ウィチャリー家の女 リュウ・アーチャーシリーズ |
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作家 | ロス・マクドナルド |
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出版日 | 1962年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 13人 |
No.13 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2019/01/14 10:46登録) さて「ウィチャリー家」。「さむけ」と並ぶツートップ、って誰が言い出したんだっけ?わざわざ本作を評者は終盤に持ってきた理由はねえ、この「ツートップ」にどうも納得しづらいものを感じてたからなんだよ。 まあトリックに無理があるよね、は結城昌治の「暗い落日」が本作の不満から...でほぼ周知のことと思われる。「暗い落日」は無理なく入れ替える工夫をしたわけだからオッケーだけど、元ネタ本作はそれを考えに入れると厳しいと思う。 多分本作の一番ヘンなところは、フィービの失踪からマゴマゴしすぎていることのように感じる。何か別の逃げ方なかったのかい?と問い詰めたくなるような不手際ぶりのように感じるんだね。悪党もケチな連中じゃん。ああいう悲劇を回避する手段がいくらでもあったような気がする....だからさ、本作の「悲劇度」は本作執筆あたりでのロスマクの家庭的な悲劇が強く反映しすぎて、 「命取りになった病気は?」「人生です」 になっちゃった結果のように思うんだよ。そういうロスマクの「鬱」は気の毒には思うけども、小説にしちゃうと不幸自慢にしかならないから、評者はどうもノれない。どうだろう、皆さんこういうの、好きなんだろうか? この時期ロスマク良い作品目白押しなんだから、本作をわざわざツートップとか呼ぶ理由は、評者はわからない。もっといろいろな作品、読もうよ。 |
No.12 | 6点 | nukkam | |
(2016/09/25 01:59登録) (ネタバレなしです) 米国ハードボイルドの巨匠ロス・マクドナルド(1915-1983)と言えばサイコ・サスペンスの巨匠マーガレット・ミラー(1915-1994)と結婚していることで有名ですが(面白いことに結婚時点では両者ともまだ作家ではありません)、その家庭生活は決して幸福ではありませんでした。ひとり娘のリンダが大変な問題児で飲酒癖がひどく、交通事故で子供を轢き殺してしまったりさらには失踪事件を起こしてマスコミの注目を集めたりした挙句、若くして死亡しています(薬物の過量摂取が原因らしい)。その影響が作品にも表われていて家庭内の悲劇を描かせては彼ほど深みのある作品を書ける作家はいないとまで言われています。1961年に発表されたリュウ・アーチャーシリーズ第9作の本書はまさにその代表作で、ドライな文章で淡々と語られているのに段々と絶望感が増していくプロットが見事です。拳銃を使って脅す場面もあるけれどそれほど過激な暴力が描かれているわけではなく、アーチャーと犯人の最後の対決も銃撃戦や殴り合いではなく会話による静かな幕切れになっています。「マクドナルドの作品は本格派ファンにもよく読まれている」というのも納得です。もっとも本格派として読んだ場合、ちょっと手掛かりの提示がストレート過ぎてどんでん返しが上手く決まっていないように思えますが。 |
No.11 | 8点 | ロマン | |
(2015/10/22 21:17登録) 重厚なプロットは確かに推理小説的な色彩を帯びている。トリックめいたものも確かにある。しかしこの作品を名作たらしめているのはもっと重厚な何かだ。犠牲者が殺された理由を問われたときに「人生」と返す等、アーチャーをはじめ登場人物の台詞回しが悲しきウィットに富んでいる。それはロスマクが確かにハードボイルドの継承者であることを証明しているように思えた。それは虚無的なラストにも通じている。 |
No.10 | 7点 | 斎藤警部 | |
(2015/10/06 12:31登録) いやぁ薄気味悪い心理トリック。。 物語を終始包み込む薄暗いムードを存分に堪能させていただきました。 最後は意外と爽やかと言うか、ある種の仄明るさを持って終わるところも+αの魅力です。 現代日本の某人気作はひょっとして、この作品の肝の部分からパーーンとインスパイアされたのかしら。。 |
No.9 | 4点 | mini | |
(2015/09/09 10:17登録) * 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第1弾ロス・マクドナルドの4冊目 後期3大傑作と言われる「ウィチャリー家」「縞模様の霊柩車」「さむけ」の中で、私にはこれが一番劣るように思った 上記の3作の中でやや毛色の異なる「縞模様の霊柩車」は別にすると、「ウィチャリー家」と「さむけ」はちょっと似ている面も有る どちらも失踪人探しから始まり、複雑なプロットと真相、無理矢理なトリック等々 まず問題はこのトリックの部分 「さむけ」のトリックもまぁ無理と言えば無理なんだろうけど、う~ん、でも私にはそれ程無理とは思わなかった、ネタバレになるから詳しくは書けないが、一応年月も経ってるしねえ 「さむけ」のトリックはまぁ何とか許容範囲なんじゃないかなぁ、本格派みはもっと無理なのいくらでも有るからね しかし「ウィチャリー家」の方は流石にちょっと無理を感じる また複雑なプロットだったら、「さむけ」位極端にやっちゃった方がロスマクらしくて良い、逆にシンプルな良さを狙うなら「縞模様の霊柩車」位で丁度良い 「ウィチャリー家」ってそういう面が中途半端なんだよなぁ 後期を代表する3作、私の評価は「縞模様の霊柩車」≧「さむけ」>>>「ウィチャリー家」ですね |
No.8 | 7点 | itokin | |
(2013/06/26 17:02登録) 派手な立ち回りや緊迫感のある物語の展開はないが、私立探偵アーチャーの地味な聞き込み捜査が事件の謎を解く・・。現代では少しまだるっこいが当時の作としては評価されるだろう。情景の描写が素晴らしく映画を見ているようで全体にさらっと読めた、だが、アーチャーの優等生ぶりが気になった。 |
No.7 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2013/01/14 17:55登録) (ネタバレあり) (タイトル・女⑤)本格系ハードボイルドという印象です。ハードボイルド系は、どうも苦手なのでなかなか高評価を付けることができません。気になったのは、主要登場人物の年齢が良くわからないというか、高齢(50~60代)のイメージしか湧かなかったことです。娘が21歳なので、両親は40~50代と想像はできるはずなのですが・・・。このイメージの差(自分の勘違い)のため、真相が明らかになった時点で、「かなり無理があるのでは?」との意識が強く働きました。実際は母親が39または40歳と判りますが、それにしても同じことですが・・・。「かなり無理」→「ちょっと無理?」 |
No.6 | 7点 | E-BANKER | |
(2012/06/01 23:09登録) 名作「さむけ」と並ぶ、作者の代表作。 私立探偵・リュウ・アーチャーが今回も渋くキメてくれます。 ~フィービ・ウィチャリーが失踪したのは霧深い11月のことだった。それから3か月、彼女の行方は杳として知れなかった。そして今、私立探偵のアーチャーは、父親の大富豪ホーマー・ウィチャリーに娘の行方を探してくれとの依頼を受ける。フィービの失踪は彼女の家庭の事情を考えれば、当然のことだった。調査を進めるアーチャーの心にフィービの美しく暗い影が重くのしかかる! アメリカの家庭の悲劇を描き出す巨匠の傑作~ やっぱり何ともいえない作品世界。 リュウ・アーチャーは、F・マーロウほどニヒリストではないが、淡々と捜査を進めるなかにも、熱い心の存在・動きを行間から漂わせている気がする。 誰もがアーチャーには秘密を打ち明けてしまう。これを「ご都合主義」と呼ぶのはたやすいが、彼の造形・キャラクターがあればこそのプロットなのだろうと思う。 さて、本作も単なるハードボイルドではなく、謎解き要素も加えた「本格系ハードボイルド」とでも言うべき作品。 まぁ、あの人とあの人の○れ○○りというのは、正直無理があるような気がするが・・・ (いくらそれっぽくしたとしてもなぁー。年齢が違いすぎるだろ。) ラストになって急浮上する人物については、中盤以降「いかにも」というような配役になっていて、この真相は大方の予想通り。 アーチャーが気付くのが逆に遅すぎるくらいじゃないかと・・・ とにかく、全盛期の作者の脂の乗った作品なのは間違いない。 個人的には、「さむけ」の方がやはり上かと思うので、評点はこのくらいで。 |
No.5 | 8点 | 空 | |
(2011/07/22 13:35登録) 一見平凡なタイトルに思えますが、読み終わった後でその意味を考え直してみると、様々に暗示的だと納得させられます。 結城昌治の某作品が、本作のトリックに対する不満から構想されたというのも、今回再読して記憶がある程度よみがえってくると、ああそうだったと思えました。それにしてもこのトリック、作者はアンフェアにならないよう慎重な書き方をしています。一人称形式なのですから、そこまで気を遣わなくてもよかったのではないかと思えるほどです。 しかしロス・マクもこの時期になると、確かにハードボイルドと呼ぶのがためらわれる作風になってきますね。一方「本格派」でないと言う人は、たぶん手がかりがあらかじめ提示されているわけではないところが引っ掛かっているのではないかと思えます。 また、『人の死に行く道』から間をおかずに読むと、文章の変化にも気づかされました。細かい外観描写が減って、ロス・マク独特とも言われる比喩を用いることにより、簡潔な表現になってきているのです。 |
No.4 | 7点 | kanamori | |
(2010/07/20 21:38登録) 「さむけ」と並んでロス・マクの代表作といわれることも多い作品ですが、個人的にはちょっと落ちるかなという印象。 やはり、よく指摘されるメイン・トリックが力技過ぎる点がひっかかり、それまでの家系の悲劇的メロドラマと相容れない感じがしました。しかし、作者の作品の上位に位置する秀作には違いありません。 |
No.3 | 8点 | Tetchy | |
(2009/05/14 00:35登録) 歪んだ愛情が織成す悲劇、いや正直な気持ちを押し殺したゆえの反動と云った方が正解か。 現象はあまりにも単純。2人の男と1人の女の死。犯人はしかも1人。 しかし、その1人を炙り出すための炎は関係者各々の魂を苦く焦がし、また探偵自身も自らを焦がす。だが、あくまで彼は傍観者の立場を貫く。だから慮る事もせず、また望むのであれば自害の手助けをもする。 我が胸に徐々に立ち上る感慨は治まりそうにない。 |
No.2 | 8点 | こう | |
(2008/11/25 23:25登録) これもハードボイルドの体裁をとった本格ミステリだと思います。リュウアーチャーは探偵役としては殺人を未然に防ぐこともなく事が全部済んでから真相に気付くのはいつもどおりです。〇〇トリックもありますが、個人的には衝撃度は「さむけ」には及ばないかなと思います。登場人物がアーチャーに仕掛けるトリックが実際に通用するかというと疑問に感じる(アーチャーに通用しても読者に通用するとは限らないと思わせる)点はマイナスでしょうか。あとどの人物も相変わらずアーチャーに秘密を打ち明けますが「私立探偵」にここまでべらべらしゃべるものだろうか、という点も気になります。 新本格に手慣れる前に10代あたりで読むとトリックだけでも高得点だと思いますが現代ではそこまでの衝撃はないかもしれません。またロスマクを読みなれている方だと真相もある意味ワンパターンなので更に衝撃が薄いかもしれません。 |
No.1 | 10点 | ロビン | |
(2008/10/18 22:32登録) 『さむけ』と並ぶロスマクの傑作。失踪した娘フィービ・ウィチャリーを探し出して欲しいと、父親である大富豪のホーマー・ウィチャリーから依頼を受けたアーチャー。 非常に複雑に入り組んだアメリカ上流家庭の悲劇。終盤に向かって転がり続ける事件の中で、徐々に判明していく事実はあまりにも救いがない。ラストに犯人が漏らした、「過去のちょっとした過ち」それが徐々に大きく育っていって、このとんでもない悲劇へと発展していく様が非常に非情に描かれている。唯一、彼女の生存が小さな希望を抱ける要素かなあ。だけど、このどうしようもなく物悲しい感じがまた好きで。 個人的には本格とハード・ボイルドを見事に融合させた『さむけ』よりも本書のほうが好きです。 |