正義の四人/ロンドン大包囲網 別題『正義の四人』 |
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作家 | エドガー・ウォーレス |
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出版日 | 1963年01月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 6点 | 人並由真 | |
(2020/09/30 13:23登録) (ネタバレなし) 20世紀初頭の英国。資力と科学知識に長けた三人の中年~初老の紳士、レオン・ゴンザレス、ボワカール、ジョージ・マンフレッドは、計画ごとの臨時メンバーを仲間に引き入れながら謎の秘密結社「正義の四人」として、世界各国の法律で罰せられない悪人、社会の敵と見なした人物たちを、強行的な手段で粛清していた。今度の標的は英国の益にならないと思われる法案を通そうとする外務大臣フィリップ・ラモン卿。ゴンザレスたちは実働役の若者テリーを半ば強引に仲間にする一方、外務大臣に法案を棄却しなければ粛清するとの警告を発する。しかし、マスコミが見守るなか、ラモン卿はあくまで初志を貫徹。ファルマス警視ほかロンドン警視庁の面々も、要人の警護と正義の四人の捕縛に務めるが。 1905年の英国作品。 大昔に中島河太郎あたりの本で最初に題名(『正義の四人』)と設定を知って以来、ワイルド7か「必殺シリーズ」みたいな<悪の正義の味方たち>が外道なワル退治の困難なミッションに挑む作品かと思っていたが、だいぶ違った。中核となる三人組は(この一作だけじゃまだ全貌は見えないものの)狂信的、独善的に悪人狩りを行う少数の秘密結社で、その実働のウン十%がたまたま理に適っているという感じのキャラクターであった。 やり口もけっこう非道だし、モリアーティに大義を与えて心の充足をさせようとしたら、こいつらみたいになるんじゃないか、という印象。 しかし<四人め>の設定はなかなかふるっているよね。要は、所詮は作戦の流れ次第で使い捨てにする駒に向かって「我々3人の(上流階級の)正義の志士は、(階級差など気にせず)きみを同格のメンバーとしてお迎えする」と言い放ち、いい気にさせてから使い倒すだけだもの。 当然、ウォーレスの視線は当時の英国の階級格差にむけられていたと思うけれど、あーこりゃ、結構、多角的な読者層に受けたろうな。資本者側は正義のカタルシスを追求する三人組に、労働者たちはこき使われる四人めに、それぞれ心のどっかで同調して。 (ちなみに、のちのR・L・フィッシュの「殺人同盟」シリーズって、この中核の三人組がベースのようにも思える。) ミステリとしては他愛もない話だけど、終盤まで予想外にある種のハウダニット的な興味を用意した作りには軽く驚いた。 うす口のノワール・ピカレスク・スリラーだけど、この三人組がそのあとのシリーズでもこんなキャラクターを貫徹したのか、あるいは変質していったのかはちょっと興味が湧いた。その意味では続編も読んでみたい。 |
No.3 | 7点 | 弾十六 | |
(2019/01/01 07:58登録) 1905年出版。2007年の長崎出版版で読みました。 実にスピーディな話。ある意味ハードボイルドな文体。思わせぶりな表現にちょっとイラつきますが、許容範囲です。女っ気がないのもストイックでスリルを盛り上げる一因かも。 読んでてあらためて思ったのですが、探偵小説の誕生は新聞の興隆と切っても切れない関係にあります。新聞は事実(まー事実です)を報道し、〇〇の謎!と大々的にブチ上げますが、推理や解決は出来ません。その不満を埋めるのが探偵小説だった…という訳ですね。 以下トリビア。 p10 19xx年8月14日: p18の年代順事件リストの最後が1902年3月の事件で、2年前のレ ブロア事件はその後に記載されているらしいので、作中時間は1904年以降で確定ですね。 p17 25万フラン: 1904年の交換レートは1フラン=0.0397ポンド。英国消費者物価指数基準1904/2019で120.72倍。25万フランは現在価値1億6842万円。 p33 千ポンド: 現在価値1697万円。 p58 だいたい三万三千ペセタ: 1904年の金基準で1000ポンド=34354ペセタ。 p65 ガボリオやコナン ドイルの作品をほとんど読みまして…(I have read almost everything that has been written by Gaboriau and Conan Doyle): 当時の二大探偵小説作家。ガボリオは時を超えられなかった… p65 半ソブリン金貨(half a sovereign): 0.5ポンド。 p75 拳銃(a revolver): 「リボルバー」と訳して欲しいです… |
No.2 | 6点 | mini | |
(2015/03/11 09:51登録) 先日に論創社からC・デイリー・キング「いい加減な遺骸」と、エドガー・ウォーレス「淑女怪盗ジェーンの冒険」の2冊が刊行された ウォーレスは過去に何作か紹介はされていたが、一番最近で比較的に入手容易なのは長崎出版版の「正義の四人/ロンドン大包囲網」だろう これは過去に書評済だけど今回の論創社の新刊に合わせて一旦削除して再登録 J・S・フレッチャーやフィリップス・オッぺンハイムなど、1900~1920年代にかけて大衆作家として人気を博した作家が居るが、エドガー・ウォーレスもそんな1人である この辺の作家は日本では量産作家みたいに思われていて不当に無視されているが、海外ではそれなりに知名度は高く、もっと翻訳されるべきだろう ウォーレスやオップンハイムの短篇はアンソロジーで読んだことはあるが長編を出した長崎出版は偉い ウォーレスには正義の四人ものの短篇もあるが、クイーンの定員にも選ばれたJ・G・リーダー氏ものの短編集をどこぞの出版社に出してもらいたいものだ さて長崎出版版のこの長編だが、主人公は”正義の四人” 実は純粋なレギュラーは3人なのだが、それぞれの話に合わせた職業的特技などを持った4人目のイレギュラーな人物が1人加わる これによりマンネリを防ぐと共に、4人目が素人である事による手際の悪さがスリルを生むという効果も計算しての設定だろう、もっともレギュラーの3人もアマチュアだと言えなくもないがネタバレになるから詳しくは書けない この「ロンドン大包囲網」は巻頭の読書案内通りのスリラー小説である 私は評価する上でジャンルによる差別はしない方針なので、スリラーだから本格より格下であるかのような評価は絶対にしない あくまでもそのジャンル内での位置付け評価として考える 本格なら最高10点まで付けるが、他分野はどんなに優れていても何点までとかに上限を設定するとかのような採点方針は私から見たらあり得ない このサイトも本格だけを優遇しろとか謳ってない訳だし この作品は起承転結が明解でスリラー小説の王道古典としては実に良く出来ている また書かれたのがホームズ時代の古典で有る事にも留意が必要だ 私は書かれた時代を考慮しない書評は意味が無いと思っているので、スリラー小説が流行した時代の空気感を感じて欲しい |
No.1 | 3点 | 江守森江 | |
(2010/03/13 15:55登録) 何かのコラムで「読者挑戦物」の先駆けと紹介されていたので読んでみた(←騙されたorシリーズ他作のどちらか不明) 冒頭の案内書きでスリラーとジャンル分けされた通りな作品だった(案内人の名がレッド・ヘリングには笑った) 活劇作品も嫌いではないが、書かれた時代故か先の展開が読めてしまう。 先の読めるスリラーなんてスリリングさの欠片もなく褒めようがない。 最後のハウダニットも(古典的名作の転用多数であながち馬鹿に出来ないが)藤原宰太郎の推理クイズレベルだった。 陳腐なスリラーなので知っていれば読まなかった。 ※余談 ミステリー云々は置いといて「正義とは?」「どちらが正義なのか?」は人類永遠のテーマかもしれない。 アルカイダだって当人達は「正義」だと思って行動しているのだろう(注:テロを正当化したコメントではありません) ※これは本音 アメリカに絶対的正義があるとは思わない! もっとも日本が絶対正義とも思えない。 |