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ミステリの祭典

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緊急の場合は
著者名「ジェフリイ・ハドスン」での出版あり

作家 マイクル・クライトン
出版日1975年10月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2020/10/30 22:27登録)
これは結構すごい。まだ医学生として在学中の学生が書いた医学ミステリだけど、MWAの新人賞どころか本賞を獲ってしまった作品である。作者の名前はジェフリイ・ハドスン。実はこれはペンネームで、本名はマイクル・クライトン。というのは、どうでもいい話、といえばいい話だ(というとカッコイイんだけどね)。

今アメリカは大統領選挙たけなわなんだけども、トランプ支持派には「中絶反対派」がいて、下手すると中絶医を殺したような連中も含まれたりする...アメリカでは延々政治問題化して、今だに国論を二分する大論争のわけである。
この小説の舞台はボストンの大病院。心臓外科医の娘、カレンが大量の出血とともに救急に運び込まれた。出血原因は妊娠中絶だと、付き添いの義母は言い、中絶を行った医者を名指す。その医者アート・リーはヤミで中絶を行っていたことが一部で知られてはいたが、カレンの中絶はしていないとあくまでも否認する。アートの親友で病院勤務の病理医ペリーは、カレンが妊娠していない証拠の血中ホルモンのサンプルを得て、アートの容疑に疑念を抱き調査を開始する。中国系のアートに対する差別、妊娠中絶に対する宗教的な拒絶と中絶医に対する迫害、絶対的な権力を病院で振るう代々医者の名家の理不尽、ペリーの調査は医学界の暗部に迫っていく....
いや、評者が褒めるのはこういうテーマ以上に、小説としての上手さがとってもじゃないけど、新人離れしているあたりである。比較的長くて、医者の世界のややこしい状況を垣間見させる小説だけど、全然長さを感じさせないリーダビリティと、このややこしさをややこしいままでしっかりと理解させるような冷静な筆致、そして性格描写とキャラ造形の上手さ(医者たちが揃いも揃って変人多数)に驚く。

頬骨で氷のキューブを割れそうなほどかたい感じだった

なんて、カレンの義母を描写するんだよ。そして、

だれが数えてもおなじだが、人間の病気には名前がついているのが25,000 あって、そのなかで治療法がわかっているのは 5,000 だ。

とかね、こういう小ネタを織り交ぜて読者の興味を引いていく語り口の上手さ....いやいや、マイクル・クライトンって名前がついてるのは本当に伊達じゃない。ちょっと驚くくらいに達者な作品で、最初から老成したうまさを感じさせて、空恐ろしいほどである。

No.1 6点 mini
(2015/03/06 09:55登録)
本日6日に早川NV文庫からマイクル・クライトン&リチャード・プレストン 「マイクロワールド 上・下」が刊行される、共著という事か?
極小化された人間が密林に放り出されるといういかにもなクライトンSFのようだ

マイケル・クライトンのミステリー小説デビューは鮮烈だった、ハーバード大医学部在籍中にアルバイトとして学費を稼ぐ為に小説の原稿を売っていたのだが、ジェフリイ・ハドスン名義で書いた「緊急の場合は」がMWA賞を獲ってしまったのだ、それも新人賞じゃなくて本賞なのだから驚きだ、現在では初期の他名義の作も殆どクライトン名義に変更されている
作者自身が語っていたようにアルバイトで書きまくっていた時期は、深い気持ちを込めてテーマを描こうなどという気持ちはさらさら無し、読んでる間だけ面白ければそれで良しというエンタメと割り切って書いていたとの事だ、まぁ書いた動機が学費稼ぎだからね
でもその後医師を辞め作家専業になってからもそういう精神は変わらなかったみたいで、もう資質が根っからの天才的エンタメ作家なのだろう
「緊急の場合は」も、”妊娠中絶”というテーマを深く掘り下げようと思えば出来なくはなかった話の展開だが、そこへはあまり深く入り込まず犯人探しで話は進行する
印象としては、もし医師を弁護士に置き換えたとすれば、後のリーガルサスペンスの先駆の1つという見方も出来るかも知れない

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