home

ミステリの祭典

login
miniさんの登録情報
平均点:5.97点 書評数:728件

プロフィール| 書評

No.628 7点 ミステリ・ハンドブック
事典・ガイド
(2015/03/25 09:58登録)
本日発売の今年から隔月化された早川ミステリマガジン5月号の特集は、”新ミステリ・ハンドブックを作ろう”
どうやら早川では今夏に新たなハンドブックを刊行する予定らしく、座談会形式で今後の内容を煮詰めていこう的な企画らしい

例の文春版「東西ミステリー・ベスト」と双璧を成す早川版ハンドブックだが、両社の編集方式にはかなりの違いが有り、どちらが上とかじゃなくて一長一短な感じである
文春版「東西ベスト」は私が思うに必ずしも初心者入門ガイド役には向いていない、どちらかと言えば慣れたベテラン読者が、”そうかアンケート結果ではこの作品はこんな順位になるのか”などと感慨に浸る本である
対して早川版「ハンドブック」の方が初心者入門ガイドには向いている気がする、特にそれまで本格派しか読んでこなかった読者が他のジャンルを読んでみようと思い立った場合には最適な参考書の1つだろう
「東西ベスト」がとにかくアンケートによるポイントで単純に順位付けしたものなのであるのに対して、早川「ハンドブック」はジャンル別に整理分類してあるからね、主人公に焦点を当てた企画も有るし

ただしねえ、どちらが長く使えるかといったらやはり「東西」かな
早川版「ハンドブック」の方が入門指南書としては有効だが、段々と読み慣れてくるにつれて必要性が薄れてくる感じもある、実際に私も「ハンドブック」の方は殆ど閲覧することもない
早川版は一般の「ハンドブック」とは別の姉妹版として、「冒険/スパイ小説ハンドブック」が存在し、今の私にはこちらの方が参考書的には有用である

尚、本格派しか興味が無く、これまで本格派しか読んでいなくて、今後も本格派しか読む気がしない、といった本格派に極端に偏った嗜好の読者には、「東西」も「ハンドブック」もどちらも向いていないと思う
その手の読者には少々値段は高いが、「世界ミステリ作家事典」の方が合うでしょうね


No.627 7点 霊柩車をもう一台
ハロルド・Q・マスル
(2015/03/17 09:56登録)
戦後1940~50年代の作家達は、翻訳ミステリー史における空白地帯である
戦前の黄金時代にも埋もれている作家は居るが昨今発掘も進んでいる、しかし40~50年代というのはまだまだ未訳だったり何作か訳されたが絶版のまま埋もれてしまったりしている
その原因の1つには40~50年代の特にアメリカ作家はサスペンスやハードボイルド派や警察小説が主流というのもあるのだろう、古典の復活をリクエストする連中の多くが本格オタだからねえ、例えばハードボイルド派とかのファンも40~50年代の埋もれた作家を発掘しろと声をあげるべきだ
でも本格派以外のジャンルのファンって新作ばかりに目が行ってしまう読者が多いんだよねえ

ハロルド・Q・マスルはニューヨーク出身の弁護士作家で、MWAの法律顧問をしていた事もあるが会長職にも就いている
もちろん法律顧問の肩書きも作用したのだろうが、歴代の会長の多くは当時の人気作家であり、作家としての評価が全く無名なら会長には推挙されないと思う
尚日本での名前の表記はマスルの他にアンソロジーなどでマスア表記のものも有るが、”Masure”だったらマスアが近いと思うが、語尾に”e"が付かない”Masur”なのでどちらかと言えばマシュールに近い感じなんじゃないかなぁ、少なくともマスアという表記は誤りな気がする

実は早川ポケミスで7冊も出ており当時はまぁまぁ翻訳には恵まれていたのである
しかし今では全く話題にも挙がらない残念な作家の1人だ
最初に訳されたのがこの「霊柩車をもう一台」で、これはデビュー作では無く既に人気作家になってからの作で、様子見として当時の最新作が最優先されたのだろう、初期の数作も後にポケミスから出た
作風を一言で言えば解説にもあるように”通俗的なペリー・メイスン”である
当サイトのジャンル投票では他に適切なジャンルが無かったので仕方なくハードボイルドに投票したが、強いてジャンルを言うなら”通俗リーガルスリラー”だ
ただし探偵役が弁護士な割には法廷場面などは殆ど無く、要するに行動派探偵なのである
スピーディーな展開や軽妙な文章や行動的な探偵役といい、まさに”通俗的なペリー・メイスン”というのは適切なキャッチだ、個人的にもう1つ付け加えるなら”活動的なマローン弁護士”といったところか


No.626 5点 わが王国は霊柩車
クレイグ・ライス
(2015/03/16 09:57登録)
「わが王国は霊柩車」はライスの没年と同じ年に発表された作者最晩年の作の1つ、ただし遺作ではない
後に同年発表の「マローン御難」があるし、亡くなった翌年には未完の遺稿をエド・マクベインが補完した「エイプリル・ロビン殺人事件」があるからね

ライスは都会的な雰囲気の中で錯綜したプロットをテンポ良く読ませるのが持ち味だ
一般的なミステリー作家、特に本格派系だと初期には複雑なプロットなものを書いていても中後期になるに従いプロットが単純化されてくる例はよくある
しかしライスの場合は最晩年になってもプロットの複雑さがあまり変わらない、いやそれどころかこの「わが王国は霊柩車」になると複雑さが増している感さえある、まぁテンポは若干緩やかになったかな感は有るが
問題はプロットが複雑なのは作者の仕様だから良しとして、ちょっとグダグダ感が有る事だ、複雑なのに緻密な感じがしなくてプロットの緩さを感じるのである
そう考えると複雑なプロットの中にユーモアと緊迫感を両立させていた初期の「大はずれ」と「大当たり」の2作はやはり傑作だったのだなと思わずにはいられない


No.625 7点 縞模様の霊柩車
ロス・マクドナルド
(2015/03/16 09:55登録)
* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”
今年の生誕100周年作家は不作だった昨年とは一変、大物揃いだ
第1弾ロス・マクドナルドの2冊目

ロスマク後期の代表作と言われる「ウィチャリー家の女」と「さむけ」の間に書かれたのが「縞模様の霊柩車」である、その為か上記の2トップに挟まれて損をしているという評価をよく聞く
つまり2トップに比べて遜色ないのに、書かれた順番が悪くて2トップほど読まれていないのが残念といった意味合いの世間的評価のようである
そういった世のネット上の評価には一理は有ると私も思う、たしかに書かれた順番の前後に「ウィチャリー家」と「さむけ」が有るのは些か不運ではある

ただしかし読んでみると私は別の感想も持った、「縞模様の霊柩車」は2トップとは肌触りがちょっと違うのである
「ウィチャリー家」と「さむけ」はまぁ基本路線としては似ている所が有って、いかにもロスマク後期のハードボイルド小説である
しかし「縞模様の霊柩車」は地道な調査に終始する警察小説の味わいに近いのである、暴力シーンなども殆ど登場しない
2トップに挟まれて損をしているというよりは、そもそも「ウィチャリー家」と「さむけ」に比べて明らかに地味なのである
真相も2トップのような無理矢理なトリックを弄さず無難なところに着地している、それでいて悲劇性を演出しており、ファンの間でマニアックな評価が高いのも肯ける

地味な捜査小説という分野は私の嗜好に合っているので、本来なら高評価したいのだが、問題は”地道な捜査”場面に不満が無くも無い
地道な捜査というものは、探偵役がいくつか調査の選択肢がある中でどれを選ぶのかという面も話の流れの1つだが、「縞模様の霊柩車」に選択肢は無いのだ(苦笑)
例えば、”その事なら誰々が知っていると思う”と捜査先で聞かされると次の章では誰々に会う為にそこへ赴く、そのパターンがシリーズになって話が進められる
つまりさぁ、話の展開がワンパターンなんだよなぁ
全体としては話に深みは有るんだけど、この物語の単調さが2トップに比較した時に豊潤さで劣る印象になっている面も否定出来ないんだよなぁ


No.624 3点 赤毛のレドメイン家
イーデン・フィルポッツ
(2015/03/13 09:56登録)
昨日12日に創元文庫からイーデン・フィルポッツ「だれがコマドリを殺したのか?」が刊行された、サスペンス風味の悪女ものらしい
実は以前に同じ創元文庫で刊行されていたのだが、入手難で埋もれていたのを新訳復刊したようだ、旧版の題名は「誰が駒鳥を殺したか?」で何故か”ひらがな”と”カタカナ”に変更されている、内容的な理由でも有るのだろうか?それとも単なる”今風”って事?
それと「だれがコマドリを殺したのか?」は原著的にはもう1つの名義であるハリントン・ヘクスト名義で書かれており、本来なら翻訳もへクスト名義で出すべきだと思う
商売上の大人の事情なのかも知れないが、こういうのが創元の嫌いなところなんだよなぁ、きちんと別名義で刊行した国書刊行会の例の全集に入った「テンプラー家の惨劇」が浮いちゃっているんだよね

新刊の「だれがコマドリを殺したのか?」は1924年作だがその2年前の作が「赤毛のレドメイン家」だ、しかし「赤毛」は私にはつまらなかったなぁ
まぁ私は”館もの”やその延長である”一族もの”という設定に全く興味の無い読者で、そもそも「何々家の~」が付く題名自体が基本的に嫌いなのだけどね(苦笑)
「闇からの声」の方が比較的に面白かったのを考えると、「赤毛」は作者本来の持ち味ではないのかも知れない
1922年の作である「赤毛」が本格長編黄金時代の幕開けを告げるかのよう喧伝されてきたのは乱歩御大の影響だろうが、フィルポッツは1888年からミステリーに手を染めているという息の長い作家歴で、「赤毛」も1910年代位の感覚で書かれていると思える
私は書評上は書かれた時代性を考慮する主義なので、もし「赤毛」が第一次大戦前に書かれていたのならそれなりの評価も出来るのだが、1920年代に入っての作だけにあまり弁護も出来ない
例えば「赤毛」の2年後に書かれたA・E・W・メイスンの「矢の家」などは新しさを感じるだけにねえ

二流作家っぽいフィルポッツの未訳作を今後出す必要性が有るのかという問題もあるけど、今後出すなら森英俊氏が推奨していた「The Jury」か、倒叙ものらしい「Portrait of a Scoundrel」か、”クイーンの定員”にも選ばれた中編集「My Adventure in the Flying Scotsman」あたりだろうか


No.623 6点 正義の四人/ロンドン大包囲網
エドガー・ウォーレス
(2015/03/11 09:51登録)
先日に論創社からC・デイリー・キング「いい加減な遺骸」と、エドガー・ウォーレス「淑女怪盗ジェーンの冒険」の2冊が刊行された
ウォーレスは過去に何作か紹介はされていたが、一番最近で比較的に入手容易なのは長崎出版版の「正義の四人/ロンドン大包囲網」だろう
これは過去に書評済だけど今回の論創社の新刊に合わせて一旦削除して再登録

J・S・フレッチャーやフィリップス・オッぺンハイムなど、1900~1920年代にかけて大衆作家として人気を博した作家が居るが、エドガー・ウォーレスもそんな1人である
この辺の作家は日本では量産作家みたいに思われていて不当に無視されているが、海外ではそれなりに知名度は高く、もっと翻訳されるべきだろう
ウォーレスやオップンハイムの短篇はアンソロジーで読んだことはあるが長編を出した長崎出版は偉い
ウォーレスには正義の四人ものの短篇もあるが、クイーンの定員にも選ばれたJ・G・リーダー氏ものの短編集をどこぞの出版社に出してもらいたいものだ

さて長崎出版版のこの長編だが、主人公は”正義の四人”
実は純粋なレギュラーは3人なのだが、それぞれの話に合わせた職業的特技などを持った4人目のイレギュラーな人物が1人加わる
これによりマンネリを防ぐと共に、4人目が素人である事による手際の悪さがスリルを生むという効果も計算しての設定だろう、もっともレギュラーの3人もアマチュアだと言えなくもないがネタバレになるから詳しくは書けない

この「ロンドン大包囲網」は巻頭の読書案内通りのスリラー小説である
私は評価する上でジャンルによる差別はしない方針なので、スリラーだから本格より格下であるかのような評価は絶対にしない
あくまでもそのジャンル内での位置付け評価として考える
本格なら最高10点まで付けるが、他分野はどんなに優れていても何点までとかに上限を設定するとかのような採点方針は私から見たらあり得ない
このサイトも本格だけを優遇しろとか謳ってない訳だし
この作品は起承転結が明解でスリラー小説の王道古典としては実に良く出来ている
また書かれたのがホームズ時代の古典で有る事にも留意が必要だ
私は書かれた時代を考慮しない書評は意味が無いと思っているので、スリラー小説が流行した時代の空気感を感じて欲しい


No.622 6点 緊急の場合は
マイクル・クライトン
(2015/03/06 09:55登録)
本日6日に早川NV文庫からマイクル・クライトン&リチャード・プレストン 「マイクロワールド 上・下」が刊行される、共著という事か?
極小化された人間が密林に放り出されるといういかにもなクライトンSFのようだ

マイケル・クライトンのミステリー小説デビューは鮮烈だった、ハーバード大医学部在籍中にアルバイトとして学費を稼ぐ為に小説の原稿を売っていたのだが、ジェフリイ・ハドスン名義で書いた「緊急の場合は」がMWA賞を獲ってしまったのだ、それも新人賞じゃなくて本賞なのだから驚きだ、現在では初期の他名義の作も殆どクライトン名義に変更されている
作者自身が語っていたようにアルバイトで書きまくっていた時期は、深い気持ちを込めてテーマを描こうなどという気持ちはさらさら無し、読んでる間だけ面白ければそれで良しというエンタメと割り切って書いていたとの事だ、まぁ書いた動機が学費稼ぎだからね
でもその後医師を辞め作家専業になってからもそういう精神は変わらなかったみたいで、もう資質が根っからの天才的エンタメ作家なのだろう
「緊急の場合は」も、”妊娠中絶”というテーマを深く掘り下げようと思えば出来なくはなかった話の展開だが、そこへはあまり深く入り込まず犯人探しで話は進行する
印象としては、もし医師を弁護士に置き換えたとすれば、後のリーガルサスペンスの先駆の1つという見方も出来るかも知れない


No.621 6点 空のオベリスト
C・デイリー・キング
(2015/03/03 09:59登録)
論創社からやっとC・デイリー・キング「いい加減な遺骸」と、エドガー・ウォーレス「淑女怪盗ジェーンの冒険」の2冊が刊行された
予想通り(笑)ウォーレスの方は当サイト未登録状態ですが、私がこの2冊の内1冊だけ新刊を買うなら絶対ウォーレスの方である(再笑)
なぜならウォーレスみたいな作家は私のような読者が買ってあげないと今後続かないおそれが有るから(苦笑)
デイリー・キングは後回し、この手の類だけを出版社にリクエストしてこの手のだけは新刊が出ると必ず買うという一定のマニア読者層が存在するので、キングならどうせある程度売れるんでしょ(苦笑)、閲覧者の皆様、ウォーレスも買ってあげてください(再苦笑)

さてデイリー・キングにはロード警部補が登場する2つの3部作というものが存在する、”オベリスト3部作”と”ABC3部作”である
”オベリスト3部作”は題名見ればそれと分かるが、”ABC3部作”の方は日本語の邦訳題名からは分かり難い
これは登録時にシリーズ欄に”ABC3部作”であることを明記すべきだったんじゃないかなぁ、だから登録は理解している人がした方が・・・まぁいいか、後の祭だし(涙)
ところで今回論創から出たのは”ABC3部作”の内の「C」である、原題がCを頭文字にした韻を踏んでいるのだが、訳題もその感じを出そうと苦心したのだろう(小笑)
ここで”あれっ?何でABC順じゃなくてCから?順番通り訳せよ”、と憤慨する方も居られるかもしれない
しかしこれでいいんですねえ、実は元々の原著が書かれた順番自体がABC順じゃなくて、C→A→Bの順番なんですよね、だから「C」が最初に訳されたのも不思議ではありません
尚”ABC3部作”の中で最も評価の高い「A」も引き続き翻訳御願いしますよ

”オベリスト3部作”は「鉄路のオベリスト」は抄訳で入手難だが、「海」と「空」は入手容易である
「空のオベリスト」は私が最初に読んだキングの長編で、パズル臭いガチ本格派かと予想していたが、意外とサスペンスにも富んでいて楽しめた
プロローグとエピローグの反転も、当サイトで空さんが御指摘のように動機の点で論理的に矛盾が有るのですが、読者を驚かすという意味ではなかなか決まっていると思う
流石に”手掛り索引”についてはこじ付け気味で作者が自慢するほどの説得力は感じませぬが(苦笑)
ただその後「鉄路」(私はEQ誌掲載の完訳版で読んだ)と「海」を読むと、あの心理学者達の推理合戦が自身心理学者でもある作者らしいんだろうなとも思った
あの心理学者達の推理合戦を余分だと感じる読者は「空」を長編最高傑作に推すでしょうが、私は「空」がどちらかと言えば異色作に感じてしまい、「海」の方がキングの特徴が強く出ている代表作に感じた

「鉄路」もまぁまぁ悪くないのでね、鮎川哲也訳はそのままで完訳版を単行本で出して欲しいんですけどね、権利を光文社が持ったままなのかな?


No.620 6点 編集室の床に落ちた顔
キャメロン・マケイブ
(2015/03/02 09:57登録)
* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第3弾はキャメロン・マケイブだ
これは過去に書評済だが今回のテーマに合わせて一旦削除して再登録

国書刊行会の世界探偵小説全集には”問題作”とでも称せられる作品がいくつかあるが、刊行時にストリブリング「カリブ諸島の手がかり」やJ・T・ロジャース「赤い右手」と並ぶ問題作という触れ込みだったのがこの「編集室の床に落ちた顔」だ
作者はナチスの迫害を逃れて英国に亡命したドイツ人でキャメロン・マケイブというのはもちろん筆名である
この作品は英国に亡命した翌年の作者がまだ19才で書いたというから天才的な語学力ですねえ

掟破りの荒法師ロジャースの「赤い右手」はすっかり話題になり全集随一の怪作という評価が定着したが、マケイブの「編集室」の方は評価が微妙で得体の知れない作という評価が多かった
それどころか何を狙ってるんだか分からないとか、どこに魅力を感じればいいのか分からない的な意見が多かったようだ
日本の読者はメタ・ミステリーをわりと好む層もいると思うが、こういうのは受けないんだろうな
推していた森英俊氏も反応の鈍さにがっかりしてたみたいだし
私はすっきりした結末ばかり求める読者側の風潮のほうに問題がある気がするんだけどな


No.619 7点 歌うダイアモンド
ヘレン・マクロイ
(2015/02/27 09:56登録)
本日27日に創元文庫からヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』が刊行される、以前に晶文社版ハードカバーで出ていたものを殆どそのまま文庫化したものらしい
マクロイの翻訳作品としては唯一の短編集で、”このミス”でもベスト10入りしている
原著はあの”クイーンの定員”にも選ばれていて、翻訳版は原著未収録の中編をボーナストラックとして追加したものだ
その原著は実は作者自選の短編集で配列もおそらく作者が並べたのだろう、まえがきは元夫のハードボイルド作家ブレット・ハリディ

冒頭に置かれた作者の短編代表作「東洋趣味(シノワズリ)」」と、長編「暗い鏡の中に」の原型となった「鏡もて見るごとく」は特に有名だ
ただ「鏡もて見るごとく」はネット上では短編版の方がキレがあって好きみたいな異見もあるが、私には長編版「暗い鏡の中に」の方が面白かった
マクロイらしく工夫は凝らされてはいるものの、短編版はやはりパズルだけな印象なんだよなぁ、まぁパズル要素にしか興味の無い読者には受けるのかも知れないが
集中にはSF作品が4編含まれているのを意外に思う読者も居られるかも知れないが、戦後のアメリカミステリーはジャンルが多様化していた時代なので、マクロイだけが特殊ではないのだろう
そのSF作品が意外と面白く、「Q通り十番地」などはマクロイがやはり根はミステリー作家だなと思わせる
中でも「風のない場所」はかなり短い分量ながら情感溢れる傑作だ
一方でUFOの目撃というSFっぽい事件性なのに強引に謎解きミステリーとして決着させる表題作「歌うダイアモンド」も作者らしいと言えばらしい


No.618 7点 日本探偵小説全集(8)久生十蘭集
久生十蘭
(2015/02/25 09:57登録)
本日25日に河出書房から文芸別冊シリーズの1冊として「久生十蘭」が刊行される、書簡など資料も入った総特集らしい
久生十蘭入門としては創元文庫版のが代表的な短編を網羅しており適切だろう
内容は大きく分けて代表作「湖畔」「ハムレット」といったノンシリーズ短編群と、『顎十郎捕物帳』全編に作者のもう1つの捕物帳『平賀源内捕物帳』を合わせた捕物帳群の二本立てで構成されている

『顎十郎』は単発作品以外のシリーズものとしては作者の代名詞みたいな存在で、後に都筑道夫が書き継いだ事でも有名だ
このシリーズは捕物帳とは言え、「半七捕物帳」みたいな江戸情緒を満喫できるようなものではない
そもそも十蘭は東京の生まれではなく、最初から本格的な江戸気分の捕物帳を描こうなどという気は無かったと思われる
十蘭は職人気質な作家ではないが何でも書けてしまう天才肌な作家だと思う、おそらく捕物帳も自由自在に書けちゃったのでしょう
顎十郎シリーズとしては、マリーセレスト号事件を髣髴させる大掛かりな不可能ものの代表作「遠島船」が有名だが、私は案外と真相は面白いとは思わなかった
この種の大掛かりな不可能ものならもう1つの代表作「両国の大鯨」の方が上かも、抜け抜けとして大胆不敵な消失トリックもさることながら、トリックを弄す理由も秀逸だ
ユーモアに乏しいのでシリーズらしさに欠けるのが難だが、集中最も不可能興味が濃厚なのが「蕃拉布(はんどかちふ)」で、小粒なトリックながら強引かつ切れの有る解明に驚く

『顎十郎』シリーズ以外のノンシリーズ短編も出色の出来で、「湖畔」などはその耽美的な雰囲気に、本来の作者はこうした作風に秀でているのではと思った


No.617 7点 しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術
泡坂妻夫
(2015/02/23 09:53登録)
  明日24日に、河出書房からムック形式の
「文藝別冊 泡坂妻夫」が刊行予定
さらにこのムックのシリーズとしては、明日24日
に引き続いて26日には「谷崎潤一郎」も予定されている

  「文藝別冊」を御存知だろうか、河出書房が出しているムック本で
一般的な芸術分野からロックバンドまでサブカルチャーの総本山みたいだ
そのマニアックなラインナップは「文藝別冊」
という書名から受ける文芸専門書な印象とはちょっと違う

  ”泡坂妻夫”の総特集としてはムック本なので値段も手頃
北村氏×法月氏の対談や綾辻氏の寄稿なども載っているらしい
宣伝文句にも「しあわせの書」で再ブレイクした”泡坂妻夫”
とあるので長年積読のままだったのを読んでみた

  「しあわせの書」は新潮文庫版で200数十頁と薄手の本である
いや長丁場でこれ書くのはきついでしょう(笑)
物語の内容よりも、これが話題になるのは「しあわせの書」
というこの本自体に仕掛けられた趣向であろう

  ”仕掛け”ばかりが俎上に上げられがちだが、私は内容もなかなか充実していると思った
ある登場人物の正体など、古いスリラー小説などによくある手法だけど上手く出来ている
こうした内容の充実があっての上なので、単なる”仕掛け”
だけが目立つという事も無く楽しめた

  ”トリック”という意味では、物語中にある断食会でのトリックの方は流石に途中で気付いてしまった
かなり伏線がサービスされているので、気付いた方も多いでしょう
「しあわせの書」の出版契約を思い出して、これはこういう”トリック”
以外には考えられないと思った

  「亜愛一郎」ものの一部の短編しかこれまで読んだことが無かったので
未読の「乱れからくり」や「11枚のトランプ」とかも機会が有ったら読んでみたい
もちろんやはり未読の第2集以降の「亜愛一郎」
シリーズ短編も含めてですが


No.616 5点 ロッポンギで殺されて
アール・ノーマン
(2015/02/18 09:53登録)
* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”
昨年と違って今年の生誕100周年作家には大物作家が多いが、あまり大物ばかり続くと疲れちまうぜ(苦笑)、この辺で息抜きにマイナーなのも混ぜるぜ、第2弾はアール・ノーマンだ

去年に論創社から出たときにはよくこんな作家選んだなと思ったが、やはり都筑道夫「三重露出」のモデルとなり、小山正著のバカミス解説本でも採り上げられたのが背景に有ったに違いねえぜ
アール・ノーマンはばりばりの通俗ハードボイルド作家だぜ、しかしそれだけじゃこの作家の個性を1/10も表現してねえぜ
なんたって”Kill Me シリーズ”の特徴は舞台だぜ
シリーズ全9作は、トーキョー、シンガポール、ヨコハマ、ヨシワラ、シンジュク、アタミ、ギンザ、ヨコスカ、ロッポンギと続くぜ、熱海まで私立探偵が出張するのかよ、論創から出たのは最終作のようだぜ
流石に米軍関係の仕事で日本に30年も住んでいた経歴が活きてるぜ

ところで主役の私立探偵バーンズ・バニオン様はタフな野郎だぜ
もしもだ、ミステリー作品に登場する私立探偵を集めて格闘技大会をやったら、俺はバーンズ・バニオンは優勝候補だと思うぜ、そのくらい空手の技が凄いぜ
あまりその手のジャンルを読まない読者の一部は、ハードボイルドに登場する探偵は腕力だけで謎を解決すると思い込んでるようだが、そんな事はねえぜ、論理的じゃねえ場合もあるが一応頭で謎を解決してるぜ
しかしバーンズ・バニオン様は別だぜ、こいつは本当に頭が悪いぜ、格闘能力が全てみてえな奴だぜ(笑)
しかもこの事件の真相なんざ確かにバカミスだぜ、まぁこれはこれで良いぜ
ただよぉ~、ちょっと残念ながらプロットがグダグダだぜ、文章表現力は凄く有る作家なのにこれは惜しいぜ
折角文才は有るのにプロット構築能力の欠如の方が目立ってしまってるのが、この点数に留まった理由だぜ


No.615 7点 サン・フォリアン寺院の首吊人
ジョルジュ・シムノン
(2015/02/05 09:56登録)
論創社からジョルジュ・シムノン「紺碧海岸のメグレ」が刊行された
戦前にアドア社から「自由酒場」の題名で抄訳で刊行されたまま、邦訳が過去に有ったものの中では初期作の中でも最も入手が難しいものの1つだっただけに今回の完訳はシムノンファンならずとも嬉しいところだ
シムノンは中後期作なら比較的に入手容易だが、初期作は創元の「男の首/黄色い犬」以外は入手し難いものが多いだけに初期の作の復刊など各出版社に御願いしたい

「紺碧海岸のメグレ」はメグレシリーズ第17作目で1932年の作である、メグレが初登場したのが「死んだギャレ氏」で1931年作、おぉ!という事は初期には僅か2年で17作以上もシリーズ長編を書いていた事になる、しかもその間にノンシリーズも2作ほど有る、シムノン恐るべし
「死んだギャレ氏」と同年発表のシリーズ第2作が初期の代表作の1つ「サン・フォリアン寺院の首吊人」である、多作だったシムノンの本当に初期中の初期作である
中後期ではゆったり感と言うかちょっと作風が明るめになるシムノンだが、「サン・フォリアン寺院」は初期の特徴である暗く緊迫した雰囲気で、これぞシムノンというようなイメージ通りな作だ


No.614 8点 死の味
P・D・ジェイムズ
(2015/01/29 09:56登録)
発売中の早川ミステリマガジン3月号の特集は、”追悼P・D・ジェイムズ”、もちろん昨年11月に逝去したP・D・ジェイムズの追悼特集である

未読が多い私の考えでは当てにならないが、思うにP・D・ジェイムズ作品を3期に分類すると、「ナイチンゲール」より前が初期、「ナイチンゲール」から「皮膚の下の頭蓋骨」まで、ダルグリッシュ警視ものに限定するなら「わが職業は死」あたりまでが中期、そして「死の味」以降が後期って感じになるのかなぁ
「死の味」は明らかにそれまでのジェイムズとは作風に変化が見られると思う
それまでは現代感覚を持ち込みながらも、どちらかと言えば悪い意味で黄金時代風本格派を引き摺っている感が有った
しかしこの「死の味」は良い意味で現代本格そのものになった感じがする
特に感じるのは警察小説風の味わいになった事で、以前のジェイムズ作品では、警察官が主役でも内容的には完全に本格派だった、チームワーク的な要素も希薄だったし
しかし「死の味」では、「わが職業は死」で登場した部下マシンガムや本作で登場の女性ケイト・ミスキン警部などとの連携の比率が高まっている
私は警察小説風への移行は良いと思う、なぜならジェイムズの資質に合っていると思うからだ、ジェイムズが黄金時代本格風に書いた「ナイチンゲール」や「黒い塔」は何となくちぐはぐ感が有ったからね
そして2つ目の現代本格風の要素が宗教テーマだ、上記の作では重厚ではあっても案外と宗教色は少なかった
しかし「死の味」ではこのテーマの濃さが増している
さらにもう1つの現代本格的要素が社会派的要素で、特にケイト・ミスキン警部の家族問題と警察内部の昇進問題との軋轢なんて現代感覚に溢れている
私が読んだ数少ないジェイムズ作品では最高傑作であろう


No.613 5点 黒い塔
P・D・ジェイムズ
(2015/01/23 09:57登録)
明日24日発売予定の早川ミステリマガジン3月号の特集は、”追悼P・D・ジェイムズ”、もちろん昨年11月に逝去したP・D・ジェイムズの追悼特集である
ところで余談だが、早川書房の2大雑誌『ミスマガ』と『SFマガジン』が今年から隔月刊になるらしい、まぁ創元の『ミステリーズ』も隔月刊だし早川はよく今まで月刊を続けてきたものだという感もあったが、したがって3月号の次号はひと月間を空けて5月号になると思われる

私のジェイムズ追悼書評も昨年末の「ナイチンゲール」に次いで第2弾「黒い塔」である
「黒い塔」は病気と診断されたダルグリッシュ警視が療養に訪れた療養所で警察活動から離れた立場で事件と対峙する話である
こう書くと異色作に思えるかも知れないが、療養所を一種の病院の延長と考えると、前作「ナイチンゲールの屍衣」とそれほど大きな変化は感じられなかった
「ナイチンゲール」では怪しげな病院の雰囲気とはミスマッチな動機との対比が特徴だったが、この「黒い塔」でも人里離れた療養所のゴシック風な雰囲気とかなり世俗的な動機とのミスマッチをわざと狙ったような作で、そういう意味では両作は似ている
ジェイムズの作風が変化するのは「わが職業は死」か「死の味」あたりという事なのだろうか?
「黒い塔」と近い時期にコーデリアもの「皮膚の下の頭蓋骨」も書かれている事を考えると、この時期の作者は”孤島もの”的な舞台設定に魅せられていたのだろうか?
ただ私はクローズドサークル的な舞台設定が大嫌いな読者なので、全く舞台面での魅力は感じなかった
それにしてもこの重厚感は半端無い、私が読んだ数少ないジェイムズ作品中でも最も重厚である、読んでて鬱になる(苦笑)
「黒い塔」よりさらにページ数の多い大作「死の味」の方がむしろ文章が軽快に感じられるくらいだ


No.612 7点 A型の女
マイクル・Z・リューイン
(2015/01/20 09:59登録)
本日20日にヴィレッジブックスからマイケル・Z・リューイン 「神さまがぼやく夜」が刊行される
昨年の『このミス』の”我が社の隠し玉”コーナーにも掲載が無く、ヴィレッジはミステリー出版から手を引いたのかと思っていたのであれっ?だけど、内容紹介を見るにどうやら風刺小説のようでミステリーじゃないみたいだな

当サイトの空さんの御書評の通りで、感情を主観的に吐露する語句が客観描写主体なはずのハードボイルドらしくない、空さんの御指摘は私もそんな疑問が出ても当然だと思います
そして空さんの疑問に対する明快な解答を私は持っています
文学的な意味でのハードボイルド文学とミステリー小説との関連性は戦前のハメットあたりまでなのだと思うのですよね
戦後のハードボイルド派まで”ハードボイルド”というジャンル名称で呼ぶのはおそらく日本くらいのもので、アメリカでは戦後のハードボイルド派を”私立探偵小説”と呼称します
つまり探偵役がアマチュア探偵ではなく、さりとてプロはプロでも公務員という立場の”警察官”でもない、”私立探偵”という意味ですね
つまりアメリカでは、探偵役がアマチュアなら日本で言うところの本格派かサスペンス、プロの警察官なら警察小説、私立探偵なら私立探偵小説と分類するわけです
何だ探偵役の職業だけで決めるのか?、とお思いの方も居られるかも知れませんがそうなんですね、でも単純ながらこの分類法は分り易い
だから戦後のハードボイルド派は主役が私立探偵であれば何でも日本で言うところの”ハードボイルド派”なわけです
こう解釈すれば戦後に流行した”通俗ハードボイルド”なども説明出来ますし、そもそもチャンドラーも文体だけだとあまりハードボイルドっぽくない、彼は英国で教育を受けたせいかも知れませんが

そしてビル・プロンジーニと並んで”ネオハードボイルド派”の旗手マイケル・Z・リューインですが
70年代にハードボイルド派に根底から大革命を起こした”ネオハードボイルド”ですが、これも日本で発明したジャンル用語らしいです、アメリカではやはり私立探偵小説の一種
ネオハードボイルドの数多い探偵達も職業上は私立探偵です
私は以前からその辺は、ハードボイルド派というジャンル呼称は単なる形式的用語で、実体は単に職業が私立探偵というだけの意味しかないと割り切っています

で話をリューインに戻すと、二枚看板のシリーズが私立探偵アルバート・サムスンとパウダー警部補だが、リューインはネオハードボイルドのブームが終息した80年代以降はノンシリーズの比率が増えてきて、中にはミステリー小説なのか怪しいのさえ有る
冒頭で述べた今回のヴィレッジの新刊もそんな1冊かも
そう考えると作者の第1作であるサムスンもの「A型の女」は、ネオハードボイルドらしさと従来型とのバランスがよく取れていると思う


No.611 6点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2015/01/15 09:55登録)
私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、今年もやりますよ~
昨年の”生誕100周年作家”ははっきり言って外れ年というか、とにかくシーリア・フレムリン以外に大物作家と呼べる存在が居らず、マニアックな作家ばかりが目立った年回りだった
未(ひつじ)年は株価的に投資家には未辛抱と言われ、気象関係者には羊の温和なイメージとは逆に異常気象が多い年回りなのだそうだ、今年は如何だろう
さて未年の今年は昨年とは一変、大物作家の多い当たり年である
”今年の生誕100周年作家を漁る”、第1弾はやはり大物からスタート、ロス・マクドナルドだ

昨年12月2日に翻訳家の小笠原豊樹(本名=岩田宏)氏が亡くなった、謹んで御冥福をお祈りいたします
小笠原氏の翻訳はSF小説にまで及び、ミステリー翻訳における貢献度は多大なものが有るが、小笠原氏の翻訳で直ぐに名前が浮かぶのが、ロスマク後期の名作と言われる「ウィチャリー家の女」「縞模様の霊柩車」「さむけ」の3作である
上記3作以前と以降のロスマクの翻訳はまた別の翻訳者も多いので、小笠原豊樹訳=ロスマク絶頂期のイメージが定着している

ところで私は、ロスマクだけを読んで、チャンドラーもハメットも読まないという昨今の風潮が嫌いである
その手の読者のロスマクを読む理由が、ハードボイルド派に興味を持ったからが理由ではなくて、ロスマクだけは本格派としても読めるからという理由で手に取るというものだからだ
こんな悪しき風潮を生み出したのがあいつだ、瀬戸川だ
やはりロスマクはハードボイルド派の1人という気持ちで読んで欲しいと私は思う
ロスマクを読むならチャンドラーもハメットも読むべき、ロスマク”だけ”を読むくらいなら最初からロスマク自体に手を出さなきゃいいのにと思ってしまう
ちなみに私はロスマクよりもチャンドラーの方が好きです(苦笑)、ついでに言えば通俗タイプなんかも好き(再度苦笑)
えっ、「さむけ」について語れって、う~ん、あまりグッっと来るものが無かったかな(さらに苦笑)


No.610 6点 天皇の密偵
ジョン・P・マーカンド
(2015/01/14 10:02登録)
先日7日に論創社から、リチャード・S・プラザー「墓地の謎を追え」とジョン・P・マーカンド「サンキュー、ミスター・モト」の2冊が同時刊行された
マーカンドの「天皇の密偵」は過去に書評済だが、今回の論創社の新刊に合わせて一旦削除して再登録

マーカンドは日本ではマイナー扱いだろうが、戦後にアメリカで人気を博した準メジャークラスの作家で、人気度的には日本版チャーリー・チャンとでも言えようか
内容的にはほぼスパイ小説で間違いない
大戦の足音が近づく不穏な時代、ある事情で日本から釜山に渡る船に乗り込んだアメリカ人青年は、船上でモト氏という名の日本人に出会う
そこから舞台は朝鮮半島から当時は日本軍の傀儡政権だった満州国を経由して旧ソ連軍と対峙する内モンゴルへと進む
その間にこの手の作品ではお約束のアメリカ人美女や怪しげなソ連スパイなどが入り乱れと、多分にありがち感はあるものの、なかなか面白い
作者は記者として日本や東アジアを良く知っており、日本の読者が読んでもそれほど違和感は無い


No.609 7点 消された女
リチャード・S・プラザー
(2015/01/08 09:58登録)
昨日7日に論創社から、リチャード・S・プラザー「墓地の謎を追え」とジョン・P・マーカンド「サンキュー、ミスター・モト」の2冊が同時刊行されちまったぜ、本来なら先月末予定だったのだが忙しい年末なので年越しになったのだろうよ

普段から俺様がこんなタメ口きいてる訳じゃねえぜ、通俗ハードボイルドにお堅い書評文は似合わねえからよ、ついこんな口調になっちまうぜ
戦後から60年代までのハードボイルド派は、チャンドラーやロスマク等の正統派と通俗タイプが2本の柱だな、ただし70年代に入るとハードボイルドの主流は一変する、まぁこれは後のお楽しみだ
その通俗B級ハードボイルドを代表する作家の1人がリチャード・S・プラザーだ
軽ハードボイルドって言うとカーター・ブラウンをまず思い浮かべる読者も多いと思うが、俺の受ける印象ではC・ブラウンはおふざけが過ぎるぜ、どちらかと言えばユーモア・ミステリーに分類した方が似合う
しかしプラザーは正真正銘の通俗ハードボイルド派って感じだ、気取ったミステリー小説なんざ吹っ飛んじまうぜ、通俗タイプなんだからこれでいいのさ
主役は銀髪の私立探偵シェル・スコット様だ、女には弱いがちゃんと私立探偵してし謎もきちんと解いてるぜ
以前アンソロジーでプラザーの短編読んだ時には俺はあまり良い印象は無かったが、長編だと違うようだ
「消された女」は初期の作だが、プロットもしっかりして普通ののハードボイルド派に負けてねえぜ、こいつは高評価しちゃうぜ

728中の書評を表示しています 101 - 120