については、探偵役が誰だったのかさえ完全に忘れていました。
最初に依頼人の伯父が精神病院に監禁されてしまう事件とその一応の解決については、その後に起こる殺人事件との結びつきが弱いと感じました。また、過去の事件の顛末が今ひとつあいまいなままですし、それに関連して最後のページの意味がよくわかりません。この過去の事件についてのメイスンの新聞広告を利用した策略は、おもしろいアイディアですが。
原題は辞書を引いてみると、小説の内容との関連で様々な意味にとれそうです。


No.638 6点 消えた女
マイクル・Z・リューイン
(2013/08/15 00:24登録)
かなり気弱なアルバート・サムスンですが、今回は探偵事務所兼自宅の建物が取り壊し予定で立ち退きを余儀なくされていて、私立探偵を続けていくことに不安を感じているところから物語は始まります。巻末解説で瀬戸川猛資氏は、この悩みの自問を「生活感に根ざしたリアリズム」という点から褒めあげ、マーロウが絶対発しない問いだと書いています。しかし、どんな自問であれ直接表現するのを極力避けるのがハードボイルドの文章でしょう。探偵の悩みを書いていても、リューインの文章にはチャンドラーやロス・マクほどのうまさ、文学性は感じられません。その意味では、「小説としての奥行きが深い」とは思えませんが、エンタテインメントとしては充分です。
最後の方では1日のうちに2回も銃で撃たれる(幸いかすり傷ですみますが)というハードなところもあり、謎解き的にも多少決め手不足ですが、なかなかよくできています。


No.637 7点 エヌ氏の遊園地
星新一
(2013/08/10 23:43登録)
31編を収めたショートショート集です。ただし『夕ぐれの車』だけは30ページ以上もある作品で、星新一らしいシニカルなユーモアも感じられますが、誘拐を扱った軽いながらも暗めの犯罪小説で、読み終えてみるとちょっといい話、といった印象を受けました。比較的長いとはいえ、他の作家だったら中編にでもしそうな内容です。
その他にも新潮文庫『ボッコちゃん』にも入っている『殺し屋ですのよ』を始め、『波状攻撃』『危険な年代』『紙片』など気の利いたオチのあるミステリが多く、SF・ファンタジー系は9編のみです。そんなわけで本サイトにも登録してみました。
ところで本書に限らず星新一の作品でよく出てくる「エヌ氏」については、不特定の匿名人物を表すようですが、Nobody、Neutral等の頭文字でもあるわけですから、作者の意図に最もふさわしいアルファベット(を表すカタカナ)なんでしょうね。


No.636 6点 贋作展覧会
トーマ・ナルスジャック
(2013/08/07 22:42登録)
これはなかなか楽しいパスティーシュ短編集です。原著者を茶化したパロディではなく、7編どれもプロットや文体をいかにも本物らしくまじめに(?)真似てあります。ただ、後に相棒になるボアローの単独作は読んだことがないので、どの程度そっくりなのかわかりませんが。
最初に収められたルブラン編『ルパンの発狂』は話自体もいかにもといった感じでおもしろいですが、戦前の文体を模倣した翻訳者稲葉明雄のノリにも拍手。ヴァン・ダイン編『雄牛殺人事件』は、今回久しぶりに再読してみると、語り手の台詞や内面描写がかなりありましたが、これは原作者にならって極力控えめにしてもらいたかったですね。スタウト編『赤い蘭』は、文章やウルフの性格などが非常に個性的なだけに真似しやすいとも言えるのかなとも思えました。
本書収録作の他にも、ミステリマガジンに掲載されたっきりの贋作がかなりあるので、また本にまとめてもらいたいですね。


No.635 6点 冷えきった週末
ヒラリー・ウォー
(2013/08/03 20:42登録)
田舎町警察のフェローズ署長シリーズ最終作。
警察小説の元祖みたいに言われるヒラリー・ウォーですが、87分署やマルティン・ベック、メグレなどとは(その各々にももちろん違いはあるにしても)ずいぶんちがいます。マクベイン等は警察の様子、雰囲気-様々な事件が日々起こり、多くの刑事が飛び回っているといった-に筆を費やしているわけですが、少なくとも本作にはそのような感じは全くありません。事件と捜査過程はむしろイギリス謎解きミステリっぽい印象を受けました。警察に対する人々の対応などに、ああそうか、彼はアメリカ作家だったなと思ったりしたものです。最後には一つの手がかりから、作中の表現を借りれば「実験的推理」なるデクスターにも近いと思えるほどの推理が展開されます。
ただし、事件と直接関係ない登場人物たちの最終扱いが中途半端な感じがする点は不満でした。


No.634 6点 雪冤
大門剛明
(2013/07/30 23:12登録)
死刑と冤罪の問題を扱った社会派ミステリという一般的評価はそのとおりですが、裁判シーンもなく、地味なストーリーでもありません。最初からかなりエンタテインメントしています。しかし、だからといってテーマに対するアプローチが浅いわけではなく、登場人物たちの対話を通して何度も丁寧に熱く語られます。さらにちょうど半ばあたりで起こる出来事には驚かされました。このあたりまでは文句のつけようがないほどです。
しかし、最後の解決部分には不満がありました。まず八木沼の派手な立ち回りは、その後の展開から見ても不必要でしょう。また真相については、なぜそこまでの覚悟をしたのか心理的に説得力がありません。どんでん返しの連続についても、北村薫氏の選評どおり逆効果だと思いますし、論理的にも、終章の証拠文書が、いつ、なぜ書かれたものなのか、偶然(全く証拠にならない)とする以外説明がつきません。


No.633 5点 赤いキャデラック
ジョー・ゴアズ
(2013/07/26 22:28登録)
原題直訳だと「最終通告」となるゴアズのDKAシリーズ第2作は、最初のうちは一般的な位置づけのとおりハードボイルド系という印象だったのですが、後半殺人が起こってからは、ある意味第1作以上にパズラー的、特にクロフツを連想させられる展開になっていました。まあトリックが、凝ってはいてもクロフツに比べると平凡な発想なのはしかたないですが。しかし、ゴアズの方が組織的な捜査が行われているという点は本作の特徴を示しています。DKAはもちろんダン・カーニイ率いる私立探偵事務所なわけですが、単独行動の多いフレンチ警部より警察小説的なチームワークで、犯人に迫っていきます。
最後はまたハードボイルドっぽい締めくくり方になるのですが、この決着のつけ方には疑問を感じました。またその直前の倉庫のシーンは、最後にカーニイも言っているとおり犯人にとってあまりに無意味なことで、不満が残りました。


No.632 6点 メグレとひとりぼっちの男
ジョルジュ・シムノン
(2013/07/22 22:17登録)
ぼろぼろの空家で暮らしていた殺された浮浪者は、なぜか髪や爪をきれいに手入れしていた。このなかなか魅力的な謎は、しかしすぐにあっさりと解き明かされてしまいます。当時のパリではそんなこともあったのかと、妙なところにびっくりしました。二人の匿名女から似たような問い合わせの電話がかかってくるという展開も興味をそそられます。
終盤になって明らかになる、被害者がメグレも驚くほど徹底して「ひとりぼっち」になった理由、被害者と犯人との関係、その犯人が最後にメグレの部屋で電話をかける場面など、ミステリ的というより文学的なと言いたいような意外性もあり、全体的にはかなり感心させられました。
ただし犯人を突き止める直接的なきっかけが安易な点は不満でした。そんなきっかけがなくても、メグレが一度犯人と会った後に行う調査をしてみたらどうかと思いつけば、それで解決できたはずだからです。


No.631 6点 ゴーレムの檻
柄刀一
(2013/07/18 23:49登録)
異世界に彷徨いこんでしまう宇佐見博士を探偵役とした5編を収めた中短編集です。ただし作品によって、異世界とのかかわり方は異なっています。
最初の『エッシャー世界』はタイトルどおりまさに異世界ですが、構成に疑問を感じました。エッシャーの後継者と言われる画家の絵に隠された秘密と、博士が迷い込む異世界との共通点は、この有名な版画家と別の意味で関係があるということだけなのです。
『シュレディンガーDOOR』は現実の事件自体が非現実的な衣をまとっている感じ。『見えない人 宇佐見風』は異世界の使い方のひねりのみおもしろい作品。
続く表題作は、現実の事件はたいしたこともなく、不要とも思えました。一方のカーをも思わせる時代SF部分は実におもしろくできています。『太陽殿のイシス』は表題作と似た現象を別アイディアで実現させていますが、むしろもう一つのトリックの方がよくできていました。


No.630 6点 呪い!
アーロン・エルキンズ
(2013/07/15 22:24登録)
再読ですが、オリヴァー教授が襲われるシーンと銃創の問題が多少記憶に残っていた程度で、舞台がマヤの遺跡だということも、事件の真相も全く覚えていませんでした。全体の印象も薄かったわけですが、読んでいる間はなかなか楽しめました。まあ事件からくりは、ある程度想像がつくでしょうが、こういう渋めの構成は好きですね。
神秘主義信者の登場人物が語ることを聞けば、タイトルの「呪い」というよりむしろ予言と考えた方が筋が通るような気もします。吸血キンカジュー登場の冗談なんてどこが呪いなんだか。
最後に犯人を示す手がかり(証拠)については、不満がありました。勘違いを起こさせるにはきわめて都合の良い偶然が必要ですし、また、なぜ犯人はその二人だけで、他に該当者はいないという確信が持てたのかも納得できません。犯人がたまたま知ったのはその二人だったというだけなのですから。


No.629 6点 レディ・ハートブレイク
サラ・パレツキー
(2013/07/12 22:12登録)
内容とは関係ない邦題ですが、原題は"Bitter Medicine"で、まさにテーマそのものを示しています。さらに本編が始まる前、謝辞の中でも産婦人科のことが書かれているのですから、殺人が起こってすぐ、相当鈍い人でも方向性の見当はついてしまうでしょう。
途中、あまりに明らかな手がかりが出てきて、ヴィクも当然すぐに気づくので、かえってダミーではないかとさえ思ってしまいました。最後の尾行におけるある意外性もやっぱりという感じです。謎解きとしてはまあその程度なのですが、レギュラー・メンバーだけでなく最初に殺される人など、魅力的な人物の造形は(悪役も含め)なかなかいいですし、ヴィクの友人ロティの診療所での事件や、ヴィクの違法捜査など、ストーリー展開は最後まで楽しめました。
うっかり見過ごしていたのですが、『ダウンタウン・シスター』に出てくるあるキャラは本作で初登場だったんですね。


No.628 5点 白椿はなぜ散った
岸田るり子
(2013/07/07 20:28登録)
7章に分かれた作品ですが、全体の1/3ぐらいもある第1章は一人称形式による少々偏執的な片思い小説とも言えそうな感じで、全然ミステリではありません。まあこんな状態ではまともな結果になるはずがないとは想像できるのですが、第三者的な視点から見れば当然と思えることにも全く気づかない本人の偏った心理は、この作者らしくよく描けています。
ところが第2章からはその約10年後に飛び、小説の盗作問題から殺人へと話は発展していきます。奇数章は第1章と同一人物の一人称形式で、「私」はiPS細胞研究者になっているのですが、学生時代の妄執を抱えたままでマッド・サイエンティストぶりを見せてくれます。
殺人犯はよくあるパターンの手がかり(気づきませんでしたが)から論理的に指摘されます。ただ最終章におけるいい意味で後味の悪い結末と殺人事件との関連についてだけは、ちょっとがっかりしました。


No.627 6点 デイン家の呪い
ダシール・ハメット
(2013/07/03 22:11登録)
ハメットの長編中一般的に最も低評価な作品で、昔最初に読んだ時も、へんな小説だという印象を持ったのでした。しかし今回新訳版で再読してみると、意外に楽しめました。ハメットの長編ということで期待するものと実際の作品とのギャップがあり過ぎるのが、不満の原因かとも思われます。
まず、本作はむしろ3編の連作中編集と捉えた方がよい構成になっています。そして最後には3編全体をまとめる結末を用意しています。また、事件そのものもタイトルどおり一族の呪いがモチーフになっていて、ギャングの世界等とは無縁です。コンチネンタル・オプも、無名なわけですから別人ではないかという疑念さえ持ったのですが、これはポイズンヴィルでの事件(『赤い収穫』)のことが語られるので、思い過ごしでした。
ひねりのある3部構造に加え、カー並みの怪奇趣味や不可能犯罪まで出てくる本作は、むしろ最近の国内本格ファンに受けそうにも思えます。


No.626 5点 配当
ディック・フランシス
(2013/06/30 18:49登録)
フランシスの異色作で、前半と後半の2部に分かれ、兄と弟それぞれの一人称形式で書かれています。その2部の間に14年の歳月が流れているのですが、現在から見るとそのような間をあけるのが不向きなアイディアでした。的中確率1/3という競馬予想システムのプログラムを記録したカセット・テープを巡る話で、1981年作というと、確かにその頃はコンピュータ・ソフトをテープに記録していましたねえ、と懐かしく思い出すのですが、その後すぐに今でもまれに使われるフロッピー・ディスクに取って代わられますから。
まあコンピュータに関する知識と将来予測についてはさておき、他の面でも2部構成にしたことに不満はあります。本作の悪役はこの作者の中でも特に知性に欠けるのですが、14年後にも何の進歩も見られず、後半の話が単純すぎるのです。ラストは意外性があるとは言えるかもしれませんが。

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